魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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帝都にて(前編)

ヘルシャー帝国は、数百年前の大戦で活躍した傭兵団が設立した新興の国で、実力至上主義を掲げる軍事国家だ。そんなヘルシャー帝国の首都は、一言で言えば、雑多という印象だ。

 

徹底的に実用性を突き詰めたような飾り気のない建物が並ぶ一方、後から継ぎ足したような奇怪な建物の並ぶ場所もある。

 

帝都全体が、どこかアウトローな雰囲気を醸し出しており、立ち並ぶ露店からはお客様に対する扱いとは思えない荒々しい怒鳴り声が聞こえてくる。それだけ聞くと、世紀末のように聞こえるが、決して暗く淀んでいる訳でも荒んでいる訳でもなく、皆それぞれやりたい事をやりたいようにやるという自由さが溢れているような賑やかさがあった。「何があっても自己責任、その限りで自由にやれ!」という意気が帝都民の信条なのかもしれない。

 

軍事国家というだけあって、帝都民の多くは戦いを生業としており、気性が荒い者が多い。帝都内には大陸最大規模の闘技場などもあって、年に何度か種類の違う催しがなされ大いに盛り上がっているらしい。

 

そんな帝都に入った誠司達だが、当然と言うべきか、美女、美少女と共に行動している誠司の姿はかなり目立っており、ちょっかいを掛けてくる輩が後を絶たなかった。すかさずユエのシャンデラがモンスターボール越しに魂を吸い取ることで意識を刈り取ったり、ハジメの銃撃(ゴム弾入り)で有無を言わさずぶっ倒しているが、それでもしつこく寄って来る。

 

これだけ騒ぎは起こっているが、その程度はちょっとしたじゃれ合いという認識のようで、周囲は普通にスルーしている。そういう意味では好都合だった。

 

「うぅ、話には聞いてましたが……帝国はやっぱり嫌なところですぅ」

「こういった雰囲気は、ゲームとかの世界観の参考にはなりそうだけど、居心地が良いかは別問題だね」

「軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実してるどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。まぁ、妾も住みたいとは全く思わんがの」

 

シア達は帝都がお気に召さなかったようで、顔を顰めている。ユエも言葉にはしていないが、同じ気持ちなようで、ティオの言葉に同意するように頷いている。

 

光輝や龍太郎はそんなに嫌いな雰囲気では無いらしいが、一方で雫は警戒心が跳ね上がっており、香織と鈴は少し怯えているようで頑なに雫から離れようとしない。

 

やはり帝国は女性には余り好かれない国らしい。

 

とはいえ、光輝達も好んでいるわけではなく、日本人においては刺激が強過ぎる特異な有様には、しきりに顔を歪めていた。

 

王国ではまず見られなかった光景。特にシアの心を抉る……奴隷達だ。

 

「シア、余り見るな。……見ても仕方ないだろう?」

「……はい、そうですね」

 

シアの目に入ってしまうそれは亜人族の奴隷達だ。使えるものは何でも使う主義の帝国は奴隷売買が非常に盛んだ。今も、シアが視線を向けている先には値札付きの檻に入れられた亜人族の子供達がおり、シアの表情を曇らせている。

 

傍らのユエが心配そうにシアの手を握る。ハジメも、シアのほっぺをムニムニと摘んで不器用な気遣いをする。二人の暖かさが手と頬に伝わり、シアのウサミミが嬉しそうにパタパタと動いた。

 

「……許せないな。同じ人なのに……奴隷なんて」

 

ハジメ達の後ろを歩いていた光輝が、ギリッと歯噛みする。放って置けば、そのまま突撃でもしそうだ。

 

ハイリヒ王国も亜人を差別しているという意味では帝国と同じなのだが、聖教教会の威光が強い分、王国では亜人と同じ空間に居たくないという考え方があった。そのため、光輝達は王都で奴隷の亜人を見る機会はなかったのだ。だから余計に心に来るものがあるのだろう。

 

だが、それで行動を起こして騒ぎを起こされては敵わない。雫もそれが分かっているのか、光輝の側であれこれと諌めるように話し掛けている。龍太郎が脳筋らしく煽るが、そこは鈴がさりげなく押さえ込んでいる。そういう意味では、ある意味二組は良いコンビなのかもしれない。一方に色々負担が掛かっているが。

 

そんな微妙な空気を変えようと思ったのか、香織は王国であった珍事を思い出し、話を降った。

 

「そう言えば、雫ちゃんって皇帝陛下に求婚されたよね?」

「……そう言えば、そんな事もあったわね」

 

思い出したくなかった事を思い出して顔を顰める雫。思わず香織にジト目を送る。

 

話を聞くと、数ヶ月前に、帝国との会談の場に同席したことがあったらしい。その際に、光輝は、使者に変装していた皇帝ガハルド・D・ヘルシャーと模擬戦を行ったそうだ。もっとも、途中でイシュタル教皇に止められたため、模擬戦の決着はつかなかったらしいが。その後、雫はガハルドに見初められ、彼から愛人の誘いがあったらしい。それだけ聞けば、シンデレラストーリーと言えなくもないが、ガハルドの年齢は四十代。いくら皇帝と言えど、父親くらいの年齢の男からそんな誘いがあっても嬉しくはないだろう。

 

掻い摘んで説明し終えた雫が渋い表情を浮かべると同時に、光輝も色々と思い出したのか、彼も渋い表情になる。

 

話題を変えたいと思ったのか、雫は誠司に話を降ってきた。

 

「そんなことより、中西君。私達は具体的にどこに向かっているの?」

 

シアの父親達の安否を確認するという話は聞いているが、そのための具体的な方針はまだ聞いていなかったのだ。

 

「取り敢えず、帝都の冒険者ギルドだな。クリスタベルさん……知り合いの元金ランク冒険者の話によれば、そこに優秀な情報屋がいるらしい。そいつに聞けば、何かしら分かるだろう。まぁ、そいつが生きていればの話だけど」

 

先日、王都でクリスタベルと再会した際に、色々と教えて貰ったのだ。その時は話半分で聞いていたのだが、まさかここで役立つ日が来るとは思ってもいなかった。誠司の含みのある言い方が雫は気になったようで、聞き返してきた。

 

「生きていればって、その人が生きているか死んでいるかも分かっていないの?」

「クリスタベルさんがまだ現役だった頃の話だからな。あの人も引退して長いし」

「でもまぁ、僕達も金ランクだから、いざとなればその肩書きを使って色々聞き出すよ。こういう時、立場ってのは便利だよね」

 

ハジメがカラカラと笑いながらそう言う。雫は少し表情が曇った。

 

「ハジメ達は、シアのお父さん達が捕まっていると考えているの?」

「まだ分からないよ。捕まっているのか、奴隷落ちしているのか、はたまた潜伏中なのか。帝都の警備もかなり厳重だしね」

 

ハジメの言う通り、警備は過剰と言っても過言ではないレベルであった。入場門では、一人一人身体検査をされた上、外壁の上には帝国兵が巡回ではなく常駐しており目を光らせていた。

 

都内でも、最低スリーマンセルの帝国兵が厳しい視線であちこちを巡回しており、大通りだけではなく裏路地までしっかりと目を通してる様子だった。

 

恐らく、魔人族の襲撃が原因で、未だ高レベルの警戒態勢を敷いているのだろう。

 

そんな帝都の状況のため、パル達も侵入には苦労していて未だ隙を窺っている状態だ。

 

奴隷でもない兎人族が入れるわけもなく、ハジメ達の奴隷として通すにしても限度がある。その為、ハジメが運んできたハウリアの増援部隊も、今は目立たないように帝都から少し離れた岩石地帯に潜伏させている。

 

寧ろ、この状況の中で、侵入に成功したカム達にハジメはどうやって侵入して来たと教えて欲しいぐらいだった。

 

ただ、カム達は十中八九捕まっているであろうことは、ハジメも誠司も察していた。

 

ハウリア達兎人族は元々、気配操作に関しては亜人族随一な上に、カム達は誠司達と別れてからもそれを磨き続けてきたのだ。人の出入りが難しくても、カム達ならば何らかの方法で外で伝言を送るくらいは出来るだろう。にも関わらず、それすら出来なくなったということは、捕まっていて身動きが取れない状況であると考えるのが自然だった。

 

情報屋が生きていて、ハウリア族の情報をしっかり持っているのが一番なのだが、最悪、ギルド内に関連しそうな噂くらいはあるだろうと考えていた。

 

シアがまた不安そうにしていたので、ハジメとユエがシアのほっぺやウサ耳をむにむに触って慰める。そんな風にギルドに向かって進むうちに、不意に街の景色が変わった。あちこちの建物が崩壊していたり、その瓦礫が散乱していたりしているのだ。

 

道中、耳に入って来た話によれば、コロシアムで決闘用に管理されていたボスゴドラやセキタンザンといった魔獣達が、突然変異し見たこともない強力かつ巨大な姿となって暴れ出したらしい。

 

突如暴れ出したボスゴドラ達はガハルド皇帝自ら出陣してどうにか駆除が完了したのだが、帝都が受けた被害は大きかったようだ。しかも、その混乱に乗じて魔人族も一気にガハルドへ迫ったらしい。と言っても、帝国最強のガハルドには敵わず、返り討ちにあったらしいが。

 

そんな瓦礫の山となっている場所では、復興作業のため大勢の亜人奴隷が駆り出されていた。冒険者ギルドは、その崩壊が激しい場所の更に向こう側にあるので否応なくここを通らなければならない。そうなると、誠司達は嫌でも彼らの姿を視界に入れることになる。

 

武装した帝国兵の厳しい監視と罵倒の中、暗く沈みきった表情で瓦礫を運ぶ様は悲惨の一言だった。

 

帝都にもたらされた人的・物的被害のしわ寄せは誰よりも亜人族に来ているようだ。こうして復興に酷使していれば、いくら肉体的ポテンシャルの高い亜人族と言えど倒れる者は続出するだろう。

 

樹海への襲撃は、倒れた彼等を回復させるよりも新調したほうが良いという、まさに亜人を人と認めない価値観のあらわれということだ。あるいは、単に『弱い者』を認めず、弱者はいくら踏み躙っても問題ないという実力至上主義の価値観も含まれているのかもしれない。

 

その時、誠司達から少し離れたところで犬耳、犬尻尾の十歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に載せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。

 

足を打ってしまったのか蹲って痛みに耐えている犬耳少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、棍棒を片手に近寄り始めた。何をする気なのか明白であった。

 

「おい! やめっ……」

 

光輝が、帝国兵を止めようと大声を上げながら駆け出そうとする。しかし、その言動は次の瞬間に起きた出来事によって止められることになった。

 

帝国兵が勢いよくつんのめり顔面から瓦礫にダイブしたのである。何とも痛々しい音が響き、帝国兵は動かなくなった。どうやら気絶してしまったようである。

 

同僚の帝国兵が慌てて駆けつけて容態を見るが、呆れた表情で頭を振る。そして、血だらけの顔を見て一瞬嫌そうな顔を浮かべつつも、担いで何処かへ運び去って行った。犬耳少年のことは放置である。

 

犬耳少年は何が起きたか分からずといった様子で呆然としていたが、ハッとした表情で立ち上がると、自分手散らかした瓦礫を急いでかき集めて、何事もなかったように運搬を再開する。

 

呆然としているのは、駆け出そうとして出鼻をくじかれた光輝も同じだった。そこへ、ハジメからの声が掛かる。

 

「首を突っ込むのは勝手だけどバレないようにやって。騒ぎを起こされたら迷惑だから」

「っ……今のは南雲が?」

 

光輝の確認に無言で頷くハジメ。彼女の手には壊れた指輪があった。この指輪には、即効性の睡眠効果を持つ針が仕込まれており、それを発射して帝国兵を眠らせ、転倒させたのだ。だが、この指輪は射程距離が長い分、反動も大きいので一回しか使えない。なので、射出した後は完全に壊れてしまった。ハジメは、その残骸をポケットにしまいながら、再び歩き始める。

 

しかし、そんなハジメの態度に、光輝の中の正義スイッチがONになってしまったようで、眉を顰めて反発する。どうやら、ハジメの『迷惑』という言葉が、彼の琴線に触れたらしい。

 

「迷惑って何だよ? 助けるのが悪いっていうのか? 南雲だって助けたじゃないか」

「助けたというより、厄介ごとにならないようにしたんだけどね。こっちは人探しに来ているんだから、騒ぎになったら見つけ辛くなる。だから考えて動いて」

 

そうしてハジメは、もう一度、助けるなら隠れてやるか、ハジメ達との関係を疑われないようにやってくれと念を押した。

 

それから手をヒラヒラさせて、この話は終わりだと示すハジメに、光輝は本来の目的であるシアの家族を捜すことを頭の隅に追いやってヒートアップし始めた。倫理やら正義の価値観を持って訴え出した。

 

「お前は、あの亜人族の人達を見て、何とも思わないのか! 見ろ、今、こうしている時だって、彼らは苦しんでいるんだぞ!」

 

ハジメは大きく溜息を吐いた。「もうこいつは何しにここに来たんだ」と言いたくなるようなことばかりだ。そんな二人を見かねて、誠司が口を挟む。

 

「助けるのは構わないが、時と場所と手段を考えろと言っているだけだろ、ハジメは。俺達は奴隷解放運動に来た訳じゃないんだ。人探し……それも少し厄介な相手を探しに来ているんだ。そこを履き違えるなよ」

 

誠司が諫めるようにそう言うと、光輝はそれでも納得が出来ないのか、今度は誠司に向かって怒鳴り始めた。

 

「じゃあ、あの人達を放置しろというのか!? あんな子供だっているんだぞ! シアさんのことは大切にするのに、苦しんでいる亜人達は簡単に見捨てるのか!」

 

光輝の声が大きくなるにつれ、周囲も何事かと注目しだした。離れたところで監視役を担っている帝国兵の幾人かもチラチラと誠司達の方を見始めている。それに気付いた誠司は小さく舌打ちする。

 

探し人であるカム達が帝国兵と敵対し、かつ不法入国者でもある以上、誠司達としては、わざわざ騒動を起こして官憲と揉めたくはないのだが、目の前の勇者はそれが分かっていなかった。

 

「……いい加減にしとけよ。リンカーン大統領やキング牧師の真似事は他所でやれと言っているのがまだ分からないのか? 何度も言っているが、俺達はカムさん達を探しに来たんだ。お前の正義感に付き合って、後れをとって、カムさん達が取り返しのつかない事態になったらどうするつもりだ?」

「っ……」

「……それでも騒ぎを起こしたいなら、もう好きにしろ。だが、そうなったら、俺達はまったくの無関係とさせてもらう。仲間でもなければ、連れ合っている訳でもない、ただ同行を許可しただけの他人にそこまでフォローする余裕は俺達もないからな」

 

誠司は言うだけ言うと、歯噛みする光輝を尻目に踵を返した。

 

誠司達とて、かつてシア達ハウリア族やミュウを助けている。子供が目の前で苦しんでいれば何も感じない訳ではない。だが、シア達の場合と目の前のそれは、状況が全く違う。ハウリア族の場合は、まだ奴隷にされていない状態だった上に相手から殺しにかかってきたし、ミュウの場合は完全に違法だった。

 

一方で、目の前の奴隷制度(それ)はこの世界では当たり前のことであり、この国では合法的に行われていることなのだ。確かに酷い扱いではあるが、ここで奴隷にされている亜人族を助ける方が一般的に『悪い』ことになる。他人の『所有物』を盗むのと変わらないのだから。仮に今、奴隷達を力尽くで助けたとしても、後に帝国からの報復や亜人族捕獲活動が激化するという恐れがあり、そうなれば亜人達に待っているのは更なる地獄だろう。

 

それでも差別と戦い、奴隷解放を成し遂げたいのなら、相応の覚悟が必要になる。長い時間をかけ、帝国民全員から恨まれ、憎まれる覚悟が。場合によっては、リンカーン大統領やキング牧師と同様に、暗殺されて命を落とす可能性だってあるだろう。

 

光輝が首を突っ込もうとしているのは、それほど大きくて根深いものなのだ。その辺りのことを光輝は分かっているのか、いないのか…… 誠司はそんなことを考えながら内心溜息を吐くのだった。

 

「………胸糞悪ぃ話だけどよ。今は行こうぜ、光輝」

「今は、シアさんの家族のことを優先しよ?」

 

龍太郎と鈴にそう言われて、光輝は仲間に気を遣われていると大きな溜息を吐いた。そして、香織や雫からも声を掛けられると、ようやく渋々といった感じで頷き、誠司達の後を追い出した。

 

「好きにしろ」と言っているが、これで誠司達から離れてしまえば、彼らは本当に自分のことを見捨てるだろう。流石の光輝もそれが分かっていた。そうなれば、本来の目的である大迷宮攻略も神代魔法の習得も叶わなくなってしまう。

 

自分達には力が必要なのだ。そのためには、どれだけ不満があろうと誠司達に付いて行かなければならない。それが、力を得る一番確実な方法なのだから。

 

光輝は自分にそう言い聞かせながら、胸の内の黒いモヤモヤをグッと抑え込むのだった。




光輝の言っていることは、「鯨が可哀そうだから捕鯨するのを止めろ」と言っている外国人と同じなんですよね。奴隷を使っている帝国の人間からすれば、「何言ってんだ、お前」くらいにしかならない。
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