ようこそ元暗殺者のいる教室へ   作:solder

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1学期
1.銀髪美少女


ブオオォォ――――。

 

「ハァ、ハァ……ひ、非常にまずい…」

 

4月。入学式。私は学校に向かうバスの中、座席に座りゆらゆらと揺られていた。

…はずだった。

 

「30分余裕みたはずなのに、なぜ…、」

 

お分かりだろうか。

私が乗車する予定だったバスは既に発車してしまっていた。

 

それも仕方ないだろう。ベタな話だが、新設の病院に行きたいというおばあさんに道を教え、アスファルトで盛大にズッコケた小学生に手当てを施し、階段からベビーカーを下せずに困っている妊婦さんを助けていたらこうなっていたのだから。

 

…いや、ベタすぎるでしょ。作り話かよ。

 

実際全て本当のことなのだが、学校側に信じてもらえる気がしない。私も初対面の他人からこの話を聞いてもおそらく8割方信じない。

ただ、入学式初日から遅刻は当然ながらイメージが悪い。平穏に楽しく学校生活を送りたい私としては避けたいところだ。

 

とはいえ、次のバスはしばらく来ないことが時刻表で既に確定している。それに乗れば十中八九遅刻だ。…ラッシュの時間帯ならもっと本数増やしてくださいお願いします。

 

背に腹は代えられない。こうなったらタクシーを呼ぶしか…いや待てよ。いっそパルクールで次のバス停まで先回りした方が早いかもしれない。幸いにも、建物はいい感じに密集していて難度は低そうだ。でも、良いのだろうか。街中で暗殺技術は使わないって皆と約束したのにこんなことで破るなんて―――。

 

「あの。宜しければ、乗って行かれませんか?同じ高度育成高等学校の新入生ですよね」

「はい、そうですけど…えっと、」

 

カツン、と細い杖を鳴らし私と同じ制服を着た銀髪の美少女が声を掛けた。

優雅に微笑みを浮かべる彼女は状況も相まって天使のように見えるが、どこか支配者側の人間…椚ヶ丘元理事長や、浅野くんのような風格を漂わせている。

 

彼女の視線の先には黒塗りの高級車。車通学なのだろう。初対面の彼女を頼っていいものかと一瞬思案したが、困っているのは事実なためありがたくご厚意に甘えさせていただくことにした。

 

了承の旨を伝えると、銀髪の彼女は「こちらです」と私を車内へ案内する。

 

「ありがとうございます、ほんっとーに助かりました…!」

「いいえ、とんでもありません。困った時はお互い様ですよ。」

「そう言っていただけると救われます…」

「私は坂柳有栖と申します。それと、同い年なので敬語は必要ありませんよ?」

「わかった。……坂柳さん、だね。改めて助けてくれてありがと~!わたしは狐坂小鞠(こさかこまり)。同じ学校同士、よろしくね~」

「狐坂さん。こちらこそよろしくお願いします」

 

学校に到着するまで雑談をする中で、坂柳さんはチェスが得意だということが判明した。チェスとはまた珍しい。かく言う私もゲーム全般が好きで、チェスも例外ではない。ゲーム全般…特にFPS系はゆっきーとデュオを組んで、ありとあらゆるオンラインやゲーセン内のランキングを荒らしまわった過去がある。

 

にしてもチェスか~。別段得意なゲームではないが、前に少しやり込んでいたことがあり、それなりの自信はある。

 

「狐坂さんもチェスを嗜まれるんですね」

「うん!ゲームと名のつくものはなんでも好きだよ~」

「では、暇潰しがてら目隠しチェスを致しませんか?狐坂さん、白をどうぞ」

「おっけー。e4」

「…!e5」

 

即承諾して勝負に乗ってくるとは思わなかったのか、坂柳さんはほんの少し目を瞬かせた。が、それもほんの一瞬。即座に次の手を返し、私もその次の手を返す。

一手に然程時間をかけず、テンポ良く盤面が進んでいく。

 

…この子強いな。今まで指してきた相手の中でもトップクラスに手強い。自分で得意だと豪語するだけのことはある。

 

結局、到着までに決着は付かず、勝負途中で降車することとなった。盤面はほぼ互角。均衡が保たれている。先手もらったのに情けないな私。

 

「いや~、坂柳さん相当つよいね!びっくりしちゃった~」

「それは私のセリフですよ。ゲーム全般に自信があるというお話は本当だったのですね」

「ん~。チェスは前にやりこんだことがあったからたまたまだよ~」

 

笑顔で返すと、坂柳さんは少し考えるような素振りを見せてから次の言葉を切り出した。

 

「…狐坂さんさえ宜しければ『有栖』と呼んでいただきたいのですが…」

「…え、いいの?」

「はい」

「やった~!じゃあ有栖って呼ぶね。わたしも小鞠でいいよ~!」

「ふふ。ありがとうございます、小鞠。」

「お友達第1号がこんなにかわいい子でうれしいな~!」

「私も小鞠と友人になれて嬉しいです。…続き、また指しましょうね」

「もちろん!」

 

正直支配者側の人(この手のタイプ)は対等な友達を作らないイメージがあったため、坂柳さん―――有栖の提案は意外だった。いや、それは椚ヶ丘元理事長と浅野くんに引っ張られすぎか。普通の学生は支配なんて考えないし、手駒なんて以ての外。…なはず。

 

クラス表の前へ辿り着き、自分の名前を探す。思ったより人が少なくて助かる。狐坂小鞠…あった、1年Dクラスか。

 

「小鞠は…Dクラスのようですね」

「有栖はAクラスか~。流石だね」

「?流石、とは…」

「…あっ、ごめん。なんでもないから気にしないで~」

 

椚ヶ丘システムが抜け切っておらず、変なことを口走ってしまった。私が通っていた中学では、A組にエリートが集められていたから、つい。

ランダムにクラス分けされるのが普通の学校だよね。私も大概毒されたな…

 

途中まで有栖と一緒に教室へ向かおうと並んで歩こうとして、気付く。余計なお世話かもしれないけれど、バス通学の時間とは少しズレていて廊下に生徒も少ないから、許されるはず。

 

「有栖、ちょっと鞄と杖をかかえて」

「…?はい」

「ちょっとごめんね~」

「…小鞠…!?」

 

有栖を荷物ごとひょいと抱えた。所謂お姫様抱っこの体勢だ。体格差は差ほどないけど、これくらいは余裕余裕。

私はスルスル階段を上り、あっという間にAクラスの前へ辿り着いた。

出来る限り飛ばしたから、そんなには見られてないだろう。

 

「急にごめんね。荷物もあるから、大変だと思って…」

「いえ、とても助かりました」

 

ニコっと笑う有栖。可愛い。ただひたすらに可愛い。

 

「私を抱えたまま階段を上っても相当速いのですね。」

「そうかな~?あまり見られていい気分もしないだろうから、気合いで急いだのが効いたかも~…じゃあわたしはそろそろ行くね!」

「はい。ではまたお会いしましょう、小鞠。それと、困ったことがあれば何でも相談してくださいね」

「ありがと~!またね、有栖~」

 

そうしてAクラス前で一旦有栖と別れた。

 

有栖には本当に助けられたなぁ。私の姿を見て、わざわざ車から降りて声を掛けてくれたのだろうか?真意や理由は定かではないが、そんなものはどうでもいいことだ。私が助けられたことは紛れもない事実なのだから。

 




※中3終了時・椚ヶ丘E組準拠

⚫E-12 狐坂小鞠

【個別能力値】(5点満点)
体力:3
機動力:4.5
近接暗殺:4
遠距離暗殺:3
学力:5
固有スキル(ゲームマスター):5


【作戦行動適正チャート】(6点満点)
戦略立案:4
指揮統率:2(5)
実行力:4
技術力(罠・武器・調理等):3
探査諜報:6
政治交渉:6
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