魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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鋼の天使ノイント

月下に銀翼がはためいた。だが、それは飛翔のためではなく、攻撃のためだ。

 

その銀翼からは、黒いパチンコ玉くらいの大きさの球体が無数に現れ、それらが自分達に向かって降り注ぐ。そのパチンコ玉に嫌な予感を覚えたハジメはメタグロスを出すと、ポケモン達に手早く指示を飛ばす。

 

「マズい! エーフィ、ギモーは先生達をお願い! メタグロスは僕とキュウコンを乗せて飛び上がって!」

「エフィ!」

「モギッ!」

「コン!」

「メッタ!」

 

ハジメはキュウコンと一緒にメタグロスの頭に飛び乗った。メタグロスは四本の脚を折りたたむと、そのまま上空へ浮遊する。残ったエーフィとギモーは愛子達を守るように周囲を警戒する。

 

先程まで、空を覆いつくさんばかりに均一な状態で落ちていたはずの黒いパチンコ玉は、何故か一点……メタグロスに向かって吸い寄せられるように落ちていく。それは、さながら黒い槍のようであった。

 

(まるで磁石みたいだ……でも、それなら……)

 

「キュウコン、焼き払って!」

「コンッ!!」

 

キュウコンは“ほのおのうず”で黒いパチンコ玉を全て包み込んだ。

 

ドゴオオオオオオオオオン!!

 

全てのパチンコ玉が全て爆発し、凄まじい爆風を引き起こす。“ほのおのうず”が壁になったことに加え、メタグロスが咄嗟に爆発を“ひかりのかべ”で包まなければ、こちらも巻き込まれかねない威力だ。

 

爆発を防いだが、安心するにはまだ早い。煙の中から、ノイントが姿を現し、こちらに向かって突っ込んできたからだ。ハジメは自身の愛銃を構えて、発砲して応戦するが、ノイントは双大剣の片方を盾にすることで銃弾を防ぐ。冷静に距離を詰めていくノイントは、もう一方の大剣を肩に掛けて、ハジメ達をかち割ろうと大きく振り下ろしてきた。

 

「コン!」

 

キュウコンが大きく息を吸い込み、“だいもんじ”を放った。

 

「っ!?」

 

目の前に迫る炎に、流石のノイントも危険だと判断したようで、攻撃よりも回避を優先した。上空に飛翔することで炎を躱すと、大剣から銀色の光線を発射してきた。だが、その光線を今度はメタグロスが、“ラスターカノン”で相殺する。

 

「これだけ凌ぐとは……やはり、あなたは強すぎる。主の駒としては相応しくない」

「それは……誉め言葉かな? 神様気取りの盗人の駒なんて、恥でしかないからね。相応しくないなんて、最高の評価だよ」

「……私を怒らせる策なら無駄です。私に感情はありません」

「は? 何言ってんの? これは紛う事なき本心だよ。横取りしたもので粋がるなんて、僕にはとても真似出来ないからね」

 

ハジメがそう煽ると、ノイントは、スッと目を細めたと同時に大きく銀翼を広げた。果たして本当に感情がなく、ただ無駄な会話をしたと仕切り直しただけなのか……ハジメの目には、どこか怒りを抱いているように見えたが、そんな事は考えるだけ無駄な事だとすぐさま切り捨てた。

 

ノイントは、二振りの大剣を重ね合わせ始めた。ガシャンという音と共に大剣同士が合体し、一振りの巨大な剣となった。ノイントは両手でそれを抱えると、後ろを向き、大きくそれを横殴りに振り払った。すると、山肌が大きく削れ、その辺一帯の木々が一斉に切り落とされていた。

 

ノイントはその威力を見て、満足したように頷くと、ハジメ達の方に向き直った。ハジメは冷汗を流しつつも、自分の武器を構える。ノイントが巨大な剣を振り下ろしてきたその瞬間、ハジメのオルカンが火を噴いた。ノイントに向かって無数に飛び交うミサイルに、思わず大剣の軌道がズレてギリギリ回避出来た。その隙を突いて、キュウコンが再び“だいもんじ”を発動させた。自分を包み込むように迫ってくる炎に、ノイントは咄嗟に大剣を盾にする。その間に、再装填を完了したオルカンが再び、ノイントに向かって火を噴いた。

 

流石の大剣も、これだけの猛攻には耐え切れなかったようで、バキャンッという音を立てて壊れ、地上に落ちていく。これで厄介な剣を封じたと安堵の息を漏らすハジメだったが、突然、メタグロスが吹っ飛ばされ、上に乗っていたハジメ達も振り落とされそうになるが、なんとかメタグロスにしがみついていたため、落とされずには済んだ。ハジメがメタグロスに呼びかける。

 

「メタグロス、大丈夫!?」

「メ、メッタ……」

 

メタグロスはクラクラしているものの、何とか意識を保っていた。何か非常に硬いものに勢いよくぶん殴られたようだ。ハジメが前方に視線を向けると、そこには拳を構えてファイティングポーズをとるノイントの姿があった。今の攻撃は、ノイントがメタグロスを殴りつけたらしい。剣以外も使えるのかと思っていると、ノイントは口を開いた。相変わらずの機械的で冷たい声音だが、これ以上なく怒っているのが分かった。

 

「……主から賜った剣を壊すとは。このまま、楽に死ねるとは思わないでください、イレギュラー。剣は無くとも、それを自在に振るった腕は健在なのです。あなた方に生き残る道など、万に一つもありません」

「おっと。もしかして、怒っちゃった? おめでとう、これであんたも人間の仲間入りだ。良かったじゃん」

「……死になさい」

 

そう言うと、ノイントは再び高速で拳を叩き込んできた。メタグロスが咄嗟に“リフレクター”で攻撃を防御したが、一撃でヒビが入っていた。それを見たハジメが思わず冷汗を流す。武器を壊したら、敵が強化……はゲームでもよくある展開だが、こんな時にそれが適応されてほしくはなかった。

 

ハジメは残りの三体のポケモン達を新たに繰り出した。まず、エースバーンが足に炎を纏って“ブレイズキック”を仕掛けるが、ノイントはすかさず上空に飛んでそれを躱す。そんなノイントを狙って、グレッグルがエースバーンを足場に更に高く跳び、拳をノイントの顔面目掛けて殴りかかる。だが、ノイントはそれを紙一重で躱し、カウンター気味に殴り返してきたが、グレッグルもライセン大峡谷育ちの身体能力を駆使して見事にそれを躱す。グレッグルは、ならばと頬を膨らませる。

 

「グボヘェッ!」

 

グレッグルが頬の毒袋で生成した毒液を吐き出すと、ノイントに命中した。だが、ノイントに動揺はない。そもそも、()()()()()()()攻撃だからだ。不快ではあるが、ノイント自身にダメージはない。毒が効かず動揺するグレッグルの腹にノイントの拳が叩き込まれる。

 

「グフッ!?」

 

グレッグルは吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。ハジメが慌ててグレッグルをモンスターボールに戻したその時、突如、ここ『神山』全体に響くような歌が聞こえ始めた。

 

何事かと歌声のする方へ視線を向ければ、そこには、イシュタル率いる聖教教会の司祭達が集まり、手を組んで祈りのポーズを取りながら歌を歌っている光景が目に入った。どこか荘厳さを感じさせる司祭百人からなる合唱は、地球でも見たことのある聖歌というやつだろう。

 

一体、何をしているんだとハジメが訝しんだ直後、

 

「……っ!? 体がっ…重く……」

 

ハジメの身体に異変が訪れた。

 

体から力が抜け、魔力が霧散していくのだ。まるで、体の中からあらゆるエネルギーが抜き出されているような感覚。しかも、光の粒子のようなものがまとわりつき、やたらと動きを阻害する。ハジメだけではない。ハジメのポケモン達も同じ状態になっており、苦悶の表情を浮かべている。

 

「くっ、状態異常の魔法かっ……流石総本山。外敵対策はバッチリってことか……」

 

ハジメの推測は当たっている。

 

イシュタル達は、『本当の神の使徒』たるノイントが戦っている事に気が付き、援護すべく『覇堕の聖歌』という魔法を行使しているのだ。これは、相対する敵を拘束しつつ衰弱させていくという凶悪な魔法で、司祭複数人による合唱という形で歌い続ける間だけ発動するという変則的な魔法だ。

 

「イシュタルですか。……あれは自分の役割というものをよく理解している。よい駒です。ただ……遅すぎる。もう少し早ければ、我が剣を失わずに済んだものを」

 

恍惚とした表情で、地上からノイントを見つめているイシュタルに、感情を感じさせない眼差しを返しながらノイントがそんな感想と文句を述べる。イシュタルの表情を見れば、ノイントの戦いに協力しているという事実自体が、人生の絶頂といった様子だ。さぞかし、神の思惑通り動く便利な存在なのだろう。

 

そんなイシュタル達司祭の中身はともかく、現在、展開している魔法は正直なところ厄介なこと極まりないものだった。自分達を乗せているメタグロスも、力が抜けてどんどん高度が下がってしまっている。

 

「ウデッポウ……“はどうだん”」

「ウッ…ポウ!」

 

ウデッポウはハサミに力を込めて、エネルギーを溜めていく。歌のせいで、時間が少しかかったが、なんとか形になるくらいにはなった。“はどうだん”を撃ち出すと、ノイントは躱すが、それは軌道を変えてノイントに迫ってくる。“はどうだん”は確実に相手に命中する技だ。相手に当たるまで止まらない。“はどうだん”から逃げ回るノイントに向かって、エースバーンが教会の壁にしがみついた状態から“かえんボール”を、キュウコンが“かえんほうしゃ”を放った。二つの技は同時にぶつかり、爆発を起こした。

 

「やっては……ないよね! 畜生!」

 

煙の中から、ノイントが姿を現し、こちらに向かって突っ込んできたのを見て、ハジメはヤケクソ気味に叫んだ。どうやら、“かえんボール”と“かえんほうしゃ”が命中したのは“はどうだん”の方だったようで、ノイントは無傷だった。

 

ノイントの右腕が鋭い鉤爪に変化し、ハジメに襲い掛かる。身体に制限が掛かった状態では、まともに避け切ることが出来ず、肩を切り裂かれてしまった。

 

「ぐぅう!」

 

苦しげな声を上げながら、ノイントから離れようとドンナーを発砲するハジメ。だが、ノイントは最小限の動きだけで躱していく。そんなノイントに、キュウコンがすかさず“かえんほうしゃ”を放つことで、強引に距離を取ることに成功した。

 

肩の痛みが酷いが、戦えない程ではない。ノイントは再び拳を構えると、正面から突っ込む……と見せかけて銀翼をカッ!と発光させた。爆ぜる光がその場にいる者達の目を灼く。

 

だが、目くらましだけでやられる程、ハジメは甘くない。すぐさま、見失ったノイントの気配を背後に感じて、振り向きざまにシュラークを連射した。連続する炸裂音が、背後に回っていた……銀羽の塊で作られた人型を霧散させた。そう、背後に現れた気配は、ノイントの銀羽を束ねて作られた囮だったのだ。

 

「っ!?」

 

ハジメの背筋が粟立った。本能がけたたましく警鐘を鳴らす。ハジメは、振り向く暇も惜しんで、腕だけ後方に向けると狙いも付けずに引き金を引いた。

 

撃ち放たれた弾丸は、運良くノイントの頭部に飛翔したが、彼女は首を捻るだけであっさり回避した。そして、ハジメの背中目掛けて、拳が叩き込まれる。

 

「がぁあ!!」

 

ハジメは吹っ飛ばされて、近くの壁に激突してしまった。身体中に激痛が走り、苦悶の声を漏らす。ハジメを見つめる、ノイントの無機質な眼差しが雄弁に物語っていた。すなわち、『これで終わりです』と。

 

だが、ハジメの目に諦めの色は皆無だった。何せ、()()()()()()のだから。ハジメの視界の隅に、頼れる仲間の姿が映ったのだ。

 

 

グゥガァアアアアア!!!

 

その時、竜の咆哮と共に、凄まじい熱量の炎が下方からノイントに迫ってきた。予想外の攻撃に、流石のノイントでも回避が出来ず、咄嗟に防御態勢をとるので精一杯だった。灼熱のブレスは、ノイントを呑み込み、凄まじい勢いで吹き飛ばす。ノイントは教会の塔の一つに背中から突っ込んだ。その衝撃により塔がガラガラと音を立てながら崩れ落ちていく。

 

下方からイシュタル率いる司祭達が上げている悲鳴が聞こえる。信望する神の使徒が吹き飛ばされ動揺しているようだ。ハジメがダメ押しにオルカンを撃ち込み、司祭達の混乱を更に煽る。

 

ハジメは、安堵の息を漏らしながら、呟いた。

 

「グッドタイミングだよ、ティオ」

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