「狐坂ちゃーん、この山菜は食べれるやつー?」
「これはウワバミソウだね~、山内くん。癖がなくて食べやすいとおもうよ~」
「小鞠、こっちは?」
「わわ、これはタケニグサだよ~。毒があるから絶対取らないで~」
「オッケー!俺には全部同じにしか見えねぇけどマジ助かるわー」
無人島生活も3日目。
私たちDクラスは少しずつ不慣れな生活にも適応し、クラスメイトの大半はグループに分かれて採取や魚釣りなどの食料調達を行っていた。
私は山菜や木の実が見分けられるという理由で専ら採取専だ。魚釣りをしたい気持ちは多少あるが、そっちはキャンプ経験者の池くんがいるから完全に任せている。
分担的には経験者が2手に分かれた方が都合が良いからね。
大半のクラスメイトは目の前の食料調達に集中しているが、
手伝う気のあまりない生徒や、単独行動を好む――堀北さん、綾小路くん、佐倉さん辺りは好き勝手動いている。
堀北さんは分かるが、綾小路くんがここまで積極的に動くとは正直意外だ。彼は基本『事なかれ主義』でクラス抗争にも興味がない人間だったはず。
事なかれ主義なら平田くんが出す指示に従って、大勢の中の1人でいた方が目立たない。4月の自己紹介が良い例だ。離脱することもできたが、周囲に溶け込むために参加していた。
けれど、今の彼はまるで―――
(…まるで、Aクラスを目指すために奮闘しているような―――。)
心境の変化なのか。堀北さんを隠れ蓑にすれば問題ないと考えているのか。ただの気まぐれなのか。
…他人の気持ちなんていくら考えても分かるはずないね。もう少し楽に行こう。
採取を終えて拠点に戻ると、朝はいなかった堀北・綾小路ペアがいた。
どこかへ行って、ちょうど戻ってきたところなのだろうか。ぼんやりその姿を見ていると目が合い、2人が近付いてきた。
「狐坂。今から堀北とBクラスとAクラスの様子を窺おうと思っているんだが、一緒にどうだ」
「ちょっと、綾小路くん。彼女は目立つわ。偵察には不向きだと思うのだけれど」
「狐坂がいた方が対話になった時スムーズに進む。それに、気配を消すくらい容易いだろう」
「……そうね。狐坂さん、良かったら一緒に来てくれないかしら?」
「それはいいんだけど~…綾小路くん、わたし気配消すとかできないよ~?」
3人で雑談をしつつ、進んでいく。ふと2人の足取りにほぼ迷いがないことに疑問を持つ。
「2人とも、他クラスの拠点がわかってるみたいに進むね~。偵察で見つけたの~?」
「今向かっているのはBクラスの拠点だ。今朝、Dクラスに来ていた神崎に方角を教えてもらったんだ」
「…ほわっ!?か、神崎くん!?」
「神崎と知り合いなのか?早朝に来てたぞ」
何で起きてなかったんだよ、私の馬鹿!
「…う、うん~。そんな感じかな~。…はは」
折れた大木の根本から森の中に入る。程なくすると、Bクラスのベースキャンプ地へと辿り着いた。
「流石はBクラスと言ったところかしら…」
そこにはDクラスとはまるで違う生活観がそこにあった。スポットとして活用している井戸の周りは木が多い。無駄にテントは広げず、一部はハンモックで寝泊りのスペースを確保している。
「あれ?堀北さんに綾小路くん?それに…狐坂さん、だよね。初めまして、
「はじめまして~、一之瀬さん。あの時はありがと~。急にごめんね」
突然の来訪者の気配を感じ取ったのか、こちらを振り返り声を掛けてきた。一之瀬さん。私がこうして対面するのは初めてだけど、彼女の噂は度々聞くため不思議と初めましてな感じがしない。
にしても…大きいな。どこがとは言わないけど、すごく、大きいです…。
「随分とクラスは上手く機能しているようね。拠点としては苦労も多そうだけれど」
「あはは。最初は苦労したよー。でも何とかね、色々工夫して作ってみたの。そしたら逆にやることが増えちゃって。まだまだ作業が山積みだよ」
そう言って微笑む一之瀬さんはどこか神々しく見える。
こちらも内情を教えていた(らしい)とはいえ、ポイントの消費や使用した道具の評価まで事細かに教えてくれる破格の待遇だ。一之瀬さんはとにかく優しい。Bクラスの一糸乱れぬ連帯感は彼女の人徳が生み出しているのは想像に難くない。
「このクラス…想像以上に統率が取れているわね。やはりあなたが率いてるの?」
「うん。一応私がやってるよ」
…もしかしたらクラスメイトを
「Dクラスにはまとめてくれる人がいるの?堀北さん?」
「平田くんっていうサッカー部の男子が大体やってくれてるよ~」
「あー。あのサッカー部の。知ってる知ってる。女子に凄い人気なんだよね」
平田くんの話題には興味ないのか、堀北さんはその話題を聞き流して一之瀬さんにAクラスのベースキャンプ地を聞く。
するとすぐに返答される。流石一之瀬さん。情報にも鋭い。
「Aクラスは秘密主義って言うか、守りが徹底してるから」
「秘密主義?Aクラスはどんな対策をしているというの?」
キーカードの場面から分かっていたことではあったが、今回Aクラスを率いているのは葛城くんで間違いないだろう。有栖の思考が1ミリたりとも反映されていない。
「百聞は一見にしかず。見てみると理由は一発で分かると思うよ。今からAクラスに行くってことは、3人はCクラスの状況はもう把握してるのかな?」
「ええ。さっき綾小路くんと私で行ってきたわ。信じられないほど愚かなことをしていたわね」
「うん。本気で試験に取り組むつもりがないみたい。――ちょっと理解に苦しむかな」
あくまで正攻法で戦うBクラスや堀北さんとは、Cクラスの取る策とは対極。
「お話中すいません。あの一之瀬さん。中西くんはどこにいるかわかりますか」
話し合いをしていると、1人の男子生徒が現れ遠慮がちにそう聞いてきた。その男子生徒は私の姿を一瞬捉えると、露骨に視線を逸らす。うーん何だろう…。
その後一之瀬さんと短いやり取りをするがどこか余所余所しい。堀北さんも疑問に思ったのか、疑問を口にする。
「クラスメイトにしては随分と余所余所しいわね」
「あ、彼は――」
「Cクラスの生徒、か」
「知ってたんだ?彼、Cクラスと揉めちゃったみたいでさ。1人で過ごすって言ってたんだけど流石に放っておけなくって。事情は話したがらないから聞いてないけど」
「…Dクラスにも似たような子がいるんだ~。奇遇だね~」
…どこかで聞いたような話ですね。奇遇…奇遇だね。
「2人は今のAクラスの内情のこと知ってる~?」
深い山を切り抜くように、魔物の口のように開かれた洞窟が姿を見せたところで、私は2人に尋ねた。
「…ちょっと。今から潜入するところよ?無関係とは言わないけれど、後にしてくれないかしら」
「いや。オレも堀北もAクラスに知り合いはいない。情報は知っていて損はないだろう」
「ちょ、ちょっと」
「行こうぜ。Aクラスだからって怯えてても仕方ないだろ」
「話は歩きながらで大丈夫だよ~」
身を潜める堀北さんに対し、綾小路くんは堂々とした足取りで洞窟へ繋がる道を進みながら答えた。
「わたしもざっくりとした話しか知らないんだけど、Aクラスは2つの派閥にわかれてるらしいよ~。革新派と保守派、みたいな」
「…今回の試験は保守派の生徒が率いている、と言いたいのかしら」
「お~、話がはやいね~。その通りだよ~」
「革新派のリーダーは保守派が率いることに反発しなかったのか?」
「今回は有栖…坂柳さんが試験に不参加だからね~」
「なるほどな」
「Aクラスの内情については凡そ理解ができたわ。…つまり、革新派の生徒が不満を持つから団結力に欠ける、と伝えたいのかしら」
「それもあるけど~」
頭の回転が早い人と話していると、少しの話ですぐに理解してくれるからありがたい。一を聞いて十を知るとはこの事だね。
話している内に洞窟の入り口前まで辿り着く。当然ながら付近にいたAクラスの生徒に見つかるが、元々そのつもりのため不都合はない。
「今回率いてる保守派は
「…――狐坂、それは――」
「テメエ!葛城さんを侮辱すんのか!!!」
ありゃ、聞かれてたか。
…なーんて。洞窟の入り口まで来たら聞こえて当然だよね。
葛城くんの右腕・戸塚くんが距離を詰め、私の胸倉を掴もうとする。これくらいは容易く避けられるが、
「暴力行為は禁止されているわ、手を放しなさい。Aクラスを名乗るからにはさぞ賢いのだろうと思ったけれど、野蛮ね」
「コイツが葛城さんを侮辱したのが発端だろ!今すぐ謝罪しろ!」
真澄さんの『無能』評は当たっていた。葛城くんが大好きなのは伝わってくるけれど、それにしても手を出したら終わりだ。もう少し考えて行動した方が良いのでは?
「………っ、戸塚くん、こわいよ…」
「お、おい…ちょ、な、泣くなよ…」
「――戸塚、お前何女子泣かせてんだよ」
「だってコイツが――」
秘儀・嘘泣きを発動させると戸塚くんは分かりやすく慌てふためいた。分かりやすく煽った私も悪いけど、慌てるなら最初から手を出すな。
不穏な空気を感じ取ったAクラスの他の生徒も駆けつけ、騒ぎが大きくなったところで―――
「何の騒ぎだ。客人を呼んでいいと許可した覚えは無いぞ」
真打、保守派筆頭の葛城くんの登場だ。真澄さんに画像を見せてもらった時も思ったけど、直に見ると全く生徒に見えないな。
「
綾小路くんが戸塚くんを見ながら話す。こう見ると、先生にチクっている生徒にしか見えないからちょっと面白い。
この言葉を受けた葛城くんが戸塚くんを見る。
「本当なのか、弥彦」
「…だって、葛城さんを侮辱したから」
「事実のようだな。内容はともあれ、手を出した以上謝罪すべきだ。すまなかった。えーと…」
「Dクラスの狐坂だよ~」
「…狐坂。――詫びと言っては何だが、少し中を見ていくか」
ガードの堅い葛城くんが手の内を晒すようなことを言うなんて意外だ。
半暴力行為に対する口止めだろうか?Aクラスの生徒含め数人が目撃したから、訴えられたら大体負けてしまう。身を護るための策だろう。
「じゃあ、遠慮なく――」
「許可したのは狐坂だけだ。そこの2人には許可をしていない」
「はぁ。どこまでも姑息ね」
ビニールを剥がそうとする堀北さんを葛城くんが止める。正直1人も3人も変わらないでしょ。
「但し、指一本でも触れることは許さない。時間はこちらで決めさせてもらう」
「わたし、中を見るとはひとことも言ってないよ~」
「は?」
戸塚くんが理解できないとばかりに声を上げる。確かに偵察しにわざわざ足を運び、リーダーから許しを得たのに断るのは意味不明だろう。葛城くんも眉間に皺を寄せる。
「…狐坂さん。どういうつもりかしら?」
「え~と、さっきも言ったよね。保守派が率いるAクラスは警戒する価値無し――有栖のいないAクラスなんて、イチゴのないショートケーキだよ~」
「ッテメエ!!!!!」
「待て、弥彦。…そうか。お前が坂柳がクラス内抗争を半ば放置してまで遊んでいた相手、か」
あれ、私のこと知ってたんだ。こっちも知ってたからお互い様かな。答えずに笑みを浮かべる。
「――そうね。Aクラスの実力がどの程度のものか、結果を楽しみにしておくから」
「随分と威勢がいいな。こちらこそ期待しておくとしよう。Dクラスの悪あがきに」
堀北さんは少し納得のいっていない様子だったが、これ以上の進展はないと読んで引き下がった。
葛城くんは満遍なく優秀なんだろうけど、思った以上につまらなかったなぁ。
圧倒的光の一之瀬さん、どんな手段も用いる翔、圧倒的に頭のキレる有栖に比べるととにかくインパクトが弱い。
この分だと、試験が終わる頃には勝手に失脚してそうだ。…半分願望も混ざってるけど。