魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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王都潜入

王都に着いた誠司達は、三手に分かれて行動することとした。それぞれの役割や内訳は以下の通りとなっている。

 

まず一つ目は、愛子を救出する班だ。これはハジメが担当している。敵の本陣である神山に向かう関係から、騒ぎを起こしにくくするために一人で向かった方が都合が良いというハジメの判断である。何故かキュウコンがしきりにハジメに付いていきたがっていたため、キュウコンも同行させている。もしかすると、何かを感じ取ったのかもしれない。

 

二つ目は、王宮の中に入って安全を確保する班だ。これはリリアーナ・メルドの他に、誠司、ユエ、シアも担当している。愛子の救出に成功した後、彼女の安全を確保するためには、救出後の預け先である光輝達が洗脳の類を受けていないか、彼等が安全と言えるかの確認が必要だった。道中万が一があった時に備えての護衛として、メルド以外にも誠司達の協力をお願いしたいとリリアーナから頼まれたのだ。誠司達としても、大した手間ではないので一緒に行動することにした。

 

そして最後の三つ目は、王都に残り、状況確認する班だ。これはティオが担当している。全体の状況を俯瞰できる者が一人くらいいた方がいいという判断からだ。王都の何処にいるのかは誠司達も分からない。

 

 

 

現在、誠司達はリリアーナの案内で王宮の隠し通路を進んでいた。やがて、暗い隠し通路も出口が見え、出口の先は、何処かの客室だった。振り返ればアンティークの物置が静かに元の位置に戻り何事もなかったかのように鎮座し直す。

 

「この時間なら、皆さん自室で就寝中でしょう。……取り敢えず、雫と香織の部屋に向かおうと思います」

 

闇の中でリリアーナが声を潜める。向かう先は、雫と香織の部屋のようだ。彼女達がリリアーナにとって気の置けない友人だからというのもあるのかもしれないが、こんな事態に勇者である光輝を頼らない辺りが、彼女の評価を如実に示している。

 

リリアーナの言葉に頷き、索敵能力が一番高いシアを先頭に一行は部屋を出た。異世界組が寝泊まりしている場所は、現在いる場所とは別棟にあるので、月明かりが差し込む廊下を小走りで進んでいく。廊下を進む中、メルドはある違和感を抱いていた。

 

(……妙だな。あの棟の警備を担当しているのは、パシオのいる四番隊だったはず。何故騎士が一人もいないんだ? まさか、例の異変に巻き込まれて……)

 

嫌な予感が頭を過ったその時、それは起こった。

 

 

ズドォオオン!!

 

パキャァアアン!!

 

砲撃でも受けたかのような轟音が響き渡り、直後、ガラスが砕け散るような破砕音が王都を駆け抜けたのだ。衝撃で大気が震え、廊下の窓がガタガタと揺れる。

 

「わわっ、何ですか一体!?」

「これはっ……まさか!?」

 

索敵のためにウサミミを最大限に澄ましていたシアが、思わずペタンと伏せさせたウサミミを両手で押さえて声を漏らす。すぐ後ろに追従していたリリアーナは、思い当たることがあったのか顔面を蒼白にして窓に駆け寄った。他の面々も様子を見ようと窓に近寄る。

 

そうして一行の眼に映ったのは、王都の夜空に大結界の残滓たる魔力の粒子が、キラキラと輝き舞い散りながら霧散していく光景だった。

 

「そんな……。大結界が……砕かれた?」

 

信じられないといった表情で口元に手を当て震える声で呟きながら、リリアーナが呆然とその光景を眺めていると、再び何かが爆発して轟音が鳴り響く。そして、王都を覆う光の膜のようなものが明滅を繰り返しながら軋みを上げて姿を現した。

 

「第二結界まで……どうして……こんなに脆くなっているのです? これでは、直ぐに……」

 

リリアーナの言う大結界とは、外敵から王都を守る三枚の巨大な魔法障壁のことだ。三つのポイントに障壁を生成するアーティファクトがあり、定期的に宮廷魔法師が魔力を注ぐことで間断なく展開維持している王都の守りの要だ。その強固さは折り紙つきで、数百年に渡り魔人族の侵攻から王都を守ってきた。戦争が拮抗状態にある理由の一つでもある。

 

その絶対守護の障壁が、一瞬の内に破られたのだ。そして、今まさに、二枚目の障壁も破られようとしている。内側に行けば行くほど展開規模は小さくなる分強度も増していくのだが、数度の攻撃で既に悲鳴を上げている二枚の障壁を見れば、全て破られるのも時間の問題だろう。結界が破られたことに気が付き、王宮内も騒がしくなり始めた。あちこちで明かりが灯され始めている。

 

「まさか、内通者が? ……でも、僅かな手勢ではむしろ……なら敵軍が? 一体どうやって……」

「大方内通者だろうな。向こうには、全ポケモンの中でも強力な催眠術を使えるカラマネロがいるんだ。内通者を作るくらい簡単だろう」

 

呆然としながら思考に没頭しているリリアーナに答えをもたらしたのは誠司だった。ウルの町でも、似たようなことがあったのだ。それと同じことがここ、王都で起こったとしても不思議ではない。

 

その時、誠司達の持つそれぞれの念話石が輝き、そこから声が響いた。王都に残してきたティオの声だ。口振りから、何が起きているのか大体のところを把握しているらしい。

 

『聞こえるかの? 妾じゃ、状況説明は必要かの?』

「ティオか。大結界とやらが壊されたところはこちらでも確認したよ」

『うむ。王都の南方一キロメートル程の位置に魔人族とポケモンの大軍じゃ。中には大きな黒い竜のようなポケモンもおる。結界を破壊したのもそいつの雷じゃ」

「まさか本当に敵軍が……。そんな、一体どうやってこんなところまで……」

 

ティオの報告に、リリアーナが表情を険しくしながらも疑問に眉をしかめるが、誠司達には見当がついていた。おそらく、空間魔法によるものだろう。

 

グリューエン大火山にて、交戦したローゲンという魔人族。そいつ経由で魔人族側に大迷宮の情報が漏れたのだろう。魔人族にも神代魔法を習得した者がいるのはオルクス大迷宮での戦いで既に分かっている。ローゲンは大迷宮のことを理解していないようだったが、攻略者の耳に神代魔法の情報が入れば、何が何でも取りに向かうことが容易に想像がつく。

 

そして、空間魔法を手に入れ、それを駆使して軍勢を瞬間移動させたのだろう。軍そのものを移動させるなど、ユエであっても至難の業なのだが、何らかの補助があれば可能なのかもしれない。現に大陸の南北を飛び越えて、一切人目につかずに王都の目と鼻の先にいるのだ。

 

そうこうしているうちに、再びガラスが砕けるような音が響き渡った。第二障壁も破られたのだ。焦燥感を滲ませた表情でリリアーナが光輝達との合流を促す。しかし、それに対して誠司が首を振った。

 

「中西さん、どうしたんですか?」

「ユエ、シア、悪いがここからは別行動を頼めるか? 外を頼む」

「……ん。分かった」

「え? 外……? あ! はい、了解です!」

「なっ、ここで? 一体何を……」

 

一刻も早く光輝達と合流し態勢を整える必要があるのに何を言い出すのかとリリアーナは訝しそうに眉をしかめた。一方で、メルドは納得したように頷いた。

 

「魔人族の足止め……か」

「ええ、二人には魔人族の足止めをお願いしようと思いまして」

 

その分、こちら側の戦力が減ってしまうが、魔人族の侵攻を放置していたらそれこそ取り返しのつかない事態になりかねない。ユエが窓を開けていると、誠司が声を掛ける。

 

「二人とも、これはあくまで足止めだ。危なくなったら退けよ」

「分かってますって、誠司さん。命大事に、です!」

「ん、勿論そうする」

 

そして、ユエとシアの二人は、窓から王都へ向かって飛び出して行ってしまった。開けっぱなしの窓から夜風と喧騒が入り込んでくる。二人が行ったのを確認した誠司は、リリアーナとメルドの三人で先を進み始める。

 

 

 

突然の結界の消失と早くも伝わった魔人族の襲撃に、王都は大混乱に陥っていた。

 

人々は家から飛び出しては砕け散った大結界の残滓を呆然と眺め、そんな彼等に警邏隊の者達が「家から出るな!」と怒声を上げながら駆け回っている。決断の早い人間は、既に最小限の荷物だけ持って王都からの脱出を試みており、また王宮内に避難しようとかなりの数の住人達が門前に集まって中に入れろ! と叫んでいた。

 

夜も遅い時間であることから、まだこの程度の騒ぎで済んでいるが、もうしばらくすれば暴徒と化す人々が出てもおかしくないだろう。王宮側もしばらくは都内の混乱には対処できないはずなので尚更だ。なにせ、今、一番混乱しているのは王宮なのだ。全くもって青天の霹靂とはこの事で、目が覚めたら喉元に剣を突きつけられたような状態だ。無理もないだろう。

 

彼等も急いで軍備を整えているようだが……

 

パキャァアアン!!

 

間に合わなかったようだ。遂に最後の結界が破られ、魔人族の軍勢が大挙して押し寄せる。残る守りは王都を囲む石の外壁だけになってしまった。外壁を粉砕すべく、魔人族が複数人で上級魔法を組み上げる。ポケモン達が攻撃を仕掛けている。飛行能力を持ったポケモン達は、外壁を無視して王都内へと侵入を果たした。外壁上部や中程に詰めていた王国の兵士達が必死に応戦しているが、全く想定していなかった大軍相手では、その迎撃も酷く頼りない。

 

そんな様子を、城下町にある大きな時計塔の天辺からどうしたものかと眺めていたティオの傍に、王宮から飛び出してきたユエとシアが降り立った。

 

「……ティオ、どんな状況?」

「……お主らか。どうしてここに……?」

「誠司さんから足止めを任されたんですよ」

「なるほど。状況は、ちょうど最後の結界が破壊されて魔人族の侵攻も寸前……といったところじゃな」

 

事態は、かなり深刻なようだ。その時、念話石が反応する。ハジメからの通信だ。

 

『ティオ! 今すぐこっちに来れる!?』

「ぬおっ!? ハジメ、どうしたのじゃ?」

 

念話石から思いのほか強い声音が響き、名を呼ばれたティオが思わず驚きの声を上げた。

 

『ちょっとマズいのが出てきた。先生達を庇いながらだとキツイ!』

「っ!? 相分かった! 直ぐに向かうのじゃ!」

 

ただならぬ事態であることをすぐに悟ったティオは、竜化でリザードンに変身する。咆哮一発上げると、標高八千メートルの本山目指して一気にその場を飛び立った。「先生()」という言い方をしていたのは少し引っかかったが、今は本山に行くのが最優先だ。

 

残ったユエとシアも、自分の役割を全うするために、戦闘態勢に入った。ユエとシアの存在に気づいたオトシドリ達が狙って飛んでいく。

 

 

「さて……と」

 

通信を切ったハジメは、後ろの愛子と数名の神殿騎士を庇うように立ち、目の前の敵を睨みつける。傍らのキュウコンは今にも人を焼き殺せそうなほど恐ろしい形相を浮かべている。

 

目の前には、銀髪の女が宙を浮かんでいた。銀色のドレス甲冑のような戦闘服を身に纏い、背中には一対の銀色の翼を広げている。背後に月を背負い、煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しく、この世のものとは思えない美しさと魅力を放っていたが、瞳だけはひたすらに無感情で機械的。人形のような冷たさを放っていた。

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