魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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王都侵攻の後(前編)

誠司達が訓練場から姿を消した後、リリアーナやメルドの陣頭指揮によって大混乱の真っ只中にあった王宮も直ちに態勢が立て直され、状況調査が速やかに行われた。

 

状況調査の結果、恵里に傀儡兵化されていた兵士は三百人規模に上っていたことが判明した。そして、訓練場で消滅した者以外は、恵里が姿を消したと同時に姿を消したようだ。おそらく、カラマネロによって魔人族の領土に送られたのだろう。

 

また、王都の近郊に魔石を起点とした魔法陣が地中の浅いところに作られていたようで、それがフリードの対軍用空間転移の秘密だったようだ。恵里達の暗躍によるものだろう。

 

国王を含む重鎮達は、既に恵里の傀儡兵により殺害されており、現在はハイリヒ王国国王の座は空席になっている。混乱が収まるまではリリアーナと、無事だった王妃ルルアリアが王都復興の陣頭指揮を取る形を取っている。おそらく一段落ついて落ち着いたら、同じく無事だったランデル殿下が即位することになるだろう。

 

一番、混乱に拍車を掛けているのは聖教教会からの音沙汰がないことだ。

 

王都が大変なことになっているというのに、戦時中も戦後も一切姿を見せない聖教教会に不安や不信感が広がり、神山から教会関係が降りて来ないことを不審に思って、当然、確かめに行こうとする者は多かった。しかし、王都の復興やその他もろもろのやらねばならない事が多すぎて、とても標高八千メートルを登山できる者などいなかった。ちなみに直通のリフトはハジメ達が停止させているので、地道な登山しか総本山に辿り着く方法がない。

 

そうして色々なことが判明しつつ、魔人族の襲撃と手痛い仲間の裏切りや死から四日が経った。

 

 

ーーーーーーーーーー

「離して! 離してよぉっ!!」

「やめろ! シーナ!」

「落ち着くんだ!」

 

騎士団の宿舎の一室で事件が起こった。その部屋の騎士が、自殺を図ろうとしたのだ。

 

誠司達と同じくらいの歳の女騎士は、二人の騎士によって押さえ込まれていた。シーナの手には短剣が握られていたが、取り押さえていた騎士がすぐに叩き落とす。正気を取り戻した時から様子がおかしかったこともあって、他の騎士達も彼女を注意しており、最悪の事態は免れた。

 

「何事だ!」

「副団長! 実は……」

 

ホセの後任として、騎士団の副団長に就任したクゼリー・レイルが、騒ぎを聞きつけて部屋に入ってきた。彼女は、元々はリリアーナの近衛騎士を務めており、満場一致で副団長に選ばれた程の実力者だ。近くにいた騎士が事情を説明していると、半狂乱のままシーナが泣き叫ぶ。

 

「お願いだから死なせて! 私のせいで隊長が……隊長がぁ……!」

 

事情を聞いて、状況を把握したクゼリーは、「またか……」と内心溜息を吐いた。そして、ツカツカと足音を立てて、シーナの前に立ったクゼリーは思い切り、彼女の頬を張る。パァンッという音が部屋に響き、シーナは黙った。クゼリーが口を開いた。

 

「……いい加減にしろ。そんなことをして、ギデオンが喜ぶと思うのか?」

「でも……でも、私は……この国を守りたくて、やっと騎士になれたのに……裏切るような真似をして……私は……」

「だったら、これから死ぬ気で挽回しろ。今回の一件で、兵力が大幅に下がっているんだ。今自殺などされたら、更に兵力が落ちる。それこそ、国への裏切りだぞ」

「っ!」

「分かったら、頭を冷やせ。今は辛いだろうが……踏ん張ってくれ」

「うぅ……」

 

シーナはその場でへたり込んでしまった。クゼリーは溜息を吐いて、無言で部屋を出る。他の騎士達も、シーナに同情的な視線を向けつつも、クゼリーに続いて部屋から出る。クゼリーは事情を聞いた騎士に指示を飛ばした。

 

「ミシー、悪いが、彼女を見張っていてくれ。また馬鹿なことをしでかさないように」

「分かりました」

 

同性なので、問題は起こらないだろう。クゼリーは廊下を歩きながら、さっきのシーナのことを考えていた。

 

今のシーナのようなことが起こったのは、初めてではない。今日だけでも既に三件目、それまでの三日分も合わせれば、両手では足りない程だ。

 

こうなったのは、清水の闇系統魔法が原因である。生き残った騎士や兵士の大半は、清水やカラマネロによって洗脳されていた。クゼリーもその一人だが、彼女はカラマネロによる洗脳だったので、洗脳されていた間の記憶が残らず、まだ幸運だったといえる。

 

一方で、清水の闇系統魔法によって洗脳された者達には、洗脳されていた時の記憶が残っていた。すなわち、王国を守る立場にありながら、国を裏切り、同僚を騙したり、死に追いやるという、おぞましい行為の記憶全てが、だ。

 

洗脳が解けて、目覚めた者達は、すぐに自分がしでかしたことを思い出した。そして、激しい自責の念に駆られ、自分自身に絶望した。その結果、シーナのように、衝動的に自殺を図ろうとする者が続出したのだ。洗脳の後遺症で精神が不安定になっていたことも災いした。

 

実を言うと、彼女達のことを自分がどうこう言う資格があるとは、クゼリーも思っていない。クゼリーも、記憶がないとはいえ、洗脳されていたことに違いはないし、もし操られた自分が主君(リリアーナ)に剣を向けていたら、たとえ記憶がなかったとしても、自分も死にたくなっていただろう。

 

だが、今の騎士団は再編成の真っ只中だ。このまま自殺されて、更に人員が減るような事態は避けなくてはいけない。たとえ辛くても耐えるしかないのだ。

 

クゼリーは何も言わず、歩みを進める。

 

 

ーーーーーーーーーー

一方で、クラスメイト達もまた、心身ともに深い傷を負っていた。恵里と仲が良かった鈴は言わずもがな、その妄執と狂気がクラスメイトにもたらした傷は深かったのだ。お互い疑心暗鬼に陥り、自室に引きこもりがちになる者が多くなった。特に、中野と斉藤が顕著だ。仲間の近藤が目の前で死んだこともそうだが、檜山が死んだことも原因だった。

 

あの後、檜山は、訓練場から少し離れた場所で遺体として見つかった。食い散らされた様子はなかったが、原形を留めない程の無惨な状態だったそうだ。そして、腐敗が進んでいたからなのか、はたまた別の原因からなのかは分からないが、発見時には酷い臭いが漂っていたらしい。

 

それを聞いた中野と斉藤は、「自分があんなことを言ったから」と自分を責めていた。召喚前から一緒に行動し、召喚後は前線で共に戦ってきたことで培ってきた情は、そう簡単に捨てきれるものではなかったのだ。

 

現在、光輝達は、リリアーナ達の王都復興に力を貸しながらも、立ち直るために療養しつつ、あの日から姿を見せていない誠司達のことをチラチラと考えていた。

 

前線組や愛ちゃん護衛隊のメンバーは誠司達の実力を知っていたし、再会後も自分達なりにやれることをやっていたのだが、彼らとの隔絶した差がちっとも縮まっていなかったことを痛感し、思うところが多々あった。

 

光輝達ですらそうなのだから、居残り組にとっては衝撃的な出来事だった。帰還したメンバーから二人の生存や実力のことは聞いていたが、実際の凄まじさは、自分達の理解が万分の一にも達していなかったことを思い知ったのだ。誰も彼も、誠司達のことが気になって仕方がないのである。

 

あの出来事以来、クラスの雰囲気は明るいとは言えなかった。こんな時、いつもなら鈴あたりがムードメイカーの本領を発揮してくれるのだが、当の本人は明らかにテンションが低く、時折見せる笑顔も痛々しいものだった。余程、恵里に言われたことが堪えているらしい。無理もないだろう。長年、親友だと思っていた相手が、実は自分を便利な道具程度にしか思っていなかったのだから。

 

メルドも落ち込む生徒達のことを気にかけていたものの、騎士団の再編成で多忙を極めており、メルド自身も、自分が間違った者を信用したがために多くの部下を喪ったと内心自分を責めていたこともあって、十分なケアが生徒達に出来なかった。

 

それでも、自暴自棄になったり、深刻な程精神を病む者もなく、王都復興に向けて動ける生徒達が多々いるのは、ひとえに愛子や優花達の存在あっての事だろう。愛子が、生徒一人一人としっかりコミュニケーションを取っているために、そして、持ち前の一生懸命さで生徒達を鼓舞しているために、生徒達は現在も動けているのである。

 

優花達もまた、元居残り組だったこともあって、戦えない彼らの心情が痛い程分かっていた。なので、彼女達の精神的ケアも、居残り組にとって確かな支えとなっていた。

 

ちなみに、愛子は神山で一体何があったのか、生徒だけでなく、王宮の関係者達から何度か聞かれたのだが、頑なに口を閉ざしている。

 

それは、誠司達の邪魔をしないためであり、同時に、自分のしたことを思い出して口が重くなるからだ。予想外の結果だったとはいえ、覚悟を決めていたのは本当だ。なので、誠司達が帰ってきたらリリアーナ達に全てを告白するつもりである。彼女と一緒に神山から帰還したデビッド達も、愛子が言わないならと、だんまりを決め込んでいた。

 

愛子は、明るく振舞っているが、内心、戦々恐々としていた。自分が、ティオの幇助とはいえ勢い余って総本山を崩壊させ、イシュタル達や神殿騎士達をまとめて爆殺してしまったと生徒達が知ったら、果たして彼らは自分をどう思うだろうかと。

 

大切な生徒をこれ以上玩具にされないためにと覚悟を決めて戦い、そのことについては後悔などしていないが、人殺しは人殺しだ。きっともう、生徒達には先生とは呼んでもらえないだろうと改めて覚悟を決めていた。

 

そんな風に、愛子も生徒達もそれぞれ心に重りをこびり付けたまま、今日も今日とて王都復興のためにリリアーナの手伝いをする。

 

破壊された訓練場とは別の訓練場にて、各隊の隊長職選抜試験を行っていた。

 

「お疲れ様でした。光輝さん」

 

選抜試験における模擬戦で、騎士達の相手を務めていた光輝が練兵場の端で汗を拭っていると、そんな労いの言葉が響いた。光輝がそちらに視線を向けると、リリアーナが微笑みながらやって来るところだった。

 

「いや、これくらいどうってことないよ。……リリィの方こそ、ここ最近ほとんど寝てないんじゃないか? ほんとにお疲れ様だよ」

 

光輝が苦笑いで返すとリリアーナもまた苦笑いを浮かべた。お互いここ数日、碌に眠る時間が取れていないのだ。もっとも睡眠時間が削れている理由は、二人では全く違うのだが。

 

「今は寝ている暇なんてありませんからね。……死傷者、遺族への対応、倒壊した建物の処理、行方不明者の確認、外壁と大結界の補修、各方面への連絡と対応、周辺の調査と兵の配備、再編成……大変ですが、やらねばならないことばかりです。泣き言を言っても仕方ありません。お母様も分担して下さってますし、まだまだ大丈夫ですよ。……本当に辛いのは大切な人や財産を失った民なのですから……」

「それを言ったら、リリィだって……」

 

光輝はリリアーナの言葉に、彼女もまた父親であるエリヒド国王を失っていることを指摘しようとしたが、言っても仕方のないことだと口をつぐんだ。リリィは光輝の気持ちを察してもう一度「大丈夫ですよ」と儚げに微笑んだ。少し気まずさを覚えた光輝は、話題を転換し、ある人物の名を出した。

 

「あれから、中西達は……?」

「まだ姿を見せていません。成功報酬を支払う必要があるので、また顔を出すと思いますが……」

 

『成功報酬』という用語を聞いた光輝は露骨に顔を顰めた。光輝としては、誠司達に対して良い感情を持ってなかった。

 

危険な魔獣を使うというのもそうだが、人が助けを求めているのに金を要求するという彼らの姿勢が光輝には受け入れることが出来なかったのだ。オルクス大迷宮の時も多額の報酬で助けることを決めたそうだし、今回の件も多額の報酬を要求し、リリアーナが大切にしていた祖母の形見まで奪っていった(光輝の中ではそういう認識)と聞いていた。

 

この非常事態であっても、対価を要求する誠司達のやり方は、光輝にとって、とても受け入れられるものではなかったのだ。

 

そんな光輝の態度を見て、リリアーナは、対価を要求することは決して悪ではないことを改めて説明しようとした。

 

その時だった。

 

目の前の空間がグニャリと歪み始めたのだ。

 

「こ、光輝さん! あれはっ!?」

「っ、皆ぁ! 気をつけろ! 何かが来るぞぉ!」

 

光輝は、焦燥を表情に浮かべて大声で周囲に警告を発した。周囲も異変に気付き、敵襲かもしれないと武器を構え始める。そうこうしているうちに、空間の歪みは扉へと形を変えていった。ピンク色の、地球出身者にとって、見覚えのあるデザインだ。

 

ドアノブがゆっくりと回り、ギィーーという音と共に扉が開いた。開いた扉の向こうから、数人の男女が出てきた。

 

「はい、到着。皆、身体に異変とかはない?」

「今のところは大丈夫そうだ。それにしても……まんま『どこで〇ドア』だな」

「折角だから寄せてみたんだよ。ただ……原作と違って、座標設定した場所じゃないと使えないんだけどね」

「……面白いけど、ドアの形にする必要、ある……?」

「地球の漫画……というか物語でこういうのがあるんだよ」

「へぇ〜、そんなのがあるんですね〜」

 

そんな会話をしながら、唖然呆然としている光輝達の前に姿を現したのは、神山を無事攻略し、魂縛魔法を習得した誠司達だった。彼らの衣服には、攻略の証であるオウンシンボルが輝いていた。




原作と違って、神代魔法の習得だけで仲間の蘇生がないので、戻ってくるのが一日早くなりました。王都で他にやってもらうこともあるので……
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