魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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たった二日間の出来事~一日目の終わり~

「ん~……」

「リリアーナ様、お疲れ様です」

 

山積みの書類も粗方片付き、ペン立てに羽ペンを置き直すと、リリアーナはぐっと背伸びした。ボキボキッと関節の鳴る、実に不健康な音がした。王族として、淑女としてやや無作法かもしれないが、それを咎める者はこの部屋にいない。

 

専属侍女のヘリーナが労いの言葉と共に、注ぎたてのお茶を差し出す。それを受け取ると、リリアーナは自身の顔が和らぐのを感じた。長い付き合いなだけあって、ヘリーナは自分が好むお茶を出してくれる。お茶を飲んで、一息吐くと、時間を確認する。そろそろ来る頃だろう。

 

その時、ノックの音が三回響いた。

 

「中西です。報酬を受け取りに来ました」

「はい、どうぞ」

 

リリアーナがそう答えると、扉が開き、誠司が部屋の中に入る。今回の依頼の報酬について、仕事が一区切りつきそうなこの時間帯に受け取りに来て欲しいと、予めリリアーナが頼んでおいたのだ。

 

リリアーナの傍らに立つへリーナは少し鋭い視線を誠司に向けている。どうも、彼女はポケモンを嫌っているらしく、誠司のことも快く思っていないようだ。誠司はそんなヘリーナの視線をスルーして、リリアーナの机の前に立つ。

 

「これが今回の報酬です。どうぞ、お受け取りください」

 

リリアーナは、金が詰まった袋を誠司に差し出した。それを受け取った誠司は、袋の中身を確認すると、「確かに」と呟いて袋を宝物庫にしまった。

 

「あの……王都の様子はどうでしたか……?」

「復興は進んでいますね。それと大結界は、ハジメの力もあって、大幅に修復出来たので、その後は職人達だけでも問題ないそうです。これで新しく野生のポケモンが王都に入り込む……ということにはならないかと」

「そ、そうですか……」

 

誠司の言葉に、リリアーナは安堵の表情を浮かべる。王都を散策した時に、大きく目立った野生ポケモンは見かけなかったので、本格的に捕まえていくのは明日にする予定だと伝えると、リリアーナはそれで問題ないと言ってくれた。それから、大結界修復のお礼と、明日もお願いしますと頭を下げられた。

 

用も済んだので、誠司は部屋を出ることにする。扉に手を掛けた時に、そういえばとある報告をした。

 

「そうだ、言い忘れてた。実は俺、ヘマをしちゃいまして……」

「? ヘマ……ですか?」

「前金として頂いていた、あのブローチ……どこかに落としちゃったみたいなんですよ」

「えっ……」

「王宮に来た時点ではあったはずなんですがね。これじゃあ、もし誰かが先に拾っていても、文句は言えないな…… 一応報告までに。では、俺はこれで」

 

そう言った誠司は、振り返ることなく、扉を開けて部屋を出る。残されたリリアーナ達に一瞬の沈黙が走った。しかし、ヘリーナの怒りの声が沈黙を破った。

 

「なんて人ですか! あれが、リリアーナ様にとってどれだけ大切なものか……」

「……良いんです。ヘリーナ、良いんです………」

 

ヘリーナを諫めるリリアーナ。だが、その声には力がなかった。ブローチは、あの時に手放した時点で、もうリリアーナのものではなくなった。だから、新たな所有者である誠司がどのように扱おうと文句は言えない。それでも、どこかに落としたと淡々と報告する誠司に、リリアーナはショックを隠し切れずにいた。

 

その時、部屋の隅にキラッと光る何かが見えた。気になり、それのもとに近寄ると、リリアーナとヘリーナは息を呑んだ。

 

そこにあったのは、誠司が落としたと言っていたあのブローチだった。絨毯の模様に紛れていて、パッと見では気付けなかったのだ。

 

「こ、このブローチは……! どうしてここに……?」

 

ヘリーナが呆然とした様子で呟くのをよそに、リリアーナはそれを手に取る。ブローチには傷一つない。同時に、先程の誠司の言葉を思い出した。

 

誰かが先に拾っていても、文句は言えない。つまり、このブローチは、今拾ったリリアーナのものとなったのだ。リリアーナは小さく呟いた。

 

「……ありがとうございます。中西さん」

 

 

ーーーーーーーーーー

「それで、ちゃんと返せたの? あのブローチ」

「ああ、ムウマージがちゃんと置いてきたってさ」

 

王宮内の食堂にて、誠司達は夕食を取りながら、そんな会話をしていた。前金として貰った、あのブローチはやはり、リリアーナのもとに返すべきだと、神山で過ごしていた時に満場一致で決まっていた。

 

ただ、王族として覚悟を決めて渡した以上、そのまま返したところで簡単には受け取らないだろう。なので、こちらの過失で落としたという体で、リリアーナの側に置いて行ったのだ。誠司自身が置いて行くのは難しかったので、ムウマージを使って、こっそり部屋の隅に置いて来てもらった。ゴースト属性のムウマージであれば、誰にも気付かれずに行動することが可能だからだ。

 

それから仲間内で楽しく盛り上がっていると、不意に食堂へ集団がやって来た。光輝達を含むクラスメイトだ。愛子も含めて全員いるようだ。

 

ハジメはチラリと彼らを見やると、僅かに眉を顰める。予め、彼等が食事をする時間を聞いていたから、仲間内でゆったり食事できるように時間をずらしたのだが、その目論見は外れてしまった。

 

「まぁ、良っか」

 

ハジメは小さくそう呟くと、そのまま食事を再開する。近くの誠司やユエ達も特に気にしていないようだった。

 

しかし、クラスメイト達はそうもいかないようで、ある者は興味津々な様子で、ある者はどこか気まずそうに、またある者はどういう態度をとればいいのか分からないと戸惑ったようにそわそわしていて、声を掛けることが躊躇われるようだ。だが、そんな中でも物怖じせずに、声を掛ける者がいた。香織だ。

 

「あっ! ハジメちゃん、隣……良いかな?」

「ん? 別に良いよ。どうぞ、香織」

「ありがとう!」

 

香織がハジメの隣の座席に座ると、雫も香織の隣の座席に座った。香織と雫が座席に座ったことで、他のクラスメイト達も各々、自分の座席に座っていく。鈴が、ユエを見て座る際、「お姉様のお側……し、失礼します!」と言いながら妙に緊張している姿が見られた。ユエが、「……なぜお姉様?」と首を傾げる。

 

光輝達が席に着くと、王宮の優秀な侍女達が一斉に動き出し配膳を行っていった。誠司達が今食べているものと同じメニューだ。

 

そうして、光輝達も食事を開始すると、各々雑談を始め、食堂内は少しだけ騒がしくなった。それでも、これだけの人数が集まっているにしては騒がしさが控えめだ。雑談をしながらも、チラチラと誠司達に視線を向けていたためである。

 

特にハジメの方に視線が集まっていた。居残り組の生徒達は、前線組や愛ちゃん護衛隊の面々から、ハジメが実は女だったという事実を聞いていたが、皆半信半疑だったのだ。そして、いざ実際にハジメを見ると、本当に女子だったのかと驚愕を隠せずにいた。

 

食事が進むうちに、クラスメイト達が誠司達に向ける目は、少しずつ変化していった。

 

女子生徒達は、若干のぎこちなさはありつつも、美女・美少女の集団に囲まれている誠司に対して、恋バナのネタを見るような目を向けていた。所々で、ハジメの態度に誠司への好意が見え隠れしているのを敏感に察知したからだ。ユエ達にも視線を向け、ひょっとしたら三角関係ならぬ五角関係なのかもと、キャッキャッと騒ぎ始めた。

 

一方で、男子達が誠司に向ける視線も、畏怖だけでなく別のものが宿り始めた。メラメラと燃え盛る嫉妬と羨望だ。何せ、誠司の周りにいるのは『絶世の』と称しても過言ではない美女・美少女達だ。男ならば、無理もないことである。

 

そして、ハジメに向ける視線には、後悔の色が浮かんでいた。最初は男だと思っていたらまさかの女の子だったということで、驚きが大きく比重を占めていたが、時間が経つにつれて、「こんな美少女だったと知っていれば……」と思うようになっていた。今のハジメは、ユエやシア、ティオと引けを取らない美少女だ。もし万が一、誠司のようにハジメと仲良くなっていれば、彼女から笑顔を向けられていたのは自分だったのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。

 

だが、いくら嫉妬と羨望に身を焦がそうと、激しく後悔しようと、何を言えるわけでもない。かつて、誠司やハジメを無能と呼んで蔑んでいたのは自分達なのだ。その負い目が彼らの口をつぐませ、誠司達の周囲に見える魔獣達の幻影が気後れさせた。もし仮にハジメやユエ達に話し掛けたとしても、下心を見抜かれれば、彼女達から絶対零度並みの視線を頂戴することになるだろう。そうなれば、立ち直れなくなりそうだし、何より、女だと分かった途端に掌を返した瞬間、自分は最低野郎に成り下がってしまう。

 

そのため、彼らが出来るのは、誠司達にチラチラと視線をぶつけることだけであった。誠司達が、クラスメイトの視線を軽く無視していると、視界の端で光輝達勇者パーティーの面々が何か自分に話し掛けたがっているようにチラチラと目配せしているのが映った。やがて、意を決した様子の雫が代表して、誠司に声を掛ける。

 

「あの、中西君。その、大迷宮攻略のことなんだけど……」

 

大迷宮攻略の話題が出て、露骨に顔を顰める誠司。先程、自分のポケモン達に通用しなかったことを思い知ったはずなのに、それでも挑むのかと内心呆れる。だが、無理に止める義理もないので、他の大迷宮の場所や内容といった情報を教えようとした。しかし、雫はそんな誠司の考えを訂正するかのように、あることを頼み込んできた。

 

「やっぱり……私達も中西君達の大迷宮攻略に同行させて貰えないかしら?」

 

その瞬間、食堂内の空気が変わった。誠司達の、殺気の籠った威圧感が降りかかったのだ。雫達以外の生徒達は一斉に顔を青ざめて後ずさる。誠司達は冷たい視線を雫達に向けている。特にハジメの視線からは、怒りの感情も多分に含まれていた。彼女の表情は、「誠司を説得させるために僕に近付いたのか」と言いたげだ。

 

雫は冷汗をかきつつも、必死に頼み込む。

 

「さっき、中西君のポケモン達と戦ってみて分かったけど、今の私達じゃ他の大迷宮に行っても全滅するのが目に見えてる。だから一度だけで良い。一度だけ中西君達に付いて行かせて欲しいの」

「でもね、雫。言っちゃ悪いけど、君達を連れて行って、僕達にどんなメリットがあるの? 無いんだったら、報酬とかを出して依頼したらどう? それなら、僕達も仕事として割り切るけど」

 

ハジメが意地悪くそう尋ねた。光輝はピクリと眉を顰めるが、他のメンバーが抑える。

 

「………メリットなら…あるわ」

「……なに?」

「中西君達の言う狂った神様とやらは、中西君達を狙って、手下を差し向けて来たのよね? 私達が力をつければ、私達もその手下達と戦えるし、そうなれば、中西君達はアルセウスを助けることに集中出来ると思うんだけど……どう?」

 

それを言われると、ハジメも誠司も黙り込む。ハジメの脳裏にはノイントとの戦闘が過ぎった。ノイントの正体はアルセウスの力の源であるプレートだった。そして、メルジーネ海底遺跡の幻で見た、ジープトという名の青い使徒もいる。プレートはそれぞれの属性の力を持っているため、全部で十八枚。ノイントを除く、残り十七枚も同様に使徒となっていると思われる。ノイント一人でも手こずった相手だったのに、それが束になって襲い掛かってくる。その可能性を考えたら、雫の言う通り、彼女達に力を持たせておくというのも悪い考えではないのではないかと思い始めていた。

 

誠司も同様のことを考えていたようで、「ふむ」と顎に手を添えて思案顔を浮かべていた。誠司は確認のため、雫に尋ねる。

 

「念のため言っておくが、ハルツィナ樹海の神代魔法がどんなものなのかは俺達も分からない。特定の天職の人間でないと十全に使いこなせないようなものもある。それでも俺達に同行するか?」

「……ええ。それでも、普通の魔法よりずっと強力なのよね? 使えるようになれば、大きな戦力増強が望めるはずよ」

「そして、同行するだけじゃ神代魔法は手に入らない。迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要になるぞ。分かっているな?」

「勿論よ。私達だって遊びに行く訳じゃない。死に物狂い、不退転の意志で挑むわ。だから……お願いします。力を貸してください」

 

雫がそう頭を下げると、鈴や香織、龍太郎などの他の面々も口々に懇願し始めた。光輝は、その光景を見て眉をピクリと反応させたが、結局何も言わず、ただ頭を下げる。

 

誠司達は、お互いに顔を見合わせると、溜息を吐いた。そして、最終的にハルツィナ樹海の攻略に限って、同行を了承することにした。一応、ユエ達にも視線で確認を取るが、特に反対意見はないようだ。許可が下りたことで、雫達の間に安堵の吐息と笑顔が漏れる。そんな雫達に対して、誠司は一つだけ条件を付け足した。

 

その条件とは、それぞれポケモンを一体以上は育てることだ。正直言って、先程の戦いから見て、このままの状態で生き残れるとは思えなかった。だから、ポケモンの力を借りれば、攻略成功の確率がグッと上がるだろうと判断したのだ。

 

その条件について、雫達から反対の声は上がらなかった。寧ろ、彼女達としても、ポケモンの力を借りられないか誠司に打診するつもりだったようだ。光輝だけは、やや複雑そうな表情を浮かべていたが。

 

翌日、王都に残っている野生ポケモン達を捕獲するので、その際に雫達のパートナーとなるポケモン達も一緒に捕まえる運びとなった。

 

 

新たに同行者が五人も増えることとなり、誠司達は、残り二つとなった大迷宮とこれからの展開に思いを巡らせる。これから先、何が起こるのかは分からないが、どうにでもしてやると、誠司もハジメも決意の炎を燃やすのだった。




ちなみに余談ですが、もしも光輝達が誠司達に同行せずに、ライセン大迷宮を挑戦していた場合、ほぼ確実に全滅していました。全滅の理由としては、誠司から貰った情報の中に即死罠の情報がなかったためです。誠司達はグレッグルのおかげで回避していたので、即死罠の内容を知らないし、存在そのものを失念していました。
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