魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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神山の神代魔法

思わず、ポカンと口を開けて巨大なキノコ雲を見つめるハジメとポケモン達。昔テレビで見た戦争系ドキュメンタリー番組を思い出しながら呆然としていると、突然、念話が届いた。

 

「ハ、ハジメよ……そっちはどうじゃ?」

「え? ティオ? いや、こっちは何とか終わったところなんだけど……」

「ふむ、それは重畳。ちょうどこちらも終わったところなんじゃが、合流出来るかの?」

「いや、それは良いんだけど、なんか凄い爆発が……」

「……その原因は分かっておる。というより、妾達のせいじゃし……」

「……はい?」

「取り敢えず、合流出来るかの?」

「う、うん、分かった」

 

ひとまずティオと合流しようと、ハジメはメタグロスとキュウコン以外のポケモン達にお礼を言いつつモンスターボールに戻ってもらい、メタグロスにはそのまま下に降りるよう頼む。メタグロスは、コクリと頷くと、ゆっくりと降下していく。

 

ティオと愛子、デビッド達は、崩落した大聖堂の近くにいた。愛子やデビッド達の姿を見て、「なぜ、ここに愛子達が?」という疑問は湧いたものの、愛子の性格から考えて、逃げずにティオに協力でもしたのだろうとハジメは当たりを付ける。それよりも、明らかに、愛子の「やってしまった」といった様子の方が気になった。デビッド達は、崩壊した教会跡地に入って、何かを探しているようだ。ティオと愛子のもとに降りると、メタグロスを戻しつつ、声を掛けた。

 

「……皆、無事みたいですね」

「な、南雲さん! 良かった、無事だったんですね。……本当に良かった」

「うむ、一瞬、死ぬかと思ったが何とか生きておるよ。全く、流石はハジメと誠司の先生殿じゃ。まさか、妾の“かえんほうしゃ”を聖教教会そのものを崩壊させる程に昇華させるとは。天晴れ見事じゃよ」

「……はい?」

 

ティオの言葉に、ハジメが目を瞬かせる。そして、愛子に引き攣った表情を向けた。

 

「……先生、一体何を……」

「あわわわわわ、ち、ちがうんです! こんなつもりでは。ちょっと教会の結界が強くて……ティオさんの炎の威力を高められればと……結界を破るだけのつもりが……」

 

ハジメの登場に、安堵の吐息を漏らす愛子だったが、続くハジメの言葉で再びあたふたし始めた。狼狽える愛子に事情を聞くと、どうやらこういう事らしい。

 

愛子達は、ティオに騎乗しながら、イシュタル達がハジメに状態異常の魔法をかけられないように戦うことを決意した。しかし、魔法に関して高い適性は持っていても、碌な魔法陣を持っていない愛子に強力な攻撃魔法を行使することは出来なかった。また、大聖堂そのものが強力な結界を発動させるアーティファクトだったらしく、その結界に守られたイシュタル達には、ティオの攻撃さえも届かなかった。

 

このままでは、イシュタル達は安全地帯から悠々と魔法を行使できてしまう。ティオやデビッド達がイシュタル達の攻撃を防いでくれているが、長くはもたない。何とか結界を突破できるだけの火力を得ることは出来ないだろうかと、神殿騎士達からの攻撃を凌ぎながら考えて、愛子が思いついたのは……自分の特技を生かす事だった。

 

愛子は、数ある技能のうち、『発行操作』というものを使ったらしい。神山といえど、人が暮らす場所であるから発酵できるものは大量にある。それらを発酵させ、可燃性ガスを作り出すという作業をとにかくひたすら教会周辺で行いまくったようだ。攻撃魔法ではなく、ただの発酵なので教会の結界も反応せず空気と同じように結界の内外に溜まり続けた。風に吹かれて霧散しないようにティオが風を操って一定範囲に留めることまでした。

 

そして、これくらい可燃性ガスが溜まっていれば、ティオの炎と相まって教会の結界を破壊できるだろうと、いざ“かえんほうしゃ”を使ったところ、想像の斜め上を突き抜ける結果となった。

 

「……それでこうなったと」

「うむ。妾達も盛大に吹き飛ばされてなぁ、久しぶりに死を感じたのじゃ。結界を破壊するどころか、教会そのものを崩壊させる程とは……このような方法、妾の長い生のうちでも思いつかんかった。感服じゃよ」

「ちがうんです! そうじゃないんです! こんなに爆発するなんて思ってなくて! ただ、半端はいけないと思って! ホントなんです!」

 

愛子が、涙目でオロオロしながら弁解していると、デビッド達が戻ってきた。彼らは、崩壊した教会跡地から生存者がいないかどうか確認に行ってもらっていたらしい。そんな彼らもショックの色があった。愛子のために敵対する覚悟を決めてはいたものの、まさかこんな形で教会が崩壊するとは思っていなかったのだ。幼い頃から捧げていたものが、このような顛末を迎えれば、色々ショックは大きいだろう。

 

「デビッドさん! チェイスさん! ジョシュアさん! ジェイドさん! 教会の皆さんは!? 誰か生き残りは……」

 

デビッド達の表情や、彼らが誰も連れてきていないことから、答えを悟ってしまった愛子は絶句する。ハジメとティオとキュウコンも瓦礫の山々に視線を向ける。

 

「……まぁ、まとめて吹き飛んだんだろうなぁ」

「……コン」

「教会の結界を過信している感じじゃったしのぉ。完全な不意打ちでもあったのじゃし、無防備なところにあの爆発では、助からんじゃろ」

「あ、ああ……そんな……いえ、覚悟はしていたのですが……」

 

自分の幇助が、教会関係者達をまとめて爆殺してしまった原因である事に顔を青ざめさせる愛子。覚悟を決めて戦いに挑んだつもりだが、いざ、その結果を突きつけられると平常心ではいられない。ペタンとへたり込み、戻しそうになる口元を必死に押さえ、嗚咽を漏らす愛子に、デビッド達が慌てて慰めの言葉を掛ける。

 

「愛子、気に病む必要はないぞ!」

「そうです。愛子さんのおかげで、南雲さんは生きてここに戻ることができたんです」

 

ハジメとティオも愛子のもとに近づき、再生魔法を掛けてやる。二人としても、愛子には時間を掛けて立ち直ってもらいたいという思いはあるし、そもそもあの爆発は、ティオの“かえんほうしゃ”によるものなので、愛子が必要以上に責任を感じる必要はないのだが、今は、その説明が許されるほど時間に余裕のある状況ではない。なので、再生魔法によって、磨り減った精神を僅かばかりに癒したのだ。

 

気力が戻ってきた愛子は、顔を上げる。涙と鼻水で凄いことになっていたので、ハジメは無言で宝物庫からタオルや水を取り出すと、汚れた愛子を綺麗にしてやった。愛子は、とんだ醜態を見せた事に動揺して、されるがままである。

 

「落ち着きましたか? 先生」

「は、はい。も、もう大丈夫です……」

 

その時、ティオが何かに気づいたのか、声を上げる。

 

「……ハジメ。人があそこにおる。明らかに普通ではないようじゃが……」

「なんだって?」

 

まさか、あの爆発で生き残った者がいるのかと驚きながら、ハジメがティオの視線を追う。愛子やデビッド達も同様だ。特にデビッド達は、生存者がいないことを直接確認していたので、驚愕と警戒がハジメ達の比じゃない。いつでも剣を抜ける姿勢を取っていた。

 

ティオの視線の先には、確かに、白い法衣のようなものを着た禿頭の男がおり、ハジメ達を真っ直ぐに見つめていた。しかし、ティオの言う通り、普通の人間では有り得ない。なぜなら、その体が透けてゆらゆらと揺らいでいたからだ。

 

禿頭の男は、ハジメ達が自分を認識したことに察したのか、そのまま無言で踵を返すと、歩いている素振りも重力を感じている様子もなくスーと滑るように動いて瓦礫の山の向こう側へと移動した。そして、姿が見えなくなる直前で振り返り、ハジメ達に視線を向ける。

 

「……付いて来いってことか?」

「じゃろうな。どうするのじゃ?」

「……そうだね。多分、あれは大迷宮絡みだと思う。その証拠にほら、キュウコンは全く動揺していない」

 

ハジメの言葉通り、彼女の傍らのキュウコンは平然としている。あの人物が敵ではないと分かっているようだ。

 

「さっさと誠司達と合流したいところだけど……元々、神代魔法習得も目的だったんだ。手がかりを逃すわけにはいかない」

「ふむ。そうじゃの。では、追うとしよう」

 

結論が出ると、ハジメは振返って、愛子達に声を掛ける。

 

「悪いんですけど、先生達も付いてきてくれませんか? 何が起こるか分かりませんが……確かめないわけにもいかないんです」

「は、はい。分かりました」

 

デビッド達は、愛子を付いていかせるのに、若干難色を示したが、彼らとしても男の正体が気になったため、最終的には全員首を縦に振った。

 

禿頭の男は、その後も、時折姿を見せてはハジメ達を誘導するように瓦礫の合間を進んでいく。そして、五分ほど歩いた先で、遂に目的地についたようで、真っ直ぐハジメ達を見つめながら静かに佇んでいた。

 

「……それで、僕達をどうしたいの?」

「……」

 

禿頭の男は、ハジメの質問には答えず、ただ黙って指を差す。その場所は何の変哲も無い唯の瓦礫の山だったが、男の眼差しは進めと言っているようだ。問答をしても埓があかないと判断したハジメは、ティオ達と頷き合うとその瓦礫の場所へ踏み込んだ。すると、その瞬間、瓦礫がふわりと浮き上がり、その下の地面が淡く輝きだした。見れば、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれていた。

 

「……あなたは……解放者なの?」

 

ハジメが質問したのと、地面が発する淡い輝きがハジメ達を包み込んだのは同時だった。

 

そして、次の瞬間には、ハジメ達は全く見知らぬ空間に立っていた。それほど大きくはない。光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれている。どうやら、いきなり大迷宮の深部に到達してしまったらしい。デビッド達神殿騎士達は、突然のことに驚愕の声を上げていた。

 

そんなデビッド達をよそに、ハジメ達は、魔法陣の傍に歩み寄った。ハジメは、何が何やらと頭上に大量のハテナマークを浮かべている愛子の手を引いて、ティオと頷き合うと精緻にして芸術的な魔法陣へと踏み込んだ。それを見たデビッド達も慌てて、魔法陣に踏み込む。

 

「「「ぐぅっ!?」」」

 

すると、いつも通り記憶を精査されるのかと思ったら、もっと深い部分に何かが入り込んでくる感覚がして、思わず三人とも呻き声を上げる。あまりに不快な感覚に、一瞬、罠かと疑うも、次の瞬間にはあっさり霧散してしまった。そして、攻略者と認められたのか、頭の中に直接、魔法の知識が刻み込まれる。それと同時に、ハジメ、ティオ、愛子の前に紫色のメダルが現れた。

 

「……魂魄魔法?」

「う~む。どうやら、魂に干渉できる魔法のようじゃな……」

「なるほどね。ミレディが、ゴーレムに魂を定着させて生き永らえていたカラクリはこれか……」

 

ミレディが、「大正解!」と書かれたプラカードを掲げて笑っている光景が見えた。少しだけイラッとくるが、何とか気持ちを切り替えて、メダルを手に取り、コートに付けるハジメ。ティオも着物にメダルを取り付ける。それを見た愛子も真似するように、メダルを身に着け始めた。

 

デビッド達は、ここは一体どこなのか、一体何がどうなっているのか、矢継ぎ早に質問を投げかける。そんな暴走しかけている彼らを落ち着かせたのは、ティオだった。ややこしくなるので解放者云々は伏せていたが、この神山もまたオルクス大迷宮やグリューエン大火山と同じ七大迷宮の一つであること、攻略に成功すると神代魔法という非常に強力な魔法が使えるようになることなどを簡単に説明したのだ。

 

まさかここが七大迷宮の一つであったことに、デビッド達は目を飛び出す程に驚愕していたが、愛子が攻略に成功し、神代魔法を習得したことを知ると、「さすが愛子だ!」と褒め称え始めた。そんなデビッド達を、愛子が「やめてください!」と恥ずかしそうに止めている。

 

ギャーギャー騒ぐ愛子達ををよそに、ハジメは脇の台座に安置されていた本をパラパラとめくる。中身は、神山の創設者であるラウス・バーンという人物が書いた手記のようで、解放者達との交流や、この神山で果てるまでのことが色々書かれていた。

 

そこら辺は、ハジメとしてはどうでも良いのでサクッと読み飛ばす。誠司は興味を持ちそうだが、ラウス・バーンの人生など、ハジメにとっては興味がないのだ。

 

そして、最後の辺りで、迷宮の攻略条件が記載されていたのだが、それによれば、先程の禿頭の男ラウス・バーンの映像体が案内に現れた時点で、ほぼ攻略は認められていたらしい。

 

というのも、あの映像体は、最低、二つ以上の大迷宮攻略の証を所持している事と、神に対して信仰心を持っていない事、あるいは神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事、という条件を満たす者の前にしか現れないからだ。つまり、神山のコンセプトは、『神に靡かない確固たる意志を有すること』のようだ。

 

おそらくだが、本来、正規のルートで攻略に挑んだのなら、その意志を確かめるようなあれこれがあったのではないだろうか。愛子も攻略を認められたのは、長く教会関係者から教えを受けておきながら、そんな信仰心より生徒を想う気持ちを揺るがせなかったから、あるいは教会の打倒に十分手を貸したと判断されたからだろう。

 

この世界の人々には実に厳しい条件と言える。現にデビッド達は、あの紫色のメダル……オウンシンボルを手にしておらず…攻略が認められていない。もっとも、当の本人達は全く気にしていないが。

 

ハジメは一息吐くと、ティオや愛子達を促して、その場を後にすることにした。再び、ラウス・バーンの紋章が輝いて元の場所に戻る。ハジメは愛子に声を掛けた。

 

「先生、大丈夫ですか?」

「は、はい。何とか……それにしても、すごい魔法ですね……確かに、こんなすごい魔法があるなら、日本に帰ることの出来る魔法だってあるかもしれませんね」

 

愛子が、こめかみをグリグリしながら納得したように頷く。その表情は、ここ数日の展開の激しさに疲弊しきったように疲れたものだったが、帰還の可能性を実感できたのか少し緩んでいる。

 

「魔法陣の場所も攻略条件も分かったことだし、後は誠司達と合流するだけですね」

「あっ、そうです! 王都が襲われているんですよね? みんな、無事でいてくれれば……」

 

心配そうな表情で祈るように胸元をギュと握り締める愛子を促して、ハジメ達は、下山を開始した。

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