機動戦士ガンダム Living Days   作:すからぁ

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戦いは終わった。そして、セイントバードはもうない。そうなれば、戦う必要もない。
しかし、彼等は途方に暮れる。どうすれば、良いのか――


偽りの平和を破る者達編
第八十二話 約束された安寧


 新生連邦本部攻略戦が終わってから三日が経過した。新生連邦政府軍と国際平和連合軍の全面戦闘。この戦いに勝利したのは後者であった。新生連邦の本部という戦場で、戦力差が圧倒的だったにも関わらず、この戦闘で勝利を迎える事ができた理由。それは、新生連邦の戦力を確実に削る戦法が要因だった。これにより、着実に新生連邦本部へ近付き、やがて本部は陥落した。

この事実は瞬く間に世界中に伝わる事になる。そして、世界は新生連邦の支配を受ける事はなくなる。それは、C.W歴以前より存在していた組織である地球連邦軍という名の勢力が敗れ、地球圏の実験が元々同じ組織内であった筈の平和国連盟に移るという、歴史的瞬間でもあった。まだ地球上には新生連邦の基地は点在しているが、それらが国連によって制圧されるのも時間の問題である。

平和国連盟の代表であるギルスはこの勝利に大いに喜んだ。その喜び具合は明らかに度が過ぎており、異常に見えた。

「遂にやった……これで始まる、私の時代が!遂に!!!」

自分の時代が始まると、部屋の中で叫ぶギルス。平和国の時代で無く、〝自分の時代〟と言うこの男は何を考えているのか。それはこの男の胸中にしか分からない。

その時、ギルスの部屋に一人の男が入ってきた。その男はギア・ジェッパーであった。ダーウィンの平和国の代表を務める彼が、ギルスの話を直接聞く為に、ロサンゼルスからニューヨークへ来たのである。彼はジャンヌにニューヨークへ行って欲しいと頼み、その結果、今に至る。

「お久し振りですねギルス・パリシム議長。随分と御機嫌な様子で。」

「豪州のギア・ジェッパー代表!そりゃそうだ!何せ新生連邦と言う害悪を倒す事が出来たからな!」

そう言ってギルスはギアを座らせ、紅茶を用意する。が、ギアはその紅茶を飲まずに、側にあったスプーンで紅茶を掻き混ぜてそのままテーブルに置く。

「おや、飲まないのか?」

「ええ、今は飲む気分ではないので。さて、少しお話をお伺いしたい事がありましてこちらに来た訳ですが。」

予め、ギアは戦争が終わった後、話をする為にニューヨークに伺うとギルスに言っていた。やがて国連は戦争に勝ち、上機嫌のギルスはこれを承諾し、現在に至る。

「そうだったか、で……その話はと言うと?」

ご機嫌な様子でギルスはギアに聞く。ギアは一度咳払いをした後に静かに口を開いた。

「新生連邦による支配がなくなった今、これからは平和国連盟がこの地球を統治する事になります。貴方の望む武力で新生連邦を地球から排除した今、貴方はこれからどのように世界を動かしていこうとお考えなのか……それを是非聞きたくて。」

「世界か。フフ、そりゃあ、争いの無い世界作りだろう。その為の、平和国連盟だ。争い無き世界を作る。それにはやはり武力の存在は欠く事の出来ないものだ。」

新生連邦に勝利した今も尚、武力の存在に拘っているギルス。

「今回の戦闘で歴史が大きく動いた!私は英雄として末代まで語り継がれる事だ!そう、平和はただ待つのではなく、武力を用いて勝ち取るものだ!でなければ今頃国連は新生連邦に攻撃され続けて、多くの犠牲者を出すだけなのだから!」

この言葉自体も所詮は空虚だ。実際に犠牲者を出した上で隠蔽工作をしているのは、現在の平和国連盟なのだから。

「……成程……そこまで貴方は武力による平和に拘るのですね。」

「そうでなければ平和は作られんよ!事実、新生連邦政府という平和にとっての敵を地球から排除しました。これにより、真の平和が訪れるだろう。争い無き、素晴らしい世界が!

私の世界が!今から!始まる!これは素晴らしい!実に素晴らしいではないか!!!」

興奮しているのか、大声で語ったギルス。と、自分の行動の愚かさに気付いたのか、一度咳払いをして再びギアと話す。

「ああ、私とした事が、取り乱してしまった。まあ、これで地球は新生連邦と言う脅威から救われた。ただ、それだけでは真の平和とは言えない。最近になって出現した、宇宙に居る忌むべき連中を倒す必要がある。」

「奴等……と言いますと?」

「デウス残党軍だ。それと宇宙に身を置くとされる新生連邦軍!奴等は許してはならない存在!徹底的に!徹底的に叩き潰す!そう!平和の脅威となる存在は消し去るのみだ!無論、これらの脅威以外の存在も例外ではない!もし、恒久和平の邪魔をする者が現れたのならば、それは平和の名の元に粛清する!」

平和の脅威は排除すると、そう語るギルス。ギアは彼の言葉を静かに頷きながら聞いていた。その時、彼はギルスが持っていた資料を手に持ち、拝見した。その動作に気付いたギルスはギアに言う。

その時、一連のギルスの言葉を聞いたギアは、スッと立ち上がった。それを見たギルスはギアに聞く。

「おや、どうされたかな?」

「いえ……私はこれで失礼させて頂きます。」

「ほぅ、結局紅茶には手つかずだったな。」

「今は飲む気分では無いので。失礼しました、議長。」

ギアはそう言って早々とギルスの部屋を後にした。彼が去った後、ギルスはギアに対して疑問に思いながらも、生まれ変わる世界を想像して笑い続けていたという。

 

ギルスの部屋から出たギアは静かに廊下を歩く。その時、彼はそっと溜息を吐き、静かに握り拳を作り、拳を震わせていた。

(心理が掴めた。結局は己の力を開示させたいだけ……あの男は所詮愚かな存在だと言うことか。)

ギルスの言葉を聞いて怒りが込み上げてきたギアは、その怒りを抑えつつ、平和国連盟本部を後にするのであった。

 

 

 

セイントバードを失ったセイントバードチームはシュネルギアに回収された。非戦闘員の中ではミルフ・ブラマンジュが死んでしまったが、それ以外は皆無事だったセイントバードチーム。そして何よりも、エリィが生きていた事がクルーにとっては喜ばしい事であった。

シュネルギアはニューヨークへ向かう為に移動を始める。ブリッジではジャンヌがエリィと会話をしていた。

「ご無事で何よりです。セイントバードが墜とされたという話を聞きましたので……」

「なんとか避難して……まあ……どうにか無事に逃げる事は出来ました……」

笑うエリィだが、その笑みは明らかに妙だった。苦笑いである。ジャンヌはそれが気になったが、あえて聞かなかった。

「……今回の戦いは、終わりましたね。」

ジャンヌが突然そう言う。

「そう……ですね。」

ジャンヌの言った事に対してエリィも答えた。

「……エリィさん、貴方達はこれからどうなされるのですか?」

ジャンヌは聞き辛そうな様子で言った。セイントバードを失った今、MS乗りとして活動するのは不可能である。戦いが終わった今、エリィをはじめ、セイントバードチームは果たしてどのように過ごすのか。ジャンヌとしては気にせずにはいられなかったのである。だがその質問をした時、ジャンヌが思った通り、エリィから笑顔が消えた。これからどうすれば良いか分からなくて困惑しているのである。

「セイントバードが……無くなって……確かに……これからどうやって過ごしていけばいいんだろうって……思いますよね……そうだ、自分達の家が無くなるなんて、考えてもいなかったから……」

セイントバードは彼女にとって家族のようなものだ。それはネルソンが滅びゆくセイントバードの中にいたエリィを救出しようとした時に彼女がネルソンに対して言った台詞である。その大切な存在を失った悲しみは大きく、彼女は放心状態だったのだ。

「……今は……話したくありませんか?」

エリィの気持ちを察したジャンヌは気を遣うように言った。するとエリィは静かに頷いた。

「……そうですか……あの、もし良ければ暫くここに居ても、大丈夫ですよ?」

「……ありがとう……ございます……」

エリィの声は礼を述べるのだが、同時に、静かに溜息を吐く。精神的なショックが大きい為か、ジャンヌの前で表情を隠す事すら、出来なくなっていたのである。

「ごめんなさい、ジャンヌさん……私、失礼します……」

そう言ってエリィはジャンヌに礼をした後にブリッジから去った。ジャンヌはその寂しげな後姿を見て、どこか物悲しい表情を浮かべていた。

 

 

 

ブリッジから出てきたエリィ。廊下で待っていたのはネルソンだった。

「やはりセイントバードが気になるか……」

「どうしても……ね。」

「気持ちは分かる。だがずっとそれを気にしてはいられないだろう。貴方が言ったように、セイントバードが家族だという気持ちは私にもある。」

セイントバードがないというショックを感じているのはエリィだけではない。ネルソンも同様なのだ。

「やれやれ……だな。トルクスは全滅。セイントバードが残した機体はアインスとツヴァイとハルッグのみ。しかもアインスはHPSを機能する事が出来ない。パーツは全てセイントバード内にあったからな……」

溜息を吐くネルソン。だがその時、エリィはふと、呟いた。

「……あれ、と言うか……今思ったんですけど、私達ってもう戦う理由は無いと思うけど……?」

ふと、エリィは思った。確かに、今回の戦いを終えた以上、セイントバードは戦闘を行う理由はない。全ては終わったのだ。もう国連や新生連邦に巻き込まれる心配は無い。今までセイントバードがあった時のように、過ごしていけばいい。ただ、〝母艦があれば〟の話だが。

「確かに、戦いを行う理由は無い。レイやスバキはもう、戦わなくていい。彼等は故郷に帰してあげても良い。全ては終わったのだからな。」

ネルソンの言う通り、全ては終わった。もう何にも縛られる事は無い。レイも戦う必要はない。彼が望むように、故郷であるモントリオールへ帰してあげる事も出来る。彼が言うように、全ては終わったのだから。

新生連邦が敗北した事で、世界情勢は大きく、変わっていく。平和国連盟が地球上の一番の勢力圏となった今、戦争に巻き込まれていく事は、無いのだ。

戦いが終わったのは良い。しかし、MS乗りとして行動は出来ない。結局どうすれば良いか分からないのだ。困惑する両者。エリィは俯き、ネルソンはエリィの肩に手をそっと置き、その状態で廊下を歩いていく。

 

 

 

スバキはシュネルギアの廊下にてレイと再会していた。モハーヴェ砂漠で一人戦っていた彼女は、久し振りにレイと会う。

 彼女自身先の戦いで国連の思惑も重なり、撃破されそうになったが一機のハイエッジに助け出されていた。

「レイ!大丈夫か?」

「スバキ……うん、大丈夫だよ……スバキも、良かった……」

「ああ……ホントにな……けど……お前、大丈夫か?なんか様子が変だぞ?」

「……うん……まあ……ね……」

スバキから見て、一目でレイの様子が変であるのが分かった。気になったスバキは尋ねようとする。

「何かあったのか?」

「いや……さっきの戦いで……色々とあったから……」

思えば、彼は先程の戦いで多くの出来事を経験した。クラリスに言われた、無意識に罪の無い一般人を殺していると言う事と、シーアが過去に会った事のある人間で、現在は敵同士であるという事と、セイントバードがもう無いと言う事……多くの出来事を経験したレイは元気が無かったのである。

 

――――お前のようなクソガキがそんな事してたらなぁ!話にもならねえんだよ!―――

 

――――――――――――人間は時が流れると変わってしまうのさ――――――――――

 

先の戦いで聞いた幾多もの台詞。これらがレイを苦しめる上、更に帰る場所がなくなったことが彼を悲しませていた。

その時、二人の前にエリィとネルソンが姿を現した。レイは二人に挨拶をし、エリィは作り笑顔でレイとスバキに話しかける。

「お疲れ様。スバキさんも頑張ったわね。」

「あ……ああ……ありがとう……」

スバキは嬉しそうな表情を浮かべた。その直後にエリィは言葉を発する。

「あのね……セイントバードはもう無いと言う事、スバキさんは知っているのかな?」

「なっ!?そうなのか!?」

彼女は知らなかったのだ。と言うのも、彼女が戦闘終了後に初めて会ったセイントバードクルーがレイだった上、レイはそのことをまだ言っていなかった為であった。

「そんな……嘘……?」

「本当なの……もう、ないの……」

スバキの表情は険しいものになった。母艦が消えたと言う事実は彼女に衝撃を与える。

「じゃ、じゃあさ……この先どうなるの?私も含めて、皆……」

「さあ……ね……私もそれで困っていた所だから……」

その場にいた全員が無言になった。セイントバードが無い事で、もう行動が出来ない。何よりも、これから先何をすれば良いか分からないのである。

「二人共、聞いて欲しい事があるの。もう私達は戦う必要は一切なくなりました。つまり、貴方達はもう、ここに居る必要はなくなったの。レイ君、貴方はもう新生連邦の脅威に怯える事なく故郷に帰る事が出来るわ。リルムさんと共にね。」

「え……そうなん……ですか……?」

レイは言った。それは彼にとって喜ばしい出来事であった。

しかし、彼は素直には喜べなかった。自分は故郷に帰れば良い。しかしエリィやネルソンはどうなるのか?そして、自分しか扱えないツヴァイガンダムはどうなるのか?

元々レイには故郷に帰りたいという感情はあった。先の戦闘前は、“攻める”戦いに困惑しつつも、戦闘中は懸命に戦った。だが今になって、実際に故郷に帰ることが出来るとは言え、他の人々はどうなるのかと言う感情が芽生えていたのだ。

「故郷……って言っても私は日本か。でもそうなったら一人暮らしだなぁ……」

スバキも同様で、彼女の場合は一人暮らしになってしまう。家族の居ないスバキからすれば、それは寂しい事であった。だがセイントバードはもう無い。帰る場所はもう、ないのである。

「その判断は二人に任せます。けれど、これだけはハッキリと言えます。貴方達はもう、戦わなくて良いの……」

そう言うエリィの表情は寂しげだった。自分自身も何も出来ないと言う空しさがその表情を作り出したのである。

「よく考えてね。故郷に戻るなら私がジャンヌさんに言って、レイ君ならカナダのモントリオールへ。スバキさんなら日本の東京へ送ってあげることは出来るから……そうだ、みんなにもこの事は伝えないと。」

そう言ってエリィとネルソンは奥へ行った。セイントバードチーム全員にこの事を伝える必要があったからだ。残されたレイとスバキはこの先どうすれば良いかを考え始めた。

「お前、どうするんだよ……?」

「……分からない、分からないよ……もう戦いは終わったんでしょ?ならもう……戦う必要が無いのなら……僕は戻ろうかとは考えてる。」

「……そっか。まあ、そしたら平和に過ごせるもんな。今デウス帝国がどーのこーのって世間で騒がれてるけど、そんなもん、地球に住んでる私達からしたら関係の無い話だし。」

スバキの言うように、彼らが一度故郷に帰り、元の生活に戻れば全ては自分にとって無関係な話となる。

今までは関わりのあった出来事も、これからは他人事。ニュースを見て世界情勢を見る程度の関心に終わってしまう。平和な生活が始まるのだ。そう思うとレイは故郷へ帰りたいと考え始めた。だがそうなるとツヴァイガンダムはもう用済みになる。ツヴァイはレイにしか扱えない機体であり、誰も扱えない以上は残しておく必要が無くなるのだ。それは少し気になったが、平和になるのならそれで良い。もう、戦って悲しむ必要は無い……レイには段々とその気持ちが大きくなっていた。

リルムと一緒に故郷に帰れば母親に会える。姉や妹にも会え、父親にも会える。そして平和国連盟が新生連邦に代わって組織を作っていくのならば、恐怖に縛られる心配も一切なくなる。よって、学校に行く事が出来るようになる。と言っても彼の場合はもうすぐ卒業だが。だが学校に行くことで友達にも会える。どうでも良い話も出来るし、冗談話も出来る。いつもの生活が出来るようになれば、それで良い。レイは想像を膨らませた。 

平和な日常……思えばその為に今まで戦ってきた。これからは平和な生活を送り、いつもの日常を送って行けば良い。ツヴァイガンダムなど別にどうでも良いではないか……彼はこう考えるようになっていた。もう、兵器とは無縁の生活を送れるのなら……帰ろう、故郷へ。レイの気持ちは決意へと変化しつつあった。

そうだ、もう戦いは終わった。新生連邦は敗北し、加勢した国連は勝利を迎えたのだ。もう戦う必要はない。攻める戦いはもう、しなくて良い。故郷に帰って、今まで通りの生活を送れば良い。ガンダムと共にした時間を忘れて、ジュニアハイスクールの生徒としての残りの時間を過ごせば良い。それで、良い筈だ。

しかしその時、彼は違和感を覚えた。本当にこれで良いのか?まだ、やるべき事があるのではないだろうか?レイは考える。しかしその〝やるべき事〟の正体が、何なのかは、分からなかった。

「……ちょっと……考えてみるよ。」

「そっか。私も……ちょっと考えてみようかな……」

と、レイは用意された部屋に戻ろうとした時――

「あのさ!」

スバキが、突如声を掛けた。

「どうしたの?」

反応する、レイ。それに対し、スバキは

「いや……何でもないや。ごめん。」

「うん?そうなんだ。」

スバキの声掛けが気になったが、レイはそのまま部屋に戻っていった。その後ろ姿を、スバキはただ、寂し気に見つめていたのであった。

 

 

 

この時、エリィもレイと同じ違和感を覚えていた。何かするべき事があるのでは……と、彼女の中で考えていた。セイントバードがあった時のような慈善行為や、MSのスクラップ等を売って生計を立てて行くのとは違う、もっと、本当にやるべき事。だがその〝やるべき事〟が何なのかが分からず、彼女は困惑するばかりである。

そもそも、今は母艦がない状態だ。どうすれば良いか分からないまま、恐らくチームは解散となるだろう。

もしも、このまま全クルー解散となればエリィはネルソンと暮らす事になるだろう。それは別に良かった。幸せでいられるのなら、それで。

だが彼女はそれに納得しなかったのだ。その違和感が何なのかは彼女自身、分かっていない。エリィはこの事についてネルソンに聞いてみた。

「ねえ、ネルソン。あの……私……本当にこのままでいいのかなって思うの。」

「このままで……とは?」

「何か……まだ何かやり残したことがある気がしてならないの。確かに戦いは終わって、セイントバードも失って……もうMS乗りとして活動できない以上は各自、もう各自で解散すれば良いとは思う。けどね、私は……何か……まだやるべき事があると思う。私達は軍人じゃないから、もう別に何もしなくても良いのは事実だけど……なんだろう、変な使命感があるって言うか……良く分からないっていうか……全てが解決していないっていうか……」

もう、自由に過ごせば良い筈なのに、彼女はレイと同様に、奇妙な違和感を覚えていた。彼女の場合は使命感である。この先、まだすべき事がある……だがそれが何なのかは分からない。それが気持ち悪くて、彼女は不快に感じていた。

「今は焦っても何も解決しない。とにかく皆に伝える必要がある。故郷へ帰るか、これからどうするかをな……」

「そうね……」

やがて再び両者は歩き始める。クルー全員に、これからどうするのかを聞く為に。

 

 

 

それから三日が経過した。シュネルギアはニューヨークに着いており、平和国連盟の本部前で待機している。本当ならば一日あればニューヨークへ行く事は可能なのだが、シュネルギアの修理やMSの整備が重なり、二日掛かった。そして三日目にニューヨークへ向けて出発し、現在はニューヨークに着いていた。この時、セイントバードチームの面々は未だに次の行動を取れない状態でいた。どうすれば良いか、困惑している状態である。

そして同日にギアはギルスと会い、話を聞いた。これから世界をどのように動かすのかを聞き、彼は内心で聞き呆れていたのだ。

 

 

 

平和国本部のあるニューヨークに着いていたセイントバードチームとアステル家の面々。相変わらず彼等はこれからどのように過ごせば良いか分からずに過ごしていた。そんな中で、レイは故郷へ戻る事を一人決意していた。今、彼はその事を恋人であるリルムに話している。

「ねえリルム。」

「何、レイ?」

リルムの部屋に入り、レイは静かに言った。

「もう……戦う必要は無くなったんだ。だからさ、一度戻らない?モントリオールに。」

「……え!?」

レイの言葉にリルムは驚く。その表情は笑顔で満ちていた。

「モントリオールに帰れるの!?本当に!?」

「うん、本当だよ。」

複雑な表情のレイとは違い、リルムは大いに喜んでいる様子だった。

「絶対に帰ろうよ!帰れるなら、私帰りたい!お母さんとかお父さんに会いたい!」

リルムは帰りたくて仕方がなかった様子だった。懐かしの故郷に帰る事が出来るという喜びがレイに直接伝わった。彼は、リルムの表情を見て笑顔を作る。

「お母さんに会える!お姉ちゃんにもお父さんにも!みんなには友達と避難してるって言っておいたから怒られる心配もないし!あ、ちゃんと伝えておかなきゃ!もうすぐ、帰るって!」

リルムが新生連邦によって拉致をされていて、アステル家に保護されていた時、リルムは友達と居るという言い訳をしていた。それにより暫く戻らないという風に伝えていた。

 現在、彼等の学校は休校状態だ。学校の事を言われる事は無い。そうした事もあり、リルムは両親に詮索される事はなかったのだ。

 これに対し、レイはどう言い訳をすれば良いかを考えなければならなかった。思えばあの時は余りに突然だった。それに、彼は一度故郷を離れている。最初にセイントバードチームに助け出された時だ。その時は父、ジュナスがどうにか話を合わせてくれたが、今回はどう在るべきなのか……素直に、言うべきか?どうするべきか。リルムと同様に、友人と避難をしていたというべきか。

 

 やがて両者は電話を掛けた。互いの母親に、もうすぐ帰ると伝えるのだ。新生連邦の敗北が世界中に伝わっている状況。これによって世界情勢が一段落すると思われた為、安心しているのが伝わったのだ。

 リルムは母親と電話が繋がり、喜びの声を上げていた。一方のレイは、母親に対して謝ろうとした時――

『レイは今まであの人と一緒に居たんでしょう?確か、ボランティアとして。だから連絡もあえてしなかったのよ。よく、無事だったわね、レイ。気をつけて帰ってきて……。』

思いの外、母、カレンは思いの外驚愕している様子を見せなかった。以前の事を経験しているからであろうか。

だが母のその言葉はレイを安心させた。父、ジュナスが予め手を回していたのだ。レイの事情を知る父親故に、こうした事に手を回してくれたのは本当に有り難かった。

(父さん、この事を見越してあんな事を言ってたのか……!)

それはダーウィンにて偶然にも父親と再会した時、レイに対して言った台詞がある。

 

―――――――母さんの事は心配するな、お前はお前の事をしたら良い―――――――

 

その台詞を思い出し、彼は感激している様子を見せていた。

やがて、二人共電話を切った。その際に二人は顔を見合わせ、笑顔を浮かべる。

「お母さん、泣いてた!」

「僕も……母さんが泣いてた!」

「やっぱりお母さんとレイのお母さんって……」

「似た者同士で仲良いよね!アハハ!」

このように、笑顔で会話をした事が二人にとって久し振りに感じられた。二人共故郷に帰る事が出来ると言う喜びで一杯だった。特にレイは、もう戦わなくて良いと言う安心感で一杯だった。これからは普通の生活を送る事が出来ると思うと笑顔が止まらない。

「けどレイがまさかあんなロボットに乗って戦ってるって知ったら、レイのお母さん絶対失神するだろうね!」

「うん……だって……漫画とかアニメの中の話みたいな事が現実に起こってるから……」

全てはアインスガンダムとの出会いから始まった事だった。アインスを成り行きで操ったレイは、チェーニ姉妹のガンダムと交戦して敗北し、連れ去られそうになったところをネルソンに助けられ、そこからセイントバードチームと行動を共にしてきた。

途中で彼の乗る機体はツヴァイガンダムへと変わり、それからも戦いは続いた。そしてダーウィンでの戦いや新生連邦本部攻略戦を経て、現在に至る。今まで何の変哲もないレイからすれば、この事実がまるで嘘のように思えた。だが全ては現実の出来事。今思えば、何も知らない人間に言っても信用されないような事ばかりだ。

そして幾多もの戦いの中でレイは力を身に付けて行った。自らが光るような経験もした。それに対し、怯えてこともあった。しかし、今となってはもう、どうでも良い事である。 

そもそも、その内容を別に何も喋る必要は無いのだし、彼が喋る事が無い限り、リルムもレイが特別な力を持つ人間であることは知らない。彼が口にしない限り、いつも通りの平穏な生活を送れるのだ。

 

――――力を持つという事は、生きていく上で莫大なリスクを背負うことになる―――

 

―――――――――お前は一生苦しみながら生き続ける事になるだろう――――――――

 

――――――――――――――――私が、居る限りはな―――――――――――――――

 

その時、レイはびくりと身体が反応した。以前にエファンが残した言葉を思い出した為である。

「レイ……?」

「あ……ううん、何でもないよ?」

何故急にあの男の言葉が蘇ったのかは定かではないが、今レイは突然の恐怖に襲われていた。

(なんで今になってあの人の言葉が……?もうこれからは戦いと関係の無い生活を送るのに……どうして……?)

背筋が凍る思いをしたレイ。突然思い出されたエファンの言葉は確かにレイを恐怖に陥れたが、彼はそれを気にしないようにした。何せもう自分には関係の無い話なのだ。普通に生活する彼が何を恐れる必要があるのか……レイは自分自身に言い聞かせ、自らの中で不安を消した。

「あ、あのさ……この事をエリィさんとかジャンヌさんに言った方がいいと思うんだ。だから一緒に行こうよ。」

レイはそっと手を差し伸べた。リルムはそれに対して笑顔で応じ、一回思い切り頷いた後、差し伸べられたレイの手を握って一緒に部屋を出た。両者は、故郷へ帰る事が出来る希望を胸に抱いており、互い笑みが絶えなかった。

 

 

 

それから二人は、まずエリィの元へ向かった。彼女はネルソンと共に部屋におり、ノックをして部屋に入る。許可を得た後、レイは早速エリィに事情を話した。

「……そう、やっぱり行くんだね。」

「はい……その……僕、今まで皆さんと過ごせて本当に良かったです。いろいろありましたけど、もう戦わなくて良いのなら……僕達は戻ります。」

レイの言葉遣いは明らかに気を遣っていた。それを見たネルソンは口を開ける。

「気を遣っているな、レイ。だが君は別に気を遣う必要はない。寧ろ今まで良くやってくれたと褒めたいぐらいだ。元々君は普通の学生だ。リルムさんもな。君達には君達で、これから生活がある。そのかけがえのない人生を大切に生きていって欲しい。」

ネルソンはこの時、笑顔だった。彼が笑顔で喋るのは珍しい事だった為、レイにとっては不自然に感じられた。

「ネルソンもこう言ってるしね!ジャンヌさんに言って、モントリオールまで送ってもらうようにするわ!二人共、本当にお疲れ様……」

エリィも笑顔だった。これから先の二人の幸せを願うように、静かに笑っていた。彼女の笑顔に応じるように、レイ達も笑顔で頷く。この時、エリィは自然にネルソンの事を名前で呼ぶ事が出来ていたのだ。

その時、レイに疑問が浮かんだ。自分達は故郷へ帰る。だがスバキやエレンはどうなるのか。彼等の事が気になったレイはエリィに聞いた。

「あの、他のみんなはどうするか聞いていますか?」

エリィは首を傾げた。

「さあ……私もまだ聞いていないの。みんなやっぱり悩んでいるみたい。まあ、私もなんだけどね。」

「あ……その……すみません、僕……自分達の事しか考えてなくて……」

レイは反省した。自分とリルムは故郷に帰れば良い。しかし残っているクルーはこれからどうすれば良いか分からないのだ。スバキは日本に母親もおらず、一人暮らしの生活を送る事になる。エレンも同様で、両親がいない。そしてエリィ達も母艦を失っており、これからどうすれば良いか分からないのだ。自分達のことしか考えていなかったレイは、自身を責めた。

「何やってるんだろう、僕……本当に馬鹿だ……」

「……レイ君は謝らなくていいんだよ、君が選択した答えなんだから、それをすれば良いだけ。リルムさんも……ね?」

「あ……はい!」

レイとリルムは頭を下げた。そして一言。

「今までありがとうございました!」

と言って、彼等は部屋を後にする。次に向かうのはジャンヌのいるブリッジだ。

 

 

 

レイ達はシュネルギアのブリッジに向かった。しかしそこにジャンヌの姿は無い。彼はオペレーターに話を聞いた。リルムは彼の隣で黙っているだけである。

「ジャンヌ様はまだ戻ってきていないみたいだな。用件があるなら伝えておこうか?」

「構いませんか?今忙しそうですけど……」

「今はそんなにだから良いんだよ。で、何よ。」

彼は用件を言う為に口を開こうとした……その時、ブリッジに入る為のドアが開いた。ジャンヌがブリッジに入ってきたのである。それに気付いたレイは頭を下げた。

「まあ、レイ。どうなされたのですか?」

相変わらずの美しい容姿をしているジャンヌに魅了され、レイは呆然とした。それに気付いたリルムはレイの肩をぽんと叩いた。我に返ったレイは用件を言う。

「……そうですか、お帰りになられるのですね。」

「はい……その、迷惑でなかったらいいんです。僕達を送ってもらいたいんです……」

正直、気が引けた。彼等にも都合がある。そんな都合を無視してお願いを言っているので、申し訳が無い気持ちだった。だがジャンヌは笑顔で、快く答えた。

「ええ、大丈夫ですよ。……ただ、シュネルギアごと……というのは正直厳しいですね。艦内にある輸送機を手配して、故郷へ送らせて頂きますわ。」

「あ、ありがとうございます!」

これで、故郷に帰る事が出来ると言う事が確実になった。喜ぶ両者。しかしその時、ジャンヌは口を開けた。

「ただ、そうなればもう、ツヴァイは不必要となりますね。あの機体は貴方にしか扱う事が出来ません。貴方は故郷へ帰ると言うのでしたら、私達はツヴァイを一度アステル家に戻す事になります。」

「あ……そっか……そうでしたね……」

レイが故郷に帰ると言う事は、もうツヴァイに乗る必要は無いと言う事と同意義だ。それは彼自身も分かっていた。だが改めて言われることで彼は少し戸惑った。しかし、もう戦いと関係の無い生活を送るのだから切り捨てる必要があると思い、彼は口を開けた。

「だ、大丈夫です!あと……その……今まで迷惑を掛けたりしましたけど、本当にありがとうございました!」

先程エリィにした時と同じように、二人は深く頭を下げた。ジャンヌはその姿を見て笑みを浮かべる。その時、レイは彼女に聞いた。

「あの、ジャンヌさんはこれからどうされるんですか?」

エリィ達は未だに困惑している状態であるが、ジャンヌはどのように行動するかは分からない。気になったレイは思い切って聞いてみたのである。

「私達はまだ戦うでしょう。確かに地球での争いは終わったと言えます。しかし、まだ宇宙があります。残った新生連邦軍の行方も気掛かりですし、何よりもデウス帝国の残党の存在もあります。そして、国連の存在も。私達は、やがてはそれらを全て解決する必要があると判断しました。この事はアレンも知っています。ですから、戦いはまだ終わっていません。セイントバードクルーの皆さんにはまだ、これからどうなさるのかを聞いてはいませんが、少なくともシュネルギアのクルーには意見は聞きました。」

ジャンヌが、改めてレイに伝える。

「全員、賛成との事ですわ。」

それを聞いたレイは戸惑った。今まで彼が意見を聞いた人間は皆、困惑していたのに対し、ジャンヌは意志が明確であったからだ。それも、まだ戦うと言う意思である。予想外の答えが返ってきて、彼は目を開閉する動作を、何度も繰り返した。

(どうして、そんなにはっきりと言えるんだろう……)

何故、彼女ははっきりと、“戦う”と断言したのであろうか。それが、レイは気になっていたのである。

「私達は、これからも戦う事を決めました。けれども貴方はもう戦う必要はありません。貴方が言ったのですから前言撤回をすることは恐らく無いとは思いますが、これから先、もし貴方は私達と共に戦う道を歩むのでしたら、これからは攻める戦いを強いられることになります。一応、警告はしておきました。けれども貴方はもう戦わないのでしたら、関係の無い話ですね。」

再びジャンヌは笑顔になった。だがこの笑顔がレイにとっては複雑に感じられた。

(戦う……必要……か。)

もし、戦うならば攻める戦いを強いられる。だがそれは〝戦う〟ならの話。もう戦う必要などないのだから、そのような事等、する必要はない。

「輸送機を発進出来るように言っておきます。忘れ物だけには気を付けて下さいね。」

「あ、はい……」

そう言われ、二人はブリッジを後にした。だがその時のレイの表情は明らかに笑顔では無かった。

戦いは終わった。その筈だ。だがそれはあくまで、〝彼にとって〟の戦いなのかもしれない。

 

―――――――――――――――戦いはまだ終わっていません――――――――――――

 

ジャンヌ達にとっての戦いは終わっていない。戦いの場は宇宙になる……そうジャンヌは言った。その言葉がどうしても離れないレイ。もう戦わなくて良い筈なのに、どうして彼は苦悩するのか。それは、彼自身が分からないのだ。

故郷へ戻る事が出来る喜びがある一方で、複雑な心境のレイ。廊下を歩いている際、レイとリルムは会話する事無く、彼はただ考え事をしているだけだった。

(もう終わったんだ……僕にとっては。僕にとっての戦いは……けどまだ本当に戦争は終わって無いんだよね……なんでだろう、僕はどうして悩んでいるんだろう……本当に僕には関係の無い事なんだ、僕だけじゃない、リルムや他の皆にも……)

沈黙し、考えるレイ。その時、彼にリルムは優しく話し掛けた。

「もう、良いんだよ?レイはもうあんなのに乗らなくていいんだよ。あんなのに乗ったらレイは人を殺しちゃうんでしょ?レイ自身がそんな事願ってないんだから良いんだよ。」

「……そうだよね、そう……だよね……?」

リルムはレイにしたアドバイスで、レイは少し安心出来た。これから先は戦いとは無関係の生活を送る事が出来る……しかしその一方で、本当にこれで良いのかという気持ちもあった。今のレイは、心の天秤が安定しない状態であった。

 

 

 

それから時間が経過した。その間、レイとリルムはセイントバードのクルーの皆に挨拶をして回った。今まで世話になったクルー達……かけがえのない仲間との分かれは寂しいものがあった。けれどもこれからは普通の暮らしをしていくと決めた以上、彼は後戻りをする気は無かった。

「そっか、行くんだ。けど……楽しかったよ。お前との思い出は一杯あるからな。また連絡しろよな。その時はいつでも飛んでいくから!リルムもレイと……仲良く……な。」

スバキが言った。

「レイには本当にお世話になったから……正直、分かれるのは寂しい。でもレイはレイで故郷に家族がいるのなら、まずは家族に会ってあげないとね……レイの事を大切に育ててきた家族なんだから、顔を見せてあげないとね。リルムさんもお元気で。仲良くなれて良かった……。」

エレンが言った。

「いやや!れいかえんな!りるむねーちゃんも帰っちゃ、やだー!!!」

相変わらず、我儘を言うメナン。

「貴方もこれから、ヒパック村に帰るんだからね?」

エリィがメナンを宥めながら、言った。

「おー、そーだった!おわかれやなー!」

相変わらず喜怒哀楽が激しいメナン。自身もヒパック村に帰り、家族の下で生活をするのだ。

 短い間とはいえ、戦場を経験したメナンだが、それは彼女にとって、何かしらの経験となるだろう。

「元気でね、レイ君、リルムさん。短い間だけど楽しかった。それと……レイ君は命の恩人だからね。色々とあったけれど、あの時は本当に嬉しかったから……」

ウィリアが言った。

「寂しくなるなぁ。けどさ、なんやかんやで命の恩人だよなレイは。」

「二人共元気でね!また会えたらいいよね!」

スラッグとインクが言った。

「そうか……行っちゃうのか。寂しいな。でもお前の都合だし仕方がないよな。」

「そうネ。私達も幸せでいるから、レイとリルムも幸せにネ!」

ガーストとプレーンが言った。

 

そして二人はもう一度、エリィとネルソンのいる部屋に向かい、挨拶をした。

「何だかレイ君と会った事がまるで昨日の事みたい……だけど早いね、もう一年以上前なんだよ。いろいろあったけど、本当に楽しかった。でもね、連絡はする予定だよ!また会えたら会いたいね!レイ君、リルムさん!」

「幾多の戦場を生き残ってきた経験は君にとってかけがえのない体験となっただろう。だがもうそれを忘れて、自分達の生活を楽しめばいい。本来君は戦うべき人間で無いのだ。君にとって全ては終わった。我々は我々で、これからを考えて行く。いろいろとあったが、君達と出会えた事は良い経験だよ。エリィと共に一生心に残るだろう。……今度こそ、これからは幸せな生活を送れ。」

エリィとネルソンが言った。その言葉を聞いて二人はお辞儀をし、部屋を去る。

 

 

 

そしてシュネルギアのMSデッキにて。彼は置かれていたツヴァイガンダムの姿を見て、Eフォンに内蔵されているカメラでその姿を撮った。もう二度と乗る事の無い自分の愛機。せめて最後に静止画として残したいと思ったのだ。

 

カシャ

 

カメラの音が鳴る。そして彼は画像を保存し、静かにEフォンを閉じた。そして二人は最後にミシェに挨拶をする。

「正直、お前は天才だと思ってたよ。あんなサイコミュ兵器を手足のように操るんだからな。けどもうそれはお前にとって関係の無い話。これからは自分の将来なりたい職業とかの為に生きて行ったらいいんだよ。これから先いろいろあるぞ。けどレイ、お前なら大丈夫じゃないかな。お前、悪運は強いから。そしてお嬢ちゃん。世界は広いってこと知っただろ?結構良い経験になると思うぜ?これってさ。……じゃあな。」

ミシェは静かに手を振った。そんな彼に対し、レイとリルムも静かに手を振る。この時、既に輸送機はいつでも発進できる状態であった。中にいたのはアステル兵である。

そして二人は輸送機に乗り込んでいく。他の、セイントバードチームの整備士達に手を振りながら――

 

 

ジャキンッ

 

 

だがその時。突如銃を構える音が聞こえた。それも一つではない。五つである。

その音に気付いたミシェ達は、音の方向を睨むように見た。そこには、国連の兵士の姿があった。計五人の兵士達はいずれもが銃を構え、内一人がレイに対して言った。

「レイ・キレス。勝手な行動は止めて貰おう。」

兵士の中の内の一人が言った。レイは両手を上げ、困惑した表情を浮かべていた。

「貴様のその力は今後我が軍にとって重要な戦力となる。今後展開されるであろう宇宙での戦闘においてもな。勝手な判断でここを去る事は許されない。これは、ギルス・パリシム議長の命令だ。来い。」

「そ……んな……」

国連軍の勝手な判断に、レイは憤りさえ感じた。当然、その場にいたミシェは猛反発する。

「お前らが何様かは知らない。けどな、レイは普通の民間人なんだよ。それをお前らは戦力だからってここに留まらせようってのか?軍人でも無い人間を?非戦闘員の避難さえさせなかったお前らが偉そうに……こいつらは無関係だ。軍人じゃない。だからここから消え失せろ――」

 

パァンッ

 

その時、一人の兵士がミシェの発言に対して威嚇射撃を行った。威嚇射撃である為、ミシェに銃弾は当たらないが、驚愕している様子だ。

「下手な言葉は言わない事だな。軍の命令には従ってもらう。降りろ、レイ・キレス。」

レイは戸惑う。だが、このままでは犠牲者が出る可能性がある。自分は国連の指示に従わなくてはならないのか……そう思った時、再びミシェは言った。

「何を迷ってるんだレイ!お前は早く輸送機に乗れ!こんな奴等の言う事なんて聞くな!」

「黙れと言った!」

 

パァンッ

 

その時、ミシェは一人の兵士に右肩を撃たれた。肩からは血が流れ、肩を押さえ、痛みをこらえている。

「ち……ぃ……!」

歯を食い縛るが、今のミシェには何も出来ない。国連の兵士がミシェを殺さなかったのはわざとだと思われる。

「我々は下手に、犠牲者を出す訳には行かない。早く手当てを受けろ。」

「てめえ……ら……!」

発砲しておいて、あくまでも高圧的な態度をとるこの兵士達が憎く感じられた。だが下手な事は出来ない。そうすれば自分はもちろん、他の人間にも危害が及ぶ可能性があるからだ。

「さあ、早く来い。お前はあのガンダムと共に宇宙で戦ってもらう。新生連邦の残党勢力及び、デウス帝国残党という脅威を排除する為にな。」

レイの側にいたリルムは震えていた。それを見たレイは握り拳を作り、言葉を発する。

「お……お断りします!!」

「ほぅ。」

 

パァンッ

 

そう言った時、レイの頬を兵士の撃った銃弾が傷付けた。静かに血が流れ、レイはそれを手に触れ、流血を確認する。

「残念だが断る事は許されない。貴様は大切な戦力だ。殺す事は許されない……だが、命令に従えない以上はこちらも相応の対応をさせてもらう。」

レイを戦力の一員としか見ていない兵士達。これが戦争を求める人間達の意見なのだ。レイはごく普通の民間人であるのに、それを許そうとしないのだ。

「少年とはいえ、その力を見過ごす訳にはいかないからな。可哀想だが、協力してもらう。」

「嫌だ!僕は……!」

レイはあくまでも拒み続ける。しかし、兵士達はそれを許さない。絶対に国連に所属させるように強要する。どうすれば良いか分からない状況……もうすぐ故郷へ帰る事が出来ると言う直前で起きた出来事は、レイとリルムを苦悩に追い遣る。

 

ドンッ

 

その時だった。一人の兵士は突如手首に激痛を訴えた。と、同時に銃を落とす。それを見て動揺する残りの兵士達。

「な、なん……ぐぁっ!」

その時、二人の兵士が倒れた。そして残る二人の兵士は頭部に銃を突きつけられている。これにより、兵士達は全員何も出来なくなった。そして、彼等の自由を奪っている人間こそ、ウィリアとアレンとエリィだったのである。

アレンは二人の兵士を気絶させ、エリィは一人の兵士の手首を拳銃で狙って銃を落とし、残る二人の兵士にはウィリアが頭部に銃を突き付けることで身動きを取れなくしている。

「レイ!早く行くんだ!国連に従う必要なんてない!お前は、お前のしたいように生きて行くんだ!」

「アレンさん……ありがとうございます!」

レイは頭を下げ、すぐに輸送機に乗り込んだ。

「レイ君を見送ろうとしたらこれだからね……平和国連盟と言う存在が一体何なのか、私、分からなくなっちゃった……」

「レイ君を“人”としてでなく、戦力としかみていない時点で国連とは縁を切りたいものだけど……私達はまだ何も出来ないのが辛いところ。せめて彼等だけでも幸せに生きて欲しいわ……なのに、こんな事をするんだから……」

やがて輸送機はシュネルギアのMSデッキから出発し、彼等は遂に故郷へ向かって行った。レイとリルムは懸命に手を振り、皆と別れを告げる。

 

この後クルー達は兵士から銃を奪い、身動きを取れないように、錠で両足を固定した。兵士達から話を聞くと、今後の国連の作戦にレイを強制参加させる予定だったという。無論、他のセイントバードクルーを切り捨てて。確かに彼の活躍は目を見張るものがあったが、そのような事を、彼が賛成するはずがない。だからこそ、クルーはレイを故郷へ届ける為に尽力したのだ。現在兵士達は手足の自由を奪われている為、上層部と連絡は取れない。だから、レイがこの先国連軍に連れ戻される可能性はまずないと思われた。

「一人の少年は全く戦いとは無関係の存在だ。それを利用するなどどうかしている。国連も随分と落ちぶれたものだな。」

ネルソンは一人の兵士に対して言った。苛立ちを見せる兵士だったが、身動きが取れないので何もできず、彼の言葉に対して

「役に立つ人間を利用するのはお前らも同じじゃないのか。あの少年を利用しているのはお前達も同じではないか。だから我々はその力をお前達と同様に利用する為に――」

と、兵士は言おうとしていたが兵士の言葉を遮るようにネルソンが再び口を開ける。

「我々は彼を利用していない。彼は自らの意思で今まで戦ってくれていた。だからこそ、我々も彼の望みを叶えてやる義務があるのだ。言わば信頼関係だ。レイがお前達国連軍に協力しないと言う事は、国連に信用が無いと言う事だな。」

「チッ……」

そう言われ、兵士は黙った。彼等はここから動くことはもう出来ない。だから、上層部にレイの存在を報告する事が出来ない。レイの将来の安全を確保する為、彼等は尽力を費やしたのである。

(元気でな……)

ネルソンはそう思い、再び兵士達を監視する為にMSデッキで見張っていた。




第八十二話、投了。
戦争が終わり、レイとリルムは故郷に戻る選択をした。
しかし国連が邪魔をしたという話。
国連の腐敗は極まっていますね……
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