ようこそ元暗殺者のいる教室へ   作:solder

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龍園さんの人気に嫉妬。流石公式メインヒロイン。



10.ポーカーフェイス

連日一部のクラスメイトは情報収集に忙しない様子だった。

 

私の友達であるけーちゃんも例外ではなく、何だかんだ言いつつも情報収集に動き回っている。平田くんが協力しているからという理由が大きいのかもしれないが、それでも須藤くんのために動いていることに変わりはない。

 

強気で誤解されがちだけど、やっぱけーちゃん優しいよなぁ。

 

私はというと、この一件に関われないことはCクラスの契約で確定しているため、何となく肩身が狭い。クラスメイトと下手に話すと契約を破りかねないのもあり、Dクラスにいる機会が減っていた。

 

一応、平田くんに協力を要請された際に断りは入れているので、クラスの皆は私が関われないことを知っているけれど。

 

契約書のコピーを見せ、『脅されてこうするしかなかった』と適当に言って泣いておけば万事良好。…実際私はこの契約について別段悪感情は抱いていないが。

 

何故なら、あの契約内容自体は私個人に()()()()()()()()()()からだ。

言葉はキツいが厄介な件に関わらなくて済んで、且つCクラス…翔に対して貸しを1つ作れる。

 

悪くないどころか、ほぼノーリスクでリターンを得る結果となっている。ほんまにええんかCクラス。

 

翔は口振り的に私さえ封じれば勝てる、といった口振りだったがそんなことはないと断言する。

 

Dクラスには、絶賛協力中の平田くんに櫛田ちゃん・けーちゃんは勿論、優秀な堀北さんに、底が見えない綾小路くんもいる。綾小路くんが協力するかは定かでないが、まぁ…何とかしてくれるだろう。(他力本願)

 

今は逆風が吹いているが、そこまで心配していない。

連携さえ整えば或いはというところだけど、入学して3か月だからこれからだよね。

 

ちなみにこの間の翔との一件は意外にも外に広まっていない。あの5人の秘密になったっぽい。良かった良かった。

 

ま、か弱い女の子を暴力で屈服()させようとしたら逆にやり返されたからね。恥ずかしくて言えないか~!

 

――正直やりすぎたとは思っている。帰った後普通に後悔した。翌日、渾名が『キス魔』とか『ビッチ』『痴女』になっているかもしれないと軽い覚悟までしていた。

 

あんな安い挑発に反応してしまうなんて、私も穏健・平和主義者としてまだまだだ。一層反省し、精進します…

 

 

てな訳で、私は多忙なクラスメイトを尻目に、お気楽な学校生活を送っている。

 

新しく買った乙女ゲーを進めたり、有栖とチェスをしたり、ひよりんと本トークをしたり。

難しいことは皆に任せてゆっくりしよう。

 

 

 

*

 

 

 

ひよりんに勧められた小説を図書館で借りた私は、帰路についていた。

本はそこまで詳しい方ではないが、ひよりんの話を聞いていると面白そうだと感じるから不思議だ。

 

読むのが楽しみ。でもゲームも進めたい。

そんな贅沢な悩みを抱えながら、いつもより重い鞄を持って階段を下る。

 

「…狐坂か?」

 

下駄箱から少し先にある、階段の踊り場の掲示板を通ろうとして、知らない声に呼び止められる。

 

振り向くと、一人の男子生徒が立っていた。平田くんとはまた違ったタイプのイケメンだ。硬派で真面目な感じ。高身長。

 

え、待って。めっちゃタイプ。

 

今私がプレイしている新作乙女ゲー『胸キュンLOVER♡ときめきトゥインクル~シーズン4~』に出てくる攻略対象のクール系イケメン・黒崎くんに激似。待って、眼鏡掛けたらもっと似るのでは?…頼む、眼鏡を掛けてリアル黒崎くんになってくれ…。

 

固まった私を、突然声を掛けたせいで戸惑ったと解釈したのか、イケメンは少し申し訳なさそうな顔をした。

 

「突然すまない。Bクラスの神崎隆二(かんざきりゅうじ)だ」

「め、めがね…」

「?」

「ご、ごめんね~。いかにも、わたしがDクラスの狐坂小鞠です。よろしくね~」

 

どうしよう、動悸が止まらない。一度黒崎くん(乙女ゲーキャラ)の幻覚を見たらそれにしか見えなくなってきた。思考が纏まらない。

 

「龍園との噂は本当なのか」

「う、うわさ…!?」

 

血の気が一気に引く。まさか、この間の()()は5人だけの秘密にならなかった…!?

 

「脅されて契約書にサインまでさせられたんだろう」

「…あ~。そっちね…」

「『そっち』?」

「な、なんでもないよ~。うん、そうなの。お察しの通り今は関われないんだ~」

 

困ったように笑うと、神崎くんは眉をひそめる。

 

「そうか。災難だったな」

「ありがと~。大丈夫だよ。たしか、BクラスにはDクラス(わたしたち)を手伝ってもらってるんだよね?その…いろいろ大丈夫なの?」

 

神崎くんの手には、須藤くんとCクラスに関係する情報を持つ生徒を募集する紙が握られていた。ちらりと見えた文字にはポイントを支払う旨も書かれている。

今から掲示板に貼るところなのだろう。

 

「問題ない。Cクラスの連中はルールの外で動いている。到底許していい行いじゃないからな」

 

は~~~。中身までイケメンだ~~~!!!

 

「…そっか~。わたしが言えることじゃないかもだけど、みんなをどうぞよろしくね~」

「ああ。それじゃ」

 

神崎くんはこちらを一瞥し、掲示板へと向き直った。

 

腹を括れ、狐坂。この機会(チャンス)を活かさない選択肢はゲームでも存在しないぞ。

 

「あ、あの!」

「何だ?」

「よかったら――連絡先、教えてもらえますか…?」

 

ポーカーフェイスは得意なはずなのに、顔が赤くなっていないか不安で仕方がなかった。

 

 

 

*

 

 

 

CクラスvsDクラス騒動に終止符が打たれたのは、それから1週間程後のことだった。

 

一度目の話し合いでは決着が付かず、二度目の話し合いが行われようという所でCクラス側から訴えの取り下げの要請があったらしい。

登校したらクラスはその話題で持ち切りだった。

 

「もーマジ大変だったわー」

「けーちゃん~!聞きこみ活動お疲れさま~」

「んー。小鞠もCクラスに脅されて大変だったねー」

「はは…直接の被害は受けてないから大丈夫~」

 

寧ろ私が翔にセクハラしたみたいなものだからね…

 

「…ところで、どうしてCクラスは訴えを取り下げたか知ってる~?」

「さあねー。あたしがやったのは情報収集だから…戦うのが怖くなっちゃったんじゃない?」

「言えてる!でもクラスポイント減らなくて良かったよねー」

 

クラスの大半は『面倒ごとが片付いた』『今月分のポイントが振り込まれた』という事象に注目が集まり、訴えを取り下げた理由については話題に上らなかった。

 

先に手を出してしまったのが須藤くん(こちら)な以上、無傷では済まないと思っていたが――。

 

気になったので堀北さんにチラッと聞いてみたところ、眉を顰めて一言「…監視カメラ」と発言しただけだった。ちゃんと主語と述語を付けてくださいよ!

 

少々不機嫌になった様子を見るに、綾小路くんが関わっているであろうことは想像に難くない。私の中では納得できたためこれ以上問い詰めることはしなかった。

堀北さん結構分かりやすいよね。心理戦強そうな顔して激弱なの可愛い。これはギャップ萌えってやつだ…。

 

策を練って誘導したのは綾小路くんだとしても、堀北さんもその意図を汲んで動いたのには変わりないから自信持てば良いのに。それとも、綾小路くんの持つポテンシャルの高さに気が付いたから歯切れが悪かったのだろうか。

 

何にせよ、今回の件でCクラスには注意を払うべきだということが証明された。どんな手も使う以上、退学だけは避けたい私にとってある種AクラスやBクラスよりも厄介だ。

 

Cクラスで翔に近い誰かを懐柔できれば安全圏にいけるか。――いや、私は生粋の平和主義者。そんなことを考えてはいけない。

 

退学しないためなら余計なヘイトを買わないのが得策。『事なかれ主義』であろう綾小路くんや千秋の気持ちが少し分かるような気がした。





少々駆け足ですが主人公関わっていないので2巻終わらせました。

解決編はもう1話使って綾小路とオリ主のデート(という名の腹の探り合い)√も途中まで執筆していましたが、展開・字数的に中途半端になってしまったのでボツにしました。
もうちょい後の話に回します

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