ガメノデスとスカンプーのバトルは、あっという間に決着がついた。もっとも、ガメノデスと、コンディションが最悪なスカンプーとでは、結果が見えていたが。倒れ伏すスカンプーに、檜山は罵声を浴びせる。
「おい! 何やってんだ! さっさと立てよ! 臭えだけの役立たずがっ! おら、さっさと、へぶっ!?」」
檜山は怒りのままにスカンプーを蹴飛ばそうとするが、そうする前にガメノデスが檜山をぶっ飛ばした。ぶっ飛ばされた檜山は、そのまま訓練場の奥の壁に叩きつけられ、崩れた瓦礫の下敷きになってしまった。あれでは当分動けないだろう。スカンプーは、意識を取り戻すと、そのままどこかへ逃げ去ってしまった。
ちょうどその時、周囲が粉っぽくなっているのを感じた。マシェードとパラセクトが互いに胞子をまき散らしていたのだ。誠司は慌ててマシェードに呼びかける。
「マシェード、落ち着け! お前らしくない! 周囲が胞子まみれになってる。このままじゃ皆眠ってしまうぞ!」
「ッ! マシェ……」
「まったく……お前の胞子は強力なんだからもう少し冷静に……ん?」
そこまで言いかけて、誠司はあることを思い出した。以前、北の山脈でティオと戦った時、彼女は洗脳状態だったが、確かに“キノコのほうし”が効いていた。洗脳状態であっても、感覚は生きているため、眠気を誘うことが可能なのだ。
「マシェード、あの騎士に“キノコのほうし”」
「マシェ!」
マシェードに胞子を振りかけられた騎士は、フラリと崩れ落ちてしまった。それを見て、誠司は、洗脳は眠っていたり気絶している相手に効果がないことを確信した。
「マシェードは“キノコのほうし”でガンガン眠らせるんだ。それで、眠らない奴が死人だ! キョジオーンはそいつらに“しおづけ”していけ! ガメノデスはサポートを頼む!」
「マシェ!」
「ジオン!」
「ガデス!」
だが、そうはさせじと再びパラセクトが襲い掛かるが、シュバルゴが咄嗟に攻撃を弾いて、“シザークロス”をお見舞いする。まだ倒れないが、かなりのダメージだ。
「シュバルゴ、我々は誠司達のサポートに徹するぞ!」
「シュバッ!」
団結して各々が、襲いくる騎士や兵士達、パラセクトに対応していく。そんな彼らを見て、恵里は焦りの表情を浮かべる。
「チッ、仕方ない、かな?」
恵里の視線がクラスメイト達へ奔る。傀儡化を諦めて、光輝以外の全員はそのまま殺してしまうか、と判断する。しかし、その判断は少し遅かった。別の壁から爆発が起こったのだ。
「っ!? 今度は何!?」
「な、南雲さん! こんなことしなくても、入口があるんですからそっちに……」
「仕方ないでしょ。こっちの方が近道なんですから」
「うむ。ショートカットのためじゃ。やむを得まい」
「ティオさんまで……」
そんな会話を繰り広げながら、土煙の中から姿を現したのは、ハジメ達であった。誠司達との合流、愛子を送り届けるために王宮に向かっていたのだが、何か騒がしかったので、訓練場に向かったのだ。そのまま順路通りに進む時間も惜しかったので、邪魔な壁とかは物理的に排除して押し入らせてもらった。
ハジメの手にはオルカンがあり、それを使って破壊して進んできたようだ。
愛子は、自分の教え子達が騎士や兵士達によって、組み伏せられている光景に驚愕の表情を浮かべていた。
「これ、は……一体、どういうことなんですか!? 中村さん!」
愛子が必死に、恵里に説明を求めて声を張り上げるが、彼女は一切取り合わない。新たな化け物の登場に内心動揺していて、それどころではなかったからだ。
(クソクソクソッ! なんでこいつらがここに……! あの女は何やってんだよ!)
あのピンク髪の女性から、愛子が神山に幽閉されている話は聞いていた。だが、ここにその愛子がいるということは、救出に成功してしまったということだ。
パシオもそのことに思い至ったようで、険しい表情を浮かべている。
「マズいですね……」
「マーロ……」
そんな恵里達をまるっと無視して、ハジメは誠司達のもとへ駆け寄った。途中で騎士や兵士達が襲い掛かるが、簡単に無力化していく。ハジメは誠司に尋ねた。
「……それで、どういう状況?」
「あいつらは裏切り者らしい。それで、騎士や兵士は降霊術で操られてるが、ただ操られてるのもいる。だからまとめて吹っ飛ばす手段は使えない」
「……なるほど」
「戦いの後だろうけど、クラスメイト達の回復を頼む」
「了解」
ハジメは誠司の言葉に頷くと、すぐに倒れ伏すクラスメイト達のもとへ走った。回復されるのを阻止するために、騎士や兵士達が襲い掛かるも、ハジメには通じない。とりあえず、近くの人から回復させようとしたその時、ハジメ目掛けて火炎弾が飛来してきた。かなりの威力が込められているらしく白熱化している。しかし、ハジメには通用しない。ドンナーの銃口を火炎弾に向けるとピンポイントで魔法の核を撃ち抜き、あっさり霧散させてしまった。
「なぁぐぅもぉおおおー!!」
その霧散した火炎弾の奥から、檜山が姿を現した。壁に叩きつけられ、瓦礫の下敷きになったことで、身体はもうズタボロだ。だが、檜山は、そんな身体の状態など知ったことではないという風に、ハジメに殺意を向けていた。
「お前のぜいだ! お前のせいでえぇっ!!」
剣を片手に、ハジメに飛び掛かろうとするが、それより前にモンスターボールからグレッグルが飛び出し、檜山の鳩尾に拳を叩き込む。防具は着けていたものの、既にボロボロになっており、効果を為さなかったのだ。
「ぐふぅっ!?」
ただでさえボロボロの状態だったことに加え、急所まで突かれ、檜山はガクンッと倒れ込んでしまう。吐血しながらも何とか顔を上げると、目の前にはドンナーの銃口が突き付けられていた。ここで初めてハジメは口を開いた。普段の温厚さなど欠片もない、冷えきった口調だった。
「……それで?」
「お前如きに何が出来るんだ?」と言外に尋ねられたことを正確に読み取った檜山は、ギリッと歯を食いしばる。そして、激情のままハジメを罵った。
「お前がいなけりゃ……お前が奈落で死んでりゃ俺は……!」
「……人のせいにしないでもらえる? まぁ、これから死ぬ君には、関係ないか……」
ハジメがそう言うと、檜山の様子が変わった。彼の顔から怨嗟や殺意が消え、代わりに恐怖が浮かぶ。
「し、死ぬ……? 俺…を……殺すつもり、か……?」
檜山は掠れた声でそう言った。信じられないものを見るような目で、ハジメを見るが、彼女の表情は変わらない。
「馬鹿な……クラスメイトの俺を……殺せるわけ………」
檜山はどうにか虚勢を張ろうとするが、ハジメの目を見て本気であることを本能で悟ったようだ。汗がふつふつと額にあふれ出す。どうにかこの場から逃げようと、視線を忙しなく動かし始めた。その時、視界の端に、地球にいた頃からの仲間二人の姿が映る。檜山は必死に呼び掛けた。
「な、なぁ! 信治! 良樹! 助けてくれ…… 南雲を説得してくれよ! なぁ、おい! 俺ら、
「友達……だと?」
名指しで声を掛けられた中野と斎藤は、檜山に視線を向ける。だが、彼らの目は、とても友達に向けるものではない、憎悪の籠ったものだった。
「ふざけんな……! お前、中村とグルだったんだろ! 礼一を死なせといて、よくそんなこと抜かせるな!」
「てめえなんか、友達でも何でもねえ! さっさと南雲に殺されちまえ!」
「お、お前ら……」
「……素晴らしい友情だね」
友人であり、仲間だった二人からの拒絶の言葉に、呆然とする檜山。そんな檜山に、ハジメは皮肉気に吐き捨てた。そして、ハジメの指が引き金に掛かる。
檜山の頭の中には、死という言葉が埋め尽くす。しかし、檜山の脳天がぶち抜かれようとした瞬間、空が明るくなった。思わず、上を見上げると、無数の雷が降り注ぐ光景が見えた。
「チッ……」
ハジメは、舌打ちしつつその場から飛び退き、上空に向かってドンナーを数回発砲する。だが、その雷は意思を持っているかのように、弾丸を巧みに避け、ハジメに迫る。
「いけ、ラグラージ!」
「ラーグッ!」
「ありがとう、ラグラージ」
「ラグ」
誠司が咄嗟に繰り出したラグラージが、ハジメを守った。雷に当たる心配が消えたハジメは、周囲を見渡すと、檜山の姿がなくなっていることに気が付いた。どうやら、今の隙を突いて、その場から逃げ出したらしい。大怪我を負っているはずだが、火事場の馬鹿力でも働いたのだろう。檜山に逃げられたことに、舌打ちしつつも、目の前のことに集中する。
無数の雷は、あちこちに命中して地面を焦がしていった。そのうちの一つは、清水に命中した。清水がダメージを受けたことで洗脳が解け、彼に操られていた者達は一斉に、糸が切れたマリオネットのように、倒れていった。
誠司やメルド達はリリアーナの結界で、愛子やデビッド達はラグラージと同時に繰り出したモグリューによって守られたので無事だった。そして、クラスメイト達は、皮肉なことに組み伏せた騎士や兵士達が盾の役割を担ってくれたので雷を浴びた者はいなかった。
雷が収まると、上空にはゼクロムとフリード、そしてカラマネロ(パシオの側にいるのとは別個体)の姿があった。否、フリードだけでなく、彼らの周囲には、配下と思われる魔人族とポケモン達の軍勢もいた。最初の頃より大分少なくなったものの、それでも数十人はいる。
「そこまでだ。大切な同胞達と王都の民達を、これ以上失いたくなければ大人しくすることだ」
ゼクロムの体から、青白いスパークが走る。どうやらフリードは、誠司達を光輝達や王国のために戦っているのだと誤解しているようである。いかに誠司達が強かろうと、人質を使えば、まだ勝機があると判断したのだ。
そんなフリード達に冷ややかな視線を向け、ハジメはメタグロスを繰り出す。誠司も、ラグラージの側に近寄り、互いに頷いて見せた。フリードは、誠司達の行動に視線を険しくする。ゼクロムの体から放つスパークも強くなる。
「……何をするつもりだ? 同胞の命が惜しくないのか? お前達が抵抗すればするほど、王都の民も傷ついていくのだぞ? それとも、それが理解できないほど愚かなのか? いかにお前達が強くとも、全てを守りながら戦い続けることが……」
「ベラベラよく喋る口だ」
「ラーグ……」
「君達こそ、誰を敵に回したのか、教えてあげる」
「メッタ!」
その瞬間、誠司のネクタイピンとラグラージの左前足のスカーフ、ハジメのペンダントとメタグロスの右前足のリングが、互いに共鳴するかのように輝き出した。
「ラグラージ……」
「メタグロス……」
「「メガシンカだ!!」」
ラグラージとメタグロスの姿が変わった。フリードは驚愕の表情を浮かべ、急いでゼクロムに指示を飛ばす。このままではマズい。一刻も早く倒さないといけない、と本能的に察知していた。
「ゼクロム、“らいげ……」
「ラグラージ、“マッドショット”!」
「メタグロス、“ラスターカノン”!」
「グラガァッ!?」
フリード達よりも、誠司達の方がずっと早かった。メガシンカしたことでより強力になった、無数の泥の塊と鋼の光線が、ゼクロムを襲いかかり、大ダメージを与える。先程ユエから受けた分もあって、ゼクロムは満身創痍の状態だ。
「別に俺達は、王国でも勇者達の味方じゃない。依頼があったから助けたまでだ。そちらこそ、同胞の命が惜しいなら大人しくしたらどうだ?」
「敵対するなら、こっちも容赦しないよ。それに……切り札がこれだけだと思わないことだね。分かったら……さっさと失せろ」
ハジメが言っていることは半分程ハッタリだ。他にも強力な武器はあるが、試作品段階のものばかりだ。あくまでフリード達を牽制するための発言だったが、フリードの顔を見るに、効果はあったようだ。
フリードとしては、誇り高い魔人族の自分達に対して、不遜な物言いをする者達を見逃すなど、プライドが許せない。だが、今の攻撃でゼクロムは大ダメージを負って、これ以上の戦闘は厳しい上に、万が一倒れるようなことがあってはならない。部下達も今の攻撃で士気が大幅に落ちている。
フリードは唇を噛み切り、握った拳から血を垂れ流す程に、内心荒れ狂っていた。そんなフリードの様子を見たパシオはふぅっと溜息を吐く。
「……やむを得ませんね。ここは痛み分けとしましょうか。カラマネロ」
「マロ」
パシオが呼び掛けると、カラマネロは騎士達への洗脳を解除した。それにより、カラマネロに操られていた者達も、バタバタ倒れていく。これで未だに立っているのが、恵里によって殺された傀儡兵達だ。キョジオーンの“しおづけ”で減らしたものの、それでもこの場に数十人はおり、相当な数が犠牲になっていたことが分かる。
「マーロッ」
カラマネロの目が青白く光ると、傀儡兵達は、次々と姿を消していく。その中には黒焦げになった清水も入っていた。どうやら、そんな状態になっても問題なく動けるらしい。
パシオとカラマネロは、恵里の隣に立つ。パラセクトもフラフラになりながらも恵里の側に移動する。恵里は、光輝を連れて行きたそうにしていたが、それが現時点で不可能であることを察して渋々引き下がった。だが、光輝に向ける瞳は、彼に対する妄執と狂気が宿っており、手に入れることを諦めた訳ではないのは明らかだった。
「悔しいけど、ここは退かせてもらうね。でも待ってて、光輝君。必ず君を手に入れるから……僕の王子様♡」
恵里がそう言ったと同時に、パシオとカラマネロ、パラセクトと共に姿を消した。
パシオ達が撤退したのを見て、フリードも撤退せざるを得なくなった。転移のためのゲートを開きながら、怨嗟の籠った捨て台詞を吐いた。
「この借りは必ず返すぞ。……我が神の名にかけて、必ず……」
フリード達がゲートの奥に消え、ようやく戦いが終わったことを感じた。ラグラージとメタグロスが元の姿に戻ったと同時に、ユエとシアが姿を現した。
「……誠司、ハジメ、待たせた」
「すみません、遅れました!」
「二人とも、お疲れ」
「お疲れ様〜」
「二人も無事だったようじゃの」
それぞれ無事だったことに、お互い安堵の息を漏らす。ひとまずポケモン達をボールに戻し、誠司達は神水や再生魔法で怪我を負ったクラスメイト達の治療を進めた。光輝は、最初に恵里からキスされた際に毒薬も口移しされていたらしく、回復には少し時間が掛かったが、何とか回復した。
クラスメイト達は、一様に表情が暗い。仲間の裏切りや狂気、そして死が余程ショックだったのだろう。
誠司達は、下手な慰めは意味がないだろうと思い、何も言わなかった。ひと通り治療が完了したので、誠司達は神山に向かうことにした。ハジメとティオから神代魔法を習得したことを聞き、依頼を終えた以上、自分達もさっさと習得に向かうことにしたのだ。
依頼主のリリアーナには、成功報酬は後で受け取りに行くとだけ伝えて、誠司達は神山に向かって歩みを進めた。
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「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
フリード達の乱入により、命からがら逃げ出せた檜山は、一刻も早くその場から離れようと、必死に足を動かしていた。身体のあちこちの骨が折れ、身体を動かす度に激痛が走るが、止まっている暇はない。誠司達が追っ手を差し向けている可能性があるからだ。だから、急いで遠くに逃げる必要があった。通常の入口からではなく、ハジメが破壊した箇所から逃げ出したのも、彼らの裏をかく意図もある。
あんな無能達から逃げているという事実に、檜山は屈辱で頭がどうにかなってしまいそうだったが、彼らが強力な魔獣や武器を使う以上、自分に勝ち目はない。今はなんとか生き残って、いつか絶対殺してやる。そう檜山は息巻いていた。
しかし、そんな時は未来永劫、訪れることはない。
ハジメが檜山を放置したのは、檜山が生き残れる確率が極めて低いことを知っていたからだ。檜山が訓練場を抜けた先には、凶暴なポケモン達が大勢集まっていた。
魔人族が連れてきたものだけでなく、王都の守りが破壊されたことで、多くの野生ポケモン達も侵入してしまったのだ。更に、道中でハジメが破壊しながら進んだことで、その音を聞きつけたポケモン達が集まる形となっていた。
檜山は、ポケモン達の姿を見て、すぐに身を隠し、息を潜めてやり過ごそうとする。だが、強そうなポケモン達の姿を見るうちに、こいつらを使えば、誠司達に復讐出来るんじゃないかという考えが浮かび始めた。しかし、現状で自分にはどうにもならない。歯がゆさを感じていたその時、一体のポケモンが自分の前に姿を現した。スカンプーだ。
「お前は……! 丁度良い。おい! あの象みたいな奴と戦ってこい! あいつを使えば中西達を殺せる!」
檜山は、小声でスカンプーにそう命令した。檜山の指した相手は、巨大なインド象のようなポケモン、ダイオウドウだ。スカンプーとは色々な意味で不利な相手だが、そんなことは関係ないとばかりに、檜山は横暴な態度で命令を繰り返す。
「おい! 聞いてんのかよ! さっさと……」
それ以上、檜山の命令が続くことはなかった。スカンプーが背を向けて、檜山の顔に体液を吹きつけたからだ。その液体は、凄まじい悪臭を放ち、二十四時間は臭いが消えない程強力なものだ。そして、目に入ると、高い確率で失明してしまう。スカンプーは液体を吹きつけたと同時に、どこかへ駆け出した。彼の前に姿を現したのは、復讐のためだ。決して彼を助けるためではなかった。
「ぐがああああぁっ!? くせえ! 目がいだい! でめえ、何じやがんだ!」
あまりの悪臭と、目にかかったことによる激痛で、檜山は悶え苦しみ、のたうち回るが、その苦しみは一向に治まらない。そして、檜山が大声を上げたことで周囲のポケモン達が存在に気付いてしまった。だが、ポケモン達は襲うことなく、逆に檜山から距離を取り始めた。スカンプーの悪臭によって、彼は餌だと認識されなくなったのだ。しかし、餌だと認識されなくなっただけで、攻撃されなくなった訳ではなかった。
一体のポケモンが、檜山に向かって怒りの形相で襲い掛かった。先程、檜山がスカンプーに戦うよう命令した、あのダイオウドウだ。
話は変わるが、象の雄には、マスト期と呼ばれる男性ホルモンが過剰分泌する時期が存在する。その時期の雄の象は、手に負えないレベルで凶暴化してしまう。そして、そのマスト期は、同じ象型のポケモンであるダイオウドウにも存在し、このダイオウドウは今が丁度、マスト期の真っ只中であった。
「グララアガァッ!!」
不快な臭いが気に障ったのか、ダイオウドウは檜山を臭いの根源だと思い込んだ。そして、その臭いの元を早く絶とうと鼻を勢いよく振り上げる。だが、檜山は目が見えないこともあって、訳も分からず、ただただ喚き散らすだけであった。
「くそぉっ! 目も見えねえし! 誰か! 誰か助けてくれ! 誰か……」
檜山の喚き声は、グシャッという音を最後に、永久に途絶えた。
同刻、王都を駆けるスカンプーは、檜山の声が聞こえなくなったのを感じて、昏い笑みを浮かべた。自分の手を汚さずに、復讐を遂げるあたり、悪属性ならではの狡猾さをスカンプーは持っていた。今まで自分を扱き使い、痛めつけてきた相手が死んだことで、ようやく自由になったことを感じ、スカンプーは軽やかな足取りで闇夜の中に消えていく。彼がどこに行ったのかは、誰も知らない。
原作では、檜山は魔物の群れに食い殺されましたが、それではポケモンが可哀想なので、この形にしました。
ローズといい、ピオニーといい、ポピーといい、彼らが使っているダイオウドウが皆♀なのは、こういった背景があったのかな、と書きながら思いました。
ちなみに、魔人族陣営のカラマネロは、ウルの町の個体・カトレアといた個体・ローゲンといた個体で合計三体です。各々、性能が若干異なります。カトレアといた個体だけは別任務で王都にいませんでした。