機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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今回は番外編。先の戦いの後の、戦闘狂の話。


第八十一話 メイド・ヘヴン

 新生連邦が国連に敗北した直後の事。敗北した新生連邦の艦隊は太平洋へ逃亡。大部隊が太平洋を通過し、やがてハワイ諸島周辺まで辿り着いた時に事件は起こる。

〝飽きた〟という理由で新生連邦と国連の戦争の介入を止めたメイドは現在の新生連邦と同様に、太平洋を横断していた。が、機体の損傷は彼が思っている以上に激しく、思うようにデスゲイズは動いてくれなかったのだ。

「オイマジかよ!ざっけんじゃねーよ!こんなことでガタガタするようなこいつじゃねーだろうがよ!クソッ、動け、このポンコツが!動けってんだよ!」

デスゲイズのコクピット内で苛立つメイド。その時、彼はぽつんと浮かぶ小島を目撃する。まるで自分の為に用意されていたかのように存在するその小島を見て、彼は歓喜した。

「おほー、とりまあそこで凌ぐしかねぇか」

思うように動かないデスゲイズを少し休ませる為、彼は小島に降り立った。

しかしその後方でその様子を見ていた者がいた。新生連邦の艦隊の中の一部隊である。

「黒いMSは小島へ降り立った模様。これより追跡を開始します。」

「了解、用心しろ。」

マドラ級艦内で行われていたそのやり取り。彼等はデスゲイズを狙っていると思われるが、詳細は謎に包まれている。

その後三機のMSがマドラ級から出撃した。ディーストである。いずれもステルス迷彩を搭載しており、以前にアステル家を襲撃したものと同様の武装をしていた。

小島までの距離はここから近く、普段は飛行能力を持たないディーストでも着地する事が可能な距離だった為に、あえてSFSであるエンパワーは使用されなかった。ディーストはそのバーニアを駆使し、デスゲイズを追うのだ。

 

 

 

小島に降り立ったメイド。デスゲイズを浜辺に着陸させ、うんと欠伸をした後、砂浜で寝転がった。頭の後ろで手を組み、足を交差させ、そしてそこから空を見る。

夜空は星空に覆われており、爛々と輝きを放っている。それは人間の作った芸術とは異なる、自然が作り出した美しさであった。また、浜辺と言う事で、波を打つ音も彼にとって癒しとなっていた。メイドは波の音を聞き、その光景を見ながら独り言を呟き始める。

「こーしてぼんやり空見るのも中々オツでござ候……」

やがてメイドは静かに目を瞑る。暴れて疲れたのか、彼はここで眠る事にしたのだ。

夜空の元で一人、眠るメイド。彼が眠りについている最中、寝言で次の言葉を呟いた。

「……兄者……」

狂人のように暴れ狂うメイドから出た、〝兄〟という言葉。その言葉を吐く時、彼は静かに呟いた。何故ここで〝兄〟という言葉が出たのか……それは、彼の中に秘められている寂しさから来ているのかも知れない。

 

                 バンッ

 

だが、彼は長い間眠りに就くことは出来なかった。というのも、突如サーチライトの光が彼を照らしたからである。苛立った様子でメイドは目を覚まし、辺りを見回した。

「もう朝か?……早くね?」

すると、彼の眼前に二人の男が現れた。男は皆新生連邦兵で、いずれもが機関銃を持っており、それに気付いたメイドは手を上げる。

「武器を捨ててから手を上げてもらおうか!撃っても無駄だぞ!残りの一人はMSに乗っていてお前を直接殺す事が出来る!」

その時、二人の兵士の内の一人は手を上げた。直後にメイドの後方へ頭部機関砲が発射された。メイドに対する威嚇射撃である。この時、メイドはこの男達がやろうとしている事が嘘ではない事を悟った。

「糞連邦は俺を休ませてすらくれねーのな。疲れてんだよこっちはよぉー頼むよー。」

そう言いながらメイドは所持していた武器を全て出した。その後で一人の男がボディチェックを行う。メイドは下着を含む服を全て脱がされ、武器を隠し持っていないかを徹底的にチェックされた。

「勘弁してくれよ~。俺は実はノンケなんだよ~。そっちの気はネタでしか興味無いんだよ~。しかも寒いし最悪だよ~。つーか俺BLの受けキャラじゃねーんだよ~。攻めキャラとかもどうでもいいけどよ~。仮に相手が女だとしても俺裸にされるの気持ち悪ィんだよ~。つーかこれ絶対需要ねーだろ。需要と供給ちゃんと考えろやボケ!!この絵的に誰得だ?」

「黙れ!いちいちうるさい奴!殺されたいか!?」

「うっせぇなぁ。てめぇこそいっぺん、死んでみる?ハハハー!」

大笑いしながらメイドが言った後、彼はボディチェックを行う男に顔面を殴られた。仕返しをしようとするメイドだが、もう一人の男は機関銃を持っている為、抵抗が出来なかった。

「腐ってる癖に糞連邦の軍人は冗談が通じねぇから困るんだよな。ホントによォ」

表情を引きつらせ、ぐっと拳を握る。苛立ちが治まらない様子のメイドだったが、じっと我慢していた。

「持っている武器は以上のようだな……よし、連行する。抵抗すれば命は無いと思え。」

「へぇ。」

やるせ無い返事をするメイドに、兵士は怒る。

「この状況を分かっていないのかお前!」

「うっせーんだよ。抵抗してねーんだからさっさと連れてけやアホ。」

メイドの態度に怒る兵士。殴る構えを見せるが、もう一人の兵士がそれを止めた。

「もう殴るのは止めておけ。正直お前なんざすぐにでも殺したい所だが、お前には聞く事が山程あるからな。」

「何を聞くかは知らねえが、俺は気分屋なんだよな。」

「ほざいてろ。嫌でも喋らせてやる……」

これから何をされるか分からないと言うのに、メイドは余裕の表情を浮かべていた。まるでこれから行われる事を楽しむように、気楽だったのだ。兵士はこの男が何故ここまで笑っていられるのかが奇妙で仕方がなかった。それでも警戒しながらメイドを連行していく。

その後、メイドの身柄は新生連邦のホノルル基地に移された。デスゲイズは新生連邦に鹵獲される形となった。マスドライバー破壊の命令を受けているメイドに危機が迫る。

 

新生連邦は国連に敗北し、大艦隊を率いて太平洋横断を行っていた。その最中に戦場を混乱させた元凶であるデスゲイズを発見し、新生連邦はパイロットであるメイドごと身柄を拘束。やがてホノルル基地へと移送される。

その連絡を聞いた総司令のレヴィー・ダイルは、彼が乗っているアームズクロウをホノルル基地へ向かわせた。それに続くように、何故かエファン・ドゥーリア率いるドゥーリア隊もホノルルへ向かう。その他の部隊はフィリピンへ向かっていた。

フィリピンの地下深くには新生連邦軍のマスドライバー施設が存在しており、この大部隊は宇宙へ上がろうとしていたのであった。本部が制圧された今、各地に備え付けられているマスドライバー施設を使わなければ宇宙へ上がれなくなった彼等。新生連邦の敗北は、彼等に厳しい現実を見せていた。

 

 

 

やがて朝になった。メイドは一睡もしないまま監視され続け、やがてホノルル基地内でようやく服を与えられた。その服は彼が元々着用していた服であった。だが彼は現在まで厳重に見張られており、彼は身動き一つとる事が出来ない状態だった為、ストレスが溜まっていた。その上手錠をされている上、裸で過ごした為、彼は身体を震わせていた。

服は兵士が着せた。彼は手錠を付けている状態で過ごさなければならなかったのだ。それ程にメイドは徹底的に監視されているのだ。これも彼が国連と新生連邦の戦いで無駄に暴れ回った当然の結果とも言えた。

「あれか?赤ちゃんプレイってやつか?けど相手がこんな男じゃあなあ……せめててめぇら的には女だったらまだ価値はあったんじゃね?いやいや俺が女はないわー勘弁やでぇしかし」

「減らず口が……いい加減にしろよこの野郎が!!」

付き添いの兵士は遂に怒った。手錠をされて身動きの取れないメイドを、思い切り殴るのだ。

「あー、痛ってぇ!何すんでい!」

殴られた事に対し、メイドは兵士を蹴った。その瞬間、彼は捉えられ、最終的には足にまで錠がかけられることになった。こうなってはメイドは身動きの一つ取る事も出来ない。  

その為、メイドは椅子に乗せられた。ただの椅子ではない。下手な事をすれば電流が流れる仕掛けのある車椅子である。歩行の出来ないメイドは仕方なしにそれに座り、舌打ちをして兵士を睨んだ。

「あまり調子に乗ると電流が流れるぞ。」

「へー、徹底してるね~。」

「当たり前だ。お前のような奴を野放しにしては危険だからな……さて、お前には山程聞きたい事がある。」

そう言われた後で、メイドは椅子を押されながらとある部屋へ連れて行かれた。この時、彼は大きく欠伸をした。その様子から、これから自分が何をされるのかまるで分かっていないようだった。

 

 

 

それからメイドは薄汚い部屋へ連れて行かれる。そこに着くなり、彼はすぐにその部屋に遭った小さな椅子に座らされた。彼が座った時、突如壁からロープが出現し、メイドの腹部を覆った。これにより、彼は立ち上がる事すら許されなくなった。

手錠をされ、身動きを取る事の出来ないメイド。だがそんな状況に陥っても、この男は余裕の笑みを浮かべていた。メイドの周辺には六人の兵士が立っており、万が一この男が何かをしようとしても止める事が出来る状態になっていた。

それから部屋に一人の男が現れる。男の名前はディブナー・ローゼスと言った。冷酷な性格の持ち主であるこの男は今まで数多くの捕虜を拷問し、果ては死に追いやった危険な男であった。強面と呼べる顔つきをしており、そのインパクトは拷問される人間を恐怖に陥れる。

「ここまで徹底的にされるなんて、お前は相当な人間なんだな。俺はディブナー・ローゼス。ま、気楽に話を聞きな。ちなみにお前のEフォンは俺が持っている。さっきお前を連行していた兵士から渡された。」

不気味な程低い声で話すディブナーという男。だがメイドはその顔を見て、笑いながら言った。

「随分汚ねー面してやがるぜこいつ!こんな奴が俺を拷問する男な訳?最悪じゃねーか。絶対需要ねえわ……つーか俺、そんなキャラじゃねーし。つーかEフォン返せよ。」

「うるせえ。おい、こいつ黙らせろ。」

ディブナーは一人の兵士を睨み、その兵士にメイドの顔面を殴らせた。

 

ドゴッ

 

鈍い音が、部屋に響く。メイドは殴った兵士を睨むが、身動きが取れない為に抵抗が出来ない。

「よくそんな口が利けるな。お前の親の顔が見てえよ。」

メイドはそれを聞き、顔をしかめた。

「親だぁ?お前、親がロクな奴だと思うか?ゴミも良いとこだぜ、親ってのは!!!」

彼の過去に関係する話だ。だがその事情等知らないディブナーは、苛立ちを見せるばかりだ。

「何を言ってやがるんだこいつ?おい、ちょっとこいつおかしいんじゃねーのか?」

「てめぇがな!このアホ面顔面イカれ野郎ォ!ぶつぶつニキビのロクデナシフェイス!どう見ても突然現れた救世主に対して〝ひでぶ!〟とか〝あべし!〟〝うわらば!〟とか言いそうな顔してる悪人面!!!カスだ!カス以下だ!カス以下の以下だ!!」

ここまで馬鹿にされ、ディブナーはメイドの前に立ち、思い切り殴った。しかしメイドは口を減らす様子は無い。

「暴力か?暴力か?暴力はいいぞ~?ってか!?あァん、コラ?」

メイドの言葉に対し、怒ったディブナーは兵士に命令を下した。この時、メイドは自らの身に何が起こるのか分かっていない。

「……ちょっとこいつ黙らせろ。レバーを引け。ただし、息の根は止めるなよ。」

「ハッ……!」

言われるままに兵士は一つのレバーをゆっくりと引く。引いている最中、メイドは相変わらず笑ったまま喋り続けている。

「今から何かされるかと思うとなんかヌルヌルしてきた……あっ、間違えたドキドキしてきた……」

メイドが喋っていたその時、突如彼の座る椅子に強烈な電気が流れ始めたのである。

 

バヂィィィ

 

「ぽぽぽぽ……ポピー!?」

電流がメイドを襲う。身動きが取れない為、逃げるにも逃げられない。しかもディブナーはこれを止めさせる様子が無かった。

それが十五秒程続いた。やがて電流は止められ、メイドはさすがに喋らなくなった。ふるふると震え、口からは痛みを訴えている。ディブナーはメイドの顔を間近で見て笑みを浮かべた。

「ざまあみろ。何も出来ない癖に偉そうに口だけ抜かしやがって。しかしよく生きてたな。あんな電流食らって……」

「ゲホ……イラ……つくなこいつ……」

「その減らず口は一生治らねえみたいだな?」

再びディブナーは眉を顰める。その時、メイドはディブナーに言った。

「お前さ……俺に聞く事あるんじゃねーの……?」

「ああ……そうだったな。お前の糞食らえで生意気な口に対して俺の言う事を聞かせてやる必要があったから、少し面倒なことをしてしまった。」

それからディブナーは再び側にあった椅子に座り、メイドに質問した。

「お前……何者だ?」

「……ジャンヌ……アステル……。」

「名前答えろよ。なんでその名前を出すんだよ。」

「ちっ、うっせーな。……メイド・ヘヴン。」

電流を流されるのが苦痛に感じていたメイドは、ようやくまともな答えを返し始めた。しかし、それでも僅かだが、新生連邦に対して反抗している。

「メイド……どこかで聞いた事があるぞ?まあいい。お前、所属はどこだ?なんで武力介入を行う必要がある?」

「……無所属。理由は……ひつまぶし……あ……ちゃうわ……暇潰し。」

「真面目に答えろよ。また苦しみたいか?」

ディブナーは兵士にレバーを引く準備をするように命じた。その方向を睨むメイド。そして舌打ちを行い、再びディブナーの強面を見る。

「言っとくけどな……。ひつまぶしとジャンヌ・アステル以外は……実は真面目に答えてんだよ……!どこにも所属も何もしてねーし……暇潰しでさっきの戦争に加わったワケよ!」

電流を浴びせられた為か、言葉がかすむ。だが彼の言葉は明らかに不純そのものだ。

 

                  バァン

 

メイドがそう言った時、ディブナーは机を叩きつけた。〝暇潰し〟という理由で武力介入を行ったこの男が許せなかったのである。

「舐めてんのかてめぇ!暇潰しだと!?遊びで戦争やってるのか!何を考えてるんだお前はぁ!!大体無所属って……ホラ吹きやがって!てめえ何を考えてやがる!?」

ディブナーは怒りにまかせて再び殴ろうとする。しかし、メイドは笑いながらディブナーに言った。

「ハン……お前……顔面グロい割には……戦争を遊びとして捉えてる俺の考えを嫌うんだな……。意外と軍人としてはまともか~……?んなもんどうでもいいんだよ……。」

メイドは一度息を吸い、そして、再び声を出す。

「俺は戦争を遊びとしてんの。それだけ。お前なんかに偉そうに抜かされたくねーんだよボケがぁ!!!説教垂れてんじゃねーぞアホ!!!それにな!無所属っつったら無所属なんだよ!!!」

先程までの掠れ声はどこへ言ったのか。まるで身体が回復したかの如く、メイドは声を荒げた。

だがメイドがディブナーにそう言った直後、怒りを覚えたディブナーは再び電流を流された。メイドが反抗を続ける為、苛立っていたディブナーが兵士に命令させたのだ。

「んほぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!しゅ、しゅごいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!しゅ、しゅごいのおおおおおおおおおおおおおお!!!で、で、でんきでいぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!いぐのおォォォォ!!!」

それは本気で言っているのか、わざと言っているのはは分からない。ただ、彼は奇妙な絶叫を叫び続けた。それを不快に思う者が殆どで、ディブナー自身も彼の言葉に違和感を覚えていた。

それを先程とは違い、十五秒程度行う。やがて電流を止めると、メイドは苦渋に満ちた表情で荒い息を上げた。彼は、生きていたのだ。火傷こそはしているが、彼のコンディションの高さは尋常ではないと言える。

「うぉ……ぁ……はぁ~……クソが……むかつく……」

「お前から聞きたい事を聞いたら絶対に殺してやる。覚悟しとけ。……それにしてもお前、何故そんなに不真面目に答える?ちゃんとやらないと死ぬだけだぞ?何故情報を言わない?言えば楽になるのに。」

「俺は拷問ってのが大嫌いなんだァ……吐かなきゃ痛い思いさせる……そんなん嫌いなんだよ。つーかなんで俺がこんな目に遭ってんだよって感じ……うぜぇ……」

「減らず口が!!本気で殺すぞ!!」

ディブナーは更にメイドに対して電流を流すように命じた。彼は再び電流を流される。

「んほおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

何度も電流を浴びせられ、メイドの身体は限界を迎えていた。両眼は情報を向き、鼻からは鼻水が噴出し、口元は舌をだらしなく出している。〝アクメ顔〟と呼ばれる状態になっているメイド。彼は三度に渡る電流を浴びせ続けられ、最早声すら上げられない程に体力は削られ、無言のまま苦しみ続ける。

その拷問は二分程続いた。それが終わった時、メイドは一切、動かなくなった。意識を失ってしまったのである。

「生意気ばっかり言った結果だな。今のこいつに何を聞いても無駄だ。牢屋にぶち込んどけ。」

「ハッ……」

ディブナーの命令で、兵士達はメイドの身柄を牢屋へ移すことになった。あまりに多量の電流を浴び続けた為、意識を失ったメイド。辛うじて彼は生きてはいるが、心身共に危険な状態だった。

「徹底監視するようにな。檻に電流を流して、絶対に逃げられないように。このゴミ野郎には最悪な環境をプレゼントしてやる……」

ディブナーは動かないメイドに対し、睨みつけた。これから彼は劣悪な環境とされる檻の中で過ごさなければならない。更に、仮に彼は目が覚めても手足が動かせない状態である。どう考えても脱出不可能なこの状況で、彼は絶望の時間を過ごしていかなければならないのだった――

 

 

 

やがて朝を迎えた。メイドはようやく目を覚ました。メイドは檻のある方向を向いている状態で目を覚ます。眼前には檻が見えた。更に上方を見ると、監視カメラらしきものが天井に固定されている。そしてふと顔を下に向けると手と足が錠で縛られていた。三日前のままだったのだ。それを見て舌打ちを打った後、ゴロンと、身体を180°回転させて檻と反対側を見る。

そこにあったもの。それは大量の蝿が飛び回っている和式便所と、木製で出来ており、見た目からして腐敗している様子のベッドがあった。余りに不衛生と呼べる、その劣悪な環境に放り込まれてしまったのである。あまりの臭いに彼は錠で繋がれている手首を鼻まで持ちあげ、両手を使って鼻を摘まんだ。

「腹減った~……しかもくっさ。つーかなんだこの部屋!?絶対前にここに入ってた奴小便とかうんこ流してねーだろ……しかも手錠されてるし足も動かせないっていう……どんなプレイだよこれ。俺はSMにも興味無いし、こんなもん見ても誰も喜ばないから需要が無いのに何してくれてんだよここの連中。しかし臭い。臭過ぎる。こんな部屋の床で気ぃ失ってたんか俺?身体絶対臭いな。」

ぶつぶつと呟くメイド。

「うるさいぞ、貴様!!」

その時、彼は何者かに怒鳴られた。苛立ちながらその方向を見ると、そこには新生連邦の兵士が機関銃を構えて彼を見下している。

「うるせえな。やっと目が覚めたか。ったく、こんな臭い部屋に交代でお前みたいな屑を見なきゃならないなんてやってられないな……」

兵士がそう言って舌打ちした時、メイドは反発する。

「だったら掃除しとけやアホ!俺も臭ぇんだよボケナス!絶対うんこ小便流してないだろ!おかげで蝿は湧いてるしゴキブリも俺の目の前にいるし!しかも今俺の耳元飛んだぞゴキブリ!気持ち悪ぃんだよ!ファッキュー!ブチ殺すぞ!」

「あれだけ電流を浴びても減らず口だなお前!……俺は三日前のお前の話を聞いていた人間だ。お前、暇潰しで戦場に介入だと……ふざけるのも大概にしろよ……俺のダチがお前に殺されているんだよ!」

怒る兵士。だがメイドはそれを聞いて大笑いした。

「へ~そりゃ良かったじゃねえか。俺のギネス記録の為にお前のダチが協力してくれたんだろ?だったら感謝感謝よ。ハッハッハッハ!」

 

ダダダダダダダダダダダダダ

 

怒った兵士は機関銃を発射した。しかし彼はわざとメイドに当てず、威嚇射撃を行った。しかしメイドは驚く様子を見せない。

「クソ……お前だけは許せないが……聞く事はあるからな。上の判断無しにお前を射殺は出来ない……」

「おいおい、生かさず殺さずかよ。そんな趣味無いし。まー、俺がもし女だったら需要は多少あったかもなァ!お前もハァハァ出来る!そして相手を拘束してあんなことやこんなことが出来る!!俺が女ならお前の思うまま!!!すげえじゃないかぁ!つーかそれにしても男の生かさず殺さずなんて需要がないから困る。」

「何の話をしてやがる!ふざけやがって……」

「だから俺は不真面目に生きてるんだろーが。んでこーして不真面目に質問とかに答えてビリビリ食らったんだろうが。真面目な奴はこれだから困る。頭固くて柔軟性ゼロ。頑固じじいかっての。あれ、なんか脳が委縮するから考えの柔軟性がなくなってるらしィな!」

「ちぃ……減らず口のクソが……!」

苛立つ様子を見せる兵士。彼は機関銃を床に叩きつけ、怒りをぶつけた。

「で、電流SMは次いつやるん?どんな奴に見せても需要の無いSMをよォ!!!」

兵士の怒りを煽るようにメイドが言った。兵士は檻の近くにいるメイドを殴ろうとするが、その手をすぐに引っ込めた。と言うのも、檻には電流が流れており、感電してしまうと悟った為である。

「……ちぃ……」

「檻に電流でも流れてんのか?どんだけ俺は凶暴な野獣扱いなんだよ。口はうるせーかもしれねーけど、こんな状態で脱出なんか出来る訳ねぇだろ!」

確かにメイドは抵抗を一切していない。暴言を吐き続けているだけだ。その暴言を不愉快と思う兵士が勝手に暴行を加えているだけであり、彼から見ればここまで厳重に監禁されることが理不尽に思えたのである。

しかし彼は実際戦場を暴れに暴れた。それは今回に限った事ではない。デウス軍襲撃の際にも暴れに暴れた上、デスゲイズの初陣の際にも暴れた。彼は新生連邦に打撃を与えているのだ。そのような人物を警戒しないはずがない。

だからこそ新生連邦はメイドを徹底的に警戒し、牢屋に閉じ込める時も手足に錠を付け、檻にも電流を流す上、監視も付ける。何故ここまで徹底するのか。それは、彼が戦場を暴れに暴れた為であり、新生連邦からは要注意危険人物として見られていたからである。

「お前、今回の事以外にも暴れまくっているらしいな。一体何の為にそれらを行っているんだ?」

兵士は再び機関銃をメイドに向けて構え、聞いた。するとメイドは大笑いしながら答える。

「ははは!そんな頭で大丈夫か?電流SMしてないのに喋る訳ねーだろアホ!悔しかったら早く三日前の事やる準備しろや。その時に話すかもな!んで、俺はあの世行き……と。」

何故彼は死を恐れないのだろうか。拷問にかけられるのは最早分かり切っている話。そして用済みになったメイドは確実に殺される。それを分かっていて何故恐れないのか。兵士はこの時疑問で仕方がなかった。

 

                   コンッ

 

その時、兵士とメイドの耳に足音が聞こえた。その足音は段々と大きくなり、やがて足音を出していた正体が明らかになった。そこにいたのはエファン・ドゥーリアであった。捕らわれているメイドの姿を確認する為に、わざわざホノルル基地に訪れていたのである。兵士はエファンを見るなり敬礼した。そしてエファンは口を開ける。

「どけ。私はこの男と話がしたい。」

「はっ……しかし……」

「安心しろ。逃げる様子があるなら私が殺す。丁度、殺す必要のある男だからな……」

エファンは不気味に笑う。それに対し、兵士はうろたえながら言った。

「で、ですが少佐。あの男を処刑するには上層部のまだ許可が下りていませんよ?」

「私の話が聞けないのか?」

エファンは兵士を睨んだ。この時兵士はエファンによるプレッシャーを感じていた。恐ろしいプレッシャーを感じた兵士は慌てた様子でその場から去る。兵士が去る際、メイドは一言兵士に言った。

「超弱腰じゃねーか!ヘタレ!ロクでなしがよォ!そんなんでよく軍人出来んな!」

それを聞いた兵士は舌打ちだけをして部屋から去って行った。

 

やがて部屋の中はメイドとエファンの二人だけになる。力を持つ者同士の会話が始まろうとしていた。三日前には対峙した両者。しかし今は一方が身動きが一切取れない状態である。

「三日前に戦闘に介入した男がお前か……随分滑稽な姿だな。」

「お前……ああ、なかなか強かった野郎じゃねぇか。心の中を読めるんだろ?なんでお前みたいな奴がこんな糞敗北連邦にいるんだよ。」

呼び方を、“糞連邦”から“糞敗北連邦”へと変えた、メイド。

「私にも事情はある。お前にも事情があるようにな。」

それを聞いたメイドは微笑した。

「ハハハ……お前は聞かないのか?なんで暴れ回ったのか。ま、聞いたところで言う気はねーけどな。電流SMプレイしない限りは。んで、殺すんだろ?タチ悪いよなお前ら。」

この時、エファンはメイドの心を読んだ。そして、次の一言を口にする。

「兄……か。」

「!?」

今までは愚痴を延々と語っていたメイドだが、エファンの事一言が全てを止めた。

「お前には兄がいたのか。そして兄は前のデウス動乱で死んだ。本来ならばお前はそこで死ぬ筈だった。しかし、何故か生きていた。兄がいなくなり、どうでもよくなったお前は暴れるだけ暴れるようになった。今回の件のように。成程、兄がいない故の寂しさが今のお前を動かしていた……そんな、所か。」

エファンがそのように語った後、メイドは先程とは明らかに表情が変わっていた。険しく、真剣な目つきでエファンを見る。

「てめェ、また心を読みやがったな。」

「知っていたんだろう?私が心が読めると。それをしてやったまでだ。過去の出来事を掘り起こされるのは嫌なようだな。最初に会った時は訳の分からない男だと思ったが、成程……お前も所詮は“人間”だと言うことか。」

「チッ……嫌いだぜェ。俺はそんなシリアスなキャラクターじゃねーんだよ。もっと不真面目で馬鹿なキャラクターなんだよ。それをてめえは俺をシリアスキャラにしたがる。兄者が殺されたことで俺はやけになって生きてきた事を心の中で読んで……うぜえなお前……」

「事実なのだから仕方がないだろう。それに、もうそのキャラクターとやらは止めた方が良いのではないか?馬鹿馬鹿しい。」

「んだとォ……」

メイドは眉を潜めた。と同時に檻に向けて転がり、体当たりを行う。両手、両足が動けない状態のまま……

 

バヂィィィ

 

するとメイドは電流を浴び、その強烈な刺激を受けた後に、急いで元いた場所へ転がった。

「くっそ~……やっぱり電気かよォー」

「自らの過去を糧にして生きる事は大切だ。それを思い返す事で行動に移せるのだから。ただ、お前の場合は度が過ぎているな。」

「……それの何が悪いんだよ。」

舌打ちをしてメイドは言った。

「……お前は死を恐れない。大切だった兄が死んだから、別にいつ死んでも悔いはない。そうすれば兄に会えるかも知れないから……お前はその不愉快な喋り方とは裏腹、随分可愛らしい奴だな。」

エファンは微笑した。メイドはこれに対して怒るが、電流が流れている檻がある事実を知っているので何もしなかった。

「そうやっててめえに偉そうに言われるのがムカつく。そう言うてめえが一体何者なのかがよく分からねえのが尚更ムカつく。なんだよ。お前は交代の兵士じゃねーの?なんでこのクソ臭い部屋にいるわけ?蝿がプンプン、ゴキブリカサカサ。小便とうんこの奏でるハーモニーがたまらないこの腐り切った勘弁してほしい部屋になんでお前みたいな人間がいるんだよ。後、“シロアリ”とかいそうだよな。見るからにベッド腐り切ってるし。」

苛立つメイドは淡々と言葉を述べ続ける。それに対し、エファンは答える。

「聞きたいか?答えは一つ。お前のような強力な力を持つ人間と会話がしたかったから。それだけだ。本来なら私はお前を殺している。軍の命令で生かすようにしろと言っていようが関係ない。」

エファンは咳払いをして言った。そうやって喋っている間もずっとメイドを見下している。

「じゃあなんで殺さないんだよ。てめえさっき殺すとか抜かしてたじゃねえか。」

「お前に興味があるからだ。」

エファンが放った一言を聞いて、メイドは寒気を感じた。

「……オゥノウ。だからさ、需要が無いんだよォ!BLとかホモ系?俺はそんなキャラじゃねーのよ!キモい!キモ過ぎる!それともお前が俺の童貞奪う気かよ!?勘弁してくれよ!野郎のケツで童貞喪失とか……なんだこの悪趣味男はぁ!?」

延々と口から言葉を発するメイド。男の言動に対し、エファンは溜息を吐きながら言った。

「私は同性愛とかそう言う意味で言った訳ではない。お前のような、シンギュラルタイプの力を持つ人間がこのように落ちぶれている姿が興味深いと言っているんだ。」

エファンは笑っていた。メイドは更に引きつった表情を見せる。

「さっきから俺は、災難続きだぁ。」

力を持つ人間を殺すのはエファンの目的である。メイドはシンギュラルタイプであり、彼の対象となる存在である。だがエファンはメイドを殺さない。それはメイドが興味深いからであるからであった。メイドはふざけた言葉を言うが、この男への疑問は消えなかった。

「……そうだ、お前に渡すものがある。」

その時、エファンはポケットから何かを取り出した。その取り出したものは数枚のチューインガムだった。薄い板状になっているそれは、噛むことで味が広がり、やがて味が無くなれば紙に包んで捨てると言う、市販されているものである。

「ガム……?」

「安心しろ。毒は入っていない。柚子味だ。」

するとエファンは檻の近くに会ったスイッチを突然押し始めた。奇妙な行動をとるエファンを見て、メイドは首を傾げる。

「電流を消した。これで流れない。ガムを渡した後はまたスイッチを押すがな。」

「何だか知らねーけど、ガムくれるならもらうぞ?」

メイドはそう言って口を開けた。エファンは銀色の紙包みを取り、薄い板状のガムを檻越しにメイドの口元に持って行った。その距離がメイドの前歯を越えた瞬間、まるで犬のように彼はガムを噛んだ。クチャクチャと音を出しながら柚子の味を味わう。

「うんめぇ。サンキュー」

と、言った時、メイドはにんまりと大きな笑みを浮かべたのである。

「ハハハ!そう言う事か!!!お前、また心を読んだな!」

その時、彼は不可解な台詞を述べた。メイドと同様にエファンも笑みを浮かべる。

「後は好きにするが良い。ただし……お前を殺すのは戦場で……な。」

「……謎な野郎ォだな。お前、本気で糞敗北連邦に所属する気ねーだろ。」

「……さぁな。ちなみに知っていると思うがこの部屋には監視カメラが付いている。私が何故この行動をしたのかは、自分で判断する事だ。私がお前の“心”を読んだことを分かっているのならな。」

そう言ってエファンはその場を去った。この場を去る際、彼はスイッチを押し、檻に電流を流した。ガムを貰ってからのメイドの喜び具合は異常に見えた。何故ガムを得られた事でこれ程に喜ぶ必要があるのか。

三日間食事を食べていないメイドからすればガムの味も嬉しいのであろうが、それにしても異常である。エファンもまるでガムを与えることで彼が喜ぶのを知っていたかのような素振りを見せていた。

この時、メイドは監視カメラをチラと見る。それを見て、笑みを浮かべた。

(成程なァ……)

この一連の動作が意味するもの。それは何なのであろうか。そして、エファンは去り際に静かに笑みを浮かべていた。

(奴を生かしておけば色々と都合が良いからな。少しでも、余計な戦力を減らす為にもな。)

明らかにエファンはメイドの意図を読んでいる。それ故の、行動なのだろうか。

 

その後、メイドはエファンに貰ったガムを噛み続けた。三日振りの食事にしては物足りないが、それでも今の彼はこのガムが食べられる事自体が喜ばしいと言えた。

だが彼の場合、ガムを食べられる事だけが嬉しいのではない。ただガムを貰っただけで先程の様な喜び方をするのは異常に見えたからだ。

やがて二分程度が経過し、ある程度ガムを味わったメイドは、突然繋がれた両手首を自身の前髪付近まで持って行き、髪に触れた。その際、何やら小さなチップのようなものを掴んだ。

次に、再び両手首を口元に持って行き、舌を出す。この時、噛まれていたガムが姿を現す。そのガムに、先程髪から取った小さなチップを付着させる。この一連の動作が終わった後、メイドは口内にあるガムを思い切り噛んだ。

 

ガリッ

 

その際、チップが砕けた音と共に壊れる。

そのまま、メイドはガムをフッと檻に向けて吐き出した。ガムは檻に付着した。それを見たメイドは檻から離れるように身体をぐるりと回転させた。この時、メイドは不気味な笑みを浮かべていた。やがてその状態が二十秒程続いた時――

 

ドォン

 

突如、檻が爆発を起こしたのだ。それも大きな規模の爆発が。檻は粉々に砕かれ、人、一人が通れる穴が出来あがった。

「ヘヘヘ……威力あるじゃねえかコレ。」

メイドは実は爆弾を隠し持っていた。それも超小型のものを。彼は前髪に隠していたチップ型の爆弾をガムと結合させることで、爆発させたい標的を確実に破壊する為の粘着物質を作り上げた。

やがてそれを噛み砕く事で爆弾が発動し、爆弾付きのガムを吐き出して檻に引っ付けることで確実に檻を爆発させる事が出来た。持ち物チェックをされた時、髪の毛を触れられなかったのは彼にとって救いだった。

小型のチップ型の爆弾は威力が大きく、檻程度のものならば破壊する事等容易い。こうした事態の為に、メイドはこのような爆弾を隠し持っていたのである。

しかし今回、確実に爆弾を発動させるにはエファンの協力が必要だった。というのも、ガムのような粘着物質が彼には必要だった為である。一度全裸にされた彼は所持品を没収され、その上手足を錠で縛られているのでガムを噛む事等不可能な状態だったのだ。メイドの心を読み、ガムが必要だと知ったエファンはわざと所持していたガムをメイドに食べさせたのである。

だが、粘着物必要ということを知っていてガムを与えたと言う事は、それは彼を助けることを意味する。もし本当に助けるのならばそのような回りくどい方法をしない。檻を開け、直接手足の錠を外してやればそれで終わりだ。

だが、エファンはあえてメイドにガムを与えた。それには理由がある。監視カメラである。監視カメラはこの部屋の様子を映し出しており、エファンが露骨に助け出している映像が見つかれば、彼は軍を追われる身となる。それを防ぐためにエファンはメイドの心を読み、彼が脱出に必要なものであるガムを渡したのである。そうすれば監視カメラにはガムを渡すエファンの姿しか映らず、脱出の手引をしたという証拠にはならない。メイドはこの事を理解した上でガムを貰っていたのである。

しかし、何故このようなことまでしてエファンはメイドを助けたがるのか。それに関しては不明確である。

 

 

兵士は急いで部屋に入り、機関銃を構える。だが煙が激しい為に前方が見えない。慌てる兵士。その時、彼は何かに衝突し、倒れた。突然の出来事に戸惑う兵士。その、兵士の眼前には、牢屋に閉じ込められている筈のメイドの姿があった。仰臥位姿勢の兵士の上に、手足を錠で繋がれているメイドがいる。メイドは兵士を見下した様子で口を開いた。

「よぉ。」

「お、お前……!?」

「ちょっと気ぃ失ってろや」

 

ドゴッ

 

すると繋がれた両手を使い、兵士の顔面を何度も殴打した。身動きの取れない兵士は無抵抗のまま、血を吐き出して気絶する。兵士が気絶したのを確認したメイドは繋がれた両手を上手に動かして、錠の鍵を探した。

「お、あったあった!」

鍵を見つけたメイドはすぐに鍵を口に咥え、その状態で両手首にある錠の鍵穴を弄った。

ガキンと音がしたと同時に、手錠はあっさりと外れた。手が自由になれば、後は足を自由にするだけ。残りの鍵を使って足首を繋いでいる錠の鍵穴を弄り、やがて足首の錠は外れた。これにより、彼は完全に自由の身となる。

「さて……ここから俺のターンだなァ……」

身動きが取れるようになったメイドはまず、気絶している兵士の服を全て奪い、更には所持しているもの全てを奪った。そしてメイドは気絶している兵士の頭部に向け、機関銃を構える。

「バイバイ!」

 

ダダダダダダダダダダダダダダダ

 

その言葉と同時に機関銃は発射された。頭部は撃ち抜かれ、肉片が周辺に散らばった。機関銃を撃つことで、メイドは返り血を浴びた。この攻撃を受けた兵士の頭部は原形を留めていなかった。

そして彼は新生連邦兵の格好をして部屋を後にする。死んだこの兵士の代わりに。

 

部屋を後にするメイド。彼は顔を見られないように、視線を床に落としながら歩いていく。

しかし部屋を出て少ししてから別の兵士が閉じ込められている筈のメイドを監視する為に部屋に入った。その後その兵士が殺害されている兵士を目撃するのは言うまでもない。

やがて彼は先程部屋に入った兵士に呼び止められた。立ち止まるメイド。だがその時の彼の表情は何故か笑みを浮かべていた。

「待て、お前……さっき部屋にいたよな。それにメイド・ヘヴンの姿もない……お前、まさか……」

 

ジャキンッ

 

兵士は拳銃を構えた。拳銃を構える音が聞こえた時、変装しているメイドは振り向く。そこには、返り血をもろに浴びているメイドの姿があった。だがこの時もまだ視線を床に落としており、兵士と目を合わせていない。

「その血……やはり、貴様……!」

「おうよ……俺だよ糞敗北連邦ォ!!!」

 

ダダダダダダダダダダダダ

 

その瞬間、メイドは所持していた機関銃を兵士に対して撃った。それを受けた兵士はそのまま倒れ、大量の血を流した。それを確認したメイドは彼が最初に殺した兵士の服を脱ぎ、彼が本来着用していた服で行動を開始した。

基地内は警報が発令される。捉えていた筈のメイドが脱走をした為、それに対処する為数多くの兵士が脱走中のメイドの元へ向かう。彼は走りながら機関銃を躊躇い無く撃つ為、姿を現した兵士達は次々と倒された。

「ハハー!!!MSじゃなくても無双してやんよー!!!」

得意気になったメイドはテンションを上げ、更に走る。奪った機関銃を片手に持ちながら。

 

その様子を見ていたディブナーは驚きを隠せなかった。厳重だったはずの牢屋を脱出されたのだ。彼は焦った様子で兵士達にメイドを追うように命じる。

「急げ!あいつを絶対に逃がすな!もう拷問などする必要は無い!見つけ次第殺せ!」

「宜しいのですか!?」

「上への言い分はどうにでもなる!急げ!」

「了解!」

最初は拷問して様々な情報を聞き出す予定だった。だが脱走された以上、殺すしかない。ディブナーはこの時に飲んでいた空き缶を片手で潰し、怒りを露わにしていた。

「野郎ぉ……ぶっ殺してやる……!」

逃げるメイドを憎むディブナー。三日前に言いたい放題言われた今の彼は、本気でメイドを殺す気で居たのだ。

 

ディブナーが兵士を派遣している間にも、メイドは次々と.現れる兵士を殺害していた。しかし何人もの兵士を殺害している内に、機関銃の弾は切れた。それに気付いたメイドは機関銃を捨てる。 

その際、前方にいた二人の兵士に遭遇する。若干慌てるメイド。彼は一度引き返すことにしたが、そんな彼を兵士達は追いかける。

「待ちやがれ!」

兵士達はメイドに向けて拳銃を撃つ。だがジグザグに動くメイドに当てる事は出来なかった。やがてメイドは脱走中に殺害した兵士の死体のあるところまで戻ってきた。この時、メイドは兵士の死体を彼の前に来るように担ぎ、再び前進した。追いかけてきた兵士はメイドを撃つが、銃弾は死んだ兵士に直撃するばかりで肝心のメイドに当たらない。

「ふざけやがって!」

死体を担ぎながらメイドは走る。そして彼は拳銃を撃ち続けている兵士に対して突撃した。その反動で兵士は倒れる。倒れることで、兵士の手から拳銃が離れた。それを見ていた側にいたもう一人の兵士はメイドに対して拳銃を構えるが、メイドは素早く拳銃を構えた兵士の手首を掴み、銃口を倒れている兵士の頭部に向けた。

「や……やめろぉ……!」

拳銃を構えていた兵士は元々メイドを撃つつもりで拳銃の引き金を引いていた。だがメイドが手首を掴んで倒れている兵士の頭部に向けた為、銃弾はメイドではなく兵士の方向に発射される。

やがて弾は兵士の頭部に命中。血が噴水の如く噴き上がり、即死した。動揺する兵士。その隙にメイドは拳銃を奪い、彼は兵士の首を掴んだ。

「おいコラァ!お前良く見たら前に俺を殴った野郎ォじゃねーのォ?」

彼はその兵士が浜辺でメイドを殴った人間であることを覚えていた。それを思い出したメイドは思い切り兵士の首に爪を食い込ませる。

もがき苦しむ兵士。微かに声を上げて苦しみを訴えるが、メイドにそれは通用しなかった。

「お前何言ってんの?気を、確かに持てよォ~?」

そう言ってメイドはその兵士から奪った拳銃を兵士の頭に突き付け、躊躇うことなく銃弾を発射する。当然兵士は即死で、肉片が周辺に散らばる。その際、メイドは返り血を浴びた。

「狂気の世界の、始まりだぜぇ~?ハハ~!!!俺をコケにするからこうなんだよボケナスゥ!!!」

死んだ兵士に対して罵声を浴びせるメイド。だがその時、背後から足音が聞こえてきた。別の新生連邦兵が駆けつけて来たのだ。メイドは舌打ちを打つ。その時、彼の目に男子トイレの入り口が映った。急いでそこへ駆け込むメイド。だがその姿を背後からの兵士に見られており、見つかるのは時間の問題だった。

 

メイドはトイレの中に入り、最初の見張りの兵士から奪った煙草を吸い始めた。この絶望的な状況であるにも関わらず、メイドは何故か煙草を吸っている。しかも彼は笑みを浮かべていた。メイドはこの状況を遊んでいるのだ。

そして彼は外にいる兵士の声を聞いた。普通は隠れる動作を行うだろうが、メイドはそれをせず、寧ろ堂々とトイレの入り口の前に、煙草を吸いながら立っていた。

やがて兵士が扉を開け、拳銃を構える。そこには堂々と煙草を吹かしながら笑っているメイドの姿があった。兵士は躊躇い無く拳銃を撃とうとしたその時。

 

フッ

 

メイドは、突如加えていた煙草を兵士の顔面に向けて吐きだしたのである。熱さの余り動揺し、拳銃を落としてしまう兵士。するとメイドは握り拳を作り、大声で叫びながら兵士を殴った。

「うおらあああああアアアアアッッッ!!!」

顔面に煙草をぶつけられたことで動揺していた兵士はメイドの拳を顔面に思い切り受け、その衝撃で倒れてしまう。更にメイドは倒れた兵士を見下すように拳銃を構え始めた。

「や……やめろ……やめてくれ……!」

「なに~?聞こえんなぁ~?」

 

パァンッ

 

そう言ってメイドは引き金を引いた。先程の兵士のように頭部に撃つのではなく、腹部を撃った。もがき苦しむ兵士。それを見て得意げになったメイドは兵士の顎に銃口を突き付け、台詞を喋った。

「おい、お前、俺の名を言ってみろ!!」

「な……名前……ひ、ひぃ……!」

「ひぃ……じゃねーんだよ!メイドだよ!」

そう言って、彼は容赦なく引き金を引いた。銃弾は顎から頭頂部を貫通し、兵士は即死だった。

「あ、そうだぁ!」

この時、メイドは何かを思いついた。それと同時に突然死体の首に向けて拳銃を発砲した。銃弾が空になるまで撃った後、拳銃を捨て、代わりにその兵士が持っていた拳銃をポケットにしまい、メイドは兵士の首を思い切り引っ張る。すると首は千切れた。そして彼は死んだ兵士の頭部を抱え、そのまま走った。

何故メイドは脱出することを最優先しなければならない状況にも関わらず、そのような猟奇的な行動に及んだのかは分からない。ただ、彼はこの時不気味な笑みを浮かべていた。

首からは血が延々と滴るが、メイドは気にせずに走った。

 

長い廊下を抜けると階段が見えた。昇るか降りるか迷うメイド。その時彼に背後から兵士が襲い掛かる。メイドに向けて銃弾が放たれるが、彼の頭の中で電流が流れ、銃撃に対して先程の兵士の生首を盾にし、攻撃を防ぐ。それを見た兵士は動揺した。

「お……お前……こんな……こんな……!」

「おうおう、焦ってやんの。」

そう言ってメイドは生首を床に落とした。その首が床に触れようとした瞬間――

「ボールを、相手のゴールにシュゥゥゥゥゥゥゥゥー!」

と言ってメイドは生首を蹴り飛ばした。その蹴りは的確に動揺する兵士の手首に直撃し、兵士は拳銃を落とした。ゴロンと転がる生首を見て腰を抜かす兵士に対し、メイドは拳銃を持って近付く。

「超!エキサイティング!」

「に、人間じゃない……お前……!!!」

「は?誰に抜かしてんだてめーはァよぉ!」

そう言ってメイドは拳銃を構え、兵士の眉間を撃ち抜く。この兵士も即死し、大量の血液が噴水のように溢れ出た。それを確認したメイドは先程の階段の所へ戻る。

 

メイドは階段を下に降りた。下のフロアに辿り着くメイドだったが、そこには兵士が三、人待ち受けていた。三人の兵士の姿を見たメイドは躊躇うことなく拳銃を構え、銃弾を放つ。

内、一人が胸部に銃弾を浴び、そのまま倒れた。残った二人の兵士は所持してい機関銃をメイドに向けて発射するがメイドは素早い動きで移動し、二人の兵士の下腿部を的確に狙った。激痛を訴える兵士を見たメイドは、下を舐め回し、下腿部を抱える一人の兵士の前に立ち、頭部に向けて拳銃を発射した。

その兵士の死を確認した後に素早くメイドはもう一人の兵士の元へ向かう。その時、彼はすぐに殺さずに、兵士の眉間に銃口を突き付けて言った。

「お前、ディブナーって顔面ロクデナシ野郎はどこにいる?」

「ろ……ローゼス大尉は……こ、このフロアの一番奥にいる……!だから……助けてくれぇ!」

あろう事か上官の位置を喋り、命乞いをしたこの兵士。

「めんどい。」

 

パァンッ

 

メイドは兵士の眉間に銃弾を放った。これにより、三人の兵士は全滅した。ディブナーの位置を確認したメイドはディブナーを探す為に行動を開始する。

「逃げる前に俺のEフォンを返してもらわねーと俺も困るしな。」

幾多もの新生連邦兵を殺害しながら脱出するメイド。この男はMSでの戦闘だけでなく、生身でも圧倒的な強さを見せていた。

捕らわれていた際には一切抵抗する動作を見せなかったが、手足が自由になった途端、彼は暴れた。躊躇い無く兵士達を殺し、更には死んだ兵士の首を蹴り飛ばす等、脱出中とは思えない行動を取り出す。まるで彼は遊んでいるかのように次々と殺戮を繰り返した。それも、たった一人で。

 

その後もメイドは数人の兵士を殺害した。その間に彼はディブナーの居場所を聞き、やがて彼はディブナーのいる部屋の前に辿り着く。彼は兵士から奪っていた機関銃をドアに向けて撃ち、ドアを蹴り飛ばした。中にはディブナーがおり、彼は拳銃を構えてメイドを睨んでいた。

「出やがったな顔面イかれ糞野郎ォ!!!」

ディブナーに罵声を浴びせた直後だった。ディブナーは引き金を引き、メイドの顔面を狙った。だが彼はすぐに銃弾を避ける。だが銃弾は彼の頬を傷付け、そこから、鮮血が流れた。メイドはその血を腕で拭った後、機関銃を撃ちながら部屋の中へ侵入する。

「返せよ!俺のEフォンをよォ!俺の連絡先なんか知ってもてめーに需要ねーだろうがよォ!!!せめて俺が可愛い女の子だったら良かったのになァ!こんな童貞男の連絡先なんかいらねーだろォ!!」

「随分調子に乗りやがって。新生連邦を舐めすぎなんだよてめえは!!」

互いに怒る様子を見せる。が、メイドはどちらかと言うと、遊んでいるようにも見える。

「こんな糞敗北連邦なんか舐められて当たりめェだろうがァ!」

再びメイドは機関銃を発射する。この射撃により、設置されていた多数のモニターが割れた。

だがディブナーはこの時しゃがんでおり、機関銃をまともに受ける事は無かった。

「お前、これが返して欲しいのか?」

そう言ってディブナーはメイドのEフォンをポケットから僅かに見えるように見せた。それを見たメイドは舌打ちを打ち、左手を伸ばしてはEフォンを返すように、母指以外の四本の指をクイと前後に動かす。

それに応じるかのようにディブナーはEフォンを投げた――

 

パァンッ

 

その瞬間、ディブナーはEフォンに向けて発砲し始めた。それに気付いたメイドは自らの右腕でEフォンを守った。右腕を抱えるメイド。顔を引きつらせ、痛みを訴える。

「チィ……人の電話壊そうとして楽しいかよゴミ野郎!」

「まさかそれを庇うとは思わなかったなぁ!」

そう言ってディブナーは発砲を続けた。メイドはこれを避けつつ部屋を後にする。

 

部屋を出て、メイドはディブナーの方向を向きながら機関銃を撃ちつつ出口を探す。一方のディブナーは機関銃による攻撃を防ぐ為に廊下の途中にある曲がり角に隠れ続けた。やがてメイドの機関銃は弾切れになる。その際、メイドは機関銃を捨てて走り去った。ディブナーは逃げる彼の後を追い始めていく。

 

「くっそ~!あのニキビヅラやりやがったな!腕が痛ぇ!」

ディブナーが見えない場所に辿り着いたメイド。だがそこは窓ガラスが張られているだけで、行き止まりだった。逃げられそうな場所はない。そうして彼が戸惑っている時、ディブナーが拳銃を構えてメイドに接近してきた。

「これまでだな!袋の鼠だ。お前はもう死ぬしかない。ここまで俺を馬鹿にした人間を見たのは初めてだ。散々舐めた真似してくれやがって!」

メイドを追い詰めたのはディブナーだけではない。彼の背後には四人の新生連邦兵が拳銃を構えていた。逃げ場のないメイド。絶体絶命の状況であったが、彼は何故か笑っていた。

「カカカ……コココ……キキキ……」

「どうした?もう諦めて狂ったか?狂った振りしても無駄だぞ?お前はどうあがいても死ぬ運命にあるからな!」

「おいおいおいおい。そりゃ何の冗談だい?俺ァいつ死ぬっつった?」

「何を抜かしてやがる!構わねえ!撃ち殺せ!」

ディブナーの指示により、兵士達は全員一斉にメイドに向けて発砲しようとした――

 

バリイイイン

 

窓ガラスが、割れる音が聞こえた。それと同時に、メイドは窓ガラスから逃亡を謀ったのである。

「ば、バカな!?ここから落ちたら崖に落ちて死ぬだけだぞ!?」

ディブナーの言う通り、窓ガラスの先は崖である。ここから落ちれば最悪死は免れない。だが彼はそれを承知でここから落ちた。メイドが窓から落ちた後をディブナーらは見る。しかしそこには既にメイドの姿は無かった。恐らく海に落ちたんだろうと思うディブナーは崖の方向を見て呟いた。

「追い詰められて自ら死を選んだか……まあいい。あんな奴の為に無駄に犠牲者が出てしまった。また、奴のような人間が生まれぬ事をいのるしかない……」

ディブナーは、メイドは自殺したものだと判断し、崖を見て笑みを浮かべた。軍にとって要注意人物が死んだ事で彼は安心していた。それからディブナーと兵士達はその場を離れる。割られた窓ガラスをそのままにしておきながら。

 

 

 

それから十五分後。メイドが飛び降り自殺を謀ったと言う知らせは滞在していた総司令やエファンにも伝えられた。特に総司令は、三日前の本部での戦闘に介入してきた男が自殺したと言う話を聞いて疑問に感じていた。両者は基地のMSデッキにいており、会話を行っていた。エファンの側にはダウーラとクラリスとシーアの姿があったが誰も何も喋る様子は無かった。

「メイド・ヘヴン。私の憶測に違いが無ければその男はかつてのデウス動乱で兄と共にデウス軍のエースパイロットとして活躍した人間の筈。でも確かデウス動乱中に倒された筈では……」

総司令の言葉を聞いていたエファンは言った。

「その男は生きていたんですよ。私は先程話しました。なかなか面白い人間でしたよ。しかしまさか自殺とは……期待したんですけどね、あの男がもっと暴れる姿を見たかったんですが……残念ですよ。」

「……貴方は本気で言っているのですか。ドゥーリア少佐。」

総司令の言葉に対してエファンは言う。

「本気ですよ。あれ程面白い人間は世の中生きていてもなかなか巡り会えません。」

「けれどその男は先の戦闘で軍に甚大な被害を及ぼしています。そんな危険な人間を野放しにする訳にはいきませんよ。けれど死んだと言うのなら話は別です。」

総司令はメイドの存在を不愉快に感じている一方でエファンは愉快な存在だと言っている。確かに彼はメイドを助ける為にガムを渡したが、何故エファンは敵であるはずのメイドを助けたのかは未だに謎に包まれている。

総司令が言った言葉に対し、再びエファンは言った。今度は、静かに笑みを浮かべて。

「さあ、どうですかね。あの男が死ぬとは思えませんよ。強力な力を持っていますからね。シンギュラルタイプとして……いや、あの男の場合ならシンギュラルタイプじゃなくても十分に戦えるか……」

メイドの技量を褒め出すエファン。それに対して総司令は怒った様子で言った。

「ドゥーリア少佐!貴方はあの男を何も分かっていないのです!あの男がどれだけ危険か!だからそんな事が平気で言える――」

「だから何だというのですか」

エファンの目付きが変わった。明らかに総司令を睨んでいる。そして、総司令はこのエファンのプレッシャーに押されていた。先程までは流さなかった冷や汗を、今は流している。エファンによる恐ろしいプレッシャーを、今総司令は感じていた。

「私としてはですね、奴は生きていてくれていた方が良いんですよ。いろいろとね。まあ軍の総司令である貴方なら軍の脅威となる人間は死んだ方がいいと思うのが普通でしょう。失礼しましたね、私とした事がつい取り乱してしまった。失礼します。」

エファンはその場を去って行った。彼に続き、残った三人も去っていく。その場に残った総司令はエファンに与えられたプレッシャーが忘れられない様子で、去り行くエファンの後姿を、目を見開きながら見ていた。

(あの感覚……ドゥーリア少佐は普通じゃない……僕が……恐怖を感じている……?そんな事が……ある筈が……)

エファンによって与えられたプレッシャー。それは彼にとって恐怖そのものだった。しかし総司令は認めなかった。自分が恐怖を感じる訳には行かないと言い聞かせ、首を横に振った。

 

 

 

「……崖ばっかでやばいと思ったけど……思いの外何とかなるモンだなァ。やっぱ糞敗北連邦はダメじゃないかぁ!」

そう言って海に浮かんでいるのは、

崖に落ちて自殺と思われていたメイド・ヘヴンだった。窓ガラスを割って逃げたメイドだったが、彼を待っていたのは崖だった。岩が突き出ており、そこに落ちれば命はまず助からない。何としても海に落ちる必要のあったメイドは途中に生えていた木に掴まり、そこから海に入水するようにジャンプをし、彼は死ぬこと無く海に入水する事に成功したのである。

脱出に成功したメイドだったが、彼にはまだやるべき事があった。デスゲイズの奪還である。

「デスゲイズが解体されていたら話にもならねぇが……まあいいや。その代り糞連邦のMSを奪ってやろう。デスゲイズじゃなくても俺は何でも上手く扱えるからな……おぶえっ!」

海上で独り言を呟くメイドに波が押し寄せた。すぐにメイドは海面に出て首を振り、舌打ちを打った後、眼前に広がるホノルル基地を見て舌を舐め回す。

「……今度はこっちがやり返す番だよなァ……!」

彼は、再び行動を開始した。まず彼は近くの岸に上がり、兵士の動きを見ながら行動していく。

 

 

 

エファンらは自らの艦へ戻っている最中だった。その中でダウーラがエファンに対して言う。

「お前……分かるんだろう?あいつが生きている事が。」

〝あいつ〟とはメイドの事である。ダウーラの言葉に対し、エファンは言った。

「ああ。私には分かる。お前にも分かるようだな。だが……クラリスには分からないようだ。」

そう言ってクラリスの方向を見た。彼は静かに首を振る。

「俺には分かりません。少佐が仰っている意味が。」

「まだそこまでお前は強化モデルとしてのレベルが高くないと言う事だな。無理もない。ダウーラは特殊強化モデル。それに比べてお前はただの強化モデル。力の差は歴然だ。」

ダウーラは誇らしげにクラリスを見た。クラリスは舌打ちをしてダウーラを睨む。

だがこの中で一番会話についていけていないのがシーアであった。力を持たないオールドタイプである彼は、これが何の会話なのかが分からない。それに気付いたエファンがシーアに対して言った。

「無理もないだろう。オールドタイプであるお前には難しい話題だ。」

「ハッ……確かに……」

シーアにはこの会話が何であるのかが全く分からない。彼はただ困惑するばかりである。その時、ダウーラが突然口を開けた。

「あいつはイラつく……実際に戦った事は無いが、言葉がイラつかせる。あんなにイライラさせる奴は初めてだ……」

「まだ実戦経験も浅いのにそう言うか。確かに奴を不愉快に思う人間もいるだろうな。お前のように。」

すると、ダウーラは突然壁を蹴り始めた。それも一度ではない。何度も何度も蹴り、苛立ちを壁にぶつけていた。

「よせ。何をしているか。」

エファンの一言でダウーラは止まった。そしてダウーラは歯を食い縛り、両手に握り拳を

作りながらエファンを見た。

「もし……あいつがMSを奪ったなら……艦にあるMSに乗って殺っていいか?」

「……ああ。別に構わない。ただしアーヴァインは破壊されているぞ。」

「何でもいい。あいつは俺をイライラさせる。直接戦った事はないが、イラつく……!」

再びダウーラは壁を蹴った。だが何度も蹴る事は無く、一度だけで済んだ。ダウーラが壁を蹴った後、クラリスがエファンに言う。

「俺も出撃させて下さい。少なくとも、こいつと違って奴とは交戦しました。前の屈辱を晴らしたいのです。」

クラリスはエファンに懇願した。ダウーラと違い、自分は交戦した事もあり、馬鹿にされたことを許せないと思うクラリス。だが、エファンはクラリスに対して

「駄目だ。」

と言った。当然クラリスは反論する。

「何故!?どうしてですか!」

その言葉に、エファンは

「お前は強化されているとはいえ、まだ意思が働く。ダウーラは違う。戦わなければ何をするか分からない。ここは堪えろ。」

「し、しかし……」

「実力差は目に見えている。まともにやって前は負けたのだろう。今回は前のように生き延びられるか分からないぞ。それに仇を討つのではないのか。死んだ姉妹と母親の。」

エファンにそう言われた時、クラリスは黙り込んだ。俯き、自らの発した言葉に対して反省した。

「すみません、少佐……」

「あまり熱くはならん事だ。お前の仇はお前が討て。それまでに死んでは話にならない。」

「……了解……」

クラリスは静かにそう言った。ここで、シーアがエファンに質問をする。

「あの、少佐。今までの話はあくまでも推測なのでは……?」

シーアの言う通り、メイドがMSを奪うと言うのは推測の域でしかない。その話に対して苛立ちを覚えているダウーラやクラリスに助言を与えているエファンが奇妙に思えて仕方が無かったのである。だが、シーアの言葉に対してエファンは

「推測ではない。」

と言った。シーアは目を見開いた。

「何故、そう言い切れるのですか?」

力を持たない彼には理解の出来ない事だった。何故推測で無いと断言できるのか……力を持っているから?力を持っているからこそ推測で無いと言い切れるのか?シーアは余計に混乱した。

「今に分かる。もうすぐだ。」

 

              ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

その時だった。基地内に大音量で警報が鳴り響いたのである。それに気付いた兵士達は皆行動を開始していた。エファンはその様子を見て、妙な笑みを浮かべた。

「思ったより早かったな。急ぐぞ。」

そう言ってエファンは走り始めた。彼を追うようにクラリスとダウーラは走り出す。シーアは真相を聞けないまま、ただエファンに続いて走り始めた。

 

警報が鳴っていた頃、基地のMSデッキは混乱状態だった。と言うのも、死んだ筈のメイドが機関銃を構え、兵士達を次々と殺害していきながらデスゲイズを探していた為である。

「ヒーハー!!!死んだ筈の俺が呼ばれてないけど飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!!!」

そう言いながら機関銃を放つ。そのまま、デスゲイズを探す。兵士達も拳銃や機関銃を構えてメイドを攻撃するが、彼は素早い動きでこれらを避けていく。

「俺ってすげえじゃないかぁ!つーかこいつらの攻撃がカスみたいだぁ!」

彼は所々に存在するMSを盾にし、移動する時は常に機関銃を撃ち続けて移動する。これを繰り返すことで、MSデッキの奥に行く事が出来た。

「奥に逃げたぞ!今度こそ殺せ!」

「逃がすな!」

兵士達は必死だった。だがその必死の努力も空しく、次々とメイドによって殺害されていく。一方のメイドは銃弾を全く浴びずに行動していた。

 

やがて、彼はデスゲイズの置かれている場所に辿り着いた。彼にとって幸いな事に、デスゲイズは解体されていない。それどころか、彼が捕らえられる以前よりも大幅に修復されていたのである。この事は、メイドにとって幸運と言えた。

メイドはまず、デスゲイズの周辺にいた整備士を機関銃で皆殺しにした後、側にあった梯子に上り、そこからコクピットへ飛び移った。ハッチを開閉し、そのまま乗り込む。

「あのMSが奴に奪われたぞ!」

「各員MSに搭乗せよ!奴を絶対に逃がすな!」

メイドがデスゲイズに搭乗した事を確認した兵士達はそれぞれのMSに搭乗し、基地の中にも関わらずデスゲイズを止める為に移動を開始する。

だがそれらは既に遅かった。何故ならばもう、メイドがデスゲイズを起動させてしまったから。

「もう遅えんだよ糞敗北連邦ォ!!!」

 

ビゴォン

 

その時、デスゲイズのモノアイが輝いた。他の新生連邦のMSと比べて大型であるデスゲイズはそのまま基地を脱出する為に行動を開始する。

基地内MSデッキにも関わらず、兵士が乗るディーストやジョゼフがデスゲイズの腕部を掴んだ。だがそれは無駄な攻撃だった。

「大したことねぇなぁ~!!!しかし動きが良くなってやがる。糞にしてはちゃんと仕事してくれてるじゃねーか。」

そう言って基地内にも関わらず、有線式ビームサーベルを展開したのだ。これにより腕部を掴んでいたジョゼフとディーストは串刺しになり、破壊された。

そしてデスゲイズはブースターの出力を上げ、施設を破壊しながら外へ向かう。

 

 

 

基地の外に出たデスゲイズ。燦々と照る太陽をバックに基地を見下ろす。基地の中の兵士達から見れば、漆黒の悪魔が太陽をバックにシルエットを描いているように見えた。また、この機体はいつ敵が襲ってきても良いように有線式ビームサーベルを展開している為、このシルエットを見た兵士達は、デスゲイズが〝異形の物〟に見えるのである。

その時、基地からジョゼフやエグゼマーが出撃した。メイドを止める為である。だが、MSに乗ったメイドを止める事は彼等には出来なかった。

「ハハ~!鹵獲しようと思ってこいつを直してたんだろーが、こいつが簡単にお前らのものになる程世の中そんなに甘い訳ねぇだろォ!!!」

 

ギュルルルルル

 

そう言って、メイドはデスゲイズが予め展開していた有線式ビームサーベルを基地から出て来たMSに対して襲わせた。素早い動きに対応できないジョゼフやエグゼマーはすぐに串刺しになり、破壊される。いずれもコクピットを的確に狙っていた。

「い、一瞬で!?」

「駄目だ、もう手に負えない……」

兵士達の中には諦めの姿勢を見せる者もいた。それはデスゲイズの実力を認めている証でもあった。だがメイドはそんな兵士達に対しても容赦しない。3日とはいえ自分を苦しめた人間共を、彼は一切許す様子は無かった。

するとデスゲイズは、先程、メイドが窓ガラスを割って飛び降りた場所に移動する。そして、右腕部を思い切り上げ、その部分の施設を破壊しようとしていた。彼の目的……それは、ディブナーの抹殺だった。

電流を散々浴びせた上に、劣悪な環境である牢屋に閉じ込めた張本人であるディブナー。この男を殺さないと気が済まないメイドは、基地ごとディブナーを殺す気であった。

 

ガキィン

 

デスゲイズの腕が、振り下ろされた。これにより、施設の一部は崩壊する。瞬く間にその部分は瓦礫と化した。

その時、メイドが憎んでいる男であるディブナーが部屋から出てくる姿がメイドの眼に映った。それを見てメイドは握り拳を作り、手を震わせた。そして、コクピット内の音声が外に響くように音声の設定を行い、ディブナーに向けて喋り出す。

「オラァ!イカレ面野郎ォ!てめぇ、散々人を馬鹿にしてくれやがったな!!」

怒号を浴びせるメイド。それに対し、一方のディブナーはそれを見て手を上げている。先程メイドを馬鹿にしたような態度はどこへ行ったのか、すっかり弱腰になってしまっているのが彼の目から見ても分かった。

「今更手ェ上げても遅ェんだよォ!!!」

「な……やめろ――」

すると、デスゲイズはディブナーのいる方向に向けて右前腕部を差し出し、二連装ビームキャノンを連射した。この攻撃に巻き込まれたディブナーはビームによって蒸発した。

跡形もなくなったディブナーではあるが、気の済まないメイドは更なる攻撃を加える。

自分を悲惨な目に遭わせたこの施設に対し、報復と言わんばかりに腹部のビームカノンを発射し始めたのだ。これにより、ホノルル基地は壊滅的なダメージを負う事になる。高出力のビームは基地を縦断し、二つに割れる形となった。

「ワッハハハハ~!気分爽快MAX!さて、そろそろ消えるか……」

そう言ってデスゲイズをMAに変形させようとした時であった。

 

               バシュゥゥゥ

 

一筋のビーム粒子が、デスゲイズに襲い掛かった。しかし全方位にバリアーフィールドが展開されているデスゲイズにビーム兵器は一切通用しない。攻撃してきた機体を確認するメイド。そこにいたのはガンダムタイプであった。

「おほー、まさかの!ガンダムタイプかよ。」

舌を舐め回し、メイドはMAのデスゲイズを駆り、彼を攻撃したガンダムタイプと戦う。

メイドを攻撃したのは、総司令だった。総司令の乗るガンダムナパームが彼に勝負を挑むのだ。

「危険な人間め!」

怒りを露にする総司令。ナパームはバックパックの大型ナパームランチャーを一基発射し、デスゲイズに襲わせる。

しかしメイドにそのような攻撃は無意味だった。デスゲイズは有線式ビームサーベルを展開し、ナパームランチャーを三本の有線式ビームサーベルを使って串刺しにし、破壊した。 

その直後、ナパームはビームサーベルを展開し、デスゲイズに迫った。至近距離まで迫る総司令。だが、メイドはこの攻撃に対して有線式ビームサーベルで打ち合いを行った。

「どこぞの誰だか知らねェが!ガンダムに乗るからには強えぇんだろうなァ!?」

メイドは交戦しながらナパームに回線を開き、総司令に対して会話を試みた。

「私は負けるつもりは無い!総司令として!」

総司令がそう言った時、メイドは彼の顔を見て驚愕した。と言うのも、ガンダムナパームに乗っている総司令のことを知っていた為である。

「まさかの!デウス動乱の時のガキじゃねえか!!随分偉そうになりやがったんだなァ!!!今じゃ糞敗北連邦のボスかよォ!」

かつてのデウス動乱時、現在の総司令であるレヴィー・ダイルはアレン達と共に戦っていた。

総司令はかつて、専用のMSに乗ってデウス動乱を戦い抜いた。当時の総司令を知る人間はアレンの知り合いの中に多い。今は無きセイントバードの艦長であるエリィや、国連の将軍で、巨大戦艦、アッサラームの司令官であるウィレス。そして現在もアレンの恋人であるココットや、ガーストに、その恋人のプレーン、そして、ジャンヌ・アステル。これらの人間と共にレヴィー・ダイルはデウス動乱を戦ってきた。

その最中で彼は当時のメイドの兄であったフロード・ヘヴンとメイド・ヘヴンと交戦している。両者はアレンによって倒された筈であったが、何故かメイドは生きていたのである。

この場に於いて、両者はここホノルル基地上空にて、動乱以来の戦いを始めようとしていた。だがメイドの乗る機体は動乱時とは比較にならない程強い。ガンダムナパームと比較しても性能差は圧倒的である。しかし、総司令は諦める様子を見せなかった。必ず倒さなければならないと、総司令は考えた。

「貴方が軍の脅威となるのなら……私は!!!」

「勝てんの?俺に?立場が偉そうになったからってさァ!勝てると思ってんのかよ!?糞敗北連邦の分際でよォ!!!」

挑発するメイドに、それに対して戦う総司令。両者のビームサーベルが火花を散らしている時、デスゲイズは他のビーム刃を総司令のガンダムに向けて放出した。それに気付いた総司令は回避運動を行う。次々と襲い掛かる有線式ビームサーベルだが、総司令はこれらを回避しつつ、ビームサーベルを所持してデスゲイズに迫る。ガンダムナパームが対抗できる手段は、バックパックのナパームランチャーとビームサーベルしかない為、接近戦を試みる必要があった。

「うぷぷぷ……殺っちゃうよ?殺っちゃっても良いんスか?」

「何!?」

 

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアッ

 

メイドのデスゲイズは腹部からビームカノンを放出した。それに気付いた総司令は回避運動を行う。しかし、彼がそれを回避した直後、有線式ビームサーベルがナパームの右脚部を貫いた。

「くぅ……!」

右脚部が破壊されたナパームだが、まだ戦う事は出来る。ナパームは簡易変形を行い、左脚部に搭載されているビームクローを展開してデスゲイズに襲い掛かった。

「そっちがMAなら、こっちもMAってなァ!目には目をォ!歯には歯をォ!!」

するとデスゲイズはMAに変形した。その状態で有線式ビームサーベルを展開し、MAのガンダムナパームに襲い掛かる。この時、メイドが総司令を追いかける形になっていた。総司令の機体はデスゲイズから逃げながら、隙を探している。

その時、三機のMSがホノルル基地上空に姿を現した。内二機はジョゼフで、残りの一機はエグゼマーである。エグゼマーはMAの状態でこの戦闘に介入する。一方のジョゼフはドゥーリア隊に配属されているもので、可動式メガキャノンをバックパックに装備していた。そしてこのエグゼマーのパイロットは、ダウーラだったのである。

「奴だな!イライラさせる野郎は!」

そう呟いたダウーラ。その直後、彼の乗るエグゼマーはミサイルを発射させる。それに気付いたメイドは、MA形態のまま、デスゲイズの前腕部の二連装ビームキャノンを駆使してミサイルを撃墜した。

「せっかくだから、俺はこいつらを使うぜ!」

そう言って、MA形態のデスゲイズは先端部からノーズビームキャノンを連射した。それだけではない。左右の前腕部に搭載されている二連装ビームキャノンも撃ち、これらの攻撃でエグゼマーに襲い掛かった。しかし、ダウーラの乗るエグゼマーはこれらを簡単に回避する。

「なんだその攻撃は?舐めてるのか?」

デスゲイズの回線を開き、ダウーラは挑発するようにメイドに言った。メイドはそれを聞いて舌打ちをする。

「てめェも人形か!糞敗北連邦は無駄に人形が多いな!!気味悪りぃんだよ!」

「なんだとぉ……?」

メイドに挑発されて怒るダウーラは、駆るエグゼマーを利用してデスゲイズにビームライフルを放出した。しかし、機体全体にバリアーフィールドが展開されているデスゲイズにビームは通用しない。

「効かねぇっつってんだろうが!アホがよォ!!」

「イライラするんだよ……お前の声を聞くとォ!!!」

「じゃあイライラして死ねやボケナス!!」

デスゲイズは、ダウーラの駆るエグゼマーに肩部に搭載されているミサイルを放出した。この攻撃に気付いたダウーラはビームライフルをミサイルに向けて発射し、ミサイルを撃ち落とす。

しかし、その瞬間にデスゲイズは有線式ビームサーベルのビーム刃を展開せずに、線だけをエグゼマーに絡ませた。そして、線から電流を流し、ダウーラに電気を浴びせた。

「うぐ……おぉ……ハハ……良い感じだ……」

「こ、こいつマジかよ!まさかのドM!?俺でもビリビリ嫌だったのに?」

「残念だったな……こっちは慣れてるんだよ……」

そう言って、ダウーラの乗るエグゼマーは、マニピュレーターを駆使し、デスゲイズの放った有線を引っ張り始めた。それにより、デスゲイズ本体は引っ張られる。それを見ていた総司令のガンダムナパームはビームサーベルを展開し、デスゲイズに切り掛かった。エグゼマーに全ての線を絡ませている為、有線式ビームサーベルが使えないデスゲイズ。メイドは仕方なしにエグゼマーを解放させ、このビームサーベルに対処する為に有線式ビームサーベルで拮抗をを行う。

「めんどくせえなァ!あいつはビリビリ浴びても喜ぶ超絶ドMだしてめぇは攻撃してくるわでウザい!」

「やはり強い……が、しかし!」

ナパームはデスゲイズの至近距離で、もう一基の大型ナパームランチャーを展開し始めた。あまりに至近距離の為、デスゲイズは回避運動を行う事が出来なかった。

「お、これはヤバいか!?」

冷や汗を掻くメイド。苦笑いを浮かべ、迫るナパームランチャーをただ見ていた。

 

             バシュウウウウウウウ

 

しかし、このナパームランチャーは次の瞬間、破壊される。と言うのも、ダウーラの乗るエグゼマーが破壊した為である。信じられない行動を行ったダウーラに対し、総司令は怒った。

「何のつもりだ!何故邪魔をする!?」

「あいつは俺が倒す。手出しはするんじゃない……。」

そう言って回線を切り、エグゼマーはデスゲイズに迫っていく。総司令は歯を食い縛り、エグゼマーを睨んでいた。

「何のつもりなんだ……!一体……!?」

ただ、獲物を取られたくないという理由で大型ナパームランチャーを破壊したダウーラ。その有り得ない行動に総司令は怒りを覚えていた。彼の動悸はただの自己満足。自分がデスゲイズを倒さないと気が済まないと言う、あまりに稚拙で理解の出来ないものである。

そして、ダウーラのエグゼマーはビームサーベルを展開し、デスゲイズに迫った。その姿を見た時、メイドはニヤリと笑った。

「お前、せっかくダメージ与えれそうになったのに邪魔したんだよなァ?それって俺を倒す余裕があるってことかよ?なぁ……どうなんか答えろや出来損ないのゴミクズ人形がよォォォ!!!」

デスゲイズを倒す気でいるダウーラに苛立ったメイドは大声でダウーラに対して叫んだ後に有線式ビームサーベルを全てエグゼマーに向かわせた。しかし、ダウーラは特殊強化モデルの能力を用いてこれらを回避し、次第にデスゲイズへ近付いていく。

「うらあああああ!!!」

叫ぶダウーラ。だが、それに対してメイドは怒りながら、デスゲイズの有線式ビームサーベルをコントロールし、エグゼマーに突き刺そうとする。

「嫌いだぜ!デク人形の癖に自信過剰な奴!マジムカつく!」

しかし、ダウーラのエグゼマーはこの攻撃を回避した後に、有線式ビームサーベルの線を切り裂いた。その為、ビーム刃部分は海に落ちていく。

「おいおい、初めて切られたぞ!やりやがったな!」

ダウーラが憎いメイドは、残りの有線式ビームサーベルをエグゼマーに全て向かわせた。逃げるエグゼマーだが、エグゼマーの機動性よりも遥かに素早い動きを見せる有線式ビームサーベルはこれに追い付き、やがて串刺しになった。

「あぁぁぁぁ!イライラする野郎だなぁ!!クソが!!!」

そう言ってダウーラはコクピットから脱出した。脱出した直後にエグゼマーは破壊される。その後、デスゲイズは可動式ビームキャノンをバックパックに装備している二機のジョ

ゼフに向けて有線式ビームサーベルを展開し、串刺しにして破壊した。これで、この戦場に

いるのは総司令の乗るガンダムナパームのみとなった。

「残ってんのはお前だけだなァ!今では糞敗北連邦のボスのクソガキ野郎!!」

「クッ……邪魔さえ入らなければ……!」

総司令の言うように、ダウーラによる邪魔が入らなければ彼はメイドを倒していた。しかしダウーラが邪魔をした為、今もメイドは生きている。そして総司令の脅威として立ち塞がっている。

デスゲイズは先程ジョゼフを破壊したように、有線式ビームサーベルを展開してナパームに襲わせる。これらの攻撃を確実に回避する総司令。素早い動きで迫るビームサーベルに対し、動きを読んでこれらを回避する。回避した後に線を切り裂こうとするが、先程のダウーラの乗るエグゼマーの時のようには行かなかった。

「オラオラどうした糞敗北連邦の総司令さんよォ!!そんなもんなのかよ!残念もいいとこだろがァ!!!いろんな国にいちゃもんつけてさァ!偉そうな態度散々とった結果がこれだからなァ!!!」

「戦いを遊戯にしかとらえていない貴方には言われたくない!私は勢力を拡大し、その勢力を広げ……そして戦力を増強し続けた!どのような脅威にも対抗できるように!」

「けど負けてんじゃねーか!!!MSの性能が滅茶苦茶劣ってる国連に負けてやがってさァ!何が戦力の増強だよボケナスゥ!軍事費の無駄!基地の金の無駄!そして資源の無駄!無駄!無駄!無駄遣い!所詮は糞敗北連邦だな!無駄ばっかが残るのに戦力増強とかアホらし過ぎるんだよォ!!!」

「黙れ!」

総司令の乗るナパームはデスゲイズに接近戦を試みる。というのも、デスゲイズに対抗する手段がビームサーベル等のビーム刃を用いる接近戦しかなかった為である。

「自殺する気かよぉ!?」

「僕は、死なない!」

ガンダムナパームはMAに変形し、デスゲイズへ接近する。それに対してデスゲイズは腹部のメガビームキャノンを展開する。しかしナパームはこれを回避。続いて前腕部の二連装ビームキャノンを連射するが、これらを回避する。

「戦う事……それを遊びとしている人間に私が負ける訳には!!!」

次の瞬間、ナパームの下腿前部に搭載されているビームクローが全て展開された。それらは真っ直ぐに向けられ、デスゲイズを突き刺そうとしていた。普通なら回避する動作を見せるはずだが、何故かメイドはそれをしなかった。

「遊び?ああ、遊びだよ俺の場合はなァ!何にも縛られないただの遊び!!!軍の所属、宗教、テロ、国の権威とか俺には一切関係ねぇ!俺は俺のやりたいようにやるだけ!!!戦って俺は無双を続けるだけ!!!どんな規制や法律があろうが俺には関係ない話!俺は暴れて暴れて、暴れまくるだけ!!!

たったそれだけの話だ!そして俺はもっともっと遊びまくって殺しまくって滅茶苦茶に派手に暴れ回って人殺しのギネス記録を更新し続けるだけなんだよォォォォォゥ!!!」

 

ギュルルルルルルルルル

 

デスゲイズの前腕部から有線式ビームサーベルが五本展開された。それらは特攻するガンダムナパームに迫る。回避動作を行うナパームだが、五本が一斉に素早い動きで襲ってくる為、これらを回避しつつデスゲイズに向かうのは非常に難しい事だった。

「オラァ!!」

五本の有線式ビームサーベルを展開した状態で、再びデスゲイズは腹部メガビームキャノンを発射する。それに気付いた総司令は素早く回避運動を取るのだが、それが仇となった。

「しまっ――」

ビームを回避する際に、有線式ビームサーベルが迫ってきたのだ。これらを回避する事が出来ず、ガンダムナパームは串刺しになってしまう。幸い、コクピットに直撃はしていなかった。だがもうナパームは持たない。限界を悟った総司令は脱出を図った。

「そんな……僕が負けるなんて……」

彼は急いでナパームから脱出した。その直後、ナパームは爆発を起こし、やがて海へ落ちていった。実力差なのか、機体性能の差なのかは定かではないが、彼はメイドに敗北した。

「ざまぁだな!イヤッホォォォォォゥ!!!」

メイドはそう言ってデスゲイズを変形させ、その場から去って行った。総司令はパラシュートを展開し、その後ろ姿をただ歯を食い縛って見ているだけだった。

全てはエファンが脱出の手助けを行った事で生じた一連の出来事である。しかし、監視カメラに映っているエファンは、〝メイドにガムを与えた〟姿が映っているだけであり、明確な手助けと呼べる行動は一切行っていない。つまりエファンは問われることは無いのだ。エファンの手助けによって脱走したメイドは次々と兵士を殺し、最終的にデスゲイズを奪い返した。そのデスゲイズで更に暴れ狂い、基地を半壊させた上に総司令のガンダムナパームを破壊した。彼は、生身でもMSでもその強さを見せつけたのである。

戦争を遊びとして考えている男。そのような、危険な男に敗北した総司令は、悔しい気持ちで満ちていた。

「クッ……」

やるせない思いが総司令に重く圧し掛かる。それは実力の差なのか、それとも敵のふざけている価値観に負けた悔しさなのか。それは彼にしか分からないのだ。

 




第八十一話、投了。
メイド・ヘヴンが暴れ回る話でした。
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