ミズゴロウを仲間に加えた誠司はハジメを探すため、階層の出口を探すために奔走することになった。
「しっかし…… ハジメはいないのか………?」
「マシュ」
「ゴロ?」
ミズゴロウはハジメを知らないため首を傾げる。なので誠司はハジメのことを簡単に説明した。すると、ミズゴロウはすごい情報を知っていた。
「ゴロ? ゴロロゴロ」
「……え? 随分前に俺と似たような姿をした奴を川の近くで見た?」
身振り手振りでミズゴロウが言うには誠司達が来る随分前に川の方で誰かが倒れていたそうだ。そして起き上がり、どこかへ行ってしまったのだそう。随分怯えた感じだったと言う。
「それってもしかして……… おい、そいつが倒れていた所ってどこだ!? 案内してくれ!!」
ミズゴロウの案内でその場所に行ってみたところ、そこは浅く、流れが比較的緩やかな所だった。また、近くには魔法陣の跡が残っていた。間違いなく人間の仕業である。
「ここをしばらく散策してみるか……」
誠司達はその場所を中心にあちこちを探し回る。だが、時間もある程度経っているためか先程の魔法陣以外に有力な手掛かりは見つけられずにいた。
「ぐぅあああっ。ひぃぐがあぁぁ!! あがぁぁぁぁ!!」
そんな時だった。聞くに耐えない絶叫が響き渡った。聞くだけでこちらの正気度が削られるような苦痛に満ちたものだった。だが、その声は誠司にとって聞き覚えのあるものだった。ネマシュも気付いたのか顔を強張らせる。
「………!? ハジメか!? 行くぞ、お前ら!」
誠司達は急いでその声がする方へ駆け出した。途中、誠司と同様に声に誘われたのか他のポケモンに遭遇することがあったが、ネマシュが手早く“ねむりごな”で眠らせる。しかし、走っても走っても距離があるのかなかなか声のする方に辿り着けない。
(無事でいてくれ……)
走りながら誠司はただひたすらに祈ることしか出来なかった。
そして、やっとのことで駆け付けた時、そこには誠司の親友であるハジメがいた。だが、誠司が知っているハジメの姿とは色々と異なっていた。
まず目に付くのは髪だ。髪の色は黒から白へと変色しており、相当なストレスによるものだということが一目で分かる。更に髪が伸びていた。もう肩にまで届くくらいの長さだ。
次に顔や腕には薄らと赤黒い線が数本走っている。最後に身体だった。身長はそこまで大きく変化こそしていないものの身体全体に筋肉が付き、無駄な筋肉はなく引き締まっている印象を与える。
親友である誠司ですら一瞬、目の前の人物が本当にハジメなのか疑ってしまう程だった。もっとも顔の造形や雰囲気は全く変わっていないのですぐ分かったが。
ハジメも誠司達のことに気が付いたのか苦しみで顔を歪ませながらも一瞬、目を見開く。
「ぐぅがあぁぁ…… せ……い…………じ…………………」
ハジメは息も絶え絶えになりつつも、やがて激痛が治ったのか最後に誠司の名前を呟いて倒れ込んだ。誠司が慌ててハジメを受け止めて支えた。その時、胸の部分に弾力を感じた。だが、すぐに気のせいだと思うことにしてハジメを横にして目が覚めるまで安静にさせる。どうやらただ気絶しているだけのようだ。すかさず誠司はネマシュとミズゴロウに指示を出した。
「ネマシュはポケモンが襲って来たら“ねむりごな”で眠らせてくれ。ミズゴロウはヒレで空気の流れを感じ取って警戒を頼む」
ミズゴロウのことは先程、魔獣図鑑で分かった。頭のヒレで水や空気の流れを感じ取ることが出来るそうなのでそれを利用させてもらう。誠司の指示に二体とも頷くと、言われた通りに周囲を警戒し始める。
冷静になった誠司は改めて周囲を見渡すと、ハジメがいた所にはポケモンの死骸があった。ピンク色のポケモンだった。タブンネである。
「ヒ、ヒバ……」
その時、一体のポケモンが寄って来た。ネマシュとミズゴロウが咄嗟に攻撃の体制を取るが、誠司が制する。ドタバタしてて忘れていたが、さっきからハジメの近くにいた子だ。敵意も全く感じられなかった。ただハジメを心配していることだけは分かった。
誠司はこのポケモンに見覚えがあった。高二になってから夢で出て来たポケモンだ。確か名前は……
「ヒバニー……か」
「う……うーーーん………」
「ヒバ!」
しばらくすると、ハジメが目を覚ました。それに気が付いたヒバニーがハジメに駆け寄り、抱きつく。誠司がハジメに声を掛ける。
「よぉ。大丈夫か?」
「大丈夫……じゃない…… 誠司………だよね?」
「ああ。ハジメの親友、中西誠司だ。もっと俺達しか知らないことを色々言おうか?」
「ううん、良い。良かった………生きてて………」
「それはこっちの台詞だ。あちこち探し回る羽目になった」
「あははは……」
誠司の言葉にハジメが苦笑する。ハジメはなんとか起き上がり、近くの壁にもたれ掛かった。そして、今までに何があったのかを話し始めた。
奈落に落ちた時に滝のように流れる水に流されたらしく無傷だったこと、川から出てすぐにヒバニーと出会い仲良くなったこと、それからヒバニーと一緒にあちこちを散策したこと、色々なポケモンに追いかけられたこと、そして空腹に勝てず丁度近くにあったタブンネの死骸を食べたこと。どうやら誠司と違うところでは随分と冒険をしていたようだ。
「だが、ポケモンの肉はごく一部を除いて猛毒のはずだが…… どうして死なずに済んだんだ?」
ポケモンの肉というものは基本猛毒である。ネマシュのような例外も中にはあるが、それはほんの一部である。食べた者は無残な状態で死ぬと言われている。
ハジメは指で示した。誠司も目を向けると、そこにはバスケットボール程の大きさの石があった。石からは水が滲み出ていた。
「あの水にはものすごく強い回復効果があってね…… ポケモンの肉を食べつつあれを流し込んだんだ」
ハジメが言うにはあの石は元々はタブンネの死骸から少し先の洞窟の中にあったらしい。洞窟を探っているとその石があったそうだ。それを飲むと疲れ等も回復したらしい。それでもしかしたらという賭けもあってあのタブンネの肉を喰らったようだ。
「なるほどな。まぁ、とりあえずは……だ」
「痛っ!」
誠司はハジメにデコピンを食らわせた。割と本気で。
「ったく。心配掛けんなよ。俺がどんだけお前のことを必死に探したと思ってんだ。死んでたらどうしようと何度思ったことか………」
「う、うん…… ごめん。僕もずっと君を探してたから気持ちは分かるよ。それで……誠司の方はどうだったの?」
今度は誠司がハジメに話す番だった。誠司はハジメに奈落に落ちてからのことを聞かせた。ネマシュの頭のカサやかふんだんごで飢えを凌いだと聞いた時は不満そうな顔をしていたが。
そして、ハジメに新しく仲間になったミズゴロウを紹介した。ハジメは優しくミズゴロウを撫でる。ミズゴロウも顔をすり合わせる。どうやらミズゴロウもハジメを気に入ったようだ。ちなみにネマシュとヒバニーは向こうで戯れあっていた。いつの間にかすっかり仲良しになっていた。
「それはそうと、ステータスとかどうなったんだ?」
「あ……そう言えば……」
ハジメは懐からステータスプレートを取り出した。
(あれ? やっぱり心なしか胸の部分に膨らみがあるような……)
誠司はそう違和感を感じていた。その時「うわっ! 何これ?」という声が聞こえたので誠司もハジメのステータスプレートを覗き込む。すると、ステータスが色々と様変わりしていることが分かった。
レベルや各ステータスが軒並み上昇しており、いくつか技能も増えていた。増えた技能には『胃酸強化』や『魔力操作』、『癒しの心』という見たことのない技能があった。
「この癒しの心ってのは?」
「えっと……なになに……… 『相手を治癒させることが出来る』だって」
「つまり……回復魔法みたいなのが使えるってことか……?」
「うーーん…… どうだろ………」
試しにネマシュにその技能を使ってもらうことにした。すると、ネマシュの頭のカサがみるみるうちに再生し、元気が出たようにぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねている。
「すごいな。つまり今のハジメは錬成師であり治癒師でもあるってわけか」
「うん、それにこの水があったら下の階層でも十分やっていけそうだね」
「そうだな。それに俺達には
誠司とハジメはお互いに相手を見やるとニヤリと笑った。
ここから誠司とハジメの
ハジメの相棒はヒバニーです。ありふれ短編集の一つにハジメが奈落で1匹の蹴りウサギを相棒にして共に旅に出る(という夢を見た)お話があったのでハジメの相棒はウサギ系のポケモンと決めていました。ヒバニーって蹴り技を色々使えるのでピッタリだし。
原作と違い、ハジメはタブンネを食べたことで回復魔法が使えるようになってしまいました。タブンネの力を色々取り込んだことで身体の回復力も高くなっています。また、レベルが爆上がりしたことでステータスも根こそぎ跳ね上がりました(タブンネは獲得経験値の量が多い)。