機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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ヴァイダーガンダムがオーストラリアで確認された事を受け、その猛威を防ごうとする為にアステル家、国連と協力する事になったセイントバードチーム。
この中で、レイはツヴァイを駆り、重要なポジションに任命される。



第六十八話 未知なる光

「各部チェック、完了」

「Gハイ・バッテリー機構動力関係ノー・プロブレム」

「バインダー各部稼働良好」

整備兵達の点検の声が聞こえる。全てが順調な様子の、ヴァイダーガンダム。それを見て、ただ、フークは不敵な笑みを浮かべていた。

ヴァイダーガンダム。かつてロンドンの地を廃墟に変えた恐るべきジェノサイド・マシン。この巨体の足元に、フーク・カズロブが存在していた。

「カズロブ大佐、ご無沙汰しております。」

「どうもです、大佐ぁ。」

そこへ、チェーニ姉妹がフークの傍に現れた。二人とも敬礼を行い、フークに挨拶をする。

「久しぶりだな。しかし、君達とはよく同じ部隊になるな。今回は短期決戦だ。七十二時間程度時間を置き、リノアスの〝脳の状態〟を確認した後に一気に国連を攻める予定だ。」

「肝に銘じます。私達の出来る事を、して行くつもりですわ。その上であの兵器の破壊力を、しかと目に焼き付けて行きます。」

フォリアがそう言った後、リンセと共にこの場から去る。巨大兵器ヴァイダーガンダムは、その凶悪とも言える面構えのまま、待機している。整備を行っている整備士達はこの巨体の存在にただ、圧巻されるばかりである。

 

その後、部屋に着いた姉妹はシャワーを浴びて短い休息を味わう事にした。二人揃ってシャワーを浴び、互いに接吻を交わす姉妹。彼女達は姉妹ではあるが、一方で互いに愛情を感じている仲でもあるのだ。誰にも邪魔されない、二人だけの時間は彼女達にとって、大変貴重な時間である。

やがて下着姿になり、姉妹がベッドでくつろいでいる時、姉のフォリアが突然、一枚の写真を妹のリンセに見せた。

「お姉様、それは?」

その写真には雲の中に隠れてる影のようなものが映っていた。よく見れば、それは何かの戦艦であることが分かる。

「これはね、実はセイントバードの写真。くっきりとは見えにくいけどね……。形からして間違いないわ。」

「と言うか……その写真いつ撮ったのかしら?」

「今日の昼間。最新型の超遠距離用のカメラで撮影したものよ。軍の物を借りたのだけれど、たまたま覗いたらそれが映っていた。」

いつの間にか、その高性能カメラを使って撮影していたフォリア。そのカメラは明らかに距離があるものでも、形が分かるように撮影が出来る優れものだった。しかしリンセは姉の事を褒め出した。

「凄いわお姉様!流石!」

「私を褒めるべきじゃないと思うけど……」

「あ……でもそれがセイントバードって保証はないんじゃないの?だってあれは元々新生連邦のヒエラクス級の一つでしょう?新生連邦軍のものって考えもあるんじゃないかしら。」

リンセの言う通りである。いくら高性能カメラで撮影したものとは言え、その写真は形しか分からない。従って、セイントバードと断定するのは早いのだ。が、フォリアは右示指を横に往復させて笑みを浮かべた。

「ところがね、確信があるのよ。位置がこちらに向かっていない。もし新生連邦のヒエラクス級なら普通、正面がこの基地に向く筈でしょう?しかしこの写真は明らかに正面じゃない。側面。そして目的地は恐らく……国連の基地。あそこには既にアステル家の戦艦である、シュネルギアが停泊してるから、何らかの協力と言う形で向かってるんでしょうね。」

「それ、確証はあるの?」

「確証はないわ、推理よ。けれどもロンドンでヴァイダーガンダム打倒に協力していた様子を見ると……協力の可能性は非常に高い。恐らくヴァイダーの存在に気付いたと言ったところね。そして、あの中にある白いガンダムはヴァイダーの脚部を破壊していた。覚えてる?ロンドン襲撃の際に白いガンダムの強力な砲撃。」

「……あ!バリアーフィールドじゃ弾けないやつだよねー!?」

彼女達はロンドンにおけるヴァイダーガンダム襲撃にて撤退した後にツヴァイのプラズマカノンの砲撃を見ていたのだ。その破壊力でヴァイダーの脚部を破壊した瞬間を見て、フォリアは確信を持って次の言葉を言う。

「そして今回、セイントバードがアステル家に協力する理由……それは紛れもなく、ヴァイダーガンダムの破壊。それには白いガンダムのあの強力なキャノンが必要。だから今回協力する為にわざわざここまでやってきた……そんなところかしら。」

「す……凄過ぎる……お姉様、どうしてそれが分かるの!?」

「これも、推理よ。」

フォリアの推理はほぼ、完璧と言えた。セイントバードの位置関係からアステル家に協力すると言う事を推理し、その上理由もヴァイダー破壊と言う事も推理で当たっている。彼女の感の鋭さに、リンセは呆然とするばかりだった。

「そして白いガンダムのパイロットはレイ。レイ・キレス……。あの子があのガンダムのパイロット。そう、つまり……今度のヴァイダーガンダムによる短期決戦を成功させるには、白いガンダムのパイロットを殺す必要があるの。」

「ああ!成程!」

リンセは納得してフォリアを称えた。が、その時。フォリアは不気味な笑みを浮かべた後、スクッと立ち上がった。突然の行動に、リンセは疑問を抱く。

「お姉様?」

「リンセ、悪いけど数日間は帰ってこないわ。ごめんなさいね。」

そう言って彼女は急いで部屋を後にした。一人残されたリンセは、ただ茫然とドアの方向を見つめていた。

「せっかく二人きりの時間を過ごせると思ったのに……」

一人残されたリンセは、一人、頬を膨らませてじっと扉の方を眺めていた。

 

 

 

ダーウィンに向かっているセイントバードよりも先に既にここに着いていたシュネルギアは、国連の基地にその姿を格納していた。

やがてそこにいる、平和国の一部代表であるギア・ジェッパーが彼女を迎え入れた。ジンクのような威厳さがない人間であったが、眼鏡をかけており、〝知的〟と言うイメージが似合う男性だった。彼はジンク・アステルの友人でもあり、親交は深い。

「ジャンヌ嬢だね、話はジンクから聞いているよ。国連への協力、感謝するよ。……辛い話だが、国連も軍備を増強中でね。けど何も抵抗できる手段がないと、この地がロンドンの二の舞になりかねない。」

見た目通りの丁寧な男性だった。紳士的で、性格がジンクとは正反対だ。ジャンヌも淑女らしく、丁寧な挨拶を行った。

「いえ……あの殺戮兵器はあってはならないもの。いえ……それはあのガンダムに限った話ではありません。兵器と言う存在は本来無くす必要があるものです。けれども……これが現状です。争いが絶えないのが現状。」

戦争の辛さを語るジャンヌ。が、その言葉遣いに感心したのか、突然ギアは笑みを浮かべて彼女に言った。

「噂通りだ……ジャンヌ嬢。やはり貴方はジンクとは違う。律儀で美しい。ジンクのような頑固な人間とは違う。あの人は昔から頑固だった。貴族に似合わぬ頑固な人間で……苦労したものだ。やはり君は母親に似たんだろう。」

「え、ええ……よく言われますわ。」

困った表情を隠し切れない様子のジャンヌを見たギアは、自分の態度を改めた。彼の場合、何かに夢中になると周りが見えなくなると言う、どこか子供のような部分が残っている。

「失礼、取り乱してしまった。話を戻そう。確かに兵器は存在してはならないもの。増してや、平和主義を唱えるべきはずの平和国連盟が国連を利用して兵器を生産し、そして今では攻撃を仕掛けるまでに至ってしまっている。正直、私はギルス・パリシム議長のやり方には反対だ。しかし抗えない。彼が最高議長である以上、権限は絶対。抗う事があれば武力で制裁を加えられる。以前にもやり方に反発した一部代表を、刺客を送って暗殺したという黒い噂があるからね。あくまでも、噂だけれども。」

「刺客……ですか……?」

平和国連盟。平和主義を唱える彼等が扱うとは思えない存在、それが“刺客”だった。抗う者には刺客を送りこんで殺害すると言う非道。とても、今までの平和国のする事とは思えなかった。ジャンヌはこの事実を信じられず、ショックを隠し切れずにいた。

「無論だがこの事実は公表されていない。別の暗殺者に殺害されたってことで隠蔽された。結局、世の中は隠蔽だらけって事だ。新生連邦も大量虐殺を行ったのに、それらを隠蔽。世間を騙し続ける……これでは、もう新生連邦が悪だなんて決めつけられない。結局は隠し通すんだから、どうせ今度の戦いも、連中は〝なかったこと〟にするつもりなのだろう。」

平和国連盟と言う組織は新生連邦とほぼ、同規模な程組織としては広大だ。故に、様々な人間が居る。政治家と言う立場を利用して私利私欲に走る者も居る。そして、ギアの言うように平和国連盟は変わりつつあったのだ。それも、悪しき方向に。

「だからこそ……ジャンヌ嬢、お願いがある。平和国の事でショックなのは分かるが、今はそれを考えていてはならない。今は……奴等の大型ガンダムの破壊をする必要があるのさ。あれは、更なる悲劇を招く。あれを止めなければ、ならない。」

「ええ……全力を尽くさせて頂きます。これ以上犠牲は増やすわけにはいきません。ただ……やはり辛いです。結局は兵器を破壊する為には兵器を使うしかないと言う事です。」

「兵器には兵器……まあ、目には目をと言った感じだな。」

ギアは、静かに溜息を吐いた。彼も彼女と同じように、現在の状況に絶望していたのだ。

結局、新生連邦も今の国連も行っている事はなんら変わらない。そして世間の目を欺き続けている。

「隠し続ける事で平和に見せかける……今の平和国連盟は、まさに偽りの平和、そのものですわ……いえ……もしかすれば、兵器と言う存在がある時点で昔からそう呼べたのかも知れません……今回の作戦の鍵となるMSも、ある、少年が操る上で必要になる兵器なのですから。」

「ある、少年?」

「その少年を乗せた戦艦は、間もなくここに来るでしょう。そして、あの兵器の破壊の為に貢献をして下さる事でしょう。」

それは、レイの事だ。ヴァイダーガンダムの撃墜の為に、戦力が多い事は有難い事ではある。その中で、ギアがふと、口を開いた。

「その“少年”も気にはなるが、そう言えば君らの仲間の中に、アレン・レインドがいるね。ジンクから聞いている。デウス動乱では驚異的な活躍をした彼の存在は我々にとっても大きい。ただ、問題がある。彼の存在は有名であるがゆえに、新生連邦にも知られている。当然、連邦軍にかつて在籍していた事実があるのなら、敵に回せば厄介な事は明白だ。そんな彼が今、君が指揮をしている戦艦の中にいる。その事も敵は分かっている。つまり……今度の敵は巨大ガンダムによる殺戮攻撃だけで襲ってくるとは考えにくい。少なくても、以前のデータを見る限りそうだった。」

「データ……ですか?」

ギアは、ロンドン襲撃のデータを知っていたのだ。どういう経路で彼に知れ渡ったのかは分からない。ただ、彼がこの事を知っていたと言う事実が彼女にとっては驚くべき事だったのだ。

「本来ならあの巨大ガンダムの攻撃だけでも良かった。しかし、彼等はあえて多数の戦力を投入した。その理由は、アレン・レインド……彼の存在が大きく関係しているのでは……と、私は考えるね。」

ギアの台詞は正しく聞き取れる。アレンがいるからこそ、新生連邦も慎重になり、戦力を多数投入してくると言う考えも、あり得るのだ。しかし、今回に関してはジャンヌは異議を唱えた。

「ですが……彼等は今回アレンがいる事を知っているのでしょうか。少なくても新生連邦側のルートでこちらには来ませんでしたから、大丈夫だと思うのですが。」

ジャンヌがそう言うと、ギアは二度首を横に振って言った。

「ところがどっこい……既に見られているのさ。ルートも何も関係無い。見られている。間違いなく……ね。新生連邦の基地の高台にある監視塔は大陸周辺のデータを察知できる。だからシュネルギアの存在も既に彼等には気付かれていると言う事だ。だから、今度の戦いも気をつけた方がいいと言う事。」

「そんな……それで……」

戦いは激戦になる……それは紛れもない事実だ。目的は敵の巨大ガンダム。その筈なのに、また多数の戦力が投入されるため、戦わなければならない。ジャンヌは不安を覚えた。

 

「ジャンヌ」

その時、アレンが顔を見せた。MSの整備を手伝ってもらおうと思い、声を掛けたつもりだったが、その側に、ギアが居る事に気付かなかったようだ。

「まあ、アレン。」

アレンの存在に気付くジャンヌ。それと同時に、ギアがアレンに反応した。

「ああ、君がアレン・レインドかい。ジャンヌ嬢から聞いているよ。」

ギアは笑みを浮かべ、言った。

「あ……はい。」

「私がジンクの友人であるギア・ジェッパーだ。平和国連盟、豪州地区の一部代表を務めさせてもらっている。よろしく頼むよ。」

「はい、こちらこそ。」

そう言って、二人は握手を交わした。気さくな印象を持つ、ギア。

「アレン。貴方の事で心配な事があるのです。先程、ジェッパー氏とその事について話をしていました」

「俺の心配事?」

アレンは僅かに首を傾げる。その次に、ギアが一度咳払いを行い、〝心配事〟について話し始めた。

「君の存在だよ。君はエースパイロット。それもデウス動乱で他を圧倒する程の存在。だから英雄と言われる。アレン・レインドと聞いて、今を生きる軍人達にとっては知らない人間はいないだろう。」

アレンは軍人の中では有名人だ。特に連邦軍の中では伝説的存在として知られている程。それは総司令、レヴィー・ダイルがそうしたのかは不明ではあるが。

「今、君の存在は連邦軍に既に知られている。そしてかつて所属していた連邦軍にとって君は敵。無論、新生連邦は君の恐ろしさを理解している。ロンドンで巨大ガンダムによる襲撃があった時、本来ならあのガンダム一機で良かったはずだ。でも新生連邦は必要以上に多数のMSをあの戦いに導入してきた。何故だと思う?」

「それは……徹底的に攻撃する必要があったからでは?徹底的に攻撃を加えることで、オペレーション・デモリッション・クリエイションで失敗したことに対しての国連に対する戒めの為に攻撃を行ったと考えられますが。」

確かに、彼の言っている事は正しい。それを聞いて、ギアは無表情のまま二度頷くだけだ。

「確かに。しかし、新生連邦はシュネルギアの中にアレン。君が居ることを既に知っていたとすればどうなる?」

「確かに……何度か新生連邦の総司令とは戦っています。その時に知られ、軍内部で俺が生きていると言う事が知られてもおかしくはありません。」

「だろう。つまり、君がいれば敵もそれ相応の戦力を投入してくると言う事だ。気をつけて。別に君を攻めているわけではない。ただ、君が強すぎるから敵が恐れているだけなんだよ。」

アレンの強さ……それはデウス動乱で英雄として称えられるほどだ。そんな彼が敵に回れば無論、彼の実力を知る者は徹底して攻撃を強化してくるに違いない。彼は、自分自身の恐ろしさを、ギアに言われて実感するようになった。そして、ロンドン襲撃の事を思い出した。その瞬間、アレンの表情は蒼白した。

「俺が……あの大軍を呼び寄せた……と言う事ですか!?そんな……俺が……?」

「いや、そうと決まった訳ではない。ただ、可能性としてはあり得ると言っただけだ。普通、艦隊を一掃出来るような破壊力を秘めているあの兵器の上に、大量に戦力を投入するなどおかしい話だからね。それを今回豪州に用いてきたという事も恐ろしい話だが……」

彼の存在が敵に知られている以上は敵勢力も警戒をするのが普通だろう。故に、アレンは少しばかり苦悩していた。この時、彼は自らがデウス動乱の英雄と連邦軍内で呼ばれていた事を悔いた。

「俺は……自分の力の事を自覚していなかった……ロンドンの新生連邦の襲撃の際、俺が居ることで多数の戦力を投入し、結果的に被害者を増やしてしまったって事か……」

「アレン。その言葉はただの自惚れです。自らが可愛くて、強いと言わんばかりの発言はやめて下さい。」

自分の力故に、多くの敵を寄せてしまったと言う、アレン。もしそれが該当するのなら、自分の存在とは一体、何なのだろうか。何の為に戦っていると言えるのだろうか。

「もし、またここで奴が暴れてしまったとすれば、それは恐ろしい事になる……俺は、その責任の一端を背負っているって事になる……」

握り拳を作る、アレン。そして、それを見兼ねたジャンヌはその目で彼を睨み、アレンの正面に立った――

 

パシッ

 

彼女の手は、アレンを打った。彼の頬が赤く染まる。突然の行動に、アレンは驚愕した。

「……!?」

「自身を責めないで下さい。自分が悪いと思い続ければそれが後々に悪影響を及ぼします。責めてどうなりますか?不安な思いは貴方自身を死に追い遣ります。貴方はただ、自惚れているだけです。自身の強さが被害を招くという考えは、余りに愚かです。」

だが、アレンの事を理解している人間が居るならば、それを脅威に感じるのは分かり切っている話だ。彼女にそう言われた時、アレンは戸惑う。

「でも!俺が出撃すれば新生連邦はあのガンダム以外の大軍を率いてくるに決まってる!そんなんじゃ……また無駄に犠牲者が増えるだけなんだよ……こんなんじゃ……ダメなんだ……」

自信の罪が、深刻なものだと思っているアレンは、ただただ弱気になるしか出来なかった。今まではジャンヌがアレンの言葉に支えられたりした。しかし、今度は彼自身が弱気になってしまっている。どうにか、彼女は彼の調子を取り戻そうと考えた。

「仮に、貴方が出撃しなくてもシュネルギアの存在が確認された時点で新生連邦軍は大軍を率いてくるでしょう。……でしたら……戦いは避けられません。それでしたら……貴方は守る為に戦って下さい。」

彼女の言葉が、刺さる。守る為に戦うという言葉は、レイから聞いたものだ。

「あの少年……レイ・キレスは仲間を守る為に戦ってきたと、言っておりました。貴方はどうですか?貴方が強い力を持つのならば、その力を、人々を守る為に戦って下さい。それで死ねるのでしたら、貴方自身も本望でしょう?今回の件に関しては明らかに新生連邦に非があります。それを貴方が悪いと自分自身を攻める必要はないのです。アレン……どうか、落ち着いて下さい。」

「守る為……に?そうか……守る為……」

ジャンヌの言葉がアレンに強く響いたようだった。その様子を見ていたギアは、ジャンヌの言葉に感心していた。

「守る為に戦う事の何がいけないのでしょうか。この地で被害者を多く出す訳にはいきません。アレン、戦って下さい。」

「……そうだ、俺は……戦わないと……守る為に!」

ジャンヌの説得もあって、アレンはどうにか立ち直った。しかしこれで済ませてはいけない、自分はこれまで多くの人を犠牲にしてきたという事実に変わりはない、それは自分の中にしまっておこうと、内心では考えていた。だがジャンヌの言うように、今は落ち込んでいられないのだ。その間にも新生連邦はヴァイダーガンダムを整備している。そう思うと、アレンは急いでその部屋から出ようとした。

「どこへ?」

ジャンヌが彼を呼び止めると、アレンは笑みを浮かべてこう言った。

「ブライティスのチェックを行う。ジャンヌ、良かったら後でお願い出来る?」

「……ええ!」

ジャンヌも快くそれを受けた。するとアレンは部屋を後にし、シュネルギアのMSデッキに向かって行った。

「……では、ジャンヌ嬢も彼に付いて行くかい?」

「いえ、まだお話ししたい事がありますから。もう少ししてから彼のお手伝いを。」

「成程……ね。了解だよ。ああ、そうだ。後で基地の指令であるワーゲイン・スロウム大佐に挨拶をしておいてくれ。君らの事は既に彼等には伝えている。」

「ええ、分かりました。では、もう少しお話をしましょうか。」

「ああ、そうだね……。」

二人のやり取りを黙って見ていたギアは先程よりも穏やかな表情を浮かべ、そして静かにジャンヌと会話を続けるのだった。

 

 

 

その後、アレンはMSデッキに着いた。そこには国連のMS、ヴァントガンダムが多数配備されているのが確認出来た。

「国連に協力してくれるってんなら、喜んでヴァントを供給させてもらうよ。スロウム大佐の命令でもあるしね。」

「はは、そりゃどうも。」

国連の整備士とシュネルギアの整備士が会話をし、多数のヴァントガンダムを受け取って感謝の言葉を述べていた。その会話を聞いていた時、アイリィがアレンに近付いて来た。

「アレンさん!どこに行ってたんですか?アレンさんのガンダムの整備、手伝って欲しいってあの人達が言ってましたよ!」

と、アイリィが指を差したのはブライティスガンダムを整備中の二人の整備士だった。二人ともアレンに向かって手を振り、それに気付いたアレンは走ってその二人の元へ向かった。

「ああ、ありがとう!そうだ、手伝わないと……アイリィも自分の機体は見ておいた方がいいぞ!」

「私はもう済みましたー!」

「あ……そっか。そんじゃあ!」

「はいー!」

アイリィはリルムと別れる事になり、心の中では寂しさを感じていた。彼女は友人だったが故に、表面上では取り繕ってはいるが、実は寂しさで満ちている状態だったのだ。

 

―――――――――――――なんで、人を殺して喜べるの――――――――――――――

 

リルムの言葉が刺さる。彼女は若いが軍人だ。一方のリルムは民間人。この立場の違いが、彼女を苦悩させていたのである。

「どうある、べきなんだろなぁ……」

アイリィは、ふと、考えていた。

 

 

 

更に時間は経過し、セイントバード艦内はもうすぐダーウィンに着こうとしていた。幸いシーアの襲撃以外に新生連邦やMS乗りの襲撃はなかった為、航行は順調と言えた。

クルー達は航行の途中、休息をとった。レイもその内の一人だ。しかしレイは昨晩、久しぶりに例の悪夢を見た。それも、今まで以上に立体的で、本当に自分がそこにいたかのような感覚にさえ陥っていた。

 

――――――――――――――――見たのか――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――えっ――――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――悪い子だ、この子と一緒に死ななければ――――――――

 

――――――え……え……そんな……どうして……い、嫌だ……嫌だ―――――――――

 

―――――――――――――――――ダメだ、死ね―――――――――――――――

 

「ハッ!?……夢……か。と言うか、またあの夢か……。」

レイは目を覚ました。窓は美しい朝日を彼の部屋に照らしていた。太陽の明かりが眩しく、彼は思わず目を手で隠した。

「わ、眩しい……それより……最近見ないと思ったら……はぁ……初夢があの夢なんてやだなぁ……不吉っていうか……。さて、着替えないと。」

眠そうに目を擦りつつ、レイはベッドから降りてハンガーに掛けてあった私服に着替えた。その後で顔を洗う為に洗面所へ向かおうとした、その時。

『全クルーに告ぎます!まもなく、セイントバードは降下します!ショックに備えて下さい!』

インクの声が響いた。それを聞いた時、レイは急いで顔を洗った。その後、これからアレン達に会う事に対して若干焦りを覚えていた。

(遂にオーストラリアに……アレンさんやジャンヌさんに会うんだ……)

どこか、緊張している様子のレイ。シュネルギアで交わした彼等とのやり取りを思い出す。

 ジャンヌはレイに真相を伝えた。彼は、ツヴァイに乗らざるを得ない状況となった。そして、戦ってきた。セイントバードチームを、守る為に。

 彼女のやり方には納得はしていない。ただ、一つ、彼女が言った言葉がどうしても忘れられないのだ。

 

――――――――――――私達は本当に平和を望んでいます―――――――――――――

 

繰り返されるジャンヌの言葉は、レイを惑わせる。自分は置かれた状況に対し、どう在るべきなのか。守る為に戦う事が彼の役目なら、それを行うまで。しかし、ジャンヌは彼の力を、利用しようとしているに過ぎない。それがどうしても、納得出来ない部分があったのだ。

 いつまでもそれを気にしても仕方がないのは分かっている。だが、レイはこれから会う、彼女達に対してどのように振舞えば良いか、分からないで居たのだ。

 

 

 

やがて、セイントバードはダーウィンに着いた。彼等が降り立った場所は、国連が所有している、大規模な基地の中だった。光信号によって誘導された彼等は、無数のティアマット級が格納されている地下基地に艦を停止させ、全員が降りた。

降りた時、若干熱気が感じられた。レイは最初これを疑問に思ったが、すぐに納得した。

(あ……そっか、オーストラリアは違うんだ。今まで北半球だったから雪ばっかりで……つまり今オーストラリアは夏なんだ。)

一人、納得するレイ。しかし彼がそのような事を考えるのは、この先始まる戦いの前の余興に過ぎなかった。

やがて全員が降りると、目の前に現れたジャンヌが彼等を歓迎する形で笑みを浮かべ、言葉を述べた。

「ようこそ、ダーウィンへ。歓迎しますわ、エリィさん。」

「実際にお会いするのはお久し振りです。協力……ですね、ジャンヌさん。」

「ええ、どうしても貴方方の協力が必要です。特にツヴァイガンダム……あのガンダムの存在が。レイの存在は、必要不可欠なのです。ね、レイ。」

その中で、レイの顔をちらと見た。彼は、僅かに目線を合わせ、静かに会釈をする。

「リルムさんも、ご無事な様子で。何よりですわ。」

「あ……はい。」

どこか、気まずそうな表情を浮かべるリルム。彼女はアステル家に保護されていた身だ。レイの都合でセイントバードに移動する事になったが、どこか、顔を合わせ辛そうにしている。

「さて……新生連邦軍は既にヴァイダーガンダムの調整を完了させているという情報が入ってきました。そして、国連軍に対し、警告をしてきました。七十二時間後に降伏条件を飲まなければ戦闘状態に移行する……と。」

ダーウィンの地に到着したばかりではあるが、ジャンヌから悲報が聞かされる。七十二時間後……つまり、あと三日後にはこの地は火の海になると言う事。この事実に、クルー達は驚愕する。

「でも、こちらに来られたばかりでお疲れだと思われます。今は暫しの休暇を取って下さい。」

戦闘までは時間がある。これは、彼等にとっては救いと言える事だ。長旅を経て疲労していたクルー達は、それぞれの時間を過ごす事にしたのである。

「レイ、貴方にはお話がありますわ。」

ジャンヌがレイに声を掛けた。恐らくツヴァイの事だろう。そう言われ、レイは静かに頷いた。

「……はい。」

彼の表情は真剣そのものだ。ジャンヌと話をする事自体、レイにとっては真剣になる事である。

 無理もない。彼女がツヴァイを乗るように仕向け、それがきっかけとなり、今に至るのだ。しかし一方で、新生連邦の巨大兵器との戦いにも臨まなくてはならないという状況。レイの心の天秤が揺れている。

やがてレイはジャンヌに連れられ、移動する事になった。そこで、一人残された、リルム。

 

ポンッ

 

その時、彼女の肩を何者かが叩いた。すぐに振り向き、反応するリルム。

「リルム!?リルムだ!」

そこにはアイリィの姿があった。

「あ……アイリィさん……」

リルムは彼女と仲は良い。だが、あくまでも軍人だ。民間人と軍人の価値観の違いは一度

互いを悩ませていた。しかし実際にリルムの姿を見て、大いに喜んでいる様子だった。それ程に、会いたがっていたのである。

「セイントバードがここに来るって聞いたから、絶対に会えると思ってた!ねぇ、セインドバードはどう?居心地良い?」

「う、うん……」

戸惑うリルム。それを見たアイリィが、言った。

「ねー、この後自由行動でしょ?基地内にある露店に行かない?」

と、ぐいぐいとリルムの手を引っ張るアイリィ。本当に軍人なのかと思える程に、はしゃいでいる様子の彼女。

「そう言えば全然、露店とか行ってないなぁ……。」

アイリィは十七歳の新人兵士だ。国連に志願したのは彼女の意志である。とは言え、年頃の少女である事に変わりはない。買い物にも行きたいしおしゃれなどもしたい。彼女にとって休暇や休み時間はありがたい時間なのだ。つまり、本来はどこにでもいるごく普通の少女なのである。

「リルムと色々とお話ししたいよー!彼氏さんはジャンヌ様と用事があるみたいだし、ちょっとだけ良いかなー?」

「うん、それは大丈夫だけど……」

彼女のテンションの高さに翻弄されつつも、リルムはアイリィとの会話に応じたのである。

 三日後に戦闘になる前の、ほんの僅かな安らぎの時間。こうした時間も、貴重な時間と、言えるのだ。

 

 

 

 その後彼女達は基地内の露店に行き、そこでソフトクリームを購入した。北半球とは違い、南半球の暑さと冷たいソフトクリームの相性は、抜群と言えた。セイントバードで人が死ぬような出来事が続き、こうした時間をとる事が出来ていなかったリルムにとっては救いの時間であった。その中で、アイリィが言った。

「私ね、リルムに謝らないといけない事があるなって思った。」

「謝る事?」

アイリィはすソフトクリームを食べながら、言った。

「イェブレで敵を倒した時に喜んだりしたのを見て、落ち込んでたでしょ。リルムの立場とか考えずに色々と言いすぎたなって思っちゃった。ごめんね。」

それは、撃墜スコアを喜んだ時の話だ。アイリィは軍人であり、敵機体を撃破すればそれが賞与に反映される。故に喜んだ。

 だが実際は敵を倒すと言うことは、人殺しと同義だ。それが、リルムにとっては苦痛に感じられたのである。

「ううん、実は私もね、射撃っていうのかな……やった事があるの。戦艦の砲台からロボットを狙い撃つような事。」

「え……そうなの!?」

驚愕の事実に唖然とする、アイリィ。

「でも、あの場にいて分かった事があるの。多分、戦争とかって、やらないとやられるんだって思った。それが怖い事も、感じた……アイリィさんは、本当に大変な事をしているんだなって思ったの。」

「信じられない……リルムがそんな事したなんて……」

一見すれば信じられない、認められない内容の出来事であれ、このように言葉を交わし、話をする事で分かり合う事が出来る事もある。それには、時間を要するかも知れない。大切なのは、会話をし、互いに知っていくという事なのかも知れない。

 少しばかりの亀裂が走っていた両者の関係だが、実際にリルム自身もこうした経験をする事で、恐怖を感じつつも、それを受け入れていく事が出来ている。日常に居ればまず、行わなかったであろう出来事。それは褒められる事ではないが、行った。そして、アイリィの気持ちが、少しばかり分かった気がしたのである。

「私、スコアとか、そういう言い方はしないようにとは思ったよー。だって、なんか、相手を人間扱いしてないみたい。リルムに言われて、そう感じた。相手は人間なんだ……って。」

彼女が戦っている相手にも人間が乗っている。その事を忘れてはいけないと、アイリィはリルムの言葉を経て、感じ取ったのだ。

 しかし、迫る敵を倒さなければならないし、倒す事でそれがスコアとして加算され、給料としても反映される。だがそこに喜びを感じるのは、違うのだと、感じた。

「なんか、難しい話題なんだと思う。この世界って、人を殺したりしないと生きていけない世界なんだって思った。その……ね、幼馴染の彼氏っていうか、レイがそんな世界で活躍しているっていうのが、やっぱり信じられなくて。私にはそんなの、無理だよ。相手が居なくなるのも怖いし、殺されるなんてもっと怖いから……」

民間人ならば感じる、それらの感情は紛れもないものだ。戦場で恐怖を感じるのは当然。それが平気でいる人間など、居ない。

「でも、私はセインドバードに居て、そうした中で生きている人達を見て、話も聞いてきた。だから、アイリィさんは何も悪くないと思ってる。だって、アイリィさんのするべき事が、軍人として敵と戦う事なんでしょ?それを責めるなんて、私は見当違いな事をしてたんだなって思った。」

戦争で戦う者と、戦争と無縁だった者が仲良くなれば、こうした乖離が生じるのは必然だ。だが、互いに友人関係である以上はこうした乖離も受け入れなければならない。そこには他者が物を言う資格はない。あるのは、個人の価値観をどう、受け入れるかだ。

「リルム、少し見ない間になんか、変わったね。あの戦艦で、色々と経験したんだ。」

と、呟くアイリィ。彼女はソフトクリームを舐めながら、リルムの言葉を聞いている。

「だから、アイリィさんは気にしないで良いんだよ。その……三日後の戦闘にも参加するんでしょ?気を付けてね……アイリィさんの事、友達だと思ってるから!」

互いの立場が違えど、それを友人として見る事が出来る価値観を持つ事は理想だ。それが続けば、両者は永遠に友人で居られる。リルムとアイリィは、紛れもない、友人関係だ。

「リルムー!!」

リルムの言葉に感動したアイリィは、彼女を抱き寄せた。その際、ソフトクリームがリルムの頬に付き、彼女は冷たい感触を感じていた。

 この会話で、両者の溝は塞がったように見えた。それはリルムが未知なる世界での他者への理解を少しずつ深めていった事が何よりの証なのかも知れない。

「私、頑張るから!また、こうやってリルムとソフトクリーム、食べたいから!」

「うん、私も……!」

いつしか、リルムは自然な笑顔が浮かぶようになっていた。どのような状況であれ、相手を理解する。相手が軍人ならば、その立場を理解する。それが大切であると、少女は学んだのである。

 日常と戦場の違い。それが大きく異なるのは価値観だろう。だが、その関係性さえ抜きにすれば、そこに居るのは“人”だ。役目を全うする人間を理解する事こそが、相手を理解する事に繋がるのだと、リルムは感じ取っていたのである。

 

 

 

 一方のレイはジャンヌに呼び出され、シュネルギアに向かっていた。どこか、気まずい表情を浮かべているレイ。以前にシュネルギアブリッジ内で彼女に言い放った言葉を、気にしているのか。

 しかし彼自身もジャンヌに利用されたという事実がある。それを、どう解釈すべきかと、考えていた。移動の最中、互いに沈黙が続く。麗しい令嬢とレイと言う名の少女のような少年の組み合わせは、ある種、異色とも言えた。

 やがてシュネルギアのMSデッキ内に辿り着いた彼等。そこで、ツヴァイガンダムの姿を目の当たりにする事になる。

「凄い、全て復元してる……」

随分と久し振りに見るような気がする、元のツヴァイの姿。デスゲイズによって破壊された後、ヒパック村で応急処置を受けたそれは、改めて元の姿に戻っていたのであった。

「ツヴァイガンダムは完全に復元しました。全ての兵器が元の状態のまま、戦う事が出来るようになっております。後は、貴方が乗り込むだけの状態です。」

ここに来てジャンヌがようやく口を開いた。

「レイ、貴方にお聞きしたいのですが、今、どのような心境ですか。」

彼女の言葉がレイに聞かされる。ジャンヌはレイを利用しようとしていた。だが、その真意は全て、平和の為。彼女の言葉はレイを戸惑わせる。

「正直、混乱はしています。でもあのガンダムがまたあんな悲劇を起こすってなったら、やっぱり動くしかないと思いました。ジャンヌさんがどう、思うのかは知りません。でも、利用するとか、されるとかそう言う次元の話じゃなくなっているとは思ったんです。」

ツヴァイに乗る様に仕向けたのはジャンヌだ。それを選んだのは、レイ自身。そのように誘導された事に怒ったレイだが、結局彼がツヴァイに乗るのは変わりない。ならば、その責務を全うするまでなのだ。

「レイ、今は貴方にただ、感謝をしますわ。ありがとうございます。」

すると、ジャンヌは突如、レイに対して頭を下げたのだ。アステル家の令嬢である立場の彼女が、少年に対して頭を下げる。その行動に、レイは目を疑った。

「え……?」

「正直、貴方が乗ってくれなければどうなるかと、思っていましたの。今回の作戦はツヴァイガンダムの存在が大きく関与しております。それ故に。」

レイは、何度か瞬きをした。シュネルギアのブリッジで冷淡な発言をしていた彼女と、大きく違う。一体何があったというのだろうか。

「レイ、貴方が重要な役割を担う今度の作戦に快く賛同して下さった事には感謝しております。今までセイントバードでこの機体を預かっていた時、大変ではありませんでしたか?本来使える筈の兵器が使えない事等、トラブルも多く生じた事でしょう。」

レイがツヴァイに乗る事を了承した事を受け、ジャンヌは機体の説明をしていく。

「はい。確か、前の戦闘でプラズマカノンを撃ってから、粒子量がなくなっちゃった事とかありました。」

ロンドンでのヴァイダーガンダムの足止めをした収束型ブラスタープラズマカノンの粒子量は、あの戦闘以来使えなかった。何故ならば、プラズマ粒子の存在が必要となっていた為である。その間はブリッツファンネル等の武装で代用はしていたが、武装が全て使えない状態と言うのは、パイロットにとっては不利になり得る事もあるのだ。

「貴方には、改めてツヴァイの事について知っておく必要がありますわね。」

ジャンヌは微笑した様子で、言った。

「本来、ツヴァイのような機体を作り出すのは非常に難しいものとされておりました。しかし、ツヴァイはこれを実現しました。言わばこれは今までの技術以上に最新鋭のもの……このようなものを新生連邦は扱っていたと言う事になります。以前ロンドンを襲撃した巨大なガンダム……あのガンダムもプラズマカノンを更に巨大化したようなもので国連の艦隊を消滅させました。その上大量のブリッツファンネルや強力なビーム兵器による破壊行為を繰り返しました。つまり、あのガンダムにはツヴァイの技術も備わっていると言う事なのです。いえ……正確にはツヴァイの方がもっと後になって作られたと考えるべきでしょうか。」

「え、ツヴァイが……?」

レイはツヴァイの詳細を、よく知らない。ただジャンヌに授けられたと言う事実があっただけだ。

「本来ツヴァイは新生連邦上層部が極秘に開発していた最新鋭のMSでして、アインスガンダムのデータを基に開発が進められました。そして設計データが完成しました。その段階では形式番号も機体名称も不明だったのです。その存在に気付いた私達は新生連邦の情報機関をハッキングし、設計データを奪い、それを基に機体を組み立てていったのです。」

「設計データを奪ったんですか!?」

明かされる、ツヴァイ製造の秘密。そして、それを聞いて、レイはある事を思い出した。

 

 

――――――――――――――そのガンダムタイプは、我々が開発していた最新機体の発展型にする為のデータが流用されている筈―――――――――――――――――――――

 

 

オペレーション・デモリッション・クリエイションの際に総司令、レヴィー・ダイルが言っていた言葉だ。最新機体の発展型にする為のデータの流用。これはつまり、ツヴァイガンダムの事を指していたのである。

「貴方に託す新型を作る為に新生連邦の新型であるツヴァイを奪いました。やがて形式番号も決定し、以前にもお伝えしたように、名前も貴方の乗るアインスの次のガンダムと言う意味でツヴァイガンダムと名付けました。」

「それが理由……ですか。」

本来のツヴァイの事を知ったレイ。元々新生連邦が開発していた機体と言う事を知って、自分の機体は新生連邦関連のものばかりだ、と、内心で納得した。

「ここからは推測ですが、それの前駆となるMSが恐らく、あの巨大ガンダムですね。あのガンダムはツヴァイよりも以前に開発が進められていて、その技術の小型化に成功したのがツヴァイガンダムと言えます。」

「え……でもそれっておかしくないですか?あのガンダムってツヴァイより後で実際に投入されたんじゃ……?」

レイの疑問は正しい。確かにおかしいのだ。プラズマ粒子とビーム粒子の両立の小型化に成功したツヴァイが後に設定されたものだとすれば、矛盾が生じる。普通なら、ツヴァイよりも先にヴァイダーが戦場に投入されるはずなのだ。彼の抱く疑問に対し、ジャンヌは何気ない笑みを浮かべて言った。

「あの巨大ガンダム……即ちヴァイダーガンダムは、恐らくツヴァイ以前から開発は進められていたと考えれます。ですが、あれ程の機体を動かす為には多くのデータを要します。恐らく、それがツヴァイのデータ。それがアステル家に奪われた事に寄り、ロールアウトが遅れたと、考えます。本来ならば彼等の作戦であるオペレーション・デモリッション・クリエイション時に投入予定だったヴァイダーガンダムですが、それが失敗に終わって以後、その報復と言わんばかりにロンドンに対して砲撃を放った……そしてその初陣は華々しく飾ることに成功した……代わりに多くの犠牲者を伴いましたが。」

「じゃあ、本来は最初の宣戦布告の時にヴァイダーガンダムを投入する予定だったって事ですか?」

「ええ、恐らくは。短期決戦を考えていたのでしょう。ですが予定外の事が起きた……という事です。その矛先が、ロンドンに向けられたという事が、恐らく有力かと、思われます。」

明らかになるツヴァイの秘密に、レイはただ、驚愕するばかりだ。この機体が如何に強力な機体であり、そして、ヴァイダーガンダムの発展型に該当する機体である事も、理解が出来た。

「ですが、不思議なものですわ。貴方がこの一連の話に対して、理解が出来ているとは思いませんでした。やはり貴方には才能があるようですわね……驚きですわ……フフ……」

ジャンヌの言葉を聞き、レイは小馬鹿にされたような気分になった。彼の才能を見込んでの機体の筈なのに、何故そのような事を言うのか。レイは思わず反論してしまう。

「ば、馬鹿にしないで下さい!それぐらい分かりますよ!もう……」

「あらあら、ごめんなさい、フフ……」

この時、彼等の間に自然な会話が成立した。オペレーション・デモリッション・クリエイション後から成り立たなかった彼等の会話がここで成り立つというのは、不思議なものであった。

 これが契機となり、ジャンヌはレイに対し、その胸中を打ち明けて行く――

「レイ、貴方は私を軽蔑するのも無理はないと、考えていますわ。ツヴァイを乗る事になった経緯に関しては貴方自身、不快な思いをしたのは間違いないと言えます。ただ……現在も新生連邦はヴァイダーガンダムを実戦配備する為の準備を、恐らく着実に進めているでしょう。」

ジャンヌ自身も先の言葉がレイを傷つけた事を理解した様子で、言っていた。次第に彼女の言葉は柔らかいものになっていく。あの時の冷たい言葉は、何処へ行ったというのか。

「改めて申し上げます。それには貴方の力は是非とも必要です。せめて……今回だけで良いのです。お願いですレイ、力を……貸して下さい。貴方の力なしにあれを止めることは恐らく……不可能です。バリアーフィールドを全体に張り巡らしているあのMS……あれを突破するにはこちらもプラズマ粒子を所有したMSで対応する必要があります。そしてそれのパイロット。それは貴方。貴方の力で、多くの人達が救われるのです。お願いします、どうか……」

ジャンヌは涙を流した。レイはこの時、非常に困惑していた。彼を利用していた事に対して、許せない存在であるジャンヌなのだが、この涙を流すジャンヌは本意だと感じ取れた。

「レイ……私は貴方に対してあのように振舞ったのには理由があるのです……恐らく、貴方は純粋な人間だと思われます。だからこそ、その“真実”を知り、困惑をした筈です。ですが、それで良いのです。」

“真実”を知り、それが良いというのは、どう言う事なのか。

「それを知った上で、貴方は戦う事を選んでくれました。これは私自身になんの思惑もありません。ただ、純粋な気持ち。それだけなのですから……あの兵器を止めたいという、ただの気持ちなのです……」

「気持ち……ですか……?」

レイは彼女に聞いた。やはり、躊躇っている様子だ。

「私はアステル家の当主の娘。アステル家はデウス動乱時にデウス帝国に兵器を提供して来た一族です。それ故に、私達を恨む者が居るのは当然です。それ故に、私はどこかで人を、利用するような思考になっていたのでしょう……平和と言う言葉に囚われ過ぎていたのかも、知れません。それ故に貴方に不快な思いをさせてしまったのでしょうね……裏切り者が出るのも、当然なのかも知れませんわ……」

ジャンヌの精一杯の言葉が、彼に伝えられる。そしてこれを言われ、レイはどう感じるだろうか。改めて、困惑するだろうか。

確かに、ヴァイダーの襲撃は彼女の自分勝手な都合とは何の関係もない。それに、彼女は自身の事に対して省みている――そう思えば、レイ自身もやるせない気持ちになって来た。

「貴方は純粋です。私達は戦いの中で、貴方のような純粋な気持ちというのを忘れてしまったのかも知れませんわね……」

彼の中にあったジャンヌへの疑念、疑惑は次第に形を変えていき、やがては崩壊していく――

「……分かりました……僕は戦います。ツヴァイが使えるようになった今、僕もまともに戦う事が出来ます。ジャンヌさん、僕は守る為に戦います。今までだってそうでした。僕は何かを守る為に……ただ、一生懸命でした。今回も、僕は“守る為”に戦います。」

「ありがとうございます……レイ……。」

一度は分かり合えないであろうとされた存在同士であった両者が、分かり合えた瞬間だった。

 人の縁と言うのは何故、これ程に不思議なものなのだろうか。レイはジャンヌに対して嫌悪を抱いていた。しかし、今回ジャンヌが頭を下げ、涙を流して真相を語る事で、その嫌悪している状態の解決に至った。だが、ここに至るまでに時間を要した。それは、強大な敵が迫りつつある状況と言う事が起こした、ある意味奇跡的な出来事なのかも知れない。一つの強大な存在を倒す為には、協力者が必要だ。敵が現れた時、協力する者が居ればそれは心強い仲間となり得る。それが、心理と言うものなのであろうか。

 彼女は以前、彼に対して悪と見做されても良いと言った。その答えが、彼に語った真実だとして、それを彼が理解した時、互いの蟠りは消失するのだ。

 

 

 

その後、休憩時間は終わり、全員が国連基地前に集まった。そこへ司令官のワーゲイン・スロウムが現れ、国連兵は皆敬礼をした。この場には大勢の人間が居た。アステル家の人間達を始め、セイントバードチームや、国連兵等。その数は推定千名以上を上回る。

「今回の作戦に、協力を感謝する。さて、ジャンヌ嬢の協力をして下さると言うMS乗りのリーダーはどなたかな?」

「はい、私です。」

ワーゲインに呼ばれ、エリィはすかさず名乗り出た。するとワーゲインは前に出てくるように言う。言われるまま、彼女はギアの前まで歩き、止まった。

「ほぅ、若いな。」

じいっとエリィを見る、ワーゲイン。

「私はワーゲイン・スロウムだ。豪州地区の司令官を務めている者だ。さて、諸君らには本当に感謝している。ジャンヌ嬢が選ぶと言う事は、期待もして良いと言う事かな?」

「あ……ええと、ご期待に答えられるように尽くします。」

彼女は、自信ありげに堂々と言うのは控えた。あくまでも相手は軍なので、偉そうな態度は反感を買うかもしれないと思ったからだ。それ以前に、彼女自身こういった状況で自信ありげに言うのは苦手なのである。

「ともかく、期待はしている。敵は新生連邦……しかも、ロンドンを襲った巨大ガンダムだ。君たちは、一度そのガンダムと対峙して生き延びているらしいじゃないか。ジャンヌ嬢から聞いた。」

「はい。どうにか……ですが。それの阻止ならば、喜んで手伝わせていただきます!」

と、エリィは敬礼をした。それに合わせるように、クルーも全員敬礼をする。その中で唯一理解できていないメナンは、呆然とただ立っているだけだった。

その後、ワーゲインはその場から去った。代わりにジャンヌが彼女たちの前に現れた。そして、セイントバードチームやアステル家や国連の兵士達に対し、言葉を放つ。アレン達はこの様子をやや離れた場所で見ていた。

「今回の作戦の鍵を握るのは、ツヴァイガンダムです。あのMSのプラズマカノンを利用した作戦を行いたいと思います。他のMSは恐らく配備してくるであろう、MS部隊に対して迎撃を行って下さい。ロンドンの悲劇を、二度と繰り返してはなりません……絶対に。」

全員が、この言葉に対して敬礼を行った。皆、ロンドンの事はよく知っているのだ。凄まじい破壊力を持ったヴァイダーガンダム……その存在は、許してはならないと、ここにいた全員は改めて感じさせられた。

その後はMSの整備や、パイロットはシミュレーターで実戦を忘れないように訓練を勧められた。他の人間にも様々な仕事はあるので、それらを手伝わされることになる。

 

 

 

MSの整備が進む中、アレンはココットと共に基地の屋外に出て手すりにもたれていた。

恐らく休憩の為だろう。高所だった為、非常に風が心地よく感じられた。

「これからまた戦いが始まる。あのガンダムを阻止する為に……ココットも頑張って。俺も頑張るから。ココットももうあんな参事はごめんだろう?」

「うん……もちろんだよ!協力するもん。アレンの為に、そしてみんなの為だもん……ね!」

いつしか、二人は以前よりも仲が良くなっていた。理由は定かではないが、以前以上に二人の距離が密着しているように見える。さすがに、ガーストとプレーンのように公然で見せつける訳ではないが、それでもココットはアレンに近寄り、そのままもたれている。

何気ない、ただの恋人同士の密着。それらも、彼等にとっては戦いの前の安らぎと言えるだろう。

「あのね……アレン。」

「どうしたの?」

「私……アレンの役に……立ててるのかな?ただの恋人……で終わっていないかな?」

突然ココットは口を開いた。その際の表情は寂しげであった。

「何を言ってるんだよ、いきなり。」

「だって!だって……ジャンヌさんは艦長も務めて、整備も出来て……アレンの役に立ててる。だけど私は……どうなのかな……って……」

自分とジャンヌの差を感じていたココットは、二人しかいないこの場所で自分の気持ちを伝えた。それを聞いたアレンは少し笑いながら答えた。

「大丈夫、心配はいらないよ。ココットは居てくれるだけで良いんだ。それで、俺の役に立ってる。ココットが居るから、俺も頑張れるんだから。」

「本当……?」

「嘘は吐かない。」

アレンは笑顔でそう答える。その笑顔を見たココットは笑みを見せるが、内心では自分の存在意義について疑問を抱いていた。

(分からないよ……私は本当は居なくても良いんじゃないのかな……ただ居てくれるだけでいいなんて、あるとは思えない……)

心地良い風が吹く中、ココットは一人内心でアレンの気持ちが分からないまま、不安な様子を見せていた。

 

「アレン」

そこへ、二人の人間が姿を見せた。ガーストと、プレーンである。

「ガースト……」

久しぶりに再会する両者。だが、ガーストは、どこか冷めた目をしていた。

「久しぶりだな。ロンドンの時以来か。その……ダーウィンまで来てくれて、ありがとう。ジャンヌも感謝していた。セイントバードの皆が来てくれている事に対して。」

この時、アレンは握手を求めようとした。久しぶりの友人の再会に、彼は心底、喜びを感じていた。

 しかし、ガーストは彼の行動に対し、言った。

「悪いけど、お前とは握手する気になれねぇよ。」

「え――」

この時、彼の表情が凍り付いたように固まっていた。ガーストの冷たい言葉が、アレンを困惑させたのだ。

「セイントバードは確かに、あの巨大なガンダムを止める為に動くだろうさ。けどさ、“お前自身”は自分自身をコントロール、出来ているのかよ。」

「ガースト!」

ガーストの冷たい言葉を、プレーンが止めようとする。しかし、彼は止まらない。あのオペレーションの際に攻撃した事を、覚えているからである。

「ガースト、その件だが……今はいがみ合っている場合じゃないだろう?」

「うるせえよッ!」

 

ガッ

 

その、溢れた感情はガーストを暴走させる。思わずアレンの胸倉を掴み、じっと、彼を睨んだのだ。

 戦争終盤からの友人関係だった両者だが、以前のアレンの件が引き金となり、ガーストはアレンの事を信用出来ないで居たのである。

「ガースト、止めるネ!」

「ガースト君!」

ココットと、プレーンが止める。しかし、ガーストはその表情を変えず、怒りをアレンにぶつけている。

「俺自身はお前と戦う事に対して納得が出来ていない……そして、信用も出来てねぇんだよ……!アレン、俺はお前の邪魔をするとか、そういうのはする気はない。協力関係だからな。」

次第に、ガーストの感情が露になっていく。歯を食い縛り、怒りの表情が露呈していく。

「でもな!もし今度味方を巻き込むような事をすればただじゃ置かねぇことは分かっとけよ……!!」

と言った時、ガーストは胸倉を離した。まるで、アレンを振り払うかのように、振舞う。その際に反動で、後方に三歩後ずさりした。

「行こう、プレーン。少し基地内を回ろうぜ。」

と良いながらガーストは基地を移動する。プレーンは静かに、アレンとココットに会釈をし、ガーストに付いて行った。

 かつての友人同士は、アレンが引き起こした出来事がきっかけとなり、その友情に亀裂が走ってしまっていたのだ。ガーストは、レイの前で怒る事はしなかった。だが互いに知人同士である場では話は別だ。怒りをそのまま、本人にぶつける事が出来る。人間の感情とは、第三者が居ない環境で本性を出す事が出来るのだ。

 

 

 

 夕刻時になった。橙色に染まる空が幻想的な景色を映し出す時間。その時間、レイは少し、一人で移動していた。基地の中を見学しているレイ。このような状況でない限り、国連の基地と言った場所を見る事等無い為、彼にとっては貴重な光景となっているのだ。

 そこに置かれているMS、ヴァントガンダム。その機体はオペレーション・デモリッション・クリエイションの時に交戦したことがある。と言っても、彼は攻撃の意思は無かったのだが。

 それらと今度の戦いで共闘するという事は、彼にとってどこか、不思議な気分だったのだ。

「レイ……?」

その時、彼に声を掛ける、一人の男性の姿があった。その方向を振り返る、レイ。

「あ……えと……え……!?」

見覚えのある、その影。やがて姿を現していく影の正体。

 それは、ジュナスだった。父、ジュナスがこの場に居たのである。何という、偶然だろうか。

「やっぱり!レイじゃないか!どうしてこんな所に!?」

偶然だった。まさか、このような場所で父親に再会するなど思っても見なかったからだ。

「父さん!父さんなんだね!こんな所で会うなんて!」

レイは大きく喜んだ。このような場所で父親に会うとは思いもしなかった為である。このような偶然は、大いに喜ぶべきだ。彼は多くの経験をしている中で、初めての場所である、オーストラリア、ダーウィンでジュナスに再会出来た。なんという、運命だろうか。

「父さんこそ、どうして!?」

早速、理由を聞く、レイ。

「いや、ちょっと取材でね。特別に立ち入らせて貰ってるんだよ。けどまさかレイに会うとは思わなかったな……」

思えばモントリオールでフォリアに誘拐された時から突然行方をくらました為、恐らく相当心配した事だろう。その中で、まさかここで会える事は奇跡に近い。

「お前は、色々とあったんだろ。」

その時、ジュナスはまるでレイの様子を見透かすような表情を浮かべた。実際、彼はレイの状況を知っている。それ故に。

「……うん。」

それを信じ、レイは静かに頷いた。

「どうやら、色々と訳アリらしい。俺はあんまりお前の事を詮索しないようにするよ。」

父、ジュナスはまるでレイに気を遣うような姿勢を見せた。このような場所にレイが居るという事は、恐らく何かがあるのだろうと、察した為だ。

「それにさ、俺も次に仕事が残ってる。だからお前にあんまり構ってやれないんだ、悪い。」

と、ジュナスは申し訳なさそうな表情を浮かべた。彼は戦場ジャーナリストだ。世界各地が彼にとっての職場のようなものであり、それ故にジュナスは動かなければならない。

「あの、父さん――」

この時、レイは一つの事を聞こうとしていた。

 それは、ヒパック村の事。ヒパック村でシャルアやゼルに会った事。その事を言おうとするのだが――

「多分、お前は母さんの事が心配なんだろう。大丈夫だ。母さんの事は心配するな。お前はお前の事をしたら良い。じゃあな。」

と、走り去ってしまった。余程、急いでいたのだろう。そのタイミングで父親に会うなど、思っても見なかった。

 余りに僅かな時間。それは彼に寂しさを与える。だが僅かな時間とはいえ、父親に会えた事は何よりの喜びと言えた。

(そう言えば、お姉ちゃんはどうしているんだろう。オーストラリアで留学って聞いているけど……)

ふと、彼は姉であるリリアの事を思い出した。彼女は留学を四月からしている筈だ。しかし今の状況では、どのようになっているのかは分からない。それが、心配になってはいた。

 連絡を取りたい気持ちはあったが、自分がもしオーストラリアにいると分かった時、彼女は恐らく仰天するだろう。そうなれば、厄介な事になる。その為、レイは敢えて連絡を取らないでいたのだ。

 しかし、この地は戦場になる事を考えると、一人、心配だったのである。

 

 

 

やがて夜になった。ジャンヌ達はワーゲインに誘導され、彼等は豪勢なホテルに宿泊することになった。もちろんセイントバードチームも手厚い歓迎を受け、夕食も豪華と呼べる物を食べさせて貰えていた。天井にはシャンデリアがあり、他にも、装飾品が数多く並べられているその空間で、大勢で食事をすることになった。

その部屋は警備も厳重だった。数多くのガードマンやボディガードが、ドアや窓など、あらゆる場所に配備されていた。と言うのも、その部屋には豪州の一部代表である、ギア・ジェッパー本人が居た為である。彼の周辺にいる人間は皆、彼がよく知る信頼できる人物ばかりで、彼自身が知らない人間は誰一人としていない。皆ギアに忠誠を尽くしており、信頼関係が成り立っているのだ。

つまり、仮にボディガードが何かのスパイだったとして、ギアを殺そうとしてもそれは不可能に近いのだ。彼に近付く不審者は容赦なく抹殺される。そういう意味でも、この環境は一重に安全と言えた。ここにいる皆は、安心して食事を楽しむことが出来るのである。

また、司令官のワーゲインや副官のローフもこの部屋にいた。つまり、ジャンヌやセイントバードチームのメンバーは、相当優遇されている立場にあったのだ。彼等は来賓として、手厚い歓迎を受けていたのである。

「ようこそ諸君。私は平和国豪州地区の一部代表を務めるギア・ジェッパーです。諸君らは言うなら希望。だからこそ、優遇させてもらいました。遠慮なく、ゆっくりとして下さい。」

周りに多数のガードマンに囲まれたギアは、その場にいた全員に対して言った。彼はメディアに取り上げられる人物と言う事もあり、レイは実物を目の当たりにして驚いている様子だった。隣にいたリルムも、呆然とギアを見ている。

その直後、テーブルの上に、食事が一人ずつ配られた。いずれも豪勢で、高級そうな料理ばかりが並んでいる。

全てが並べられた時、食事の時間が始まり、全員黙々と食事を始めた。ただ一人、状況を分かっていないメナンがいたが、彼女は周りにいた人間に何度も声をかけるも、無視されて困惑していた様子だった。彼女から遠く離れた場所にレイやリルムがいた為、喋りたくても喋れない状態が続いた。

 

 

 

食事が終わり、彼等は用意された部屋へ向かった。この後は基本的にホテル内では自由行動で、リルムは仲の良いアイリィと同じ部屋へ遊びに行った。レイは一人部屋で静かに過ごすことにした。ガーストやプレーンは相変わらず同じ部屋にいた。これはアレンとココットにも言える話である。

その他にもスバキはエレンと同じ部屋に、エリィは一人で、ネルソンはミシェと夜酒を楽しんでいた。メナンはリルムと共に行動していた。ウィリアも一人、部屋でリハビリに励んでおり、スラッグとインクは別々の部屋で過ごした。その他の整備士達は仲の良い者同士が部屋でトランプや小さな賭博などをして有意義な時間を過ごしていた。

ヴァイダーガンダムが襲撃する……それまでの一時の時間。短い時間ではあるが、それでも決戦を控えている彼等からすれば、この時間は非常に大切な時間でもある。もしかすれば、今度の戦いで戦死してしまう可能性さえあるのだから。

このように、彼等が休憩している最中、ジャンヌはギアと再び会話をしていた。彼女を呼び出したのはギア本人であった為である。

「そう言えば、昼にも言っていたが、セイントバードチーム……だったか、そのチームの中にいる人間が、あのガンダムを操れるから、協力して貰ったそうだね。」

「ええ、ヴァイダーガンダムに対抗できる兵器を操る力を持っている少年はいます。彼の力は必要です。」

それこそ、レイの事である。

「率直な疑問なのだが、その、ツヴァイガンダムのパイロットに、アレン・レインドは乗せられないのかい?それだけ重要なものならば、彼に任せた方が良いのでは?まあ、パイロットの顔を見た事が無いから偉そうな言葉は言えないが。」

「いえ……あの機体はそのパイロットにしか扱う事が出来ないのです。あの機体はバイオメトリックスを搭載しており、搭乗者の網膜で認識し、起動するようになっています。ですからアレンでもあのMSは使用することができません。例えプラズマカノンを引くだけの役割だったとしても……」

ツヴァイガンダムはバイオメトリックスを搭載しており、レイ以外の人間に扱う事が出来ない。すると、ギアはプラズマカノンという言葉を聞いてふと、何か思い出したような表情を浮かべた。

「しかし、そのプラズマカノン、ジンクから聞いたがそんなに長い時間の射出は難しいのでは?あくまでもビームエネルギーとの両立が大事なんだから。いくらなんでもビームエネルギーをプラズマエネルギーに変えるのは無理があると思うが。」

ギアは、MSに関して詳しい。このツヴァイの情報も、ジンクから教えて貰ったものだそうだ。

「その様子ですとお父様から聞かれたそうですわね。プラズマカノンに関しては心配はいりません。以前アステル家が独自に開発したプラズマエネルギー供給マシーンを、お父様経由でそちらにお送りさせて貰って居る筈ですが……」

「……ああ、あれか。使い物にならないと思って放置していたが……まさかそれが役立つ時が来るとは。」

彼女等が言う、プラズマエネルギー供給マシーン。今回それはツヴァイのプラズマカノンの長時間放出を手助けする為に必要不可欠な存在になるという。これが一体どういう効果を見せるのか……彼等は、期待していた。そしてギアはパイロットの話に話題を戻した。

「話を戻すが……うん、ジャンヌ嬢の言う通りだな。プラズマカノンを持った切り札はそのパイロットに賭けるまでだね。」

ギアはうんうんと頷きながら言った。その後で、再び口を開く。

「まあ、そもそも頭を固くして優秀な人間ばかりに固執するなんて馬鹿馬鹿しいしね。政治とかでもそうだ。頭の固い人間に、政治は務まらないものさ。もっと頭の柔らかく、寛容性のある人間が世の中には必要なのだと、私は思うんだがね。」

パイロットの話から一転、政治の話をし始めたギア。突然の話題転換にジャンヌは少々焦りを覚えるが、どうにか対応する。

「確かに……それは一理ありますわね。」

「頭が固く、一つのことしか出来ない政治ではダメだってことだね。今の議長が良い例だ。戦ってばかりで、戦いこそが平和を作るものだと考えている。私も正直言うのは嫌なのだが……チャール・ポレク議長も正直、頭の固い人間のように思える。彼の平和主義は悪くはないのだが、あれはあれで固すぎた。決して、批判をする訳ではないのだが……ね。新生連邦の傍若無人に対してただ固く待つと言うのはただ被害者を広げるだけだと思うのだが……。」

ジャンヌはチャールの事を信頼していた。だから、今のギアの台詞は彼女にとって不満なものがあった。しかしギアの言葉は決して間違っているわけではない。つまり彼は今のギルスにしても、チャールにしても柔軟性がなさすぎると言いたいのだ。

あくまでも国連自身からは一切攻撃をしない平和主義を唱えるチャールと、戦いによって平和を得ようとしているギルス。彼の言うように、両者共極端な考えに至ってしまっている。

「何事も柔軟に……そうだね、私がもし代表になるのなら、バランスを良くするね。犠牲者を増やさない最善の方法でもある……私は思う。」

ギアの台詞はジャンヌにとって興味深いものがあった。チャールの平和主義も、襲撃されたりするまでは何もしないため、被害者を増やした状態で反撃に出ている。一方のギルスは襲撃される前に襲撃するので、結局その為に被害者が出ている。実際のところ、ギルスが議長になってから被害者は増したのだが、数字的にはチャールが議長を務めていた頃よりもそれ程大差はなかったのである。

「今の平和国のやり方は私も納得できないな。このまま戦争が激しくなれば被害者は増える一方だ。しかし今回の作戦に関しては正しいと思う。何せ新生連邦がロンドンを壊滅させた例のマシーンを使ってくるのだから、それを阻止する為に攻撃するならば被害を最小限に食い止められると思えるからね。

今回の作戦……期待しているよ。ジャンヌ。」

「ええ、お任せ下さい。必ず……成功させます。しかし、難しいものですわね。」

「何が、だい?」

「平和という物です。ただ単に平和に固執しても結局争いを生み出す者がいる限り、被害者は出るばかり。けれども争いを仕掛けたところでそれは平和とは言えず、戦火は拡大するばかり。純粋な平和……それは一体何なのでしょうか。」

「それは、今後の人類の課題かも知れないね。」

そう言うと、ギアはそっと立ち上がり、静かに欠伸を始めた。呑気そうに見えたが、これでも彼は今回の件について必死だったのだ。

「いやあ、こんな話に付き合わせてすまない。是非、休んで行ってくれ。君も今回重要な人間の一人だからね。」

「いえ、そんな……貴方のお話はどこか引き付けるものがありますから、興味を持って聞くことが出来ましたわ。」

「そう言ってくれると、嬉しいものだ。では、おやすみ。また明日。」

「ええ、おやすみなさい……。」

そう言ってジャンヌは部屋から出た。その際、彼女は感じていた。彼が議長に就任するべきではないのかと。彼の場合は柔軟な政治を求めている。チャールのように平和主義に固執するわけでもない。だから戦う者がいればそれを阻止する為にやむを得なく、それに対して戦う。が、常に戦い続ける訳ではない。つまりこの方法ならば、被害者を大幅に減らすことが出来るのではないかと、彼女は、静かに考えていた。

 

 

 

その頃、レイはホテルの一室で眠りに就いていた。と言っても就寝していた訳ではなく、疲れていたので仮眠をとっていたのだ。しかしこの際にも、彼はまたあの夢を見ることになる。荒廃した町の中に一人彼はいて、背後から突然銃声が鳴り響き、そこに行けば何故か少女が死んでおり、その直後に謎の男に彼も殺されてしまうと言う、奇妙な夢。

それは以前から何度も見ており、未だに謎が多かった。一時期はそんなに見なかったのだが、ダーウィンに行くことになってからは何度もこの夢を再び見るようになったのだ。

「まただ……またあの夢……どうしてなのかな。あの夢ばかり見るなんて……」

無論、彼に理由が分かるはずがない。何故同じ夢ばかり見るのか、理解が出来ない。レイは少々苛立ちを覚えていた。自分が死ぬ前触れなのか……夢の内容からしてそれすらも連想してしまう。が、今までその夢を見ても死ぬ事はなかった。ただ、気味が悪いだけなのだ。  

夕刻時に、父親に再会したという喜びがあったのにも関わらず、何故このような夢を見るのか?奇妙で仕方がない。その鬱屈した出来事を忘れようと、レイは気分を変える為に少しシャワーを浴びる事にした。

 

シャァァァ

 

気分を変える為に浴びたシャワーは心地良かった。そして、先程の奇妙な悪夢を忘れさせてくれるようだった。それとは別に、レイは今度の戦いの事を考えていた。自分が要となる今度の戦いは、それだけ責任も重い。

(そうだ……とにかく……体調管理だけはしておかないと。僕が重要な位置になるんだったら尚更……)

奇妙な緊張が彼を襲った。昼間に見せたジャンヌの表情が、忘れられない様子のレイ。それが彼を返って緊張に追い遣るのだ。このままではいけないと思い、自分をリラックスさせようとする為、そっと深呼吸をした。

 

                 サアアアアアッ

 

その時だった。彼がシャワーを浴びている時、突如カーテンが開かれた。

焦眉の出来事にレイは驚く。そして次の瞬間。鋭く尖って光る凶器がレイに襲い掛かって来た。

「うわっ!?」

一瞬、何が起きたのか把握出来なかったが、体だけはそれを避けていた。そして次に彼を襲った〝何か〟の方向を見ると、奇妙な仮面をつけた人間がそこにいた。

「え……」

自分以外に入れる筈がないのに、何故別の人間がいるのか。更に、その人間はレイを殺そうとしていた。理解が出来ないこの状況。しかし、今は命を守るしか出来ない。無我夢中でその場から逃げ出そうとするが彼は仮面をつけた人間に捕まってしまい、バスタブ越しに倒れてしまった。その直後、臥位姿勢になったレイを、仮面を付けた人間は襲った。左手は首を絞め、右手にはナイフを所持している。レイは抵抗する為に相手の手の動きを止めた。しかし首を絞められているので苦しい。彼は微かな喘ぎ声を上げる。

「あ……ぅぁっ……」

余りに突然過ぎる出来事。それは彼を命の危険に誘った。身動きが取れない状況で、レイはただ苦しみ続ける。しかし気を緩めば大型のサバイナルナイフが自分を襲ってくる。それはレイを死に追い遣るのに十分な殺傷能力を秘めてると推測出来た。

レイは、ただ抵抗しか出来ない。左手は相手の持つナイフを防ぐ為に、右手は首を絞めようとする相手に対して抵抗する為に、彼は必死だった。が、首を絞められている為か、力が入らない。徐々にサバイバルナイフは彼の首元に近付いてくる。

しかしその時、彼は足が自由に動かせることに気付いた。相手は自分よりも身長が大きかった為、相手の腹部に対して思い切り蹴りを食らわせた。

「ッ!」

蹴った瞬間、声が聞こえた。それも男の低い声ではなく、程良く高い女の声が。しかし命の危機を感じているレイにそれを察する時間はなかった。彼は無我夢中で部屋の入口へ向かった。一刻も早く、ここから脱出する必要があったのだ。しかし今の自分の姿は裸だった為、そのまま外には出られないと分かっていた彼は、幸いかけてあったバスローブを素早くとって、身に纏っていた。そのまま入口に行き、部屋からの脱出を試みる。

が、何故か開かないのだ。いくら扉を引いても、全く動かない。

「なんで……どうして!?」

何度も動かしても無駄だった。困惑するレイ。その間にも、謎の仮面をつけた女は迫って来る。最悪な事に、彼が混乱している時に女はレイがいた浴室から現れたのだった。

その姿を見て恐怖を覚えるレイ。しかし、彼はゴクリと唾を飲み、はっきりと言った。

「な……何ですか貴方は!突然……こんな……」

焦りを感じるレイ。本能的な、危機を感じ取っている。だが、女は躊躇することなく近寄ってくる。無言のまま、表情の分からない仮面をつけた状態で、静かに。

今のレイは無防備だ。武器も何も持っていない。武器を持つには、この女が立っている場所を強行突破する必要がある。が、それは無事で通り抜けられるとは考えにくかった。

迫ってくる恐怖。それに対抗するには、彼も武器を持つしかないのだ。

背後は開かない扉。前には仮面をつけ、大型のサバイバルナイフを持った女。

絶望的なこの状況でレイは強行突破を決意した。防音設備が充実しているこの部屋では助けを呼んでも無駄だ。この部屋には窓があったが、逃げ出そうにもこの部屋が高所にある為、危険過ぎて、逃げられない。故に、武器をとって優位に立てるようにする必要があったのだ。彼の持つ護身用の銃ならば、女のサバイバルナイフよりも強力で、殺傷能力もある。自分の命を守る為、レイは走った。素早い動きで女の横を通ろうとする。

が、仮面の女はすかさず擦れ違い際に、彼の右足を切り裂いた。

「あああっ!」

激痛がレイを襲った。幸い深くは切られていなかったが、それでも痛みを感じることに変わりはない。足からは鮮血が滴る。が、彼は自身の武器のあるエリアに到達できたのだ。   

足を切られ、よろよろと動きながらもすぐさま自分の武器を探す為に、急いでテーブルの中を捜した。

しかし、問題が起きた。彼の銃が無くなっていたのだ。

「そ、そんな……?」

すると、女がサバイバルナイフとは別にポケットから銃を取り出した。その銃には見覚えがあった。と言うのも、それはレイの武器だったからだ。

「そんな!僕の銃を……?」

いつの間にか、女は彼の物を奪っていたのだ。これでレイは対抗する手段が無くなった。絶体絶命の状況の中、足の痛みがレイを襲う。

流れる血を止めるため、手で足を押さえる。その間にも、女は近付いてくる。右手にナイフを、左手に銃を構えながら。この女、何が気味悪いのかと言えば、何も喋らない事だった。仮面を付けているだけで無口なのだ。

強いて喋ったとすれば、レイがこの女の腹部を思い切り蹴った際に発した感嘆の声だけである。しかしそれ以外は何も喋っていないので、慌てていたレイにはこの女の性別が男性か女性かなど、分からなかった。絶体絶命の状況……迫ってくる死。何のために彼が狙われ、殺されなければならないのか。レイは突然の出来事に困惑続きだった。

と、その時だった。彼の眼前に鏡が落ちていたのだ。元々部屋にあった鏡で、何故か床に落ちていたのだが、それを見たレイは迷うことなく、急いでそれを手に取り、相手の顔面目掛けて思い切り投げた。幸いそれは相手の顔面に直撃し、仮面はそのまま取れた。すると、レイはその仮面をしていた女の正体を見て目を疑った。

「フォリア……さん……?」

「フフ……久しぶりね、レイ。バレちゃったら仕方ないわね。」

仮面の女の正体はフォリアだった。自分を襲ってきた意外な正体を知って、彼は動揺する。それと同時に、足の激しい痛みを思い出し、再び足を押さえた。

「うぅっ!」

「足を攻撃しておけば身動きとるのに苦労するでしょう?だから切ったのよ。」

「どうして……こんな……こんなことを?」

妖しい笑みを浮かべ、レイを見下すようにフォリアは言った。

「簡単な話。貴方が今度の作戦のキーパーソンだから。」

「え……?どうして……それを……?」

彼女には既に国連側が行おうとしている作戦が分かっていた。無論、その中にレイがいたと言う事も。そして以前にヴァイダーガンダムの脚部を破壊した破壊力のあるプラズマカノンの存在も分かっていた。つまり、数日前の彼女の推理は当たっていたことになる。

「私の推測、正しかったみたい。見えたのよ。数日前にダーウィンに来るセイントバードを。これは何かがあると思って、推測して行動した結果……案の定、貴方がいたと言う訳……。」

「それで……僕を殺す為に……うぅっ……!」

足が痛む。レイはそれを押さえつけ、痛みで片目を瞑っている状態でフォリアを見る。一方のフォリアは微笑しながらレイの顔にぐいと近付いた。

「それにしても、さっきの蹴りはとても痛かったわ……。可愛い顔して強いのね。流石は男の子と言うべきか……でも、残念、逃げられなかったわね、外には。」

殺すとすれば、すぐにでも殺す筈。なのに、何故か彼女は焦らした。その証拠に、彼の首元にナイフを突き付けているのだ。迂闊に動けば首を切り裂かれ兼ねない。危険を感じたレイはその場を動かず、じっと様子を伺った。

「どうしてだと思う?」

「どうして……ですか……」

「簡単よ。私があらかじめ細工していたから。カードキーになっていたわね。それを内側から開かないようにするように書き換えるだけで貴方はもう逃げられない。ここは高所だから逃げ出そうにもあの窓から飛び降りるしかない。さぁて、肝心なカードの場所はさあどこへやら。」

恐らく彼女がカードキーを持っているに違いないと、彼は感付いていた。だが迂闊に言葉を発することが出来ないレイは、足の痛みと戦いつつじっと堪える。

「所詮、パイロット能力がいくら高かろうが……生身の人間では貴方はただ顔の綺麗な男の子。それだけ……軍人でもない貴方では、生身の私を倒すなんて無理。どうせ生身では何もできないだろうから、ゆっくりと傷つけてあげる……あぁ、傷ついている貴方を見るとぞくぞくする……もっとその声を聞かせて欲しい……」

サディスティックな性格のフォリアは、無抵抗な彼を一気に殺すのではなく、苦しませつつ殺すと言う。

「そうだわ、その前に……」

すると、フォリアはレイの肩を掴み、そのまま立ち上がらせた――

 

チュッ

 

あろう事か、突如、レイに対して接吻を始めたのだ。

「んンっ!?」

あまりに突然な出来事に、レイは抵抗する暇もなく、されるがまま口付けをされた。その間にフォリアは彼が逃げられないように、しっかりと抱き締めている。彼女の接吻は非常に上手で、レイは足の痛みを忘れるほどの心地良さを覚えていた。舌を絡ませ、官能的な動きでレイを離さない。

 彼自身、接吻は何度か経験はあった。初めては日本での、マサアキとの接吻。それからは様々な人と接吻を交わした。だが、これ程濃厚な接吻は、彼自身初めてだったのである。

(だ……ダメだ……何も考えられない……)

この時、フォリアは舌を絡ませている際に、小さなカプセルのようなものをレイの口内に移し、飲み込ませた。

やがて接吻が終わった後、レイは呆然としてしまった。違和感を覚えてはいるも、一方で心地良さを感じてしまった為である。

「フフ……」

「ふぁぁ……あ……うぅ……?」

理解の出来ない彼女の行動。何故接吻を交わしたのか……その答えは、数秒後彼の身体の異変で示される。

「あぁ……!?」

「早速、効果が現れたわね。フフ、可愛い声……もっと聞きたい……その苦しみに満ちて、尚且つ可愛らしい貴方の声……」

レイは、手足が激しく痺れていた。それが、フォリアが接吻を交わした理由だった。フォリアはあらかじめ自らの口内に小型のカプセルを入れておき、それをレイに飲ませることで彼女の行動は成功した。そのカプセルは特殊な痺れ薬で、飲み込んだ人間は手足が麻痺してしまい、体の自由が利かなくなってしまうという。その上即効性で、効き目が非常に早い。

そしてフォリアはレイの肩を、ポンと押した。手足をまともに動かせない彼は臥位姿勢のまま倒れてしまい、フォリアはその上を馬乗る状態になった。抵抗するにも手足が痺れて動けず、妙な感覚がレイを更に苦しめた。

「はぁっ……はぁっ……ああ……」

「相変わらず良い声で喘ぐのね……フフ、これで何も出来ない筈。苦しいでしょう?でも残念。もっと苦しませてあげるから……」

「こ、こんな……ぁぅ……」

命の危機が彼を襲う。フォリアの突然の接吻による手足の麻痺……レイはただでさえ、足を切り裂かれていて痛みを伴っていたのに、更に追い打ちをかけられた。今のレイは全く抵抗も何もできない。彼女の思い通りに殺すことも、苦しめることも出来る。

「自由が利かないって辛いわよね、レイ。でも私は貴方を思い通りに出来る。勿論殺す事も出来るケド……貴方を苦しめたりする事は勿論、その苦しむ顔を私は観賞する事が出来る。この空間は、私と貴方だけの空間……せっかく貴方を物に出来たのに、簡単に殺すのも惜しいわ……。」

するとフォリアはレイの身体に触れ、それを伝うように触り始めた。彼は身体を動かす事は出来ないが、触られている感覚はあった為、彼女の触れた手によってびくびくと身体を震わせていた。

「んあ……う……」

「可愛くて憎いレイ……でもそんな貴方は、今は私だけのもの……簡単に殺すのは嫌。もっとね、貴方のその綺麗な顔が見ていたい。顔だけじゃない。その綺麗な眼、鼻、口、手、お腹、足……全てを見たい……そして……」

すると、フォリアは先程彼女が傷をつけた右足の傷口に向け、自身の爪を立て、思い切りそれを傷口に挿入した――

「ああああああああああああああっ!!!」

傷口を深く弄られた為、レイは激痛を訴えた。レイの悲鳴が部屋に響く。

「素敵ね……良い声だわッ!」

フォリアはそれでもレイの右足の傷口を弄る事を止めない。動かしたくても動かせない自身の身体……レイはその激痛に耐えられず、ただ声を上げる事しか出来ない。

「あ……あ……あああああああ!!!」

やがてフォリアは傷口を弄るのを止める。彼女の右手はレイの血で赤く染まっていた。

「分かる?これが貴方の血……綺麗な血ね……」

(こ……この人……)

異常に見えたフォリアの言動全てがレイにとって気味悪く感じられた。抵抗したくても動けない……いつ殺されるのかが分からない。レイはそんな死と隣り合わせの状況に、苦悩していた。

「その苦痛に悶える表情も良い……やっぱり、貴方は最高よ、レイ。好きだわ……貴方。」

そう言ってフォリアは血のついた手を舐め始めた。まるで、レイを挑発しているかのように。

(……甘い……?)

この時、フォリアは妙な感覚に陥った。彼の血を舐めた時、甘さを味覚が感じ取ったのである。

「どうして……こんな……」

彼女は何故潔く殺さず、苦しませるのか……レイは聞いた。

「貴方が好きであり、尚かつ憎いからよ。でもそうね……そろそろさようならをするべきかしら。ここで貴方を殺せば、新生連邦の勝ちは決まったようなもの。」

そう言ったフォリアの言葉を聞き、レイの表情は変化した。〝今度こそ殺されるのではないか〟と、感じ始めた。

「良いわ……その顔……フフ、やっぱり貴方は可愛い……でも……憎い……!」

すると、フォリアは何を思ったのか、急にレイの首を両手で絞め始めた。ナイフで切り裂くのではなく、絞殺する気だったのだ。その姿は、彼女のレイに対する憎しみが露骨に表れているようだった。

 以前も同様の事を、輸送機内でした事があった。しかし、その時はあくまでも加減をしていたに過ぎない。だが今回は違う、本気だ。本気でレイを殺そうとしている。

 力の入れ方が違う。爪を立て、両前腕部の血管が浮き出て、躊躇いがない。全力でレイを絞殺しようとしている。

「う……ぁ……」

「憎くて……憎くて……!けれども顔が可愛い貴方が愛しいの……!そんな可愛い貴方が今、私によって傷付けられて苦しんでいる!それにエクスタシーを感じるのよ!訳が分からないこの気持ち、貴方に理解出来て!?」

抵抗出来ないまま、レイは意識が朦朧としていた。気の狂ったように憎しみをぶつけ、容赦なく首を絞め続けるフォリアの姿が、段々見えなくなって来た。このまま自分は何も出来ずに死を迎えるのか……と、彼は思った。思えば、もしかすれば奇妙な例の夢はこれを示唆していたのかも知れない。想像しなかった自分の死。絶望だけが、今のレイを祝福してくれているようだった。

 

 

―――――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――

 

 

その時だった。眼を疑うような光景が広がったのである。

彼の中で鼓動音が聞こえたと同時に、レイの身体が突如、碧色に輝き始めたのだ。俄に信じられない光景が、目の前で広がっている。不思議な現象だ。

そしてその光は、フォリアを包み込み、彼女は首を絞めるのを止め、頭を抱え出した。

「あああああっ!何、これは!?ダメ……何も出来ないっ……!」

光に包まれたフォリアはそのまま戦意を失い、気を失った。一方のレイは目を細めており、先程以上に苦しそうだった。

「な……何……?今のは……何……なの……?うう……!」

今までに経験したことのない、新たな感覚。その光は、まるでアレンやジャンヌやエファンが放つアドバンスドタイプ独特の光である〝イズゥムルート〟に酷似していた。しかしレイはあくまでもシンギュラルタイプである。シンギュラルタイプである彼が、そのような力を持っている筈がない。

だが現に、彼は光を放ったのだ。効能もアドバンスドタイプのイズゥムルートに酷似している。しかし、レイはアレン達と違って、今にも倒れそうだったのだ。アレン達がこの光を放った時は、自身への負担は頭痛程度で済む。しかしレイの場合は得体の知れない苦しみが襲いかかり、意識が朦朧としていた。

やがて、彼は気を失った。今この部屋では二人の人間が謎の光によって倒れてしまっていたのだった。

 

 

 

時間が流れた。相変わらずフォリアとレイは動く様子はない。しかし、突然フォリアが目を覚ましたのだ。だが頭痛を訴え、起きるのも辛そうな様子だった。

「うぅ……ハ、私は気を失っていた……?ん……?」

痛みを堪え、彼女の眼に映った物……それは気を失っているレイだった。完全に目を瞑っており、動く様子もない。それが彼女にとって絶好のチャンスでもあった。

「全く、焦らすんじゃなかったわね。この子を苦しむ姿を見るのもいいけど……やっぱり仕事は仕事。もっと早く殺しておけばよかった。さて……これで……仕留めてあげる……。」

あくまでも、敵の要を抹殺することが彼女の目的。彼女は、先程までの自身の行動を反省した。今度こそ、レイを殺すことで目的が達成できる。もっと早く殺せば良かった……しかし、今は彼女にとって絶好の機会だ。フォリアは笑みを浮かべた後、静かに銃を構え、彼の頭部に向けて引き金を引こうとした。

 

バンッ

 

だが、その時だった。突如、開かない筈の扉が破壊されたのだ。あまりに突然の出来事に、フォリアは振り向く。そこには、アレンとジャンヌの姿があった。

「レイ!?」

何故彼等がここにいたのかは分からなかったが、フォリアは思いもしなかった事態に動揺した。そして、アレンに銃を向けられてしまう。

「動くな!銃を離せ!武器を全部出せ!」

レイを殺そうとしている姿を目撃された為、アレンは必死にフォリアに言った。何らかの抵抗をすれば撃たれると悟った彼女は大人しくアレンの言う事に従い、両手を挙げた。

「どうやって侵入した!?」

「フフ……さあ、どうしてでしょう?それよりもこの状況では何も出来ない……か。仕方が無いわね……」

 

バッ

 

すると、フォリアは一瞬の隙を突いて閃光弾を投げた。余りの眩しさに目を開けていられなかったアレン達。そして彼女はその一瞬の隙に窓から逃げ出したのだ。だが高所である為、そのまま落ちていくしかないように思われたが、彼女は腕に隠し持っていた鍵爪ロープをホテルの外壁に引っ掛け、そのまま降りて行った。

閃光弾の光が消えた頃、当然フォリアの姿は既になかった。が、彼等にとって今大事なのはレイの命である。フォリアはレイが生きていると言った。その言葉を信じ、アレンは倒れているレイを必死に起こす。その傍で、ジャンヌは彼の生死を確認する為に頸部の動脈を測った。それは正常に働いており、彼が生きていることが確認できた。

「大丈夫です、生きていますわ。」

「そうか、生きているなら良かった……けど……レイ、起きろ!しっかりするんだ!」

必死に揺さぶられ、レイはやがて目を覚ました。うっすらと目を開け、周りがぼんやりと映った。やがて徐々に周りの光景が見えてくるようになる。そこで彼が目にしたアレンの姿を見て、レイの目が、見開かれた。

「アレン……さん……?どうして……?」

少女が弱ったような表情を浮かべる、レイ。

「ジャンヌがお前を呼び出したんだ。けど一時間経っても来ないから様子を見に行ったら鍵が掛ってて……何かがあると思ってマスターキーを使った。そしたらお前を殺そうとしていた女がいて……そしてお前が倒れてるものだからさ。」

彼は首を絞められている最中に突然光を放ち、彼を殺そうとしていたフォリアの戦意を失わせ、彼も気を失った。その後彼が起きれば、何故目の前にアレンがいる……今のレイには当然理解が出来る筈がなかった。

「具合はどうだ。お前に何らかの支障があったら困るんだ……」

アレンの事を嫌っている筈なのに、どうしてだろうか。彼の言葉が、どこか染みる。今の彼から、互いに出会った頃のような優しさを感じているが為なのか。

「……大丈夫ですよ。足を怪我したぐらいで……」

そう言った直後、ジャンヌが彼の足に包帯を巻いた。既に出血は止まっていたが、念の為に彼女が手当てをしていたのだ。

「これでひとまずは、大丈夫ですわ。しかし、何故、レイが狙われたのでしょうか。」

レイが狙われる理由が、彼等には理解出来なかった。もし、狙うのならギア代表だと誰もが思っていたからだ。まさか敵に今回の要がレイだと悟られたわけではない……二人はそう思っていた。

しかし現実は違い、彼が今回の主要人物だからこそ襲われ、殺されかけた。レイはこの時、この真実を言わなければならないと思っていた。そうすれば警戒が強まり、殺される可能性が減ると思ったからだ。

「あの、僕を襲った人は僕が今度の作戦の要と言う事を知っていました。だから僕を襲って来たんです。僕は聞きました。間違いありません。」

「それは、本当なのか!?」

「はい……。」

この言葉が、アレンとジャンヌに衝撃を与えた。平和国及びアステル家は、敵は狙いをギア代表ばかり狙ってくると思い、ギア代表の警備を万全にしていたのだ。しかしまさか、レイを狙ってくるなど予想もしなかった。レイがもし死んでいれば、代わりにツヴァイを扱う事の出来る人間は存在しなくなる。つまり、今回の作戦は失敗に終わる可能性が高いと、言える。

「そんな……事が……しかし何で相手もお前も倒れていたんだ?何故か開かない扉に、降りれば高所の窓……お前が逃げられる場所はなかったのに。」

レイはこの次に、自身に起きた事を話した。この状況から、話さざるを得なかったのである。

「信じられないかも知れませんが、僕が殺されそうになった時、僕自身が突然輝き始めたんです。そしたら相手の女性が気を失って……それと同時に僕も気を失って……」

そう言うしか、この状況を生き延びた理由が出来ないと感じた為にレイは言った。確かにその台詞は普通の人間が聞けば出鱈目に聞こえてしまう。しかし、言った相手はアレン。つまり、普通の人間ではないのだ。その直後、アレンは耳を疑った様子で、同時に目を震わせた。

「なんだって……?」

「信じられないと思いますけど……本当なんです!僕自身も、訳が分からなくて……」

人が光るという事等、有り得る筈がない。どういう事なのか。何故、先程そのような現象が起きたというのか。一体、何がどうなっている?レイは話している内に、自身の事に対して恐怖を抱くように、なっていた。

「その話、興味がありますわね。」

そこへ、冷静な様子でジャンヌは言った。焦りを感じるアレンと違い、冷静なジャンヌはレイにとって奇妙なギャップを感じていた。

ジャンヌが、レイに対して真剣な眼差しを向けている。恐らく、先の現象の事を聞きたいのだろう。しかし彼自身把握出来ていないその現象を、どう説明すれば良いのかなど、分かる筈がない。ただ、レイは困惑するばかり。

 だがその時、ジャンヌはレイに巻かれている包帯を見て、まるで思い出したかのように言った。

「レイ、少々痛みますが、お許しを。」

一体何をするのか――と、考えた時、ジャンヌは一本の針を取り出し、レイの指先に刺したのだ。一滴の水のような丸い血液が浮かび上がり、あろう事か、すかさずジャンヌはそれを舐めた。信じられない、光景だった。

「んっ……!?」

唐突にそうされたレイはこのジャンヌの行為に驚きを感じていた。アレンも同様で、目が見開いている。そしてジャンヌは次の一言を言った。

「甘い……ですわ。」

「甘い!?血が甘いって事?」

「ええ……そんな……まさか……貴方は……」

血が甘いという事は、どういう事か。光を放ち、その上で気を失い、更に血が甘いという妙な出来事が続いていた、レイ。これが指し示すものは、何か。そして、アレンとジャンヌが何故これ程にレイに関心を寄せるのか。まるで、彼等と同種族であるかのような、振舞い。

 

レイはアドバンスドタイプかも知れないという疑惑が浮上したのである。

 

「率直に伺います。貴方は、アドバンスドタイプなのですか……?」

疑問を抱くジャンヌ。それを聞き、レイはただ、困惑するばかり。アドバンスドタイプ?それは、何だ?

「分からない……分からないですよ!何ですか、それって……?聞いた事、無いです……」

当然だ。レイにとっては初めて聞く言葉。それは一体何なのか。彼等は何を言っているのか。全く、分からない。無知故に、恐怖を抱いている、レイ。

「まさか……いや、でも……もしお前が言った事が本当なら、お前は紛れもない、アドバンスドタイプ……」

更に、アレンも言った。一体何がどうなっているのか、理解が出来ないレイ。

「二人共、何を言ってるんですか!?アドバンスドタイプって何ですか!?え!?意味が分からない、分からないですよ!?」

自身に起きた事すらも分からないのに、聞き覚えのない言葉を羅列されれば困惑するのは分かっていた。故に、レイは戸惑い、悩む。自分は、何者だと言わんばかりに、苦悩している。

「レイ。もし、貴方が望むのならで構いません。貴方の血液を採取させて貰う事は可能でしょうか。それを研究機関に提出し、鑑識をして貰うのです。貴方自身の事にも繋がると、思いますわ。」

自分自身の事?その事をして、何になる?自分は何者?身体が光って、血が甘いと言われ、その上で二人に言われたのがアドバンスドタイプという、聞き覚えのない単語。

謎は深まるばかり。何故レイにアドバンスドタイプと同じ光を放つことが出来たのか。そして、何故レイの血液は甘いのか。これは、まるでアレン達と状況が酷似している。

 ヴァイダーガンダムとの決戦を前に、レイ自身に訪れた謎の現象は、彼を苦悩させる。フォリアによってやられた痺れが残った状態のまま、レイは、自身の謎について悩まなければならなかったのである。

「は、はい……うぅ……身体が痺れて……動けない……」

薬の影響が残る。随意的な動きが、塞がれている状態。両下肢に力を入れる事が出来ない、レイ。

「それより、まずは医務室に運ぶ方が先だろう。厄介な事をされたな……」

アレンがジャンヌに言った。それを聞き、頷くジャンヌ。

 

 その後、彼は彼等を頼り、医務室にて治療を受ける事になった。身体に入った痺れ薬の影響を一刻も早く取り除かなければならないからだ。

 しかしこの間、レイは自身の痺れの事とは違う事ばかりを考えていた。自身が一体、何者なのかについてである。

(僕は、何者……?)




第六十八話、投了。
レイとジャンヌが和解。それから決戦へ準備を進めて行くのだが、その中で、レイに隠された力が発揮された回。死を前にした時、生きたいという本能が、光を放つというのか。そして、その光はアレンやジャンヌが放つ光、“イズゥムルート”に酷似していた――という、話。
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