ジャンヌをグァンによって連れ去られてしまったFPBのクルー達。グァン達氷河族はジャンヌを連れ去った後、誰も殺さずにシュネルギアを去って行ったのである。ギアの怪我は幸い大きなものでは無かったが、それでも彼等は今後行動していくのに大切な人物を失ってしまった。
目の前で連れ去られた光景を見て、連れ去られた直後のブリッジには喪失感が漂っていた。しかしそれから時間が経過した為、そのような喪失感は消えており、今後はどのように行動していくべきかを皆で話し合っていた。
「まさかこんな事が起こるとは思わなかった……ジャンヌ嬢は重要な存在だけに、今回の件は非常に厄介だ。今すぐにでもあの男を追いたいが、どこにいるか見当が付かない……」
ギアがブリッジにクルーを集め、再び話している。彼は撃たれた後、すぐにネルソンによって手術が行われた為、現在も無事に過ごす事が出来ている。
「あの、FPBの仲間がもう宇宙に上がり始めているんですよね?シュネルギアが旗艦なら、一刻も早く宇宙へ上がる必要があるとは思いますけど……でも、今はそれどころじゃないですよね……ジャンヌさんが連れ去られて……しかも行方も分からない状態……」
エリィが言った。俯いた状態で、ジャンヌの安否を心配している。彼女の言うように、ジャンヌの行方が分からない事が今の問題だ。FPBに欠くことの出来ない人間が連れされる事は本来あってはならない事だ。
しかしそれが現実に起きてしまった。最悪の事態と、この場にいただれもがそう思っていた時――
「……この方向だと恐らく、ノルウェーに向かっているわね。」
その時、ウィリアが口を開けた。その言葉にブリッジ内の全員がウィリアを注目する。
「ウィリアさん……それって……?」
「ジャンヌ・アステルの居場所よ。この、光っている点が、現在彼女が捕らわれている場所。」
そう言って、ウィリアは小型の機械を渡した。
そこに映っていたもの。そこには、点滅する光と大西洋の図が描かれていた。それが何を意味するのかを、エリィは理解したのだ。
「これって……やっぱり……!?」
「せめて、私に出来る事をしないとね。」
ウィリアは笑顔で答えた。それに対し、エリィも笑顔で答える。そして、彼女はギアに言った。
「ジェッパー代表!ジャンヌさんの場所、分かります!ウィリアさんのお陰ですよ!!」
何故このような事が起きたのか。それは、以前グァンがダーウィン郊外にて倒された際に拾った小型の機械のお陰であったのだ。
「でも、どうして分かったんですか?」
エリィの質問に対し、ウィリアは答えた。
「あの男とは最悪な関係ではあれど、知人でね。奴は氷河族のボスの直轄の存在なの。この機械は、組織のメンバーの証である、印に反応している。ボスに服従する人間が忠誠の証とも言える、印を無くすなんて事、すると思う?」
印の話は、エリィの耳にも入っていた。だがその実態に関しては詳細を知らない。
ウィリアはグァンの習性を利用したのだ。印は忌むべき存在として存在してはいるが、忠誠の証としても成り立っている。つまり、ボスに忠実なグァンは印を無くすような事はしないという事だ。それが、裏目に出たのである。
彼女の行動に対し、クルーの全員がウィリアを称えた。〝ありがとう〟〝よくやった〟〝凄い〟など、ウィリアを褒める言葉が羅列されていく。
「凄いな、君は、まるでスパイじゃないか。ジャンヌ嬢の場所が分かるだけでも救出できる可能性が大きく上がる。ウィリア・ラーゲン……君の事は知ってるよ、貴方が有名なバンディットだと言う事はね。本当に感謝している。」
自分の仕事が、このような形で役立つとは思いもしなかった。このままFPBから離れると思われた矢先に生じた出来事は、ウィリアに仕事を与えたのである。
「私は私の仕事をしただけですから。まさか平和国連盟の一部代表に名を知られて光栄ですわ。」
そう言うウィリアは少し嬉しそうな表情だった。皆の役に立てたという、喜びを、実感している。
「今は、代表でも何でもないけれどね。強いて言えば反乱軍のトップと言うべきか。さて、ジャンヌ嬢の居場所が分かった今、救出する為の部隊を作る必要がある。だが、一つ問題があるんだ。」
ギアのいう、〝問題〟とは何か。クルーは全員彼の言葉に耳を傾ける。
「実は、三日後に私はFPBの同胞と合流する予定になっていた。それから行動するつもりだったのだが、皆の知っているように、このような事件が起こってしまった。シュネルギアがFPBの旗艦であることは同胞にも伝えている。つまり、三日後には私は宇宙に上がる必要がある。もし私が三日後に宇宙に上がって来なければ、先に宇宙へ上がっている同胞は混乱してしまう事になる……それは出来るだけ避けたい事だ。」
ギアの同胞であるFPBの別の部隊は先に宇宙へ上がる為にマスドライバー施設に向かっている最中だ。本来ならば他の人間と同様に、宇宙へ上がる予定だったのだが、グァンによるジャンヌ誘拐の為に、この予定が狂わされた。しかしギアは三日後に合流すると同胞に言っていたのだ。
「そこで……頼みがある。シュネルギアを貸して欲しい。旗艦であるシュネルギアが宇宙に上がれば、同胞は安心する。私が乗っていると思っているからだ。」
FPBの指導者として、彼は絶対に生き延びなければならない上、宇宙で指揮を執る必要がある。同胞を困惑させる訳には行かないと判断したギアの決意だった。今はシュネルギアの艦長であるジャンヌがいない為、彼の代わりに答えたのはアレンだった。
「……分かりました。俺達はジャンヌを助ける為に行動します。ウィリアさん、ノルウェーにジャンヌがいるんですよね?」
「ええ……方角からして間違いないわ。」
ウィリアが小型の機械を見ながら言った。
「感謝する……必ず、ジャンヌ嬢を救出して欲しい……私はその間、先に宇宙へ上がっているよ。エリィさん、私の言った新型艦の場所は兵士に伝えている。その新型艦を使って、ジャンヌ嬢のいる場所まで向かい、救出して、マスドライバーを使って宇宙へ向かい、そこで合流して欲しい。かなり無茶を言うが、出来るかな?」
とにかく、ジャンヌを助け出さない事には全てが始まらない。エリィは少し俯き、緊張した様子で言った。
「……分かりました、絶対にジャンヌさんを救い出します。」
新型艦の艦長に抜擢されたエリィは、ジャンヌを救出する為に行動する。そして、アレンも同様だった。
「では、これから我々は二手に分かれる。宇宙へ向かう者はシュネルギアに残り、ジャンヌ嬢救出へ向かう者は地下にある新造戦艦に向かって欲しい。」
ギアの言うように、この先は二手に分かれる事になる。ギアの場合は宇宙へ向かう為のマスドライバー探しだが、エリィの場合はジャンヌを救う為の作戦であり、その後でマスドライバーを使って宇宙にいるシュネルギアと合流すると言うものだ。全てはグァンによって狂わされた計画。これらを絶対に成功させたいと思うFPBの決意は固かった。
シュネルギアに残る人間は、殆どが元国連の兵士達だった。しかしその中には例外もいた。スバキである。
「FPBで戦う事になった以上はどんな人間が居るとか見ておきたいってのがあるから。ごめん、エリィ。だから私、アインスでシュネルギアを守るよ。例え、国連が攻めてきてもな。」
それはスバキ自身の意志だった。彼女の意志もまた、固いものだったのだ。
「じゃあ、宇宙でまたね……」
エリィは静かに手を振った。エリィだけで無い。セイントバードチームのクルーの殆どがスバキを見送る為に手を振ったのだ。
「……よし、必ず助け出さないとね、ジャンヌさんを!」
残ったクルーは、アステル兵やセイントバードのクルーばかりであった。彼等はエリィの指揮する新型艦に搭乗し、ジャンヌの救出の為に奮闘する。
やがて時間が経ち、シュネルギアは国連の様子を伺いながらマスドライバー施設を目指して発進して行った。その際、“ある”MSを搭載し、移動したのである。
この時、ジンクの指示もあり、艦に搭載されていたツヴァイガンダムはアステル家に預けられた。レイが搭乗しないツヴァイは、機体のみがあっても使用出来ないだけだ。この際、機体のプログラムを書き換える事でバイオメトリクス認証も初期状態に戻る。そうなれば、ツヴァイは誰かが使うことが出来るだろう。切り札とも呼べる機体であるが故に、簡単に解体をするような事はしないのだった。
その後、エリィ達はジンク・アステルに誘導されていた。初めて見る、アステル家の当主であるジンク。その威厳は大きなものであり、堂々とした振る舞いは、エリィを緊張させるのだ。
「ギアからは聞いている。ジャンヌを助け出してくれるのだろう?」
愛娘を誘拐され、落ち着かぬ様子のジンク。ここで頼れるのは新生連邦本部攻略戦で戦った者達だ。
正規軍とは呼べないメンバーではあるが、今までの戦いを生き残ってきた彼等。今、ジンクは彼等に頼るしかないのだ。
「はい、その為にも、建造されているとされる戦艦が必要となりました。」
とエリィが言った後、ジンクは静かに足音を立て、彼等を地下へと案内していく。
地下への階段は長い。その間、多くの兵器の姿が移動する彼等の目に映った。当主であるジンク自らが案内するという事は、最新鋭の戦艦というのは相当厳重な場所に置かれているのだろうと、彼等は思っていた。
やがて地下に降り立ち、ジンクは明かりを付けるように兵士に言った。
バチンッ
爛々と輝く光を受け、誰もが一度視界を遮った。やがて光に慣れてきたと同時に、皆がその方向を見る。
そこに映っていたのは、戦艦の姿だ。幅は推定50メートル、奥行きは300メートル、高さは150メートル程度はあろう、その戦艦。特徴としては両翼に銀色のウイングのような形状をしている、装置が見られている。
「機動戦艦……名は、アルバトスだ。」
「アルバトス……これが私達の新しい戦艦……」
エリィは眼前にある新たなる戦艦の姿に対し、溜息を吐いていた。セイントバードを失った彼女にとっては、このアルバトスが非常に輝いて見えたのである。
「今は時間が惜しい。早速、機体の搬入を行い、そしてジャンヌを救ってくれ。場所も分かっていると、ギアから聞いている。」
ジンクの言うように、今は時間が惜しい。急いで宇宙に上がらなければならない状況で、グァンによる襲撃を受け、ジャンヌが誘拐されたのだ。早く救出し、助けなければならない。その為にも、一刻も早く発進する必要があるのだ。
新たなる母艦、アルバトス。それはセイントバードと大きく形状が異なっている。艦体は銀色に輝いており、ブリッジの下部には巨大な砲門が見える。それは何か強力な砲撃を行う為の物なのだと、エリィは思っていた。
その後すぐにアルバトスへ、搬入作業が始まった。既に存在している機体であるハルッグ、ブライティスを始め、シュネルギアにも搭載された機体が搬入された。
機体名、アステリア。型式番号、ASMS−07。アステル家が開発したMSであり、デウス動乱後になってから閉鎖されていた工場を再開し、その結果作られたMSである。アステル家が制作していたガンダムタイプをベースに作られた少数量産型MSである。擬似ガンダムと呼べる頭部形状をしており、その上で機体各部にスラスターを搭載している。大気圏内でも使用は可能だが、今後の戦場を意識しており、宇宙空間での戦闘の想定をしているMSであり、宇宙においてその真価を発揮する。
このアステリアを八機搭載し、アルバトスの戦力補充は完了したのだ。
アルバトスのブリッジ内にて。それは、セイントバードのものとは比較にならない程に広いと言えた。セイントバードの時はスラッグとインクが操舵士と通信士を務めていたが、今回の場合はFPBという軍隊の所属になる為、多くの人間がこの場所にいる必要があったのだ。
これに対し、エリィは困惑していた。今まではインクとスラッグの二人だけに命令を下していたものだから、これ程多くの人間に対して指示を下していかないといけないと言う事に戸惑いを感じているのだ。
元々セインドバードは新生連邦のヒエラクス級を奪ったものになるが、人員不足を補う為に、独自の方法で改造し、最小限の人間のみでコントロール出来るように改造されていたのだ。それ故にセインドバード単体では的に襲われた時に対応が難しかったが、人員不足でも対処は出来ていた。
だが、今回は違う。この場において入ると考えられるオペレーターの数は十二人。操舵士は一名。操舵士を務めるのはスラッグだろう。だが通信士に関しては、インクだけでない。その数は、合計十二名。それ程の人間を指揮する事等、エリィ自身、今まで経験がないのだ。
(私に出来るの……?こんな大人数に対して指揮なんか……)
不安に陥るエリィ。だがそこへアステル兵達がエリィの元に集まった。
「ジャンヌ様を助け出すまでは、貴方の指示に従います。どうか、ご安心を。」
そう言って兵士達はそれぞれの席に座っていく。その中にはスラッグとインクの姿もあった。
「すげぇ!!何もかも新品じゃねーか!こんな戦艦を操れるの、マジですげえぞ!?」
スラッグは感激していた。何せ今まで操った戦艦は、セイントバードしかない。彼が驚愕するのも、至極当然と言えた。
「操舵はあんたしかいないんだからね!オペレーターは――」
そう言った後で、インクはちらと横を見る。そこにはココットの姿があり、彼女は笑顔で頷いた。それに対してインクも苦笑いで頷き返す。
「へぇ、あんな可愛い子がシュネルギアのオペレーターだなんて……」
「優秀って話だぜ?お前も負けんなよ!」
スラッグが笑いながらインクに言う。インクはスラッグに対して怒る。その光景を見た兵士達は笑っていた。
この時、エリィは妙に安心していた。ブリッジに人数が多いからと言って心配する必要は無い……そう思っていたのだ。普段見慣れた人間が居るという事は、エリィ自身を安心させる効果を持つ。
「エリィさん、アルバトスはいつでも発進できる状態です!」
ココットが言った。そしてインクやスラッグもエリィに対して言う。
「いつもの調子でお願いしますよ、艦長!」
「マニュアルは一通り読んだけど、感覚はセイントバードと似てるな……なんとかなりそうか!よし、お願いします、艦長!」
彼等に言われ、エリィは一度眼を瞑り、すぐに目を開けた。その時のエリィの表情は笑顔だった。
「上部ハッチオープン!」
「各ブロック、異常なし!」
地下と地上の境界線であるハッチが開かれ、アルバトスは地上から見える状態となった。
「……よし……セイントバー……あ、いや……違った……
アルバトス、発進!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
エリィの掛け声とともに、アルバトスが浮上する。やがて地下から地上に出て、そのまま空を飛ぶ。これが、エリィにとって新しい戦艦の最初の出撃となった。目的はジャンヌの救出。彼等は宇宙に出てギアと合流する為にも一刻も早く、彼女を救出する必要があった。
当然国連による追撃もあるだろう。だが彼等はそれに負けていられない。この戦いの向こうある、真の平和を勝ち取る為にも、今はジャンヌを助け出さなければならないのだ。
新生連邦軍の、ホノルル基地から脱出したメイドは、とある小島にデスゲイズを止めて漫画を読んでいた。基地で様々な事があった為、彼の身体は疲れていた。その表情で漫画を読むメイド。
ピピピピピピピ
その時、デスゲイズのモニターに通信が入った。その音に気付いたメイドは通信の回線を開く。そこにいたのは、アルメスだった。
「お久しぶりですメイド様。今私はアポカリプスからそちらに通信を行っています。まず、貴方に注意しておきたい事がありまして、通信させて頂きました。」
アルメスの表情は険しかった。だがメイドはそんな彼の表情を気にすることなく、漫画を読み続ける。
「なんでゲソ?」
「……新生連邦と国連が全面戦争したのをご存じのはずですが。」
「知ってるでゲソ。俺も参加したでゲソ。結構楽しかったでゲソ。」
(何だこの喋り方は……)
メイドの奇妙な喋り方に苛立ちを隠せないアルメス。しかし、彼は一度咳払いをして再び喋り始めた。
「メイド様。少しは行動を自重していただきたいのです。貴方の今の目的は世界中のマスドライバーの破壊の筈ですが……」
アルメスは、〝マスドライバー〟という部分だけ弱々しく言った。
「んなもんいつでも出来るじゃなイカ。俺はやりたいようにやるんでゲソ。んなことでいちいち通信してくるなでゲソ。……あれ、なんでお前俺の行動知ってるんでゲソ?」
そう言って彼は漫画を読むのをやめ、モニターに映っているアルメスを見た。
「以前にお伝えしましたよ。位置情報を共有させて頂いてます……とね。」
デスゲイズを授かる際、アルメスが言った言葉を、メイドは思い出していたのだ。
「あー、そう言えば。」
「貴方の身勝手な行動の結果、貴方は新生連邦に捉えられましたね。それによってデスゲイズの機体データも恐らく新生連邦に伝わった可能性があります。これがどういうことかお分かりですか。」
「こいつを基に糞連邦が新しいMSが作られるかも知れないってことでゲソね。」
その言葉に対し、アルメスは冷静に、且つ、どこか怒りを見せている様子で言った。
「それによって我が軍が不利になることも有り得るのです。貴方自身も下手をすれば殺されたかも知れないのですよ。確かに貴方は傭兵ですが、余りにも勝手が過ぎます。少しでも良い、自重して下さい。」
元々、メイドに依頼をしたのはアルメスだ。だが、メイドのあまりに身勝手極まりない行動に黙っていられないと判断したアルメスはメイドに対して注意した。しかし、メイドはそれに対して
「あー、そりゃ確かにまずいかもでゲソ。けど俺は最初に言ったでゲソ。〝寄り道するかもしれねぇ〟って。今まさにそれ。あ、それかお前あれでゲソ?まさかわざわざ通信したのは注意する為とか言って、実はマスドライバーが壊されるのが惜しくなったから止めろって俺に抜かしてるでゲソ?それだったらお前を今から殺しに行こうじゃなイカ。」
メイドの奇妙な喋り方と、身勝手すぎる行動に内心、戸惑うアルメス。この時、彼はメイドに対して怒るどころか呆れてしまっていた。ここまで自分勝手な男は見た事が無い……彼はそう感じていたのである。
「それに仮に糞連邦がデスゲイズみたいなMSを出したところで俺の技量に勝る奴がいるとは思えないでゲソ。だからお前は心配しないで黙らなイカ?」
余りに勝手な行動をするメイド。この様子を見て、怒りを感じたのか、アルメスは再び口を開く。
「……もし、これ以上身勝手な行動を行われるのでしたら、報酬金を減らさせて頂きますので、そのつもりで。」
ここで出た言葉はメイドの表情を豹変させることになる。
「てめぇ、何抜かしてやがるでゲソ!?」
報酬金を減らされると言う言葉を聞き、メイドの眼が見開かれた。それと同時に彼はコクピット内を思い切り殴り、怒りを露にする。
「正直、貴方の勝手な行動は我々にとって迷惑でしかないのです。出来れば目的を早く達成し、こちらも報酬金を用意して貴方がそれを受け取る……その形が一番理想なのです。ですが貴方は寄り道ばかりして目的を果たそうとしません。貴方は今、仮とはいえデウス帝国の所属です。勝手な真似ばかりされては困るんですよ。傭兵も軍の一部です。それをお忘れなく。まあ、貴方が自由行動をして報酬額を減らして、それで貴方が満足ならばそれでも良いとは思いますが。」
メイドは握り拳を作り、歯を食い縛った。明らかに悔しそうな表情を浮かべているが、怒り切れずにいる。アルメスの意見も最もだと判断したからだ。
「てめえらの都合で報酬金減らされて満足するめイカ!!!チッ……分かったでゲソ。仕事すればいいんでゲソね。ったく、自由行動もこれでおしまいかでゲソ。これだから規制は嫌いでゲソ。」
メイドは何度も舌打ちし、アルメスに敵意を見せる。しかしアルメスは彼の表情を見ても一切表情を変化させる事は無かった。
「我々としても、出来るだけ早くお願いしたいと思っています。今、続々と新生連邦や国連の部隊が宇宙へ上がって来ているのです。まだ少数ですが、その数が増えられては厄介ですからね。」
マスドライバーの破壊をさせることに今でも躊躇っている様子のアルメスに対し、メイドは言った。
「てめえはそうやって躊躇ってるくせに俺の自由行動は規制するんでゲソね。そうそう、規制で思いだしたゲソ。お前、知ってるでゲソ?昔、漫画とかアニメの技術が優れていた国があったでゲソ。それによって楽しめてた国だったでゲソが……ある時、その国のアホが、〝漫画やアニメは、表現次第では健全な青少年の育成に問題が生じる〟とか抜かして、これらを規制しまくったそうでゲソ。その結果、最終的にその国の文明がどんどんと廃れ、青少年が健全に育つどころか治安は悪化、無法地帯が増えて滅茶苦茶な事になったそうでゲソ。つまり、何も理解できてないクズが適当に規制とか抜かすと、後でろくでもないことになるってことでゲソ。てめーも迂闊な事は抜かさない方が良いってことでゲソ。」
自由行動を規制される事がそれ程に不満なのか、メイドは語った。それを呆れた様子で聞くアルメス。
「……とにかく、貴方の情報は我々に送られてくると言う事です。貴方が奇妙な行動を起こせば、報酬額は減ると言う事をお忘れなく。」
「結局何言っても無駄ってことでゲソか。てめぇは面倒臭いでゲソね。ファックでゲソ!」
「失礼します。」
そう言ってアルメスは通信を切った。これ以上メイドに付き合い切れないと判断した為である。アルメスと話す時のメイドは常に奇妙な語尾を付け、まるで馬鹿にしているような口調をしていた。そんな彼に嫌気が差したのだろうか、アルメスは通信を切る際に溜息を吐いていた。
「クソタレ!ん?まてよ……あいつ、まさかこいつに発信機を仕込んでるんじゃなイカ!?だとしたら……クソ、プライベートもクソもないってことでゲソ……あ、イカん、口癖になってしもーてるやん……で……ゲソ……」
苛立つ様子を見せるメイド。仕方なしに、彼はデスゲイズを起動させる為にレバーを引く。それにより、デスゲイズのモノアイは妖しく輝き、そして起動した。空中に浮いた後、すぐにMAに変形し、その場から去っていく。
「チッしゃーねぇ、そろそろ本気出そうじゃなイカ!!!」
相変わらず奇妙な言葉を喋りながらメイドはその場を後にする。彼は、これからマスドライバーを本格的に破壊して行くつもりだ。それはつまり、これから宇宙へ上がろうとするFPBにとって、脅威が増えるという事であった。
ギアを乗せたシュネルギアは、ユーラシア北部にある都市である、ノリリスクへ向かっていた。シュネルギアはアルバトスよりも先に宇宙に上がり、先に宇宙に上がった同士と合流する必要があった為、彼等はマスドライバーを探していた。
先発隊の情報によると、ノリリスクにマスドライバーが残っているという。その情報を宛にし、シュネルギアはその地に向かっていたのであった。
艦内の居住ブロックにて。自ら志願してシュネルギアに乗ったとはいえ、スバキは少し寂しそうな表情を浮かべていた。何せ周りは年上の兵士達ばかりで、自分だけが十五歳と言う、余りにも若い少女だった為である。彼女は与えられた部屋で、ベッドの上で横たわっているしか出来なかった。
(やっぱり、皆と居た方が良かったかな……)
少し弱気になるスバキ。後悔が彼女を襲っていた。
ウィィィィィィィン
その時、ドアが開く音がスバキの耳に聞こえた。スバキは急いで部屋の入口のドアの前に向かい、ドアを開ける。そこにいたのは、一人の若い男だった。
「よっ。君でしょ?アインスガンダムのパイロットの女の子。」
「……お前は?」
「俺は元国連のパイロット、名前はファージ・ネイヴァン。以後、宜しくな!」
男の名前はファージと言った。現在はFPBのMSパイロットを務めているこの男は、どこか浮ついている印象を持つ、男だった。その印象に対して不快感を抱いた為か、スバキはこの男をあまり快く思っていなかった。
「十五歳でMSに乗って戦うなんて凄いよねぇ。それに、ここに入ったのも自分の意志なんだろ?そりゃ大したもんだよね。」
「何だよお前。人の部屋に勝手に入ってくんな。」
警戒する様子のスバキ。だが、男はそれでも会話を止めない。
「そういや君、名前はなんてーの?」
余りに馴れ馴れしい様子のこの男に対し、スバキは苛立ちを覚え始めた。
「スバキ・シンドウだ!大体、なんでお前そんなに馴れ馴れしいんだよ!むかつく!」
そう言ってギロリとファージを睨むスバキ。しかしファージはそんな彼女の動作を馬鹿にするように言った。
「馴れ馴れしいって言うかー、あの時助けたの、俺なんだけどなぁー。」
「え……!?」
何を言っているのか?何の話をファージはしているのか。
「モハーヴェ砂漠で君がやられそうになったトコロを、俺のハイエッジが助けたろ。」
ここで明らかになる事実。それは、先の新生連邦本部攻略戦に於いて、ファージが彼女を助けた人間の正体だったのだ。
「あれ、俺の独断。国連の上の奴ら、あそこにヴァントを含めたガンダムタイプだけを残せって指示があってさ。けど放って置ける訳ないから、俺が君を助けたってワケ。」
「何だと……!?」
明らかになる事実に、スバキは困惑した。あの時の戦闘は、補給も無かった。まるで囮になって死ねと言わんばかりの違和感を覚えていたのは間違いないが、それは事実だった。
その事に、彼女はショックを受ける。そして、改めてFPBに加入した事は間違いではなかったと思うのだった。
「やっぱり、国連って……!」
事実を聞き、怒るスバキ。当然の反応と言えるだろう。
「だから、俺も抜けてFPBに居る。ギルス・パリシムの所で働くのはもうウンザリってワケ。あんな腐ってる所にいるのはゴメンだね。」
ファージの話は、理解は出来る。それによって、事実も知れた。それは良い。
「……色々とどうも。けど、私は馴れ馴れしいのは嫌いだ。」
一応の感謝を述べるスバキ。しかし、ファージに対する警戒は止めないままだ。やはり、彼の馴れ馴れしい態度が気に食わない様子なのかも知れない。
「おいおい、助けたのにそんな態度はよくないぜ?馴れ馴れしいも何も、君にそんな事言う権利、あるぅ?」
「ッ!」
確かに、助けられた。それは良い事だ。しかし余りに横柄な態度を取っているような印象を覚えたファージに対し、スバキは自らの拳を作り、顔面に向けて殴ろうとした――
ガシッ
しかしファージは彼女の手を片手で掴み、彼女の身動きを取れなくした。
「おぅ、怖い。なんだよ、女の子が暴力は感心しないなー。」
そう言ってファージはスバキの手を離す。その瞬間、まるで躊躇なく、ファージは奥に入っていき、スバキの部屋にあったベッドに、堂々と腰掛ける。明らかに、手慣れだ。
「な……お前、何勝手に椅子に座ってんだよ!」
「何言ってんの。仲間から離れて寂しいクセに。そりゃ独りぼっちじゃ寂しいもんな。」
見透かしたような台詞を吐くファージ。
「べ……別に寂しくない……」
と、拒否する発言をするスバキではあるが、彼の言っている事は図星だ。自分で決めた事とはいえ、知り合いも一人もいないこの環境で過ごすのは正直彼女にとっては辛いものがあったのだ。そして、恐らく寂しいだろうと考えたファージは彼女に気軽に話しかけて来たという訳である。
「まあ、せっかくこうして同じ所属になったんだ。仲良くしようぜ?」
と、改めて握手を求めてくるファージ。彼女の事を、明らかに恐れていない。
「嫌だ。お前、なんか胡散臭い。助けてくれたのは感謝しているよ。けど、それを理由に馴れ馴れしくされる覚えはない。そんな男は、嫌いだ……。」
この時、スバキはマサアキ・アルトの事を思い出していた。
シンギュラルタイプであるスバキを利用し、金銭による融資と引き換えに彼女を束縛した男。母親を我が物にし、彼女に絶望を与えた男、マサアキ。そして、最期はレイに倒された、男。
目の前に居るファージは、彼女を助けた事を理由に接してきている。それが、まるで何か腹に一物を抱えているように見えてしまったのだ。故に、彼の振る舞いは、マサアキを思い出させる。それが堪らなく、不快に感じられるのだ。
「え?俺、胡散臭く見えんの?まあ無理ないか。まー、実際プライベートじゃナンパしまくってるし。最初にいきなり声を掛けるってのは確かに胡散臭いかもなぁ。でも、成功確率は八割越え!今じゃプライベートで八人の恋人がいるんだよ。バリエーション豊かな可愛い子達が俺の恋人達って訳。ああ、でも別にお嬢ちゃんをここで襲う気は一切ないよ。俺は下心無しで君と接した――」
笑いながら自分の女好きを語るファージ。しかし先程のスバキの台詞の直後だったため、余りにタイミングが悪過ぎた。
「うっさい!出て行けよ!女をたぶらかす、軽い男も大嫌いだぁ!」
そう言ってスバキは側にあったプラスチックのコップをファージの顔面に目がけて投げた。それに気付いたファージはすぐに避け、若干慌てた様子で言う。
「いや、そんなに怒らなくても……俺はただ君が寂しそうだったから、喋ろうとしてるだけなのに……」
突然怒る様子を見せられて困惑しているファージ。が、スバキは変わらず、怒りを見せている。
「それが余計なんだよ!別に寂しくもないし!とっとと出て行け!このバカ!」
ファージに対し、何故か異様に向きになるスバキ。ここまで怒られては流石に引かざるを得ないと判断したファージはすぐにその場から去った。
ファージが部屋から出て言った後、スバキはベッドの上で再び横たわった。
「女をたぶらかす男なんて論外だ!最低だ……本当、最低……」
ファージが去った後、何故かスバキはどこか寂しげな表情を浮かべていた。ファージのような、浮ついている男を毛嫌いする理由は、彼女自身の感情に寄るものだろう。
(何だよ……訳が分からないし……少し……怒り過ぎた気はするけど……)
突然部屋に入って来てはスバキと会話をしようとするファージが彼女は気に食わなかった。だが、彼女は少し反省していた。いくらなんでも怒り過ぎたと。
結局彼女はそのままぼうっとしているだけだった。本当はあの男が構ってくれた事が自分に嬉しかったのかも知れない。
だが彼女は男を冷たくあしらった。その真相は、彼女自身も分からなかったのである。
シュネルギアのブリッジではギアは艦長席に座っていた。だがあくまでもシュネルギアを指揮しているのは元国連の士官である。FPBの代表ということで、士官はギアを艦長席に座らせていたのだ。
(一時間前に入った情報ではノリリスクにマスドライバー施設がまだ存在しているという情報があった。早くしなければ……)
そう思うギアだったが、落ち着かない様子で艦長席に座り、ブリッジ内を見回していた。その時、士官がギアに対して言った。
「代表、間もなくノリリスクです。」
「了解。艦長、出来るだけ急ぐようにして欲しい。国連も我々を追っているだろうからね。」
ノリリスク。そこは、旧世紀ではニッケルの生産が盛んであった都市であった場所である。しかし閉鎖都市となり、都市へ入るには許可が必要になってしまった場所でもある。
現在はそんなものはなく、新生連邦軍の施設がある都市となってしまっている。最も、敗北してしまった新生連邦は大半が宇宙へ行ってしまった為、現在では国連のものとなってしまっているが。
かつて新生連邦軍がここに存在していたマスドライバーを利用して宇宙へ上がっていた。そして、今まさにギア達はここのマスドライバーを利用して宇宙へ上がろうとしていたのである。
(とりあえずは宇宙に上がれるか……しかし、一体誰が人類の宝とも呼べるマスドライバーを……?)
ノリリスクを目前にして疑問を抱くギア。何故マスドライバーを破壊する者が居ると言うのか。国連の仕業だとしても、このマスドライバーがなければ国連自体が宇宙に上がる事が出来ずに終わるだけである。尚、それは新生連邦も同様である。
やがて彼等がノリリスクに辿り着いた時だった。そこで彼等は、情報とはかけ離れた光景を目にしたのであった。
「な……!?」
「これは……」
「一時間前……一時間前にはまだマスドライバーは存在しているという情報があった!それが……一時間後にこの有り様なんて……」
シュネルギアのブリッジ内は騒然としていた。何せ、彼等の見た光景は情報と大きく異なっている光景だったのだから、無理もなかった。
ギア達は、眼前にある焼けたノリリスクを見てしまったのである。焼き尽くされ、獄炎が燃え盛る町にかつての面影はどこにもない。当然マスドライバーも破壊されており、これにより、宇宙への道が途絶えてしまったのだ。
「一時間の間に何があった……何故このような事が……」
呆然と焼けた都市を見るギア。だがその時、オペレーターが言った。
「前方に熱源を確認!MSクラスのものです!」
「熱源……?」
ギアはオペレーターの言葉に反応した。そして、更にオペレーターは言う。
「数は一……!?」
「一機だと!?」
ブリッジ内は騒然とした。一機のMSがその場にいたという事に。まさか、このMSが都市を焼き尽くしたというのか……焦りを隠せないギアとクルー達。しかし、たまたま居合わせただけという可能性も否定できない。ギアは士官はオペレーターにモニターを拡大するように命じた。クルーは士官の言う通りに行動し、モニターが拡大される。
そこに映っていたもの……それは、漆黒のMSが一機。悪魔を思わせるウイングが見えており、両腕部を水平に伸ばし、長い線のようなものを展開している。右腕部には三本、左腕部には二本の線が見えた。そして頭部のある部分は、妖しげに、赤いモノアイがまるでシュネルギアを睨むように輝いていた。
やがてそのシルエットは線の様なものを前腕部に収納し始めた。全ての線がこのMSの前腕部に収納されていく。まるで、一仕事を終えたかのように。
「あのMSは……」
「前の戦いで姿を見せ、破壊の限りを尽くしたMSだ……!」
「まさか、あいつがマスドライバーを破壊したってのか!?たった一機で……!?」
クルーはそのMSを見て恐怖を感じていた。モニターに映っている漆黒のそのMSこそ、メイド・ヘヴンの乗る、凶悪なMSであるデスゲイズだったからである。
「たった一機……たった一機でノリリスクの都市を、そして、マスドライバーを……全てを破壊したのか!?」
クルーの会話を聞いていたギアは立ち上がり、オペレーターに尋ねる。
「代表、お言葉ですが、あのMSなら可能ですよ。パイロットも、相当な危険人物らしいですからね。」
「こんな……こんな事が……」
眼前に存在する漆黒のMSの事をギアは知らない。だが先の戦いで破壊の限りを尽くしたという情報は若干入っていた。まさかこのような場所でその機体と鉢合わせになるとは思ってもみなかったのだ。
「引き返すしかないのか……ここは……」
「あの機体と交戦するのは非常に危険です。別の場所を探す方が賢明かと思われます。どうされますか、代表。」
デスゲイズの強さを理解している士官はギアに引き返す事を勧める。ギアはそれに対し、静かに頷き、引き返す判断を下した、その時。
「艦長!あの機体から通信が入って来ています!」
「何……!?受信しろ……」
デスゲイズからの通信にクルーは騒然とする。慎重な様子でオペレーターは通信回線を開いた時――
「ハハー!ジャンヌ・アステルゥ!てめーら何でここにいんだ……え?……なんか違う……おっさんが……え、どういうことなの?」
デスゲイズのパイロットであるメイドはシュネルギアの存在を確認した時、中にジャンヌがいると思って通信回線を開いたのだ。だがそこにいたギアの存在に、目が見開かれた。
(この人間が……マスドライバーを破壊した機体のパイロットか……)
ギアは汗を流し、唾を飲んだ。先の戦闘でも圧倒的な強さを見せ、都市ごとマスドライバーを破壊したこのMSを前に慎重な姿勢を見せる。
「つーか……よく見たらギア・ジェッパーもいるじゃねーか。なんか国連に対して喧嘩売ったそうじゃねぇの!その代表様がなんで、ジャンヌ・アステルの戦艦に乗ってんだよォ?」
乱雑なメイドの質問に対し、士官が口を開けようとするが、それよりも先にギアが口を開けた。
「我々は宇宙へ上がる為にマスドライバーを探している。宇宙で待っている同胞に会う為だ。私もそちらに一つ聞きたい事がある。」
メイドはニヤリと笑った後で言った。
「なんだァ?」
「……何故、マスドライバーを破壊したのか。貴方なのだろう、マスドライバーを破壊したのは……」
相手は危険な存在である。それは分かっていた。だが、相手から通信を開いてきたのならば、せめて得られる情報だけでも得たいと判断したギアはメイドに聞いた。
すると、メイドは見下したような表情をギア達に見せた。
「正解その通り!あの逆アーチを破壊したの、それはまぎれもなくヤツ……じゃない、俺さ!」
隠す様子もなく、堂々とマスドライバー破壊を宣言したメイド。この時、ギアに怒りが込み上げてくるのだが、下手に刺激をすれば敵がどのような行動に及ぶか分からない。従って、彼は慎重な姿勢を崩さなかった。
「何故破壊をしたのか、答えてもらいたい……」
それを聞き、再びメイドはギア達を見下した表情をした。
「だってよォ、金が欲しかったんだもん!金がよォ!!!」
「金!?どういう事だ!?」
メイドの〝金〟という言葉が気になり、ギアは聞いた。だがメイドはそれに対して答える様子は無い。
「んなもん教えるかよボケが!こっちもいろいろ大変なんだよ!死活問題!だから金稼いでる訳!まあ、死活って言う程でもねーけど!」
その時、ギアは考えた。もしかすれば、世界中のマスドライバーが次々と破壊されているのはこの男のせいではないのだろうか……と。彼は握り拳を一度作り、静かにそれを広げて再びメイドに尋ねた。
「今、世界中でマスドライバーが破壊されている情報が入って来ている。この件について、何か心当たりはあるか……教えて欲しい。」
ギアは唾を飲んだ。そしてメイドの答えを待つ。
「お……見事!」
「……という事は……」
「そう!ほとんど俺!俺の仕業!マスドライバーを破壊する事で喜ぶ奴がいるからそれに協力してるだけ!誰かは言えない!ただそれだけなんだよォ!イェアアアアアア!!!」
一人、はしゃぐメイド。それとは裏腹、ギアはメイドに対して怒りを露にした。
「ふざけている……何故だ……どうして……平気でそんな行為が出来る……?あれは人類の宝なのだぞ?宇宙へ行く事が出来るようになったのはマスドライバーの存在の恩恵があったこそなんだ……それを何故平気で破壊できる?何とも思わないのか……?」
ギアの台詞はアルメスの台詞と似ていた。それが機に食わなかったメイドは不満げな様子で言った。
「てめーもあいつと同じ眷属みてぇな事を言うのなァ!何が人類の宝だよ!そーいうのな、うぜぇんだよ!!!勝手にどっかのアホが抜かして、それが独り歩きしてさ、勝手に人類の宝とか抜かしてやがんの!言っといてやるよ眼鏡代表!人間如きが作ったモンになァ、宝も糞もねーんだよ!!!」
グォンッ
その時、メイドはデスゲイズの左右の手部マニピュレーターを組ませ、その状態から両前腕部に備え付けられている、二連装ビームキャノンをシュネルギアに向けて発射させた。急激な攻撃に対し、士官が命令を下す。しかし攻撃が余りに急過ぎる為、間に合う筈がなかった。
「回避運動!」
「ダメです!間に合いません!」
攻撃は受けてしまったが、ブリッジには当たらなかった。艦内は激しく揺れ、クルー達は皆困惑した。
「ぐぅ……ぅ……逆上させてしまったか……」
「代表の責任ではありませんよ。やはりあの男、どうかしている……しかし敵は非常に危険です。今まで数多くのMS、艦をあの機体のみで撃墜していますからね……まさに、ワンマンアーミーと言ったところでしょうか……そんな相手に、まともな機体がない今の我々が勝てるとは思えません。引き返す事が賢明です……MS部隊を展開し、艦を守らせましょう。」
「何もしないよりはマシではあるね……無駄な犠牲は出したくない。あくまでもあの機体を引き付けるようにパイロット達に言って欲しい。」
「了解です。」
そして士官は艦内に警報を鳴らすようにクルーに命令した。これにより、数分後にMS部隊が展開されてシュネルギアの護衛が行われる。それによってこの辺りからの脱出を考えたのだ。それまでの間はシュネルギアに搭載されている武装でメイドを相手にしなければならなかった。
シュネルギアはMSが発進するまでの数分間、艦に搭載されている様々な武装で応戦する。だがこれらの攻撃を、尽くデスゲイズは回避する。
「ハハー!当たんねぇなァ!せっかくだからこのまま沈めちまうのもアリやけど、まぁ~焦らすか!イェア!ファック!」
次の瞬間、デスゲイズはMAに変形した。だがその状態になってもメイドはデスゲイズの主武装である有線式ビームサーベルを展開しない。それを展開しては簡単に沈めてしまうと判断したメイドはまるで遊ぶように、ガトリングをシュネルギアに向けて放った。先程のビームキャノン程の威力が無い為、艦全体のダメージは、大したものではなかった。
「遊んでいるのか……?」
「分かりません、引き続き攻撃を加えます。」
「油断はするな、奴は何をしてくるか分からないからな。」
士官は懸命に指揮を執る。その側で、ギアは必死に考えていた。
(ここを仮に逃げたとして……どこへ行けばいい?情報を待つしかないのは正直厳しい。恐らくシュネルギアは大ダメージを負う可能性が高い……その状態で万が一国連に襲われたら……クッ、これは急がなければならない……)
焦りを見せるギア。早く宇宙にいる同胞と合流する為にもシュネルギアは生き残らなくてはならない。その為には、ここで無駄な犠牲者やダメージを負ってはいられないのである。
しかし相手は凶悪なMSに乗っているメイド。無事で済むとは思えない。ギアはそれを覚悟しなければならなかった。
シュネルギアが戦っている時、艦内では警報が鳴っていた。パイロット達には出撃命令が下っており、スバキも他のパイロット達のように急いでMSデッキへ向かう。
「スバキだっけ?お嬢ちゃん、あのガンダムに乗ってるんだろ?改めて実力、見せてもらおうじゃないの。」
スバキが急いでいる時、その側でファージが笑顔で話し掛けて来た。しかしそれに対してスバキは苛立った様子で言った。
「うるさい!黙ってろバカ!」
「非常時ぐらい、心を開いてくれよな、全く……」
「お前なんかに心なんか開くか!このチャラ男!」
相変わらず、スバキはファージを警戒している様子だ。故に、言葉が強くなる。苛立ちさえ覚える。
その証拠に、スバキはファージよりも早く走り、一目散にMSデッキへ向かっていたのである。
(チャラ男……ねぇ。ホントに嫌だったら無視する癖に、ちゃんと対応してくれる辺りが可愛らしいじゃないの。)
ファージは別に傷ついている様子では無かった。寧ろ、乱雑とはいえ対応してくれたスバキに対して嬉しく思っていたのである。
「あー、俺は予備のパイロットとしているから、絶対に、死ぬなよ。」
と、ファージが見送った時――
「死ぬかよ!」
と、まるで投げ捨てるように言った。
数分後、シュネルギアの甲板からMS数機が発進された。ヴァントガンダムが数機と、アインスガンダムが一機。合計、五機が出撃したのだ。
だが、アインスの別の装備はセインドバード墜落と共に消えてしまっており、今のアインスは普段の姿で戦わなければならない状態だったのだ。
幸い、シュネルギア内には予備のゾーリドが備わってはいたが、旧式のものであり、戦闘の役に立つとは思えないのだ。
キシィン
アインスはカメラアイを輝かせ、敵の居る場所へ向かう。その際、通信がシュネルギアから入ってきた。
「今回はこの場からの離脱の為の迎撃を行って欲しい。敵は一機だが、敵MSは下手をすればこちらの部隊が全滅させられる可能性もある強敵だ。シュネルギア内で、大気圏内で使えるMSはその五機のみだ。決して無理をするな。」
士官からの通信だった。スバキはすぐに敵MSの姿を確認する。
「あれは――」
見覚えがあった。以前にセイントバードに単機で襲って来て、レイに重傷を負わせた漆黒のMS……彼女はそれを見た瞬間、レイがそのMSの攻撃によって串刺しにされたシーンが彼女の中で蘇った。
(危険だ……倒さなきゃ……あいつは、絶対に!)
レイとセイントバードチームを一時的にとはいえ、分かれさせた元凶が今回の敵。そして、彼女は直接見ている訳ではないが、セイントバードを撃墜した諸悪の根源。その存在が、目の前にいる。
スバキにとっては、敵がいくら強かろうが関係が無かった。彼女はデスゲイズを破壊する気でいたのである。
「奴のビームサーベルに気を付けて各機は分散しろ!シュネルギアをやらせてはいけない!」
ヴァントガンダム隊の、隊長らしき人物から通信が入った。しかしスバキはそれを無視し、デスゲイズに攻撃を仕掛けていく。
「この野郎ォ!!」
バシュウウウ、バシュウウウ
ビームライフルを連射するアインス。しかしデスゲイズは機体全体をバリアーフィールドジェネレーターで覆われている為、ビーム兵器は一切通用しない。
「ほふぅ、ザコモビガンダム擬きの中に一機だけまともな奴がいるじゃねーか……およ?あれ、見たことあんぞ?」
迫って来るアインスに対し、モノアイを輝かせてデスゲイズが攻撃に出た。早速有線式ビームサーベルを展開し、アインスに襲い掛かる。
その時、スバキの頭の中で電流が流れた。これらの線を間一髪で避け、アインスはビームサーベルを展開して線を切り裂こうとする。
「線を切られたらいろいろ面倒なんだよォ!実際一回切られてるし……お?」
その時、デスゲイズは四方八方からヴァントガンダムの脚部ミサイルによる集中砲火を浴びようとしていた。スバキが交戦している間に他のヴァントガンダムのパイロット達がミサイルを浴びせようとしていたのである。無数のミサイルがデスゲイズに迫る。もしこれらが直撃すればデスゲイズに大きな傷を残す事が出来る。
「いぇあっはっはっはっはっは!!!」
ギュルルルルル
その時、有線式ビームサーベルが再び展開され、デスゲイズは周囲のミサイルをこれで全て切り落とした。一斉にミサイルは爆発し、FPBの兵士達は唖然としていた。
「馬鹿な……!?」
「や、奴は化物か!」
兵士達の声はメイドに聞こえていた。それを聞いたメイドはニヤリと奇妙な笑みを浮かべている。
「じょ、冗談じゃねぇ!こんな奴に勝てるか!勝てる訳がねえ……!」
一人の兵士がそう言った直後、その場から逃げ出した。デスゲイズのあまりの強さに臆してしまったのである。敵前逃亡をしてしまったその兵士。しかしそれをメイドが見逃すはずが無かった。
「そう言う行動をなァ!!!死亡フラグっつーんだよボケナスゥゥゥ!!!」
ギュルルルルル
逃げるヴァントガンダムに対し、有線式ビームサーベルで襲わせるデスゲイズ。それは瞬く間にヴァントのコクピットを貫き、破壊された。
「どんどんフラグを立ててってくれや雑魚共!!そしたら俺が期待を裏切らねーように展開を広げてやっから安心して死ね!イェアアアアアアアアアアアアッ!!!」
上機嫌なメイドに対し、スバキは怒りを露にしていた。彼女の場合、敵の強さよりも敵の性格の悪さが気に食わなかった様子である。
「このやろおおおおおお!!!」
再びアインスはビームサーベルを展開し、デスゲイズに迫ろうとする。
「勇気ある行動じゃねーか前に見た糞アマガキ!けどなァ、昔から言われてるけどなァ、勇気と無謀は紙一重なんだよォ!」
ビゴォン
次の瞬間、デスゲイズのモノアイが輝いた。それと同時に有線式ビームサーベル五基が全てアインスに向けられる。
「逃げろ!!!」
「死ぬぞ!!!」
ヴァントのパイロット達が皆スバキに対して言う。五本のビームサーベルをまともに食らえば死ぬのは分かっていた。しかし、それでもスバキはこれらの攻撃を避けつつデスゲイズに向かう。
「お前を倒さなきゃ皆が困るんだよ!私が倒してやる!どんな手段を使ってでも!」
レイが眼前でデスゲイズに倒される光景を見て、本能的にデスゲイズが危険な存在であると認知しているスバキ。それ故に、彼女はこの機体を倒さなければ危険であると思い込んでしまっていた。彼女は今、感情が高まってしまっている状態である。勝ち目のない戦いであるのは分かっていた。だがスバキは止まらない。
「やあああああああっ!!!」
アインスはデスゲイズを破壊する為に特攻する。それに対し、デスゲイズは五基の有線式ビームサーベルを、まるで自らの使い魔を送り込まんとせんと、アインスに仕向けた。
触手の如くうねるそれらの攻撃に集中する。迫る有線は展開し、ビーム刃を繰り広げる。この時、スバキはその攻撃に集中した。ビーム刃全体に視野を向け、どう、迫るのか?どう、来るのか?彼女の前頭葉が活性化される。もし集中力を失えば、それは死を意味する。
やがてアインスは行動を開始。いずれの攻撃を回避していくのだ。スバキの中にあるシンギュラルタイプの力が、これらの攻撃の回避へと導いたのだろう。全てのビームサーベルによる攻撃を回避し、デスゲイズに接近したのである。
メイドのコクピットには、ビームサーベルを構えたアインスの姿が間近で映っていた。だがそれでも彼は余裕の笑みを見せた。
「てめぇみたいなアマガキがどんな手段を使ってでも俺を倒す?ハッ!良い事教えてやんよ!奇跡も、魔法も、ねぇんだよ!!死ねボケ!」
その時、デスゲイズの肩部からミサイルが展開された。至近距離だった為、回避する手段がなかったアインスは、急いでシールドを構えてミサイルによる攻撃を防ごうとする。
しかし、それがメイドの思う壷だった。
「だから言ったろうがァ!奇跡も、魔法も、ねぇんだってな。」
「はっ――!?」
「もろたァ!!!」
シールドを構え、ミサイルによる攻撃を受けている時に彼女は気付いた。自分自身が大きな隙を作っているという事を。
五本のビーム刃はアインスの方向に向けて一斉に攻撃を開始した。このままでは彼女は串刺しにされてしまう。
(しまっ――)
絶望的な状況で彼女は目を瞑った。殺されるのを覚悟して――
ズバァァッ
スバキは静かに、目を開ける。そこはアインスのコクピット内だった。自分が生きている事に驚くスバキ。一体、何があったのか……?モニターをすぐに確認する。
彼女の目には、デスゲイズの有線式ビームサーベルがコクピットに刺さる寸前の場所で止まっている様子が確認出来た。それだけでは何が起きたのかが把握できない。
しかし次の瞬間、メイドの声がコクピットに伝わってきた。
「くっそ〜、新型のザコモビか?なかなか勇気ある行動をしやがるぜぇ〜!」
デスゲイズはモノアイを輝かせ、見下すように下方を見た。その目線の先には一機の新型MSである、アステリアの姿があった。
アステル家の最新鋭のMS、アステリア。大気圏内での戦いには不適な機体ではあるが、今は緊急時。手段を選んで居られない状況なのだ。スラスター各部を展開し、大気圏内でありながらもそれらを駆使してデスゲイズに接近し、ビームセイバーを展開した。
この攻撃が幸いし、デスゲイズの脚部をビーム刃で切り裂いていたのだ。メイドはアインスへの攻撃に集中した為に、脚部に隙が生まれ、そこを一機のアステリアが、果敢にもデスゲイズに攻撃を加えたのである。
しかし脚部を破壊した所でデスゲイズには何の支障も出ない。意味が無いのだ。
「クソ!やばいと思ったから臨時で出撃したけど使いにくい!」
と、コクピット内で言うのはファージだ。彼が、アステリアを操っていたのである。
「お前!?」
本来ならば宇宙用のMSを大気圏内で操るのは無理がある。僅かな稼働時間しか与えられていない状況で、ファージはスバキを救う為に動いたのだ。
「随分と動きがウスノロじゃねぇかそいつァよォ!」
アインスの危機に対して残された機体を駆使して戦うファージだが、アステリアは稼働させ辛い。大気圏ではその性能を十分に発揮出来ないのだ。
「クソッ!」
そう言って、ファージはアステリアの武装である、ロングレンジビームライフルを放つ。
「馬鹿!そいつにビームは効かないんだぞ!?」
と、警告するスバキ。しかし――
バイイイイイイイン
案の定、ビームは弾かれる。機体全体に張り巡らされたバリアーフィールドがそうさせるのだ。
この直後、デスゲイズは有線式ビームサーベルを展開した。それを見たファージは回避運動を行うが、ビームサーベルは非常に素早い動きで襲い掛かる。
「無駄な事やって楽しいかー!?オラァ!」
それに対し、すぐにアステリアで反応するファージ。各部に搭載されているスラスターを駆使し、この容赦のない攻撃を切り抜けようとする。
「少しでも気を抜いたらお陀仏だ……クソッ!なんなんだよあの線はッ!?」
ファージは焦りを感じている。当然だ。新型機とはいえ、それが環境として適応している訳ではない。故に、十分なコントロールが行えていない。
「愚かなコトだぁ!なんか知らんけど、雑魚が俺に関わると、命を無くすぞぅ!」
調子に乗るメイド。だが、この言葉もFPBのメンバーは聞いていない。
「全機撤退しろ!俺が引き付ける!」
あろう事か、この時、ファージがこの状況を指揮し始めたのである。予想外の事に、驚愕するパイロット達。
「ネイヴァン中尉か!?何故それに乗っている!?それを大気圏内で扱うのは死ぬようなものだぞ!」
一人のヴァントガンダムのパイロットが言った。その人間こそ、先の戦闘で隊長を務めていた人間であった。
アステリアの情報は伝わっている。それが宇宙用の機体である事も、勿論。その中でファージはスバキを守る為に動いたのだ。
「機体を遊ばせていられないだろ!下手すりゃ全滅だ!それにあんな子供が戦ってるのに予備パイロットのまま居られるか!」
「勝手な行動は許されんぞ!」
「どの道正規軍じゃないんだから、規則もクソもあるかって話だ!」
ファージは勝手な男だ。国連時代も上官は手を焼いていたと言う。ただ、実力はあった。大気圏内で扱いにくい新型機体を駆り出し、それを用いて攻撃を行ったのだから。
(あのビームサーベル、徐々に出力が弱まっている……?)
その時、ファージはデスゲイズの攻撃の中で、ビーム刃の出力が下がっているのを見逃さなかった。この時、彼はなぜかそっと笑みを浮かべ、隊長の男に対して言ったのだ。
「全機撤退を早く伝えろ!俺が囮になる!」
あろう事か、ファージは撤退するように指示をしたのだ。無論、反論する隊長の男。
「無茶を言うな!」
「この機体ならどうにかなるかも知れねぇんだよ!早く!」
一体何をもってそのように言うのかは分からなかった。だが、デスゲイズの猛威により、下手をすれば全滅させられる可能性がある――
ギュルルルルル
その時、ビーム刃が一機のヴァントガンダムに迫った。急な攻撃の為、回避が遅れた。
やがてその機体はコクピットを貫かれ、撃破された。宇宙に行く前に、戦力を減らされる事はあってならない。だがこの機体をどうにかしなければ、太刀打ちが出来ない。
「言っただろ!早くしねぇと全滅だ!」
それを受け、隊長の男は歯を食い縛った。敵の機体は強力だ。故に、今のままでは勝ち目がないのである。
「ネイヴァン中尉、死ぬなよ……!」
隊長の男は、ファージに敬礼をした後、撤退命令を下した。
それを受け、他のヴァントガンダム達も撤退を始める。ファージが囮となる事で、彼等は撤退に集中できるのだ。
しかし、それらの中で一機、反対する者が居た。スバキである。
「お嬢ちゃん!何やってんだ!?」
「あいつは私が倒すんだよ!」
皆が撤退したと思っていたが、まさかスバキがデスゲイズに対して抗おうとしているのを見て、ファージは危機感を抱いていた。このままでは危険だ――と。彼は悟り、急ぎ、アステリアのバックパックに搭載されているフレキシブルビームキャノンを二基、展開した。それから放たれるビーム砲の出力は戦艦の副装砲に匹敵する火力を持つ。
ドバアアアアアアアアアッ
だが、当然ながらデスゲイズにビームは通用しない。バリアーフィールドが、ビームを全て弾くのだ。
「無駄やーゆうねん!無駄無駄無駄ァ!」
そう言った後に、再び有線式ビームサーベルが展開される。不可測な動きをする、その兵器を相手に、ファージは戦うのだ。
「くそっ!」
だがファージはデスゲイズに向けてビームを放ち続けた。迫るビーム刃。これに対する、アステリア。
不利な状況の中で、ビーム粒子が空中を飛び交う。全てがデスゲイズに向けられるが、バリアーフィールドがそれらを無力化する。
「お前!無駄な事するなよ!」
スバキが叫ぶ。しかし――
「無駄じゃねぇから、やってるんだよ!」
「全部弾かれてるだろうが!」
危機的状況にも関わらず、両者は喧嘩をしている。その間に迫る、デスゲイズの触手は躊躇がない。
「クソォ!」
自棄になったのか、アインスもビームライフルを構え、デスゲイズに向けて攻撃を始めた。信じられない光景だった。無意味と分かっていながらも攻撃を行う。これに、何があると言うのか。
「弾かれてんじゃねェかよ!!」
と、メイドは余裕の笑みを浮かべていた時――
ドォォッ
「おぶえっ!?」
メイドにとって信じられない事が起きた。あろう事か、デスゲイズの機体にビームが直撃したのである。それは、アインスとアステリアが同時に放ったビーム砲撃だ。バリアーフィールドで守られている筈の機体なのだが、何故か、攻撃が通用したのである。
「しもた!エネルギーが切れてやがる……こいつは、そろそろ撤退しねぇとなぁ。」
メイドの言葉と同時に、デスゲイズは先程まで展開していた有線を全て前腕部に格納し、そのままMAに変形した。やがて漆黒の怪鳥の姿をしたそれは、役目を果たしたかのごとく、颯爽と姿を消したのであったが……
「逃がすかよ!」
それを追おうとする、スバキ。ビームライフルを両手部マニピュレーターで構える。フォアグリップを把持し、狙いを定めようとするが――
ガキィン
それを、アステリアが止めた。ファージが攻撃を中断させたのだ。
「お前!何のつもりだ!?」
「追撃するな!逃げただけでも良いんだよ!撃墜が目的じゃない!助かったならそれで良いんだよ!」
「クソ……!」
視界から去って行くデスゲイズを見て、スバキはコクピット内で、握り拳を作り、側方にあるモニターに対して思いきり殴りつけたのだ。
「とにかく、帰還するぞ。無事で何よりだぜホント。」
ファージはスバキを助けた。彼女の無謀な行為が死に繋がると考え、残されていた機体を駆使し、デスゲイズと戦ったのだ。
そのままアステリアとアインスはシュネルギアに帰還。漆黒の脅威は去ったものの、シュネルギアにも被害が出る結果となってしまった。
シュネルギアのブリッジ内は予期せぬ敵の襲来に動揺を隠し切れずにいた。デスゲイズにより、彼等の宇宙への進路は潰えた。その上シュネルギアに襲い掛かり、貴重な戦力が失われた。これらの事だけでも大きいのに、更にギアにとって許せない出来事があった。
それは、焼かれたノリリスクである。彼はブリッジ内で無残に焼かれたノリリスクの町のことについて、現在シュネルギアの艦長を務めている士官に対して語り始めた。
「ごく普通に生活を送っていた人々が惨殺されるということはあってはならない事だ。今回の襲撃で貴重な兵士を失った上、マスドライバーが破壊された為に、別のマスドライバーを探さなくてはならなくなってしまった。しかし私は一番許せないのは罪なき人が殺されるという事だよ……それはあってはならないんだ……」
ギアは歯を食い縛り、視線を床に向けた。
「あの時……新生連邦がロンドンを襲撃した時もそう。その時でも一般市民が大量に殺された。今回でも、あのMSに乗っていた人間がどういう意図でマスドライバーの破壊という暴挙に出たかは知らない。しかしあの男はただマスドライバーを破壊しただけでなく、その周辺にいた人々を巻き添えにしてる……これは許されるべきではない……」
怒りを隠せないギア。それを聞いていた士官は静かに口を開く。
「許せない事であるのは間違いありません。ですが……今は我々が宇宙へ行く道を探す必要があります。一般市民の尊い犠牲が気になるのは分かりますが……」
宥めるように士官は言う。ギアはその言葉に耳を傾け、口元を自らの指で覆った。
「……すまない、少し動揺していた。ダメだな、こんな情けない人間がFPBの指導者では……」
犠牲になった一般市民の事を考えるとどうしても感情的になってしまう、ギア。市民を思う事は大切だが、それを感情的に表に出してしまう事はあってはならない。ギアはそれを知っていても、止める事が出来なかったのである。
「今は、別の場所を探すしかないか……」
そして、彼は静かに士官に指示を与えた。残されているマスドライバー施設へ向かうようにと。
だが状況は険しい。メイドによってマスドライバーの破壊活動が行われているこの状況で、彼等はもしかすれば既に破壊されているかも知れないマスドライバー施設の宛てを探さなければならないのだから。しかも、メイドは更に破壊活動を加速化させようとしている。一刻も早く彼等はマスドライバー施設を発見し、宇宙へ上がる必要があるのだった。
シュネルギアのMSデッキにて、無事帰還したアインスとアステリア。それらから降りる、スバキとファージ。先の戦闘でデスゲイズを逃したことに対して悔しい表情を浮かべるスバキに対し、ファージが宥めていた。
「果敢と言うか、無謀と言うか。よくあの状況で生き残れたよな。」
そう言うファージに対し、スバキも言った。
「……お前こそ、囮になってよく生きてたよな、あれは宇宙用の機体なんだろ?なんであんな機体で……しかも、ビームを撃ちまくったんだ?効かない相手だったのに……」
彼女の言うように、デスゲイズのバリアーフィールドはビーム粒子を完全に無効化する。なのに、それを分かっていてあえて攻撃を仕掛けたファージに対し、疑問を抱いていたのだ。
「あいつはマスドライバーを破壊したりしてて、恐らくビーム粒子を消費したんだろうさ。バリアーフィールドジェネレーターはビーム粒子残量が空に近付けばその効果を失う。バリアーフィールドが張られている際もビーム粒子量は目減りするからな。」
と、ファージは先の戦場での話をし始めたのだ。スバキは首を傾げ、聞いている。
「奴のビームサーベルの出力が落ちているのを見た時、ゴリ押しすれば効果を失わせられると思ったんだよ。そしたら、案の定って訳だ。アステリアってあの機体が強力なビーム砲を備えていて助かったって訳だ。俺も運が良いなぁ、ホント。」
ファージは浮ついている印象を持つ男だが、戦況を見極める事に関しては人一倍優れていた。それ故に彼は囮を買って出て、デスゲイズと交戦したのである。彼の目論見は当たっていた。それ故にデスゲイズは撤退をしたのだ。
「と言うか!お嬢ちゃんはあのMSになんか特別な感情とかあるのかよ?なんであんな無謀な追撃をしようとした訳?命は大切にだろ!」
と、ここでファージはスバキに対して説教するように言った。一回り上の年齢の男に対し、スバキは苛立っている様子だった。
「うるさい!お前には関係ないんだよ!」
「おいおい、俺に怒る理由が分かんねえな。」
子供のスバキに対し、大人の対応をする、ファージ。ここに、大人と子供の差が目に見えて明らかになっていた。
「倒したかったんだよ!!あいつは絶対に!」
急にスバキは怒鳴った。その声に、MSデッキ内に居た者皆が反応したのである。
「あいつを倒さなきゃ……救われないんだ……色々と……」
何故、これ程にデスゲイズを倒す事に拘るのか?気になった様子のファージだが、恐らく彼女は答えないだろうと思い、あえて理由を聞くような事をせず、言葉を発した。
「無謀なのは感心しないぜ。死に行くようなもんだ。さっきの奴は確かに強い。強過ぎる。でもさ、世の中には勝てない相手だっている事を知った方がいいぜ。君がなんであいつを倒す事に拘っていたのかは分からないけどさ。下手な事をすりゃ、死ぬ。死んだら何もかも終わりだぜ?」
何故彼は初対面であるはずのスバキをここまで優しく言うのだろう。彼女は既に疑問を抱いていた。そして、ここで彼女はファージに質問を試みた。
「……お前、なんでそんなに優しいんだよ……チャラ男の癖に……」
「……さあな。やっぱり君が可愛いからじゃないの?」
と、笑いながらファージは言う。
「サイテーだな、お前。結局見た目重視の男かよ。べ、別に私は自分を可愛いとか……美人だとか……思ってないけどさ……」
いつしかスバキはファージと会話をするようになっていた。突然部屋に入ってきたこの男を警戒していたスバキだったが、戦闘で彼女を守ったり、挙句の果てには皆を撤退させるために囮になる等、様々な活躍を見せたファージを認めたのだろう。しかし彼が彼女を心配する理由は外見重視だという事を知り、彼女はファージを〝軽くて嫌な男〟と認識してしまった。
「別に動機が何であれ、いいんじゃない?俺は俺のやりたいように生きる。仲間は大切だし、せっかく今の腐り切った平和国連盟に対して立ち上がる組織が出来たんだ。それに全力で協力する事も大切だと思って……さ。ま、相変わらず可愛い子には目がないんだけど。」
「言っておくけどな、お前とは歳が離れ過ぎてる。お前、言っておくけどお前みたいな歳の人間が私に声を掛けるのは事案だぞ?一歩間違えたら犯罪者だからな。」
棘のある言葉でファージを追い込むスバキ。この時、どこか彼女の表情は少しだが柔らかくなっているようにも見えた。
「それは大丈夫だって。俺は君に手を出す気は無いしさ。」
「フン、どうだか……」
相変わらず冷たい態度を取るスバキ。しかしファージはそれらを含めてスバキに優しく接している。それは彼の言うように、本当にスバキの外見が良いから接しているのかは定かではないが、今の彼女は戦闘前の寂しさを感じていなかった。
しかし一方で彼女はデスゲイズを倒せなかった悔しさに満ちていた。セイントバードを破壊した張本人であり、レイを瀕死に追い遣った存在。それが、スバキにとっては許せないで居たのである。
「ただ、一つ分かった事はある。」
「ん?」
スバキの言葉に傾聴する、ファージ。
「お前は胡散臭いって言った事は撤回した方が良いのかなって思った。」
その言葉を聞いた時、ファージに笑みが零れた。鋭い表情を浮かべていた少女が、少しでも心を開いた瞬間と、言えた。
「やっぱり可愛いじゃないの。」
と、握手を求めようとするファージだが――
「うるさいんだよ!別にお前の事を許した訳じゃないからな!」
そう言って、スバキはファージの握手を跳ね除けたのだ。そして、そのまま彼と視線を合わせる事なく去って行く。ツンとした態度を取る、スバキ。しかしファージはそれを見て、先程と違い、笑みを浮かべていたのだった。
その後、シュネルギアはノリリスクを後にし、別地点のマスドライバー施設の捜索に当たった。幸い、欧州地区、イベリア半島にあるジブラルタルにあるマスドライバーは無事だという報告が入り、一行はそこを目指す事になったのである。大きな回り道をしてしまったが、無事、宇宙へのルートを確保することが出来たのは、彼等にとって不幸中の幸いと言えたのであった。
だがマスドライバーの破壊はメイドによって行われつつある。今はビーム粒子残量が空のデスゲイズだが、いつ、補充され、再び牙を剥くのかは定かではない。
第八十六話、投了。
スバキはファージと名乗る男に助けられた事を知るが、彼の馴れ馴れしい態度にどこか許せないでいた。しかし、ファージは身を挺してデスゲイズを撃退。
これには彼女も関心を抱いた。