魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

116 / 160
筆が乗りました。


本性

恵里は、傍らに立つ魔獣……パラセクトと共に、ある方向へ歩みを進める。重傷を負いながらも、直ぐには死なないような場所を狙われたらしく苦悶の表情を浮かべて生きながらえている生徒達は、幽鬼のような兵士達の間を悠然と歩く恵里とパラセクトを呆然とした表情で見つめることしか出来なかった。パラセクトは歩きながら、胞子のようなものをばら撒いている。先程の黄土色の粉もパラセクトによるものだったようだ。

 

恵里は、雫の途切れがちな質問には答えずに、何がおかしいのかニヤニヤ笑いを浮かべている。恵里とパラセクトの向かう先には光輝がいた。眼鏡を外し、光輝の首に嵌められた魔力封じの一つである首輪をグイっと引っ張ると、恵里は艶然と微笑む。

 

「え、恵里…っ…一体…ぐっ…どうしたんだ……」

 

雫や香織、龍太郎ほどではないが、極々親しい友人で仲間の一人である恵里の余りの雰囲気の違いに、体を貫く剣の痛みに堪えながら必死に疑問をぶつける光輝。だが、恵里はどこか熱に浮かされたような表情で光輝の質問を無視する。

 

「アハ、光輝君、つ~かま~えた~」

「んむぅ!?」

 

そんな事を言いながら、光輝の唇に自分のそれを重ねた。妙な静寂が辺りを包む中、ぴちゃぴちゃと生々しい音がやけに明瞭に響く。恵里は、まるで長年溜め込んでいたものを全て吐き出すかのように夢中で光輝を貪った。

 

光輝は、訳が分からず必死に振りほどこうとするが、数人がかりで押さえつけられている上に、魔力封じの枷を首輪以外にも、他の生徒達同様に手足にも付けられており、また体を貫く剣のせいで力が入らずなすがままだった。

 

やがて満足したのか、恵里が銀色の糸を弾きながら唇を離す。そして、目を細め恍惚とした表情で舌舐りすると、おもむろに立ち上がり、倒れ伏して血を流す生徒達を睥睨した。苦悶の表情や呆然とした表情が並んでいる。そんな光景に満足気に頷くと、最後に雫に視線を定めて笑みを浮かべた。

 

「とまぁ、こういう事だよ。雫」

「っ…どういう事よ…こふっ…」

 

訳が分からないといった表情で、恵里を睨みながら吐血する雫に、恵里は物分りが悪いなぁと言いたげな表情で頭を振ると、まるで幼子にものの道理を教えるように語りだしだ。

 

「うーん、分からないかなぁ? ()はね、ずっと光輝君が欲しかったんだ。だから、そのために必要な事をした。それだけの事だよ?」

「……光輝が好きならっ…告白でもすれば、良かったでしょうっ!? こんな事……」

 

雫の反論に、恵里は一瞬、無表情になる。しかし、直ぐにニヤついた笑みに戻ると再び語りだした。

 

「ダメだよ、ダメ、ダ~メ。告白なんてダメ。光輝君は優しいから特別を作れないんだ。周りに何の価値もないゴミしかいなくても、優しすぎて放っておけないんだ。だから、僕だけの光輝君にするためには、僕が頑張ってゴミ掃除をしないといけないんだよ」

 

「そんな事も分からないの?」と小馬鹿にするようにやれやれと肩を竦める恵里。ゴミ呼ばわりされても、余りの豹変ぶりに驚きすぎて怒りも湧いてこない。一人称まで変わっており、正直、雫には目の前にいる少女が初対面の誰かにしか見えなかった。

 

「ふふ、異世界に来れてよかったよ。日本じゃ、ゴミ掃除するのは本当に大変だし、住みにくいったらなかったよ。もちろん、このまま戦争に勝って日本に帰るなんて認めない。光輝君は、ここで僕と二人、ず~っとずぅ~~と暮らすんだから」

 

クスクスと笑いながらそう語る恵里に、雫は、まさかと思いながら、ふと頭をよぎった推測を口からこぼす。

 

「…まさか…っ、大結界が簡単に…破られたのは……」

「アハハ、気が付いた? そう、僕だよ。このパラセクトや()()を使って大結界のアーティファクトを壊してもらったんだ」

 

雫の最悪の推測は当たっていたらしい。魔人族が、王都近郊まで侵攻できた理由までは思い至らなかったが、大結界が簡単に破られたのは、恵里の仕業だったようだ。恵里の視線が、幽鬼のように佇む騎士や兵士達を面白げに見ている事から、彼らにやらせたのだろう。

 

「君達を殺しちゃったら、もう王国にいられないし……だからね、魔人族とコンタクトをとって、王都への手引きと異世界人の殺害、お人形にした騎士団の献上を材料に魔人領に入れてもらって、僕と光輝君だけ放っておいてもらうことにしたんだぁ」

「馬鹿な…魔人族と連絡なんて……」

 

光輝がキスの衝撃からどうにか持ち直し、信じられないと言った表情で呟く。恵里は自分達とずっと一緒に王宮で鍛錬していたのだ。大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取るなんて不可能だと、恵里を信じたい気持ちから反論をする。

 

しかし、思わぬ人物がそんな希望をあっさり打ち砕く。

 

「可能ですよ。私がいますからね」

 

声がした方に視線を向けた先には、他の騎士や兵士達に紛れていた一人の騎士が、普段と変わらない、にこやかな笑みを浮かべていた。

 

「パシオ……さん………?」

 

パシオは、光輝の声に答えず、無言で歩みを進める。他の騎士達と違い、しっかりとした足取りだ。やがて、三歩目から、彼の身体に異変が表れた。

 

パシオの、白かった肌は黒ずんでいき、耳も形を変えていく。トータスには、変装用として姿を変える魔法もあるが、それとは根本的に違う……まるで、()()()()()()()姿を変えているようだった。

 

光輝達の前に現れたパシオの姿は、褐色の肌に、尖った耳をしていた。その姿に、光輝達の間に衝撃が走った。誰かがボソリと呟いた。

 

「……魔人…族……」

 

そんな光輝達の反応に、恵里は愉快そうに笑った。

 

「アハハハ、まぁそうだよね。僕も驚いたし。まさか、騎士団の中に魔人族が紛れ込んでるなんてさ! ちなみに、このパラセクトは彼からプレゼントされた子だよ~」

「パララ……」

 

このパラセクトは、オルクス大迷宮で、カトレアが支配下に置いたやつと、同じ個体だ。どうやって、恵里が誰にも気付かれずにパラセクトを使役出来ていたのかというと、それはモンスターボールによるものだった。オルクス大迷宮での戦いで、誠司はヤミカラスを捕獲する際にモンスターボールを複数発射していたが、いくつかは外していた。その狙いが外れたモンスターボール達は、パシオによって回収され、利用されてしまったのだ。ちなみに、魔人族の方で、モンスターボールの解析が行われているが、特殊な鉱石や木の実が使用されていることから再現には至っていない。

 

パラセクトの話をしたからか、恵里は、ふとオルクス大迷宮での事件を思い出した。

 

「あのオルクスでの事件は、流石に僕も肝が冷えたね。何とか殺されないように迎合しようとしたら却下されちゃうし…… 降霊術を使うことも考えた程だったよ。怪しまれたくないから『降霊術は使えない』っていう印象を持たせておきたかったんだけど、死んじゃったら意味ないしねぇ…… まぁ、結局使わずに済んだけど」

 

恵里の話を聞き、彼女の降霊術を思い出した雫が、唯でさえ血の気を失って青白くなっていた顔を更に青ざめさせた。

 

降霊術は、()()()()の残留思念に作用する魔法である。それを十全に使えることを秘匿したかったということは、実際は完璧に使えるということ。であるならば、雫達を包囲する幽鬼のような兵士や騎士、そして……自分を抑えるニアの様子から考えれば最悪の答えが出る。

 

「彼らの…様子が…おかしいのは……」

「もっちろん、僕の降霊術………と言いたいところだけど、()()ではないんだよね~」

 

全員ではない? どういうことかと恵里に尋ねようとしたその時、ずっと棒立ちだった清水が、恵里の側に近づいてきた。そんな清水を、恵里は軽く小突いてやる。だが、清水は何の反応も示さない。それを見て、雫は悟った。何故、清水が騎士達に襲われなかったのか。答えは簡単だ。()()を襲う理由がないからだ。

 

「流石の僕も、これだけの数を殺すのは手間だからね~。だから、彼を利用することにしたんだ~」

 

清水幸利は、既に殺されていたのだ。

 

 

クラスメイトが、秘密裏に殺されていたという事実は、光輝達に大きな衝撃を与えていた。特に、彼と行動を共にしていた優花達、愛ちゃん護衛隊のメンバー達が受けた衝撃は、光輝達の比ではなかった。優花が必死に反論する。

 

「嘘よ……降霊術じゃ受け答えなんて……出来るはず…ない……! それに、清水の闇系統魔法だって……! こんなにたくさんの人相手に、洗脳出来るはず……」

 

本来、降霊術とは残留思念に作用して、そこから死者の生前の意思を汲み取ったり、残留思念を魔力でコーティングして実体を持たせた上で術者の意のままに動かしたり、あるいは遺体に憑依させて動かしたり出来る術である。

 

その性能は当然、生前に比べれば劣化するし、思考能力など持たないので術者が指示しないと動かない。もちろん、「攻撃し続けろ」などと継続性のある命令をすれば、細かな指示がなくとも動き続ける事は可能だ。

 

ウルの町での事件以来、腫れ物扱いになってしまっていた清水だったが、会話が全くない訳ではなかった。少ない回数だったが、優花達と会話した時も、普通に受け答え出来ていた。そんなことは、降霊術では不可能のはずなのだ。

 

それに、清水の闇系統魔法だって、大勢の人間を洗脳するようなことは不可能だ。それは、ウルの町での事件で証明されている。あの時、清水はティオ以外は全て野生ポケモン達を洗脳していた。もし仮に、大勢の人間を洗脳することが出来るのであれば、わざわざあんな方法を取らずに、自分達や町の人間だけを洗脳すれば良かったはずだ。

 

そんな優花の反論も、恵里は一蹴する。

 

「そこはほら、僕の実力? 降霊術に、生前の記憶と思考パターンを付加してある程度だけど受け答えが出来るようにしたんだよ。僕流オリジナル降霊術“縛魂”ってところかな? それと降霊術で蘇った生き物って、死んでからの方がずっと強いんだよ~。知らないの?」

 

降霊術で蘇った死体は、脳のリミッターが外れた影響なのか、生前よりも筋力や魔力、敏捷性が大幅に増加する。なので、降霊術によって蘇った清水も、強力な闇系統魔法の使用が可能となっていた。それこそ、ウルの町での事件の時よりも強力なものが。

 

ちょうどその時、パシオの側に、カラマネロが姿を現した。ウルの町で暗躍していたカラマネロだ。シアとの戦いの後、こちらに来たようだ。

 

なお、恵里が即座にクラスメイト達を殺さないのは、この“縛魂”と言う魔法が、死亡直後に一人ずつにしか使用出来ないからである。長々と恵里が話しているが、パシオもカラマネロも、恵里の話を遮る様子はない。勇者達が、恵里の悍ましい告白を聞いて、絶望しながら殺されていくのを見物するためだ。なんとも趣味の悪い理由である。

 

「でも、僕の“縛魂”や清水の魔法、カラマネロの“さいみんじゅつ”を使ってたら、違和感がありありでさ~。国王とかのお偉いさんはガードが固いから近づけないし。そこは僕もどうしたものかと悩んでいたんだけどぉ……ある日、協力を申し出てくれた人がいてね。ピンク髪の綺麗な人。計画がバレているのは驚いたし、一瞬、色々覚悟も決めたんだけど……その時点で告発してないのは確かだったし、信用はできないけど取り敢えず利用はできるかなぁ~って」

 

「ホント、焦ったよぉ~」と、かいてもいない汗を拭うふりをする恵里。おそらく、その過程にも色々あったのだろうが、そんなことはおくびにも出さない。

 

「実際、国王まで側近の異変をスルーしてくれたんだから凄いよね? 代わりに危ない薬でもキメてる人みたいになってたけど。まぁ、そのおかげで一気に計画を早める事が出来たんだ」

 

ちなみに余談ではあるが、恵里の降霊術を使わなくても、カラマネロの“さいみんじゅつ”やピンク髪の女性の力だけで、王宮内の掌握自体は可能だった。それをせずに、自分の手を汚してまで降霊術を使ったのは、恵里の有用性を魔人族側に示さなくてはいけなかったからだけでなく、恵里がパシオ達を信用していなかったからというのもあった。

 

絶対に裏切られることのない、自分に絶対服従の配下を用意しておく必要があると判断したのだ。一方で、パシオもまた、“さいみんじゅつ”による洗脳だけでは限界があることを理解しており、万が一自力で洗脳が解けてしまった時のリスクを鑑みて、恵里の提案を受け入れた。恵里は興奮した様子で叫ぶ。

 

「まさに、天が僕の味方にしている! 祝福していると言えるね! くふふ、大丈夫だよ、皆! 皆の死は無駄にしないから。ちゃ~んと、再利用して魔人族の人達に使ってもらえるようにするからね!」

 

弄んだ死者と、倒れ伏す仲間だったはずのクラスメイト達の狭間で、恵里は楽しそうに踊り狂う。それこそ、祝福を受けていると本気で信じているかのように、両手を広げて、ケラケラと嗤いながら。一方で、パシオとカラマネロは、まるで出来の悪いミュージカルを観ているかのように、冷めた目で恵里を見ていた。そんな中、恵里が本気であることを理解した光輝が、必死の形相で声を張り上げた。

 

「ぐっ、止めるんだっ、恵里! そんな事をすれば……俺はっ……」

「僕を許さない? アハハ、そう言うと思ったよ。光輝君は優しいからね。それに、ゴミは掃除してもいくらでも出てくるし……だから、光輝君もちゃんと“縛魂”して、僕だけの光輝君にしてあげるからね? 他の誰も見ない、僕だけを見つめて、僕の望んだ通りの言葉をくれる! 僕だけの光輝君! あぁ、あぁ! 想像するだけでどうにかなってしまいそうだよ!」

 

恍惚とした表情で自分を抱きしめながら身悶える恵里。そこに、穏やかで気配り上手な図書委員の女の子の面影は皆無だった。誰もが確信した。彼女は狂っていると。“縛魂”は、降霊術よりも死者の使い勝手を良くしただけで術者の傀儡、人形であることに変わりはない。それが分かっていて、なお、そんな光輝を望むなど正気とは思えなかった。

 

「嘘だ……嘘だよ! エリリンが、恵里が…っ…こんなことするわけない! ……きっと…何か…そう…操られているだけなんだよ! っ…目を覚まして恵里!」

 

恵里の親友である鈴が痛みに表情を歪め苦痛に喘ぎながらも声を張り上げた。その手は、恵里のもとへ行こうとでもしているかのように地面をガリガリと引っ掻いている。恵里は、鈴の自分を信じる言葉とその真っ直ぐな眼差しにニッコリと笑みを向けた。そして、おもむろに一番近くに倒れていた近藤礼一のもとへ歩み寄る。

 

近藤は、嫌な予感でも感じたのか「ひっ」と悲鳴をあげて少しでも近付いてくる恵里から離れようとした。当然、完璧に組み伏せられ、魔力も枷で封じられているので身じろぎする程度のことしか出来ない。

 

傍に歩み寄った恵里は、何をされるのか察して恐怖に震える近藤に向かって再び、ニッコリと笑みを向けた。光輝達が、「よせぇ!」「やめろぉ!」と制止の声を上げる。恵里は笑みを浮かべたまま、毒を吐いた。

 

「正直……君のこと、嫌いだったんだよね。やらしい目で見てきやがって。……キモいんだよ」

「や、やめっ!?」

 

近藤はうつ伏せの状態にされ、彼の首に向かって、騎士が勢いよく斧を振り下ろした。

 

「礼一ぃっ! ぐあぁ」

「くそっ、中村ァッ! てめぇっ、ガハッ」

 

近藤と同じパーティーメンバーの、中野と斉藤の怒声が木霊した。だが、すぐに騎士達の拘束を受け直して苦悶の声を上げる。誰も何も出来ない。

 

手入れが悪かったのか、斧の切れ味が悪く、近藤は一回で死ぬことが出来ない。最初の数回は、くぐもった悲鳴が上がっていたが、何度も何度も斧が振り下ろされるうちに、やがて悲鳴も上がらなくなった。

 

文字通り、()()()()()()()()()状態の近藤の身体に、恵里は手をかざし、今まで誰も聞いたことのない詠唱を呟くように唱える。詠唱が完了し“縛魂”の魔法名を唱え終わったとき、半透明の近藤が現れ自身の遺体に重なるように溶け込んでいった。

 

直後、今まで近藤を拘束していた騎士が立ち上がり一歩下がる。光輝達が固唾を呑む中、死亡したはずの近藤は、ゆっくりとその身を起こし、周囲の騎士達や清水と同様に幽鬼のような表情で立ち上がった。

 

「は~い。お人形一体、出来上がり~。この状態でも動くって凄いよね~」

 

首をブラブラさせながら、無言無表情で立ち尽くす近藤を呆然と見つめるクラスメイト達の間に、恵里の明るい声が響く。たった今、人一人を殺した挙句、その死すら弄んだ者とは思えない声音だ。おそらく、清水も同じように殺したのだろう。

 

「え、恵里……なんで……」

 

ショックを受けたように愕然とした表情で疑問をこぼす鈴に、恵里は追い打ちとも言える最悪の語りを聞かせる。

 

「ねぇ、鈴? ありがとね? 日本でもこっちでも、光輝君の傍にいるのに君はとっても便利だったよ?」

「……え?」

「参るよね? 光輝君の傍にいるのは雫と香織って空気が蔓延しちゃってさ。不用意に近づくと、他の女共に目付けられちゃうし……向こうじゃ何の力もなかったから、嵌めたり自滅させたりするのは時間かかるんだよ。その点、鈴の存在はありがたかったよ。馬鹿丸出しで何しても微笑ましく思ってもらえるもんね? 光輝君達の輪に入っても誰も咎めないもの。だから、“谷村鈴の親友”っていうポジションは、ホントに便利だったよ。おかげで、向こうでも自然と光輝君の傍に居られたし、異世界に来ても同じパーティーにも入れたし……うん、ほ~んと鈴って便利だった! だから、ありがと!」

「……あ、う、あ……」

 

衝撃的な恵里の告白に、鈴の中で何かがガラガラと崩れる音が響いた。親友と築いてきたあらゆるものが、ずっと信じて来たものが、幻想だったと思い知らされた鈴。その瞳から現実逃避でもするように光が消える。

 

「恵里っ! あなたはっ!」

 

余りの仕打ちに、雫が怒声を上げる。傀儡と化したニアが必死にもがく雫の髪を掴んで地面に叩きつける。しかし、それがどうしたと言わんばかりに、雫の瞳は怒りで燃え上がっていた。

 

「ふふ。怒ってるね? 雫のその表情、すごくいいよ。僕ね、君のこと大っ嫌いだったんだ。光輝君の傍にいるのが当然みたいな顔も、自分が苦労してやっているっていう上から目線も、全部気に食わなかった。でも、その前に……」

 

恵里の視線は、今度は香織に向けられる。香織もまた、致命傷は負っていないものの、抑えつけられて身動き一つ取れずにいる。

 

そんな香織を見て、恵里は口元にニヤついた笑みを貼り付けながら、彼女に近付いた。それを見た雫や光輝達は、近藤と同じように殺されて傀儡にされる光景を幻視したのか、必死の抵抗を試みる。だが、相変わらず拘束から抜け出すことは叶わない。そんな光輝達をよそに、恵里は和やかな態度で、香織に話しかける。

 

「実は『君をお人形にして好きにしたい!』って人がいてね~。色々手伝ってもらったし、報酬にあげようかなって。僕、約束は守る性質だからね! 良い女でしょ? それで……僕の降霊術と、清水やカラマネロの洗脳、どっちが良い? 向こうはどっちでも良いみたいだったし、折角だから好きな方を選ばせてあげるよ」

「え……」

 

思わず絶句する香織。当然、そんな二択に答えることは出来なかった。

 

「そんなの、どっちも嫌に決まって……」

「ふーん……じゃあ、死ね」

 

恵里はそのまま、香織を拘束している騎士達に合図を送ると、騎士達は剣を香織の身体に突き刺さんとばかりに動き出す。香織は、それを絶望の表情のまま、見ていることしか出来なかった。

 

ガキンッ!

 

騎士達が突き下ろした剣は、掌くらいの大きさの輝く障壁に弾かれた。

 

「「え?」」

 

香織と恵里の声が重なる。何が起きたのかと呆然とする二人に、ここにいるはずのない者の声が響いた。

 

「一体、どういう状況だ……?」




恵里の相棒ポケモンは、パラセクトです。キノコに操られたゾンビみたいなポケモンだし、恵里にピッタリかと思って、この子にしました。

残念ながら、清水も原作同様、死亡ルートを辿ってしまいました…… ウルの町編では生かしましたけど、結局、それ以降で活躍する未来が見えなかったので……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。