決戦の朝を迎えた。国連軍は既に戦艦の配備を終えており、いつでも新生連邦本部を攻める事が出来る状態になっていた。ウィレスも言っていたように、今回は新生連邦の戦力を一気に削るのではなく、徐々に削っていく作戦を行っていく。攻めてきた相手に対して新生連邦は本部の守りを薄めてまで前線まで攻めてくることはないと想定された為、こうした戦力を叩きつつ後退していく作戦である。これにより、確実に新生連邦の戦力を奪っていくことで、最終的な目的である新生連邦本部の陥落を成し遂げ、地球上に新生連邦の勢力を無くすことに繋がっていくとされている。
だがここで新生連邦の戦力を無くしても総司令が生き残っている限り、宇宙に残存している生連邦の部隊を率いる可能性がある。つまり、今回の作戦は本部の陥落と共に、総司令の確実に抹殺する事も目的であったのだ。
新生連邦総司令であるレヴィー・ダイルはガンダムナパームのパイロットである。その事実は、新生連邦内以外では実は余り知られていない。国連軍は本部を陥落させた後に総司令のいる部屋まで兵士を派遣し、殺害する事が目的である。だがガンダムナパームに乗っている限り、指令室にいる総司令を見つける事は不可能である。普通、軍の総司令といえる立場にある人間はMSに乗っていては戦場にて敵機に墜とされる可能性があり、危険ご伴う立場である。しかしレヴィー・ダイルはその技量の高さ故に、ガンダムナパームのパイロットを務めている。つまり彼にとっては指令室に居るよりも、MSのコクピット内が一番安全な場所であると言えるのだ。
今回の戦闘が始まっても総司令はガンダムナパームに乗って戦う。総司令の居ない本部を陥落させても、戦力は確かに削られるが新生連邦政府軍を動かす事に関しては総司令が存在する限り、その戦力が大多数を失わぬ限り、問題は無いと言えるのだ。
「ラスベガス周辺のモハーヴェ砂漠部隊は徹底した陽動を行え!それと、アインスガンダムのパイロットはやられぬように、出来るだけ前線で攻撃。それ以外の部隊も、陽動作戦に徹しろ。目的は敵戦力の確実な削減である。では、健闘を祈る。」
国連の将軍、ウィレス・レイド・アースが全てのパイロットや戦艦に対してこう言った。それは、今から始まる最大規模の新生連邦軍と国際平和連合軍の戦闘の始まりを意味していた。
国連軍の機体の大半はヴァントガンダムである。だが、中には新型機体の姿が見られた。
その機体の名は、ハイエッジと言う。
ハイエッジ。型式番号PFMS-B97。ヴァントガンダムの後継機種として開発されたMSである。そのカメラはガンダムタイプのようなデュアルアイではなく、バイザーセンサー式を採用している。先行の量産機であるヴァントよりも遥かに軽量で、機動性に富むMSである。国連の陽動部隊のハイエッジ部隊はカメラを輝かせ、滞在していた新生連邦の部隊に対し、一斉にビームライフルを射出した。
突然の強襲に出撃が遅れる新生連邦軍。新生連邦側もジョゼフやエグゼマーなどを投入するが、その戦力は著しく削られていた。
「強襲だと!?国連の勢力か!?」
「数は三十!しかしここは本部に近い場所です!普通に考えて奴等がたった三十機だけで本部を襲ってくるとは思えないのですが……」
「迎撃だ!奴等め、腰抜け同然の平和主義でも唱えてれば良かったものを!」
本部護衛部隊の司令官は懸命に指揮をし、国連軍に対して迎撃をするように兵士達に命令する。
最初の攻撃は成功した。本部の前線基地の戦力を削る事に成功した国連軍は一度後退する。そして次の部隊が出撃。この中にハイエッジの姿が多数見られた。そして先程と同様に強襲を行い、新生連邦の戦力を少しでも奪っていく。
この動きに疑問を抱いているのが、新生連邦総司令であるレヴィー・ダイルである。国連軍の怪しい動きに首を傾げていた。
「何かがある……本部の前線基地を突然攻撃するなんて。これは一体……」
その時、その側にいたソフィアが言った。
「レヴィー様、ドゥーリア少佐が……」
そう言われて、彼は後ろを振り向く。そこにはエファンとクラリスの姿があった。
「総司令。奴等の迎撃はお任せ下さい。我が隊を投入させます。」
「……分かりました、お願いします。」
するとエファン達はその場を去った。総司令の姿が見えなくなった場所で、クラリスが言う。
「少佐の仰せの通りでしたね。やはり国連軍は総攻撃を……」
「ああ、しかし思った以上に小規模な戦法だな。いや、本隊はもっと後ろにいると考えるべきか。奴等は陽動。確実に削ろうとしているのだろう。だがそれも無駄な事……」
「カーティウス……ですか?」
「それ以外にもいる。さて、クラリス。国連の陽動部隊の相手は奴等に任せ、我々は別の場所へ向かうか。」
「ハッ。」
そう言って二人はその場から消えた。エファンは既に国連の作戦を見抜いており、自身の部隊を派遣して陽動部隊を攻撃すると言った。しかし何故彼は陽動部隊の迎撃に参加しないのだろうか。それは、側近のクラリスにも分からないのである。
エファンの部隊が加勢に入った事により、国連軍の戦力は押され気味になっていた。と言うのも、この中にはエファンが開発に関わった、新型MSであるカーティウスが二機、そして特殊強化モデルのダウーラが乗るアーヴァインが一機、存在していた為である。いずれも強力な性能を誇り、国連軍を圧倒していく。
特に、カーティウスは二機共に大型のプラズマカノンを所持しており、今その照準が国連のティアマット級に向けられていた。二機のカーティウスはフェイスマスクをし、照準を正確に狙う。
ドオオオオオオオオオオオ
高出力のプラズマカノンをティアマット級に向けて射出。するとこれらはいとも簡単に撃墜された。この事態に慌てる国連の兵士達。そこへダウーラの乗るアーヴァインが大型ビームライフルを持って迫ってきていた。
「ハハハ……待ってたんだよこういうのをなァ!」
大型ビームライフルを連射させ、次々と国連のMSを墜としていくアーヴァイン。ハイエッジ達は背部の可動式ビームキャノンをアーヴァインに撃つが、バリアーフィールドジェネレーターによってこれらは弾かれる。
「待った甲斐が、あったもんだな。」
そう言った後、アーヴァインはビームサーベルを展開し、近くにいたヴァントガンダムのコクピットを切り裂いた。ハイエッジはその機動性の為か、アーヴァインの攻撃を避ける事が出来た。
国連にとって脅威はアーヴァインだけではない。二機のカーティウスも彼等に猛威を振るっていた。カーティウスの足底部はクローになっている。その独自の機動性を生かしてハイエッジに追い付いてはクローを展開して挟み、そこからビームを放出した。零距離からのビーム砲撃をまともに受けたハイエッジは破壊される。
更に、もう一機のカーティウスはガンダムタイプと同様のツインアイを輝かせ、プラズマカノンにも変形する大型ビームランチャーを連射し、ヴァントガンダムやハイエッジを破壊していく。
「敵の新型機か……!な、なんて性能なんだ……!」
「敵戦力を削るのが今回の目的だ!無駄な犠牲を出す必要は無い!無理だと分かれば撤退をしろ!」
「りょ、りょうか……うわああああ!!!」
国連の兵士がその場から離れようとした時、アーヴァインが迫ってきていた。その兵士の乗るヴァントガンダムのコクピットを鷲掴みし、ハンドビームキャノンを連射してそれを破壊した。
「逃げるなよ、せっかく戦ってるのに……イライラするだろうがッ……!」
エファン・ドゥーリアが開発したこれらのMSに苦戦する国連軍。彼等は、新生連邦本部の猛威に圧倒されているように思われた。
しかし、超大型戦艦であるアッサラーム内に存在している作戦本部は引き続き部隊を派遣するように命令していた。エファンの開発したMS部隊による前線を強行突破し、その先にいるMS部隊の数を減らす為の作戦に出たのだ。無論、それはリスクが大きい。
敵戦力を確実に減らしていくのが今回の作戦である為、戦力を投入しなければ敵戦力を削る事は不可能である。従って、リスクを背負ってでも戦力を投入する必要があるのだ。
作戦本部は戦力投入を命じた。それを命じたのは将軍であるウィレスである。だが彼女は、また別の作戦を考えている様子だった。
その頃、アレンはブライティスガンダムのコクピット内で待機していた。まだ出撃許可が下りていない為である。これも、ウィレスの命令によるものであった。コクピット内で彼が待機していると、ジャンヌがコクピット内のウインドウに映っていた。彼女がアレンにメッセージを伝える為に、ブリッジから無線で連絡をしてきたのである。
「アレン、聞いてはいると思いますが出撃は許可が下りるまで決して行ってはなりません。」
「ああ、分かってるよ。〝あれ〟の出撃もしていないからね。」
「ええ……そうですね、では、気を付けて下さい。」
そう言ってジャンヌからの連絡は切れた。〝あれ〟とは、彼等の中でしか分からないキーワードであり、それが明らかになるのはこの戦争がもう少し進んでからになるであろう。アレンは、その時が来るまでブライティスのコクピット内でじっと待機を続けるのであった。
増援の存在により、国連軍はドゥーリア隊の猛威を潜り抜ける事がどうにか出来た。その先には新生連邦軍の量産機体が多数配備されており、これらを確実に破壊していく。増援の中のハイエッジは三機小隊で、背部に装備されている上下の可動式ビームキャノンをこれらが一斉展開すると、新生連邦のジョゼフやエグゼマーはこの攻撃をまともに受けて破壊された。しかしその直後に新生連邦側の新型機であるグランシェがビームマシンガンでこの小隊の内の一機を撃ち抜くなど、この戦いは熾烈を極めた。
戦力は削ってはいる。しかし、その分の犠牲が大きい。敵は予想以上にMSのバリエーションが多い上に、高性能MSが多いのだ。その最もたる例がカーティウスと、ダウーラの乗るアーヴァインである。カーティウスには強化モデルのパイロットが乗っている為、シンギュラルタイプ並の反応速度で対応するため、並の人間が太刀打ちする事は非常に難しい。
「そろそろ雑魚狩りも飽きたな……ガンダムタイプはいないのか?」
アーヴァインが倒しているのは量産機体であるヴァントガンダムである。ガンダムと冠する名前であるが、機体性能はツヴァイやブライティスと比較しても圧倒的に劣る能力であり、この男の言う〝雑魚〟同様なのである。
その一方で二体のカーティウスがビームランチャーを腰部にマウントし、一方が両肩部から拡散メガビーム砲を放出し、もう一方はビームサーベルを側腰部から抜いてハイエッジに対して接近戦を試みる。
追い込まれたハイエッジはビームサーベルでカーティウスとビーム刃同士の打ち合いを行うが、カーティウスの方がバーニアの出力が大きく、ハイエッジは明らかに押されていた。
「墜ちろ!雑魚が!」
「だ、ダメだ!強すぎる……!」
激しく火花を散らすビーム粒子同士の激闘の結果、圧倒的な出力差でハイエッジは敗北した。ビームサーベルは弾かれ、カーティウスはそのままハイエッジの胴体を切り裂いた。ハイエッジは爆発し、破壊された。撃破した際、カーティウスはツインアイを赤く輝かせた。
拡散ビーム砲を放ったカーティウスは、二機のヴァントガンダムにダメージを与えていた。だがこの攻撃によるダメージを受けたはずの一機のハイエッジはビームシールドで防いでいた。この直後に背部の可動式ビームキャノンを放出するが、カーティウスは前腕部を差し出してこの攻撃を弾いた。バリアーフィールドジェネレーターである。
「馬鹿な!?奴等一体何機バリアーフィールドジェネレーターを搭載している機体を所持してるんだぁ!?」
その焦りが命取りとなった。ビームランチャーを構えていたカーティウスにそのハイエッジは撃ち抜かれ、撃墜されたのだ。
だがこれらは全て陽動部隊に過ぎない。この三機が奮闘している間も国連軍は多数の戦力を投入して新生連邦のMSを撃墜していく。そして、ある程度撃破したら離脱していく……この繰り返しで確実に戦力を削っているのだ。
だが、エファンの作り出したMS以外にも強力な機体は存在する。その例がグランシェである。グランシェ一機を破壊するのに、四機のMSが犠牲になっているのだ。この戦闘域にはグランシェは三機いる。幸い全て撃墜されているが、その分の犠牲が大きかった。
戦闘が始まって二時間が経過。確実に削っていく国連に対し、戦力を少しずつ投入していく新生連邦。ここまでは国連の思惑通りにシナリオが進んでいた。そして、ウィレスは次なる作戦を指揮する。
「セイントバード、シュネルギアの用意だ!いよいよ本格的に攻撃を開始する!!」
遂にセイントバードとシュネルギアという、主力のガンダムタイプが搭載されている戦艦が動く。これは国連が本気を出すと言う証拠であった。しかし、一人の国連兵士がウィレスに言った。
「しかし将軍、セイントバードはロサンゼルス沖にて待機の筈では?」
「黙って見ていろ。」
ウィレスの言葉に、兵士は黙った。しかし、兵士の言う通りセイントバードはロサンゼルスの沖で待機している筈である。何故ウィレスはセイントバードと言う言葉を発したのか。アッサラームのブリッジにいた者は皆疑問に思っていた。
国連の本隊とは別働隊として動いている、モハーヴェ砂漠上空にて。国連の本隊が動き出したかのように、今までの増援よりも明らかに多くのティアマット級の姿が見られ、それらの中にセイントバードとシュネルギアの姿があった。これらから多数のMS部隊が出撃した。
モハーヴェ砂漠では、スバキの乗ったアインスガンダムが砂漠仕様に換装して出撃していた。命令通りに彼女は行動を開始する。
「アインスのこの換装は私が乗るのは初めてだよな……」
キシィン
アインスはカメラアイを輝かせ、ビームランチャーを構えた。その時、アインスのレーダーに三つの熱源反応が確認された。敵MSである。
これらはアインスに向けてバズーカを放ってきた。急いで回避し、スバキはビームランチャーで狙いを絞り、撃った。幸いにもこの攻撃が命中し、敵機体は破壊された。だが敵の攻撃はまだ続く。残った二つの熱源からのバズーカ攻撃が再びアインスを襲った。これらを急いで避け、ビームランチャーで狙うのだが今度は回避された。
「隠れて攻撃ばっかりして!こうなったら近付いてやる!」
そう言ってアインスはバックパックからビームサーベルラックを抜き、ビーム刃を展開して熱源に迫った。ブースターの出力を上げ、熱源に近付く。やがてスバキの視界に映ったその熱源の正体は、ディザートディーストだった。
「砂漠仕様のディーストかよ!こんな奴ッ!」
アインスはブースターの出力を上げる。ディザートディーストは慌ててビームサーベルを構えるが時は既に遅く、胴体を切り裂かれてディザートディーストは破壊された。
「後、一機!」
そのままビームランチャーを構え、照準を合わせる。ウインドウに〝Lock on〟と表示されると、引き金を引いた。ビームランチャーの光が残り一機のディザートディーストを撃墜した。
その様子は新生連邦本部に映し出されていた。アインスガンダムの存在、そしてその背後に存在するセイントバードとシュネルギア、そして多数のティアマット級。間違いなく、総攻撃を掛けてきたと総司令であるレヴィー・ダイルは判断した。
だが更に気になったのは、シュネルギアの上にはブライティスガンダム、セイントバードの上にはツヴァイガンダムの姿があるということだった。しかし動く様子もなく、ただじっとしているだけである。総司令はこの存在に疑問を抱いていた。
総司令の居る部屋とは別の場所ではこれらの存在が確認された時、今まで新生連邦のMS部隊派遣の指揮を送っていたフーク・カズロブは苦渋の表情を浮かべていた。その側にはジーク・アルナスの姿があり、フークの指揮能力がどの程度のものかを見ていた。
「大佐。国連はどうやらここを制圧する気でいるようだな。どうする?貴官なら……」
「と、当然……MS部隊を発進させますよ……それも先程とは比べ物にならない数を!奴等を抹殺しなければ……ね。」
フークはヴァイダーガンダムを撃墜されたということで、自らの地位の危機的状況に立っていた。この男の上司であるジーク中将は彼に再び与えたチャンスという形でこの男にこの状況をどのように打開するかを見ていた。
そこへ、ダリア・ローゼントが部屋に入ってきた。ジークに対し、彼女は言う。
「ウイングイーグルの発進の許可を。敵に主力艦の姿が確認されました。我々もウイングイーグルで迎撃に当たります。」
「そうだな……許可をする。」
「ハッ。」
そしてダリアは敬礼してその場から去る。その直後にジークがフークに言った。
「大佐、そう言えばもう一隻ヒエラクス級があったな。」
「アームズクロウですね……最近製作されたヒエラクス級ですが……」
「その艦に貴官が乗り、指揮してみてはどうか。この場で指揮するよりはよいだろう。いつ陥落するか分からない場所にいるよりは……な。私も同乗する。」
「中将も、ですか……?」
フークは驚く表情を隠せなかった。それを見抜かれ、ジークは言う。
「何を驚くか。貴官の上官は私だ。ヴァイダーガンダム撃墜の件を忘れた訳ではあるまいな?貴官の指揮が我が軍を勝利に導くようなことであれば、以前の失敗を挽回出来るのだぞ?その上、私が同乗しているから嫌でも証人となる。」
「……ハッ……」
フークは小さな声で言った。やがて彼等はヒエラクス級の新造艦であるアームズクロウに搭乗し、迫る国連を迎撃する為に向かっていく。
ヒエラクス級戦艦であるウイングイーグルとアームズクロウが発進した。その内のアームズクロウ内部ではジークがフークに対して喋っていた。
「大佐、私の言っていた事が現実になったな。デウス帝国の侵攻……我ながら驚きだ。そのおかげで今や新生連邦は危機的状況にさらされている。」
「た、確かに……そうですね……」
「多くのMSのバリエーションを持ち、尚且つガンダムタイプにも恵まれたこの新生連邦が今や境地に追い遣られている。この国連の作戦が成功すれば新生連邦の地球の居場所は事実上無くなってしまう事だろう。それは大きな歴史の変化と言っても過言ではない。そう、貴官がダーウィンにて指揮をした作戦のように、現在の新生連邦はその強大な戦力故に油断をし切ってしまっていた。多数の機体にガンダムタイプが五機、そしてヴァイダーガンダムの存在といった完璧な部隊だったにも関わらずヴァイダーガンダムは破壊され、その結果国連に敗北した。何故か?それは貴官が最悪の事態を一切考えなかったからではないのかね、フーク・カズロブ大佐。」
フークは握り拳を作り、引き釣った表情を浮かべた。事実、彼は以前に指揮した部隊に対して自身を持ち過ぎていた。これ程の戦力が負ける筈がない……そう思っていた。だが現実は敗北。ヴァイダーは破壊され、リノアス・クリストルも失った。敗因の一部には、彼の絶対的な自信によるものがあったと考えられる。
「し、しかし……まさかあれほどの戦力が敗退するとは思えませんよ……自分でも驚くばかりです。」
「どうやら、私の忠告が甘かったようだな。〝指揮官は常に最悪の状況を想定して戦え〟。私は言ったはずだが……それを聞かなかったようだな。」
「……ク……」
図星だ。だからこそ、反論も何もできないのである。
「……結局、今の新生連邦の有様も油断によるものと考えられる……な。戦力を増強し過ぎた結果油断が生じ、それによって隙を見つけられた結果がこれだ。まあ、仮に本部を制圧されても総司令が生き残れば何の問題もないのだが……彼が宇宙の部隊と合流し、指揮すれば問題は無い。新生連邦にとって何よりも重要なのは総司令の存在だからな。」
ジークのその言葉に対して、フークは言う。
「総司令……ですか……あの……若過ぎる……」
「ん……そうだ。貴官は不満かね、レヴィー・ダイル……彼が総司令であることが。」
「……ええ、そうですね。正直に申し上げるとあの若い存在が新生連邦の総司令と言う事が信じられませんよ。普通は有り得ませんよ、こんな事は……ね。」
フークは総司令の存在を忌み嫌っている様子だった。大多数の者と同様、やはり彼の若さが気に食わない様子であった。
「だが彼がいるからこそ今の新生連邦があったことを忘れてはいけない。有能だよ。無能ならば新生連邦は新生連邦として成り立っていない。年齢など関係ないのだよ……実力が有れば、何でもな。」
「……私は中将こそが……総司令をされるべきだと私は思いますがね。」
今の総司令の存在にどうしても納得できないフークは、ジークこそが総司令にふさわしいと言い始めた。急に上官であるジークをおだて始めたフークの言葉が彼にとって疑問に感じられる。
「ほう、そう言うか。」
「中将は長い間連邦軍に在席されています。私はそれだけ長い間軍に在席されている中将こそが総司令に相応しいものだと考えます。」
「だが現実はあの若い青年が総司令だ。しかも有能な存在である。彼に従う事こそが、正しいのさ。今はな。さて、雑談はここまでだ。御手並みを見せてもらおうか、カズロブ大佐。」
フークはこの言葉に対して何も言い返すことなく、数秒口を閉ざした後でブリッジにいたクルー達に対し、命令した。
「アームズクロウ前進せよ!国連の部隊を叩く!MS部隊は展開せよ!」
アームズクロウのMSの中には、デスペナルティガンダムとバイラヴァーガンダムの姿も見られた。デスペナルティのパイロットであるニッカ・ドレイクは先の戦いで右腕を失っており、義手が付けられていた。今回の出撃までにある程度の訓練は受けており、MSを操縦するのに支障はない。一方のハーディもやる気は十分だった。
やがてアームズクロウからグランシェをはじめジョゼフ、エグゼマーが発進し、そして特殊強化モデル用のガンダムが二機発進した。いずれもがカメラアイを怪しく輝かせ、迎撃に移る。
「ころぉす……ブチころぉす!!!」
失った右腕の事を思い出し、ニッカは出撃前から激怒していた。歯を食い縛り、出撃後は敵機もいないのにビーム砲を連射するといった異常な行動を起こしている。
一方のハーディは久しぶりの戦闘でテンションが上がっていた。
「ヒィィィハァァァ!!!殺すぞォ!!!」
ビゴォン
アトミックはモノアイを輝かせ、最初の標的を狙った。目標を確認した瞬間、ビームランチャーを構えてそれを放出し、標的であったハイエッジは破壊される。
デスペナルティはヴァントガンダム二機に接近し、二重大鎌で胴体部を切断し、この二機を一度に破壊した。
「次は、どいつだぁ!?!?!?」
腕を奪われた事に対する憎悪が彼を動かしている。ただでさえ精神的に不安定な特殊強化モデルであるのに、憎悪に支配されている。最早、この男を止める事は出来ない。敵に対する殺意を露出させ、ニッカはデスペナルティで敵機を破壊し続ける。
しかし国連軍は国連軍なりに対処法も取っていた。ガンダムタイプが相手では国連側としても分が悪い。だからこそ、ガンダムタイプには近付かないように命令したのだ。戦力の削減が主な作戦の目的である。勝てるはずのない敵に攻めるよりは勝てる相手を攻める方が確実に勝率は上がる……将軍であるウィレスはこのように考えていた。
アインスに乗っているスバキは空中を見ていた。先程とは全く違う空の様子。そこには敵軍の数多くのMSが空中を駆けている姿が見られた。それだけではない。地上へ降下していくMSの姿も多数見られた。それらはいずれもモハーヴェ砂漠に降下していく。地上部隊が動き始めたのだ。
だが砂漠にいるのはスバキの乗るアインスと、地上用に改修されているヴァントガンダムが数機のみ。敵が多くなれば、いくらアインスとはいえこの先不利になる事は明確だった。
「増援か……くそう!……ハッ……!」
その時、レーダーに熱源反応が確認された。それはアインスの後部に存在しており、それはアインス目がけてビームライフルを発射した。素早くそれを避け、ビームランチャーを熱源に向けて発射した。しかしこれは避けられてしまう。
「この野郎ォ!」
敵機は陸戦型のディープシーだ。更にその後ろにはディザートディーストがモノアイを輝かせてアインスを見ていた。そして、バズーカを構えてアインスを狙う。
その攻撃は最初、スバキからは死角だった。だが彼女の頭の中で電流が流れた瞬間、その方向に頭部機関砲を発射。バズーカの弾は爆散した。もう一発撃とうとするディザートディーストだが、アインスがビームランチャーを撃ったため、この機体に二度目はなかった。ビームによって貫かれ、爆発してディザートディーストは散った。
「はぁ、はぁ……今は戦うしか……ていうかエリィ達は何をやってるんだよ!」
一人、セイントバードチームから離れ、モハーヴェ砂漠で戦いを強いられているスバキ。今はアインスガンダムの機体性能と己の力を頼りに戦うしか出来なかったのだ。
その間にも破壊されていく、ヴァントガンダム。増援も来ない状況で、彼女は次第に追い込まれていく。敵の増援に対し、この場で対応しているのは彼女一人。何故、増援が来ないのか?
「クソッ!このままじゃジリ貧でやられるだけだ……なんで増援寄越さないんだよ!なんで……!」
彼女が戦闘を行う中で抱く、一つの疑問。何故増援が来ないのか。彼女一人が新生連邦と戦わなければならないのかという事である。
その思惑には、国連の上層部が関係していた。セイントバードチームの中で、アインスに乗るスバキのみを砂漠の部隊に配属した理由。それは、ウィレスとは異なる国連上層部の采配によるものであったのだ。
「砂漠で善戦しているアインスガンダム。あれは元々新生連邦のMSなら、それを奴等は狙うだろう。」
「数機のヴァントガンダムをとりあえず配備しておいて、囮になって貰えばそれで良いでしょう。忌むべきガンダムタイプを排除出来るのならば、それもまた良し。時代はハイエッジだ。ガンダムにはご退場願おうか……」
「戦場では何が起きてもその真相等、分かる筈がありませんからな。」
「サイラックス社からの献金もある故に、旧式には退場してもらい、その上で性能評価も出来る。これはまさに、一石二鳥と言うやつですな!ハハハ……」
国連の上層部の会話。それは、アインスとヴァントを囮として新生連邦と交戦しろというものだった。つまり、使い捨ての駒として彼女は配備されていたのだ。
アインスガンダムは新生連邦の機体。そして、彼等はヴァイダーガンダムの件等も相まって、ガンダムタイプを忌み嫌っている。その忌むべき象徴を使っている事に嫌気が差した人間達が国連の上層部の一部には居たという事になる。
「ハイエッジの実力さえ見せつけ、ガンダムタイプにはご退場願おう。今でこそアース将軍が指揮をしているからこそ“あの二機”は利用価値があるが、所詮奴等もガンダムタイプ……」
ガンダムタイプを忌み嫌い、それを使って攻撃をするという事に嫌気を差していたとされる国連の一部の上層部は、まさに己の都合でガンダムに乗る兵士達を使い捨てようとしているのだ。こうした戦争の中でも、それぞれの思惑が蠢いていたりする。人という存在の愚かさがここでも露呈しているのだ。
ハイエッジ。国連軍の最新兵器。この機体がロールアウトされた背景の一つに、連邦軍独自の機体とされるガンダムタイプを模倣した機体を国連が使用している事に反対している者がいるという背景も存在しているのだ。
当然、スバキはこの事を知らない。故に、彼女は戦い続けるのだ。
砂漠での戦いではアインスが次第に圧されていく。新生連邦の機体の数が次第に増えていき、マドラ級から降り立っていくのだ。
アインスはビームランチャーを構えてこれらに対抗しようとするが、そのままではエネルギー切れも避けられない。
「クソッ、もう粒子残量が!補給も来てないのかよ!?これじゃまるで捨て駒じゃないか……!」
それは事実なのだ。彼女は捨て駒として扱われているに過ぎない。彼女を助けようにも、セイントバードチームは遠い場所にいる。このままでは新生連邦に殺されてしまう。そして、国連の思惑にも――
ビゴォン
その時、目の前に陸戦型のディープシーの姿があった。彼女は、油断をしてしまっていた。敵機体はビームサーベルを構え、アインスに迫ろうとしている。
対抗策としてこちらもビームサーベルを展開しようとする。しかし――
「しまった!粒子残量が!」
ビーム粒子の量が僅かだったのだ。その為、本来の出力を発揮出来ない。このままでは敵機体と打ち合いすら出来ない状態のまま、コクピットを焼かれてしまう可能性があった――
バシュウウウッ
その時、一筋の光が差し込んだ。別方向からのビーム粒子がディープシーの前腕部を貫いたのだ。
その方向を見る、スバキ。そこに居たのは、国連の新型機体、ハイエッジだったのである。
「掴まれ!」
その時、パイロットからの声が聞こえた。スバキは僅かばかり困惑する様子を見せる。
「え……?」
だが、それが命取りだ。駆動系が生きていたディープシーは再びアインスを狙う。今度は、右手部に把持しているビームライフルを構えるのだ。
「チッ!」
ガシィン
すると、ハイエッジのパイロットは、そのままアインスの左手部マニピュレーターを把持するように機体を動かし、そのまま空中に持ち上げたのである。
この行動は、この場からの脱出だ。補給も期待出来ない状況でこのまま敵に倒されてしまうよりは、生き延びるべきだという、パイロットによる咄嗟の対応だったのである。
「お前……」
助けられた。それは感謝しなければならない。だが、スバキの言葉に対し、パイロットは無言のままハイエッジを駆っている。この行動に、彼女はただ、困惑しつつも安心している様子だったのだ。彼女は国連の腐敗した一部の上層部の思惑通りにならず、生還する事に成功したのである。
新生連邦は国連の部隊に応じて先程以上の戦力を投入していた。国連と違い、新生連邦はMSのバリエーションの多さと数で勝っている。そのような戦力が集まれば国連の敗北は濃厚に思われたが、あくまでも敵戦力を確実に削るのが今回の国連側の主な目的である。一機ずつ、確実に敵機を破壊していく国連軍。だがその一方で新生連邦の新型機体であるグランシェをはじめ、エグゼマーやジョゼフが国連のヴァントガンダムやハイエッジを破壊していく。いくらハイエッジが新型だとは言え、数で攻められれば勝ち目など見える筈がない。更に新生連邦にはエファン・ドゥーリアの手駒と言える部隊や、特殊強化モデルの搭乗しているガンダムタイプまで存在しており、国連は徐々に押されていく。
「将軍!何故アレン・レインドは攻撃をしないのです!?シュネルギアの上にぼうっと立っているだけでは意味がないんです!それにあの白いMSも同様じゃないですか!」
「……そうだな……そろそろ動かさせるか。セイントバードとシュネルギアを起動させろ。ブライティスガンダムとツヴァイガンダムもだ!」
ウィレスの命令により、何故か立っているだけだったツヴァイとブライティスが起動した。それと同時にセイントバードとシュネルギアも起動する。
その場にいた士官はウィレスが切り札を発進させてくれた事により、少しだが落ち着いた。
セイントバードとシュネルギア。この二隻は今まで数多くの戦場を生き抜いたということで、新生連邦の間では有名な存在となっていた。その上、この二隻の周辺には切り札とも言えるガンダムタイプである、ツヴァイとブライティスが空を飛んでいる。遂に攻撃を開始したと判断した新生連邦はこれらを中心に攻撃を仕掛け始めた。
「遂に動き始めたか!各機に告ぐ!奴等さえ墜とせば国連の戦力は大幅に低下する!確実に仕留めろ!」
フークは指揮下のMSパイロット全員にこう言った。その様子を、ジークは静かに見ていた。
セイントバードは機関砲を使って弾幕を張り、敵を寄せ付けないようにしていた。それはシュネルギアも同様である。だがその状態で停止する様子もなく前進していくので、国連の兵士は疑問に思っていた。
「奴等は特攻をする気なのか!?」
「そんな馬鹿な!何を考えている!?」
無理もない。切り札である筈の戦艦が前線に向かっているのだ。多数の敵が待ち受けているのに、それは無謀と言う言葉で片付けられてしまう。
「よさないか!あんたらがやられたら国連の戦力が大幅に低下するんだよ!」
一人の兵士が言った。だがそれでも無視してセイントバードとシュネルギアは弾幕を張りつつ、ビーム砲を敵部隊に向けて撃ち続ける。
この兵士が言ったように、今回の国連の中ではセイントバードとシュネルギアは戦力の要となっている。今までの戦いを知っているからこそ、このような台詞が出てくるのである。
だがそうだと言われてもセイントバードとシュネルギアは無視をして前線に向かい続ける。それに合わせてツヴァイとブライティスも向かっていく。それは最早撃墜されに行くようなものだ。
この不可解なセイントバードとシュネルギアの行動に、フークは笑みを浮かべつつも疑問に抱いていた。明らかな自殺行為……国連はあくまでも軍属でないこの二隻を使い捨てにし、何か別の作戦を考えていると彼は考えていた。とにかく、迫ってくるのならば撃墜させるのみ。フークはこの二隻に集中砲火を浴びせるように命じた。
敵機のエースが迫ってきている……それさえ破壊すれば新生連邦にとって戦況は大きく有利となる。その為にも、兵士達は必死にセイントバードとシュネルギア、そしてその周辺に存在しているブライティスとツヴァイに攻撃を加えた。大型の的である戦艦二隻はビームライフルなどの攻撃を受け、艦の各所で爆発が起きていた。一方のツヴァイとブライティスはビームライフルを撃つが、この攻撃は敵MS部隊には当たらず、常に回避され続けている。
「こいつら……動きが変な気が……」
「気を付けろ!こちらが油断している隙にサイコミュ兵器を撃ってくるに違いない!とにかく破壊しろ!調子に乗らせるな!」
戦う兵士達からすれば、この二機は脅威だ。奇妙な動きをしているこの二機だが、余裕のない兵士達から見ればそれはわざとやっているようにも見える。油断をしたところでファンネルを展開する作戦を行っていると思っていた兵士達は、この二機を破壊しようと必死にビームライフルを撃った。
その時、一機のジョゼフのビームライフルがツヴァイのコクピット部に直撃した。その瞬間、ツヴァイは爆発を起こした。セイントバードチームのツヴァイガンダムが破壊されたのである。
「や……やったぞ!遂にあの白いガンダムを倒したんだ!出世出来るぞォォォ!!!」
ジョゼフに乗っていた兵士は大きく喜んだ。するとその直後に、ブライティスのコクピットがエグゼマーの大型ビームライフルによって撃ち抜かれた。こちらのパイロットも非常に嬉しそうな表情を浮かべていた。
「やった!アレン・レインドを倒したぞ!ざまあみやがれ!!!なんだ……大した事ないじゃねえか!噂程でもねえ……」
有頂天になるこの両者。その勢いで二隻の戦艦を破壊しようと、必死にビームライフルを撃ち始めた。
二隻の戦艦は主砲を発射し、数機のMSを破壊している。だがこのままでは撃墜されるのは時間の問題だった。新生連邦側からすれば、これ程嬉しい出来事は無いのだが、その奇怪な行動に疑問を抱く者がいるのは当然と言えた。
セイントバードとシュネルギアは多量のビームやミサイルを受けた為、遂に破壊された。墜落していくセイントバードとシュネルギア……この光景を見た新生連邦軍の兵士達は皆喜びに満ちていた。後は国連の量産機体を倒すだけ……そう思う者が殆どだった。ガンダムも倒し、主力戦艦も撃墜した。敵は最早いないも同然。ならば進軍しても問題は無いと判断した士官はマドラ級を前線に進めた。ヴァントガンダムやハイエッジを尽く殲滅させようと乗り出してきたのである。
新生連邦の士気は高まっていた。だが、その一方で本部では総司令であるレヴィー・ダイルがこの様子に疑問を抱いていた。
(……違う……あんな風にあっさりとアレンが……シュネルギアがやられるとは思えない……まさか……)
その時、総司令はスッと椅子から立ち上がった。そして部屋から出ようとする。その様子を見て、ソフィアが聞いた。
「レヴィー様……どこへ……?」
「ナパームに乗る。僕が出る必要がありそうだから。ソフィア、君は先に宇宙に上がっていて。ここも安全じゃなくなる可能性が出てきた。」
総司令はソフィアに宇宙へ上がるように命じた。だが、彼女は嫌がる様子を見せた。
「そ……そんな!私は……レヴィー様の為に……」
「気持ちは嬉しいけど……先に宇宙に上がって月のシン・ナンナ基地へ向かっていてくれ。大丈夫、もし勝てば連絡はする。だが、どの道負けても必ず月へ向かう。だから……」
総司令はそのまま部屋を去っていった。残されたソフィアはただ呆然と総司令の後姿を見ることしか出来なかった。
セイントバードとシュネルギア、そしてツヴァイガンダムとブライティスガンダムの破壊。これにより、新生連邦軍の勢いは増していった。本部周辺の基地から多数のMS部隊が出撃し、国連軍を圧倒していく。主力が減った今、最早成す術もない国連軍。アッサラーム内部では、ウィレスに対し、兵士が撤退をするように勧めた。しかしそれでもウィレスは下がろうとしない。寧ろ、これが好機だと言う。
「下がるな!攻撃を続けろ!勝機はある!」
「セイントバードもシュネルギアも失ったんですよ!しかも敵の攻撃が激しくなるばかりです!このままでは……」
「下がるなと言っている。これは命令だ。従え!」
「しかし……」
危機的状況に陥っているので、必死になる兵士。その兵士の表情を見たウィレスは突如立ち上がり、腕を水平に、前に出して言った。
「今だ!攻撃を開始せよ!!!」
ブリッジ内にいた兵士達はこれが何の合図かが分からなかった。しかし、それは数分後に明らかとなっていく。
この命令が伝えられたことにより、国連軍は更なる抵抗を開始した。押されつつある国連軍。敗北は濃厚に思われていた――
しかしその時だった。交戦するハイエッジ部隊と新生連邦のグランシェ率いるMS部隊に向けて一筋の緑色の太い、光線が描かれた。その瞬間、グランシェ隊はその半数を失う事になる。何があったのか分からない両者。モニターで確認すると、そこに映っていたのは――
「参りましょう。」
紛れもない、シュネルギアだった。シュネルギアのプラズマカノンが新生連邦のMS部隊に向けて放たれたのだ。このシュネルギアの存在には、戦場にいた誰もが目を疑った。先程シュネルギアは沈められた筈だ。しかし現にシュネルギアは存在している。周辺にはドラグネルアサルトといった、アステル家の専用量産型MSが護衛のように空中を舞い、ビームアサルトライフルを構えていた。中でも戦闘にはブライティスガンダムがいており、こちらも先程破壊された筈なのだが、ここに存在している。しかもこのブライティスはビームライフルではなく、新型の武装であるランチャーを所持していた。
「行けっ……!」
アレンの脳内に電流が流れる――
ピシュンッ
アレンがの声に呼応するように、ウイングに搭載されているブリッツファンネルと、両側腰部にあるブラスターファンネルが展開され、新生連邦の量産型MSを次々と破壊していった。倒された筈のエースの存在に、国連側は誰もが歓喜した。
アッサラーム内部では、兵士が口を開けて呆然としていた。倒された筈のシュネルギアが奮闘している?この時、セイントバードの姿は見られなかったが、それでも驚きを隠せない様子だった。
「な……何故……?」
呆然とする兵士に対し、ウィレスは答えた。
「急ピッチで作らせたデコイを使ったまでだ。それなりに良くは出来ていただろう?お前達が予め知っていてはいろいろとタイミングを合わせられなかったからな。」
「な……成程……!」
「正直囮の動きが明らかに変だったので怪しまれている可能性はあるが、敵軍は明らかに動揺している。」
「じゃ、じゃあ……セイントバードも……?」
「そういう事だな。問題はエリィ達だ。」
全ては囮だった。特攻したのは全て囮。つまり、セイントバードもツヴァイも本物は墜とされていない。墜とされたのはウィレスの言うように、デコイである。
予想外の出来事に、フーク・カズロブは握り拳を作り、歯を食い縛っていた。倒した筈の存在が囮。その事実が彼を怒らせた。しかしその後ろでジーク・アルナスが静かに言っている。
「またも油断からこのような事態になったな。学習をしないというのか……もっと怪しむべきなのだよ。戦っている側は必死かもしれないが……な。」
「……何故、デコイであることに気付かれていて御教えになられなかったのですか、中将。」
フークはやや怒っていたが、それでも敬意を忘れる様子もなく、ジークに尋ねる。
「確信がなかったからだ。怪しいとは思っていたがな。しかしこの艦の指導者は貴官だ。貴官の判断の甘さがこの事態を導いた。責任は貴官にある。」
「クッ……」
「確信の無い事を迂闊に伝える訳にもいくまい。仮に私がシンギュラルタイプだったとしてもそれを信じられるか?根拠がなく、ただの感覚を宛てにしているようでは指揮官としては失格だ。貴官は結局私に頼っている。そんな事ではダメだな。話にならない。もう、この艦は私が指揮をしても構わないのだぞ?」
フークはジークから見離されている様子だった。ジークの言っている、〝指揮官は常に最悪の状況を考えて行動しなければならない〟という言葉を散々無視した結果が現在の状態であり、フークの場合、それが裏目に出てしまった。この一連の失態を自業自得と思いつつも、納得の出来ない様子も見せていた。
「まだだ……まだ終わりませんよ。指揮官が私である以上、役目は果たさせてもらいます。」
「さて、その台詞も信用できるものかな。」
ジークのこの言葉にフークは怒りを覚えた。上官に見離されるという感覚を初めて味わったこの男は、次にどのような行動に出ようとするのだろうか。
ウィレスの命令を受けたセイントバードも攻撃を開始していた。セイントバードは作戦が開始して以来海中の中で待機しており、その間ティアマット級が発射した妨害電波装置によって位置を悟られないようにしていたのだ。
セイントバードの位置は新生連邦本部から西の沿岸にある。こちら側の戦力はほとんどなく、新生連邦の戦力は国連の本隊に向けられていた。国連軍が敵の戦力を僅かでも確実に潰すと言ったのは、セイントバードチームが本部を容易く攻撃し易くするために行ったものであった。これにより、手薄になった本部をセイントバードが叩き、新生連邦軍を倒す事が出来るとウィレスは考えていたのだ。そして今、セイントバードは新生連邦本部に向けて進んでいる。接近するMSは全て敵。守るものの為に戦うレイは、これらに対してビームライフルを撃ち、破壊していく。
「全ては考えられていたと言う訳か……通りで偽物のセイントバードとツヴァイが出た訳だ。」
ネルソンが感心した様子で言う。しかしその直後に、グランシェがビームマシンガンを構えて襲い掛かってきた。
「ちぃっ、新型か!」
モノアイを輝かせてハルッグに迫るグランシェ。彼を守ろうと、ツヴァイはビームライフルを構えるがもう一機のグランシェがそれの邪魔をする。シュート・シューターを展開してツヴァイを追尾し始めたのだ。この攻撃から逃げるツヴァイだが、いくら逃げても爆発する様子は無く、埒が明かないと判断したレイは、ツヴァイのビームディフェンスシールドを展開し、攻撃を防ぐ。
「はぁ……はぁ……!」
グランシェは次に、ビームケーブルを展開した。三本のケーブルはツヴァイを容赦なく襲う。反撃する為に拡散ビーム砲を展開するが、容易く避けられる。
「早い……今までの機体と明らかに違う……!」
ネルソンとレイは、新型機体のグランシェに苦しめられていた。更にそこへカーティウスに乗ったエファンが迫ってくる。このカーティウスの側には、クラリスの乗るグランシェとシーアの乗るグランシェがいた。カーティウスはカメラアイを輝かせてツヴァイに迫る。
その間、メガビームセイバーを腰部から抜いてグランシェに応戦するツヴァイ。接近戦を試みるが、軽々と回避されてしまい、ビームマシンガンを撃たれて装甲にダメージを負った。
「うぅっ!!」
ピキィィ、ピシュンッ
撃たれた直後にレイの頭の中で電流が流れ、それと同時にブリッツファンネルが展開された。無数のファンネルはレイを苦しめたグランシェを追撃する。グランシェはこのファンネルに対してシールドを構え、ビームキャノンを撃つが、ファンネルはこれを避け、ビーム刃を展開し、このシールドを破壊した。守る装備が無くなったグランシェはどうする事も出来ず、ビーム刃を展開したブリッツファンネルの餌食となり、破壊された。
苦戦した敵であるグランシェを倒したツヴァイだったが、その時、突如太い光線がツヴァイを襲った。間一髪回避に成功するが、その直後にビーム砲撃を受け、ツヴァイはダメージを負った。
「ああっ!」
一時的に動けなくなるツヴァイ。そこへカーティウスがビームサーベルを腰から抜いて切り刻もうと近付いてきた。焦って必死にレバーを引くレイ。だがツヴァイは動こうとしない。
「動いて……お願いだから!」
彼の気持ちに呼応するように、ツヴァイは幸いにも稼働し、カーティウスとビーム刃を交わう事で、機体を守る事が出来た。
「ほぅ……運がいいな。」
この時、レイはカーティウスから異様なプレッシャーを感じていた。恐怖に似た感覚と同時に、覚えのある感覚を、今、抱いている。
「うあっ……!?この声は……エファンさん……?」
以前、ダーウィンで殺し損ねた彼を、この戦場で改めて消す為にエファンは真っ先にレイを狙い始めたのである。
「先程お前がやられたように見えたが……やはりあれはデコイだったようだな。国連も古典的だが、なかなか金を賭けた作戦を行うものだな。只のデコイに本物の操縦者のOSを入れるとはな!」
この男の言うように、先発隊として特攻したツヴァイやブライティスの中には搭乗者のOSが仕組まれていた。違和感のある動きではあったが、それでもある程度の敵機の動きは回避していた。だがエファンは実際にこの囮の内部構造に携わった訳ではないのに仕組みを知っていた。レイは恐れつつもエファンの言葉に対して言葉を言った。
「どうして……そんな事を知ってるんですか……?」
「動きを見れば分かる!国連がお前達をここに配備させた事や、デコイを使っての新生連邦の戦力の分散等全て。私には分かる。だからここに来た。お前を始末する為になっ!」
バシュゥゥゥッ
そう言った直後に、男の駆るカーティウスは手掌部からハンドビームキャノンを発射した。攻撃を感じ取ったレイは急いでカーティウスから離れ、メガビームセイバーを機体の側腰部にマウントし、ビームライフルを連射する。
バイイイイイン
だがカーティウスはバリアーフィールドジェネレーターを展開してこの攻撃を全て防いだ。
「そ、そんな!バリアーフィールド!?」
「残念だったな……この機体を今までのMSと一緒にしてもらっては困る。お前の攻撃などお見通しだ。国連の作戦も含めて!」
「そんな……こんなの……勝てる訳が無い……」
レイは恐怖で埋め尽くされた。この男は人の考えている事が全て分かるという、人間の域を超えていると言っても過言ではない能力を持っているのだ。いくら避けようと行動しても考えが筒抜けな為、間違いなく行動がばれてしまう。その相手にどう対処すれば良いのか?レイは。混乱している。
「どうした?そんなに私が怖いのか……無理もないか……殺される恐怖を実感しているのだからな!」
プレッシャーが、レイを襲う。以前にも感じた、恐怖が再び。あの、ダーウィンの廃墟で彼を殺そうとした男の脅威。レイはそれに怯えた。そして、自分が普通と違う人間になりつつある事を、男は見抜いていた。
今まで、謎の悪夢を見せていた諸悪の根源、エファン。彼の目的は力を持つ人間の抹殺。その内の一人であるレイも、当然ながら対象だ。
「こうして再び戦場で私と対峙する事が、お前を今度こそ死の運命に誘うよ!」
(死ぬ……僕は……ここで……嫌だ……!)
カーティウスは、肩部から拡散ビーム砲を展開しようとしていた――
第七十七話、投了。
国連の腐敗、そして作戦。
始まった激戦の中、デコイを用いて戦う国連。この戦いの果てとは――