新婚楽玲(年齢操作あり、たぶん二十代後半くらい)
初書きベタ甘楽玲です。メインジャンルが二次創作BLなのでそういう文体です。何が出ても許せる人向け。よろしくお願いします。

1 / 1
翌日は当然一日ゲームに使う

 理由もなく猛烈に玲さんを抱きしめたくなるときがある。例えば、皿洗いをしている彼女が鼻歌で口ずさんでいるのが先日二人でプレイしたゲームのBGMだと気づいたとき、とか。

「ひゃぅあ!?」

 思い立ったが、とばかりに後ろからそっと近づいて抱きしめたら、頓狂な悲鳴と共に玲さんの手からグラスとスポンジが落ちた。右手でスポンジ、左手でグラスをキャッチ。リアルの反射神経がやたら上がったのは確実にこのやりとりのせいだ。

「グラスキャッチにも慣れちゃったんだけど、玲さんは慣れないね?」

「らくろうくんのせいです……!」

 覗き込みながら意地悪く口角を上げたら、玲さんは頬を真っ赤に染めて俺を睨み上げた。うーん、かわいい。実際のところ、この顔が見たくて不意打ちを仕掛けているところはある。

 ごめんごめんと軽く謝って、薄い体に回した腕はそのままに彼女の頭に顎を乗せる。この収まりの良さを見よ。そこそこ長身に生まれてよかった。

「あの、お皿が洗いづらいです……」

 顎の下から不満げな声。まあそうだろう。

 普段ならこの辺りで解放するけれど、今日の俺はどうやら多少意地悪がしたい気分らしかった。

「んー、頑張れ?」

「頑張れじゃないです!」

 ゲームならぷんぷんとエフェクトが出ていそうな反応を返した玲さんが首を振る。顎の下に髪が擦れてくすぐったい。

「縛りプレイってことで、どう?」

 まあ今日の俺はそんなことでは引かないので。腕に込める力を強めたら、玲さんが小さく悲鳴を上げて固まった。相変わらずウブなことだ。

「ひゃ、は、ひゃい……」

 玲さんのこのバグが対俺限定特殊モーションだと判明したのはいつだったか。自分の恋にも彼女の恋にもなかなか気づかなかったことを当時は散々煽られたが、シャンフロでもリアルでも高嶺の花のこの人が、まさか俺に片想いしてるなんて考えるはずもないだろう。

 いわゆる「青春」を投げ打ってゲームに全力投球していたら高嶺の花攻略ルートに初めから好感度マックスで突入しましたってそんな裏ルート、誰が考えるんだ。ライフイズクソゲー、いや、結果的には神ゲーか?

 ようやくフリーズから回復した玲さんが皿洗いを再開する。若干ぎこちないのはご愛嬌だ。

 一応言っておくが、俺だって家事くらいするし、今日玲さんが皿洗いをやってくれているのは俺が夕飯を作ったからだ。奥さん……奥さんなんだよなあ……にばかり家事をさせるようなやつではない、断じて。

 

 皿を洗う玲さんが小さく動くたびに、昔より少し伸びた髪が俺の顎の下で揺れる。首筋や顎下をくすぐられているみたいな気分だ。

 こんなことができるまでに、めちゃくちゃ紆余曲折あった。お互い、恋愛にスキル振りなんてしていなかった故の事故が九割、周りのお節介が空回りしたのが一割。まあお節介なクランメンバー(+α)に外堀を埋められなかったら今の俺はここで玲さんをハグなんてしてないと思うので、そこは目を瞑ってやろうと思う。

 

 とにかく、俺が玲さんに向ける恋愛感情に気づくまでに二年、それから告白までに二年、さらに手を出すまでに一年近く、みたいなペースだったもので、結婚が決まった時に一番言われたのは『最高速度(スピードホルダー)はどうした?』だった。うるせーゲームとリアルは別なんだよバーカバーカ。

 

 泡まみれの玲さんの手を見下ろす。相変わらず細くて白い。こんな手でリアルファイトも強いんだから恐れ入る。初めて手を繋いだときも、抱きしめたときも、彼女の小ささ細さに驚いたものだ。ついゲーム内の最高火力(アタックホルダー)様の印象が強くなってしまう上に、リアルでも高嶺の花だった——いや今もか?——彼女が「女の子」であることを正しく理解して俺までバグりかけたのが懐かしい。二人で赤面しながら噛み倒す姿はさぞいい見せものだっただろう。あのときはちゃんと二人っきりでよかった。

 

 腕に触れる柔らかい感触が生々しい。当然だ。リアルの体なんだから。煩悩が顔を出すのを、サイガー0の戦いぶりを思い出すことで抹殺する。よかった今日はこれで対処できそうだ。本当にどうにもならない日は、でもリアルの玲さんは……とろくでもない方向に思考が走るので。

 いま欲に身を任せた場合、ヘタをするとキッチンでぶん投げられる。流石にそれは回避したい。俺のダメージ的にも、皿その他のダメージ的にも。

 

「……あの、楽郎くん」

「……ん⁉︎はい、どうしました?」

 思考が飛んでいたのを引き戻したのは、玲さんの俺を呼ぶ声だった。俺に捕まっているせいで身動きが取れない玲さんが、困ったようにお皿洗い、終わりましたと言う。

「あっ、あ、はい、ありがとう、お疲れ様でした」

「いえ、こちらこそ……」

 用もないのにシンクの前で二人して突っ立ったままくっついているわけにもいかない。名残惜しく解放すると、玲さんもぎこちない動きで濡れた手を拭いて、俺に向き直った。

「お皿洗い、終わりましたよ?」

「うん?うん」

 見たらわかるけど……と言いかけて寸前で止まる。たぶん、そういうことではない。

「……気が済んでしまいましたか?」

 唸れ俺の推察力、ありとあらゆる(クソ)ギャルゲーで鍛え上げただろ、と思う間も無く追撃が来て、俺はあえなく撃沈した。

「ごめん、俺が悪かった」

「へぇあっ⁉︎」

 謝罪もそこそこにぎゅっと抱きしめる。煽ったくせに本当にされるとは思わなかったらしい玲さんがまたバグりかけの悲鳴をあげた。

「奥さん、明日の予定は?」

「おっ、おくっ……!えと、あの、休日です!」

「そりゃよかった」

 というわけで遠慮なく抱き上げる。玲さんのバグが暴れ方面じゃなくてよかった。基本フリーズなので、むしろこういうときには好都合だったりする。

「ら、楽っ、郎くん、今日は、ゲームは……⁉︎」

 玲さんのひっくり返った声で、夕飯のときにせっかくだから二人でシャンフロにインしようか、という話をしていたのを思い出した。俺としたことがゲームの優先順位が下がっている。

 しかし、まあ。

 腕の中で真っ赤になっているこの人を今すぐサイガー0(ゲーム廃人)にしてしまうのはもったいない、と思ってしまったので。

「それは明日、是非とも」

 せっかく休日前夜だし、誰かと約束があるわけでもないし、何より、新婚だし。今夜一晩インしなかったところで、せいぜい冷やかされる程度で済むだろう。

 前髪の隙間から覗く真っ赤になった額に一つ口づけを落として、俺は最高に機嫌よく寝室への扉を開けた。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。