ようこそ元暗殺者のいる教室へ   作:solder

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5.実力至上主義の世界

3時間目の社会。担任の茶柱先生の授業だ。授業開始のチャイムが鳴っても騒ぎ立てている教室に茶柱先生がやって来る。それでも生徒たちの高いテンションは変わらない。

 

「ちょっと静かにしろー。今日はちょっとだけ真面目に授業を受けて貰うぞ」

「どういうことっすかー。佐枝ちゃんセンセー」

「月末だからな。小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」

 

一番前の席の生徒たちにプリントを配っていく。やがて私の机に1枚のテスト用紙が届く。主要5科目の問題がまとめて載った、それぞれ数問ずつの、まさに小テストだ。

 

小テストって久々だな。椚ヶ丘E組の小テストは殺せんせーがマッハで作成した、生徒一人一人のレベルに合わせた特製だったから毎回本当に難しかった。

 

「えぇ~聞いてないよ~。ずる~い」

「そう言うな。今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には反映されることはない。ノーリスクだから安心しろ。ただしカンニングは当然厳禁だぞ」

 

成績表()()反映されない。()()()()()()

 

何の参考にするのだろうか。まさか、ポイント評価――いや、深読みしすぎかもしれない。茶柱先生はノーリスクと言っている。とにかく今は小テストだ。

 

いきなりの小テストが始まり、問題に目を通す。1科目4問、全20問で、各5点配当の100点満点。どれも拍子抜けするほど簡単だ。

椚ヶ丘の怪物テストに慣れていた反動かと思ったが、受験の時に出た問題よりも難易度が2段階くらい低いため本当に簡単なのだろう。

 

順調に解き進めると、ラスト3問にこれまでとは違う桁違いに難しい問題が出現した。2問は頑張れば自力でどうにか解けそうだ。最後の問題は…確かカルマくんに教えてもらったな。十分に時間は残っているため、挑戦だけでもしてみようと思い解き進める。

 

成績には反映されないらしいけど、殺せんせーが『第2の刃を持たざる者は暗殺者を名乗る資格なし』って言ってたからね。

 

というか、冷静に考えて去年の椚ヶ丘のテストは難易度が本当におかしかった。元々進学校であり中高一貫校だから、高校の内容も先取りして学んでいたけれど、浅野元理事長(A組)vs殺せんせー(E組)の本格的な争いが起きてからのテストは色々な意味で酷かった。とある教科担当が『下手な大学入れるレベル』とかぼやいてたらしいし、流石にやりすぎと言わざるを得ない。巻き込まれたB~D組はたまったもんじゃなかったと思う…

 

最後の解答を悩みながら埋めた段階で授業終了のチャイムが鳴り、小テストが終了した。

 

 

 

*

 

 

 

「おはよう、小鞠ちゃん。」

「ねねっちおはよ~。けーちゃん、千秋もおはよ~」

「おはよう小鞠ー」

「おはよー。今3人で話してたんだけどさ、小鞠はポイント振り込まれてた?」

 

ついに来てしまったか。

 

5月最初の学校。教室に入ると、ねねっち・千秋・けーちゃんのいつもの3人に話し掛けられた。スマホを取り出し、ひっそりとポイント残高を確認する。204万8560ポイント。――恐らく、昨日と数字が変わっていないと思われる。

 

「振りこまれてないね~」

「えー、小鞠も?あたしもなんだよね。先月めっちゃコスメと服買ったからマジ困るわー。早くしてほしいんだけど」

「それねー」

 

けーちゃんとねねっちが愚痴る。千秋は何やら考え込んでいるのか、何も言わない。

この分だと、監視カメラでの評価は個人ではなく()()()()()行われたと考えるのが妥当だろう。

 

にしても、10万ポイントが0ポイントか…。もし私が平田くんに私の憶測含めた情報を全て開示し、クラスメイトに共有していたら何かが変わっただろうか。

 

そんなありもしない『もしも』を考えて脳内でシュミレートしてみたが、すぐに無駄という結論に至った。どちらにせよ須藤くん、池くん、山内くんの3馬鹿は制御できなかっただろう。恐怖政治でもすればまた結果も違ったかもしれないけれどね。なーんて。

 

学校開始を告げる始業チャイムが鳴った。程なくして、手にポスターの筒を持った茶柱先生がやって来る。その顔はいつもより険しい。

池くんがセクハラジャブを繰り出すが、茶柱先生に一切構う様子はない。

 

「これより朝のホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか?気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」

 

生徒たちからの質問があることを確信しているかのような口ぶり。実際、数人の生徒がすぐさま挙手した。

 

「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてないんですけど、毎月1日に支給されるんじゃなかったんですか?今朝ジュース買えなくて焦りましたよ」

 

1か月で10万も使い切ったんかーい!

 

「本堂、前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月1日に振り込まれる。今月も問題なく振り込まれたことは確認されている」

「え、でも…。振り込まれてなかったよな?」

 

本堂くんや山内くんたちは顔を見合わせた。池くんは気付いていなかったらしく驚いていた。…クラスの連帯責任ってことでFAですね。

 

「…お前らは本当に愚かな生徒たちだな」

「愚か?っすか?」

「座れ、本堂。二度は言わん」

「さ、佐枝ちゃん先生?」

 

聞いたことがない厳しい口調に本堂くんは腰が引け、そのままズルっと椅子に収まった。どうしよう、笑っちゃいけない場面なのにちょっと笑いそうだ。

 

「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ忘れられた、などという幻想、可能性もない。わかったか?」

「いや、分かったかって言われても、なあ?実際に振り込まれてないわけだし…」

 

本堂くん、無理するな。もう休め。

 

「ははは、なるほど、そういうことだねティーチャー。理解出来たよ、この謎解きがね」

 

高円寺くんが声高らかに笑った。高円寺くんかー。変人だけど頭抜けて優秀だなぁ。

 

「簡単なことさ、私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、ということだよ」

「はあ?なんでだよ。毎月10万ポイント振り込まれるって…」

「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」

 

ニヤニヤと笑いながら、高円寺くんは茶柱先生にもその堂々とした指先を向けた。…こいつ一々ムカつくな。

 

「態度には問題ありだが、高円寺の言う通りだ。全く、これだけヒントをやって自分で気が付いたのが数人とはな。初日にシステムを8割方解き明かした者もいるが。嘆かわしいことだ。」

 

茶柱先生は明らかに私の方向(こっち)を見ていたが、教室の中は突然の出来事と報告に騒然としており気付いていない様子だった。良かった。

 

程なくして平田くんが手を挙げ、茶柱先生に質問を投げかける。クラスメイトのため理由を教えてほしいと懇願したが、茶柱先生は呆れながらも感情のない機械的な言葉を発するだけだった。改めて10万ポイント全て吐き出すってとんでもない偉業だ。自分事でもあるけど笑っちゃうくらい面白い。

 

しばらくお説教タイムが続き、ホームルームの時間が終わりを告げたところで茶柱先生は新たな動きを見せる。手にしていた筒から白い厚手の紙を取り出し、広げた。それを黒板に貼り付け、磁石で止める。どれどれ…

 

Aクラス 940
Bクラス 650
Cクラス 490
Dクラス  0

 

…有栖のクラスすごいな~(小並感)

 

「ねえ、おかしいと思わない?」

「ああ…ちょっと綺麗すぎるよな」

 

すぐ後ろの席から堀北さんと綾小路くんの喋る声が聞こえる。奇妙な点に気が付いたようだ。流石に頭の回転が早い。

 

茶柱先生は淡々と説明を続けるが、池くんは叫ぶし山内くんは阿鼻叫喚だし…ごめんなさい、2人には悪いけどやっぱりこうも慌てる姿は正直面白いや。大丈夫、山菜定食とミネラルウォーターがあるから死なないよ!

 

「何故…ここまでクラスのポイントに差があるんですか」

 

平田くんも貼り出された紙の謎に気が付いた。あまりに綺麗にポイント差が開いている。

 

「段々理解してきたか?お前たちが、何故Dクラスに選ばれたのか」

「俺たちがDクラスに選ばれた理由?そんなの適当なんじゃねえの?」

「え?普通、クラス分けってそんなもんだよね?」

 

各々、生徒たちは友人と顔を見合わせている。

 

「この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへ、と。…つまりお前たちは、最悪の不良品ということだ。実に不良品らしい結果だな」

 

ダメな生徒。最悪の不良品。

 

散々な言われようだったが、私はどこか懐かしさを覚えていた。

 

椚ヶ丘中学校3年E組も『エンドのE組』と呼ばれ、本校舎の教師・生徒から冷ややかな目を向けられていたのを思い出す。優秀な95%の生徒たちに「E組のようにはなりたくない」という優越感と緊張感を持たせ、学業を効率化させるため生み出されたシステム。今年度から問題視されてなくなったようだが、去年まではガッツリ適用されていた。

 

「…これから俺たちは他の連中にバカにされるってことか」

 

ガン、と机の脚を蹴ったのは須藤くん。もうとっくにバカにされていると思う、と言いたいところだったが争いは嫌いなため大人しくしておく。

 

茶柱先生曰くクラスポイントを増やせば上のクラスに昇級できるらしい。

なーんだE組システムよりぬるいな、と思ってしまう辺り私も大概椚ヶ丘に染まり切ってしまっている。

 

「さて、もう一つお前たちに伝えなければならない残念な知らせがある」

 

黒板に、追加するように貼り出された1枚の紙。そこにはクラスメイト全員の名前が、ずらりと羅列されている。そして各氏名の横には、またしても数字が記載されていた。

…何でもかんでも晒さないでください!

 

「良かったな。これが本番だったら7人は入学早々退学になっていたところだ」

「た、退学?どういうことですか?」

 

再び茶柱先生から説明がされる。どうやら1科目でも赤点を取れば退学らしい。今回のテストで言えば32点未満。赤点組は文句を言っているが、本番じゃないだけ優しいと思う。

 

「…狐坂さん。あなた見かけによらず相当頭が良かったのね」

 

後ろの席の堀北さんの呟きは、声量は普通だったものの思いの外教室に響いた。堀北さん以外のクラスメイトからも視線を感じる。

 

表の一番上には私の名前と、97という数字が記載されている。5の倍数でないということは…部分点をもらえたのか。あの問題、カルマくんと浅野くんなら軽々正解しただろうなぁ。後で復習しないと。

 

「ん~?たまたま中学の時勉強した内容が出たから解けただけだよ~」

「…とても中学で習う内容のようには思えないのだけれど」

「ほんとだって~。数学が得意な友達に教えてもらったんだ~」

 

堀北さんは信じられないといった様子だが、事実なのだからこれ以上は言いようがない。そして学校が謳う『希望の進学・就職先に100%進める』のはAクラスだけと明かされる。

 

「世の中そんなに甘くない」と茶柱先生は言うがまさにその通りだろう。ちなみに私はAクラスの特典にはあまり興味が無い。無事に卒業できればそれでいいや。

 

がっくりと項垂れる赤点組たち。いつも堂々としている須藤くんも、舌打ちをして俯いた。





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