「茶柱先生~。少しお時間よろしいでしょうか?いくつかご質問がありまして」
「狐坂か。…分かった、職員室に行こうか」
偉い人のありがたいお言葉を頂戴し、入学式は無事に終了した。敷地内の説明を一通り受けて現地解散となったため、私はその足のまま担任の茶柱先生の下へ向かった。
軽井沢恵――けーちゃんたちに買い出しへ誘われているが、用事があるため後から合流する旨は伝えている。けーちゃんはギャルっぽいけど莉桜とはまたタイプが違う。見た目派手だけど案外話しやすい所は一緒。
「で、主に何が聞きたいんだ」
「んーと、教室にある監視カメラの映像は何ポイントかな~、とか、来月は何ポイントもらえるのかな~、とか…学校のシステム関連のことですね~」
移動しながら要件を聞かれたので、ざっくりと聞きたいことを伝える。すると茶柱先生の歩みが一瞬止まり、「…続きは指導室で聞こうか」「了解です~」――うーん、立ち話で良かったんだけどなぁ。全体説明でぼかされたことを一個人に細かく教えてくれるとは考えづらいから、ニュアンスだけ分かればそれで。
指導室に到着し、茶柱先生と向かい合う形で座る。
「監視カメラにはいつ気が付いた」
「はじめて教室に入った時です。妙に視線を感じるな~って」
「そうか。お前は先程、監視カメラの映像の
「?先生がおっしゃったんじゃないですか~。『学校内においてこのポイントで買えないものはない。』『学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ』~って。わたしの記憶違いでしたか?」
「ハハッ。いや、確かにそう言った。そうだな、答えようか。監視カメラ1つに付き1時間1万ポイントだ」
「ありがとーございます」
茶柱先生はどこか楽しそうに笑っていた。不敵な笑みなのが猜疑心を抱かせるが、話の流れ的に嘘は言ってなさそうだ。こんな時渚みたいに意識の波長が読み取れたら良いのに…ゲームならブラフはすぐに見抜けるけど、現実は難しい。
「監視カメラが何故設置されているのかは聞かないんだな」
「聞いても無駄ですから」
「無駄、とは?」
「1台なら
不敵な笑みが抜け落ち、黙りこくる。答えは沈黙。クラピカ理論で正解…ってコト…!?
「あと、来月は何ポイントいただけるのかお聞きしたいです!」
「それは――」
……としばらく問答が続いた。何ポイントかは例の如く答えてくれなかったが、
唯一全く未知数な点がポイント評価は個人か否かだが―――これは今の段階で考えても仕方のないことだ。評価を気にして過剰に縮こまらなくても、余程のことがなければ大丈夫だろう。気にしない気にしない。
一通りの会話が終了する。礼を言い退室しようとすると「この情報をクラスに伝えるのか」と逆に聞かれた。指揮を執るのは私のガラじゃないため身内程度に留める意向を伝えると、茶柱先生はそうかと頷いた。
「…小鞠、何飲んでんの?」
「イチゴ煮オレだよ~けーちゃん。一口飲む~?」
「えー。じゃあ一口だけ……うわっ、甘っ!」
失礼な。この喉に張り付くような甘さが良いのに。
学校2日目。授業初日ということもあって、授業の大半は勉強方針等の説明だけだった。先生たちが明るくフレンドリーで気持ちが弛緩したのか、話を聞いていない生徒も多数いる状態だ。特に須藤くん、君は初日から寝すぎだよ。
今は昼休み。私はけーちゃんに連れられるがまま食堂でランチタイムを楽しんでいた。メンバーはけーちゃん、松下千秋――千秋と、森寧々――ねねっちといったDクラス女子複数人と平田くんだ。女子の中に男子1人なのに、イケメンは全く違和感がないからすごい。
平田くんに関しては教室で綾小路くんからラブコールを受けていたのに引き離してしまい、何だか申し訳ない。引き離したの主にけーちゃんだけど…
「ってか平田くん聞いてよ、昨日この子と買い出し行ったんだけどさー、最初に何買ったと思う?」
「どうだろう…必需品系かな。タオルとか」
「
「欲しい物は人それぞれだからね。狐坂さんが納得してるならいいんじゃないかな」
「失礼な!わたしにとって煮オレは生命線だよ~」
「平田くん優しいー!」
ポンポンと進む会話。けーちゃんに笑われたが、必需品より煮オレを優先したのは仕方のないことなのだ。本当は娯楽として最新ゲーム機を購入したかったが、来月いくら入ってくるか分からない以上高額なポイントは使えない。となると比較的安価で私の精神安定を買える煮オレシリーズになる。
「てかみんなだって新作のデパコスと服大量に買ってたよね。人のこと言えないって~」
「それな!でもあたしら10万持ってるじゃん?もー無敵ってゆーか。昨日あんなにポイント使ったのに全ッ然なくなんないのヤバすぎ」
「確かに、10万ポイントって凄いよね」
「…ほどほどにね~」
やんわりと釘を刺しておいたが、伝わっただろうか。完全に10万という数字に浮かれ切っている様子だ。後で平田くんに根回ししておいた方がいいかな…。私が直に伝えてもいいけど、タイプ的に彼の方が上手く伝達してくれそう。
雑談をしていると、スピーカーから音楽が流れて来た。
『本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日――』
可愛らしい女性の声と共にそんなアナウンスがされた。
「みんなは行く~?」
「あたしはいーわ。部活にキョーミないし」「私もー」
「小鞠は行くの?」
「入るかどうかは別として、一応見に行こうかな~とは思ってるよ~」
「そっかー。行ってらっしゃい」
「お~」
女子たちは行かないらしく、アッサリと流されてしまった。
過剰にベタベタするのは苦手なため、この対応は寧ろありがたい。
「僕はサッカー部が気になるから、行こうと思ってるよ。狐坂さんも一緒にどうかな?」
おい、余計なこと言うな平田。……失言ですごめんなさい。平田くんが参加表明をしたことで、女子たちは再び揺れ動いていた。
「平田くんと行ったら目立つからちょっとな~」
「ははは、分かったよ狐坂さん。」
「小鞠ちゃん平田くんの誘い断るのスッゴ。私と一緒に行こ~」
平田くんには悪いが、お断りしておいた。結局みんな平田くんが行くならってことで出席しそうだけどいいや、一人でゆっくり見よう。
放課後、私は頃合いを見て体育館へとやって来た。
既に1年生と思われる生徒たちの殆どは揃っていて、100人近くが待機している。
体育館に入る際、部活動の詳細が載ったパンフレットを受け取る。適当に後方の位置にでも…と移動すると、見知った顔を見付けた。
「綾小路くん、堀北さん~。やっほ~」
教室で近くの席に座る、綾小路清隆くんと堀北鈴音さん。教室ではたまに喋る程度の2人だ。2人共頭の回転が早く、けーちゃんグループの会話とは違う楽しさがある。…ちなみに堀北さんにはちょっと嫌がられている節があるため程々にしている。事実今も一瞬嫌な顔した。距離感大事。
「あなたは軽井沢さん達と来ると思っていたのだけれど」
「ん~、ちょっとね~。平田くんといると目立っちゃうのもあるから」
「…狐坂1人でも十分目立っていると思うぞ」
それは自覚済みだ。自分が目を惹く存在なのは15年も生きていれば流石に分かる。「そうかな~」と分からない振りをして適当に流したが、ありがたいことに2人に気にした様子はなかった。他人への興味が薄いんだろうな。
「この学校って有名な部活動ってあるのかしら。例えば……空手とか」
「どの部活動も高いレベルらしい。全国クラスの部活や選手も多いみたいだ」
E組では立場上部活動が禁止されていたため新鮮だ。1年の時少しやってたもののすぐにやめたので、部活というもの自体に触れるのは随分久々だ。
「へ~すご~い。設備も豪華だね~。…んーと、空手部はないっぽいよ」
「………そう」
「なんだよ、空手にでも興味があるのか?」
「いいえ、気にしないで」
「でもアレだな。部活未経験者は運動部に入りにくいよな。高校デビューしてもどうせ万年補欠だ。それで面白さを見出せるとも思えないし」
全員が同じスタートラインではないため、どうしても差は生じる。
「それは努力次第でしょう?1年2年と鍛錬を積めば、誰にでも可能性はあるわ」
「可能性でいえばそうだね~。でもモチベ保つの大変そ~」
可能性で言えばその通りだろう。現に
ただ、それも色々な要素が噛み合った上での結果なのは間違いない訳で。そういった意味では、どちらの言い分も正しいと言えるだろう。
「事なかれ主義の綾小路くんに、鍛錬は無縁の存在だったかしら」
「それ、事なかれ主義と関係あるのか?」
「2人とも仲いいんだね~」
「それは有り得ないわね。狐坂さん、あなたの目は節穴かしら?」
堀北さんに強く否定されてしまった。ここまで会話が成立する仲なら友達って言って差し支えないと思うけど…。
そんなこんなで部活動説明会が始まる。司会の橘と言う先輩の挨拶の下、体育館の舞台上にズラッと部の代表者が並ぶ。
柔道部、弓道部、野球部、茶道部、書道部……囲碁部や将棋部、ボードゲーム部もある。面白そう、後で行ってみようかな。
「っ……!」
「どうした?」
隣の堀北さんの様子が何やらおかしい。顔を青くし舞台の方を見入っている。綾小路くんが声を掛けたが気が付かなかったようで、驚きと萎縮…喜び?複雑な表情をしている。ただただ舞台上を見て目を離さない。
説明を終えた先輩たちが次々と舞台を下りる。最後に一人となり、堀北さんがその人物――メガネをかけた黒髪の先輩を見つめているのに気が付く。
程なくして体育館全体の弛緩した空気がその先輩によって張り詰める。場の支配に長けた先輩だ。…有栖と言い、この学校支配者属性多すぎないか?一般人には息が詰まってしまうよ…。
「私は、生徒会長を務めている堀北学と言います」
堀北…?彼女の様子的に身内なのだろうか。
堀北先輩から生徒会の説明がされる。立候補は誰でもできるが、部活の兼任はできないらしい。
口調こそ柔らかかったが、肌を突き刺すような緊張、空気だった。この広い体育館にいる100人を超える新入生たちを、たった1人で黙らせてしまう。
おっかない先輩だな…
こうして先輩が全体を支配したまま生徒会の紹介は終わり、入部の受付が始まった。まだ期間はあるし、焦らなくていいか。2人に断ってさっさと体育館を後にした。
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