水晶ディスプレイに映るハウリア族は、ふと上を見上げて、驚愕の表情を浮かべていた。どうやら、空高くを飛ぶフェルニルの存在に気が付いたようだ。
「ハジメさん、ハジメさん。早く降りましょうよ。樹海の外でこんなことをしているなんて、何かあったんじゃ……」
シアがハジメを急かす。ハウリア族が作戦を練って帝国兵の輸送部隊を狙ったのは明らかだ。どうやらシアは、家族が樹海の外に出張ってまで帝国兵を殺し回るほど、暴力に酔いしれてしまっているんじゃないかと心配しているらしい。
「念のため、釘は刺しておいたはずだが……」
「暴走している感じではなさそうだけど、事情は気になるね。さっさと着陸させるか」
そう言いつつ、ハジメはフェルニルを操作して、降下させていく。
谷間に着陸したフェルニルから降り立った誠司達を迎えたのは、キリッとした顔で並ぶハウリア族六名と、戦線恐々といった様子で誠司達を注視する数多くの亜人族だった。
兎人族や狐人族、森人族、犬人族、猫人族の女子供が百人近くおり、彼女らの手足と首には金属製の枷が付けられていた。
「ね、ねぇカオリン、シズシズ。鈴、あの亜人さん達みたいな顔、見たことあるよ。あれだよ、ほら、映画とかで宇宙人が宇宙船から降りてきたのを見た地球人の顔だよ」
「え? 鈴ちゃん。それって私達が宇宙人ってこと?」
「……まさに、未知との遭遇という訳ね」
鈴のなんとも言えない表情での言葉に、香織が目をパチクリとした。雫も確かにと苦笑する。
そんな未知との遭遇に驚愕八割、警戒二割で絶賛混乱中の亜人達を他所に、クロスボウを背負った少年と黄色と黒の縞模様が特徴的なポケモン、エレブーが颯爽と駆け寄ってきた。少年とエレブーは、誠司達の前で片膝立ち(所謂忍者が主君の前に待機するポーズ)の体勢を取ると、声を張り上げる。ラナやミナ、他のハウリア達と彼女達の相棒ポケモン達も、少年とエレブーと同様のポーズを取る。
「誠司殿、ハジメ殿、ユエ殿、シアの姉御、お久しぶりです! 再び会える日を心待ちにしておりました! まさか、このようなものに乗って登場なさるとは……この必滅のバルドフェルド、改めて感服致しましたっ!」
「久しぶりだな。そのエレブー、あの時のエレキッドが進化したのか?」
「はっ! 進化したことで更に逞しく、そして頼もしくなりました!」
「エブエブッ!」
「ああ、よく育てられてる。ラナ、ミナ! さっきの落とし穴、見事だったぞ! 流石はハウリア一の天才トラパーだな!」
「「あ、ありがとうございますっ!」」
ラナとミナは、十日間の訓練の最中に、トラパーとしての才能を開花させた。相棒のディグダとマッギョと共に、落とし穴を始めとした数々の罠を駆使して戦う術を身につけたのだ。誠司とポケモン達も、何度か彼女達の罠にやられたものだ。勿論、後で倍にして返したが。
ディグダはダグトリオに進化しており、マッギョも姿こそ変わっていないが、レベルが以前より上がっているのが見て分かる。
他のハウリア達にも、誠司は視線を向ける。
「他の奴らも、連携が上手くなっている。前よりも腕を上げたじゃないか、お前達」
誠司がニヤリと口元に笑みを浮かべてそう言うと、ウサミミ少年、必滅のバルトフェルドを自称するパル、ラナ、ミナ、他のハウリア達は、感無量といった感じで瞳を潤ませる。ポケモン達も同様だ。そして、一斉に頭を下げて、ほぼ同時に声を張り上げた。
『恐縮でありますっ!!』
誠司、ハジメ、ユエ、シアは平然としているが、ティオを含めた光輝達とリリアーナ達はドン引きの表情を浮かべていた。何をしたら温厚の代名詞である兎人族がこんな感じになるのか……と。雫はハジメに耳打ちする。
「……一体彼らに何をしたのよ?」
「……誠司曰く、意識改革を少し」
そんな微妙な空気を他所に、シアがパルに尋ねる。
「えっと、皆、久しぶりです! 元気そうで何よりです。ところで、父様達はどこですか? パル君達だけですか? あと、どうしてこんな所で帝国兵なんて相手に……」
「落ち着いてください、シアの姉御。一度に聞かれても答えられる回数には限りがあります。色々と事情が立て込んでおりまして……詳しい話はどこか落ち着ける場所へ行ってからにしましょう。それからパル君ではなく『必滅のバルドフェルド』です。お間違いのないようお願いします」
「エーブレブッ!」
「えっ、えっ、必滅の……ってラナさん、これはどういう……」
訳が分からず、シアがラナ達に説明を求めるも、彼女達から返ってきた答えは、シアの予想の斜め上をいくものだった。
「シア、ラナじゃないわ。それは遠い過去の名前よ。私の新たな名前は……『疾影のラナインフェリナ』よ!」
「ダグダグダグッ!」
「!? ラナさん!? 何を言って……」
ハウリアでも、しっかりもののお姉さんといった感じだったラナからの、まさかの返しにシアが頬を引き攣らせる。そうこうしているうちに、他のハウリア達が自己紹介を始めた。
「そして私は、『空裂のミナステリア』!」
「ギョギョッ!」
「!?」
「俺は、『幻武のヤオゼリアス』!」
「ハナッハナ〜」
「!?」
「僕は、『這斬のヨルガンダル』!」
「ララーン」
「!?」
「ふっ、『霧雨のリキッドブレイク』だ」
「ハロハロ」
「!?」
全員が凄まじいドヤ顔でそれぞれジョ○的な香ばしいポーズを取りながら、二つ名を名乗った。彼らに合わせて相棒ポケモン達も決めポーズを取っている。こんなところでも息ぴったりである。シアの表情が絶望に染まり、口から「うぼぁ」と奇怪な呻き声が漏れ出した。
どうやら、ハウリア族の中で二つ名ブームが来ているらしく、ほぼ全員が二つ名を持っているそうだ。そして、二つ名だけでなく、本名を弄って名前をカッコよくするのも流行っているようである。ちなみに、絶望の表情を浮かべているシアも、実は自分の調理器具に色々と香ばしい名前を付けていたりするので、ハウリア全員元々そういう性質なのかもしれない。
また、誠司もハジメも他人事のように苦笑いを浮かべているが、二人にも痛い二つ名がハウリアの間で付けられていることを知るのは、もう少し先の話である。
「あの……宜しいでしょうか?」
そう声をかけてきたのは足元まである長く美しい金髪を波打たせたスレンダーな碧眼の美少女だった。耳がスッと長く尖っているので森人族ということが分かる。彼女の顔は、どこかフェアベルゲンの長老の一人であるアルフレリックの面影を感じた。
「あなた方は、中西誠司殿、南雲ハジメ殿で間違いありませんか?」
「ん? 確かに、そうだが……」
「えっと、あなたは?」
二人の回答に、金髪碧眼の森人族の美少女はホッとした様子で胸を撫で下ろした。そして、自己紹介を始める。
「わたくしは、アルテナ・ハイピストと申します」
「ハイピスト? ってことは、アルフレリックさんのお孫さん?」
「その通りです。お二人のことは、祖父から聞いています。種族に対して差別感情はなく、亜人族を弄ぶような方ではない。そして、約束をきちんと守るとも……」
誠司とハジメは、長老の孫娘が捕まっていたという事実に顔を顰める。そんな人物が捕まっていたということは、それだけ逼迫した事態に晒されたということだろう。益々、パル達から詳しい話を聞く必要があるなと視線を鋭くした。誠司とハジメは顔を見合わせて同時に頷くと、パル達に声を掛ける。
「おい、お前達。亜人達をまとめて付いて来させてくれ。もののついでだ。樹海まで送ろう」
「はっ! それと申し訳ないのですが、帝都近郊に潜んでいる仲間に連絡がしたいので、途中で離脱させて頂いてもよろしいですか?」
「ああ、それならちょうど、こっちにも帝都に送る予定だった人達もいるから、帝都から少し離れた場所で一緒に降ろすよ。それで良い?」
「感謝致します、ハジメ殿!」
現在、誠司達がいるのは帝都のかなり手前の位置だ。そんな場所で亜人族達の輸送馬車がいたということは、この輸送は樹海から帝都へ行くものではなく、帝都から他の場所へ向かう途中だったということだ。つまり、パル達は帝都に何らかの情報収集をしに行って、輸送の話を知り、追いかけてきたということだろう。二人から了承を貰ったパルは、周囲の亜人達に呼び掛ける。
「聞こえましたね? 誠司殿とハジメ殿のご厚意で樹海まで送ってくださるそうです。家に帰りたい方は我々に付いて来てください」
丁寧な口調だが、有無を言わさぬ迫力があった。亜人達が、パル達に言われ不安そうにおずおずと歩き始めた。それを見て、誠司達もフェルニルに向かう。しかし、枷のせいか、亜人達の歩みが遅い。ふらついて転ぶ者もいる。そんな彼らを見かねたのか、ハジメがアルテナに歩み寄る。亜人達は一瞬で青褪めて硬直する。
ハジメは、スッとアルテナの前に跪いた。その事に、亜人達がざわっと動揺したように騒めく。
「あ、あの……」
「いいからジッとしてて」
アルテナも動揺するものの、ハジメが彼女の足枷に触れたのを見て目を見開いた。紅い魔力光が迸ったと思ったら、音もなく足枷が外れたからだ。それから同じ要領で手枷と首輪を外してやる。
そして、ハジメは開錠した枷をジッと見つめると、紅い魔力光が再び迸る。彼女の手にあった枷と鎖がみるみるうちに形を変えていく。それから少しして、ハジメの手には、三十本程の鍵があった。ハジメは近くにいたハウリア、ヨルに鍵束を手渡した。
「三つとも同じ鍵穴だったし、多分他の人のも同じだと思うから、これで他の人の枷も外せるでしょ。亜人奴隷を連れていると誤解されるのも手間だし、全員解いてあげて。解けないのがいたら知らせて」
「承知致しました」
鍵束を受け取ったヨルは頷くと、呆然としている亜人族達へ次々と手渡していく。ハジメの想定通り、百人近くいる亜人達に対して、枷の鍵穴を分けている訳でもなく、ハジメが作った鍵で全員分の枷を簡単に開錠することが出来た。
それを確認したハジメは一つ頷いて、何事もなかったかのように踵を返し、先に歩みを進めている誠司達を追いかけた。そんなハジメの姿を雫達やリリアーナ達はどこか眩しそうな眼差しを向け、光輝だけはなんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。そして、アルテナ達は、とても不思議な人を見るような眼差しであった。
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ハジメによって全ての枷を外された亜人達が、飛空艇フェルニルに度肝を抜かれながらも物珍しげにあちこちを探検している頃、誠司達はブリッジにてパル達から一連の事情を聞いているところだった。
「それで、一体何があったんだ? こんな場所にまで出張って。大勢の亜人族と長老の孫娘が奪われたのを見るに、樹海を超えて奥のフェアベルゲンまで帝国の手が伸びたと判断して良いか?」
「その通りです」
誠司の問いに、パルが答える。思わずリリアーナが口を挟む。
「それは……本当なのですか? 帝国は、あの樹海の霧をどうやって……」
パルはリリアーナの問いに答えず、一瞬だけリリアーナへ視線を向けると、すぐに誠司へ視線を移した。王女の問いかけに応じないパルに近衛がにわかに殺気立つが、パルは動じない。誠司はリリアーナに視線を向ける。
「王女殿下。申し訳ないが、質問は控えて貰えますか? 色々面倒ごとになりかねないので」
「うっ。……そう、ですね。いらぬ口を挟みました……」
リリアーナがどこかしょんぼりした様子で引き下がった。彼女も敬虔な聖教協会の信徒だったので、亜人族への差別意識も当然あった。創世神エヒトの正体を知ってしまった今では、そんな差別意識など無くなっている。だが、それでも歩み寄ることが未だ困難であることを、こういった場面で思い知らされる。それがリリアーナにとって、歯痒かった。
もっとも、実際のところは少し違う。パルが無視をしたのは、リリアーナが人間族だからという訳ではなく、誠司達への忠誠心が強すぎて誠司達以外の他者に報告するのを良しとしなかったからであった。それをリリアーナが知るのは、もう少し先の話である。
「それで、何があったんだ? パル」
「誠司殿、自分はバルドフェルドです」
パルが真っ直ぐ誠司を見つめながら、反論する。これだけは譲れないらしい。
「……バルドフェルド、順を追って話せ」
「はっ! 事の始まりは、帝国ではなく魔人族によるものでした」
パルは、実際に見聞きした事実と、フェアベルゲンの戦士達から聞いたり敵を尋問して得た情報をもとに組み立てた事実を説明し始めた。
なんかハウリアが原作とは別の方向で進化してしまった感が否めない……
ちなみに、ハウリアの相棒ポケモン達は以下の通りです。
バルドフェルド
エレブー♂
ラナインフェリナ
ダグトリオ♀
ミナステリア
マッギョ♀
ヤオゼリアス
キレイハナ♂
ヨルガンダル
ラランテス♀
リキッドブレイク
ハスブレロ♂