平田くんたちのいる元へ戻ると、池くんたちが水源のあるスポットを見付けたようで、そこを拠点とする流れになった。
静かに流れる川は幅10メートルほどの立派なもの。川の周囲は深い森と砂利道に囲まれているが、この場所は整備されたように開けていた。
人の手が入った空間だ。
「小鞠お疲れー。大変だったっしょ?」
「けーちゃん…!ほんとに大変だったよ~、高円寺くんは見失っちゃうし…」
「まーアイツはね…何か収穫とかあった?」
「え~と、Cクラスが海で遊んでるってことと、Aクラスが洞窟を占有してるってことくらいかな~」
「マジ!?Cクラス何考えてんの??」
「シッ、声がおおきいよ~」
Cクラスが豪遊していることはけーちゃんには伝えなかった。知っても悪影響だろうし。
「うん。じゃあ後は、誰がリーダーをするかだ。肝心なのはそこだからね」
けーちゃんと喋っている間に、平田くんらはリーダー決めの話に移行していた。すかさず櫛田ちゃんは皆に集まるように言い、円を作らせると小声で話し出した。
「私も色々考えてみたんだけど、平田くんや軽井沢さんは嫌でも目立っちゃう。でも、リーダーを任せるなら責任感のある人じゃなきゃダメでしょ?その両方を満たしているのは堀北さんだと思ったんだけど、どうかな…?」
一斉に堀北さんへ視線が集まる。すると今度は平田くんが賛成の意を示し、櫛田ちゃんをアシスト。この2人良いコンビだな。流石Dクラスアベンジャーズ。
「わかったわ。私が引き受ける」
堀北さんがそれを承認し、リーダーが確定する。平田くんが茶柱先生からカードを受け取り、堀北さんに託す。そして装置をそれとなく全員で触れて誰がリーダーかを分からないようカモフラージュをする。Aクラスと同じ轍は踏まないよ!
「よーしこれで風呂と飲み水の問題は解決したよな!な!」
「はあ?川の水飲むとかあんた正気?」
池くんはこの川を飲み水とお風呂の両方で活用するつもりらしい。一方篠原さんを筆頭とする女子はそんな考えはなかったようで、ここでも対立する。
「そりゃさ、泳いだりする分には良さそうだけど…飲むのは、ねえ?」
「なんだよ、全然いいじゃんか。綺麗な水だろ」
「そう、だね…確かに飲めそうだけど…」
「ねえ平田くん…。本当に大丈夫?川の水飲むなんて普通じゃないよ」
確かに
ただ、ここは
…問題があるとすれば、
結局、平田くんの提案で飲み水問題は先延ばしされることとなった。
「小鞠ちゃん。今から平田くんたちと食料探しに行くんだけど、一緒にどうかな?」
「いいよ~。行こっか~」
木陰で少し休んでいると、櫛田ちゃんから探索に誘われ、それを2つ返事で引き受ける。
クラスで櫛田ちゃんに話し掛けられる機会は意外に少ないため、こうして話すのはレアだ。
「…この実、ブルーベリーぽいけど食べられるかな?一応持って帰ろうかな」
「よく見つけたね~櫛田ちゃん。これ、クロマメノキって木の実だよ~」
「えっ、じゃあ食べられるのかな?」
「うん。別名アサマブドウっていって、生のままでも食べれるよ~」
「そっか。持って帰ろっと」
櫛田ちゃんが嬉しそうにクロマメノキを手持ちの籠の中に入れる。採取する姿も可愛い。
「そうなんだ。狐坂さん、自然に詳しいんだね」
「中学の裏山にあったから覚えてただけだよ~、平田くん」
「それでもだよ。――本当は、狐坂さんがリーダーをやった方がいいんじゃないかってくらいだ」
「…わたしそういうのはちょっとな~。向き不向きがあるからね~」
「!ごめんよ、狐坂さんは今のままでも十分に貢献してくれているのに――」
――リーダーには平田くんやけーちゃん、堀北さんがいる。私の出る幕じゃない。
「小鞠ー、こっちの低木になる実は食べれんのー?」
けーちゃんがキウイのような形状の実を指さす。確かこれは…
「アケビだね~。こっちも甘くておいしいとおもうよ~」
「へー。持って帰らなきゃ…ちなみにこれも中学の裏山に生えてたん?」
「いや、これはゲーム知識~」
「オイ」
失礼な。ゲーム知識でも役に立ってるからいいんだよ!
それから私たちはしばらく食料採取に集中した。にしても綺麗な実だ。人の手が入ってることは確定的だろう。
皆と少し離れた場所で採取をしていると、櫛田ちゃんが寄ってきた。
「小鞠ちゃん。ちょっとお話いいかな?」
「どーしたの?いいよ~」
「…割と前のことだけど、中間テストの過去問を綾小路くん――いや、私に託したのはどうしてかな?」
櫛田ちゃんが問い掛ける。数か月経っていたから記憶が遠のいていたが――中間テスト。私は綾小路くんを経由して過去問をクラス全員と共有した。
今まで櫛田ちゃんが何も言ってこなかったため、綾小路くんが自ら入手したことになっていると思っていた。しかし綾小路くんは過去問を私経由で手に入れたと説明していたらしい。そう伝えていいと言ったのは私だけど、何か月もアクションがなかったから忘れかけてたよ。
「目立ちたくなかったから、かな~。特に理由はないよ~」
「それなら直接私に渡せばいいよね?どうして綾小路くんを経由したのかな」
櫛田ちゃんも人並み以上に頭は回る。至極当然の疑問と言えるだろう。
これを説明するには、前提として綾小路くんも過去問を手に入れようとしていたことを言わなければならない。それは事なかれ主義の綾小路くんにとって都合が悪い。
さて、どうするか。
「――ここだけの話なんだけどね~…」
「!…うん」
よし、食い付いた。やはり女子、特に櫛田ちゃんみたいなタイプは特別感溢れるワードに弱い。
「…綾小路くんって、超甘党なんだ~…」
「………えっ」
「でも恥ずかしくて1人だとかわいいお店に入れないらしいの~。だから、過去問のお礼をかねて…って形で連れだそうとおもって~」
「……そ、そうなんだ。知らなかったや」
「甘いもの布教大使として、同志を見捨てるわけにはいかないからね~」
「そっか、優しいんだね。小鞠ちゃんは」
苦しい理由だったが『ここだけの話パワー』で奇しくも切り抜けることに成功した。本心で納得しているかは定かではないが、とりあえずはこれで良い。
あと勝手に甘党ってことにしてごめん、綾小路くん。背に腹は代えられなかったよ…。
採取から戻ると、Dクラスの雰囲気は良好そのものだった。
池くんと篠原さんが互いに譲歩し合ったことで和解に成功し、平田くんが残すべきポイントの目安を説明する。
飲料問題も煮沸消毒をする節約ルートに落ち着きそうだ。ここまで池くんがクラスを引っ張ってきた功績が大きいだろう。口だけじゃないとクラスの皆に行動で十分示せてたからね。
高円寺くんは案の定リタイアしていたが、約束通り(?)魚やトウモロコシなどの食料を集め、クラスに置いて行った形跡があった。
釣り竿なしでどうやって魚獲ったのかという疑問は残る。しかし、『まぁ高円寺だから…』で全てが収まってしまうのが都合良くもあり恐ろしくもある。
順調なDクラスにおいて、イレギュラーはある1人の女子生徒の存在だった。
青みがかったショートボブ。クールだが強気な瞳。
…私はこの子を知っている。
「――えっと~…」
「……」
「あっ狐坂ちゃん!こちらはCクラスの
山内くんが私と伊吹さんの間に割って入り、慌てて説明する。
面識はあるけど名前は知らなかった。伊吹さんって言うんだ。あの時は翔と石崎くんしか名前分からなかったからな。
「
「………キスおんn「ん~?」
「…っつー!何すんのよ」
「こ、狐坂さん!?あれ、そっちの子は…」
「あ、平田くん~。Cクラスの子らしいよ~」
何やら不穏なワードが飛び交いそうで
平田くんが来たのでとりあえず笑顔で誤魔化す。…何もしてないよ?
彼女曰くCクラスのとある男と揉め、叩かれ追い出された…と。
とある男とは、十中八九Cクラスの王…のことだろう。私は彼が目的のためなら手段を選ばない人物だと知っている。故に、伊吹さんがスパイの可能性は極めて高い。
けれど進言はしなかった。和を乱したくないのは要因としても大きいが、とどのつまり情報を持ち帰らせなければ良いだけなのだ。もしくは、偽の情報を掴ませるか――。
…やりようはいくらでもある。
――いけない、女の子をコレ扱いするなんて。悪い癖だ。
考えを払拭すべく、次やるべきことに移った。
進みが牛歩ですみません。
中々書きたい所まで進めませんが、少しずつ頑張ります。