機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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戦争は終盤に向かっていた。その中で、ネルソンはセイントバードと運命を共にしようとするエリィを見つける――


第八十話 戦禍の告白

 新生連邦と国連の激戦は終盤に向かっていた。既に太陽が沈みかけており、状況は国連が有利になっていた。ウィレスによる陽動作戦は成功したのだ。更にメイド・ヘヴンの介入によって無残にも主力の機体が破壊されていく。これらにより、次第に追い詰められていく新生連邦軍。

様々な者達が動く、この戦場の中で、シュネルギアは然程ダメージは受けていない。というのも、戦力が削られているので敵の数が然程多く無い為だ。ジャンヌ達は今回然程前線に出ていないのである。

国連が有利となっている今回の戦場。しかし一方で、セイントバードは滅びようとしている。メイドの乗るデスゲイズによって放たれた一撃は余りに重く、セイントバードは壊滅寸前であった。エリィは艦内のクルーに脱出するように命令した。ただ、自分以外を除いて……エリィは皆を守る為にセイントバードでウイングイーグルに攻撃し、動きを封じた所をこの艦で衝突させ、死ぬ気だったのだ。

その時、エリィにミシェから連絡が入った。急いで繋ぎ、ミシェの言葉を聞く。

「全員収納完了だ!エリィ、急いでくれ!もうそこにいる必要は無いぞ!」

「私は……残ります。皆さんは早く行って下さい。」

エリィの言葉にミシェは怒った。命を投げ出す気でいた彼女の行動が許せなかったのである。

「ふざけんな!さっきスラッグとインクから聞いたぞ!何故死ぬ!?死ぬ必要がお前にあるのか!?」

ミシェの言葉に対し、エリィは涙を流しながら言った。

「早く行って下さい!!このまま口論を続けてたら貴方達まで巻き込まれてしまう……そんなのは嫌なの……お願いです……早く……!」

「……ちぃ……!」

やむを得なかった。MSデッキも炎に焼かれており、壊滅寸前だった。一刻も早くここから逃げ出さなくては巻き添えを食らい、皆死んでしまう。ミシェは皆の命を優先する事にし、小型輸送機を発進させた。

だがその時、窮屈な輸送機内部でウィリアが叫んだ。

「ミルフがいない!?」

「なんだと!?けどもう時間が無いぞ!」

ウィリアが叫んだときには小型輸送機は発進していた。その直後にMSデッキは大きな爆発をした。もしあと一秒でも遅れていれば彼等は巻き添えを食らっていただろう。しかし気になるのはミルフである。もしここにいないとなれば、艦内に取り残されているかも知れない――ウィリアは心配になった。

「お、おい……あれって……!」

一人の整備士が指を指した。その方向を見る皆。その先にいたのは紛れもなくミルフだった。

 

「光だ……光がある……」

皆が脱出を図る中、ミルフはおぼつかない足取りで、何を思ったのか、MSデッキから飛び降りていたのだ。

 パラシュートも付いていない状態でこの高度から海へ飛び降りる事自体が自殺行為だが、ましてや、今は戦闘中。つまり、ビーム粒子が飛び交う状況である。

その直後、少女はビーム粒子による光を浴び、身体が消滅した。ウィリアが守ろうとしていた少女は、戦闘に巻き込まれてしまったのである。

「おい……マジ……かよ……!」

「信じられねえ……」

皆騒然とした。ミルフは輸送機に乗らず、MSデッキから海へ落ちた。

海上は現在国連と新生連邦が交戦している。それに巻き込まれるのは分かり切っている話であり、その海に飛び込むのは自殺と同義語である。何故彼女が輸送機に乗らなかったのか。それは、彼女が精神的な不安定を訴えており、その現実から逃げたいという心理的なプレッシャーがあった為だった。

「なん……で……?やっぱり……ショックが大きすぎたの……?」

ウィリアは大きなショックを受けた。懸命に精神的な恐怖を煽らないように優しく言葉を掛け続けただけに、突然のミルフの自殺は衝撃的なものだった。それも国連と新生連邦のMSが放ったビームライフルを浴びて消滅するというあまりに惨いものであった。

ミルフ・ブラマンジュ。氷河族に所属していた少女だったがメンバーがばらばらとなり、その中でグァン・ホーキーズによる惨い仕打ちを受けた。その後はネルソンに助けられたが、精神状態に問題を残したまま今に至っていた。彼女の精神状態はウィリアが思っている以上に深刻な状態だったのである。その結果、少女は自殺に至ったのだ――

「……もう、見るな……あの子の為にも、今は俺らが生き残るんだよ!そうだ、全員に伝えねえとな……!」

すると、ミシェはセイントバードチームのパイロット達全員に対して音声通信を行った。

「全機に告ぐ!小型輸送機が発進した!クルー全員が乗っている。陸に着く間だけで良い、俺らを守ってくれ!」

それに真っ先に気付いたのはネルソンだった。戦渦の中を小型輸送機が人間を乗せて移動していると言うのは余りに危険である。それを守る為、彼は交戦していたグランシェを撃破した後に輸送機の側へ向かう。それ以外にも、残されたトルクス達が輸送機を守る為に向かって行った。

 

 

 

陸へ向かう間、輸送機を護衛する為に活動するセイントバードチーム。ビームライフル等の砲撃に巻き込まれないように、輸送機を狙う機体を徹底的に撃破するようにする。輸送機が落とされれば全てが終わる。絶対に守らなくてはならないと、ネルソンは思っていた。

彼等が輸送機をビーム砲撃から守っている為、輸送機は現在無傷だ。輸送機内の皆は誰もが無事を祈り続けた。

(頼む……守ってくれよ……!!)

そこへ、一機のグランシェがモノアイを輝かせ、ビームマシンガンを構えて輸送機を狙い始めた。そのパイロットはシーアで、この輸送機がセイントバードのものであることを知っていたのである。

「こんな戦場に……悪いけど邪魔だから壊させてもらうよ。」

ビームマシンガンが発射されようとした時だった。ハルッグがグランシェにキックをお見舞いし、輸送機を守ったのである。突然の攻撃に戸惑うシーア。それに対し、ネルソンは言う。

「輸送機を狙うなどどうかしている!あれには罪のない人間が乗っているんだぞ!!」

「戦争の邪魔をしているのは立派な罪だよ。それを知らせてやろうとしたまでさ。」

「貴様!」

明らかに故意で輸送機を破壊しようとしているシーアが許せないネルソン。そしてハルッグはロングビームライフルを構え、グランシェを狙った。だがグランシェはシールドを展開してビームを防ぐ。そしてそのまま輸送機の方にビームキャノンを放出しようとしていた。

「やめろ!!」

ハルッグはMAに変形し、ビームヒールでシールドを切り裂いた。それによりシールドは爆発し、破壊される。

「まあ、当然か……守らないとダメだからね。けど俺はあれを破壊する。戦争の邪魔をしているんだ。当然でしょ。」

「させるか!」

セイントバードも気掛かりだが、今は輸送機を守ることが先決だ。シーアの乗るグランシェの猛攻に対抗しつつ、ネルソンは戦っていた。

するとその時。輸送機は急に速度を増した。そして徐々に下降していき、やがて戦闘域から離れた。その様子を見て安心するネルソン。その際、ミシェから連絡が入った。

「感謝するぞネルソン。だがお前にはやるべき事がある。」

「無事で何よりです、ミシェさん。ん?やるべき事……?」

「……セイントバードに艦長が居る。後は、分かるな?」

そう言った後にミシェは連絡を切った。セイントバードにエリィがいる……そう言い残して。それが意味するもの……つまり、輸送機にエリィは乗っていなかったという事である。

「馬鹿な!?あの人は何を考えているんだ!!」

焦るネルソン。急いでセイントバードの方向へ向かおうとした……しかし、それを邪魔したのはシーアだった。

「俺の相手をして貰おうかな!」

「邪魔をするなぁぁぁッ!!」

このまま振り切りたかったが、セイントバードにエリィがいると知った以上、この状態でセイントバードに近付けば確実に攻撃を加えられる。そうなればエリィの命はない。そう、判断したネルソンはシーアと交戦する事を決めた。

 

 

 

一人、セイントバード内に残されたエリィは全員の脱出を確認した後、行動を起こそうとしていた。炎で焼かれたブリッジ内で、ビームカノンを発射する為のレバーを引こうとしていたのだ。

エリィの眼に狂いは無かった。爆発の影響により、索敵能力を失っているブリッジだが、エリィは合間から見える、敵艦のウイングイーグルの距離や位置を確認した後に大型ビームカノンのレバーを引こうとしていた。

「お願い……当たって……!」

死を覚悟した彼女の最初の攻撃が始まる。思い切りレバーが引かれ、その後にセイントバード上部から砲身が出現し、ウイングイーグルに向けて大型のビームが発射されようとしていた。

無論、このような状態で大型ビームを発射すれば艦への衝撃も半端な物ではない。もしかすればこの一撃で艦が完全に崩壊する可能性だってあるのだ。しかし今は躊躇っていられない。エリィはこの一撃に賭けた。

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

大出力のビームは発射された。それと同時にセイントバードは更に爆発を起こした。奇跡的に完全に破壊される事は無かったが、最早攻撃を少しでも受けるだけでも危機的な状態に陥っていた。

 

「敵同型艦より熱源確認!」

「何!?あの状態でこちらに歯向かう気なのか!?回避は!?せめて撹乱膜の展開は!?」

「間に合いません!」

「馬鹿な……!?」

瀕死の状態のセイントバードが放ったビームカノンは、エリィの思惑通り、ウイングイーグルに直撃した。今回の砲撃以前より元々国連軍の攻撃を受けてダメージを受けていたウイングイーグルにとって致命傷となったのである。

しかし、その形状の崩壊には至らなかった。右舷の破壊に成功はしたが、狙いが甘かったのだ。

「右舷被弾!艦の制御困難!!」

「奴は、この艦を道連れにする気か……?」

この時、ダリアはセイントバードの執念とも呼べる行動に恐怖をしている様子だった。先の砲撃は、艦そのものの破壊こそしなかったが、それでも致命傷に至るには十分と呼べた。

 

 

ビームは直撃した。しかしウイングイーグルは破壊に至っていない。先のビームの発射によってセイントバードの被弾は更に進み、爆発は更に酷いものになっていた。既にインク達が脱出したドアにも炎が及んでおり、エリィは最早、逃げる事が出来ない状態だった。

しかしこのような状態になっても、エリィは冷静だった。死を覚悟しているからだろうか、炎に囲まれても彼女は恐れを抱かず、ウイングイーグルを見続けた。

「よし……敵艦の動きを封じた……後は……」

すると、エリィは今までスラッグが座っていた場所に座り、セイントバードをウイングイーグルの方向へ加速し始めたのだ。遂に彼女はセイントバードを犠牲にしてウイングイーグルを破壊しようとしていたのである。無論、セイントバードだけの損害で済む筈がない。エリィ・レイスという若い命をも引き換えにして、ウイングイーグルを破壊する気でいたのだった――

 

 

 

エリィが特攻を開始しようとしている最中、アレンはMAに攻撃を加えていた。彼が今攻撃を行っている対象はセーザムである。様々な実弾兵器に耐えられる装甲に、全方位に備え付けられているバリアーフィールドジェネレーター。防御面においてこのMAはほぼ完璧な存在であるのだが、唯一の弱点は、ビームサーベル等のビーム刃による攻撃である。近接戦闘を行われると対処する事が出来ず、成す術もなくセーザムは破壊されてしまうのである。近接戦闘と言う訳ではないが、過去にデスゲイズの有線式ビームサーベルによって破壊されているのが例の一つである。

セーザムは無数のミサイルを展開し、ブライティスに襲い掛かった。だがブライティスはブリッツファンネルを展開してビームを放出し、ミサイルを破壊していく。避けきれないものはビームシールドを展開して攻撃を防ぐ。

「やられるか!」

ブライティスは両横腰部のビームセイバーラックを抜き、連結させた。連結したビームセイバーを持ってセーザムへ接近していく。その時にセーザムは長い砲身からビームキャノンを発射しようとしていた。それに気付いたアレンは緊急回避を行う。その為、砲身からビームが発射されてもビームがブライティスに直撃する事は無かった。

そして接近に成功したブライティスは連結したビームセイバーを用いてセーザムを切り刻んだ。この為、セーザムは大きな爆発を起こし、破壊された。

これで残るMAは三機となった。だが残る三機は依然国連に対する脅威として立ち塞がっている。中でも巨大MAであるエールゴーニオはその豊富な武装を用いて国連の障壁となっている。

以前、アレンはエールゴーニオと言う名のMAを破壊した事があった。その為、今回も破壊を行う事は出来るだろうと思い、エールゴーニオの方向へ機体を向かわせた時だった。

接近する機影の姿を確認したアレンは急いでビームセイバーを分離させ、接近してきたMSと打ち合いを行った。接近してきたMSはカーティウスである。このカーティウスのパイロットはエファン・ドゥーリアだった。

「エファン・ドゥーリア……!」

「随分と久し振りではないかアレン・レインド。ダーウィンの時以来だな。しかし、こうして直接MS同士で戦うのはいつ以来だろうな!?」

エファンの乗るカーティウスはプラズマランチャーがマウントされていない。自ら切り離した為である。アレンは疑問を抱きつつもエファンと交戦を行う。

「ク……貴方は……危険過ぎる!」

「危険だと?笑わせるな!この世で力を持つ人間が溢れているこの現状の方が余程危険と言えるのではないか!?」

「どうして貴方は力を持つ人間を殺そうとする!?レイのような子供にまで手を出して!」

「それを知ってどうなると言うのだ!?」

「答えろ!!」

「答える義理はないな!」

打ち合いを行いながら、両者は喋った。その直後、エファンはわざと機体を後方に移動させ、その後で脚部を変形させ、足底部のクローでブライティスを捕まえようとした。

急いで回避運動に移るブライティス。間一髪、クローによる攻撃は避けられた。これが直撃すれば零距離からのビーム砲撃は避けられなかった為である。

「答えを知りたければその実力で私を倒してみるのだな!同じアドバンスドタイプ同士だ。ハンデも何もない筈だろう?」

挑発するようにエファンは言った。しかしこの時、アレンは考えていた。この敵をどのように倒せば良いのかを。

(実際、確かに同じアドバンスドタイプだけどハンデはある……MSを操縦する技量は圧倒的に相手の方が上……それを突破するには……)

「突破など不可能だ!あくまでもアドバンスドタイプという、力を持つ者同士と言う意味でハンデがないと言ったまで!仮にお前がオールドタイプだとすれば、その時点でハンデが生じるだろう!だが技量は別だ。それは各々の実力!さて……実力で私を倒す事が出来るか!?」

 

ギュオオオ

 

そう言ってカーティウスはカメラアイを輝かせた後に膝関節を前方に屈曲させ、足底部からビームキャノンを放出した。これらを全てバリアーフィールドで防ぐブライティスだが、ビームキャノンを撃ちつつカーティウスは近付いてくるため、これを避けつつ後退しなければならなかった。

(あのクローに掴まれたらバリアーフィールドを張る事は出来ない……零距離からのビームは確実にダメージを受ける……なら!)

逃げてばかりはいられない。アレンも攻撃を開始した。頭の中で電流が流れた後にブライティスはブリッツファンネルとブラスターファンネルを展開する。これらを一斉にカーティウスに対して襲わせた。

「行け!」

素早い動きでカーティウスを翻弄するブリッツファンネルとブラスターファンネル。これらはいずれもカーティウスにビーム砲撃を浴びせるのだが、全てカーティウスが展開したバリアーフィールドによって防がれてしまう。アレンはカーティウスにバリアーフィールドジェネレーターが搭載されている事を知らなかったのだ。

「そんな!?」

「甘いな」

戸惑うアレンに対し、カーティウスは素早い動きでブライティスに接近し、脚部のクローを展開する。そしてそれはブライティスの二枚のウイングを掴み、すぐにビームキャノンを発射した。これによりウイング二枚は消失してしまう。

「うぅぅ!」

機体が激しく揺れた。ウイングが二枚破壊された事で、二基のブリッツファンネルは宛てもなく彷徨うことになってしまった。

「なんて機動性だ……こんなの……!」

「その程度で私を倒す気だったか?残念だな」

エファンは笑みを浮かべる。一方のアレンはこの強敵に苦戦を強いられていた。アレンがエファンと戦うのはオペレーション・デモリッション・クリエイション以来である。搭乗機体の変化したエファンを相手に、アレンは策を考えていた。

 

 

 

 

ネルソンはシーアと激闘を繰り広げていた。補給を受けずに幾多のMSと交戦してきたネルソンにとって、エースであるシーアの相手をするのは限界があった。

「ちぃ……機体が思うように動かん……」

「機体のせいにしちゃうの?そこら辺は技量が大事になってくると思うけど?」

「黙れ!!」

ハルッグはビームサーベルを展開してシーアのグランシェと一度、打ち合いを行った。だが、ビーム刃が弾けたと同時に、ハルッグのビームサーベルの出力が低下していく。やがてビーム刃は完全になくなり、それに気付いたネルソンは急いで後方へ下がる。

「ちぃ……エネルギーがもう無いのか!?」

急いでロングビームライフルを構え、発射しようとするがこれもエネルギーが切れており、ビームを発射する事が出来ない。焦りを感じたネルソンはハルッグの肩部のミサイルを撃った後にMAに変形してそのままセイントバードへ向かった。彼がこうして戦っている間にもセイントバードは崩壊の一途を辿りつつあるのである。エネルギーが切れているのならば戦っている場合ではないと彼は判断し、その場から離れた。

当然シーアはハルッグを追いかける。決着が付いていないのに逃亡を図る等、おかしいと判断した為である。

「エネルギー切れで逃げるか!妥当だけど俺は納得しないよ!」

ハルッグを追跡する為にビームマシンガンを連射する。だがハルッグの機動性はグランシェよりも高い為、追い付く事が出来ない。ビームマシンガンを撃ってもハルッグに届かないのである。

ビームマシンガンが届かぬのならば、シールドに搭載されているシュート・シューターを発射するまで――そう思ってシーアはその武装を使おうとする。その時だった。

 

ズバァァァッ

 

シーアのグランシェのバックパックは何者かに切り刻まれた。やがてグランシェは爆発を起こし、身動きが取れなくなった。彼がモニターを確認すると、そこにはデスゲイズがモノアイを輝かせてシーアの方向を見ていた。

「クッ……邪魔が入ったの……?」

「メイド、おまえらころすます!」

するとデスゲイズは身動きの取れないグランシェに対し前腕部の二連装ビームキャノンを連射した。何も出来ないまま、グランシェは破壊され、シーアは急いでコクピットから脱出をした。

「逃げたか……ま、いーや……おっ?」

その時デスゲイズに攻撃を加える機体が現れた。クラリスの乗るグランシェである。先程のリベンジを行う為にメイドに攻撃を加え始めたのだ。

「貴様ァァァ!!!」

怒るクラリスに対し、メイドは笑みを浮かべて言った。

「いい加減しつけーんだよデク人形ォ!」

するとデスゲイズは有線式ビームサーベルを展開し、クラリスのグランシェに襲い掛かった。すぐに回避運動に移るグランシェ。どうにかビームサーベルによる攻撃を回避するのだが、その後でデスゲイズはMAに変形し、素早い動きでクラリスのグランシェに近付き、近付いたと同時に再びMSに変形した後にグランシェの機体腹部に向けて腕部を駆使して殴り始めたのだ。

「しまっ――!」

逃げるにも、この時デスゲイズはグランシェの肘関節と膝関節部に線を巻き付けており、身動きが取れない。抵抗も出来ず、グランシェはデスゲイズのサンドバッグと化してしまう。 

デスゲイズが三回グランシェの腹部を殴った後、殴った前腕部から二連装ビームキャノンを腹部に向けて発射した。至近距離だった為、防ぐ方法もなく、グランシェは破壊されてしまう。

「ク……こんな……こんな屈辱がァァ!!!」

クラリスはどうにか脱出したが、圧倒的なデスゲイズの力に太刀打ち出来なかった。彼の乗っていたグランシェはやがて海の藻屑になっていく。メイドはそれを見届けた後、先程ハルッグが向かって言った方向へ向かい始めた。

「さっき戦ってた奴……面白そうじゃねえか!」

悪魔は次なる標的をハルッグに決めた。エネルギーが既に切れているハルッグに危機が迫る。

 

 

 

やがてネルソンは沈みゆくセイントバードに追い付く事に成功した。焦るネルソンは急いでブリッジに通信を繋ぐ。

「艦長!聞こえているか、艦長!!」

ブリッジは燃え盛る炎に満ちていた。その中で一人の女性の姿を確認するネルソン。

「大……尉……?」

ブリッジ内は炎のせいでモニターが崩壊している。よって、ネルソンの映像は見えなかったが、声を聞く事は出来た。

「クルーは皆無事に脱出した。全員無事の筈だ。」

セイントバードのクルーは皆脱出した事を報告する。それを聞いてエリィは笑みを浮かべ、ネルソンに言った。

「それは……良かったです……これで安心して……」

「な、何を言っているんだ、艦長……?」

エリィが怪我をしているのがネルソンには分かった。頭部からは血が流れており、身体のダメージが大きい事がネルソンから見ても分かる。激痛に耐えながら何故滅びゆくセイントバードに彼女がいるのか……ネルソンは問う。

しかしその間もセイントバードは少しずつウイングイーグルに接近しつつある。ウイングイーグルもセイントバードのビーム砲をまともに受けたので身動きが取れない状態であった。

「私はこの艦の責任者です……私は……この艦と最期を共にします……」

エリィから聞こえてきた衝撃の言葉。ネルソンは耳を疑った。彼女は死ぬ気なのだ。ネルソンは当然ながら、反発をする。

「ふざけるな!何故貴方がここで死ぬ必要がある!?」

「責任者としての役目を果たすだけです……!大尉も離れて下さい!セイントバードは……もうすぐ敵のヒエラクス級に衝突します……」

「なんだと……!?」

エリィは次々と事実を語っていく。その言葉の一つ一つがネルソンに重く圧し掛かり、衝撃を与えた。

「そんな……馬鹿な……」

「全部、事実ですよ……私は死ぬ気です。この艦と共に、あの同型艦を破壊する為に。」

エリィが死ぬ。ネルソンはそれが考えられなかった。

デウス動乱後にエリィと出会い、やがてセイントバードチームを結成してからもずっと行動を続けてきた。エリィはセイントバードの艦長として努力し、ネルソン自身もMSパイロットとして、また、医者として過ごしてきた。

その間にレイを仲間に入れた後も行動を共にしてきた。サハラ砂漠で砂漠の狩人に襲われた時も、地中海に出て新生連邦軍にセイントバードを沈められそうになった時も、日本で過ごした時も。それから先、様々な場所へ行った時も、常に行動を共にしてきた両者。

二人は決して恋人同士だった訳ではない。しかし、セイントバードチーム結成には欠く事の出来ない存在である。ネルソンにとって、エリィの存在は居て当たり前なのである。

しかし、今彼女はセイントバードと共に消えようとしている。彼女と過ごした思い出が何もかも消えようとしている。それだけはあってはならない、絶対に阻止しなければならないとネルソンは思っていた。

だがどうやって止める?この滅びゆく聖鳥をどうやって止められるのか?敵艦であるウイングイーグルへ向かっているこのセイントバード。止める事はもう出来ない。そしてエリィはそのまま死ぬ気であった。艦の責任者という、ただそれだけの理由で。

「どうして貴方は……貴方は死ぬ必要がある!?滅ぶのならばこの艦だけでいい!」

「ダメなんです!私が艦を動かして、皆を守らないと!それは艦の責任者としての義務でもあります!」

「黙れ!義務だと……そんなものなど関係がない!大体、我々は軍属ではない!士官の中には艦と共に運命を共にする人間もいる。けれども貴方はそれを行う必要は一切ない!」

「あります!皆を守る為に私が犠牲になって……特攻をするんです!」

エリィは拒否する様子を見せない。滅びゆく艦と運命を共にしようとしている。

「それにね、大尉。私、艦長をして分かったんですよ。艦という存在の大切さが。それはもう……まるで自分の子供を持つような感覚なんです……だからセイントバードが何度か傷ついた時も私、実は結構傷付いてたんですよ?だけど皆の前でそんな姿を見せるなんて出来ないから……私、隠してたんです……」

「……戦艦は……あくまでも人間の作り出した兵器の一つなんだ……子供でも何でもないのだ……!」

ネルソンは拳を震わせながら言った。それと同時に、少しばかり、涙を流した。

だが、その間もセイントバードはウイングイーグルに接近していく。その距離は、先程にセイントバードがビーム砲を撃った時と比べ物にならない程に縮んでいた。

「ウィリアさんやミシェさんや大尉のおかげでセイントバードは動いてきました……多分みんなと出会わなかったらここに私は居なかったと思います。私にとってここは家とか家族とかと同じなんです!だから……だから……私は見守らなきゃならないんです……せめて……この艦と共に散るまで……」

「どうしてだ!そんな必要などない!気付いてくれ艦長!!」

ネルソンの決死の声も空しく、セイントバードはウイングイーグルへ近付いていく。

 

 

 

ウイングイーグルは迫り来るセイントバードの存在に焦りを感じていた。全く身動きが取れず、航行不可能なウイングイーグル。オペレーターは接近してくるセイントバードの存在に対してどうすれば良いか分からず、ただ報告しか出来なかった。

「敵ヒエラクス級、接近してきます!特攻をする気です!」

「ダメだ、このままじゃ……」

慌てるオペレーターや、兵士達。その時、艦長であるダリアは重い口を開いた。

「総員速やかに退艦!「急げ!早く逃げろ!!!全クルーに伝えろ!!!」

ダリアがそう命令した後、ブリッジクルーの中には逃げる人間の数も多数見られた。その際、オペレーターは言った。

「中佐も早く逃げる準備をされては……?もう艦は航行機能を持っていませんし、あれを撃墜できる武装もありません……」

ウイングイーグルは迫る国連を迎え撃ち過ぎた為、武装が無い状態だったのだ。その状態をセイントバードに撃たれ、この艦も今のセイントバードと同様に壊滅寸前だったのである。 

当然国連はウイングイーグルを狙って来る。だが、幸い新生連邦のMSがウイングイーグルを守る為、国連に撃墜される心配は無かった。MSを命令してセイントバードを撃墜する事も出来たが、周辺にいるトルクスがセイントバードを命懸けで守る為に攻撃を仕掛けてくる為、迂闊にセイントバードを狙わせることが出来なかったのだ。その為、ダリアはクルーに退艦命令を下したのだ。

そしてオペレーターはダリアに退艦するように言う。しかし、ダリアは次の台詞を言った。

「私は残る。この艦と共に運命をしよう。」

「な、何を言ってるんですか!?」

ブリッジにいた皆は動揺した。何故逃げないのか……疑問に感じたのである。そしてダリアはクルー全員に語り始めた。

「ウイングイーグルを始めとするヒエラクス級はな、私の父親が開発したものだったのだ。私は上層部にこの艦を与えられた。以来、この艦の指揮を務め続けている。どんな時も、ずっとこの艦と共に運命を共にしてきた。父親が作った大切な戦艦、それがヒエラクス級だ。だからこそこの艦を大切にしたいと思っている。もし死ぬのならばこの艦と共に散ろう。」

ダリアの父親はヒエラクス級を開発した人間である。その父親を、ダリアは尊敬しており、この艦が上層部に与えられた時は心から喜んだと言う。だからこそ、この艦が散る時は自分も運命を共にしなければならないと感じていたのだ。

それはエリィの思想と似ていた。思い入れがあるからこそ、運命を共にしたいと言う考えである。

「……お前達は何をやっている?死ぬならば私一人で死ぬぞ?早く、脱出をしろ!」

ダリアはブリッジにいた人間全員に対してそう言った。するとブリッジクルー達はダリアの前に立ち、彼女の手を掴み始めたのだ。

「私は……私達は……中佐と運命を共にしますっ!」

「な……お前達……!?」

ダリアの言葉に感銘を受けたブリッジクルーはダリアと運命を共にすると言い始めたのだ。だが彼女はあくまでも彼女の意思でここに残ると言っている。巻き添えを食らわせる訳には行かないと思い、ダリアは説得した。

「やめろ!死ぬのは私一人で良い!何故お前達まで死ぬ必要がある?」

「中佐と共に死にたいからですよ!ここにいる皆は全員そうです!」

ブリッジクルーの中にはダリアの退艦命令で逃げた人間がいる中で、あえて今ここに残っている人間達の存在……それは、ダリアと共に死ぬ覚悟が出来ている人間達であった。その数は十二人。皆、死ぬ気だったのだ。

「お前達……何故……?」

「艦を思って死ぬなんて普通の指揮官に出来る事じゃありません!そんな指揮官を放って逃げるなんて私には出来ません!」

「それに中佐の事を尊敬していますからね、我々は!」

皆が笑顔だった。ここに残っている人間に、恐怖で表情を歪ませている人間は誰一人としていない。

「……悔いは……無いんだな……?」

ダリアがその用に言った途端、十二人は一斉に言った。

「ありません、中佐!!」

「……了解した……」

共に死んでくれる十二人の兵士達。ダリアはこの時固い表情で彼等を見ていたが、内心では嬉しかった。強化モデルを製作や、罪なき人間を殺害する等の数々の悪行を行ってきた新生連邦という存在に嫌悪感を示していたダリアだったが、この部下達は自分と共に死んでくれる……慕ってくれる部下達の存在が今の彼女にとって支柱となっていたのだった。

 

 

 

ネルソンはエリィに説得を続けていた。だが一向にエリィは気持ちを変えようとしない。艦と運命を共にする……その事ばかり言っているのだ。

「やめろ……!何故……死ぬ必要がある!?」

「これは、私自身の覚悟なんです!艦長としての務めだから……大尉、もう離れて下さい……そしてこの戦いが終わったらみんなに伝えて下さい……私は最期まで艦を見届けたって……」

遺言を言い始めたエリィ。当然ネルソンはその言葉に反論する。

「何を言っている!?死ぬな!」

「早く離れて下さい!このままじゃ……」

その時、ブリッジは大爆発を起こした。その爆発により、炎は益々大きくなり、その上剝き出しの状態になっていたのだ。

「艦長……!クッ……!!!」

燃え盛るセイントバード。その上エリィの意思は相変わらず固く、ネルソンはどうすれば良いのか分からず、ただ困惑していた。

 

                 ズバァッ

 

その時、有線式ビームサーベルによる攻撃がハルッグを襲い掛かったのだ。その攻撃によってハルッグの左腕部は切り裂かれ、海に落ちた。

「さっきから何ほざいてんだボケがぁ!!!中に女がいるんだろ?戦場で必死こいて説得とかアホ丸出しなんだよォ!!」

メイドが邪魔をしてきたのだ。このタイミングで最悪の機体が現れた。

「ちぃ……こんな時に……!」

「早く逃げて下さい!このままじゃ大尉が殺されてしまいます!」

「逃げてたまるか!今私が逃げたら貴方は死ぬだろう!」

「私の為に、大尉が死なないで下さい!!」

エリィは涙を流して言った。そのやり取りを聞いていたメイドは笑いながら言う。

「ハハハハハ!茶番かよ!!!申し訳ないがクッソ寒いお涙頂戴物語はNGってなぁ!」

再びデスゲイズは有線式ビームサーベルを展開しようとした時だった。一機のトルクスがデスゲイズのバックパックを掴み始めたのだ。セイントバードとハルッグを破壊させまいと、しっかりと掴み、離さない。

「へぇ~、随分と慕われてるじゃねえか!?」

メイドの頭の中に電流が流れた――と同時に有線式ビームサーベルはバックパックを掴んでいるトルクスを串刺しにした。当然中のパイロットは息絶え、それと同時にトルクスは爆発した。これによりデスゲイズは自由となり、再びハルッグに襲い掛かる。

「くたばれやァ!!!」

デスゲイズが迫る……その時、別のトルクス二機が再びデスゲイズを掴み始めた。しかも今度は前腕部を掴んでいるので、有線式ビームサーベルを出す事は出来ない。

「チッ、うぜぇ……」

身動きの取れないデスゲイズ。一方で、ネルソンはこの二機のパイロットに対し、感謝の言葉を述べた。

「すまない……」

そう言った後に、再びネルソンはエリィに説得を試みる。

「……艦長、今のトルクス達の行動を見ただろう?貴方は貴方が思っている以上に信頼されているのだ……死なれては困る存在だと皆が言っているんだ!!」

「……だけど……そうであったとしても……私は……私は……」

困惑するエリィ。当然トルクスのパイロットはネルソンがしたいと思っていることを知っており、だからこそデスゲイズの邪魔をしたのである。しかしデスゲイズの圧倒的な力はトルクスに止められるものではない。前腕部を掴んでいても、デスゲイズは二連装ビームキャノンを撃ち、二機のトルクスの頭部を破壊した。しかしカメラが破壊されても、トルクスは離れる様子を見せない。

「離す……ものか……!」

「すげえ面白い展開だなァ!!!現実でこんな事が起こるなんてよォ!ネタにしては面白ぇぞ!ハッハッハッハ!」

メイドは笑っていたのだ。この緊迫した状況を、まるで漫画等の展開だと言い始めたのだ。その言葉に怒るトルクスのパイロット。しかしメイドの技量は圧倒的で、止めるにも止

められない。

「こうなったらハッキリ言わせてもらうぜ!そんなガラクタMSでは俺は絶対止めるのは無理よ!ムリムリムリムリかたつむりなんだよォ!!」

そう言って、デスゲイズは腕部を振るった。大型機体であるデスゲイズが腕部を振るう事により、掴み切れなかったトルクスはデスゲイズの腕部を離してしまう。それと同時に有線式ビームサーベルを展開し、二機のトルクスは破壊された。その様子を見たネルソンは涙を流し、エリィに言う。

「……今も貴方の……貴方の為に二人の尊い命が消えた!何故だ!どうして貴方は……貴方はどうして自分の事ばかり考えるんだ!!!」

「……でも……私は!」

「“私は”何だ!?貴方の為を想って死んだ人間がいるんだぞ!それだけ貴方は信頼されているし、好かれている!貴方がセイントバードの艦長として今まで活躍してきたことによって……艦の多くの人間が貴方を慕っているんだ!だから死なれたくない、死なないで欲しいと願っているんだ!何故!?どうして!?貴方はそんな人間の事を考えずに死のうとするんだ!何故……何故だ……どうしてなんだ……」

「う……うう……」

エリィも涙を流した。ネルソンは更にエリィに対して言葉を言い続ける。

「貴方は身勝手だ……貴方に死なれて困る人間がいると言うのに、それでも死のうとするんだ……貴方は最低だ……何故死のうとする!?ただ艦の責任者だから……そんな理由で死ぬなど……どうかしているぞ!」

「でも……私は……義務として……」

「義務など無い!」

両者が涙を流している間、セイントバードはもうすぐウイングイーグルに衝突しようとしていた。それを見たメイドは笑みを浮かべ、ネルソンのハルッグに対して有線式ビームサーベルを展開しようとした。

だがそれを別の機体が邪魔をした。他のトルクスである。それらがデスゲイズを止めている、その間にもネルソンは必死にエリィを説得しているのだ。

「そうだ……貴方は私の気持ちも考えずに勝手に死のうとする……最低な女性だ!そんな事が、許せる筈がないだろう……!」

「えっ……?」

ネルソンは、〝私の気持ち〟と言った。それが何を意味するのか……エリィははっきりと分かったのだ。

「私は……ずっと……ずっと……貴方の事が……

貴方の事が好きだったんだ!なのに何故!?何故私の気持ちに応えないまま死のうとする!?艦長…… いや、エリィ!!!

「!?」

精一杯の告白だった。ネルソンは今までエリィに対して抱いてきた精一杯の思いを今、伝えたのだ。

そして、彼の今の言葉がエリィを大きく動かした。動揺するエリィ。それに対し、ネルソンはハルッグの右腕部を動かし始めた。

「後ろに下がれ!」

「え……あ……はい……!」

言われるまま、エリィは後ろに下がる。その時、ハルッグはセイントバードのブリッジを破壊した。壁は完全に剝き出しになり、ハルッグのコクピット内のモニターからでもエリィの姿が確認出来る程だった。そして、ハルッグは右手を指し伸ばした。手はエリィの目の前にまで伸び、ネルソンは言う。

「早く……乗れ!」

「でも……!」

「いい加減にしろ!皆の……いや、私の気持ちを踏みにじる気かッ!!!」

その直後、天井から炎を纏った破片がエリィの頭上に落ちてきた。それに気付いた彼女は急いでハルッグの手に乗り移った。急いでハルッグは腕を引き、ブリッジを後にする。

その直後に、ブリッジは大爆発を起こした。ブリッジだけで無い。セイントバードそのものが最早原形を留めていない程に炎で燃え盛っていたのだ。

 

やがてセイントバードはウイングイーグルに衝突した。エリィは間一髪救出されたのである。しかしその一方で、ウイングイーグルの中にいるダリア・ローゼントはこの衝突に巻き込まれた……

「敵ヒエラクス級、接近……」

「……」

セイントバードと、ウイングイーグルこの巨艦二隻が衝突し、周囲は大爆発を起こした。やがてこの巨大な鳥達は海へ沈み、消えて行った。本来ならば運命を共にする筈のエリィは助かり、一方で運命を共にしたダリアはそのまま消えて行った。彼女を慕うクルー達と共に。

 セイントバードが見せた最後の勇姿。敵を巻き込んでの特攻。戦後、エリィ達を支えたこの戦艦は海の藻屑となった。多くのクルー達の、思い出を乗せて……

 

 

 

エリィは現在ハルッグの右手部マニピュレーターの中にいる。だがここにいては危険だと判断したネルソンは右腕部をコクピットに近付け、すぐにエリィをコクピット内に収納した。無事に彼女を救い出す事が出来たネルソンは静かに笑みを浮かべ、それに対してエリィも笑みを浮かべた。

「ありがとう……ございます……」

「……良かった。貴方が生きていて。私の気持ちには後で答えてくれ。今はこの場から去る。」

「……はい……」

ネルソンはハルッグをその場から離れる為に稼働し始めた……その時。メイドのデスゲイズが彼を追って来たのだ。

「往生させてやんよォォォ!えぇ、オイ!!!」

「チッ!奴か……!」

セイントバードを沈めた元凶であるメイドがネルソンを襲う。エネルギーが切れているハルッグでは太刀打ちなど出来る筈がなく、逃げることしか出来なかった。その為、急いでMAに変形しようとするハルッグ。だがその時だった。

「ハハ~!」

有線式ビームサーベルがハルッグの右脚部を切り裂いたのだ。この衝撃で機体は揺れ、ネルソンは頭を強く打った。

強敵相手に、彼はこのまま逃げる為に行動するかと思われたが、違った。セイントバードを破壊した元凶を目の前にして、ネルソンに怒りが込み上げてきたのである。

「邪魔を……するなぁぁぁぁぁ!!!」

この瞬間、反撃と言わんばかりにハルッグはデスゲイズの腹部を左脚部で思い切り蹴った。

「チッ!非リア充はお呼びでないってか!まーいいや!飽きたし!撤退するかー。」

彼の発言にあるように、メイドはハルッグに攻撃を加える事を諦める事にしたのである。そして、地獄の使者はこの戦闘宙域から姿を消した。その理由は、〝飽きたから〟という、あまりに自分勝手な理由だった。

散々暴れるだけ暴れ、多くの犠牲者を出した挙句に退散するという残虐さを見せつけたメイド。この場にいた全員が、あの機体は何故ここに現れたのかと疑問に思っていた。

 

 

 

戦闘は収束へと向かっていた。アレンとエファンは交戦し続けているが、その一方でレイは遂に本部に辿り着いたのだ。

そこで、本部の中でバスタービームライフルを構える。それはつまり、新生連邦政府の敗北を意味していた。それを確認した総司令、レヴィー・ダイルは俯きながら全軍に撤退命令を下す。

「全軍、撤退を。我々の、敗北です……」

総司令の宣言により、残されていた新生連邦の全軍が太平洋へ向かって行った。追撃を試みる者もいたが、それを制止する者もいた。

多くの艦やMS、そしてMAがその場から去っていく。その中にはエファン・ドゥーリアの姿も見られた。

「本部の陥落か。ある意味歴史の立会人になれたのかも知れんな。命令とあれば従おう。」

アレンにそう言って彼はその場から去っていく。だが本部の陥落という由々しき事態に対し、どこか、他人事のような印象を抱いているエファン。

やがて新生連邦軍は本部施設を破棄した。この瞬間、彼らが残された居場所は月基地のみとなった。つまり地球上は全ての国が国連の領土となったのである。

多くの犠牲者が出た今回の戦争。だが、結果的に国連は勝利を収める事が出来たのだ。

 

 

 

国連による新生連邦本部攻略戦はこうして幕を閉じた。セイントバードチームのクルーは皆、ロサンゼルス沖の小島に避難していた。というのも、ミシェの運転している輸送機がその小島が安全な場所だと判断した為である。既に太陽は姿を消し、空は満面の星空で満たされていた。

やがてツヴァイがその小島を見つけ、着陸した。コクピットからはレイが出てきて、セイントバードの皆と会った。

「レイ!」

リルムはレイに駆け寄った。無事が確認出来、喜びを感じている様子だ。

「レイ!無事で良かった……」

「れい!ぶじか?さすがだれい!」

「レイ君……」

エレン、メナン、ウィリアがレイの帰還を祝福した。他にも、ガーストやプレーンもレイを祝福している。

「お疲れ様、頑張ったな、レイ。」

「流石ネ、レイ!」

誰もが笑顔だった。セイントバードが無くなってしまったのは悲しい事だが、それでも、皆は生きられている喜びを実感していた。

「ただいま……」

レイは静かに口を開けた。最初は彼は笑顔だった。が、ふと、ここでエリィがここにいない事に気付く。エリィだけで無い。他の人間の姿も見当たらないのだ。

「……あれ、エリィさんは……?あと、ネルソンさんもいない……あと、スバキは?それに……あの子の姿も……」

「スバキはシュネルギアが回収したってさっきアレンから聞いた。けど……」

「……まさか……」

レイは心配になった。まさかエリィはセイントバードの爆発に巻き込まれてしまったのか……信じたくなかった。エリィが死んでしまう事等、彼には考えられなかった為である。

「まだ、帰ってきてないね。」

リルムがそう言った後、ウィリアは俯きながら言う。

「エリィとネルソンは分からない……けど……あの子……ミルフは……」

「まさか……戦闘に巻き込まれたんですか……」

「ええ……」

レイはミルフが死んだ事を悟った。悲しい事実がレイを襲う。

「それじゃあ……まさかあの二人も……?」

返ってこない両者。一体どこへ……?まさか死んだのか……レイは不安で一杯だった。

守る為に戦っているのに、もしこれで死んでいたら自分が今までしてきた事が無駄になる。それだけは避けたかった。ただでさえ、ミルフ・ブラマンジュという少女が死んだと言うのに、これ以上悲しい思いをしたくない……レイは思った。

 

ピキィィィ

 

その時、レイの頭の中で電流が流れた。それと同時に彼は少し笑みを浮かべた。

「エリィさんだ!エリィさんが!」

その声と同時に、皆空を見た。するとそこには左腕部を無くし、右脚部も無くなっているハルッグHMCの姿があった。しかし、ハルッグが居る。それは、ネルソンも生きていると言う意味だった。

「ネルソンさんもいます!無事だったんだ……二人とも!」

やがてハルッグは陸地に降り立った。それと同時にコクピットが開かれ、ネルソンとエリィの姿が現れる。この時、二人は手を繋いでいた。お互いに笑みを浮かべ、そのまま皆の方向へ歩いていく。

「艦長!大尉!」

整備士達とスラッグとインクは彼等の方向へ走った。無事だった二人の姿を見て皆が歓喜している。

「良かった……死んでない……!幽霊じゃない!!!」

インクはエリィの手を握った。涙を流しながらエリィと対面した。

「……ただいま……」

静かに笑みを浮かべるエリィ。その笑顔はスラッグ達を安心させた。

「良かったッス……俺……本気で……うぅっ……」

「スラッグが泣くなんて……相当な事だよ……うぅっ……」

スラッグとインクは涙を流した。エリィが生きていた……それが何よりの喜びだった。

その時、インクはエリィがネルソンと手を繋いでいる姿を目撃した。その瞬間、彼女の涙は止まる。

「あ……え!?も、もしかして!?」

「……フフ……バレちゃったね、大尉……じゃなくて、「ネルソン」。」

「そりゃあ……我々は手を繋いでるからな。エリィ。」

既にお互いの呼び名が名前に変わっている事に気付いたインクとスラッグは驚きを隠せない様子だった。それと同時に、周りに居た整備士達は残念そうな表情を浮かべていた。

「そんなぁ!大尉、酷い!」

「俺だって艦長への思いは大尉に負けないぐらいだったんスよ!?」

「みんなのアイドルを奪うなんて!酷すぎますよ!」

「大尉、やることえぐい……」

皆はネルソンに対して不満を言っていた。しかしそんな彼等を見てネルソンは笑った。

「まあ、こうなるとは思ったよ。エリィは人気だからな。」

「なんか……照れちゃうな。私〝ネルソン〟なんて今まで……呼んだ事、なかったから……」

「何、少しでも慣れて行けばいいさ……お、レイ。」

笑う二人の前に、レイの姿があった。レイは最初俯いていたが、やがて顔を上げ、笑顔になった。

「あ、あの!おめでとうございます……エリィさん、ネルソンさん!」

レイは二人が結ばれた事を祝福した。それを祝ったのはレイだけでない。リルムやエレン、ウィリア等、多くの人間が彼等を祝福したのだ。

「おめでとうございます!」

リルムが言った。

「お……おめでとうございます!」

エレンが言った。

「なんかしらんけどめでたいな!べっぴんねーちゃん!」

メナンが言った。

「エリィさんおめでとうございます!」

ガーストが言った。

「めでたいネ!」

プレーンが言った。

「フフ……仲が良いのね、二人共……」

ウィリアが言った。

このように、皆、まるで自分の事のように嬉しそうにこの二人を祝福した。セイントバードチームの中心となってきた両者。何度も敵に襲われたりする中で、懸命に指揮をし、クルー達を守って来た中心人物。その両者が結ばれるという、喜び。

「や、やだ……結婚した訳じゃないのに……」

皆の過剰とも言える盛大な祝い方に、エリィは照れていた。ネルソンも内心は照れていたが、あえて平静を装った。

そのような、ムードのセイントバードチームだが、その中で一人の男が煙草を吸いながら姿を現した。ミシェ・ジンバルドである。

「やったなネルソン。あの時……セイントバードが沈みそうになった時に告ったんだろ。男らしいじゃねえか。」

そう言ってフッと、煙草の煙を吐いた。

「知っていたんですか?ミシェさん……」

「ああ。お前の考えは大体分かる。ずっと好きだったんだろ。エリィの事が。」

そのような話を堂々と皆の前でするものだから、ネルソンとエリィは顔を赤めていた。皆の中には笑うものもいれば、怒る者もいた。だがそれは本気の怒りと言うわけでなく、建前上の怒りと言える。 

和やかなセイントバードチームの光景……それは戦闘の傷跡を気にさせないものだった。犠牲者は多く居た。それらに関しては皆悲しんでいる。だが、悲しい一方で、死ぬ筈だったエリィが生きていたなど、喜ばしい出来事があるのも事実である。

エリィとネルソンが付き合う事になった事実で皆が喜ぶ中、ウィリアはミシェの近くに行き、話し掛ける。

「良かったわね、長い間一緒にいた中で、ようやく結ばれたって感じかな。」

「まあな。まあ、実際にはネルソンが片思いってのもあったんだろうが……まあ元々あいつらはお互い恋人を戦争で亡くしている者同士だったからな。仲良く喋る事はあっても付き合う事は難しいだろうさ。こうして、お互いが付き合えているというのは、過去の悲しい出来事を自分の手で断ち切ったって意味でもある。それは成長してるって意味なんだよな。つまり、人間はいくつになっても成長が出来るってことなんだよ。身体の成長じゃなくて、心の成長な。」

「へぇ……語るのね。」

「ま……色々とあるんだよ。俺にも。……しかし、あいつらも結ばれたんだ。恐らく結婚を前提に付き合うだろうな。」

ミシェは再び煙草を吸い、そっと吐く。白い煙は夜空へと消えていく。

「さて……俺も独り身は飽きた。そろそろ相手を探し始めるか。」

「あら、それは昔の自分を捨てるって事?」

ウィリアが言った言葉に対し、ミシェは静かに呟く。

「まあ……そうであり、あいつを見て単純に独り身が正直寂しくなっただけだ。」

「ウフフ……」

ネルソンとエリィが付き合えた事を、心から祝福するミシェ。いつもは笑顔を余り見せないミシェも、二人の嬉しそうな表情を見て自然に笑顔になっていた。

 だが、この時ウィリアは内心で物悲し気な表情を浮かべていたのだった。

(ミルフ……)

側に居ると決めた筈の少女が、戦闘の光に包まれてしまった。それは彼女にとって大きな傷となったのである。精神的に追い詰められていたミルフは生きる事を放棄してしまった。彼女の守るべき存在は、完全に消えてしまったのであった。

 祝福されるべき事と、そうでない事が起きた状況。彼女の側でミシェは、安寧の表情を浮かべながら再び煙草を吸い、その煙は静かに空へ消えて行った。

 




第八十話、投了。
長かった戦争も今回で終わり。国連が勝利を収める形となりました。
そして、ネルソンはエリィへ想いを伝える事が出来ました。
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