魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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少々長くなりました。


シアVS魔人族

「デカヌチャン、“うちおとす”ですぅ!」

「カーヌチャッ!」

 

デカヌチャンは、巨大なハンマーを振り回して時計塔を破壊し、その瓦礫をゴルフのように豪快に弾き飛ばした。オトシドリ達は、無数の瓦礫をぶつけられ、墜落していく。

 

オトシドリ達が撃墜したことで、ユエとシアの存在に気がついたエアームドやゴルバットの群れが二人の周囲を旋回し始めた。よくよく目を凝らせば、魔人族がエアームドの背中に乗っていたり、ゴルバットの足にぶら下がっているのが見えた。彼らは最初こそ警戒していた様子だったが、相手が兎人族と小柄な少女であるとわかると、馬鹿にするように鼻を鳴らしユエ達に向かって、魔法の詠唱を始めた。

 

ユエはライボルトを繰り出し、端的に指示を飛ばす。

 

「……“ほうでん”」

 

ライボルトは頷くと、体を激しくスパークさせ、放電する。無数の電撃がエアームドやゴルバット達に襲い掛かる。

 

『アギャアアァ!?』

 

効果抜群の攻撃に、エアームド達は堪らず悲鳴を上げる。乗っている魔人族達も電撃を浴びてしまい、詠唱が止まり、魔法攻撃も不発に終わる。大半は耐え切れずに、地面に堕ちていったが、まだ数体は堪えて飛び続けていた。乗っている魔人族達も痺れる身体を押して、再度攻撃を試みる。だが、無情にも追い打ちが掛かった。

 

「デカヌチャン、もう一度“うちおとす”ですぅ”!」

「カーヌチャッ、チャッ、チャッ!」

 

デカヌチャンが再度、瓦礫を飛ばしてきたのだ。飛んできた瓦礫は全て、エアームドやゴルバットの顔や翼に命中した。流石にこの攻撃までは耐え切れず、墜落していく。乗っている魔人族達は必死に飛ぶよう声掛けをしているが、効果がない。彼らは一様に絶望の表情を浮かべたまま、地面に吸い込まれるかのように堕ちていく。

 

「これであらかた片付きましたかね?」

「……いや、今のは多分先行部隊。本命はまだ別にいるはず」

「やっぱりそうですか。っ!? ユエさん!」

「んっ」

 

シアが顔色を変えて警告を発すると同時に、ユエとシアとポケモン達は躊躇うことなく時計塔から別の家の屋根に飛び退いた。直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たと同時に、そこから特大の極光が迸った。極光は、一瞬でユエ達が直前までいた時計塔の上部を消し飛ばし、それだけにとどまらず射線上にあった建物を根こそぎ吹き飛ばしていく。

 

「ほぉ、今のを避けるとはな……」

 

男の声が響くと同時に、楕円形の膜から黒い竜のようなポケモンに乗った赤髪の魔人族が現れた。その表情には、渾身の不意打ちが簡単に回避されたことに対する驚きが見て取れる。その魔人族が現れたと同時に、様々なポケモンに乗った他の魔人族達が数百単位で集まり、ユエとシアを包囲した。

 

同時に……凄まじい轟音を響かせて遂に外壁の一部が崩され、そこから次々とポケモン達やそれに乗った魔人族が王都への侵入を果たし、いくつかの部隊が、ユエとシアの方へ猛然と駆け寄ってくるのが見えた。どうやら、ここでユエとシアを完全に仕留めるつもりらしい。一人の魔人族がユエとシアを見るや叫んだ。

 

「あいつらだ……フリード様! こいつらが以前話したイレギュラーです!」

 

全身が包帯巻きの痛々しい姿をした魔人族が、憎悪に満ちた表情でユエとシアをこれでもかと睨みつけている。その姿を見て、シアは以前グリューエン大火山で戦った、ローゲンとかいう魔人族だと思い出した。なお、ユエは完全に忘れていたが。

 

「……なるほど。幾度も我らの計画を邪魔してくれた者達は貴様らだったか。良かろう。このフリード・バグアー、アルヴ様の名の下に直々に葬り去ってくれる」

 

フリードから憎しみすら宿っていそうな言葉を向けられるが、ユエとシアは二人して不敵に口元を歪めた。そして、同時に同じ言葉を返す。それは奇しくも、同時刻に別の仲間が敵に放った言葉と同じものだった。

 

「「殺れるものなら殺ってみて(下さい)」」

 

その言葉が合図になったかのように、周囲のポケモン達と魔人族が一斉に攻撃を仕掛けてきた。だが、いかに数が多くても、所詮は烏合の衆。ユエとシアとポケモン達にとって、敵ではなかった。ユエが少し呆れた表情を浮かべながら、右手をフリード達に伸ばし手の甲を向けると指をクイクイと曲げる仕草をすると、魔人族達の怒りは軽く沸点を超えた。見た目幼さの残る少女と、蔑む対象である兎人族の少女、それから少数のポケモンにしてやられて多くの戦友を失い、その上で「相手をしてあげる」という上から目線で煽られたのだ。自分達を少数ながら優れた種族と誇ってはばからない魔人族の戦士達にとってはとても看過できるものではなかった。

 

「小娘ごときがぁ!」

「薄汚い獣風情が粋がるなぁ!」

 

そんな罵詈雑言を叫びながら、魔人族達が一斉に襲いかかった。しかし、冷静さを欠いたことで、より一層攻撃が当たりやすくなってしまい、次々と撃墜していく。その様子を見て、フリードは忌々しげに舌打ちすると、部下達に指示を飛ばした。

 

「予想以上に手強いな。ならば……総員聞け! 私は金髪の術師を殺る! お前達は全員で兎人族を殺るのだ! 引き離して、連携を取らせるな!」

『了解!』

 

どうやらユエとシアを引き離して各個撃破するつもりらしい。そうはさせじと、シアがユエの近くに退避しようとしたその時、二つの影が近づいてくるのが見えた。ローゲンと、もう片方は金髪を短く切り揃えた魔人族の男だ。シアは咄嗟に迎え撃とうとするが、絶妙なタイミングで数人の魔人族が決死の覚悟による特攻を図ったため、そちらの対応に追われることになった。そうこうしているうちに、背後で背後で空間転移のゲートが展開されてしまった。チラリと視線を向けてみれば、ユエの方も、フリードが空間魔法を発動する時間を稼ぐために無謀とも言える特攻を受けているところだった。

 

ゲートに押し込まれる寸前、ユエが「グッドラック!」とでも言うようにサムズアップしている姿を見て、シアは小さく笑みを浮かべた。その笑みを見て眼前のオニドリルに乗った魔人族が再び憤怒に顔を歪めるが、シアは特に気にすることもなく、そのまま魔人族の男と共にゲートに呑み込まれてユエから引き離された。

 

 

「そのヘラヘラと笑った顔、虫酸が走る。四肢を引きちぎってやる」

「落ち着けよ、ミハイル……と言いたいところだが、オレもその兎を見ていると、全身の火傷が疼いて仕方ない。……焼き殺す」

 

シアと相対した二人の魔人族がそれぞれ忌々しげに吐き捨てる。実際に戦ったローゲンはまだしも、目の前のミハイルと呼ばれた魔人族もまた、自分達に対して個人的な恨みがあるようだ。そう察したシアは、訝しそうに眉をしかめて尋ねてみる。

 

「……どこかで会いました? そこのローゲンって人はともかく、あなたにそんな眼を向けられる覚えがないんですが?」

「カトレア……赤髪の魔人族の女を覚えているだろう?」

 

シアは、なぜそこで女の話が出てくるのか分からず首を捻る。しかし、ミハイルは、それを覚えていないという意味でとったのか、ギリッと歯を食いしばり、怨嗟の篭った声音で追加の情報を告げた。

 

「貴様らが、オルクス大迷宮で戦い、戦士としての誇りを踏みにじった……女だぁ!」

「……………………ああ! あの人!」

「きざまぁ~」

 

明らかに今の今まで忘れてましたという様子のシアに、既に怒りのせいで呂律すら怪しくなっているミハイルは、僅かな詠唱だけで風の刃を無数に放った。彼を乗せたオニドリルも、同様に攻撃を仕掛けるが、それらを何でもないようにひょいひょいと避けるシア。

 

「ちょっと、その人が何なんです? さっきから訳わからないです」

「カトレアはな……俺の婚約者だ!」

「! ああ、なるほど……それで」

 

シアは得心したように頷いた。どうやら、目の前の男は、オルクス大迷宮で誠司達と戦ったカトレアの婚約者だったらしい。

 

「俺は一刻も早く、カトレアを取り戻す! だが、その前に……あいつの腕や足を奪った貴様らにも同じ苦しみを与え、殺す! よくも、カトレアを……優しく聡明で、いつも国を思っていたあいつを……」

 

血走った目で、恨みを吐くミハイルに、シアは普段の明るさが嘘のような冷たい表情となって、実にあっさりした言葉で返した。

 

「知りませんよ、そんな事」

「な、なんだと!」

「いや、戦争なんですから、そうなることは承知の上でしょう? そもそも挑んで来たのもあの人の方ですし。私達に恨みを抱くのは勝手ですけど……戦った相手がどんな人だったか教えられても……興味ないですし……あなたなら聞きますか? 今まで自分が殺してきた相手の人生とか……ないでしょう?」

「う、うるさい、うるさい、うるさい! カトレアの仇だ! 苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」

 

ミハイルは癇癪を起こしたように喚きたてると、オニドリルがシアに向かって突っ込んでくる。シアが横っ飛びに回避して、ホルードを繰り出し、“アームハンマー”を叩き込んだ。だが、ホルードの耳はオニドリルの体をすり抜けてしまった。

 

「っ!?」

 

突如、何もないはずの場所から、“エアスラッシュ”が飛んできて、ホルードに幾ばくかのダメージが入る。突然の攻撃に動揺するシアだが、自身の頬に汗が伝っていることに気づいた。

 

「動き回っているせいかと思ってましたけど……この暑さ、ひょっとしたら……デカヌチャン! “ぶんまわす”ですぅ!」

「カーーヌチャ!!」

 

デカヌチャンは、自慢のハンマーをぶん回し、空気の流れを乱していく。すると、さっきまでいたはずのミハイルとオニドリルは、少し離れた場所におり、“エアスラッシュ”が飛んできた先程まで何もなかったはずの場所には他の魔人族がいた。ファイアローに肩を掴まれた状態で空を浮かんでいたローゲンが舌打ちする。

 

「チッ、気づかれたか」

 

どうやら、ローゲンの炎魔法やファイアローの“おにび”によって、幻覚を見せられていたようだ。ローゲンが再度炎魔法を発動させようとするが、もう遅かった。

 

シアが一瞬で間合いを詰め、ローゲンの身体を掴んだ。あまりに一瞬のことで、ローゲンもファイアローも反応が遅れてしまい、そのままシアの背負い投げで後方のデカヌチャンがいる方にぶん投げられてしまう。ローゲンとファイアローが飛んでくるのを見て、デカヌチャンはニヤリと笑みを浮かべた。それを見て何をするのか察したローゲンが青ざめた。

 

「ま、ちょっ、まっ!」

「カーーヌチャッ!」

メキョッ!!

「ぐべっ!?」

「アグォッ!?」

 

デカヌチャンのハンマーに叩きつけられた、ローゲンとファイアローは、豪快なフルスイングを叩きつけられ、上空に吹き飛ばされた。そして、彼らにとって不幸なことに、吹っ飛ばされた先には仲間の魔人族達がいた。仲間が勢い良く飛んでくる目の前の光景に、魔人族達は一瞬攻撃の手が止まってしまった。更に、この魔人族達はシアに魔法攻撃を仕掛けるべく、詠唱を唱えている真っ最中であり、もう殆ど完成しかけていた。なので、ローゲンとファイアローが飛んできたことにより、魔法は不発ではなく、爆発する結果となった。

 

「くがはぁ…はぁ、はぁ、は………」

 

黒コゲになったローゲンは仲間やポケモン達と共に、地に堕ちていく。薄れていく意識の中、ローゲンは乾いた笑いを浮かべていた。

 

元々、ローゲンには炎属性の魔法しか適性がなく、その魔法もそこまで才は無かった。仲間からも馬鹿にされ、悔しい思いもしてきた。そんな奴らを見返したくて、血の滲む努力を重ね、自分ならではの戦法を編み出した。そうして、自分は今の地位までのし上がり、『火影』とまで呼ばれるようになったのだ。だというのに…………その最期が……これか。笑わずにはいられなかった。そのまま、ローゲンの意識は暗転した。

 

 

思いがけず、魔人族の部隊を一掃したシアは一息吐く。その時、急に先程まで照らしていた月明かりが遮られ、影が一帯を覆った。シアが上を仰ぎ見れば、暗雲を背後に、上空からミハイルが降ってくる所だった。

 

「我が最強魔法……天より降り注ぐ無数の雷、避けられるものなら避けてみろ!」

 

ミハイルが叫ぶと同時に、無数の雷が無秩序に降り注いだ。ミハイルがオニドリルにしっかりしがみつくと、オニドリルは嘴を中心に高速回転を始めた。そして、ミハイルを乗せたオニドリルは、捨て身の技、“ドリルくちばし”を発動させる。

 

錐揉み状に回転しながら、シア達に向かって突っ込むオニドリル。躱そうにも、無数の雷が彼女達を逃がさない。自分が今出来る渾身のコンボに、ミハイルの眼には、確実に仕留める!という強靭な意志が見て取れる。

 

しかし、直後、ミハイルは信じられない光景を見ることになった。なんと、シアが降り注ぐ落雷を巧みなステップで避けているのだ。いや、正確には最初から当たらない場所が分かっているかのように、落雷が落ちる前に移動しているのである。一方、デカヌチャンは電気技が効かないホルードの後ろに隠れている。

 

ミハイルの誤算は、シアに未来を視る力があることを知らなかったことだった。シアは日々鍛錬を続けてきた結果、ほんの少し先の未来を視ることができるまでに成長していた。

 

「何なんだ、何なんだ貴様は!」

「……ただのウサミミ少女です」

 

自分でも余り信じていない返しをしながら、全ての落雷を避けたシアは、当然、突撃してきたミハイルをあっさり躱し、すれ違いざまに蹴りを叩き込んだ。

 

「ぬぐぉお!」

「グァァ!」

 

蹴りを叩き込まれたことで、バランスが崩れたミハイルとオニドリルは、そのまま横方向に吹き飛ばされ、自分が発動した雷に打たれた。

 

「があぁぁぁ!?」

「グギャァァァ!?」

 

オニドリルは、効果抜群の攻撃を受けたことで目を回して倒れるが、ミハイルはまだ倒れない。満身創痍のまま何とか立ち上がり、シアをギョロリと睨みつける。もう魔法は使えない。だが、最後の悪あがきくらいはしてやる。血反吐の混じった咳をしながら、ミハイルは吐き捨てる。

 

「……ごほっ、このっ……化け……物……がぁっ…!」

 

ミハイルがシアに向かって最後の特攻に飛び掛かろうとしたその時、シアにある未来が視えた。急いで横っ飛びに回避した次の瞬間、黒い光線がミハイルの胸を貫通し、先程までシアのいた場所に命中していた。

 

「な……ん……で…………」

 

ミハイルは、何が起こったのか分からないまま、前のめりに倒れ込んだ。完全に致命傷を負ったため、保って後数秒といったところだ。身体が既に限界を超えていたからか、不思議と痛みはない。だが、このまま死ぬわけにはいかなかった。ミハイルは薄れる意識の中、必死に己を叱咤する。

 

(まだ……死にたくない。死ぬわけには……! カトレアを……あいつをまだ……!)

 

その時だった。段々と見えなくなっていく、ミハイルの眼に、懐かしく、そして愛しい女性が映った。彼女はミハイルに向かって、優しく微笑んだ。それだけで、ミハイルの心が満たされていく。

 

(カトレア……やっと、やっと……会えた…………)

 

そうして息絶えた、ミハイルの死に顔は心なしか安らかなものだった。そんなミハイルの後ろには、一体のカラマネロが浮かんでいた。カラマネロは攻撃が外れたことに舌打ちする。シアに攻撃するために、魔人族を目眩しとして使い捨てたことに、一ミリも罪悪感を抱いていないようだった。

 

「チッ、マロマロ……」

「あれは……」

「カヌチャッ!」

 

カラマネロを見ると、デカヌチャンが突然興奮し始めた。怒りの表情を浮かべ、ハンマーをブンブン振り回している。そんなデカヌチャンの様子を見て、シアはもしかしてと思い至った。

 

「あなた、ウルの町の……」

「カーヌチャッ!」

 

シアが言い終わる前に、デカヌチャンがハンマーを勢い良く振り下ろす。だが、カラマネロは“テレポート”で脱出する。

 

「マロマロッホゥ!」

「あっ、待って!」

 

シアが追いかけようとするが、もうカラマネロは消えた後だった。

 

「今のカラマネロは、確かウルの町にいたやつですよね」

「カヌチャッ! カヌチャッ!」

「ホールゥ」

 

あの強力な催眠術を使いこなすカラマネロがここにいるという事実に、シアは嫌な予感を覚えたが、首をブンブン振って、何とか気を取り直す。

 

「……いえ、まずすべきことは、ユエさんの所に向かうことですよね。急ぎましょう、デカヌチャン、ホルード」

 

逃げられた悔しさから地団駄を踏むデカヌチャンとそれを諌めるホルードに声を掛け、シアはユエと合流すべく一気に駆け出した。

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