バシュウウウウウ
その時、そこへハルッグがロングビームライフルでカーティウスを狙った。この攻撃を感じ取ったエファンはすぐに回避し、ハルッグの方向を見る。
「話は聞かせてもらった。只の人間ではないな、貴様……」
「セイントバードのパイロットか。オールドタイプには用は無いが……邪魔をするなら消させてもらう。」
「そうは行かんよ!」
ネルソンはハルッグの機動性を生かし、モノアイを輝かせた後に肩部に搭載されているミサイルをカーティウスに向けて発射した。だが、この攻撃は全て拡散ビーム砲によって破壊されてしまい、その上カーティウスはビームランチャーをハルッグに向けて発射した。この攻撃に対し、ハルッグは変形して回避する。この時ネルソンは、一度カーティウスから離れ、奇襲をかけようと考えていた。しかし奇襲をかける為にバーニアの出力を上げようとした時だった。
バシュウウウウウ
と、強大なビーム粒子がネルソンの眼前を通り過ぎた。急な攻撃に、機体を急激に変形させてブレーキをかけ、辛うじてビームの直撃を避けることには成功する。
間違いなくこの攻撃はカーティウスによるものだと判断したネルソンは、別の方法でカーティウスに攻撃を加えようと模索していた。しかしそこへ邪魔が入る。シーアの乗るグランシェがモノアイを輝かせ、ビームマシンガンを連射して襲い掛かってきたのだ。
「ちぃ……!」
「あの時の可変MSだ!出来ればコクピットを破壊して、機体だけ持ち帰りたいところだけど……」
「邪魔をするな!私はあのMSを……」
「悪いけど少佐には近付けさせないよ。俺を倒して見るんだね。〝出来れば〟だけど……さ。」
シーアのグランシェがビームケーブルを展開し、ハルッグに襲い掛かる。急な攻撃を仕掛けるグランシェの攻撃を間一髪避けるハルッグ。だが、グランシェがすぐにシールドから展開したシュート・シューターによるダメージを受けてしまった。
「ぐああっ!」
機体が揺れ、一時的にコントロールが不能になる。しかもそこへエファンのカーティウスがビームランチャーを構えて現れた。すぐにそれは発射され、ネルソンは最大の危機に瀕していた。
「万事休すか……」
バイイイイイン
だが、そこへ救いの光が現れる。ツヴァイだ。ツヴァイがバリアーフィールドを展開してこの攻撃を防いだ為、ネルソンは助かった。
「すまない、レイ!」
「ネルソンさんをやらせるわけには行きませんから!」
「それよりも早く終わらせる為にも本部に接近する必要がある!レイ、急げ!新型共は私が引き受ける!」
「え……でも……」
レイは戸惑った。ネルソンはレイに攻め込むように命令したのだ。
しかし、レイにそのような事が出来る筈がなかった。アレンにも言われたように、敵から仲間を守る為に今回の作戦に参加しているのだ。自ら攻めていって敵を倒す事は彼には出来なかった。
「何を躊躇うか!ここで躊躇って犠牲者が出れば、それこそ救われない!レイ、君は守りたい為に戦うんだろう!ならば守るべきものの為に攻めろ!」
ネルソンは懸命にレイに言った。しかしその間にも彼の機体は襲撃を受け続けている。
ネルソンが相手をしているのはどちらもエースパイロットだ。中でもエファンはアドバンスドタイプの能力を持つ、言うならば別次元の能力者だ。そのような強敵を相手にしている彼の姿を見て、レイは心動かされた。
正直、今回の戦いは不本意だ。だがここで新生連邦を制する事が出来れば、全てが救われるかも知れない。そして、元の生活に戻る事が出来るかも知れない。それならば戦おう。レイは決めた。そして、バーニアの出力を高め、一気に本部に近付いていく。
「それで良い……」
ネルソンは安寧の表情を浮かべた。しかし――
「見届けは済んだか?ならもう用は無いな。」
その直後に、エファンの乗るカーティウスはビームランチャーを構え、ハルッグに向けて発射した。独自の機動性でこの攻撃を回避するハルッグだが、シーアの乗るグランシェによる別方向からの攻撃が彼の邪魔をする。
「残念、おしまいだね……」
「クッ……!」
グランシェはシールドを構え、そこから高出力のビームキャノンを展開した。辛うじて回避するが、ビームによって機体が擦れてしまい、僅かにハルッグの装甲が溶けてしまった。
「このままではやられるのを待つだけ……不利だな。これでは……」
そう言った時だった。苦戦するセイントバードチームに、国連のMS隊が援護に駆けつけてきたのだ。ハイエッジやヴァントガンダムがビームライフルを持って新生連邦のMS部隊を倒していく。
「フン……邪魔が入ったな。」
見下すようにハイエッジ部隊を見るエファン。そのハイエッジ部隊の内の一機がビームサーベルを展開してカーティウスに迫った。これに対し、カーティウスもビームサーベルを展開し、打ち合いを行う。エファンから見て左側に見える、ハイエッジの存在。この機体に対し、カーティスは頭部のビームバルカンでハイエッジの装甲にダメージを与えた。しかしハイエッジは引く様子がない。
その時、エファンの乗るカーティウスが打ち合いを行っている最中に、ビームサーベルを持ったハルッグがカーティウスに切り掛かってきた。しかしカーティウスはすぐにもう片方のビームサーベルを展開して、ハルッグともビーム刃同士の打ち合いを行う。
「馬鹿な!?これ程早く対応出来るとは……!」
「残念だが私には全ての攻撃が分かる。無駄だ。」
「ただの相手ではないということか……せめて……その巨大なビームランチャーさえ破壊すれば!そのビームサーベルなど近接用の緊急用の武装に過ぎないだろうに!」
「さて、それはどうかな?」
すると、ハイエッジとハルッグとのビーム刃の打ち合いを行った状態のまま、カーティウスは腰にマウントしていたビームランチャーをエネルギーパックごと外し始めたのだ。予想外の行動に、ネルソンは戸惑った。
「馬鹿な……メインウェポンを自ら切り離しただと!?」
「このカーティウスを、只の長距離射撃武装用のMSだと思ってもらっては困るな!」
すると、ビームランチャーを海に捨てたことで身軽になったカーティウスは左脚部を稼働させ、ハイエッジの胴体を足底部のクローで鷲掴みにした後、そこからビームキャノンを展開した。零距離のビーム砲撃をまともに受けたカーティウスはそのまま撃破され、海に墜落した。
「足部にビーム砲だと!?」
この後すぐにハルッグに対し、に二つのビームサーベルラックを所持したカーティウスはもう片方のビームサーベルでハルッグを突き刺そうとする。
「引導を渡してやろう!」
「そうは行くか!」
急いでMAに変形するハルッグ。一度離れようと試みるが、身軽になったカーティウスの機動性は先程とは比べ物にならず、すぐに追いつかれてしまう。しかも手に持っていたビームサーベルラックはいつのまにか足底部のクローに挟んであり、そこからビーム刃が展開している状態になっていた。両手は自由になり、前腕部からビームキャノンを連射してハルッグに迫る。
このまま逃げ続けても埒が空かないと判断したネルソンは、ある程度逃げたところで再びMSに変形してビームサーベルを構えた。すると、カーティウスは足底部に挟んであるビームサーベルを振るい、再びビーム刃をぶつけた。
「なんてMSだ!?」
予想外の動きをするその機体に苦戦するネルソン。
「それだけではないのだよ!」
その時、カーティウスは足底部に挟んでいたサーベルラックを離した。それと同時に、素早い動きでもう片方のビームサーベルでハルッグと打ち合いを行い、その隙にハルッグの左肩部に足底部のクローを展開して掴み始めたのだ。
「しまった!」
「手遅れだなっ!」
次の瞬間、カーティウスの足底部からビームキャノンが展開された。先程のハイエッジが受けたものと同じ、零距離からのビーム砲撃はハルッグに防ぐことなど出来ず、この攻撃によってハルッグの左肩部は破壊されてしまった。
危機的状況に陥ったネルソン。だが幸いにもそこへ国連のMS隊が現れ、セイントバードチームの援護に駆けつけたのだ。
先程のハイエッジ部隊とはまた異なる部隊である。これはセイントバードにとっては幸運であり、セイントバードは国連の部隊がエファンの部隊と戦っている隙に新生連邦本部へと近付いていく。
「やれやれ、邪魔をする気か。」
「少佐、これぐらいなら大したこと有りませんね、私がなんとかしますよ。」
「いや、お前はあの、白いガンダムを追え。この連中を片付け次第私も向かう。あの可変機よりも白いガンダムの方が厄介だからな。」
「了解しました。」
エファンの命令に従うシーア。そしてエファンは単機で国連の部隊を相手にする気だった。国連は最新鋭機のハイエッジばかりを集めた部隊であるが、エファンはこれらを見るなり、余裕の笑みを浮かべた。
「さて……」
ギュオオオン
笑みを浮かべた瞬間、カーティウスのカメラアイが輝く。デュアルカメラアイはそれぞれ赤く輝き、獲物を仕留める準備に入っていた。
レイは本部の方向へ向かっていた。途中で接近する敵MSはジョゼフやエグゼマーばかりで、彼の技量で賄える相手ばかりだ。
本部までの距離が近づいてきた時、彼の乗るツヴァイは突如無数の実弾によって襲撃される。急いでビームディフェンスシールドを展開してこれらの攻撃を防ぐ。
防ぎ終えた時、彼の眼前に現れたのはグランシェだった。怪しく輝くモノアイを見た後、ツヴァイのモニターに一人の男の姿が映った。その男は、レイに憎しみを抱いている様子で言う。
「見つけたぞレイ!!!アユやリン……お袋の仇だ!!!今日こそ殺してやる!!!」
「クラリスさん!?」
実際、レイとクラリスが対峙するのは随分と期間が空いていた。元々この男に対するレイの印象はそれ程良いものではない。
久方ぶりに対峙するこの男の様子は以前に遭遇した時と比べて明らかに変化していた。まるで何かに取りつかれたような殺意を、レイは感じ取っていたのだ。
(この人……普通じゃない……前に感じなかった異常な殺意を感じる……)
「お前のせいでっ!アユやリンがっ!!お袋がぁぁぁぁぁっ!!!」
突如、怒り狂うクラリスは、グランシェのビームマシンガンを連射する。それらを全てバリアーフィールドで防いだかと思えば、次にビームケーブルを展開し、ツヴァイを貫く為に襲い掛かった。ビームケーブルから逃げるツヴァイ。だがその最中にクラリスの乗るグランシェはシールドのビームキャノンを展開し、それを放出した。慌ててバリアーフィールドジェネレーターを展開するが、背後からのビームケーブルがツヴァイに襲い掛かり、バックパックに装備されていたプラズマカノンの右側を破壊した。
「あぅぅ!」
機体が揺れる。レバーを引き、体勢を立て直すレイ。眼前には異常な殺意を持って襲い掛かってくるクラリスの乗るグランシェが立ち塞がっていた。
「おかしい!おかしいです!変ですよ……」
「黙れよ!お前が俺の全てを狂わせた!この殺人鬼め!罪のない姉妹やお袋まで殺しやがって……絶対に許さねえぞこのクズ野郎がよぉ!!!」
「罪のない姉妹?何の……事……ですか……?」
この男は何を言っている?理解が出来ない、レイ。
「とぼけんな人でなし野郎が!お前が殺したんだろうが!愛らしかった姉妹をな!姉は真面目で純粋……妹は生意気だがそれでも平和を祈ってたあの姉妹をお前は殺しやがって!!!」
「知りません!何かの間違いです!」
レイはそのような事をしない。する筈がない。だが、何回か前の戦闘でもしかしたら民間人を巻き込んでしまった可能性はあるかも知れない。
だがクラリスの怒りの矛先は明らかにおかしいと言えた。全く覚えのない事で怒るクラリス。今のレイからすれば、この男が何を言っているのかが分からない。
その上でこの男は、レイが母親を殺したと言っている。彼にはこの男の言いたい事が全く理解出来なかった。
「お前は絶対に殺す!この俺がどうなってもあいつらの敵は絶対にとってやる!!!」
「そんな!覚えのない事で勝手に僕を犯人に仕立てるなんて!そんな、そんなのって!」
「うるせえんだよ!命乞いか?そんなことしてもどの道お前を殺すだけなんだよ!」
ビゴォン
グランシェはモノアイを輝かせて腰部からビームサーベルラックを抜き、ビーム刃を展開した。これに対し、ツヴァイは回避運動を行うために行動する。やがてグランシェはツヴァイに近付き、切り刻もうとビームサーベルを振るった。間一髪で回避に成功するツヴァイだが、グランシェは至近距離で大型ビームマシンガンを構え、それを連射した。至近距離であった為、バリアーフィールドでは防ぎきれず、ツヴァイの装甲はダメージを受けた。
「くうっ……!」
「コクピットをもろに当てれば殺せたのにな……この野郎が!罪ない人間まで巻き込む外道が!死にやがれ!」
「変だ……本当にクラリスさんなの……?動きが……前と比べて明らかに……それに、あの人から妙な感覚が……」
グランシェの動きが、先程破壊したグランシェのものと、明らかに違っている事を認識したレイ。ツヴァイがバスタービームライフルや肩部の拡散ビーム砲を展開しても、まるでビーム砲が直撃する位置が分かっているかのような動きを、クラリスの乗るグランシェは行っているのだ。
「まさか、あの人はシンギュラルタイプだったって事?いや、違う……シンギュラルタイプだとしても……この感じは憎しみそのもの……まともな感覚じゃない……」
レイはクラリスから発する感覚を感じ取っていた。レイがこの男から感じるもの。それは有り余る彼に対する憎しみである。何故そこまで殺意を抱くのかが理解出来ない様子であったレイだが、この時に彼の中である推測が生まれた。
それは、クラリスはもしかすれば強化手術を受けた可能性があると言う事である。
「死にやがれ!一般人殺しの屑野郎がァ!!」
「僕は……何もしてません!!」
必死に弁解するが、聞く耳を持たない。今の彼はレイを殺すことしか考えていない様子だった。戸惑いつつも、このまま何もしないでいてはやられるだけ。彼も応戦する為に、バスタービームライフルを発射する。
だが、グランシェはシールドでこれを防ぎ、そのままビームキャノンを放出した。急いで左前腕部を差し出し、バリアーフィールドを展開して攻撃を防ぐ。
「何もしてないって言い切れるのかよぉ!散々人殺ししてきた外道が!!」
ひたすら罵声を浴びせるクラリス。しかしレイはそれに懸命に対抗する。
「確かに、僕は人殺しはしてきました……けど、何もしていない人を殺すなんて……そんな酷い事、した覚えありません!」
「黙れよ!!お前が殺したんだよ!とにかく、お前がな!!!」
無論、全く覚えのない事実であるのだが、この時レイは都市部などでの戦いを思い出した。もしかすれば、戦いに巻き込まれて自分が不本意にもクラリスの言う少女らや彼の母親を殺してしまい、それを見たクラリスが今になって怒っているのではないか。それを考えたのである。
となれば、言い逃れで済む話ではない。不本意とはいえ、一般人を殺している。クラリスはそれを言いたいのではないかと思った瞬間、ツヴァイの動きが先程よりも遅くなった。
「まさか……戦いに巻き込まれてその人達を僕が……殺してしまった?それを、僕は気付かなかったの……?」
レイは弱気になった。一般人を殺すと言った事は決して行いたくない出来事である。だが彼は殺害してしまったと勘違いを起こしてしまった為、ショックを受けた。
ギュルルルルッ
だが、そこへクラリスの乗るグランシェがビームケーブルを展開し、ツヴァイに襲い掛かる。自分の身を守らなければならないと判断したレイは急いでこの攻撃を回避した。
「弱気になりやがったか!けどな!お前は殺してるんだよ!ガキとはいえ許されないんだよ!」
ビームケーブルを展開した後に、シールドからシュート・シューターを展開する。追尾式となっているそれは、ツヴァイに追いつくまで追尾をやめない。そしてツヴァイがこの攻撃から逃げている間にもクラリスはレイに罵声を浴びせ続ける。
「お前のようなクソガキがそんな事してたらなぁ!話にもならねえんだよ!だからお前の罪を償わせてやる……ここで死にやがれ!ガキとはいえ容赦しねえっ!」
全てはクラリスがエファンによって思い込まされているだけ。レイは実際には何もしていない。だがここまで罵声を浴びせられているレイは、弱気になっていた。そんな彼に対して、容赦のない攻撃を加え続けるクラリス。
更にそこへ、シーアの乗るグランシェも増援に駆けつけてきたのだ。
「苦戦してるみたいですね中尉。俺も戦いますよ。」
シーアの言葉が聞こえた時、クラリスは苛立つ様子を見せた。
「てめえは引っ込んでろ!こいつは俺がやる!」
「戦争は協力でしょう?格ゲーとかじゃないんですから。それにしても……ようやく巡り合えたって感じだね。噂の白いガンダム!会いたかったよ!パイロットは誰かな……まずはチェックだ!」
そう言ってシーアはツヴァイとの回線を開く。そこにいたのは、少女のような顔つきをした少年の姿だった。以前に見覚えのある少年の姿を見て、シーアはニヤリと笑った。
「おや、前に会ったね君。まさか君が白いガンダムのパイロットだったとはね。」
「え……あ……この人は……!」
クラリスとの戦闘の最中、突如現れたシーア。レイは以前にデイテールに乗って戦っていた際、エグゼマーに乗っていたこの男と交戦している。だからこそ、見覚えがあったのだ。
「戦場じゃなかったら握手はしていたけどね!」
ドオオオオオオオオオッ
その時、シーアの乗るグランシェはシールドを構え、ビームキャノンを展開した。同時に、クラリスのグランシェもシールドを構えてビームキャノンを展開した。別々の方向から来るこれらの攻撃に対し、ツヴァイはそれぞれの方向にバリアーフィールドジェネレーターを展開してビームによる攻撃を防ぐ。
「おお!凄い!一斉に防いだよ!」
感心したのも束の間、次なる攻撃を行うためにビームケーブルを展開しようとした……その時である。国連のMS部隊が彼等に攻撃を加えてきたのだ。ハイエッジを隊長機とする小隊がグランシェ二機に攻撃を加え、それに苛立ちを覚えたクラリスが迎撃に乗り出した。
「邪魔すんなぁぁぁ!」
この介入により、クラリスはレイとの戦闘から一度離れた。敵は一人減ったが、それでももう一人、彼はシーアを相手にしなければならなかった。
「素晴らしいMSだね、やっぱり噂通りだ。で、それを操る君も凄い人間だってコトだよね。」
「前に戦った人……ですよね……」
恐る、恐る、尋ねた。するとシーアは静かに頷き、言葉を喋った。
「そう言えば名前、聞いてなかったね。前聞こうとしたら君、怒っちゃったからさ。」
「そんなの……だって……こんな戦場なんですよ……」
ブゥン
その時、シーアのグランシェは急にツヴァイに接近し、ビームマシンガンを一度腰部にマウントした後、右側腰部からビームサーベルを展開した。
咄嗟の攻撃に対しレイは素早く反応し、機体が傷つく事は無かった。だがグランシェはツヴァイを切り刻もうと、何度もビームサーベルを振るって来る。回避運動をして攻撃を避け、ツヴァイもメガビームセイバーを展開して打ち合いを行った。
「流石だ。やはり普通の人間じゃないと見た。シンギュラルタイプとかその辺の人間でしょ、君。」
「前と一緒だ……また不意打ちなんて……!」
「あー、馴れ合いしてるけど敵同士だってこと忘れないようにしないとダメだよ?どうしても君が名前を教えてくれないのなら、先に名乗っておこうかな?」
グランシェは後方に下がり、ビームサーベルのビーム刃を収納して腰部に収納した。そしてビームマシンガンを再び装備し、レイに言った。
「俺の名前はシーア・マックス。新生連邦軍少尉さ。」
「シーアさん……ですか……」
ツヴァイはビームライフルを構え、いつ襲われても良いように準備をした。その上で、レイは静かに自分の名を名乗る。
「僕は……レイ……レイ・キレスです。」
慎重な様子のレイ。対するシーアは余裕の笑みを浮かべている。
「……アハハハ!やっぱり、警戒する?ま、二度も不意打ちしてるからね。警戒は無理もないかって――」
シーアは最初、笑っていた。だが次第にその笑みは消えていく。いつしか、レイが名乗った名前を見て、目を凝らしているのだ。
「え……レイだって……?」
会話の最中、シーアは何かを思い出したような言動を発した。レイは警戒しつつも疑問に感じていた。
すると、グランシェはモノアイを輝かせてビームマシンガンを連射した。全てバリアーフィールドで防ぐツヴァイ。そしてビームライフルを発射するが、この攻撃はシールドで弾かれた。
「また、いきなり攻撃……!」
「油断はしてはいけないからね。それを教えてあげてるんだけど……君、気になるな。そうだ……出身を教えてくれないか?」
ギュルルルルル
そう言いながらグランシェはビームケーブルを展開し、ツヴァイに襲い掛かる。これに対してツヴァイはブリッツファンネルを展開し、グランシェに襲わせた。多数のビーム砲撃が、グランシェを襲う。グランシェはこれらをシールドで防ぐ。
シーアのグランシェがシールドでビーム砲撃を防いでいる時、新生連邦の味方部隊が援護に駆けつけてきた。エグゼマーが一機と、ジョゼフが四機である。いずれもがビームライフルでツヴァイを狙うが、全てバリアーフィールドで弾かれ、そしてまずジョゼフ四機が素早いブリッツファンネルの動きについていけず、避けきれなかった為に破壊された。
残されたエグゼマーは回避運動を行い、ミサイルで攻撃を行おうとするがそれらも全てツヴァイに搭載されている肩部の拡散ビーム砲で破壊されてしまう。
「死ね!貴様ァ!」
エグゼマーはMAに変形し、特攻をしようと試みていた。だがレイはこの動きに気付き、MAのエグゼマーと接触する寸前で回避し、ビームライフルを撃って撃ち墜とした。そして、彼は再びシーアとの対決を行う。
「凄い反応だね。あんな状況だったのにもう敵は全滅だ。さて、君の出身地はどこ?もしかすれば君は知っている人間かも知れないんだ。」
「僕の事を知ってる人……?」
グランシェとの戦いを繰り広げているレイだが、ここでシーアが興味深い台詞を発した。自分の事を知っている人間が、今戦っている人間であるということに興味を抱き、疑問に感じていた。
「シーアさん……貴方って……何者なんですか!?僕はカナダのモントリオール出身ですけど!」
そう言いながら、ビームライフルを連射するが、いずれも回避される。そして再びグランシェはビームサーベルを側腰部から展開し、ツヴァイに切り掛かった。
「モントリオール……ああ……良かった、完全に思い出したぞ!君を見た時から覚えがあったんだよ!その特徴的な少女みたいな顔つき!そして天才的な操作技術の持ち主……あの時は僕の方が実力は上だったけど、今じゃここまで立派に進化していたとは!凄い!これは何と言う神様のいたずら!?」
「な……何を言ってるんですか!」
ビーム刃同士の打ち合いの最中にシーアが語る台詞。この時シーアは異様に機嫌が良さそうだったが、レイから見ればこれ程不気味に思えて仕方がない。
「覚えてないかな!?俺は鮮明に覚えてるよ!いや、正確には思い出したって言うべきか!?いつだったか、モントリオールで行われたプチモビルスーツ大会!そこで俺は君と出会った!結構前だから忘れるのも無理は無いか!そしてプチモビ大会で優勝した俺はそのまま軍属になって、今ではようやく少尉!苦労したよ本当に!君は覚えてない!?当時の優勝者の名前!君は確か二位だった!俺は覚えてるよ!こんな少年が凄い腕前だったなぁって今でも鮮明に!」
興奮した様子で喋るシーア。だが彼が喋っていた言葉の中に会った、〝プチモビルスーツ大会〟のキーワードがレイの脳裏に浮かんだ。
それにより、レイは完全に思い出した。今戦っている相手の事を。
レイがジュニアハイスクール二年生の時に、故郷であるモントリオールで開催されたプチモビルスーツ大会。その時に出会ったのがこの男、シーア・マックスなのだ。彼の言うように、結果はシーアが優勝し、レイは二位だった。
この時、全てを思い出したレイはその事実に戸惑っていた。今戦っているこの男こそが、当時プチモビルスーツ大会で一時的とはいえ仲良く会話していた男なのである。
「こんな、こんなのって……あのシーアさんが……新生連邦なんて……」
「これも、時の流れという奴さ。さっきも言ったが、あの後俺は新生連邦にスカウトされて軍属になった。そこから今に至ってずっと軍に所属してたって訳。君の場合はどうして今ここにいるのかは分からないけどね!とにかくこの偶然は奇跡的!うん、実に素晴らしい事だと思うよ!!」
この会話が行われている最中も、ツヴァイとグランシェは打ち合いを行っている。この会話が行われている最中に、グランシェはツヴァイの装甲を貫く為にビームケーブルを展開した。
「くぅっ!」
急な攻撃に一度ツヴァイは後退する。常にメガビームセイバーを所持した状態で、いつでも接近戦が出来るように心掛けていた。
「だけど……残念なのは時の流れが人を変えてしまうっていうこと。約一年も時間が流れれば嫌でも人間は変わるさ。君も、俺もね。君の場合はどんな事情があったかは知らないが、そんな機体を操るってことは相当な実力者に成長しているってことだよねぇ!!」
再びグランシェはビームケーブルを展開した。埒が明かないと判断したレイはビームケーブルの動きを読み、切り裂こうと考えていた。現在、真正面に向かって来るビームケーブル。そこから彼は左に回避し、そのままメガビームセイバーで切り裂く気でいた。
彼は思った通りにツヴァイを動かし、急いでグランシェのビームケーブルを切り裂いた。
「動きが読まれた……?君、やっぱり噂に聞く、シンギュラルタイプの力を宿しているっていうのかい!?」
驚いた様子でシーアは言った。だが、レイは目に涙を浮かべながら言う。
「いい加減にして下さい!僕は正直貴方と戦いたくないんです!!簡単に殺そうとしないで下さい!そうすると僕も戦わなくちゃダメになってしまうから……」
今は敵同士とはいえ、彼はシーアと戦いをしたくなかった。それも、全て事実を知ったからである。だがシーアはそんなレイに対して言った。
「さっきも言ったけどさ、時の流れは残酷なんだよ。まだ少年である君には理解が難しいかも知れないけどね。人間は時が流れると変わってしまうのさ。」
そう言って、シーアのグランシェはビームマシンガンを発射した。全てバリアーフィールドで防ぐ事が出来るのだが、この時レイはシーアに対する戦意が完全に失われていた。
戦いたくない。その気持ちで彼は一杯だった。だがシーアは容赦なく襲ってくる。シーアの攻撃を、レイはただ避け続けるだけだ。彼の事を思い出してからは、一切、攻撃を加える事は無くなった。
(逃げてばかり……か。いいよ、それならこっちにも考えはあるし。)
レイの行動に見兼ねたシーアは、一度その場から離れた。シーアがいなくなってくれたことで、レイは心底安心する。そして、代わりに迫ってくる新生連邦軍の量産機体に対してはビームライフルを構えて発射し、撃破する等の活躍を見せた。
「シーアさんがいないのなら、僕は……戦う!守るんだ……みんなを!クラリスさんは僕を一般人殺しと言ったけど……今は……今は……戦うんだ……!」
戦いたくない相手がいないことで、彼は安心して戦う。ツヴァイはカメラアイを輝かせ、先程ネルソンに言われたように彼は新生連邦本部へ向かっていく。一刻も早くこの戦いを終わらせる為に。
だがこの間も彼はクラリスに言われた事を胸に抱えていた。知らない内に一般人を殺害してしまった可能性があることを。それによってクラリスは怒り、今自分に殺意を抱いているのだと言う事を。
しかし、この戦場では一般人が巻き込まれるとすれば、セイントバード艦内にいる非戦闘員だけ。そうとなれば、彼はまだ安心して戦えた。
――――お前のようなクソガキがそんな事してたらなぁ!話にもならねえんだよ!―――
――――――――――――人間は時が流れると変わってしまうのさ――――――――――
先程の戦闘で様々な言葉を聞いたレイ。いずれも彼の心に迫ってくる言葉。だが今はそれを忘れなければならない。気にしていては必ず死に繋がるからである。だが、これらの言葉が彼に重く圧し掛かっているのは事実であり、レイは目から僅かに涙を浮かべていた。
ネルソンはエファンと激闘を繰り広げていた。だがエファンの搭乗するカーティウスは圧倒的な強さでネルソンを追い詰め、彼は次第に不利な状況へ陥っていくばかりである。
「なかなか粘るな。思ったよりはやるようだが……?」
「ちぃ……なんてパイロットだ……このままではやられるのが目に見えている……」
完全に動きを読まれている上、仮に避けたとしても、機動性の高いカーティウスは次なる攻撃を、予め用意していたかのように次々と繰り出してくるのだ。
(このパイロットは恐らくシンギュラルタイプか、いや、その上MSの技量も相当なものと見た。機体性能に身を任せていない戦い方をしているのが分かるが……)
「私はシンギュラルタイプではない。それらを遥かに上回る存在である、アドバンスドタイプだ!」
「なっ……何故私の考えてる事が!?」
ネルソンの思っていた事に対して言葉を発したエファン。ただの偶然とは思えない出来事に、彼はただ、驚くことしか出来なかった。
「考えている事はお見通しなのだよ。私には全てが分かる!」
「ちぃっ……私の攻撃が見透かされているように見えたのはその為なのか……!」
「さあな?」
そう言って、エファンはカーティウスのビームサーベルを展開させ、ハルッグを切り刻もうとした。回避運動を取ろうとするハルッグだが、そこへカーティウスが足底部のクローを展開し、ハルッグの右足部に食い込ませた。
「ぐっ!」
「さて、壊してやろう。」
クローからビーム砲が展開されようとしていた。当然、彼が抵抗をしないはずがない。慌ててこの攻撃に対してハルッグがもう片方の脚部でクローを蹴ると、幸いにもその反動でクローによる食い込みが緩んだ。その為、ハルッグは自由の身となり、右足部の破壊は避けられた。
「ほう、やるではないか……」
(この男の相手は危険だ……今の私に勝てる相手ではない……)
ネルソンがそう考えた時、エファンは言った。
「分かっているではないか。自分の力量を弁えると言う事はそれなりの実力者だと言う事だな。そうだとしても所詮オールドタイプであるお前が私に勝つ事等、不可能も同然だ。」
「やはり考えはお見通しか……ん……?」
その時、ネルソンはセイントバードの方向を見た。セイントバードが新生連邦のMSの攻撃を受けており、被弾している……それを見て彼はハルッグを変形させ、その場から離れた。そんなハルッグを追いかけようとするネルソンだが、そこへ国連のMSが攻撃を仕掛けてきた。
「全く、無謀にも挑んでくる機体が多い事だ。アーヴァインには近寄らぬ癖に新型には平気で近付くとはな。」
今までエファンの乗っていたアーヴァインは国連から恐怖の対象として見られている。以前に国連軍がアーステクノロジーを襲撃した際も、アーヴァインから離れるように攻撃を加える国連軍の姿を知っている為、それをこの男は哀れに感じていた。
「今お前達が戦っているMSこそ、当時アーヴァインに乗っていたパイロットであると思い知らせてやる必要があるな。」
そう言ってカーティウスを動かすエファン。
まず、彼はヴァントガンダムを一機足底部のクローアームで確保する。一方は胴体を、もう一方は頭部を掴まれたヴァントは何もできない状態で、そのまま零距離からのビーム砲撃を浴びて破壊された。続いてビームライフルを連射するハイエッジに対しては両腕部に搭載されているビームキャノンと足底部のビーム砲を合わせて一斉に射撃を行った。ハイエッジは間一髪で回避するが、その直後にカーティウスは素早くハイエッジに近付き、背後からビームサーベルでコクピットを突き刺した。
この間僅か十秒。カーティウスの圧倒的な強さに同様を隠せない様子の国連兵士達はやや後退を始めた。
「な、なんてMSなんだ……」
「化け物だ……!」
逃げる国連兵士達。だがエファンはこれらを逃がす筈もなく、追撃を開始する。
新生連邦軍に対して攻撃を加え続けているアレン達はドゥーリア隊の強化モデル部隊と交戦していた。彼は強化モデル兵士の乗るカーティウス二機と、ダウーラの乗るアーヴァインと交戦していた。アレンの側にはアイリィがヴァントガンダムに乗って他の新生連邦のMSと交戦している。
以前よりも技量が上がっているアイリィは、敵のMSを苦戦しつつも確実に破壊していく。だがヴァントガンダムは既に左腕部を失っており、自身を守るシールドが無くなっていたので、彼女にとって状況は不利だった。
その一方でアレンはカーティウス二機と戦っていた。ブライティスのウイングを展開し、ビーム砲を展開するが、カーティウスのバリアーフィールドジェネレーターがこれらの攻撃を全て防ぐ。
「ここに来て、初めて手応えのある相手に出会えたなぁ!」
ダウーラはそう言ってアーヴァインの大型ビームライフルを連射する。ブライティスはそれらを全てバリアーフィールドで防ぐ。
だがその間にカーティウス二機が一斉にプラズマカノンを放出する為、すぐに回避しなければならなかった。
「ここにいる敵は全員強化モデルか……」
流石に、強化モデルの乗るMSを三機も相手にしなければならないのは彼にとって厳しいものがあった。これらに対しては一斉に片付ける方が良いと判断したアレンは、機体背部からブリッツファンネルを八基、腰部からブラスターファンネルを二基展開し、これらを強化モデルの乗るMSに対して襲わせた。
ファンネルに翻弄される強化モデル達。そして、アレンはこの隙に新型の兵器である、右手部マニピュレーターに搭載しているプラズマランチャーを構え、標的を絞り、それを発射させた。
ドバアアアアアアアアアッ
ファンネルの攻撃を懸命に回避していることに目を取られていたカーティウスのパイロットはこの攻撃に気付かなかった。よって、プラズマランチャーは直撃し、破壊された。
「グ……ああああああああああ!!!」
一機のカーティウスを破壊する事に成功。だがまだアーヴァインともう一機のカーティウスが残っている。その上他にも様々な敵MSが残っている為、状況は決して有利とは言えなかった。
プラズマランチャーを撃ち終えたブライティスに、アーヴァインがビームサーベルを所持し、迫って来た。急いで側腰部からビームセイバーを引き抜き、打ち合いを行う。
「最初にそのガンダムがやられたと思った時は心底がっかりしたが、ダミーで良かったぜ。じゃなきゃつまらないからな。」
「何を言っているんだ、こいつッ!」
ビームサーベルの出力はアーヴァインの方が大きい。その為、ブライティスのビームセイバーは弾かれてしまった。だが急いでプラズマランチャーを腰にマウントし、もう一本のビームセイバーを展開して、再び切り合いを行う。
「やっぱり戦いは良い!ゾクゾクする……今まで何も出来なかったのが嘘のようだ……」
「戦いを遊んでいるのか……このパイロット……?」
「お前も思わないのか?それだけエリートなら、戦いの楽しみを知ってると思うがな。」
ただ、戦いたいだけの男であるダウーラ。当然アレンはそんな気など無い。
「戦いに楽しみなんてあるものか!」
「そいつぁ残念だ……お前も楽しんで戦ったら……どれだけ楽しいのか分かるはずなのにな……」
「ふざけるな!」
「この快感が分からないのなら……とっとと消え失せろ……」
互いにビーム刃のスパークを弾かせている状態で、アーヴァインはフロントアーマーからビームキャノンを展開しようとしていた。それに気付いたアレンは急いで打ち合いを止め、その場から離れた。ビームキャノンは発射されたが何にも当たらず、ダウーラは苛立ちを覚えた。
「オイオイ、お楽しみはこれからだろうが。」
逃げたアレンに対し、コクピット内を思い切り握り拳を作って殴りつけた。歯を食いしばり、アレンの乗るブライティスガンダムを探し始める。
戦いが始まってから三時間が経過していた。激しい攻防を繰り広げる両軍。その間にも多くの艦やMSが破壊され、両者の損害は甚大なものとなっていた。
中でも新生連邦軍は、一進後退を続ける国連の戦略に踊らされており、確実に戦力を削られ続けている。新生連邦軍はMSのバリエーションなら国連よりも優れるのだが、それでも徐々に押され始めていた。その原因の一つにセイントバードとシュネルギアによる陽動作戦があったのだ。だがしかし、まだ新生連邦の本部施設には攻撃は加えられていない。
本部への攻撃を行うのはセイントバードを始めとする強襲部隊の役目であるのだが、この部隊が今エファンの率いる部隊によって足止めを食らっているのだ。
アッサラーム艦内にて。セイントバードの動きに対し、ウィレスは腕を組みつつもこのおかしな動きに疑問を抱いていた。
「おかしい……何故セイントバードは動かない……?」
「恐らく敵部隊に強力なMSの存在がいる模様……それに苦戦しているものとされます。」
「主となるMS部隊は我が陽動部隊に全て向かったのではないのか……ハッ……まさか……」
ウィレスはこの時、自分の失敗に気付いた。敵の中に頭の切れる存在がいると言う事を考慮していなかったのである。痛恨のミスであった。彼女が思い浮かぶ頭の切れる人物……それはただ一人を置いて他にいなかった。
「エファン・ドゥーリアか……」
「エファン・ドゥーリア……?」
「ああ、現在は新生連邦軍に所属している男でな。間違いない、奴ならば考えられる……この作戦を見抜く事等容易い……」
「ご存知なのですか?」
「頭が非常に切れる上に、MSパイロットとしても優秀……その男と戦っているのならば足止めを食らうのも無理は無い……クッ……不覚だった……奴は脅威だぞ……どうする、エリィ……」
エファンは強敵だ。以前、大西洋沖においても一対多数でその力を見せつけたエファン。その脅威は、ウィレス自身理解している。
(ギルス・パリシムのやり方の方針には私も逆らえない……あの男は軍部に権力を与えてはいるが結局はあの男が決定をしなければそれは承認されない……セイントバードに非戦闘員が居るのは分かっている。だが、私の力ではMS乗りを匿えない……エリィ、頼む、無事に生き残ってくれよ……)
セイントバードチームの非戦闘員の扱いの悪さの正体は、ギルスが関係していた。ウィレス自身はそれを匿いたい気持ちで居たのだが、ギルスがそうさせないのだ。そして、エリィに対して横柄な態度を見せた軍人であるモルド・ディンクスはギルスの息の掛った軍人であった為、不当な扱いを受けていたという事になる。こればかりはいくらウィレスとエリィが知人関係であれ、覆せない壁があったのだ。
アレンはアーヴァインから一時的に逃げ、再び攻撃を仕掛けようとプラズマランチャーを構えた。しかしその背後から熱源を感知したアレンは緊急回避を行う。回避を行った後、アレンが見た敵の影の正体は二機のガンダムタイプだった。ニッカとハーディがそれぞれ搭乗する、デスペナルティガンダムとアトミックガンダムである。再び厄介な敵と遭遇してしまい、アレンは焦りの色を隠せない。
「見つけたぜぇ!あの青羽のゲテモノガンダム!」
「今日こそ殺してやんよ!覚悟しろっての!!」
「クソッ!こんな時に限って!」
プラズマランチャーを腰にマウントし、腰部からビームセイバーラックを抜き、ビーム刃を展開して接近戦を試みた。それに対し、デスペナルティとアトミックは、それぞれ備え付けられているビームキャノンとビームランチャーで攻撃を加えていく。
それらの攻撃を回避しながら、ブライティスは二機に接近していき、まず、ブライティスはアトミックに対してビームセイバーを振り降ろした。しかし、それに対してアトミックはビームサーベルを展開し、攻撃を防ぐ。
「見えてんだよボケ!」
「フッ、どうかな……」
アレンは笑みを浮かべた……と同時に至近距離でブライティスはウイングを展開してビーム砲を一斉に発射させた。それにより、アトミックは機体を損傷させてしまう。
「行けっ!」
ピシュンッ
更にブリッツファンネルを展開し、これらをデスペナルティとアトミックに襲わせた。ビーム刃を展開し、突き刺す為にこの二機を追うブリッツファンネル。特殊強化モデルの乗るガンダムはどうにか回避運動を続ける。彼等は強化モデル故に、反射速度が優れている。だからこそ、ファンネルの動きに対して、オールドタイプよりも早く反応が可能なのだ。
「クソッタレ!こいつらなんとかなんねえのかよ!」
「邪魔すんじゃねえよこいつらぁ!!」
ファンネルは次々と二機を襲う。その間、ブライティスはその戦闘域から離れ、新生連邦本部へ直接攻撃を加えようと目論んでいた。
ブリッツファンネルが全基発射されている状態で、アレンの乗るブライティスは本部へと向かっている。その時、ジャンヌから連絡が入った。彼はすぐに回線を繋ぎ、内容を確認する。
「気を付けて下さい。いくら貴方とはいえ……本部の施設は何があるか分かりません。細心の注意を払って行動して下さい。」
「分かってる!」
「無事を祈ります……」
回線は消えた。ジャンヌの激励を受けたアレンはブライティスを下降させていき、新生連邦本部へ単機向かっていく。
しかしこれはウィレスの考えている作戦の中にはない出来事だった。つまり、これはジャンヌの独断なのである。アレンを単機で新生連邦本部へ潜入させ、セイントバードチームと合流することが目的なのだ。
一方のジャンヌ達は後方でシュネルギアを指揮しながら懸命に援護射撃を行う等、戦いを続けていた。彼女の側にはギアの姿もあった。
「この戦いは熾烈を極めるだろう。ジャンヌ嬢、気を付けて。」
「ええ……了解です。どうか、この戦いを一刻も早く終わらさなくては……」
ジャンヌは静かに呟いた。彼女は、この戦いが早く終わり、少ない犠牲者で済ませるようにしたいと願っていた。
だがその間もシュネルギアに新生連邦のMSが襲い掛かる。次に襲ってきたのは、プラズマランチャーを持つカーティウスだった。アレンがいない以上、この最新鋭機体を相手にするのは非常に厳しいものがあった。
「ジャンヌ様!補足されています!」
「弾幕を撃ちつつ回避運動を!」
「ダメ!ジャンヌさん!このままじゃ狙い打ちされる……!」
ココットが言った。その間にもカーティウスはツインアイを輝かせ、ビームランチャーを構えた。更に、ビームランチャーの砲身部が展開し、そこからエネルギーが集まっていき、プラズマランチャーを発射しようとしていた。
バシュゥゥゥ
しかしそこへアイリィのヴァントガンダムがカーティスに対してビームライフルを放った。シュネルギアを守る為に、果敢にもカーティウスに挑んだのである。この事で、プラズマカノンはシュネルギアに向けられる事は無かったが、代わりにアイリィの命が危ぶまれた。
「アイリィさん!逃げて下さい!」
ジャンヌは叫んだ。このままではアイリィがカーティウスに殺されるのが目に見えているからだ。しかし、それでもアイリィは攻撃をやめない。
「や、やるんだ!私だってやるんだからー!」
そう言ってアイリィのヴァントガンダムはビームライフルを連射する。当然、カーティウスはこれらを全てバリアーフィールドジェネレーターを展開して防いだ。するとカーティウスは両脚の膝関節を前方に屈曲させ、足底部からビームキャノンを放出した。高出力のビームキャノンから攻撃を防ぐためにシールドを構える。
だがカーティウスのビームキャノンの出力はシールドで耐えられるものではなく、これを受けたヴァントガンダムは左腕部が消滅してしまった。しかし彼女は諦めない。逃げ出す気配もなかった。
「左腕が無くったって!人間じゃなくてMSなら大丈夫なんだよぉ!!!」
彼女の乗るヴァントガンダムは右腕部を使い、腰部からビームサーベルを抜いた。それも一つではない。二つである。右の手部マニピュレーターを駆使してこれらを連結させ、ナギナタ状にしてカーティウスに迫ったのである。
「やああああああああああっ!」
カーティウスと比較し、機体性能が遥かに劣るヴァントガンダムで攻撃を仕掛けるアイリィ。それはあまりに無謀としか言えず、ジャンヌは必死に制止するが彼女はやめようとはしない。ヴァントがカーティウスに迫っている間、カーティウスは様々なビーム砲撃をヴァントに向けて放出していた。
回避が間に合わないヴァントは、両脚部や頭部を破壊され、残るは胴体のみとなった。こうなってはカメラによる視覚は頼れない。直接コクピットからカーティウスを肉眼で捉え、強襲するしか出来ない状態になっていた。しかし、機体のほとんどを破壊されているヴァントガンダムでは思うように動く事が出来ず、このヴァントはカーティウスの良い的と化していた。
やがてカーティウスはビームランチャーを構えた。それはヴァントガンダムに向けて発射される。回避しようとしても、上手にコントロールを取る事が出来ない。このまま真正面に向けて進めばビームランチャーをまともに受け、彼女は死んでしまう。が、それでもアイリィは逃げる事をしなかった。
「アイリィさん!!どうして……」
ジャンヌが問いかける。それに対し、アイリィは言った。
「たまには……役に立てたいんです!私あんまり活躍とか出来ない人間だけど……けど!こんな時こそ普段お世話になってるシュネルギアのみんなの役に立ちたいんです!だから……無謀だって分かっててもいいんです!戦います!!」
そう言ってアイリィは更にヴァントを前進させた。あまりに無謀な行為だと誰もが思っていた。そして、前面にいるカーティウスのビームランチャーは間もなく発射されようとしていた……
(あ……私死ぬんだ……ここまで……なのかな……)
シュネルギアを守る為に行動した少女、アイリィ。だがその命は儚くも、散ろうとしていた――
バシュゥゥゥゥゥ
その時、カーティウスに向けて、上空からビームライフルが数発撃ち込まれた。その方向には国連のハイエッジの姿があり、カーティウスに向けてひたすらビームライフルを撃っていたのだ。それに気付いた強化モデルのパイロットは標的をアイリィから上空のハイエッジに変え、ビームランチャーを発射した。これにより、上空のハイエッジは破壊される。
だがこれがアイリィにカーティウスを倒す機会を作ったのだ。上空に向けてビームランチャーを放った事で、油断していたカーティウスのパイロットはアイリィが迫ってきている姿を見て、すぐにビームランチャーを構えようとしたのだが、それは既に遅かった。
「はあああああっ!!」
ヴァントガンダムは決死の力で、連結したビームサーベルの上部分でカーティウスの胴体を切り刻み、そして下部分を駆使してカーティウスのコクピットを貫いた。この事でカーティスのパイロットは当然死亡し、それと同時にカーティウスは爆発した。彼女は敵機との圧倒的な性能差に翻弄されず、奇跡を起こしたのである。
「やっ……やった……!あっ……もうダメだ……脱出します!」
この時、ヴァントガンダムは新生連邦の別のMSのビームライフルによる攻撃を受け、エンジン部が破壊された。機体が限界だと感じたアイリィはすぐに脱出を開始。彼女は近くにいたアステル兵に拾われ、一命を取り留めたのだ。
新人兵士であるアイリィが起こした奇跡。これがジャンヌ達の士気を向上させることになる。
「私たちも……参りましょう。アイリィさんは果敢にも自分よりも強い敵に挑み、勝利を収めました。敵は強大です。しかし……勝てない相手ではありません。」
その言葉に対し、ブリッジ内のクルー全員が言った。
「了解!」
アイリィの活躍が、彼等をやる気にさせた。ただ、シュネルギアのクルーだけがやる気になった訳ではない。その周辺にいた、アステル兵達も彼女の活躍を見ており、彼等の士気も上がっていた。
ブライティスは単機で本部周辺の基地に攻撃を仕掛けていた。ブライティスの新工場にいたのは二機の陸戦型ディープシーであり、ビームライフルを撃ってブライティスを攻撃するが、いずれもこれらの攻撃を回避し、この二機の間を凄まじいスピードで通り過ぎる際、ブライティスは両手を使って横腰部からビームセイバーラック抜き、ビーム刃を展開し、一瞬の内にこの二機を破壊した。
他にも、ブライティスに迫ってくるMSは数多く存在する。そんな機体に対しては、先程デスペナルティとアトミックを牽制していたブリッツファンネルを展開して撃退する。
アレンの技量も相まって、圧倒的な力を見せつけるブライティス。やがてブライティスは新生連邦本部に繋がっているとされる施設内部へと潜入していく。
施設内部にも多数のMSは存在していた。侵入者であるブライティスに対し、攻撃を加えていくディーストやディープシー。しかしそんな機体ではブライティスの相手にもならず、簡単に破壊されてしまう。
だが、施設内に存在しているのはMSだけではなかった。迎撃用のミサイルシステムや、大型トーチカ等、多くの侵入者迎撃用の設備が整っていた。ミサイルシステムはブライティスを感知するや否や、一斉にミサイルを発射する。
無数のミサイルに囲まれたブライティスだったが、ファンネルを展開し、その上ウイングに装備されているビーム砲を一斉に展開する事でこれらのミサイルのほとんどを破壊する事が可能となった。一方の大型トーチカは、ブライティスに向けてビーム砲を撃つが、これらはバリアーフィールドで防ぐ。
バリアーフィールドがある為、行動に支障は無かったのだが、その先のエリアに進むにはトーチカを破壊する必要がある。何故なら、トーチカが行く手を遮っている為であるからだ。
そんなトーチカに対し、ブリッツファンネルを展開して攻撃する。しかし、ビームは全て弾かれてしまった。
「バリアーフィールド……?」
トーチカにはバリアーフィールドが施されていた。それを知ったアレンはブライティスにプラズマランチャーを装備させ、狙いを絞ってそれを発射した。
バリアーフィールドを貫通したことにより、トーチカは破壊された。それにより道が開け、その先をブライティスは進んでいく。
この施設が本部へと繋がっているに違いないと悟ったアレンは、臆することなく先へ進んでいく。長い一本道が続く上、この中には防衛機能が何一つもない。その事に対し、アレンは疑問に感じていた。
(何だ……ここが本部へ繋がっているとしたら、防衛機能が無いのは不自然だぞ……?どうなっているんだ……?)
彼がそんな風に思っていた時だった。突如、前方から熱源がブライティスへ向かって来る事に気付いたアレンは急いで左腕部を差し伸ばすことでバリアーフィールドを展開し、迫ってきた熱源を防ぐ事に成功した。急な攻撃に驚くアレン。そして、その攻撃を仕掛けてきた機体が彼の前に現れた。それはガンダムタイプで、以前に見覚えがあった。
「あの機体……まさか……!」
「随分とお久し振りですね。アレン。」
その機体に乗っているのは新生連邦総司令、レヴィー・ダイルである。つまり、アレンが今敵対しているMSはガンダムナパームである。
「レヴィー……」
「国連が本格的に攻撃を開始してきましたね。正直、驚きましたよ。現在デウス残党軍によって壊滅的なダメージを負っている新生連邦が宇宙へ部隊を派遣しており、地球での戦力は大幅に減少している時に攻撃ですからね。しかも戦力を確実に減らす陽動作戦を行っています。戦略としてはなかなかのものですね。」
そう言って、ナパームはビームサーベルを展開した。同じくブライティスもビームセイバーを抜いてビーム刃を展開する。
「最早……かつての平和主義を唱えていた国連の姿はそこにはありません。あるのは力で敵を倒そうとする、戦争の考えそのものを持った軍隊の存在のみ!」
「な……何が言いたいんだ!?」
「そんな組織に協力する貴方に絶望しているんだ、僕は!」
一本通路内の戦いが始まった。先に攻撃を仕掛けたのはナパームである。ナパームがビームサーベルで切り裂こうとすると、すかさずブライティスもビームセイバーで対抗し、拮抗し合っている。
「平和主義を唱えていた筈の平和国連盟は今やその影も形もなく、戦っている!貴方はそのような存在に対して何故、疑念を抱かなずに協力しているのですか!?」
総司令はアレンに何度か新生連邦に加入するように勧誘していた。しかしアレンは断った。そして、国連に協力している立場として、立ち塞がっている。
「俺だって、本当はこんな風な形で国連と協力なんてしたくないんだよ!」
互いの打ち合いが終わった後、両者は攻撃を止めた。
「それは、どう言う事ですか?」
先の攻撃とは一転、話し合いに応じようとする総司令。
「今の国連は手段を選んでいない!だから俺達やセイントバードを巻き込んで今回の戦争に臨んでいるんだ!それに逆らう事は死を意味する!俺だって不本意なんだよ!戦争なんてしたくない!だけど、今回の作戦で新生連邦の本部を制圧さえ出来れば、これ以上無駄な犠牲者を出さなくて済むんだ!」
「やはり、貴方は愚かですね。」
グォンッ
すると、ナパームはバーニアを展開し、ブライティスに急接近し、至近距離でシールドを構え、そこからビーム砲を展開した。急な攻撃に、ブライティスはバリアーフィールドを展開する間もなかった。
「レヴィー!どういう事だ!?」
「本当は戦いをしたくないが、仕方なしに戦うぐらいなら……命を賭けてでも拒絶するのが正しい選択肢ではあるとは思いますが。やはり、貴方も命は惜しいんですね。そう言った意味では貴方も人間です。」
不本意な戦いならば拒否すれば良いと言うのが総司令の意見だ。だが、アレンはこれを否定する。
「新生連邦がそれをするから俺は戦う!」
「違いますね。貴方がアドバンスドタイプであろうが、結局命が惜しいのです。だから、国連の命令に従う。それは生きたいという欲望を持った人間の正しい判断ですが、貴方は愚かでもあります。」
どのような意図があれど、実際に今の国連に協力している以上、それに対する説得力がなくなってしまう。それは、分かっていた。
「確かに命乞いに聞こえても無理は無い……けど、これは俺の意思でもあり、ジャンヌ達の意思でもある!俺が勝手に戦いを拒絶したらそれこそ皆が犠牲になる!だから今は国連に協力するしかないんだ!だけど俺はそんな国連のやり方に反対している。こんなのは間違っているから!」
「成程、だからあえて国連と戦う事を選びましたか。妥当ですね。しかし、無駄な犠牲者を出さなくて済むように……と言う割には、貴方は陽動作戦用のその機体のダミーを使って我が軍に攻撃してきましたね。それは立派な作戦ではありませんか。国連のやり方に反対している貴方は結局国連に協力しています。」
互いの意見がぶつかり合い、会話をする。かつての友人同士がこの場で再び戦闘を行っているのだ。
「アレン、貴方の言っている事は矛盾しています。そして、その根本は自分が生き残りたいという、生物の本能。所詮貴方の言葉は綺麗事だ。絶望しましたよアレン。」
総司令の言っている事は事実だ。国連は犠牲者を減らしたいと言っている割には、ダミーを利用した作戦を用いている。戦争に反対している筈のアレンが、こんな作戦に関与すること自体がおかしいと、総司令は言っていた。
「それで、その早期決戦をする為に僕を探す為にここまで来たと言う訳ですね。僕を殺し、新生連邦の支配を終わらせる為に。」
総司令を倒せば全てが終わるのは間違いない。
だが、アレンはコクピットから声を出し、言った。
「……お前には頼みがある。話をしたい。俺は、出来るならばお前を殺すなんて事をしたくない。」
その言葉を聞き、総司令は動きを止めた。
「殺したくない……ですって?」
かつての友人からの言葉に耳を傾けた、総司令。
「レヴィーは今、新生連邦のトップだ!お前が望みさえすれば、世界は対立する必要なんてなくなる!国連は今、新生連邦を攻め落とそうとしている!お前さえ望めば、争う世界なんて作る必要はないんだよ!」
アレンは必死に、総司令に言った。彼は総司令を殺す気はないという。だからこそ、戦いを止めて欲しいと懇願しているのだ。
だが今回は、国連が仕掛けた戦争だ。友人の言葉とはいえ、総司令がそれを素直に聞くとは思えない。
「成程、新生連邦に素直に負けを認めろと言う事ですね。貴方は友人としてそう、言っているのでしょう。」
総司令の言葉が静かに響いた。
「だとすれば貴方は何も分かっていない。本当の意味で愚か者と言えますよ。」
「何……!?」
言葉が届かないのか。かつての友人に対して言った言葉の筈なのに。
「以前に言った筈です。僕は止まる気はないと。当然ながら、貴方の言いなりになるつもりはありません。話し合いで解決するのなら戦争なんて起きていませんからね。」
アレンの説得も虚しかった。総司令は聞く耳を持たない。新生連邦は、一切手を引く気がないのだ。そして――
「エールゴーニオ発進!セーザム、四機発進!」
突如、総司令は言い出した。それと同時にこの施設が揺れ始めた。
「な……!?」
「この近くにMAが格納されていまして。国連軍はここを制圧するつもりでしょうが、そうは行きません。この施設は間もなく崩壊するでしょう。その前に脱出をしなければ。」
そう言った直後に、ナパームは基地の天井に向け、腹部からビームキャノンを展開した。この高熱によって開いた穴を利用し、バーニアの出力を展開し、外へ脱出を図ったのだ。
「レヴィー!」
結局、彼等は戦う運命なのか。その運命すらも受け入れなければならないのか。アレンは歯を食い縛り、ブライティスのバーニアを展開して、ナパームが開けた穴を通り、外へ出ていく。
外に出たアレン達。その直後に施設は脆くも崩れ去った。施設の周辺には、エールゴーニオが一機、セーザムが四機。計五機のMAが本部周辺を防衛するかのように出現していた。
これらのMAの存在は、国連軍にとって厄介な存在となっている。そして、総司令に追い付いてきたアレンに対し、総司令は言った。
「僕は簡単には死にません。国連は僕を殺して本部を制圧するつもりでしょうが、僕はMSに乗る限り、倒れる事は無いでしょう。恐らく国連軍は僕がこのガンダムに乗っている事に気付かないでしょう。だからこそ、ここが一番安全なんですよ、僕にとっては。」
「その為に防衛用のMAを……」
「取っておきというやつです。さて、戦いましょうか。貴方が弱気なら僕にも勝ち目があります。貴方のガンダムとの戦闘データは見せてもらいました。どういった武装があるか、どのような攻撃が得意か?それらを全て把握しています。性能差では負けるかも知れません。しかし技量で僕は貴方を倒しますよ。」
再びナパームはビームサーベルを展開した。
アレンはこの時、焦っていた。総司令であるレヴィー・ダイルが言っていた言葉に対して。
―――――――――――――所詮貴方の言葉は綺麗事だ―――――――――――――――
総司令に言われたこの言葉が重く圧し掛かった。国連の命令に従っている以上はこの事実はどのような言い訳も通じない。戦いが本当に嫌だというのならば、国連に従うと言う選択肢以外にもあった筈である。無論、その場合は命を落とす事になるが。
だが生き残ると決めた以上はこの戦いを終わらせる必要がある。アレンは戸惑いつつも、頭を振り、迷いを断ち切るように彼は再び総司令と激突する。
ナパームのビームサーベルと、ブライティスビームセイバーが打ち合いを行う。この時、ナパームは頭部機関砲を連射してブライティスのカメラアイを狙っていた。その為、急いでブライティスはナパームから離れる。
「新生連邦の総司令として、今ここでやられる訳には行かないんです。貴方が敵として阻むのなら、容赦なく貴方を倒します。僕は昔とは違う……今の僕が、本当の僕だから……」
「戦力を拡大し続けて……多くの人を犠牲にしてきた事に対して何も感じないのか!?」
「以前にも言いましたよね。今の国連や宇宙のデウス軍の様な脅威に対して軍備増強させ続けてきたんです。今がまさにその時ですよ!」
その時、ナパームはMAに変形した。そしてブライティスに急接近し、モノアイを輝かせたと同時に大型ナパームランチャーを一基、ブライティスに向けて発射する。間一髪でそれを回避するブライティス。反撃にウイングからビーム砲を展開した。だがこの攻撃も素早く回避されてしまう。
「やはり性能はそちらの方が上ですが、僕は負けません。分かりますよ。貴方は、本気で僕を殺す気が無い。その甘さ……それが命取りとなりますよ。」
「さっきも言った!お前とは殺し合いはしたくないって!」
「殺す気でなければ今の僕には勝てません!本気で来て下さい!」
「そんな事言ったって!」
ナパームはビームライフルとシールドビーム砲を展開し、それらを連射した。バリアーフィールドで防ぐブライティス。しかしMA形態であるナパームは脚部のクローを展開してブライティスを破壊しようとしていた。
「させないッ!」
間一髪、アレンはナパームの攻撃を回避する――その瞬間だった。
バシュゥゥゥゥゥ
ビームライフルによる一筋の光線がブライティスの眼前を横切ったのだ。
援軍が来たのかとモニターを確認する。そこには、ダウーラの乗ったアーヴァインの姿が確認できた。
「さっきの強化モデルか!」
「戦闘狂のパイロットですね。ドゥーリア少佐が目覚めさせた……」
静かに総司令は呟いた後、再びナパームは攻撃を開始する。
「ここだな、祭りの場所は!」
アーヴァインはビームライフルやフロントアーマービームキャノンを展開してそれらを全てブライティスに向けて放出する。ブライティスは前腕部にしかバリアーフィールドを搭載していない為、背部からビームライフルを撃たれても防ぐ手立てが無いのだ。
「おいおい、逃げてばかりじゃつまらんだろうが……戦えよ……おいっ!」
苛立ちを見せたダウーラは、執拗にブライティスを追う。
ビームライフルを撃った次は、バックパックの実弾キャノンでブライティスを狙う。それが発射され、ナパームと交戦していたブライティスはこの攻撃を受けてしまう。
「うああっ……!」
油断した。交戦中だった為、急な攻撃に対応できなかったのだ。機体が激しく揺れ、コントロールが効かない。
「それでも貴方はデウス動乱の英雄ですか。随分と腕が落ちましたね!」
「ま……けるかっ!!」
キシィン
ブライティスはカメラアイを輝かせ、ブリッツファンネルとブラスターファンネルを展開した。これらを一斉射撃し、近くにいた敵MSを攻撃する。アーヴァインはバリアーフィールドを持っているので防ぐ事が可能ではあるが、ナパームは防ぐ事が出来ない。よって、避けるしか出来ないのである。
「クッ……やはりファンネルは脅威か……」
乱れ撃たれるファンネルによるビームの嵐を、彼の技量を生かして回避する総司令。だが素早い動きのファンネルは容赦なく彼を襲った。ファンネルにより、危機は脱した。しかし戦いはまだ続いている。アレンに、気を抜く事は許されなかった。
総司令の命令により、防衛用のMAが合計五機出現した事により、国連軍は苦戦を強いられていた。如何なるビーム兵器を全方向から無効にし、ミサイルや巨大なビーム砲を持つクライシスと、無数のビーム砲や攻撃方法を持つエールゴーニオ。これらの存在は国連から見て脅威の一言でしかない。
セイントバードチームも必死だった。迫ってくる敵MSに対し、弾幕を張って寄せ付けないようにするセイントバード。しかしそこへ一機のグランシェがブリッジまで迫ってきており、ビームマシンガンを発射しようとしていた。
ガキィン
それを見ていたツヴァイはグランシェを蹴り飛ばした。本来ツヴァイは新生連邦本部へ向かっていたのだが、セイントバードが気になって一度戻ってきていたのだ。そしたら、偶然にも襲われているセイントバードの姿を目の当たりにし、レイは行動に出たのである。
「やはり戻ってきたね!レイ・キレス君!」
「シーアさん!?まさか僕と戦う為に!?」
「君が戦う理由が何となく分かったからね。守る為に戦っているんだろう?だったら守る対象を攻撃するまで。そうすれば嫌でも来るだろうから。」
「ふ……ふざけないで下さい!!!」
ピシュンッ
怒ったレイはファンネルを展開する。これらを全てグランシェに向かわせ、襲わせた。計十八基のファンネルは全てグランシェに向けられる。
「そうだ……その意気だよレイ君!それで良いんだ!戦うことっていうのはこういう事なんだからさ!」
そう言いながらグランシェはファンネルを回避している。やがてセイントバードから離れていき、とりあえずセイントバードは危機を脱した。レイはグランシェを追いかける。戦わせる為にセイントバードを狙ったこの男に対して怒りを感じていた為である。
セイントバード艦内では必死にエリィが命令を下していた。セイントバードは新生連邦の攻撃を受け続けていた為、ダメージは甚大な物となっていた。
「下手に攻撃を受け続けたら沈みます!艦内には非戦闘員もいますから……気を付けないとダメなのに……」
セイントバードの上ではトルクス達が防衛を行っている。SFSであるゾーリド・カスタムに乗っていないトルクスは艦の防衛を行い、ゾーリド・カスタムに乗っているトルクスは出撃してセイントバードの護衛を行っている。
しかし、それでもセイントバードはダメージを受けていた。もし護衛が無ければ、セイントバードはもっと早く沈んでいたことだろう。
この時、彼等は幸いにも周りに敵がいない状態にあった。好機だと感じたエリィはセイントバードを前進させる。
「早くケリを付けた方がいいわ!その方が……無駄に戦わなくて済むから!スラッグ君、急いで艦を浮上させて!」
「分かってますよ!今、全力ですよ!」
スラッグは操縦桿を握り、艦全体を上昇させていく。
(この艦自体が囮になるとか、そう言う事は無かったのは不幸中の幸い……それもウィレスさんの采配なのかな……ケド、それでもそもそも艦内の非戦闘員を巻き込んで戦争してる戦艦なんておかしいわ……国連、どうかしてる……)
様々な感情を抱えつつ、エリィは握り拳を作った。だが、その時、インクが彼女に報告する。
「艦長!前方に同型艦一隻を確認!」
「えぇっ!?」
彼等の前に出現したもの。それはウイングイーグルだった。海からの攻撃に対しての援軍という形で現れたのである。ダリア・ローゼントの指揮するこの艦に、以前に地中海で沈められそうになった。強敵が迫ってきている。
しかし避ける事等出来る筈が無い。エリィは覚悟を決めた。
「……よし、大型ビームカノン発射スタンバイ!目標はあの戦艦です!早く沈めておかないと……あの戦艦は危険だから……」
「了解!スタンバイ!」
セイントバードの上部に巨大な砲身が出現した。これが大型ビームカノンであり、そのターゲットは前方にいるウイングイーグルである。
砲身にエネルギーが集められ、今にも発射されようとしていた――
「えりぃ!びーむくる!よけろ!!!」
そこへ、メナンがブリッジに入って来たのだ。突然の、メナンの言葉に騒然とするブリッジ内。
「え――?」
エリィはその言葉に反応した。その直後――
「艦長!上空から大型の熱源が急速にこちらに向かってきています!」
インクが言った。メナンの言葉は、正しかったのだ。
「緊急回避を!」
「回避し切れません!急過ぎます!!!」
突如上空から出現した、大型の熱源。メナンの言葉を聞き、すぐに反応するスラッグ。しかし急過ぎるこの砲撃を完全に回避する事は不可能であった――
ドバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
凄まじい出力のビームがセイントバードを貫いた。幸い、メナンの助言もあり、ブリッジにそのビームは直撃しなかったが、艦の中央部分に穴が開き、メインエンジンが破壊され、艦内は激しく揺れ、航行に支障が生じる程のダメージを受けていた。
この光景を、周辺にいた誰もが見ていた。レイやネルソン、エファンやシーアにクラリス。そして、国連や新生連邦の兵士達。何があったのか?一体何者による砲撃なのか?ビームが放たれた方向を見上げると、太陽を背景に一機のMSの姿が確認できた。
それは漆黒の翼をまとい、両前腕部には二連装のビームキャノンが装備されている独特の形状をしたMS、デスゲイズの姿が確認された。
「あ……あれは……!?」
レイが言った。そして、デスゲイズのパイロットがこれらを見下しながら、ニヤリと笑みを浮かべ、口を開いた。
「俺、参上ォ!」
ビゴォン
デスゲイズのモノアイが輝く。コクピットにいたのはメイド・ヘヴンだった。この機体による砲撃がセイントバードを貫いたのである。そして、メイドはこの周辺で交戦している全てのMSのパイロットに対して言った。
「こんちはてめえらァ!てめーらが面白いドンパチやってるの見てオラ、わくわくしてきたぞ!!!ってことでさぁ、暇潰しに武力介入を開始させてもらうぜェーーーット!!!」
ギュルルルルルッ
その瞬間、有線式ビームサーベルが展開され、国連と新生連邦の機体六機を一瞬の内に破壊した。あまりに素早い動きだった為、その場にいた人間は誰も見極められなかった。
「フン、面白い奴が現れたな。」
エファンは笑みを浮かべ、メイドの元へ向かう。〝暇潰し〟に国連と新生連邦の戦争に介入するこの男。最悪の戦いが幕を開けようとしていた。
第七十八話、投了。
エファンの脅威に翻弄される一行。そして、戦場に出現したデスゲイズは何をしようと言うのか。