機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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ヴァイダーガンダムを撃破し、その絶対なる戦力に揺らぎが生じた新生連邦軍。その中で、宇宙に蠢く者達が遂に牙を剥くのだった――


第七十二話 デウスの猛攻、開始

 ダーウィンでの攻防戦から一週間が過ぎた頃。エファン・ドゥーリアはレイの殺害に失敗してから本部に戻り、新型のMSのチェックを行っていた。ヴァイダーガンダムという切り札が破壊されて困惑している新生連邦軍だったが、そのような事はこの男にとってはどうでも良いとされる事だった。

彼が今チェックしている新型というのは以前にヘリン・マディックに提供されたグランシェではなく、彼が独自に開発したMS、カーティウスであった。それは彼が現在使用しているアーヴァインに次ぐ試作MSで、アーステクノロジーにも協力させ、設計や開発は全て彼が行った機体である。合計三機がその場所にはあった。

カーティウス。型式番号EMX-02X。アーヴァインに次ぐ試作兵器。彼が開発に大きく関わっているMSの、二機目である。

「新型ですか……にしては今までの新生連邦のMSとはデザインが異なりますね。」

「ああ、モノアイタイプばかり……というのもな。たまには趣向を変えた。カメラアイならガンダムタイプとなんら変わらない。デュアルアイタイプだからな。」

カメラアイはガンダムタイプと同じ、デュアルタイプを使用している。しかし、口腔部に関してはガンダムタイプとはまるで異なっていた。

「この機体は常人には乗りこなせんよ。少なくとも、熟練のパイロットか強化モデルがこの機体のパイロットには必要だ。何せ、戦闘データにはお前の憎む、レイ・キレスの乗るツヴァイガンダムの戦闘データが入っている。あの機体を参考にして制作した。」

「ああ、あいつの……チッ……」

〝レイ〟という言葉を聞いた瞬間にクラリスは舌打ちをし、握り拳を作った。しかし彼の怒りはすぐに治まり、表情も怒りの表情をエファンの前に見せないようにして再びエファンに喋った。

「て、敵のデータを使う……流石ですね。少佐は、自らこの機体に乗られるのですか。」

側にいたクラリスは言う。相変わらず、彼はエファンに忠実であった。無論強化モデルとして生まれ変わった為である。

「一号機にはな。残りは熟練のパイロットか強化モデルにでも任せようか。」

「ではアーヴァインはどうなされるのですか?」

クラリスの言うように、エファンが最初に制作した大型MS、アーヴァインはまだ破壊されたわけではない。しかし、エファンはそれを無視してカーティウスに乗りこもうと言うのだ。

「お前が乗っても構わんし、他のパイロットに乗せても構わない。あれは最早古い。」

エファンが独自に開発したMSであるアーヴァインは、彼が言うように別に古い機体というわけではない。以前にクラリスがこの機体に乗った時、今までのMSとは違うとクラリスは言った。つまり、それほど優秀なMSであるにも関わらずエファンはアーヴァインを降りるのだという。

「あの強力な機体が古い……では、今度の新型は……?」

「ああ、カーティウスは強力だ。それなりに活躍はしてくれるだろう。」

二人がカーティウスを見て話をしていた時、突如彼等の前にある一人の人間が現れた。

「失礼します、自分はシーア・マックス少尉です。本日付で貴官の部隊に配備させていただくことになりました。よろしくお願いします。」

新たにエファンの部隊に入って来たのはシーアだった。以前にセイントバードがダーウィンへ向かう途中でエグゼマーに乗って苦しめた男が、今ここに現れたのである。

それ以後何らかの功績を挙げたのか、ドゥーリア隊に本部直々の命により、所属が命じられた。

「ほう、見たところそれ程実績を上げていなさそうにも見えるが、我が隊に配属されたという事は、それなりに腕はあると見えた。」

「ええ、私自身もMSに関しては非常に興味がありますからね。それに、グランシェのパイロットもやらせて頂いております。」

「ああ、テストパイロットはお前のことだったか。」

「はい。非常に使いやすく、強力なMSでしたよ。」

シーアはなぜか意味深な笑みを浮かべる。が、エファンはそれを軽く無視して話を進めていった。

「そうか、まあ頑張ってくれ。どれ程の腕前か気になるところだが……最新鋭機のパイロットに選ばれる辺り、実力者である事が分かる。」

「そう言っていただけるとありがたいです。あの、ドゥーリア少佐。そちらにある新型のMSを見せてもらっていいですか?」

急にシーアはカーティウスに興味を持った。彼自身はMSマニアである為、新しい機体には目がないのである。普通は自重するものだが、彼はそれすらしなかった。

「ああ、構わないが。」

「ありがとうございます。」

笑みを浮かべつつ、新型機であるカーティウスを見るシーア。そしてその異形な姿と独特のプロポーションに思わず感銘の溜息を漏らした。

「このMSは少佐自ら開発なされたのですか?アーヴァインは少佐自ら開発されたという話は聞いたことがありますが……」

「ああ、そうだ。アーステクノロジーに協力してもらい、制作させた。」

「素晴らしいですね。少佐はパイロットとしても一流ではなく、MS開発に関しても一流だと言えます。そんな人を見たのは僕……いえ、私自身、生まれて初めてですよ。」

「まあ、何と思ってくれても構わない。あと、自身の事は別に言いやすいように言ってくれても構わんよ。“僕”でも。」

「はあ。」

シーアの喋り方にはそれ程エファンに対する憧れがないように見えた。しかし、彼自身はエファンを尊敬していた。ただ、エファンの存在に圧倒されており、彼はどうリアクションを取れば良いか分からないだけだったのだ。

だが、側に居たクラリスはその反応に対して怒り始めた。彼の言動に、苛立ちを覚えていたのだろう。元々気が短い性格のクラリスは、こうした事に対しても怒りを感じ、感情的になり易い。

「てめえ!少佐に向かってその反応は何だ!?少佐はこんな機体を作り上げたんだぞ!」

「え!?へ?あの……?」

彼自身は凄いと感じているのに、何故かシーアはクラリス怒られた。そして怒るクラリスに対し、エファンは言う。

「やめろ、クラリス・デイル。」

「は、はい……?」

「彼は彼なりの喋り方で接している。だからお前が怒る必要はない。気にするな。」

「失礼しました、少佐。」

エファンはまたも心を読んだ。シーアがエファンに対して尊重している事を、彼は把握していたのだ。

 人間の態度、リアクションと言うのは個人に寄る。然程驚愕していないように見えて、実は驚愕していたり、リアクションが薄い場合でも、大きく見せる事が難しい事もある。それは個に寄り大きく異なる。クラリスは彼のリアクションを見て、その、素っ気ないように見える態度に対して立腹したのだ。

「さて、シーア・マックス少尉。気に召したかな?私のMSは。」

「は、はい!素晴らしい機体だと思います。」

「そうか。それなら使ってみるか?」

突然のエファンからの新型機のプレゼントに、いつも冷静なシーアは驚きを隠せないでいた。彼の喋り方は冷淡なものなのだが、今回は違った。

「え!?宜しいのですか……?」

思いがけない言葉に、シーアは喜ぶ様子を見せた。だが、その際も表情は大きく変化していない。リアクションが薄いと言うべきか。

「但し、私が一度搭乗してからな。私が開発したMSだ。私自身が乗って性能を試さなくてはならない。そして生き延びていたら乗せてやろう。残り二機があるが、それは別のパイロットに乗せる。安全性を確認する為だ。」

「安全性ですか?」

「カーティウスは高性能故に通常の人間では扱いきれない部分が幾つかある。それに関しては身体的に強化された人間である、強化モデルが搭乗する事が望ましい。お前はオールドタイプだ。正直、強化モデルではないお前がこの機体を操る事が出来るのかは未知数だ。どれ程の技量を見せられるかによって変わってくる。下手をすれば機体の性能に自身がやられる可能性もある。試作機を別の人物に乗せ、その後に判断を任せよう。」

エファンは警告した。新型機、カーティウスの危険性を。だが、シーアはそれを恐れる様子はなかった。寧ろ、興味を抱いている。目を輝かせて、彼の話を聞いているのだ。

「是非!お願いします。乗ってみたいです!」

「ほぅ、恐怖よりも興味か。お前は中々、面白い人材だな。」

エファンは微笑し、言った。この時、シーアには絶対的な自信と好奇心があった。今までも新型機や試作兵器を、乗りこなしてきたという実績を持つ彼だからこその自信である。エファン・ドゥーリアの機体が未知数であるとはいえ、まずは自分が乗ってみたいという好奇心の方が、上回っているのだ。

「まあじっくり考えた方がいいかもしれないな。決意が固いのならそれはそれで任せるとしよう。クラリス、行くぞ。」

「ハッ。」

やがてエファンとクラリスはその場から姿を消した。一人残されたシーアは一人で有頂天になっていた。新型機を乗せてもらえるという事に対する愉悦、快感。彼には恐怖心と呼べるものが無いのかも知れない。

 

 

 

小惑星アポカリプスを拠点として密かに地球侵攻の為に暗躍を続けるデウス残党軍は、新生連邦軍のヴァイダーガンダムが破壊されたと言う知らせを聞いた。恐らく新生連邦の切り札であろう兵器を破壊されたことで、彼等の地球侵攻は予定よりも早く進む事になりそうであった。

この情報を伝えたのはメイドだ。彼は氷河族を脱退し、そのままデウス残党軍の傭兵となっていた。そして、アルメスからデウス侵攻の話を聞き、そのままデスゲイズに乗り、大気圏離脱をしてこの地に向かっていたのである。やがてアポカリプスに着いた時、その情報をアポカリプスのデウス兵達に伝えた。

「なんと、それでは連邦は困惑しているのでは?」

「まーそういうこったなぁ!糞連邦の巨大ガンダムが破壊されてよォ、今頃慌ててんじゃねぇか?ま、もし攻めるなら今がチャンスじゃねぇの?」

それを聞き、アポカリプス内に居たアルメスが言った。

「それに関してはまだ把握出来ておりませんが、連邦軍の切り札が破壊された以上、困惑しない筈はないでしょうな。この混乱に乗じ、敵の様子を伺ってから攻め入る事が理想であると考えられます。」

アルメスは静かに呟く。そして一度咳払いをして再び喋ろうとした時――

「いちいちタイミングとか見計らってたらやってらんねーよ。一気にパっとヤっちまうのが早いんだよ。侵攻も、女も……な!ハハ、あ、女とかイッチョ前に語っちまったぜ。ぶはわっはははははははは!……俺は童貞だっつーの。まあ、どうでもいいけどさぁ……」

彼の台詞に対し、周囲の兵士は、どこか、冷めた様子で彼を見ていた。

「メイド・ヘヴン様。貴方がこの作戦に参加して下さったことには深く感謝をします。ですが状況を見極める必要があるのも、また、事実。」

この場に居た、アルメスがメイドに言った。しかし――

「さっさとやってあの糞連邦にデウスの力を見せつけてやりゃいいんじゃねえか。」

メイドの言う事に一理はある。が、誰も彼の意見に賛成ではなかった。あくまでも慎重に行動すべきだと皆が考えていた為である。

もし、下手に動いて連邦に倒されてしまっては元も子もない。軍事力は現段階ではデウス残党軍が遥かに劣っている。もし新生連邦軍の大軍が攻めてきたら負けは目に見えている。 

新生連邦は戦後に軍備増強を続けて来た。故に、その戦力比は圧倒的と予想出来る。数少ない戦力を投入していかなければならない、メイド以外の全員が慎重な姿勢を見せていたのだが、彼に意見をする者はいなかった。すれば何をされるか分からないと、内心で恐れていた為である。

しかしその時だった。その場へ現在のデウス軍残党司令官であり、皇帝でもあるナジェラ・メリクリファーがその場所に現れたのだ。そしてその周囲には数人の側近の人間がいる。ナジェラが現れた時、兵士全員が敬礼を行った。そしてその周辺には、親衛隊と見られる屈強な男が数人並んでいた。

「また貴校が我々と共に協力してくれると言うのか、礼を言う。」

そう言ってナジェラが握手を求めた相手は他ならぬ、メイド・ヘヴンだった。さすがのメイドも相手が現在の皇帝と分かっていたのか、静かに握手を交わした。

「へ、どうも。まさか現在の皇帝自ら出迎えて下さるとはねェ。」

彼なりに丁寧な言葉を遣ったつもりなのだが、どう聞いても皇帝を侮辱しているようにしか聞こえなかった。その接し方は、もはやアルメスや他の兵士と接している時よりもやや丁寧になったようにしか、見えない。

「先の大戦では随分な功績を残したそうだな、噂の天国兄弟の弟、メイド・ヘヴン。そして忌むべき連邦軍の月面兵器の破壊にも協力してくれた。それに関しては深く感謝する。」

すると皇帝は静かに頭を下げた。が、周りの兵士達は戸惑いを覚えた。

無理もない。本来皇帝が自身より身分の下の者……増してや、客将とも呼べる人間に頭を下げるなどあり得ない話だからである。が、何も知らないメイドは有頂天になって言った。

「はっはー!いやあ、そりゃあ金……あいや、デウスの地球侵攻の為なら喜んで手伝わせていただきますよ!はっはっはははははは!」

既に、禁句の一つである〝金〟と言う言葉を発してしまったメイド。この時点で皇帝を侮辱しているとしか思えないのだが、皇帝はそれでもそんなメイドに対し、笑みを浮かべた。

「ハハハハハ!まあ、金が目当てだろうな。まあ、何にしてもデウスに尽力してくれるのは有難い事だ。」

皇帝は笑っている。しかし、その姿を側近の人間は黙っていなかった。皇帝が馬鹿にされているようにしか見えない光景を見て、側近の人間が怒り始めた。

「貴様ッ!!!いい加減にしろ!!陛下をこれ以上侮辱するなら……!」

と、側近は銃を構え始めた。しかしその瞬間、皇帝は側近に対して怒鳴り始めた。

「黙らないか貴様!!」

「……!?」

突然皇帝に怒鳴られ、側近は自粛した。彼にとっては、この状況は何なのかが全く分からない。一体何故自分が皇帝に怒られるのか……疑問だけがこの側近に残った。

「し、しかし……この男は陛下を……」

「馬鹿者が!この男は今から協力してくれる、元デウス帝国所属のエースだ!貴様などとは訳が違うのだ!全ては私の権限で決める!貴様は何も喋るでない!!!」

「は、はっ……」

皇帝を思っての行動が、皇帝を怒らせてしまった。このような理不尽な思いに、側近は溜息しか出ない。しかも、更に悪いことにメイドがその光景を見て笑い始めたのだ。

「ぶわっはははははは!ざまぁ!てめえなんかよりも俺の方がよっぽどエースだってことなんだよ!ええ?ゴミ野郎が抜かしてんじゃねえぞ!そら、皇帝陛下もご覧の通り!もちろん、役に立ててみせますからご安心を、皇帝陛下!!!ぶわっはははははは!」

余りの無礼な態度、そして自分勝手な発言に側近はこの男の得体の知れない何かを悟っていたようだった。そしてこの後、側近のこの男が口出しすることはなかった。無論、他の兵士達も。

 

 

 

やがて数日が経過した。新生連邦はヴァイダーの破壊からまだ立ち直れていない。しかしその一方でデウス残党軍は準備を着実に進めていた。そして、それは大艦隊を発進できる程に至ったのである。

「ようやく暴れられるってワケだよな。思ったよりも時間がかかったな。」

メイドは張り切っている。これからMSに乗り、新生連邦に攻めることが出来ることが彼にとって何よりの楽しみだったのだ。

「メイド様、フォーメーションを考えて行動して下さい。敵は恐らく大艦隊を率いてくるでしょう。いくらメイド様とは言え、大部隊が相手では危険過ぎます。無理は禁物です。」

アルメスはメイドに言った。が、メイドは聞く耳を持たず、寧ろ笑いながら次のような言葉を述べた。

「なぁに、一騎駆け抜けてこそ戦場の華ではないのかね?ハッハッハ!俺を誰だと思ってやがる?俺は一機で十分!一機だからこそ、面白いのよ!ハハハハハハハ!あー、マジ最高!」

「そ、そんな!ゲームでもないんですよ!確かに一体で数千の敵を薙ぎ払うテレビゲームなら聞いた事はありますが……確か大昔に……」

「アホかてめえ。ゲーム感覚でもないとやってられねえんだよ。戦争に生真面目になってどーする?頭固い奴はだから死ぬんだよ。生真面目だから……己の意地を貫くとか言って……結局死んでやがんのよ。そりゃ男のロマンを感じるかは知らねえが、結局死んじまったら元も子もないってことよ。後に英雄になろうが、本人はもう死んでるんだ。ばっかじゃね?意味がねえんだよ。だったら生き残りつつも破天荒なことやって、バンバンやった方がいいってことなんだよ!な、俺今良いコト言ったろ!ま、頭固い奴には嫌われそうな台詞だけどんなもん知ったこっちゃねーし。ま、戦争は遊ぶ気持ちでやんねとねえ。俺の場合は敵撃破ゲームだけど。」

「歴戦の軍人に対してはとても言えない台詞ですね……」

「人間ってのはな、大人になればある程度の寛容を身につけねーとダメなんよ。すぐにキレる奴は最早論外。生きる価値なし!短気な奴はリアルにゴミ!存在する意義が不明!すぐにキレるぐらいならサッサと死ね!みたいな?そう言えば幼い時に短気な奴に虐められたっけな?まあ、コロニーごと抹殺したけどな!しかし人間って本当にクズが多いよなぁ。どんな風になったらあんなゴミみたいな連中が生まれるのかね全くさァ~……」

(この人間は……)

実はアルメス自身も戦前からデウス軍の将校として長きに渡って活躍してきた軍人であり、今となってはインベーションユニットという特殊部隊を率いることを任されるまでに至った。だがこの男は戦争を〝ゲーム〟や〝遊び〟と言いだすものだから、実はアルメス自身この時眉をしかめていた。しかし相手はあくまでもエースパイロットであり、実力者である。迂闊な事は何も言えなかった。

そして、この男の愚痴や文句をアルメスは出撃まで聞かされ続けるのだった。

 

 

暫くして、アポカリプスの中から大量の戦艦が出現した。いずれもかつてのデウス軍が使用していた巡洋艦ばかりで、その上改修が施されている。その改修の内の一つに光学迷彩が備えられている。つまり、これを使って強襲作戦を行う気でいたのだ。MS搭載能力も申し分なく、当時では主力として使われていたものばかりである。だが、残念な事にこれらの一部は現在新生連邦軍にも流用されてしまっている。新生連邦軍のコスト削減のためなのだろうが、デウス軍にとっては屈辱の他何でもなかった。

バディウス級宇宙巡洋艦。デウス軍の主力となっていたそれは、約六年の時を経て、名前をバディウス改級宇宙巡洋艦として再び戦争に参加することになる。中に搭載されているMSは旧デウス軍の主力機体であるゴルモンテを発展させた機体であるゴルモンテMK-Ⅱを乗せたものや、今回の為に量産されたディエルの後継機であるディエルMk-Ⅱが存在している。

ディエルMk-Ⅱ。型式番号、DMS-81Ⅱ。デウス動乱中、デウス帝国軍の主力MSとして存在していたディエルの正統後継機。全ての機体性能が大幅に上回っており、新生連邦の機体と比較しても後れを取らない。

そして、これらを搭載したバディウス改級が光学迷彩を使って無数に宙域に出現し、そして彼等が目指すポイントは新生連邦軍の宇宙戦力の大半が置かれているという月面基地、シン・ナンナである。この作戦で、新生連邦の戦力を大幅に削減しようというのが今回の作戦の目的だ。その為デウス残党軍も戦力の投資を惜しんではいられない。

やがて、大艦隊が出撃した。いずれもがシン・ナンナ基地に向かっている。そしてその中に紛れる多くのディエルMk-ⅡやゴルモンテMk-Ⅱ。それらの中に、メイド・ヘヴンの乗る強力なMS、デスゲイズの姿があった。

「糞連邦に対してせっかくカウンターアタック掛けられるのにさァ、糞連邦に日和ってる奴いる?いねえよなぁ!!?」

たった一機のMSを駆り、その力で戦艦五隻を容易に沈めることが出来るこの男を仲間にしているデウス残党軍。

だが、総合的な戦力は新生連邦の方が上回っている。というのも、あくまでデウス残党はデスゲイズのみが凄まじい性能を誇っているだけで、その他の機体は旧式ばかりである為である。一方の新生連邦は最新鋭機ばかりを揃えている。この戦い、どのような展開を迎えるというのか。

 

 

 

デウス残党が大規模艦隊を率いて現れた頃、シン・ナンナ基地はこの状況を何も知らないでいた。やがて管制塔に映るレーダーに無数の熱源が反応した時、シン・ナンナ基地の司令官である、フェイク・バリスタが慌てて命令を下した。突然現れた艦隊の姿に基地内は動揺を隠せずにいた。

「司令!謎の艦隊がこちらに向かって来ています!数、少なくとも三百!」

「何だと!?そんな馬鹿な事が!?何故気付かなかったのだ!?」

「と、突然の攻撃だったもので……恐らく光学迷彩によるものかと思われます!」

「急いで艦隊を出せ!どこの所属だ!?いや、あの規模の艦隊は……まさか……デウスだとでも言うのか!?」

その命令の直後、シン・ナンナからは無数の宇宙戦艦が現れ、そのまま月面から宇宙に向かって行った。そしてデウス残党に真っ向から立ち向かうように艦隊が展開された。

新生連邦側の戦艦は、ヴィッシュ級高速宇宙巡洋艦という。バディウス級とは外見は異なるが武装自体は似ていることが多い戦艦であり、戦前から大量生産されている戦艦である。そしてヴィッシュ級からは無数のMSが出現し、一方でバディウス級からもMSが発進された。

今まさに、新生連邦軍とデウス残党軍の壮絶な宇宙艦隊戦が行われようとしていたのだった。

 

 

 

新生連邦軍はディーストやジョゼフといった量産機体を投入し、ビームライフルを撃ち続ける。一方でデウス残党もゴルモンテMk-Ⅱを投入し、ビームバズーカで応戦する。

破壊され、破壊し合う状況が続く。その時だった。デウス残党軍の無数のバディウス級の中に一つ、非常に大型の戦艦の姿がそこにあった。

アシュタル艦という名それは、現皇帝、ナジェラ・メリクリファーが直々に搭乗しているデウス軍の旗艦だった。全長は600メートルにも及び、皇帝が乗るに相応しい戦艦として出現した。先端部が二つに大きく割れているような、独特の形状をしている上、無数のビーム砲門が備わっており、まさに難攻不落の旗艦と呼ぶにふさわしい存在であった。その存在は宙域のあらゆるものを圧倒する。そして、ナジェラは宙域にいた全員に対して発言を始めた。

「我はナジェラ・メリクリファー。デウス帝国皇帝である!

我は今、誓おう!只今より、我がデウス帝国軍は新生連邦軍に対し、総攻撃を開始する!進め!誇り高きデウスの戦士達よ!」

その瞬間、デウス残党の兵士達は喚起の声を上げ、敵部隊に攻撃を開始した。それと同時に新生連邦軍は驚きを隠せないでいた。

「馬鹿な……デウスだと!?奴等が!?」

「そんな……そんなことがある訳が……ないだろ……」

ジョゼフに乗っていたこの二名の新生連邦兵は衝撃を隠せなかった。突如現れた敵の正体がデウス帝国の残党だというのだから、無理もない。

しかしその直後、この二人を謎のビーム刃が襲う。猛烈なスピードでそのビーム刃は一度に二機のジョゼフのコクピットを貫き、破壊したのだ。

やがて爆風の中から怪しげにモノアイを輝かせる、怪鳥の姿をしたMAが一機。紛れもなく、デスゲイズだった。

「ヒャッハーーーーー!!!汚物は消毒だァァー!!!」

久々の戦闘という事もあり、彼は高揚していた。デスゲイズはこの戦場において圧倒的な性能を見せつけ、次々と新生連邦のMSを破壊していく。

無論、デスゲイズだけが活躍しているわけではない。デウス残党のMSも攻撃を加え続ける。

激しく飛び交うビーム粒子。それは大規模な艦隊戦が行われている何よりの証だった。高出力のビームは新生連邦、デウス残党の両者にダメージを与えていく。

「目標を確認!」

「仕留めろ!」

「いかん、やらせるな!」

「ダメです!もう……!」

バディウス改がヴィッシュ級を破壊する。しかしその別の宙域ではヴィッシュ級がバディウス改を撃墜する。その繰り返し。激しさを極めるMS戦。だが、MSの性能だけならば圧倒的に新生連邦が勝っていた。何しろ、デウス残党は最新鋭MSであるディエルMk-Ⅱ以外にも、ディエルやゴルモンテといった旧式MSを戦場に出している。どう考えても、新生連邦の最新鋭機の方が性能は高く、この時点でディエルやゴルモンテは最早、やられに来ているようなものだった。

しかも、新生連邦はディーストやジョゼフやエグゼマー等といったMSばかりではなく、新型もこの戦いで導入していた。

機体名はグランシェ。以前にシーアがテストパイロットに選ばれたこの機体が、今この宙域で初陣を飾ったのである。既に月面基地内でテスト運用は完了しており、実戦はこれが初めてである。

「さて、この新型がどれ程の力を見せるか……」

パイロットは隊長クラスの新生連邦兵である。この機体が試験の為なのか、三機がこの戦場に導入された。

いずれも高性能を誇るグランシェは、完璧とも言えるフォーメーションでデウス残党をかく乱していく。デウス残党軍のゴルモンテMk-Ⅱはこの青い新型機の素早い動きについて来られず、ビームバズーカを連射する。が、グランシェはこれを素早く避け、背部からビームケーブルを放出した。その一撃で、ゴルモンテMk-Ⅱはいとも簡単に破壊される。そしてグランシェはモノアイを輝かせ、次の標的を探しに行った。

 

 

 

激しい艦隊戦が行われる中、メイドの駆るデスゲイズは単機で敵MSを次々と破壊して行った。容赦なく、繰り出される有線式ビームサーベル六本の攻撃は新生連邦軍にとってこの上ない脅威となっていた。うねうねと、まるで生きているかのように動くそれは新生連邦兵の不意を突き、次々と破壊していく。

彼にとってこれはゲームだ。敵MSを何機倒せるかというゲーム。やがて、怪鳥はその牙を剝き出していく。有線式ビームサーベルは片方だけで三本存在している。その三本を一つにまとめ、高出力のビーム刃として扱い始めたのだ。反対側も、同様に。

MA形態のデスゲイズは、モノアイを輝かせ、新生連邦のヴィッシュ二隻のブリッジを一度に破壊した。これにより、一瞬で二隻の戦艦が破壊されたことになる。

「これより我ら修羅に入る!ってかァ!?ハッハ!たまんねえなァ!この上で金までもらえるんじゃ最高だよなァ!最高にハイってヤツよォ!」

高らかに笑うメイドは更なる攻撃を加える。前腕部からは二連装ビームキャノンを撃ち、MAデスゲイズの先端部からビームを撃つ。ひたすらビームを撃つことで、ディーストやジョゼフは簡単に破壊された。

「あ、あのMSは……!?」

エグゼマーに乗っていた、一人の新生連邦兵がデスゲイズの姿を見て怯える様子を見せた。しかし隣にいたもう一人の兵士は怯える様子もなく、ジョゼフに乗ってひたすらビームライフルを撃つ。

「ち、あんなもんに怯えているようじゃダメだな!お前は俺より高性能機体に乗っているくせに!」

「よ、よせ……あいつは……」

エグゼマーに乗る新生連邦兵士はジョゼフに乗る兵士を止めようとする。しかしデスゲイズに尚も立ち向かうジョゼフに乗る兵士。だが彼も、ビームライフルが一切効いていない事を知ると焦った表情を見せた。

「カスが効かねぇんだよ!!」

 

バイイイイイイン

 

「な……全く効いてないだと!?」

デスゲイズに張り巡らされているバリアーフィールドジェネレーターは、あらゆるビーム兵器を無効にし、消滅させるのだ。

「間違い無い、奴だ……!奴はたった一機で艦隊を消滅させやがったんだ!俺の仲間もあいつに殺された……聞いたことがあるんだよ、あいつの噂を……たった一機の黒いMSに消滅させられたって!だから逃げろ!勝てるわけがない!」

エグゼマーの兵士はMAに変形して逃げようと試みたが、すでに遅かった。有線式ビームサーベルがコクピットに突き刺さり、変形する前に破壊されてしまったのだ。仲間を殺されたジョゼフに乗った新生連邦兵は怒りを露わにし、側腰部からビームサーベルを抜いた。

「ヤロォ!!!ビームが効かねえなら接近戦だあああああ!!」

自棄になった様子で、ジョゼフはデスゲイズに特攻する。それを見たメイドは

「ハッ、上等ォ……!」

と言い、お望み通りと言わんばかりにビーム刃を展開し、ジョゼフを、容赦なく串刺しにして破壊した。

「ビームライフル如きじゃなァ!僕は死にましぇーん!!!ってなァ!ヒャハハハハ!!!てめェらには地獄すら生ぬるいんだよ!!」

相変わらずのテンションでデスゲイズを駆り、次々と新生連邦のMSや戦艦を破壊していく。その修羅の如き活躍ぶりは味方も恐れる程だった。

「あ、あれはメイドさんか!?」

「なんだ……?動きが滅茶苦茶じゃないか……」

デウス兵達は唖然とした。メイド・ヘヴンの圧倒的な攻撃は新生連邦軍を容赦なく、破壊していく。接近する機体にはビームサーベルを六本、展開して触手のように展開し、やや遠距離の機体には前腕部の二連装ビームキャノンやミサイル等で破壊する。

しばらくしてデスゲイズがMS形態に戻った時、ジョゼフやエグゼマーが合計五機、デスゲイズの前にいた。これらは有線式ビームサーベルで簡単に破壊しようと思えば出来たのだが、彼はあることを閃いた。

「たまにはこっちで殺るのもなかなか……オツだなぁ。」

すると、デスゲイズは腹部にエネルギーを溜め始めた。腹部メガビームカノンを撃つ気でいたのだ。だがエネルギーを蓄えている間に、ジョゼフとエグゼマーが襲って来る。

「おめーらの動き、封じっから!はい、宜しくゥ!」

するとデスゲイズは有線式ビームサーベルで敵のジョゼフを貫いた。しかしコクピットではない。バーニアを貫いたのだ。これにより、機体の自由が利かなくなる。

 

ドバアアアアアアアアアアアアッ

 

やがて、デスゲイズの腹部からメガビーム砲が放たれた。この攻撃により、瞬く間に五機のMSが一瞬で消滅したのだ。

「ハハー!良いなぁ!ええ!?」

更に勢いを高めるデスゲイズは単体で敵艦隊に向かって行く。機体をMAに変形させ、バーニアの出力を高めて敵のヴィッシュ級に直進する。

「敵MA、接近!」

「特攻をする気か!?しかし敵機体のサイズは大型だ!撃ち落とせ!」

ヴィッシュ級の士官はデスゲイズに集中砲火を浴びせようとする。しかしいずれもこれらを軽やかに避け、更にバーニアの推進剤の出力を高めた。

「おめーらのライフはとっくにゼロなんだよォ!もぅ勝負はついてんだよォ!!!」

すると、デスゲイズは腰部からあるものを展開した。それはデスゲイズが持つ最強の兵器、デス・ランチャーだった。これはツヴァイのプラズマカノン同様にプラズマ粒子を使って攻撃するので、バリアーフィールドでは防ぐことが出来ない。高出力のそれはエネルギーが溜められる。

 

ビゴォン

 

やがてモノアイが輝いた瞬間、それは放たれた――

 

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

「艦長!熱源が!熱源がぁ!」

「ば、馬鹿な!馬鹿なぁ!?」

デス・ランチャーは一隻のヴィッシュ級を破壊した。だがデス・ランチャーの破壊力は止められない。その勢いは止まることなく、破壊されたヴィッシュ級の後方にいた別のヴィッシュ級も破壊した。だが更に勢いは続き、その後方にいたヴィッシュ級も破壊された。合計3隻が一斉に破壊された。圧倒的な強さを新生連邦に見せつけたデスゲイズは、そこでブースターの出力を止め、MS形態になった。

「超!エキサイティン!!ハハハー!!」

デス・ランチャーの貫通力に彼自身も関心を抱く。しかし凄まじい破壊力を秘めているデス・ランチャーを撃てば、エネルギーの消耗も激しい。だがメイドはその状態でも活動を続けるつもりだった。

 

 

 

グランシェ隊はデウスのMSを次々と破壊していた。高性能のグランシェは敵機のビーム砲撃をビームシールドで防ぎつつ、そこから放たれるビーム砲で破壊する。更に、背部に備わっているビームケーブルで、中距離のディエルMk-ⅡやゴルモンテMk-Ⅱを破壊していく。

「よし、数は多いだけだ。グランシェは順調に稼働している。」

「せっかくの新型だ、こんな亡霊なんかにやられてたまりますかってんだよ。」

「デウスの亡霊……か。まさか奴等が生き残っていたという事実が驚きだよ。」

それは無理もない話だった。今まで月の裏側で小惑星の中で軍備を増強させていたなど誰が知ることだろうか。強いて言えば去年にX-9という巨大な迎撃システムを破壊された時にデウス軍の機体が現れたということぐらいだろうか。彼等は驚きつつも、グランシェという新型機の強さを見せつけた。

高性能機体が相手では、デウス軍はメイドのデスゲイズを除いて不利である。メイドが次々と戦艦やMSを破壊してはいるが、全体を見ればややデウス残党が押され気味なのだ。

更に、この宙域に大型のMAが二機出現した。新生連邦軍の拠点防衛用MA、セーザムである。少数だが量産されていたその機体は、防御面においては圧倒的に優れている。また、直線上の機体を高出力のビーム砲で瞬時に消滅させる破壊力も備わっている。

 

ドバアアアアアアアアアアッ

 

セーザムは前方の艦隊に対してメガビームランチャーを放出した。それによって、デウス残党軍のバディウス改が数隻、一瞬で破壊された。新生連邦による突然の大型のビーム砲撃を受けたデウス残党軍は、敵軍からの謎のビーム砲撃に動揺を隠せないでいた。

「なんだ、今のは……」

「奴等、一体何を隠し持ってやがる……!?」

ゴルモンテMk-Ⅱに乗った兵士が突然の砲撃に困惑していた。しかしその隙に彼等は3機のグランシェに襲われた。モノアイを輝かせ、二機に襲い掛かる。

「なっ……!?」

気付いた時にはもう遅かった。すでにこの二機はグランシェの攻撃をまともに受けて大破されられた。一機はビームケーブルに串刺しにされ、もう一機はビームマシンガンをもろに浴びた。そしてグランシェは、次々とデウス残党のMSを倒していく。

「何がデウスの亡霊だ。下らねえな。状況はこちらの方が有利じゃねえか。」

「油断はするな。敵軍に一機、圧倒的な性能を誇る可変MSの存在を確認している。奴に狙われたらやられる可能性はある。」

「ヘ、グランシェを舐めるなってんだ。こっちが押している以上、負けねえんだよッ!」

この新型の強さに自信があるのか、その兵士は単体でデウス残党のMS部隊に特攻していった。そこ居たのは、旧式のディエルが多数いる戦闘域である。

「おい!」

リーダー格の兵士が言っても聞く耳を持たない。仕方なく、彼と残りの一人も身勝手な兵士を追いかけることにした。グランシェはモノアイを輝かせ、それぞれがこの宙域を駆け抜けるのだ。

 

 

次々とMSや戦艦を破壊しているデスゲイズはセーザムの存在に気付いた。いくらビームを撃ってもバリアーフィールドで弾かれてしまう為、これに対抗する為に、有線ビームサーベルを展開しようとした。しかしそこへ邪魔をするように、エグゼマーが三機迫ってくる。

「もっと命は大切にしなさいって学校で習わなかったのかよォ!?」

狙っていた獲物を邪魔された気分で、機嫌を損ねられたメイドはこの三機に対して容赦をする様子を見せなかった。モノアイを輝かせ、三本のビームサーベルを展開する。しかしその前に、エグゼマー三機はそれぞれMAに変形し、ミサイルを放出し始めた。これらのミサイル全てが、デスゲイズに向けられる。しかも、ミサイルはこれらのものだけではなかった。セーザムがデスゲイズに目掛けて大量のミサイルを一斉に仕向けてきたのだ。合計七十基以上のミサイルが一斉にメイドに襲い掛かる。

「うほっ……いいミサイル……。」

と、デスゲイズのバーニアの出力を上げて後ろに下がった。このまま逃げるかと思われたが、彼はそれをしなかった。暫く移動したところでMSに変形し、腹部からビームを撃つ為にエネルギーを充填し、そして発射する準備に入った。

「目標をセンターに入れて……スイッチってなァ!!!」

そう言ってメイドがスイッチを押すと、腹部から大出力のビーム砲が発射された。それにより、デスゲイズの直線上のミサイルは全て破壊された。空しく、余ったミサイルがデスゲイズの側を通る。

「馬鹿な!?あれは狙えたぞ!」

「ええい、なんて機動性だ……!」

ミサイルを撃ったエグゼマーのパイロットは焦りを隠せない様子で、急いでMAに変形してその場から逃げるように離れた。しかしメイドはそのエグゼマーを見逃さなかった。彼等は狙われてしまったのだ。

「逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメなんだよォ!!!ハハー!!!」

そう言った直後、デスゲイズはMAに変形し、三機のエグゼマーを追いかける。無論機動性はデスゲイズの方が圧倒的に上回っているので、すぐに三機は追い詰められ、有線式ビームサーベルが展開され、エグゼマーはそれぞれが串刺しになり、全てが破壊された。

その時。セーザムはデスゲイズ目掛けてメガビームランチャーを突然放った。突然の攻撃にメイドは焦りを感じたものの、少しの間を開けて彼は笑みを浮かべた。

メガビームランチャーはデスゲイズに迫る。しかしデスゲイズは避ける様子を見せない。寧ろ堂々と構えている。そしてビームランチャーはデスゲイズに直撃した――

 

バイイイイイイン

 

バリアーフィールドがデスゲイズを守ったのである。機体は揺れていたが、それでも損傷は全くなかった。

「なんだあのMSは!?直撃の筈だぞ!?」

セーザムのパイロットはヘルメットの中で冷や汗を掻いた。と、次の瞬間だった。眼前に一つ目の不気味な影が出現し、それはビーム刃を輝かせ、コクピットを貫いた。これにより、セーザムは瞬く間に破壊された。

「ハハハハハ!これはなかなか刺激的だけどな……糞連邦の中にガンダムがいねーよ、どういうことなの……」

どうやら彼はガンダムタイプと戦えない事に不満を抱いていた。敵である新生連邦軍の機体は全てデウス帝国の技術を用いたMSばかりである。デスゲイズは敵機を破壊していっているが、それでも気が治まらないようだった。

そこで、メイドはデスゲイズに接近してくるジョゼフに対して有線式ビームサーベルを展開した。しかし、そのジョゼフはデスゲイズのその攻撃を回避したのだ。それに驚くメイドだったが、次に二連装前腕部ビームキャノンをジョゼフに向けて射出した。これが直撃し、ジョゼフは動けなくなった。それと同時にデスゲイズは有線式ビームサーベルを展開し、メイドは無線をジョゼフのパイロットに繋いだ。

「おい、てめえ。お前らの艦隊の中にガンダムはいるか?」

「な、なんだ……!?し、知らない!知らない!」

「そうかじゃあ死ねやカス。」

 

ズバァッ

 

デスゲイズはすぐに有線式ビームサーベルでジョゼフを串刺し、そして蹴り飛ばして破壊した。その際に輝いたモノアイが何とも非情に見えた。

「ざまぁ。てかこいつらデウスのばったもんばっかりかよ。流石に萎えんぜ。」

残念そうな表情を浮かべつつ、舌打ちをしてその場から去る。デスゲイズのエネルギーは、まだ尽きる様子は無さそうだった。

 

 

 

この壮絶な艦隊戦は地球上で報道されていた。前の大戦で滅びた筈のデウス帝国の残党軍が突如姿を見せたと言う事実に対し、世界中がこの映像に釘付けになっていた。国際衛生チャンネルで報道されているその映像に映っているのはデウス軍のMSや戦艦、そしてそれに対する新生連邦軍のMSや戦艦だった。  

しかし生中継をしている間、映像の半分以上は新生連邦軍が戦っている様子が映し出されている。デスゲイズが圧倒している姿はどこにも映し出されていなかったのだ。

実際、新生連邦がこの状況を押しているのだが、この映像は明らかにデウスの存在を悪に見立てているようにしか見えなかった。

この映像はレイ達がいるオーストラリア、ダーウィンにも放映されていた。国連基地のホールに居たジャンヌ達はそれを見て衝撃を隠せないでいた。

「デウス帝国が攻撃を開始した……?」

衝撃を受けたのはジャンヌだけでない。元々デウス帝国所属だったネルソンやガーストも驚きを隠せない様子だった。

「馬鹿な!デウス帝国が活動しているだと!?あり得ない!何かの間違いの筈だ!」

ネルソンはテーブルを叩き、映像を見て歯を立てていた。衝撃的な光景を見て動揺を隠せない様子だった。

側にいたレイはこの壮絶な艦隊戦にただ、釘付けになっているだけだった。今までの戦いとは違う、壮絶な艦隊戦。宇宙戦艦同士が戦うという今まで見た事のない光景に、ただ圧倒されるばかりだった。宇宙に出た事のない彼にとってこれは映画の世界のものだとばかり思っていたが、これがSFでも何でもないということが衝撃的だった。彼にとって先の大戦で滅びたとされたデウス帝国の存在は別にどうでもよかったのだ。

「これが……艦隊戦……」

そして、近くにいたエリィもこの映像には驚いていた。かつてのデウス帝国が生きていて、今まさに新生連邦と戦っている光景。デウス動乱を生き残った人間の一人である彼女としては、これは見過ごせない映像の一つだったのである。

「デウスと連邦が戦争をしてる……あの頃みたいに……艦隊戦を行っている……」

デウス動乱を生き抜いた人間達はこのニュースに衝撃を受け、当時を経験していないレイのような少年達はただ茫然と眼前に映る映像を見ていた。壮絶な艦隊戦……そこで繰り広げられるMS同士の戦闘。そして宇宙。レイ自身は宇宙に上がったことが無い。

この時代では宇宙にあるコロニーと地球の間を行ったり来たりするのは当たり前の時代となっている。しかし彼はそれを経験していない。彼の場合、宇宙旅行でもしない限りは宇宙に上がる理由はないのだ。

飛び交うビーム、そしてミサイル……その光景に圧倒されている時、レイは側にいたエリィに声をかけられた。

「宇宙には行ったことないでしょ?」

「……え!?」

急に声を掛けられたのと、何も語っていないのに事実を言い当てられた事にレイは驚いた。背中が一瞬ひやりとし、背筋が凍る思いをした。

「ど、どうして分かるんですか?エリィさんってシンギュラルタイプですから心が読めましたっけ……?」

「ううん、違うよ。だってレイ君、あの映像に釘付けになってたでしょ。私とかアレン君はあの映像を見ても久しぶりとぐらいにしか思わないけど……けどレイ君は明らかに艦隊戦を見た事のない、初めての存在だと思っているでしょう?確かに圧巻だと思うわ。SF映画のような世界が本当に繰り広げられているんだから。地上の水上艦や空中戦艦の艦隊戦と比べ物にならないスケールだもん。」

「は、はい!凄いですよね、これが実際に行われているだなんて想像出来ません……。」

「……もしかすれば、レイ君もいつか宇宙に上がるかも知れないね。この戦いがどうなるかにもよるけど……もし宇宙に上がることがあればその時に色々と、教えてあげるね。」

レイは宇宙に対して興味を抱いていた。機会があるのなら、ぜひ宇宙へ上がりたいと思っている。だが、それが何を示すのかは想像出来ない。宇宙に出たとして、そこでは新たな戦いが待ち受けているのかも知れないのだ。

そして、これがこれからどうなっていくのかは彼自身も分からない。とにかく今彼等はガーストの完治を待つばかりだった。それが今後のセイントバードチームの行方を示すことになる。

 

 

 

艦隊戦は相変わらず繰り広げられている。デウス残党軍と新生連邦の戦い。飛び交うミサイルやビームは互いの勢力を削っていく。そして状況は新生連邦が優勢になっていた。やはり機体性能の差が戦況を有利にさせていたのだ。

しかし優勢であるとは言え、やはりデウス側のある一機に新生連邦軍は苦戦を強いられていた。紛れもなく、メイドのデスゲイズである。今メイドはグランシェ三機を相手にしていた。今までのジョゼフやディースト等の機体と違い、その、高い性能を実際に感じ取り、彼自身も手応えを感じていた。

「ほほー、やるじゃない。」

そう言った後、デスゲイズは有線を繰り出した。一機のグランシェはシールドで防ぐが、それも簡単に貫通されてしまい、コクピットに直撃した。モノアイの輝きが失われ、やがて破壊された。残りは二機。しかしパイロットは冷静だった。

「ち、噂の触手持ちのMSか。」

「実物は初めてだが、思った以上に怖いというか……気持ちが悪いな。」

まるでその台詞に反応したかのようにデスゲイズのモノアイが輝く。そして、彼等に対して二連装ビームキャノンを放出した。が、これらはグランシェの大型シールドによって防がれてしまった。

「へえ、あれはビームキャノン程度の出力のビームは効かねえのか。アホ共も知恵つけたな。」

そして、グランシェ二機はデスゲイズにシールドから、シュート・シューターという名の、追尾型実弾兵器を射出。これは実弾兵器なのでデスゲイズのバリアーフィールドでは防ぐことはできない。しかし、デスゲイズはこれらを軽やかに避ける。そして、有線式ビームサーベルを展開してシュート・シューターを切り裂いた。

「あめぇんだよ!ビーム以外ならなんとかなると思ったらァッ!」

と、デスゲイズはモノアイを輝かせ、腹部からビームを放出した。高出力のそれを見たグランシェは急いでシールドで防御姿勢をとる。

「大間違いもいいとこなんだよォォォ!!!」

ビーム砲がシールドに直撃。グランシェのパイロットはどうにかなるとでも考えたのだろうか、表情に余裕があった。だが、その余裕が段々と失われていく。というのも、グランシェのシールドは溶け始めていたのだ。

「馬鹿な!?このシールドで持たないビーム砲だと……!?ぐ……あああああ!」

やがてシールドが溶けていき、グランシェ本体を貫通した。これにより、跡形もなくなったグランシェ。この高性能機体も、残ったのは一機のみとなった。

「フヘヘヘ!出力が上がれば破壊されるとか!アホ丸出しじゃねえかカスがよォ!」

残る一機に対し、メイドは有線式ビームサーベルを展開する。だが残っていたグランシェはこれを辛うじて回避に成功する。そして、デスゲイズのいる宙域から逃げ出し始めた。

「腰抜けかてめえ!アホ丸出し!敵前逃亡は死刑だっつってんだろうがァ!」

逃亡されて怒るメイド。逃げ出したグランシェを破壊する為、死神が動く。

 

やがてグランシェを追いかけ続けていると、突然グランシェは動きが止まった。メイドは攻撃を加えようとするが、頭の中に電流が流れ、攻撃を止めた。

「野郎ォ、何か考えてやがんな。」

彼には分かっていた。この先に行けば何かがある。そして、それは自分自身を危機に陥れるものだという事も全て把握出来ていた。

「洒落た歓迎だねぇ。アホ共……」

すると、デスゲイズはそのまま直進した。罠があるかもしれないと分かっていて彼は進んだのだ。

「掛ったな!放射開始しろ!」

その声はヴィッシュ級の士官によるものだった。この宙域にはヴィッシュ級が“ある”トラップをあらかじめ張っており、グランシェはデスゲイズを仕留める為にわざとここまで誘導したのだ。メイドは気付いたのだが、あえて彼はこの罠に引っ掛かろうとしていた。

やがて、ビームネットがデスゲイズ全体を包もうとしていた。これを食らったデスゲイズは、身動きを取る事が出来ず、コクピット内のメイドは操縦桿を引き続けた。

「おおお!?すげえ!」

揺れる機体内で、驚きを隠せないメイド。その間にも新生連邦軍の機体がデスゲイズに向けて集中砲火を浴びせようとしていた。

「奴を倒せば我々の勝利は確実だ!撃て!躊躇うな!!!」

やがて多くのヴィッシュ級がデスゲイズに対して無数のミサイル等の実弾射撃を開始した。迫る実弾兵器はデスゲイズでは防げない。この機体はビーム射撃ならば防げるが、この攻撃ばかりは厳しかった。さすがのメイドもこの状況は危機的に感じていると思われた。

だが、それは違った。デスゲイズは突如有線式ビームサーベルを展開し、そのままビームネットを放出している戦艦を、ビームサーベル三本を使い、切り刻み始めたのだ。これによってビームネットが解除され、すぐにこの場から離れる。

残るミサイルは腹部からのビーム砲で一斉に除去。デスゲイズの驚異的な動きに、新生連邦軍は焦りの色を隠せない。

「奴は化け物か!あのビームネットを浴びている間に攻撃が出来るだと!?」

「じょ、冗談じゃ……」

身動きが取れるようになったデスゲイズは有線式ビームサーベルを再び展開しようと試みた。だがその時である。

「くっそー、エネルギー切れやがった!調子乗りすぎたかァ……」

デスゲイズのビーム粒子残量が切れたのだ。これにより、ビーム兵器が使用不可となった。

この状況に焦りを隠せないメイドはデスゲイズをMAに変形させ、その宙域から離れる。

逃げ出したのかと思い、追撃を試みる新生連邦軍。しかしそこへゴルモンテMk-Ⅱがメ

イドを守るように出現し、一斉にビームバズーカを、新生連邦軍に向けて放射し始めた。

「あの黒い化け物以外は雑魚機体だ!攻撃しろ!」

その指示と共に一斉に、戦艦、MSによるビーム砲撃が一斉に開始された。あまりのビームの多さに、成す術もないゴルモンテ達は一斉に破壊される。応戦をしても、別の新生連邦軍の機体がゴルモンテ達を容赦なく攻撃していく。デスゲイズが撤退した事に寄り、新生連邦軍は調子に乗り始めたのだ。

メイドのいないデウス軍は彼等にとって恐れるに足らない存在だったのだ。しかし、圧倒しているとはいえ、新生連邦は戦力が削られることには変わりはない。デウス軍の旗艦であるアシュタル艦がメイドの代わりに新生連邦軍の脅威となっていたのだ。この戦艦は大型な上、単体の破壊力も他を圧倒していた。ミサイルの数は無数に存在し、その上強力なビーム砲も無数に備え付けられている。この動く要塞は簡単に破壊されるものではない。新生連邦軍がデウス残党に苦戦している理由の一つに、この戦艦の存在があった。

アシュタル艦は無数のビーム砲を新生連邦軍のヴィッシュ級に対して放射し続けた。その周辺にいるゴルモンテMk-Ⅱは懸命に応戦するのだが、新生連邦軍のMSによって破壊されてしまう。とはいえ、彼等が新生連邦軍の戦力を削っていることには変わりはないと言えた。

 

 

 

一度アシュタル艦に戻ったデスゲイズは補給を受けていた。そして、その周辺にいた整備士から絶賛されていた。

「素晴らしい戦果です!殆ど一機で倒したんじゃないですか?」

「まぁな!俺の実力があればあれは余裕!けどまだまだベストスコアじゃねえし。それより、押されてるんだろ、実際は。」

「……はい。」

紛れもない事実だった。デウス軍は押されているのだ。いくらメイド・ヘヴンが敵機を大量に撃墜していようが、アシュタル艦の破壊力を見せつけていようが、押されているのは紛れもない事実。所詮、たった一機ではこの戦況を大きく変えることは難しい。新生連邦軍のMSはデウス軍のものよりも高性能な機体が多い。従って、デウス軍が劣勢になるのは無理もなかった。

「やっぱ一機で無双は無理か。チィ、早く補給しろ。また無双してくる。」

「それがメイド様。我が軍はそろそろ撤退をするようです。目的は達成されたようですので。」

それを聞いたメイドは驚きを隠せなかった。今回の目的はあくまでも戦力削減であるのだが、メイドはデウス軍の力を新生連邦に見せつけ、シン・ナンナ基地を壊滅させる事が目的だと勘違いしていたのだ。

「は?嘘やん、マジで!?」

「は、はあ……はい。ですからもう間もなくデウス軍は撤退します。」

「な、なんじゃそりゃ」

メイドは呆れてしまった。一気にシン・ナンナ基地を攻略するつもりでいたので、尚更である。彼にとっては今回の出撃と功績により、大金を得る事は出来るものの、今一つ、物足りないものがあった。戦争という名のゲームが出来ると聞いて笑みを零していて、本来の目的を忘れてしまっていたメイドが哀れなのだが、やはりどうしても彼は納得できていない。

「チ、ふざけやがって。消化不良だっての。」

イライラが募るメイドはデッキの壁際に行き、思い切り壁を蹴った。その様子を見た整備士達は少々だが恐怖を感じているようだった。

 

 

 

整備士の言う通り、デウス軍は撤退を開始した。それを指示したのは皇帝であり、総司令でもあるナジェラ・メリクリファー本人であった。アシュタル艦は回頭を始め、その宙域から去っていく。それに合わせるように、バディウス改級の戦艦が次々と後退を始めた。新生連邦軍の中には、これらに対し追撃を加える者もいたが、その殆どが追撃を止めるように言った。

というのも、予想しなかった被害を被ってしまったので、これ以上の戦力の減少は危険だと司令部が判断したためである。

結果、新生連邦軍の宇宙の戦力は全体の三分の一が削がれるという形となった。これに対してデウス軍の戦力も削られたが、デウス側からすればこの奇襲に成功し、新生連邦の戦力を削ぐ事に成功した為、これは功を成した事と、言えるのである。

「ややや……奴等め……!」

シン・ナンナのフェイクは焦りを隠せていない。突然のデウス帝国残党軍の襲来。これが、宇宙における大きな一手となっているのであった。

この情報はすぐに地球のレヴィー・ダイル総司令に伝えられる事になる。シン・ナンナ基地の戦力の大幅な減少……これは、本来あってはならない話なのだ。

現在、新生連邦軍は地球を中心に軍備増強を続け、部隊を展開している。地球圏における敵勢力が国連のみと思われていた為、宇宙の戦力はその大半を、シン・ナンナに集中させていたのだ。この部隊が削られたという事は、即ち新生連邦にとって大打撃だったのである。

 

 

 

フェイクから総司令に連絡が渡った時、彼の表情は曇りに包まれた。ただでさえ新生連邦軍はダーウィンで大敗をしているのに、シン・ナンナの戦力を削られてしまったことは彼等にとって屈辱以外の何でもなかった。

「そんな……!まさか、デウス軍が姿を現したなんて……」

自分の不覚を呪った。以前から徹底的な調査を行うべきだったと、感じた。彼が宇宙に上がり、ステーション周辺にいたディエルやゴルモンテを撃墜した時から。それを何も疑わず、結果的にシン・ナンナの戦力を削減されてしまうという最悪の結果になってしまった。

新生連邦管轄の基地であるシン・ナンナに対してデウス帝国残党という新たな勢力が出現したとなれば、戦力を補充しなくてはならない。

だが減ったシン・ナンナの被害は、彼の予想を大きく上回っており、地球の総戦力の1/4を手配しなければならない程だったのだ。ただでさえヴァイダーガンダムを失っている新生連邦軍にとってこれは致命的だった。地球には国連、そして宇宙にはデウス帝国。これらと対峙しなければならなくなった事実は、総司令であるレヴィー・ダイルに重く圧し掛かったのである。

「レヴィー様……」

側にいたソフィアは心配そうにレヴィーを見つめていた。しかし、彼女は今、どうしようも出来ない。

「……すぐにシン・ナンナに向けて失った戦力の補填を行わなければ。いや、それ以上の戦力だ……地球の戦力は大きく減るが、それもやむを得ない……」

突然のデウス残党軍の出現に戸惑いを隠せない総司令。自分の不覚、そして指導者としての力量不足。だが今更悔いても仕方がない。彼は部下達にシン・ナンナへ戦力を送るように命令した後、本部の戦力を増強するように命令した。

 この時、総司令の表情にいつもの冷静な姿が見られなかった。明らかに、焦りを感じている表情だ。ソフィアは、ただ、彼のその表情を見て不安げになるばかりであった。

 

 

 

やがて、デウス軍と新生連邦軍の対立が終わってから数日が経過した。総司令はシン・ナンナに戦力を提供した為、新生連邦軍の地球上の戦力は大きく減少した。これによって宇宙に派遣された人材も数多く存在している。何しろ、シン・ナンナは宇宙での新生連邦本部と呼ぶのに相応しい場所であり、ここを攻められては一巻の終わりなのだ。総司令ばかりではなく、新生連邦軍全体も焦りの色を隠せないでいた。

宇宙に送られた人間の中にはジークやフークの姿があった。とは言っても、ジークに関しては自らの意志で宇宙に上がったのだが。そして、地球上には大量の軍隊が残された。これらは全て国連に対する戦力である。

 

その一方で、デウス残党軍襲来の情報を聞いたエファンはあまり驚く様子を見せなかった。むしろ、まるでその事が分かっていたかのような素振りを見せた。

「デウス帝国が動き出した……か。この五、六年の間に戦力増強を続けてきたらしい。どうやら新生連邦はこれに焦っているらしいな。」

「はい、そのようですね。」

強化されたクラリスは静かに言った。すると、突然彼は歯を食い縛り、握り拳を作り始めた。

「それよりも、俺が憎んでるのは……あいつだけ……ですから……!!!」

そう言って壁を殴った。相変わらず、彼は母親やアユ、リンを殺した人間をレイだと思っている。正確には思わされているのだが、強化されている彼にとって、レイを倒すことで全てが解決し、憎しみが解放されると思っているのだ。その拳からは、レイに対する怒りが露骨に伝わっているのが分かる。

(敵意は戦う動機となる。強化されたとはいえ、元々の性格、素性というのは完全に変化は出来ないものだ。高齢者等が例え認知症になったとして、その、本来の性格というのが変えられないように。この男のレイ・キレスへの憎しみはある種、この男の言いがかりが大きいと言えるが……)

クラリスにとって、今のレイは敵だ。憎むべき、許せない敵。

確かに強化される以前のクラリスもレイを倒すべき存在だとは考えていたが、母親の敵でもアユやリンの敵でもない。ただ、部下を殺されたり、自身に屈辱を与えた存在として彼を執拗に追いかけていただけである。しかし、今の彼はレイを自分にとって大切な人を殺した存在として認識している。彼の中にある、レイに対する憎悪の度合いが依然と格段に違い過ぎるのだ。そして、事実のない中でただ、憎しみを抱かして、その感情を利用しているエファンは、残酷な存在と言える。

「別にデウス帝国が何しようが知ったことではありませんからね……俺にとって一番倒すべきはレイ・キレス……奴だけ……!」

このように、デウス残党が現れた事に対して何も興味を抱かない人間も少なからずいる。クラリスもその一人で、彼はとにかくレイを殺すことばかりを考えている。そしてエファンも、力を持つ存在の抹殺を目論んでいる。新生連邦軍全体が、この有事に対して焦りの色を見せている訳ではないのだ。

しかし実際は軍として危機的状況であり、宇宙のデウス軍と地上の国連軍を相手にしなければならないという事実は新生連邦軍発足後の大きな危機として、立ち塞がる壁の如く存在しているのであった。

 

 

 

それから更に数日が経過した頃。先の作戦で功績を上げていたメイドはアポカリプス内にある、一つの部屋に居た。彼に用意された部屋はVIPルームと呼べる豪華な造りとなっており、そこにあるベッドに端坐位姿勢で、煙草を吸いながら一服していた。

そこへ、一人の男が入って来た。アルメス・ラグナである。

「失礼します、メイド様。」

律儀に礼をする、アルメス。

「おーう、どしたんだよ。こんな良い部屋まで貰っちゃってさ。ありがてぇこって!氷河族時代じゃ考えられねぇよ!やっぱデウスは……最高やな!」

上機嫌な様子のメイド。先の戦闘で暴れることが出来た上、功績を残した事も重なり、彼への待遇は良いものとなっていた。客将と思えないような待遇。彼は、どこか満足げだったのだ。

「休憩中の所失礼します。実は、貴方に依頼したい事がありまして。」

その言葉を聞いた時、メイドはすぐに煙草を灰皿に入れ、そのまま潰した。そして、掌を広げ、アルメスに言う。

「金、いくら?」

真っ先にメイドは金の話をしてきた。金銭の存在はメイドのような傭兵には必需品だ。故に、金の話が大事になる。

「まず依頼を聞いてもらって良いでしょうか?。」

「あっそ。別にいいけどさぁ。んで、今度は何すんの?」

アルメスは、視線を下に向け、言った。

「……地球上のマスドライバー施設を、可能な限り破壊して頂きたい。」

マスドライバー。人類が宇宙に行く上で必要不可欠とされる装置。旧世紀より存在していたもので、この時代においても使用されている代物だ。

地球上のマスドライバー施設は地球の人間が宇宙へ行く為に必要不可欠なものであり、単機で大気圏離脱や突入能力を持つMSや軍艦を除けばこれらが、一般人が宇宙へ行く為の唯一の方法なのである。もしこれが破壊されてしまえば、宇宙と地球は完全に隔離状態となってしまい、地球側は、貿易はもちろん、宇宙へ住む事も一切不可能になる。

それは言わば、人類の宝とも言える存在であり、それを破壊すると言うことは誰もが宇宙へ行くことが出来るという象徴であり、手段を絶やすことになる。マスドライバー施設への破壊は国際条約違反であり、例えデウス帝国のような連邦軍の敵戦力であれど、マスドライバーの破壊は決して行ってはいけない。

破天荒なメイドもマスドライバーの価値は知っている。この時ばかりはアルメスの言動に疑問を抱いた。

「おうっ、なかなか言うじゃねえか。お前すげえこと抜かしやがんのな。マスドライバーって……言ってみれば世界遺産とかをぶっ壊すようなもんかよ。」

「ええ、そう言うことになります。しかしマスドライバー施設は連邦軍が宇宙に戦力を送る上で必要不可欠な存在です。それを破壊し、妨害する事が出来れば完全に新生連邦軍は孤立します。連中は地球でのみしか活動不可能になります。そうとなれば、我々は更に侵攻を容易にする事が出来ます。」

それは、間違いないだろう。物資を送ることが出来なくなれば現在の新生連邦の中心となっているシン・ナンナ基地はやがて消耗し、敗退する。そこをデウスが奪えば、地球侵攻に大きく近づくのだ。

「そらそうなるわな。……けどおもろそうじゃねえか。世界遺産を壊すってのもよォ。」

「……確かにマスドライバーは人類の宝とも言うべき存在です。我々もその宝を使って一度はここアポカリプスへ向かいました。」

「お前なんか詩人みてぇだな。〝宝を使ってアポカリプスへ向かいました〟って……ハハ~!なんか違和感バリバリじゃねえか。」

茶化すようにメイドは言った。

「マスドライバーは確かに、一般人に於いても宇宙へ行くには欠くことのできない存在となっています。ですが、一般人用のマスドライバーも軍艦を宇宙へ上げることは可能です。軍用のマスドライバー施設だけでなく、民間のそれらも軍が目を付ければ、やがては戦力を投入されていきます。そうとなれば、結果的には宇宙に戦力を送り込まれてしまいます。それを阻止するために、地球のマスドライバー施設を破壊して頂きたいのです。これ以上、奴等の宇宙の戦力を増やさぬ為に。」

アルメスには、デウス帝国がマスドライバーを破壊するという事実を伏せたいという狙いがあった。故に、傭兵であり、狂人であるメイドを利用する事を提案したのだ。

「一理はあるんじゃねぇ?ま、俺は大金さえ入れば世界遺産や人類の財産とかいうアホ丸出しのもんぐらいちょちょいのちょいでぶっ壊したる!あんなもん人間が勝手に言ってるだけだしな。」

この台詞から、まだ人間に対する憎悪は消えていないようにもとれる。まるで、彼の兄であるフロード・ヘヴンの意思を継いでいるかのようだ。

「……実は正直これを実行する事に罪の意識を感じております。地球にあり、連邦軍の宇宙へ行く手段であるマスドライバーですが……地球人類が唯一宇宙へ行く為の手段でもあります。いくら連邦と対立しているとはいえ、そうした遺産を破壊するなど……ですがこれはやむを得ないのです……」

アルメスは真意を語った。が、彼は語るべき相手が悪かった。金さえもらえれば何でもする男であるメイドに、そんな言葉が通じる筈がない。

「じゃあ最初からやめとけや。つーか何が人類の宝だよ。そもそも人間そのものが地球の害虫じゃねえか。糞みてぇな連中が宝とか言ってしょうもない世界遺産とか残してやがんの。アホもいいとこ……。まあ、自然に出来た山とかはともかく、人間が作ったもんなんて価値なんてねえからさ、金くれたら壊してくる!」

マスドライバーを破壊する行為自体に、罪悪感を抱くアルメス。だが今後のデウスの事を思えばやむを得ない出来事だ。しかしメイドはこれを快く了承する。それは分かっていた筈なのに、どこか、納得が出来ない様子だった。

「……確認したいのですが、貴方はこれをどう思いますか。本気で、楽しいと思いますか?それとも、罪の意識を感じますか。」

突然の台詞に、メイドは睨むようにアルメスを見た。

「はぁ?てめえが言っといてなんでそんな事聞いてくんだよ!優柔不断って奴じゃねえかオイ!」

それは事実だ。この作戦を提案した事に、アルメスは葛藤しているのである。人類の宝を破壊する事に対して罪悪感を抱く。しかし、行わなければデウス帝国は進めない。これもまた、矛盾なのである。

「あれか?作戦は行うけどそれを実行するのは辛いって思えと言いてえのかよ?んなもん俺が聞くと思ってんの?アホ丸出しじゃねえか。俺はな、てめえみたいなクソ生真面目軍人とは違う訳で。つーか、結局破壊するんだから辛いなんて思う方がおかしいんだよ。嫌だったら最初からこんな内容の任務押しつけんなっつー話だよ。」

メイドの意見は間違っていない。辛いと思うのならこのような内容の任務を押しつける方が間違っている。これに対してはアルメスは何も反論が出来なかった。

「一人前の軍人たぁ思えねえよなぁ。だらしねぇな!?結局てめえは同情を誘ってるだけ。世界遺産がどーなろうと知ったことじゃねえだろうが。それともあれか?可哀想に思って善人ぶるっての?そーいうのな、偽善者っつうんだよ。そっちの方がよっぽど悪どいぞ。」

確かに、これから行うことに対して罪を感じつつ行動を起こすということは、その行動に対するせめてもの善意と言う形で誤魔化しているに過ぎない。結局それは偽善ともとれ、起こす行動には変わりないのだ。今回は乱暴ながら、メイドの意見の方が正しかった。アルメスは自身の言動を反省した。マスドライバーという偉大なる存在を破壊することに変わりはないのだから、それを堂々と行うべきだと決心したのである。

「……払いましょう、報酬金を。」

彼の言葉を聞き、アルメスはやむを得ない様子で言った。

「そうそう、ちゃんと依頼するならそれ相応の条件を伝えねぇとな!ちゃんと働くからなァ!」

メイドは、上機嫌だ。しかしアルメスはどこか、複雑な表情を浮かべているのだ。

「じゃあ行ってくらぁ。出来るだけ手っ取り早く終わらせてやんよ。言った以上はちゃんと義務は果たせよ。もし俺のマスドライバー破壊に嫌気が刺して作戦中止とか抜かして、金用意しなかったら殺すぞ!あ、寄り道するかもしれねぇ。まあ、でも仕事はやるかんな!!!ハーッハハハハ!!!」

メイドは念を押すように言った。アルメスの不安げな表情に苛立ちを覚えた為である。マスドライバーという、人類の宝とも言えるべき存在を、提案に対して平気で破壊しようとするメイド。一方で、この男の行動に納得のできないアルメス。だが、結局行うしかない事実であるのならば、メイドの方が考えとしては正しい。不本意ながら、アルメスはメイドにマスドライバー破壊を行わせたのだった。

 

その後、メイドはすぐにデスゲイズの収納されている格納庫へ向かい、すぐにコクピットの中に入った。金の話や、今から行う事に対する重大な出来事に対する高揚は計り知れない。

「面白れぇじゃねえか!人類の宝とかいうもんを破壊できるなんてさァ!!!そりゃあ人間は面白れぇもんいっぱい作ってきたぜ?旧世紀に発行された漫画とかはそりゃいいもんよ……特に名言とかぐっとくるぜぇ。ケドなァ!結局害虫なんだよな人間ってさァ!そんなのの遺産とかどーでもいいんだよなァァァァァ!行くぜオラァ!!!」

 

ビゴォン

 

デスゲイズはそのままカタパルトから発進。やがて宇宙空間に出たと同時にすぐにMAに変形した。そしてバーニアの出力を上げ、機体のスピードを更に加速させ、そのまま地球へ向かう。ただ、己の報酬の為に、この男は人類の宝と呼べるマスドライバーを破壊するのである。




第七十二話、投了。
デウス帝国残党軍が本格的に動いていく、話。新生連邦に圧されつつも、その絶対的な数を減らし、新生連邦は次第に窮地に追い込まれていく――
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