魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

133 / 160
筆が乗ったので、投稿します。


帝都にて(後編)

光輝達だけ微妙な雰囲気のなか、辿り着いた帝都の冒険者ギルドは、まんま酒場という様子だった。

 

広いスペースに雑多な感じでテーブルが置かれており、カウンターは二つある。一つは手続きに関するカウンターで受付は女性だが粗野な感じが滲みでており、もう一方のカウンターは、完全にバーカウンターだった。昼間にも関わらず飲んだくれているおっさんがあちこちにおり、暇なら復興を手伝えよとツッコミを入れたくなる有様だった。

 

「確か……情報の聞き方は……」

 

バーカウンターではロマンスグレーの初老の男がグラスを磨いている姿があった。おそらく、あれがクリスタベルの言っていた情報屋だろう。誠司達はそう目星をつけた。

 

バーカウンターの方へと向かう際に、冒険者者達の値踏みをするような剣呑な眼差しが突き刺さり、喧嘩っ早い龍太郎がいちいち反応して睨み返す。鈴はこういう場所が苦手なのか小さい体を雫に寄せて上手く隠れている。

 

誠司がバーカウンターの前に陣取ると、マスターらしきロマンスグレーの男は誠司達にチラリと視線を向けるだけで無視するようにグラスを磨き続けている。誠司は無言でカウンターに置かれていた茶色の壺に銀貨を三枚入れる。壺の中からチャリンチャリンッという音が響き、マスターは眉をピクリと動かす。ここで、彼は初めて口を利いた。

 

「……注文は?」

「デビルズキッスのロックを、肴はミガルーサの身とコジオの塩を」

 

クリスタベルから教わった通りの注文をすると、マスターは磨いていたグラスをカウンターに置き、近くにあったスイッチを押す。すると、カウンター周りが半透明の幕みたいなものに包まれた。どうやら、防音機能のアーティファクトのようで、ここでの会話は他の冒険者達から聞こえなくなるようだ。マスターが尋ねる。

 

「……何が知りたい?」

 

どうやら、クリスタベルが言っていた情報屋は彼で間違いないようだ。誠司は、ある質問をした。

 

「ここ最近、帝都内で騒動を起こした亜人がいたりしなかったか?」

 

他の人が聞けば、奇妙に聞こえる質問だろう。亜人奴隷の情報が欲しいなら商人ギルドや何処かの商会にでも行けばいいし、帝都内で騒動を起こせる奴隷などいない。そして、帝都内に奴隷でない亜人族などいない事から、誠司の質問は有り得ない可能性を尋ねているのと変わらないのである。

 

だが、マスターは心当たりがあるのか、一瞬だけシアに視線を向けた後、誠司に尋ねた。

 

「……お前が聞きたいのは兎人族のことか?」

「!……情報があるようだな。詳しく頼む」

 

マスターが言うには、数日前に大捕物があったそうで、その時、兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし逃亡を図ったとんでもない集団がいたのだとか。しかし、流石に十数人で百人以上の帝国兵に帝都内で完全包囲されてしまっては逃げ切ることはやはり出来ず、全員捕まり城に連行されたそうだ。それでも、兎人族の常識を覆す実力に結構な話題になっていたので、町中で適当に聞いても情報は集められたようである。

 

「でも城か……」

 

ハジメが呟きながら傍らのシアを見ると、やはりシアの顔色は曇っている。

 

帝都に不法侵入した亜人がどういった扱いを受けるのか……少なくとも明るい未来は期待出来ないだろう。

 

ただ、連行したという点が気になるところだ。男の兎人族も需要がないわけではないが、カム達のような初老の男まで需要が高いわけではない。しかも、帝国兵に牙を剥くような存在だ。その場で即座に処刑されていてもおかしくはないし、むしろその方が自然である。

 

つまり、帝国側としてはカム達に何らかの価値を見出して、生かしておくことにしたということなのだろう。だとすれば、カム達は未だ生きている可能性が非常に高い。望みを捨てるには早すぎる。

 

そんな意思を込めてカウンターの下でシアの手を握るハジメ。見れば、反対側の手はユエが握っている。シアも、ハジメとユエの気持ちが伝わったようで、瞳に力を宿しコクリと頷いた。

 

マスターが、珍しい髪色の兎人族であるシアを意味深な眼差しで見やる。捕まった兎人族達との関係をあれこれ推測でもしているのだろう。そんなマスターに、ハジメは、さらりととんでもないことを尋ねた。

 

「マスター、言い値を払うといったら、帝城の情報、どこまで出せる?」

「! ……冗談でしていい質問じゃないが……その様子を見る限り冗談というわけじゃなさそうだな……」

 

ハジメが笑みを浮かべつつも、その全く笑っていない眼で真っ直ぐマスターを射抜く。

 

彼女の得体の知れない圧力に、流石のマスターも少し表情が強ばった。質問の内容も、下手をすれば国家反逆の意思を疑われかねないものだ。

 

もっとも、ここは冒険者ギルドであり独立した機関であるから、帝国に対する反逆という観念自体がない。ハジメも、その辺りを踏まえて、ワンクッション挟んだ上で尋ねたのだ。

 

だが、いくらマスターが冒険者ギルドの人間であっても、自国の、それも本拠地内部の情報を売り渡したと知られれば、ただでは済まない。ただでさえ、魔人族が攻めてきたということもあって、ピリピリしているのだ。最悪投獄・処刑ということにもなりかねない。

 

かといって、このまま知らぬ存ぜぬを通すのも無理がありそうだった。マスターは苦渋の選択として、代わりにハジメ達の知りたい情報を知っている人間を教えることにした。

 

「……警邏隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ」

「ネディルね。分かった、後で訪ねてみます。ありがとうございました、マスター。それで、情報料は?」

「……大した情報じゃないからな。二万ルタで良い」

 

ハジメがあっさり引き下がると、マスターも息を吐く。誠司が金貨二枚を壺に入れたのを確認すると、マスターはついでにある情報を教えた。

 

「ああ、そうだ。ここ帝都で最近、失踪事件が増えていてな。出歩くなら注意しておけよ」

「失踪事件? まぁ、注意しておきます」

「それと……注文の品だ」

 

そう言って、グラス一杯の酒と肴がカウンターの上に置かれた。情報を教える中で、しっかり用意もしていたようだ。流石の手際である。

 

「頂こう」

「ちょっ、誠司……」

 

ハジメが慌てて止めようとしたが間に合わず、誠司はそのままグラス一杯の酒をグイッと飲み干してしまった。そして、ギルドを出ようと踵を返したその時、誠司はそのままバターンッという音を立てて、前のめりに倒れてしまった。

 

「おいおい、たった一杯でか……」

 

たった一杯で酔い潰れる誠司に、ギルド内は笑いに包まれた。マスターもどこか呆れた様子だ。

 

「下戸の癖に、見栄張って飲むから……」と呆れながらハジメがそう言うと、肩を貸して、誠司を立たせてやる。シアも手伝う。

 

そうして、ややカッコ悪い状態で誠司達はギルドを後にした。

 

肩を担いで歩くハジメは、誠司に尋ねるが、誠司はそのまま目を回している。

 

「大丈夫、誠司?」

「うーーん………」

「駄目そうだね。仕方ない。ユエ達はどっか適当な場所で休んでて。僕はそのネディルって人から情報を仕入れてくるから」

「ん、了解」

「分かりました!」

「うむ、お手柔らかにの」

 

そして、ハジメは雑踏の中に消えていった。

 

それから数時間後、とある宿屋の一階にある食事処で待機していたユエ達のもとへ、ハジメが戻って来た。

 

その頃には誠司も酔いが醒めており、面目ないと謝罪していた。そんな誠司の謝罪に対して、ハジメもヒラヒラと手を振って許すと、早速手に入れた情報を伝える。

 

「欲しい情報は手に入ったよ。今晩にでも、カムさん達がいる可能性の高い場所に侵入しようと思う。警備は厳重そうだけど、まぁそこは大丈夫でしょう。僕と誠司、ユエ、シアの四人で行って、残りは帝都の外にいるパル達のところにいて。そこへは直接転移するから」

「念のために聞くけど、ネディルっていう奴が嘘を言っている可能性はないか?」

 

誠司がもっともな懸念を口にするが、ハジメは頭を振って否定した。

 

「それはないと思うよ。彼、『自分は帝国の兵士だ。国のためならこの命をも捨てる覚悟だ』とか言ってたけど、()を捨てる覚悟まではなかったみたいだから。最後は、股間を押さえてホロホロと涙を流してたっけ」

「あー、分かった。なるほどな。……気の毒に」

 

誠司はネディルに、同じ男として同情する。若干、テーブルの下で内股になりながら。見れば、光輝や龍太郎も同様だ。

 

「なぁ、南雲……今更だが、シアさんの家族が帝城に捕まっているんなら、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか? 今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……」

 

光輝が、本当に今更なことを言う。

 

確かに、光輝の言う通り、勇者である光輝の言葉であればそうそう無下には出来ないし、頼めばリリアーナも口添えをしてくれるだろう。強引に交渉することも出来ない訳ではない。それでもやはり難しいだろう。

 

「帝国にも面子があるからね。頼んだからってただでは返してくれないよ。対価として色々面倒な要求をしてくるのが目に見えてる」

「それは……」

「それに姫さんを巻き込めば、王国の交渉も滅茶苦茶になりかねないし、それなら部外者として忍び込んで助ける流れの方が良いんだ」

 

ハジメの説明の通り、考えてみればそうなる可能性は確かにあると、口を噤んでしまう光輝。

 

「確かに、リリィに迷惑はかけられないし……でも……」

 

光輝としては、せっかく付いて来たのだから自分も何かしたいのだろう。先程の亜人奴隷のこともあったせいで、じっとしていられないようで何かを考え込み始めている。

 

それを見たハジメは嫌な予感がし、チラリと雫を見る。雫もハジメに視線を向けると小さく頭を振った。どうやら、やはり暴走の兆候が出ているらしい。

 

このまま彼を放置して、何か余計なことをされるのも困る。その時、ハジメは妙案を思いついた。

 

「……それなら天之河君達には陽動をお願いしようかな?」

「陽…動……?」

「そう。さっきも言った通り、警備は厳重すぎるくらい厳重なんだ。だから、少しでも成功率を上げておきたくてね。奴隷を助けるための建前でひと暴れして帝国兵を引き付ける……とか。ああ、でもやっぱり、危険すぎるよね。ごめん、忘れて」

 

勿論、警備は厳重だと思われるが、侵入出来ない訳ではない。陽動役も、あれば全く役に立たないわけではないだろうが、特に必要でもない。単に光輝という男を上手く誘導するには、これぐらいの理由が必要と判断したまでだった。

 

「……やる。やるぞ! 南雲! 陽動は任せてくれ!」

 

光輝の脳裏にあの亜人族の少年のことが頭を過ったようで、快く陽動を引き受けてくれた。体よく厄介払いされていることに気が付いているのは、雫だけであった。

 

最終的に、陽動役は光輝・龍太郎・雫・鈴の四人にお願いした。香織は、ティオと一緒に待機してもらう。捕まっているハウリア族は尋問で怪我を負っている可能性が高い。ハジメもある程度は治すが、時間や魔力の関係から全員分完治は難しい。なので、パル達のもとに送り届けてから、そこで改めて治療してほしいと頼んだのだ。

 

「そういえば、陽動といっても、正体は隠した方が良いんじゃないか? ある程度、顔は割れてるんだろ?」

「そこは問題ない」

 

誠司の指摘にもハジメはそう言って、宝物庫から鉱石をいくつか取り出す。そして、パパッと錬成して四つの仮面を作り出した。

 

その仮面はホントに鉱石で作らているのかと思うぐらいの出来で、所謂お祭りの屋台で見るようなフェイスタイプだ。それぞれ、ブーバー・ラグラージ・ピカチュウ・ヤドンのデザインとなっている。視界や呼吸を遮らないように工夫もなされており、並の錬成師ではとても真似できない技術力だ。

 

「……南雲……これは?」

「見ての通り仮面だよ」

「………………なぜ?」

「誠司も言ってたけど、正体は隠しておいた方が良い。そして、正体を隠すと言えば仮面だ。古今東西、ヒーローとは仮面を被るもの。ヒーローとは仮面に始まり仮面に終わるんだ。ちゃんと区別がつくようにしてあるでしょ?」

「え? いや、いきなり、そんな力説されても……まぁ、確かに正体は隠しておいた方がいいというのは分かる。リリィの迷惑にもなるだろうし……でも、これは……」

 

光輝が頬を引き攣らせながら、目の前の精巧なマスクを見る。ハジメはブーバーのマスクを手に取り、それを光輝に渡した。

 

「まぁまぁ、そういう訳だから勇者(笑)の君にはこのブーバーマスクを送ろう。グリューエン大火山で苦戦した強敵を模ったマスクだ。見た目に合うよう、“火球”程度だけど炎が吐けるようにもしてある。これで帝国兵をあっと言わせてやれ」

「な、なんて高性能な……というか、勇者の後に何か付けなかったか?」

 

次にラグラージのマスクを手に取ると、今度は龍太郎に手渡す。

 

「次に坂上君はこのラグラージマスク。誠司が使っているから知っていると思うけど、パワー溢れるラグラージを模したマスクはパワーファイターの坂上君にピッタリだよ。おまけとして水を発射する機能も付けておいた」

「お、おう。くれるってんなら有難く貰っとくぜ」

「それで、次は……」

「えっと……鈴は、どうせなら可愛いのが良いんだけど……」

 

仮面を渡す前に、ハジメは鈴にある質問をした。

 

「ああ、そうだ。鈴はカレー、好き?」

「えっ? そりゃあ、好きだけど……」

「じゃあ、黄色のピカチュウマスクだ。キレ⚪︎ジャーしかり、キュ⚪︎レモネードしかり、クル⚪︎曹長しかり、黄色キャラがカレー好きなのはお約束だからね」

「いや、確かに好きだけど……鈴は別にカレー大好きキャラって訳じゃ……まぁ、ピカチュウは嬉しいけど」

 

何か変なキャラ付けをされたことに若干の不満はあるが、ピカチュウの仮面を受け取ってご満悦の鈴。

 

「それで最後は……」

「待ちなさい、ハジメ。もう一つしか残っていないのだけど……まさかよね?」

「もちろん、雫はこのヤドンマスクだ」

「嫌よっ! もう少し良いのがいたでしょ! 私のイメージってそんなに間抜けそうな感じなの!?」

 

雫の抗議に、ハジメはやれやれと肩を竦める。まるで聞き分けのない子供に対するような態度に雫の頬がピクピクと引き攣る。

 

「酷い言い草だなぁ。香織から可愛いものが好きだって聞いていたから、可愛いポケモンにしたのに。このヤドンというポケモンは、西のエリセンではKAWAIIの代名詞なんだから」

「こ、このポケモンが……?」

 

雫は改めてヤドンマスクを見つめる。何も考えていなさそうなアホ面だが、確かに見ようによっては可愛い気もしてきた。そこでハッと我に返り、慌てて反論する。

 

「って、私はべ、別に可愛いものなんて……っていうか、香織! あなた、一体何を話してるのよ!」

「えへへ、雫ちゃんの可愛いところだよ。お部屋がぬいぐるみで一杯だとか……」

「!?」

 

親友からの思わぬ裏切り。「口止めした訳ではないが、なぜそんな話を!?」と赤面しつつ、香織をキッと睨む。そこから更に別の幼馴染や友人からの追撃が入る。

 

「……そういえば、昔から動物も好きだったよな。特に、ウサギとかネコとか……小さくて可愛い感じの」

「!」

「ああ、シズシズの携帯の待ち受けもウサちゃんだったよね~」

「!」

「ゲーセンとか寄ったりすると、必ずUFOキャッチャーやるよな。しかも、やたら上手ぇし」

「!」

「なるほど、それで雫さん、私のウサミミをいつもチラ見していたんですね?」

「!!!」

「……さぁ、受け取って。この仮面は……雫のものだよ」

 

いつになく優しげな眼差しでヤドンマスクをそっと差し出すハジメ。何故か、ハジメ以外の全員も、妙に優しげな眼差しで贈呈式を見守っている。いつの間にか、仮面を受け取らないという選択肢がなくなっていることには誰も気が付かない。

 

「………なんなのよ、この空気……。言っておくけど、私、ホントに可愛い動物に目がないってことはないからね? 仕方なく受け取っておくけど、喜んでないから勘違いしないでよ? あと、小動物が嫌いな人なんてそうはいないでしょ? だから、私が特別、そういうのが好きな訳じゃないから……だから、その優しげな眼差しを向けるのをやめてちょうだい!」

 

耳まで赤くなりながら、雫は律儀に仮面を受け取った。

 

恥ずかしいからなのか必死に否定するものの、シアがこっそり「雫さんなら少しくらいウサミミ触ってもいいですよ?」というとデレっと相好を崩したので虚しい努力だった。




原作では酒を一気飲みして情報を聞き出していますが、本作では特定の手順を踏むことで情報を聞き出す形にしました。これはこれで、ロマンがあるかなぁと思います。

デビルズキッス
本作オリジナルの、帝国でも古い歴史を持つ銘酒。クラボの実やズリの実などをふんだんに使っており、独特な甘辛さがある。一度飲むと、まるでポケモンの技である“あくまのキッス”を受けたかのように酩酊状態になるという。ちなみに、ラベルにはルージュラのキスマークのようなデザインが描かれている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。