SOUL CATCHER(S) Tank and Reaper   作:アニアス

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第一話  目

外が賑わっている中、校舎内でも部活動生たちが新入生たちを迎え入れるため各々準備に取りかかっていた。

慌ただしく廊下を走ったり入部届の受付をしたりと忙しそうにしている中、廊下を歩く女子がいた。

 

彼女は鳴苑高校二年吹奏楽部所属の久住智香。

新たに入部してくる新入生を迎え入れる準備を友人である吉川佳苗と共に行っている最中である。

 

「結構人来てるね!」

「ねー!」

 

吉川と雑談しながら歩いていると、久住の前に人が歩いてきておりそれに気付き顔を上げる。

そこにいたのは髪を伸ばしている男子だったが、久住はその顔を見て固まってしまう。

 

(音羽先輩…!)

 

3年生にしてトランペットパートリーダーの音羽悟偉。

暴君の異名を持つ彼だが、天才と言っても過言ではない演奏技術の持ち主。

 

久住は半年前に音羽とセッションをすることがあったが、県内トップクラスの演奏についていけず高圧的に指摘を受けてトラウマになりかけていた。

 

「?」

 

音羽は顔を青くしている久住を見ても、どうして怯えているのか理解しておらず首を傾げてしまう。

そんな音羽に久住は軽く会釈をして逃げるようにすれ違うものの、ふぅと深く息を吐いてしまう。

 

「智香何してんの?先行っとくよ?」

「う、うん…」

 

先に吉川を行かせた久住は落ち着きを取り戻しては振り返って音羽の背中を眺めた。

 

(やっぱりまだ怖いなー音羽先輩…他の人は仲良くしてるし絶対いい人なんだろうけど…)

 

今思えばあの時のセッションも自分たちの演奏の技術を上げるためのものだと理解はしているが、担当楽器も違うため頻繁に関わることもないため怖い印象が残ってしまっている。

しかし人のことを悪く思うのはよくないと頭を振って無理やり怖いという認識を取り除こうとする。

 

(私の気持ちの問題だし!私が音羽先輩に慣れなきゃ!)

 

これからも一緒に演奏する吹奏楽の先輩後輩としての関係を良好にしようと久住が気持ちを改めた時だった。

 

「あの…」

「はい?……!?」

 

不意に声をかけられて久住が前を見ると目を見開いて驚いてしまった。

 

声をかけてきたのは黒髪の大人しそうな男子だった。

祝入学の名札をつけているところから新入生だと推測するものの、久住はその両隣にいる女子2人の方へ注目してしまう。

 

右には金髪のロングヘアーで笑顔を向けている外国人の女子、左には高身長で久住を見下ろしている女子だったからである。

 

(うわぁ外国人だ…!何処の国の人だろう…!?こっちの人は凄い高い身長…!何センチあるの…!?)

 

2人に唖然となっている久住に黒髪の男子は再び声をかけた。

 

「あの-……」

「あっ!?ご、ごめんなさい…!どうかしたの…?」

「いえ、実は僕たち3人吹奏楽部を探してまして…ご存知なら教えていただけないかと思いまして」

 

どうやらこの3人は吹奏楽部に入部希望のようで、久住は好都合だと思い3人を案内することにした。

 

「そうなんだ!実は私、吹奏楽部に入ってるんだ!」

「え、そうなんすか?じゃあ私らの先輩になる人ってことじゃん」

「1発目で吹奏楽の人に会えるなんてラッキーデース!これからよろしくお願いデース!」

 

高身長の女子はテンションは低いが、外国人の女子は反対に元気よく久住に挨拶を返した。

外見からしてかなり個性的な2人だが久住からしたら好印象であった。

 

「じゃあ早速案内を」

「あの、その前に少しいいですか?」

「えっ?」

 

久住が3人を吹奏楽部へ案内しようとした時、その内の黒髪の男子が久住を呼び止めた。

 

何か聞きたいことがあるのかと思っていると、黒髪の男子はゆっくりと口を開く。

 

「いきなりだし間違ってたらすみませんが……さっきすれ違った人、苦手なんですか?」

 

「えっ……」

 

どうやら音羽先輩とすれ違ったところを見ていたようだったが、苦手というところを当てられて久住は少し驚いてしまうが平然を装いだす。

 

「な、何のこと…?」

「中学の時、僕も似たような経験があって…雰囲気で分かっちゃったんです…」

 

吹奏楽経験者として気持ちを理解できると主張する黒髪の男子の言葉を久住は唖然となって聞くことしかできず、あとの2人も何もしないで黙って聞いていた。

 

「けど、無理して仲良くなる必要はないんじゃないんですか?吹奏楽って大勢でやりますから合う人合わない人は絶対いますし…たった1人合わない人がいたとしても問題ないですし…」

(何なのこの人…!?なんで、そんなこと…!)

 

一方的に話を進める黒髪の男子に久住は恐怖を抱き始める。

まるですべてを見透かしているかのようで心臓の動きが速くなっていく。

 

そして、

 

「そもそも、原因をつくったの向こうでしょ?」

 

その言葉に久住はハッとなり音羽の行いを思い返した。

 

(音羽先輩が無理やりセッションに入ってきて…振り回されて、全然やめてくれなくて…それで、私は…)

 

勝手に入ってきて、勝手に引っ掻き回した音羽に久住は恨みの感情を少しずつ膨らませていく。

彼の言う通り自分が無理に合わせる必要はない、いや合わせたくないと徐々に考えを変えていった。

 

 

(生まれた生まれた…責任転嫁と小さな恨み…生まれた生まれた…)

 

(始まったちゃったデス…ヨシヒトのオアソビ…)

 

(コイツ…また性懲りもなく…)

 

 

 

 

 

「アンタ、そこまでだ」

 

 

 

『!!!』

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

吹奏楽部所属、神峰翔太。

彼には誰にも打ち明けられない秘密があった。

 

それは、人の心が見えるということだった。

慣用句などで使われる『心が震える』という比喩表現ではなく、実際に心の状態を見ることができるのである。

だが心がつぶれたり閉ざされたりする状態を多く目の当たりにしているせいで自分の目を忌まわしく思っていた。

 

そんな彼に去年の文化祭、転機が訪れる。

 

サックスで人の心を掴める刻坂響との出会いにより、神峰は指揮者になることを志した。

その条件として顧問の谺先生から出された課題は、吹奏楽部の各パートリーダー13人に認められるというものだった。

様々な困難や試練が神峰に襲いかかるが、逃げずに心から向き合って大半から認められるようになっていった。

残すパートリーダー4人からも認められ指揮者の一歩を踏み出すと改めて志した時だった。

 

友人の刻坂と廊下を歩いていると、同学年でホルン奏者の久住が新入生らしき3人の相手をしているのを見かけた。

だがその内の1人が先輩である音羽のことをまるで悪人のように言葉を繋げていくと久住の心に黒いものがへばりついていった。

確かに音羽は自分勝手な一面があるがそれは部のため久住たちのためでもある。

 

このままでは誤った解釈をしてしまうことを恐れた神峰は久住の前に割り込んで黒髪の男子と向かい合った。

 

「アンタ、そこまでだ」

 

突然の神峰の登場に久住と黒髪の男子はもちろん、その両隣にいる外国人の女子と高身長の女子も少し驚いてしまう。

 

「さっきから話が聞こえちまったけど、音羽先輩が悪人みたいじゃねぇか…!」

 

心と向かい合うことにまだトラウマが残っているが、それでも見て見ぬふりはできなかった。

これ以上心が黒くなるのを阻止した神峰は取り除く作業に移る。

 

「久住さん。音羽先輩ってメチャクチャいい人で面白いからさ、この後一緒にからかいに行こうぜ!」

「……う、うん!」

 

神峰に諭されては久住は先程までの考えをきれいさっぱり切り捨てたと同時に、心にへばりついた黒いものも消え去った。

そして神峰と刻坂に新入生3人の案内を任せると吉川の元へと向かっていった。

 

久住の心を見て神峰はホッとしてしまう。

 

(よかった、消えてくれて…)

 

その時だった。

 

「………消えちゃったか」

 

黒髪の少年がボソッと呟いた一言が耳に届いた。

それに反応して神峰は恐る恐る振り向いて再び対面する。

 

「き、消えたって…何がだ…?」

「あ!すみませんこっちの話です!気にせずに忘れてください!」

 

慌てた素振りで誤魔化す彼だが、神峰は思わず聞いてしまった。

 

 

 

「見えてんのか?」

 

 

『!!??』

 

 

 

その質問に神峰の目のことを知っている刻坂と新入生3人は目を見開いてしまう。

神峰自身も口走ってしまったと自覚するがどうしても違和感があった。

 

周りが部活動勧誘で人が込み合っている中、久住が音羽を避けたのを気づくことができたのか。

例え偶然気づけたとしても、音羽が苦手である見抜けたのか。

 

否、それは絶対にあり得ない。

 

具体的に見抜けるなんて"普通の目"なら絶対に不可能だと神峰がある可能性を思い浮かんだ直後、黒髪の男子が口元に笑みを浮かべて答えた。

 

 

「見えてるって例えば…へばりついた黒いもの、とかですか?」

 

 

それを聞いた神峰と刻坂は確信した。

コイツは神峰同様に人の心を見る目を持っていると。

 

そして相手側も同じような反応を見せる。

 

「心の表現に食いついた人なんて初めて会いました…貴方も僕と同じなんですね?」

「驚いた…!まさか、クロと同じ目を持つヤツがいるなんて…!」

「ビックリギョーテン!アンビリーバボーデス!」

 

黒髪の男子は感心するように神峰を観察し残りの2人も驚いて声を漏らしてしまう。

 

(この2人は見えてねぇみたいだが、コイツ自身が目を持っていることを知っているのか…!?)

 

いったいこの3人は何者なのかと神峰が動揺を隠せずにいると、新入生3人は自己紹介を始めた。

 

 

 

「僕は黒条善人です。よろしくお願いします、先輩」

 

「鳴海皐。身長は207センチ、担当楽器はサックスです」

 

「去年の秋に、ドイツからやって来ました、キルスティン・シュナイダーデス。長いので"キルティ"と呼んでくださいデス。マイパートナーはトランペットデス」

 

 

 

新入生の黒条、鳴海、キルティが自己紹介を終えるも神峰と刻坂の警戒は解けずにいた。

圧倒的な存在感を誇る鳴海とキルティはともかく、神峰と同じ目を持つ黒条からは目が離せずにいる。

 

(コイツの心、ヤバすぎる…!まるですべてを飲み込む、ブラックホールだ!)

 

黒条の心は心そのものが見えないほどの黒い影で覆われており見ているだけで吸い込まれてしまいそうな程だった。

 

それにさっきの黒条の行動も引っ掛かっていた。

 

心が見えているということは、久住の悩みを見抜いた上でわざと心を黒く染めたことになる。

その行動に一切の躊躇もなかったため何故そんなことをしたのかと思っていると黒条が口を開いた。

 

「僕の生きがいを取らないでください!どうして消しちゃうんですか!」

 

『は?』

 

まるでただを捏ねる子供のように反論してくる黒条に神峰も刻坂も呆気に取られてしまう。

心を黒く染めたヤツとは思えない純粋さに目を丸くしていると黒条が続けて言う。

 

「人の心が変わるのって凄くいいことだと思いませんか?あ!ほらあれを見てください!」

 

黒条が指を指した先にいるのは新入生だったが気が弱そうでオロオロしていた。

神峰が自身の特別な目で彼の心を見ると、先輩に話しかけようにも勇気がなく心がどんどんへこんでいく。

しかし忙しいのか先輩たちはそんな彼に気がつくこともないため、心が完全に潰れてしまうのも時間の問題である。

 

それを見た黒条は曇り気のない晴れ晴れとした笑顔になった。

 

「ああいう人の変わり様を見ていると【あぁ、今生きてるなぁ!】って清々しい気持ちになりませんか!?」

「凄い爽やかな笑顔デスネ、ヨシヒト」

「腹ん中は真っ黒だけど」

 

表情と言動が一致していない黒条にキルティも鳴海も苦笑いを浮かべてしまうが、神峰と刻坂は何も言えなくなってしまった。

 

(何なんだコイツは…イヤな心を見て楽しんでやがる!それなのに、あとの2人は…気にもしてない!)

 

平然とするどころか傷つく心を見て生きがいを感じる黒条。

そんな黒条の行為を咎めようともしない鳴海とキルティ。

この3人はどこかおかしい、何かがずれていると思ってしまう。

 

(もし、コイツらが吹奏楽部に入ってしまったら…俺より先に、吹奏楽部に入っていたら…)

 

その時、神峰の脳裏にイメージが浮かび上がった。

 

自分がいる場所は映画館の中。

スクリーンには黒条が神峰より先に吹奏楽部に入った光景が映し出されていた。

各パートリーダーにアドバイスを出してはいるが、今まで神峰が行ってきたこととはまったくの逆。

わざと悪化していく方へと誘導していき心を潰していく。

壊れ、閉ざし、へこみと様々な心の変わり用を想像してしまった神峰は息を荒くしてしまう。

 

「ッハァッ!ハァッ!ハァッ!」

「大丈夫か神峰!?」

 

刻坂により現実に引き戻された神峰だったが尋常ではない程の汗をかいてしまっている。

恐ろしい想像をした最中、震えながら顔を上げると笑みを絶やさない黒条の顔があった。

 

そして息を整えて黒条に口を開く。

 

「お前が、何者で…何がしてぇのか、全然分かんねぇけど…1つだけ言っておく!吹奏楽に入って…さっきの久住さんみたいに、イヤな心を植えつけようとするなら……俺が!全力で止める!」

 

ようやく纏まり成長してきている吹奏楽部で好き勝手にさせないと神峰は黒条に宣戦布告する。

それを聞いた黒条は小さくため息をついてその横を通りすぎていく。

 

「そう、ですか…」

「あっ、待ってくだデスヨシヒト~!」

 

そんな黒条の背中をキルティは慌ててついていき、鳴海もそれに続いていく。

神峰と刻坂はこれからどうするべきか考えていると後ろから声がかかった。

 

「あの。神峰さん…でしたっけ?」

『!!』

 

2人が振り替えると、鳴海が立ち止まってこちらを見ていた。

 

「私からも1つ言っておきますけど…私たち3人は、個人主義者です。私もキルティも、クロがどこで何をしてようが知ったこっちゃないんで……」

「んだと…!?」

 

そう言い残すと鳴海は黒条とキルティの後を追っていった。

 

正体がまったく分からない3人ではあるが警戒しなければと思う神峰であった。

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