魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

127 / 160
たった二日間の出来事~二日目の終わり~

優花の相棒ポケモンもようやく決まり、誠司はやっと肩の荷が下りた。

 

夕食までまだ少し時間があるので、ぶらぶら王宮内を散歩していると、今度は訓練場に出た。昨日、勇者パーティーと対決したりしたが、改めて見ると懐かしさがある。不愉快な奴らに絡まれたりもしたが、ネマシュと技の特訓をした思い出の場所でもあるのだ。勝手にモンスターボールから出てきたマシェードもどこか懐かしそうにしている。

 

「……思い出すな、マシェード。ここで毎日のように技の特訓をしたよな」

「マシェ」

「……せっかくだし、久しぶりにやってみるか?」

「マシェシェ!」

「そうこなくちゃ。よし、マシェード、あの的に向かって“エナジーボール”!」

「マーーシェッ!」

 

マシェードは“エナジーボール”を作り出すと、的に向かって勢いよく発射する。的は、訓練場の奥の方にあり、ここから距離があるのだが、マシェードが放った“エナジーボール”はそのまま的のど真ん中に命中した。昔と違って、命中精度が各段に上がっている証拠だ。誠司は満足げに頷いた。

 

「お見事」

「マッシェ」

 

誠司とマシェードが互いに笑い合っていると、そんな誠司達に声を掛ける者がいた。メルドだ。

 

「流石だな」

「カンモ」

 

メルドの隣には、今日捕まえたカモネギの姿もあった。メルドは誠司の隣まで近づいてきた。

 

「どのポケモンもよく育てられていると思っていたが、やはり、そのマシェードだけ別格みたいだな。なんというか、信頼関係の強さ……みたいなものが段違いだ」

「……まぁ、こいつは俺が最初に仲間にしたポケモンなので」

「マッシェ」

「なるほど。それでか……」

 

メルドは合点がいったように、頷いているが、誠司は怪訝な目を向ける。「わざわざ、そんな会話をしに来た訳ではないだろう」と察したからだ。

 

「それで、俺達に何か用ですか?」

 

誠司がそう尋ねると、メルドは肩を竦めた。そして、懐からモンスターボールを取り出した。

 

「もし良ければなんだが、私のポケモン達とバトルしてくれないか? 私と私のポケモン達がどこまでお前達相手に戦えるのか、試してみたいんだ」

 

メルドの申し出に、誠司は笑みを浮かべた。

 

「良いですね。受けて立ちましょう」

 

ーーーーーーーーーー

雫は、ミジュマルと一緒に廊下を歩いていた。ミジュマルは強くなることに非常に貪欲で、雫の剣術にも目をキラキラさせていた。お腹のホタチをブンブン振り回すその姿に、雫は苦笑しつつも動きのコツを教えたりして、ミジュマルとはある程度良好な関係を築けていた。

 

その時、大きな金属同士がぶつかるような甲高い音が聞こえてきた。雫は思わず周囲を見回す。

 

「えっ、何……?」

「ッ! ミジュッ!」

「あっ、ちょっと! ミジュマル!」

 

音が聞こえた瞬間、ミジュマルは何かに気が付いたのか、一目散に駆け出した。そんなミジュマルを雫は慌てて追いかける。

 

「ミジュ……」

「はぁ、はぁ……やっと追いついた……一体何を……え?」

 

訓練場に入り、積み上がった備品の山から顔を覗かせている相棒と同じように、雫も顔を覗かせる。そんな彼女の目に、ある光景が飛び込んできた。

 

それは、誠司とメルドによるポケモンバトルを繰り広げている光景だった。誠司のドリュウズと、メルドのシュバルゴが本気でぶつかり合っている。誠司はドリュウズに指示を飛ばす。

 

「ドリュウズ、“あなをほる”!」

「リュズッ!」

 

ドリュウズは、体をドリルのように変形させて地面に潜り、掘り進んでいく。それを見たメルドは、周囲を見回すシュバルゴに指示を飛ばす。

 

「シュバルゴ、慌てるな。心を静めろ……今だ!」

「シュバッ!」

 

メルドの合図と同時に、シュバルゴが後ろに下がる。その瞬間、先程までシュバルゴがいた場所からドリュウズが飛び出した。攻撃を外したドリュウズは驚愕の表情を浮かべるが、もう遅い。

 

「シュバルゴ、“いわくだき”!」

「シュババッ!」

「リュズッ!?」

 

シュバルゴの攻撃が、技を外して無防備状態になっていたドリュウズの顔へカウンター気味に命中する。きりもみ回転で吹っ飛ばされたドリュウズは、誠司の横を掠め、背後の壁に激突して気絶してしまった。メルドはガッツポーズする。

 

「よし! これでイーブンだ!」

 

今二人がやっているバトルは、二対二の勝ち抜き戦形式で、メルドのカモネギは既にドリュウズによって敗れている。そして、そのドリュウズもシュバルゴによって敗れたので、お互いに残りは一体ずつだ。

 

ドリュウズをボールに戻しつつ、誠司はメルドに声を掛ける。

 

「シュバルゴのやつ、前よりもパワーもスピードも上がっているな……驚きましたよ。それにしても……どうやってドリュウズの攻撃のタイミングを見抜いたんです?」

「長年の経験による勘……ってやつだ。さぁ、次は誰が来る?」

「お次は……こいつだ! 行け、チルタリス!」

「チルルゥッ!!」

 

モンスターボールから、白い綿雲のような羽毛に覆われたポケモンが姿を現した。

 

「“かえんほうしゃ”!」

 

誠司の指示に、チルタリスは炎を吐いて攻撃する。それをシュバルゴは“ファストガード”で防御する。反撃しようとメルドは指示を飛ばすが、チルタリスは“コットンガード”で羽毛を膨らまして攻撃を無力化してしまう。そして、誠司は更なる指示を飛ばす。

 

「“うたう”!」

「チールルゥ、チールルゥ♪」

「シュ、シュバ……」

 

心地良い歌声を至近距離で聞いてしまったシュバルゴは、徐々に瞼が重くなっていき、遂に眠ってしまった。メルドが慌てて呼び掛けるが、もう手遅れだ。

 

「お、おい、シュバルゴ! 起きろ!」

「遅い! “かえんほうしゃ”!」

「チールッ!」

 

チルタリスの炎に包まれて、シュバルゴはそのまま前のめりに倒れてしまった。勝負ありだ。メルドは悔しそうな表情を浮かべつつも、誠司に礼を言った。

 

「ありがとう、楽しかったよ。意外と考えることが多くて、奥が深いな。ポケモンバトルというものは」

「そう言ってくれると嬉しいです。こちらこそ良いバトルをありがとうございました」

 

誠司とメルドは軽く握手を交わす。そして、誠司は備品の山に視線を向けた。

 

「……それで、ミジュマルと……剣士だったか? いるんだろ?」

 

誠司がそう呼び掛けると、雫とミジュマルが姿を現した。ミジュマルは平然としていたが、雫はややバツが悪そうだ。盗み見みたいな形になってしまい、それがバレていたのだ。無理もない。雫達の姿を見たメルドが目を見開いた。

 

「雫!? 全然気付かなかった……どうしてここに?」

「えっと……ミジュマルの後を追っかけてたら中西君達を見つけて……」

 

雫の説明を聞いて、誠司はなるほどと頷いた。元々自分の手持ちだから知っているが、あのミジュマルはかなり好戦的な性格だ。バトルを見つければ、真っ先に駆け付けるだろう。今もミジュマルは、キラキラと目を輝かせている。

 

そして、雫も今のバトルには心揺さぶられるものがあった。雫は、傍らのミジュマルに視線を向ける。ミジュマルも雫の視線に気づいたのか、元気に頷いていた。こうしてまた少し、雫とミジュマルの間に絆が生まれた。

 

 

ーーーーーーーーーー

一方その頃、王宮の西北側にある山脈の岸壁を利用して作られた巨大な石碑の前には、一人の人影が佇んでいた。

 

「ごめんなさい……」

 

そう呟く人影の正体は愛子だ。

 

彼女の前にそびえ立つ石碑には、王国に忠義を尽くした戦死者・殉職者の名前が例外なく刻まれている。いわゆる忠霊塔の石碑版だ。未だ戦死者の確認中のため、石碑に刻まれていないが、ホセやニア達の名もここに連ねることになる。

 

そんな石碑の前には、今回の騒動で亡くなった多くの人々の遺品や献花が置かれており、愛子にとって見覚えのある武具もそこにあった。損壊した西洋剣と槍だ。それは、逝ってしまった愛子の生徒達、檜山大介と近藤礼一のアーティファクトである。同じく逝ってしまった生徒には清水幸利もいるのだが、恵里と共に姿を消してしまったため、彼の遺品はそこにはなかった。

 

愛子がポツリとこぼした懺悔の言葉は、一体、何に対するものなのか。檜山達を日本に連れて帰ることが出来なかったことか、それとも、自分の生徒達が起こしたことで多くの人々が亡くなったことに対してか、あるいは、自分のしたことも含めた全てか……本人も分からなかった。

 

愛子が悄然とした雰囲気で俯きながら、何かを堪えるように立ち尽くしていると、ザッザッと足音が響いた。やけに響くそれは、おそらく自分の存在を知らせるためにわざと鳴らしたものだろう。

 

愛子が、ハッとしたように俯いていた顔を上げ視線をそちらへ向けた。

 

「南雲さん……」

「ここにいたんですね、先生」

 

愛子の視線の先にいたのはハジメだ。彼女の隣にはエーフィがいる。

 

「そろそろ夕食の時間らしいですよ。一緒に行きませんか?」

「いえ……申し訳ありませんが、そういう気分にはなれなくて……」

 

愛子に断られたものの、ハジメはここから立ち去ることはなく、ただ目の前の石碑や遺品に目を向けている。このまま無言のままでいることに耐え切れなかったのか、やがて、愛子がポツリポツリと言葉をこぼすように話し出した。

 

「中村さんや檜山君がやったことは決して許されることではありません…… 檜山君には出来ることなら生きて罪を償って欲しかったという想いがあります。近藤君や清水君がああなったこともショックでした。でも、私なんかが彼らを責める資格なんて……」

 

愛子は、両腕を組むようにして二の腕を擦る。それはまるで、冷え切った体を温めようとしているかのようだった。

 

「それは、先生が総本山でやったことを言ってるんですか?」

「…………」

 

無言の肯定。一時は、均衡を崩しそうな精神をハジメとティオの再生魔法によってどうにか立て直した愛子だったが、再び罪悪感やら倫理観により精神が磨り減ってきているようだ。よく見れば目の下には化粧で隠しているが隈が出来ており、ここ数日眠れていないことが明らかだった。もしかすると、悪夢でも見ているのかもしれない。

 

再び降りる静寂。ハジメは何を言うでもなく無言のままだ。場の空気に居た堪れなくなったのか、愛子が覇気のない声音でハジメに尋ねる。

 

「……南雲さんは……辛くないですか?」

「人を殺したことがですか? そうですね……最初の頃は、確かに自分が自分でなくなった感じとか恐怖とかがありましたけど、数をこなしていくうちに……何も感じなくなりました」

「……っ!」

 

ハジメの言葉に、愛子が辛そうに顔を歪める。あの時、ハジメはコーヴァスを射殺していたが、あれが初めてではなく、それ以前に多くの屍の山を築いていたことを悟ったからだ。そして、殺人の辛さをどうにかするには、もっと大勢の人を殺して慣れるしかないことも。それらが愛子の精神を更に締め上げる。

 

「……誰も……責めないんです」

「ん?」

 

愛子が、堪りかねたように言葉を漏らした。

 

「誰も、私を責めないんです。クラスの子達の私を見る目は変わらないし、王国の人々からは、称賛じみた眼差しさえ向けられます」

 

クラスメイト達は、あの愛子が殺人に加担したということに余り実感が持てず、むしろ愛子が自分達のために矢面に立って戦ってくれたという印象を抱いているし、王国の貴族や役人達は洗脳を解いてくれたと感謝しているくらいだ。

 

「デビッドさん達でさえそうです。私は、彼らの大切なものを根こそぎ奪ったというのに、一言も私のことを責めませんでした」

 

愛子は、誰かに責めて欲しかったのだろう。ハジメは困ったように頬を掻きながら、口を開いた。

 

「そうは言っても、先生。直接の原因はティオのブレスであって、先生は手伝っただけでしょう? 何も一人で全部やったみたいに背負い込まなくても……」

「そんなの関係ありませんっ! 私は、確かに……彼等を殺める可能性を理解しながらティオさんを手伝ったのです。それは直接の殺人と変わりありませんっ!」

 

思いのほか強く返ってきた愛子の反論。愛子自身も、声を荒らげた事を恥じたのか申し訳なさそうに体を縮こまらせた。そんな愛子を横目に、しばしの沈黙の後、ハジメは静かに尋ねた。

 

「……後悔してますか?」

「っ……いえ、あの時、覚悟をしてティオさんと……教会の行いを見過ごすことは出来ませんでしたから……貴方の助けに……それに、きっと、放っておけば生徒達が酷い目に遭うと……だから……」

 

苦しげに声を詰まらせながら『後悔はない』と話す愛子。

 

あの時、ハジメを追い詰めるイシュタル達を見て、ハジメだけでなく生徒達に手を出させないために、己の手を汚すことも厭わないと決意したのは事実だ。それは、現在でも揺るがない。しかし、感じる苦しみは人を殺した者が背負う業であり、理屈でどうにか出来るものではない。

 

苦悩する愛子を横目に、ハジメは愛子に気付かれない程度に溜息を吐いた。なぜ、生徒の自分が先生である愛子から、こんな重い心情を吐露されているのか。「自分はカウンセラーではないのだが……」と内心で嘆く。

 

「先生は……生徒達にもそんな思いをさせたいですか?」

「……え?」

 

ハジメの唐突な質問に、愛子は思わずキョトンとした表情になる。だが、すぐに首を激しく横に振った。ハジメは話を続ける。

 

「僕や誠司、あとは中村さんとかか……は手遅れですけど、他はまだ、今に至るまで一人も人を殺したことがないんです。……幸運なことにね。でも、この世界にいる限り、その機会は必ずやってきます」

「それ……は」

「そして、人殺しを経験した時、彼らはきっと耐えられないでしょうね。仮にメルドさんや姫さんがフォローしたとしても。そんな時に、彼らに対して本当の意味で寄り添えるのは先生だけなんですよ。人殺しの重さを実際に知り、苦しむことの出来る先生が」

「南雲……さん」

 

ハジメの言葉に、愛子が目を大きく見開く。

 

「それに、人殺しは勿論許されないことでしょうけど、私利私欲や八つ当たりとかならともかく、誰かを守るため、譲れない何かのためなら、仕方ないところはある。僕はそう思いますよ」

「……南雲さん達の場合も、誰かのため、譲れない何かのため……だったんですか?」

「少なくとも、私利私欲や八つ当たりといった理由ではなかったですよ。……檜山君達と違って」

「そう……ですか………」

 

ハジメは周囲が暗くなっていることに気が付いた。あれこれ話し込んでいるうちに、いつの間にか日が暮れ始めていたようだ。ハジメが食堂に向かおうと歩みを進めると、愛子が呼び止める。

 

「南雲さん、その、ありがとうございました」

 

そう言って、愛子は頭を下げる。彼女の中から罪悪感などが完全に消えた訳ではない。だが、それでも前を向くことが出来たようだ。ハジメは何も言わず、歩きながら軽く手を挙げて応えた。

 

ーーーーーーーーーー

「へぇ、そんなことが……」

 

王宮内の食堂にて、誠司達はそんな話をしながら、目の前の夕食である王宮料理に舌鼓を打っていた。

 

「それで、ハジメ。先生殿は耐えられそうかの?」

 

直接爆破した自分以上に愛子が罪悪感を抱え、それに押し潰されそうになっていたことを知ったティオが、少し心配そうに尋ねた。それに対し、ハジメは食事の手を止めて少し考える素振りを見せる。

 

「ん~、大丈夫じゃないかな? 最悪、魂魄魔法を使った精神安定用のアーティファクトとかもあるから、それを渡すとかするけど。まぁ、そんな心配しなくても時間さえあれば、あの人ならちゃんと消化できるだろうし」

「それなら良いが……」

 

そうこうしているうちに、クラスメイト達もやってきて、少し食堂が騒がしくなった。それを尻目に、誠司とハジメは、明日以降に起こるであろうあれこれを想像する。今までもそうだったのだ。きっと、何事もなしということはないだろう。それを予感しつつも、どうにかするまでだと肩を竦めるのだった。




次回から新章になります。お楽しみに!



以下、本編で入れようと思ったけど、諸事情でカットした没シーンです。


各自で夕食を楽しんでいると、ハジメが一枚の絵を自慢げに誠司達に見せてきた。

「ねぇ、これ見てよ! 凄く良いアングルだったから描いてみたんだ! 僕のエースバーン、カッコいいでしょ!」

躍動感溢れるエースバーンの絵を見て、シアが感心の声を上げる。

「うわぁ、凄いですね! あっ! でも、逞しさでしたら、私のホルードも負けてませんよ」
「何言ってんだ。俺のマシェードの可愛さに勝てるやつなんていないだろ」
「……愚問。美しさなら私のシャンデラが一番。あの炎の揺らめきは誰もが魅了される」
「……どうして、皆同じ土俵で争わんのじゃ? まぁ、妾のドラメシヤが一番じゃが」

親バカとしか言いようのない誠司達の言葉に、雫は呆れた様子で呟いた。

「……本当に仲が良いわね、あなた達」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。