ようこそ元暗殺者のいる教室へ   作:solder

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8.過去問と中間テスト

中間テストは個人の地力を上げて臨むべきだと思っていた。

だからこそ私は平田くんの『勉強会』というある種正攻法の案に乗り、地道に学力の向上を図った。

 

が、それは水泡に帰した。この学校はどうやら正攻法だけでは乗り切れないようで――。

 

他のクラスより1週間程範囲変更の通知が遅れたのも()()()()論外だ。E組のように学校全体で特例扱いされているならまだしも、この学校におけるDクラスは違う。

 

となれば、範囲変更の伝え忘れはもっと重大な、大問題になっても良いはずだ。何せこの学校の定期考査は退学者が掛かっている程のビッグイベント。多少の救済措置が用意されたとしてもおかしくない。

 

なのに、実際は問題に()()()()()()

 

逆に言えばそれでも許される理由があるから、さしたる問題にはならなかったのではないか。

搦め手・抜け道・裏技――何らかの手段を用いれば退()()()()()()()()()というメッセージ。

 

茶柱先生は小テストの際、『カンニングは厳禁』と釘を刺していた。中間テストも同様に考えて問題ないだろう。

考えるべきは、カンニングに近い手段――例えば、中間テストの問題を茶柱先生からポイントで購入した上で解答を丸暗記するとか…

 

うーん。ルール的に購入できなくはなさそうだが、学校側を介すと少しややこしいことになりそうだ。

 

小テストの出来事をもう一度思い出す。『カンニングは厳禁』『今後の参考用』『ノーリスク』。含みのある言い方はしていた。

 

他に違和感と言えば――…妙に難易度の落差が激しかったこと。最後の3問だけ飛び抜けた難問で、他は簡単だった。Dクラスは元の学力差的に点数のバラつきが生じたが、A・Bクラスなら同点で85点が大量に出ていてもおかしくはない。ここまで意味のない小テストを『参考用』として活用できるのだろうか。

 

私は当初、『今後』を()()()()()()参考用だと捉えていたが、こうなると()()()()()()参考用という可能性が浮上する。

 

参考用。露骨な難問。問題・解答。カンニング。ポイント交渉。

 

 

…あ。

 

 

 

*

 

 

 

「綾小路くん、ちょっといいかな~?」

 

チャイムが鳴ると、私はすぐに声を掛けた。

 

「ああ。飯食いたいから食堂でもいいか?」

「そのつもりだよ~。じゃあ行こっか~」

 

一緒に食堂へ向かう。先に席を確保すると、綾小路くんが()()()()()()()()切り出した。

もし彼が目立ちたくないなら、私が先に動いた方が何かと都合が良いだろうから――。

 

「これ見てもらえる~?」

「これは…」

 

個別チャットに送信するは、1週間後に行われる1学期中間テストの過去問。

 

先日、3-Dの先輩と直接交渉して得たものだ。山菜定食を食べている、お人好しそうな先輩を狙って凸った。道場破りの件があるため、人選は慎重に。

 

具体的には『Dクラス』『クラスポイント0』『退学になりたくない』『(クラスメイトが)ピンチ』と適当に同情を引くようなことを言って泣き落とし、8000ポイントで入手。…どれも事実であり、嘘は言っていない。はず。

 

「テストの過去問か。狐坂はすごいな、オレには思いつかなかった手段だ」

 

冗談キツいよ。どうせ私より先に気が付いてるだろうに。

でも敢えて何も言わない。事情は分からないけれど、黙って見守ると決めたから。

 

「簡単な問題の中に難しい問題が混ざってて…もしかしてって思ったんだ~。小テストの問題はまったく同じだったから使えると思うよ~」

「なるほどな。いくらだった?オレも払う」

「気にしないでいいよ~。綾小路くんはお友達だからね~」

「いや、流石に悪いぞ。頼む、教えてくれ」

「…今度新作のミルフィーユおごって~。有名なパティスリーのやつ。それでいいよ~」

「分かった」

 

借りを作りたくないのかな。ポイントに余裕あるから本当に気にしなくていいのに。

 

「これをクラス全員に共有してほしいんだ~」

「…オレのクラス内での立ち位置を知っていて言うか、それ」

「櫛田ちゃんにでも頼めばいいじゃん~。なかよしだよね?」

「仲良しではないぞ…それ、オレを経由する必要はあるか?」

「あるよ~」

 

櫛田桔梗は、狐坂小鞠を嫌っている。

 

表面上は友好的だが、感情の機微を見ていれば何となく分かる。最初はけーちゃんグループと反りが合わないだけかと思っていたけれど、全方面に顔が利くためそうでもない。

単純に、私個人が嫌われているのだ。

 

正直悲しい。何もしてないはずなんだけどなー。嫌われる程深く関わってもいない。もしかして同族嫌悪ってやつ?…でも私、表でも割と毒吐くし、櫛田ちゃん程優しくはないはずなんだけど…。

 

ただ、表面上は友好的なため全く問題はない。彼女は頭が良いから、こちらから行動を起こさない限りは下手に動かないだろう。現状維持が最適解。

 

私も万人に好かれたいとは思っていないし、何となくコイツが嫌いって生きていて普通にあることだよね。相性もあるし。

 

「綾小路くんも過去問を手にいれようとしてたから、二度手間になると思って。ポイントもったいないからね~」

「オレは過去問なんて手段、思いつかなかったぞ」

 

…引っ掛からなかったか。

 

「そっか~。配るタイミングとかはお任せするよ~。櫛田ちゃんが入手したことにしてもいいから…ではよろしくね~」

 

ちょうどお昼を食べ終わり、私は食堂を後にした。

 

 

 

*

 

 

 

時は流れ、中間テスト返却日。

 

前日に櫛田ちゃんが配布した過去問の力もあり、当日のDクラスは順調だったが、結果は如何に。教室には只ならぬ気配が蔓延していた。

 

「放課後じゃ、色々と()()()が間に合わないこともあるからな」

「それは…どういう意味でしょうか?」

「慌てるな。今から発表する」

 

生徒の名前と点数の一覧が載せられた大きな白い紙が黒板へと貼り出される。高得点の乱舞。

ただ、肝心なのは前日寝落ちしたという須藤くんの英語の点数だ。39点。

 

「っしゃ!」

 

赤点のラインを示す線も見当たらない。クリアしたように思われた。

…が。茶柱先生は赤いペンを持ち、須藤くんの名前の上に1本の赤いラインを引く。

 

「お前は赤点だ須藤」

「は?ウソだろ?ふかしてんじゃねえよ、なんで俺が赤なんだよ!」

 

喜びから一転、須藤くんの赤点扱いに、騒然となっていく教室。

須藤くんと池くんは「31点が赤点」と抗議したが、赤点の判断基準は点数ではなく、平均点÷2だと明かされた。

 

堀北さんも須藤くんのため最後まで茶柱先生に粘る。しかし、これ以上は無理だと判断したのか、ゆっくりと腰を下ろした。

堀北さんは危険を承知で、自らの点数を削ってまで須藤くんの退学を阻止しようと奮闘した。中々できることではない。

 

「ど、どこ行くんだよ綾小路!」

「トイレ」

 

綾小路くんが席を立つ。堀北さんはよくやっている。()()()、あと一歩。あと一歩気付いて。

 

 

「…堀北さん。須藤くんのこと、諦めちゃうの?」

「もう手は尽くしたわ。結果は決まった。狐坂さんもさっきの話、聞いていたでしょう?これ以上は無理よ。」

「本当に手はつくしたのかな?」

「…私の指導が足りなかった、と?」

「この学校って変わってるよね~」

「脈絡の無い話はやめてもらえるかしら。今、私が苛立っているのが分からない?」

「『学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ』…Sシステムだっけ?普通はないよね~」

 

堀北さんが勢い良く立ち上がり、教室を出る。良かった、気が付いてくれた。やっぱり堀北さんは優秀だ。すぐさま私も追いかける。

職員室を目指すと、1階の廊下に茶柱先生と綾小路くんの姿を見つけた。

 

「…特別に今、この場で10万ポイントを支払うなら、売ってやってもいい」

「意地悪っすね、先生は」

 

「―――私も出します」

 

うおおおおかっけ~!

 

「堀北…」

「あ、わたしも出しま~す」

「クク。やっぱり、お前たちは面白い存在だ」

 

茶柱先生は3人の学生証を取り上げる。

 

「いいだろう、須藤に1点を売ると言う話、受理した。お前たちから合計10万ポイントを徴収させてもらう。「わたし4万ポイント払います~」…承知した。須藤には退学取り消しの件、お前たちから伝えておけ」

 

今回の件は2人に任せきりにしてしまったし、本当は半分くらい払っても良かったんだけど。2人はあまり借りを作りたくなさそうなタイプだから断られない程度の額で申告しておく。

 

短期間なのに堀北さんの成長は凄まじいな。1年経った頃には屈指の指導者(リーダー)になっていても不思議ではない。

茶柱先生が去り、私たちも教室への道を戻る。

 

「…狐坂さん、さっきはごめんなさい。助けてもらったのに、当たってしまって。その…ありがとう」

 

うおおおお貴重なデレ戴きました!

 

「ううん。須藤くん、退学にならなくてよかったね~」

「…そうね。」

 

 





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