「次は……さっきも意見が出ていたけど、ベースキャンプを決めるために僕らも探索するべきだと思う。どこに腰を据えるかでポイントの消耗にも大きく関わってくるからね」
1つ問題が解決したが、課題は山積みだ。新たな問題提起を平田くんが行う。
「この中にサバイバルに精通した人とか…いないかな?」
ぐるっと周りを見渡すが、手は上がらない。…仕方ない。
「…サバイバルにすごく詳しいわけじゃないけど、こういう自然の場所には多少覚えがあるよ~」
「!本当かい、狐坂さん」
「…それゲームの中の話じゃないよね?小鞠」
埒が明かないから名乗り出たのに微妙に疑われてしまった…
さっきといい、私そんなにアウトドアの印象ないかな?
「ち、違うって~。無人島生活はしたことないけど、南の島で修羅場はくぐったし、山にも造詣が深いんだよ~」
「修羅場…?」
「山は分かるにしても、南の島で潜る修羅場って何だよ…」
「ま、他に経験者もいないから小鞠に頼ろっか」
「さんせー」
「よろしくねー」
…全く以て仰る通りです。私も口に出して初めて異質さに気付いた。
しかし、南の島でE組全員で鷹岡氏に立ち向かったのはれっきとした事実なのである。
あれ、仮に雇われの殺し屋(プロ)が本気出してたらかなりやばかったよね。
「あの、私でよかったら行くよっ」
大天使櫛田ちゃんも名乗り出てくれたことにより、更に志願者が増える。
13人か。思ったよりも多くなったな。
「実に清々しい太陽だ。私の体がエネルギーをしているねぇ」
高円寺くんも探索組で名乗り出たのは意外だった。
…けーちゃんや千秋いないし誰と組もうかな。
「クレバーガール。良かったら私と組まないか?」
「く、くれば~?誰それ~…――あれ、わたしのこと…?」
こうして私と
「高円寺―――」
「ああ、美しい。大背自然の中に悠然と佇む私は、美しすぎる…!究極の美!」
何だコイツ。綾小路くんが高円寺くんとの会話を試みるが満足に成立しない様子だった。
「あんまり佐倉さんと話す機会なかったからうれしいな~。大変だけど一緒にがんばろうね~」
「……ヒッ!?は、はい…」
同性の佐倉さんと会話を試みるものの、完全に怖がられていて会話が全く成立しない。
これは私がけーちゃんグループに属していて、クラスでそれなりに目立っている以上仕方ないような気はする。
あの櫛田ちゃんでも怖がられてるくらいだからね。理屈では分かっている。……でも悲しい。
「偉いんだな。人数が必要って言われて挙手しただろ。中々出来ることじゃない」
綾小路くんが佐倉さんに向けて話し掛ける。
ふーん、中々にチャレンジャーだね。同性の私でもダメだったのに綾小路くんが佐倉さんと会話なんて…
「そんな、私は別に偉くなんてないよ。ほんと全然…。今もまだ、どうしてこんなことになっちゃったんだろうって、少し混乱しているの」
普通に成立してる~~~~~!!!どういうこと!?
佐倉さんの顔を盗み見ると顔が赤かった。緊張の赤面ではないような気がする。
…ああ、そういうこと。
2人にどういう繋がりがあるのかは不明だけど、大方綾小路くんが佐倉さんを助けたとかそういうのだろう。
――あれ、もしかして私邪魔者なのでは…?
「あ、おいっ、危な―――」
「わきゃ!?」
こけた佐倉さんを甲斐甲斐しく助ける綾小路くん。
うん、もしかしなくても私邪魔者だな。良い感じやんけ…綾小路くんのお相手は堀北さんかと思ったけど違ったのか。
「高円寺くん、ちょっとペース速いんじゃないかな~。迷っちゃうよ~」
「私は完璧な人間だ。この程度の森で道に迷うほど愚かではないさ。もし困ることがあるとすればそれは君たちが私を見失ったときだろう。その時は諦めたたまえ」
左様ですか…
「――綾小路くん、佐倉さん。ゆっくり行ってていいよ~。このままだと高円寺くん見失っちゃうから、わたしが先に追いかけるね~」
「大丈夫か?高円寺はハイペースだ。振り切られて森の中で1人になると危険だぞ」
「う~ん。体力には自信ないけど見失うと困っちゃうからね~。それに、ここは自然の森じゃないから迷わないよ~」
「――それは」
やり取りをしていると、高円寺くんが更にペースを上げた。本格的に見失いかねないため、2人に軽く目配せをして彼を追った。
佐倉さんに怖がられている+2人の邪魔をしたくないならこれがベストと思われる。…嫌だけど。
「ここが自然の森でないと気が付くとは、流石クレバーガール。私が見込んだだけのことはある」
「…狐坂でいいよ~、高円寺くん。道が比較的舗装されてるからね~」
「時にクレバーガール。実に美しいとは思わないかね?」
「……自然は美しいとおもうよ~」
「何を言っているんだい君は。私が聞いたのはそんなことじゃない。完璧な肉体美を持つ私そのものが、この場で美しく輝いているということだよ。わからないかな?」
何を言っているのか、はこっちの台詞だよ!
理屈が通じないタイプは厄介だ。かといって愛嬌で懐柔もできない。だが能力は高い。
控えめに言ってかなり苦手なタイプだ。
「はいはい、そうだね~。…ところで高円寺くん。海の方へ一直線だけどスポット探しはしないの~?」
「フッ。私は完璧な存在だからね。そんな私に相応しいのは美しい海だろう?」
「海って……もしかして遊んでからリタイアするつもりかな~?」
「私の目的にそこまで気が付くとは。木伝いの移動にも平気で付いてくる。やはり君は面白い存在だね。」
「…ほんとーにそうなんだ~…」
コイツにおもしれー女認定されても全く嬉しくない。リタイアの件は半ば冗談で言ったけど様子を見る限り本気らしい。分かっていたけどメンタルが強すぎる。
正直、私にこの自由人の動きを止められる気はしない。
それなら、ギリギリまで利用できないか交渉するまでだ。
「…おもしろいついでに、1つお願いがあるんだけど~」
「何かね、クレバーガール」
「リタイア前に食材を集めてくれないかな~って。
「ほう?」
高円寺くんが初めて足を止め、私に向き合った。
相当なプレッシャーを感じるが、表情には出さずにポーカーフェイスを保つ。
「君は私と同じくAクラスに興味がないと思っていたのだが、違うのかね?」
「興味はないよ~。ただ目の前の利益を優先してるだけ。それに、特別試験ってゲームっぽいから負けたくないしね~」
「相当な合理主義者なのだね」
「…そんなことないよ。自由な高円寺くんと比べたら大抵の人間が合理主義者になるとおもうな~」
「
この超人相手に交渉は無理か。面倒なことになりそうだったため諦めようとすると、高円寺くんはニヤリと笑った。
「本来私は私のためにしか動かないのだが、良いだろう。島のカラクリに気付いた慧眼と最後までこの私に付いて来たその身体能力を称え、君の提案を吞もう」
「い、いや。やっぱり無理しなくて大丈夫だよ~」
「さらばだ、クレバーガール」
「え、ちょ…」
そのまま高円寺くんは方向転換をし、爆速で森の奥に消えた。
少しでも制御しようとした私が間違いだった。アレは放置した方が良い。完全に判断ミスだった…
私も進行方向を変えようか迷ったが、森の先が見えたのでそのまま進むことにした。
森を抜け、海へ到着するとCクラスと思しき生徒が大勢見える。高円寺くんがこれを見越していたのかは疑問だが、思いがけずCクラスのキャンプ地に到着したようだ。
「小鞠さん。奇遇ですね。」
「ひよりん~!癒し…癒しがいる…!」
「…熱中症でしょうか?これ、スポーツドリンクです。お飲みください」
「ありがと~。…もらっちゃっていいのかな?」
「
奴からの解放後にひよりんという癒しを摂取できるなんて、私の運も捨てたものではないらしい。
それにしても…Cクラスは想像の遥かの斜め上を行っていた。
日光対策のターフ、バーベキューセット、チェアーにパラソル。ポイントを節約する気は全くない、海を満喫する構成だ。
「ドリンクありがと~。…少し早いけど、わたしはそろそろ行くね~」
「…この状況に関して何も聞かないのですか?もう少しここにいても構いませんよ?」
「うーん。見たままだろうから今更聞いてもね~。それにちょっと顔を合わせたくない人もいるから、早めにお暇させてもらうよ~」
若干4名、特に1名。Cクラスの内情は凡そ掴めたし、姿が見えない内に退散したい。
「顔を合わせたくない人、ですか…分かりました、お互いに特別試験頑張りましょう」
「うん!また試験後に~!」
椚ヶ丘の山とは違って明らかに管理された自然だから、何か食料があるかもしれない。
こうして私はひよりんと別れ、再び探索へと戻った。詮索しないでくれてありがとう。
そういえば船でハイドに最適そうな洞窟を見付けたんだった、と気が付いたのはCクラスの拠点から少し離れた頃。
色々あって頭から抜け落ちていた。もう押さえられてるかもしれないけれど、
洞窟に近づこうとしたところで、穴の奥から1人の男子が出てくるのが見えた。…何か見たことあるぞ、この人。
即座に木の後ろへ隠れると、同じく近くの茂みに隠れた綾小路くんと佐倉さんを発見する。綾小路くんもこちらに気が付いた様子で、目でコンタクトを取って頷く。佐倉さんは…綾小路くんとの距離が近くてキャパオーバーかな。可愛い。
「この大きさの洞窟があればテントは2つで十分ですね葛城さん。それにしても運が良かったです。こんなに早くスポットを押さえられるなんて」
…思い出した、いつか前有栖と真澄さんに写真を見せてもらった、葛城くんと戸塚くんだ。そうか、今回は有栖がいないから必然的にもう1人のリーダーである葛城くんが指揮を執る、と。
「運?お前は今まで何を見ていた。ここに洞窟があることは上陸前から目星が付いていたぞ。見つかるのは必然だったということだ。それと言動には気をつけろ。どこで誰が聞き耳を立てているか分からないんだ。俺にはリーダーとしての監督責任がある。些細なミスもしないように心がけろ」
現在進行形で3人が聞き耳を立てています。
「…す、すみません。」
真澄さんの評通り、葛城くんは慎重派で堅実そのもの。戸塚くんとしている会話からも、学校側の意図を早々に見抜いていたりと優秀だ。有栖がいなければ、ほぼ確実にAクラスのリーダーになっていた人物だろう。
「――でもこれで結果を残せば『坂柳』も黙るしかありませんね!」
「内側ばかりに目を向けていると足元をすくわれるぞ」
既にすくわれていると言えるかもしれない。Aクラスが
『慎重派』にしては少々不用意な気もするが、Dクラス的にはスポット更新には細心の注意を払わなければならないと反面教師にできたため悪くないだろう。
「お喋りはここまでだ。いくぞ弥彦」
2人の声と足音が聞こえなくなるのを待ち、念のため更に2分ほど待った。
「行ったか…」
「みたいだね~」
「…狐坂。一応聞くが高円寺は?」
「リタイアするみたいだよ~。わたしじゃ止められそうになかったや、ごめんね」
「そうか…いや、気にするな。狐坂が説得できないならきっと誰にも止められなかった」
「…そういってもらえると助かるな~。ところで、佐倉さん大丈夫~?」
「悪い佐倉…佐倉?」
「きゅうっ……!?」
顔から湯気が立ちあがりそうなほど顔を真っ赤にした佐倉さんを見る。綾小路くんもようやく気が付いた様子で気に掛ける。原因は分かっていなそうだけど。
洞窟は占有されていたが、Aクラスのリーダーを確実に知ることができただけでも大きな収穫と言えるだろう。何せキーカードを通した瞬間を目撃したのだから。
「どど、どうしよう。凄い秘密、知っちゃったね…!」
「あとで平田くんに報告しよっか~。」
私は興奮気味に話す佐倉さんを宥めるように言った。