魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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登場人物紹介を除いて、今回で100話目になりました。早いものです。まだ原作的には中盤あたりなんですよね〜最後まで頑張ります。


神山潜入

大結界が破壊される少し前、ハジメは神山にある、聖教教会本部の大聖堂に潜入し、愛子の行方を探っていた。いくつもある部屋の中から探し出すのは、気が遠くなってくるが仕方ない。だが、エーフィがいることで、周囲の気配を察知して動けるので、これでもまだ楽な方だろう。

 

「……ここも違うか」

「エフィ……」

「まったく、無駄にデカく、広く造るんだから……」

 

本日何度目になるか分からない溜息を吐き、この建物を建てた教会のお偉いさんを恨みながら、次の部屋に入ろうとするハジメとエーフィ。錬成で鍵は作れるので、鍵が掛かっていても問題ない。そうして、合鍵で次の部屋に入ると、奥から漂ってくる血の臭いに顔を顰めた。嫌な予感をさせつつも、奥に進み、その惨状に思わずハジメは言葉を失った。

 

部屋の奥にいたのは、以前オルクス大迷宮で対峙し、光輝の提案で捕虜となった魔人族、カトレアだった。……正確には、カトレア()()()()()だが。

 

カトレアは、逆さ吊りにされた状態でこと切れている。散々殴られたのか顔はボコボコに膨れ上がった状態で原形がなく、身体のあちこちには針が突き刺さっており、酷い拷問の痕跡がこれでもかと彼女の身体に刻まれていた。正直、パッと見ではカトレアだと分からない有様だ。どす黒く変色しているが、魔人族特有の肌色をしていることや両手両足がないことから、カトレアだと辛うじて分かった。

 

捕虜になった時点で、こうなることは予想していたが、ここまで悲惨だと流石のハジメでも胸にくるものがあった。

 

「これは……早く先生を見つけないとマズいかもしれないな」

「エーフィ!」

 

もしかしたら、愛子も彼女と同じ末路を辿っているかもしれない可能性を考慮し、急いで、愛子の捜索を進める。

 

 

ーーーーーーーーーー

その頃、愛子はデビッド達護衛騎士によって、牢屋から救出され神山からの脱出を試みていた。デビッド達は愛子が姿を消してから、何度も上層部に「会わせろ!」と抗議を行い、それが叶わないと知るや独自に捜索を進めていた。それに辟易した上層部が彼らを地上に降ろし神山への出入りを禁止したのだが、その出来事が逆に、彼らに上層部への怪しさを募らせた。そこで、デビッド達は一旦は命令に従うフリをして、別の神殿騎士達に成り代わることで、こっそり神山に忍び込んだのだ。完全に規律違反であるが、愛する愛子を救うためには手段を選んでいられなかった。

 

「次はこの道を通れば、出られるはずだ」

「わ、分かりました、デビッドさん。皆さん、本当に助けてくださってありがとうございます」

「気にするな。愛子が捕まるなど、何かの間違いに決まってるからな」

 

デビッドの言葉に、他の護衛騎士達も大きく頷く。護衛隊の副隊長のチェイスが急かした。

 

「急ぎましょう。愛子さんの潔白を証明するためにも早くここから出なくては。万一にも()()()()に見つかったら……」

「あいつらが……なんですぅ?」

 

知らない男の声が響き渡った。ねっとりとした陰湿さを感じる声音だ。次の瞬間、愛子もデビッド達も突然現れた神官達によって組み伏せられた。愛子は小柄な女性かつ非戦闘職ということもあって、一人だけだが、デビッド達は騎士ということもあって複数人で押さえつけられている。彼らは通常の神官と違い、黒地に赤い十字架の模様が入った修道服を身に纏っていた。一人の男がデビッドに歩み寄ってきた。

 

「これはこれは。ザーラー殿、いけませんなぁ。あなた方はここへの出入りを禁じられているはずですがぁ?」

「コーヴァス……尋問部隊が何の用だ」

 

尋問部隊。神殿騎士とは別に、教会内で組織されている部隊の一つで、異端認定された者及びその疑いのある者への尋問を専門としている。そして、尋問という名目の拷問を楽しむ人格破綻者の集まりでもある。汚れ役も組織に必要なことから黙認されてはいるものの、その在り方から、同じ教会内でも彼らを忌み嫌う者は少なからずいる。デビッドもその一人だった。デビッドの殺気の籠った視線に怯む様子もなく、コーヴァスは粘着質な笑みを浮かべながら答えた。

 

「決まっているでしょう。そこの罪人を裁きにですよぉ」

「罪人だと……? 何の冗談だ。今まで愛子が、この国のためにどれほど身を粉にして働いてきたか……」

「ええ、存じております。そして、エヒト様を差し置いて不遜にも『神』を自称し、多くの人々を扇動してきたこともねぇ」

「なに……?」

 

思いがけない言葉にデビッドは目を見開く。チェイスが慌てて反論する。

 

「コーヴァスさん、それは誤解です。愛子さんは今まで一度も自分から女神と名乗っていませんし、彼女の『豊穣の女神』の名声も、決してエヒト様を愚弄する意図はありません。寧ろ、愛子さんが称賛されれば、相対的に彼女を召喚してくださったエヒト様への……」

「だが、この罪人は女神と呼ばれることを否定しなかったんだろ?」

 

チェイスの必死の反論に、愛子を取り押さえていた男、ライオスが冷たく返した。他の隊員達とは違って、粗暴な雰囲気を持つ彼は、愛子を睨みつつ言い放った。

 

「分からねえのか? 恐れ多くも『神』の名を使うこと自体が、エヒト様への叛逆だっつってんだよ。おまけに、こいつは先日異端認定された奴らを庇ったんだろ? 弁解の余地はねえな」

「あのっ……私は……ふぐっ」

 

愛子は、何とか声を上げようとしたが、ライオスに頬を殴られる。愛子は、痛みに意識が飛びそうになる。

 

「誰がいつ喋る許可を出した、この罪人が」

「愛子! ライオス、貴様ぁ!」

 

デビッドが声を荒げ、暴れようとするが、数人がかりで取り押さえられているため見動きが取れない。コーヴァスは不気味な笑みを浮かべたまま言った。

 

「今ライオスさんが仰った通り、そこの女は罪人です。我々が罪人をどのように扱おうと、咎められる謂れはありませんなぁ。それよりも、ザーラー殿。今回の件は大問題、あなた方の処分は決して軽くないものだと覚悟した方が良いかと」

「なぁ、コーヴァスさんよぉ。もうこの女ヤッていいか? この前の奴はすぐに壊れたから物足りなくてよ」

「ライオスさん……良いでしょう。そこの彼らへの罰にもなりますしね。しかし、あなたも物好きですねぇ、あんな貧相な身体でも欲情できるんですから」

「へへ、俺は悪食なんでね。さてと、じゃあこの罪人で楽しみますか」

「……ひっ!」

 

ライオスの欲望に満ちた目を見て、これから何をされるのか察した愛子は必死に抵抗しようとするが、ライオス相手には如何せん非力過ぎた。

 

「い、イヤイヤイヤァッ!? 止めて、止めてください!? あぐぅ……!?」

 

抵抗する愛子の頬に再び、しかも今度は本気で殴られ、愛子は恐怖で身体を強張らせる。デビッド達が必死に声を張り上げて、コーヴァスに止めるよう怒鳴るが、コーヴァスは冷たく返すだけだった。

 

「静かになさい。これは神罰。これこそがエヒト様がお望みになられたことなのです。いやはや、汚らわしい罪人に相応しい末路ですねぇ」

 

 

プツンッ

 

この時、デビッドの中で何かが切れたような音がした。

 

 

 

神罰……だと?

 

エヒト様が望んだこと……だと?

 

それに何より……愛子が汚らわしいだと?

 

この世界に召喚されてから……慣れないながらも生徒達のため、この国の人々のために奮闘してきた愛子を?

 

 

……元々、愛子の護衛をすることになったのは、教会からの命令だった。その命令には、護衛以外にも愛子という人材を王国や教会につなぎ止めるという目的もあり、自分達も最初はそのように行動していた。

 

しかし、遠い異世界の地でありながら持ち前の一生懸命さと誠実さで頑張る愛子を近くで見ているうちに、気づけば彼女に惚れ込んでしまっていた。その惚れた相手を、自分の所属する聖教教会は拘束し、罪人扱いしている。

 

挙句の果てに目の前の奴らは、そんな愛子の命だけでなく、尊厳まで奪おうとしている。

 

ふざけるな。もしも、これがエヒト様の意思だというのなら……

 

そんな不条理を是とする神など…………いてもいらない。

 

 

デビッドの身体からフッと力が抜ける。それにより、彼を押さえつけていた神官達との間に、一瞬だけ隙間が生まれた。その隙を突いて、デビッドは拘束を抜け出す。そして、素早く腰の剣を引き抜いて、先程まで自分を押さえつけていた神官達を斬り伏せた。

 

これにより、自由になったデビッドは、愛子の服を脱がそうとしていたライオスの元に踏み込み、彼の右腕を斬り落とした。

 

「はへ……?」

 

ライオスは一瞬何が起こったか分からず、変な声を漏らしながら、自分の腕を見つめる。やがて、自分の右腕が無くなったという事実を理解すると同時に、激しい激痛が彼を襲い、半狂乱の声を上げた。

 

「ああああああああああああっ!! 腕がっ! 俺の腕があああああぁぁ!!」

 

ゴロゴロと転がって痛みに悶えるライオスを見て動揺したのか、他の護衛騎士達を拘束していた神官達の拘束が一瞬だけ緩くなる。その隙を突いて、護衛騎士達もデビッドと同様に、拘束を抜け出して反撃していく。

 

「愛子、大丈夫か!?」

「は、はい……なんとか……うっ……!」

 

今し方、強姦されかけたという事実を思い出してしまい、愛子は吐き気を耐える様に口元を押さえた。デビッドはこれ以上何も言わず、持参していたタオルを差し出す。

 

「きざま、よくも、よくも俺の腕を!」

 

なんとか自力で止血したのか、ライオスは目を血走らせながらデビッド達に怒鳴り散らすが、ライオスの言葉はこれ以上は続かなかった。チェイスがその首を斬り落としたからだ。チェイスが嫌悪感に顔を歪ませて、吐き捨てた。

 

「……生まれ変わりなさい、下種が」

 

デビッド達は愛子を庇うように前に立ち、最後に残った一人、コーヴァスを睨みつける。コーヴァスは動揺しつつも、それを表に出さないように必死に虚勢を張った。

 

「……どういうつもりですかな、ザーラー殿。たかだか罪人一人のためにこれ以上罪を重ねるなど、愚の骨頂ですぞ。エヒト様の……」

「エヒト様だの何だの……もうどうでも良い」

 

デビッドの、いや、デビッド達の目には後悔の色は一切なかった。そこには、愛する女性を一刻も早く安全な場所へ逃がさねばという強い使命感だけだった。それに気づいたコーヴァスはデビッド達を口汚く罵る。

 

「この……背教者どもが……貴様らのような屑がこの聖域にいるなど……エヒト様への冒涜……! 許す訳には……」

ドパンッ!

 

コーヴァスの罵倒は突如響いた破裂音で遮られた。コーヴァスの胸元には風穴が空いており、困惑や苦悶が入り混じった表情を浮かべながら倒れ、それから動かなくなった。

 

コーヴァスの背後には、白髪の少女と薄紫色の毛並みをした魔獣が立っていた。愛子は驚きの声を上げた。

 

「な、南雲さん! え? え? どうしてここに……?」

「どうも、先生。助けにきました……って、自力で抜け出せたみたいですね。良かった」

「というか、南雲さん、あなた今人をこ……」

「愛子さん、今は早くここから脱出することが先決です。南雲ハジメさん……でしたね。愛子さんを安全な場所に逃すために一緒に護衛をお願いできますか?」

「ええ、分かりました。エーフィ、周囲に他の人の気配はある?」

 

チェイスの提案に頷いたハジメが、傍らのエーフィに尋ねると、エーフィは額の宝石を光らせながら周囲の気配を探る。そして、気配が無いと分かると首を横に振って、ハジメの問いに答える。

 

「分かった。ひとまず今僕達が来た道を通りましょう」

 

ハジメとエーフィ、愛子達は通路を走りながら、出口を目指す。その時、遠くから何かが砕けるような轟音が微かに響き、僅かではあるが大気が震えた。

 

「わわっ!?」

 

何事かと緊張に身を強ばらせた愛子は訳が分からず、周囲を見渡す。

 

「な、何事だ!?」

「まさか……」

 

デビッド達、護衛騎士達からも困惑の声が上がる。一方でハジメは何かに集中していた。現在、ハジメは地上にいる誠司達から念話石で情報を貰っているのである。

 

「なんてタイミング……まぁ、ある意味好都合かもしれないけど……」

 

しばらくすると、ハジメは舌打ちしながら視線を愛子達に戻す。愛子は、ウルの町でハジメが非常識なアーティファクト類を使っているのを見てきたので、それらにより何か情報を掴んだのだろうと察し、視線で説明を求めた。

 

「魔人族の襲撃ですね。さっきのは王都を覆う大結界が破られた音らしい」

「魔人族の襲撃!? それって……」

「ええ、今、ハイリヒ王国は侵略を受けている状態です。仲間から知らせが来ました。魔人族とポケモン達の大軍だそうだ。完全な不意打ちですね」

 

ハジメの状況説明に、愛子は顔面を蒼白にして「有り得ないです」と呟き、ふるふると頭を振った。デビッド達も愛子と同じ気持ちだった。

 

無理もない。王都を侵略できるほどの戦力を気づかれずに侵攻させるなどまず不可能であるし、王都を覆う大結界とて並大抵の攻撃ではこゆるぎもしないほど頑強なのだ。その二つの至難をあっさりクリアしたなどそう簡単に信じられるものではない。ただ、先程の轟音やハジメの様子から、彼女が嘘を言っていないのは分かった。

 

「先生、取り敢えずここから出ましょう。その後は天之河君達と合流。話はそれからです」

「は、はい」

 

愛子もデビッド達も素直に頷き、再び出口に向かって走り始めた。出口がようやく見えたその時、上空に何か人影のようなものが見えた。その人影は何かを掲げるような仕草を取ると、銀色の光線のようなものがこちらに向かって飛んできた。

 

銀色の光に、ハジメの本能がけたたましく警鐘を鳴らす。それはポケモン達も同じだったようで、エーフィは咄嗟に“まもる”を、キュウコンとギモーが勝手に出てきて、“ひかりのかべ”を発動させた。

 

エーフィ達のおかげでハジメ達は無事だったが、周囲は焼け焦げており、もしも防ぎ切れなければ自分達もこうなっていたかもしれない。

 

人影はゆっくりとハジメ達の下まで降りていき、その姿を見せた。

 

その人物は、銀色のドレス甲冑のような戦闘服を身に纏い、背中には一対の銀色の翼を広げている。背後に月を背負い、煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しく、この世のものとは思えない美しさと魅力を放っている。一部の護衛騎士はその姿に見惚れそうになる。だが、瞳だけはひたすらに無感情で機械的。人形のような冷たさを放っていた。

 

彼女の両手には白い鍔なしの大剣が握られていた。銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を、重さを感じさずに振り払った銀色の女は、やはり感情を感じさせない声音でハジメに告げる。

 

「ノイントと申します。これより『神の使徒』として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

それは宣戦布告だ。ノイントと名乗った女は、神が送り出した本当の意味での『神の使徒』なのだろう。いよいよ、ハジメが邪魔になったらしい。直接、『神の遊戯』から排除する気のようだ。

 

ノイントから噴き出した銀色の魔力が周囲の空間を軋ませる。大瀑布の水圧を受けたかのような絶大なプレッシャーがハジメ達に襲いかかった。愛子は、必死に歯を食いしばって意識を保とうとするものの、表情は青を通り越して白くなり、体の震えは大きくなる。デビッド達に至っては、ガクガク震えていて立っているのがやっとな状態だった。

 

プレッシャーの中で、キュウコンはグルルと低い唸り声を上げる。彼女は今まで見たことのない、憎悪の籠った表情を浮かべていた。ハジメも大人しく排除される気など更々ないが、今は状況が悪い。チラリと後ろを見るが、愛子達はまともに動けそうもない。ティオには既に助けを求めたが、いつまでかかるか。

 

「さて……と」

 

ハジメは、ティオが来るまで、今の状況をどう打開するか考えを巡らせる。結論はすぐに出た。ここで出し惜しみはしていられない、全力でいけ……と。ハジメは挑発的に笑った。

 

「殺れるものなら殺ってみなよ、木偶人形さん」

 

その言葉を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。




デビッド達に少し活躍の機会を与えました。原作では、そこまで株が上がるような描写がないまま、改心した感じで終わってモヤモヤしたので。というか、これくらいやらないと改心したと言えないような……
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