魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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筆が乗りました。


帝国の手

魔人族がポケモン達を引き連れて侵攻してきたのが始まりらしい。ハルツィナ樹海も大迷宮の一つとして名が通っているから当たり前と言えば当たり前だ。

 

当然、樹海に侵入した魔人族達を、フェアベルゲンの戦士達が許すはずもなく、最大戦力をもって駆逐しに向かった。

 

しかし、亜人族と樹海に住むポケモン達以外は感覚を狂わされ、視界を閉ざされる濃霧の中でなら楽に勝てると思われた当初の予想は、あっさり裏切られることになる。魔人族はともかく、引き連れたポケモン達は、樹海の中でも十全の戦闘力を発揮したのだ。しかも、どのポケモン達も強化されており、名だたる戦士達は次々と返り討ちにあってその命を散らしていった。

 

魔人族の目的が大迷宮であることを知った長老衆は、同胞を守るため、これ以上の戦闘を止めることを条件に大樹の情報を教えることにした。自分達にとって大樹も本当の大迷宮も大して価値のあるものではなかったし、魔人族側もこの後に大迷宮攻略が控えていることを考えれば無駄な戦力の浪費はしないだろうと。

 

しかし、ここで長老衆に誤算が生じた。それは魔人族の亜人族に対する価値観だ。魔人族も人間族と同様、亜人族を神に見放された種族として見下している。いや、人間族と比べれば、寧ろ憎悪を抱いているレベルだった。そんな彼らにとって、神から見放された半端者の獣風情が国を築いた挙句、自分達に向かって交換条件を出してきたことは、耐え難い屈辱だったようだ。

 

その結果、怒りにふれた魔人族の軍勢は、亜人族を狩り尽くさんと言わんばかりに攻撃を始めてしまった。フェアベルゲン側も必死で抵抗するものの、全滅するのは時間の問題だった。

 

そんな中、ある熊人族が助けを求めるためにフェアベルゲンを抜け出した。その熊人族の名は、レギン・バントン。かつて、長老の一人ジン・バントンを怪我させた恨みから誠司達を襲撃しようとして、逆にハウリア族によって返り討ちにあった男だ。

 

彼は、ハウリア族に助けを求めた。勿論、この行動が恥知らずなものであることは彼自身重々承知していた。だが、この状況をどうにかするには、これしか方法がなかった。

 

そうして満身創痍の体で必死に樹海を駆け抜け、辿り着いたハウリア族の新たな集落で、レギンは何度も額を地面にこすりつけて懇願した。「助けて欲しい、力を貸して欲しい」と。

 

ハウリア族はそんなレギンの頼みを聞き入れた。もっとも、手を貸す理由はフェアベルゲンのためという訳ではなく、大迷宮の入口である大樹を守るためだが。

 

そして、ハウリア族は魔人族を殲滅するために出陣した。ハウリア達は、まずフェアベルゲンの外側から各個撃破で魔人族とポケモン達を仕留めていった。連中に悟られないように、気配を殺して部隊を分断させ、闇討ち、不意打ち、騙し討ちといった手段で情報を集めながら敵を潰していった。ハウリア達は、誠司から上には上がいることを教えられていた。だから、敵を過小評価しないし、自分達の力も過信しない。未知の敵と正面から戦うような愚は決して犯さなかった。

 

部隊を率いていた魔人族、ダヴァロスが気付いた頃にはもう手遅れだった。彼以外の魔人族は既に全滅。ポケモン達もウツボット・レディアン・ツボツボの三体しか残っていなかった。どのポケモンも目が虚ろだが、ウツボットだけ体に何か拘束具のようなものが取り付けられていた。ダヴァロスは動揺からか、周囲に向かって怒鳴る。

 

「これは一体どういうことだ!? 一体この樹海に何が……!」

「……大したものなどいない。いるのは、我らのみよ」

 

そう言って、霧の中からゆらりと、ダヴァロスの前に姿を現したのは、ハウリア族長カム・ハウリアであった。傍らにはドクケイルもいる。

 

「兎人族だと!? 最弱という話は何だったのだ……」

「ドクケイル、お願いします」

「ドッケ!」

 

カムの指示のもと、ドクケイルが襲い掛かる。ダヴァロスはカムを狙って攻撃を仕掛けようとするが、既にカムの気配は消えていた。だが、カムの指示は聞こえてくる。

 

周囲を動き回っているのか、気配が唐突に現れたり消えたりするせいか、カムの声がぶれて聞こえ、位置も判別出来ない。そうこうしている間に、ドクケイルはレディアンを戦闘不能にしたものの、自身も戦闘不能になってしまった。ウツボットもツボツボもかなりのダメージを負っているが、まだ立っている。しかし、ドクケイルをモンスターボールに戻すカムは涼しい顔をしている。

 

「……まいりましたね。私が持っているポケモンは彼だけなんですが……」

「族長、これを!」

 

そんな彼に、どこからか一つのモンスターボールが投げられる。カムは片手でそれを受け取ると、中のポケモンを確認して頷く。ダヴァロスは、咄嗟にモンスターボールを投げた相手を攻撃しようとしたが、既に気配は消えていた。カムはモンスターボールから新たなポケモンを繰り出した。出てきたのは、ツチニンだ。

 

「はっ、なんだ、そいつは?」

 

見るからに弱そうなポケモンの登場に、ダヴァロスは嘲笑うが、カムの表情は変わらない。ツチニンは穴を掘って姿を消してしまった。

 

「ふん、逃げたか。やってしまえ!」

 

恐れをなして逃げたと判断したダヴァロスは、カムにポケモン達を襲わせ、自身も魔法の詠唱を始める。その時、ダヴァロスの足下からツチニン……ではなく、テッカニンが姿を現した。穴の中で進化したのだ。ダヴァロスは思わず転倒し、詠唱も失敗に終わる。その時、再び気配を消したカムの声が響き渡る。ウツボットもツボツボも見失ってしまったようだ。

 

「テッカニン。連続で“きりさく”」

「テカッ!」

 

テッカニンは、素早い動きでウトボットとツボツボに斬りかかる。ウツボットもツボツボもまるで反応出来ていない。

 

テッカニンは、元々の素早さに加えて、特性“かそく”を武器に戦うポケモンだ。時間が経てば経つ程、素早さが上がっていき、最終的には姿が見えなくなってしまう。更に、このツチニンというポケモンはテッカニンに進化する際、面白い特徴がある。それは………

 

「がはっ……!?」

 

背後からの思わぬ攻撃に、ダヴァロスは前のめりに倒れ込む。背後には、抜け殻ポケモン、ヌケニンがフヨフヨと浮かんでいた。ツチニンがテッカニンに進化する際、ヌケニンも誕生するのだ。ツチニンに穴を掘らせたのは、ダヴァロスの油断を誘う目的もあったが、ヌケニンの存在を隠す目的もあった。ヌケニンは、地面から飛び出したテッカニンに紛れて“ゴーストダイブ”を発動させて姿を消していた。そして、ダヴァロスに気付かれないよう、背後へ移動し奇襲を仕掛けたのだ。

 

同時に、テッカニンのスピードを活かした猛攻によって、ウツボットとツボツボもダウンする。ダヴァロスは、どうにか起き上がろうとするが、どこからか現れたハウリア達によって、身体のあちこちに矢や短剣が突き刺さる。既にダヴァロスは、息も絶え絶えの状態だ。

 

「ぎざまっ……本当に…兎人族…か……?」

「ええ、正真正銘、兎人族ですよ。か弱い我々が生き残るためには、頭を使いませんと」

 

どこがか弱いんだ。どこが。

 

ダヴァロスは内心でそう毒づいた。そして、ダヴァロスの首はカムによって討ち取られた。

 

終わったと安堵したその時、ウツボットの体に付いていた拘束具から紫色の煙が噴き出したのだ。すると、ウツボットの体に異変が起こった。ウツボットの体が肥大化し、口を押さえようとツルで巻き付けるが、押さえ切れずに毒々しい液体が溢れ出る。そして、辺り一面に甘ったるい匂いが漂い始めた。

 

「これは一体……」

「族長! これは……?」

「分からない。もしや、誠司殿が以前言っていたメガシンカとやらか……? だが、どうして……?」

 

カム達は知らなかったが、ウツボットに取り付けられた拘束具には、メガシンカ現象を人為的に引き起こす効果のある薬品が仕込まれていた。部隊長であるダヴァロスが命令もしくは、死亡したら薬品が噴き出す仕掛けで、ダヴァロスが死亡したことで、作動したのだ。

 

この人為的なメガシンカは、通常のメガシンカと違って、キーストーンもメガストーンも必要ない。だが、ポケモンへの負担は通常のメガシンカよりずっと大きい。現に、ウツボットは苦しみの声を上げている。そんなウツボットを見て、カムはコキコキッと首の骨を鳴らす。

 

「何が何だか分からないが……このウツボットをどうにかしなくてはいけませんね。さぁ、テッカニン、ヌケニン! もうひと踏ん張りといきましょう!」

「テカッ!」

「ニーン!」

「よしっ、我々もいくぞ!」

『了解!!』

 

 

ーーーーーーーーーー

「……その後、暴走したウツボットをどうにか鎮めたのですが……どうされましたか、皆さん」

 

魔人族との戦いをひと通り話し終えたパルは、ブリッジでの空気がまるでお通夜みたいな空気になっていることに気付き、キョトンとした顔で尋ねた。最初は、誰もが亜人族の境遇に心を痛めていたのだが、あまりにもハウリアの悪辣とも言える手段の数々に、今では魔人族の方に同情の念が浮かんでいた。まさか、敵に対して冥福を祈る日が来ようとは……とリリアーナを筆頭に王国の者達が鎮痛そのものの表情を浮かべている。

 

一方で、誠司はウツボットがメガシンカすることを知って驚いていた。まだまだポケモンには未知の部分が多いということだろう。誠司はウツボットについて尋ねた。

 

「それで、そのウツボットは?」

「鎮めた後、正気に戻りました。どうやら我々に恩義を感じていたようなので、仲間にしました」

 

ハウリアに恐れをなしただけな気もするが、それは置いておく。それに、色々とボリュームたっぷりの話だったが、まだこれは前段階なのだ。ハジメが続きを促す。

 

「その後は? 今の話はまだ現状の前段階でしょ?」

「その通りです。魔人族を撃退した我々ですが、ほぼ全ての武器やらトラップやらを使ってしまった関係で、防備を整えるために一度集落に戻っていました。ところが、タイミングが悪いことに、今度は帝国の連中が来まして……しかも、フェアベルゲンを見つけるために樹海に火を放つという力技までしてきました」

「そ、そんな……樹海に火を!?」

 

思わず声を張り上げたリリアーナ。そんな彼女をチラリと見やって、パルは頷く。

 

「しかも、奴らの目的は侵攻ではなく、人攫いでした」

「人攫い?」

 

今まで帝国が亜人族を攫う時は、奴隷に強制して案内させるという方法だった。奴隷に対する強制力はあるが、それでもリスクがあるので、頻繁には行われない。ましてや、樹海に火を放つなど前代未聞だ。

 

「数名の帝国兵を攫って尋問したところ、どうやら帝国の方でも魔人族の侵攻があったらしく、帝都の方でも被害があったそうです。……あの屑共、『消費した労働力の補充が必要』とか言ってやがったので」

 

丁寧な口調が乱れるパル。それだけ腹に据えかねていたのだろう。パルの言葉に誰もが息を呑んでいたが、特にリリアーナの動揺が激しかった。

 

これから支援を含めて協議をしようと向かっていた先が同じく被害にあっていて、無茶をしてまで労働力の確保に努めている状況だったからだ。話を聞いた誠司は溜息を吐く。

 

「今助けた奴らの中に兎人族もいたし、そもそもお前達が動いているということは、兎人族もかなり連れて行かれたらしいな」

 

ハジメも嫌悪感を剥き出しにして吐き捨てる。

 

「労働力とか言っているけど、ゲスな欲望が透けて見えるね」

「ええ、胸糞悪い話です」

 

その後、このまま同族達を見過ごせないと、カム自ら少数精鋭の部隊を率いて帝都に向かったらしい。しかし、それからカム達と連絡が取れなくなってしまい、彼らの身に何かあったに違いないと、パル達が調査に送り出された。そして、情報収集の最中に大量の奴隷が運ばれていることを知り、現在に至るという。

 

色々と魔人族の暗躍を目の当たりにしてきた誠司とハジメはげんなりした表情を浮かべる。もっとも、誠司達のおかげで彼らの作戦は悉く潰えており、彼らからすれば、誠司達こそが疫病神だろう。

 

「まぁ、おおよその事情は分かった。とりあえず、お前達は引き続き帝都で情報収集する訳だな?」

「感謝致します。それと申し訳ないのですが……」

「ああ、捕まってた奴らは樹海まで送り届けるよ。ハジメ、良いよな?」

「もちろん」

『感謝致しますっ!』

 

パル達が一斉に頭を下げる。そんなパル達を見て、シアは何か言いたそうにしていたが、結局何も言うことはなかった。何を言いたいのかは誠司もハジメも察していたが、その場では何も言わなかった。

 

最後に、パル達から樹海に残っているハウリア族への伝言を預かり、リリアーナや護衛騎士達とパル達を、帝都から少し離れた場所に降ろした。そして、一行は、ハルツィナ樹海に向かって先を進んだ。




厳ついおっさんが丁寧な敬語で喋るって何か良いよね……
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