魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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ハウリア救出作戦

光一つ存在しない闇の中に格子のはめ込まれた無数の小部屋があった。特殊な金属で作られた特別製の格子は、地面に刻まれた魔法陣と相まって堅牢な障壁となり、小部屋にいる者を絶対に逃がさないと無言の意思表示をしている。

 

汚物や血などから発生する異臭で、何も見えなくとも極めて不潔な空間であることがわかる。

 

そんな最低な場所とは、もちろん囚人を拘束し精神的に追い詰めることを目的とした牢獄、それもヘルシャー帝国帝城にある地下牢であった。

 

流石、帝城の牢というべきか、地下牢を構成する金属鉱石の質もさる事ながら、至る所に刻まれた囚人を逃がさないための魔法陣が実に秀逸である。

 

脱獄を企てた者、または地下牢に忍び込んだ者それぞれに致死に至らない程度の、しかし極めて悪質な苦痛を与えるトラップが見えるところだけでなく壁の中にまで仕込まれており、トラップを解除する詠唱を正確に唱えない限り、まず勝手な行動は封じられていると見るべきだろう。

 

脱獄できる可能性など微塵もなく、光一つない世界で凶悪な異臭に苛まれつつ、小さな部屋に一人押し込まれていれば、常人なら一日と保たず発狂してもおかしくない。看守とて唯一の入口である扉の直ぐ外にある詰所で待機しており、決められた時間に巡回するだけで地下牢の暗闇の中に長時間いたりはしないのだ。

 

そんな地下牢が立ち並ぶ廊下を進んでいるのは誠司達だ。詰所の看守達にはしばらくの間、眠ってもらっている。入口から入ってすぐに、囚われたポケモン達は回収した。弱ってはいたが、命に別状はない。碌にエサを与えられていなかったのだろう。

 

「ポケモン達は見付かったけど、ハウリアはどこに……?」

「うぅ、皆さん、無事だと良いんですけど」

 

イトマルが壁を這い回りながら、“フラッシュ”で地下牢を照らしていく。だが、中々目当てのハウリア族が見付からない。その時、少し離れた場所から何か話し声が聞こえてきた。こんな最低な環境であるにも関わらず、何故か余裕有りげだ。

 

「おい、今日は何本逝った?」

「指全部と、アバラが二本ってとこだな……お前は?」

「へへっ、俺の勝ちだな。指全部とアバラ三本だぜ?」

「はっ、その程度か? 俺はアバラ七本と頬骨……それにウサミミを片方だ」

「はぁ? お前、何言ったんだ? あいつら、我らが使えるかもってウサミミには手を出さなかったのに……」

「いやなに、俺が『一人称を“吾輩”にして、お嬢様言葉で、語尾に“よよいのよい”を付けて聞いてきたら、答えてやる』って言ったら、本当にそうやって聞いてきてな。だから答えてやったんだ。『俺達の背後にいるのは、お前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ? ほれ、お父様って呼んでごらん?』ってな」

「うわぁ~、そりゃあキレるわ……」

「ククッ、そいつの顔、見ものだったぞ。もう一人の奴なんて口元ひくつかせて笑いを堪えてたからな」

「でも、あいつら、ウサミミ落とすなって、多分そういう命令を受けてるだろ? それに背いたってことは……」

「ああ、確実に処分が下るな。カッカッカッ、ざまぁないぜ、あいつら!」

 

聞こえてくるのは、お互いの怪我の確認の話。最低限の回復魔法は掛けられるので死にはしないが、こんな余裕そうな会話をしていても、声の主達はまさに満身創痍という有様だ。

 

それでも、やせ我慢をしつつ軽口を叩き合う彼らの正体は、帝国に捕まったハウリア達である。彼等が何故、痛々しい拷問を受けていていても、軽口を叩き合うのは、別に狂ってしまったわけではない。既に覚悟が決まっているからであった。

 

帝城の地下牢に囚われている以上、自分達はもう助からない。処刑されるか奴隷に落とされるかの二択である。

 

後者の場合は、それこそ全力全開で自害をするので、やはり命はない。奴隷の首輪で強制的に同族と戦わされるなど家族を守る為に力を身に付けたハウリアにとって、それは悪夢なので、帝都に向かう前からそう決めていた。そして、助からない以上は、家族達に手を出させない為に一矢報いるつもりで生き長らえている。

 

一方で帝国側は、ハウリア族の実力があまりにも常識からかけ離れていることから、彼等の背後に何か陰謀でもあるのではないかと疑っていた。また、そうではなくとも、報告を受けた皇帝陛下がハウリア族を気に入り、帝国軍の手駒として使えないか画作しているようだった。

 

戦闘方法、持っていた武器、連れていた強力な魔獣達、その精神性、温厚な筈の兎人族を変えた育成方法……

 

強者を好む皇帝陛下にとって、ハウリア族はまさに宝箱のような存在だったのだ。そんな帝国側の思惑を察しているハウリア達は、命尽きるその瞬間まで、帝国側に楯突いているのである。

 

ちなみに、この地下牢に満身創痍で入れられて、それでも尋問という名の拷問のために牢から出された時、余裕そうにしているハウリア達は、既に関わる帝国兵の殆どから恐怖を宿した目で見られている。ハウリアが出したふざけた要求を素直に呑んだのも、さっさとこの異常者達から情報を聞き出して、解放されたい一心からだったりする。

 

「今頃、族長も拷問されてんだろうな……」

「そうだな。族長もだけど、あいつらも大丈夫かな……?」

 

彼らの脳裏に、今もどこかにいる自分達の相棒ポケモン達の顔が過る。

 

「何言ってんだ。俺達も族長も、あいつらも、皆あの地獄の十日間を乗り越えてきたんだぜ。この程度、屁でもないだろ」

「あぁ、それもそうだよな」

「事あるごとに腕立てさせられたよなぁ……懐かしい」

「腕立てと言えばさ……号令がいきなり小数点カウントになったりとかあったよな」

「あったあった! 最後の一回が終わったと思ったら、次に0.9がきたやつな! あの時は、誠司殿の顔が鬼に見えたよ……」

「理不尽だらけだったけど、今にして思えば、必要なことだったんだよな。新人の訓練をする時とか、つくづくそれを実感したよ」

「へなちょこの鼻たればかりだったからな。強くなりたい気概は感じたけど。俺らもあんなだったんだよな……」

「そのせいか、最近の族長、ますます誠司殿に似てきたもんなぁ。口調は誠司殿より幾らか丁寧だけど」

「逆にそれが恐ろしいというね。まぁ、言われる度に強くなって家族を守りたいって思いたくなるのは、誠司殿と同じだな」

「ほう、あの時の苦労を理解してくれたようで何よりだ」

『!?』

 

暗闇の中で盛り上がっていた満身創痍のハウリア達に、随分と聞き覚えのある声が響いた。

 

イトマルの“フラッシュ”で地下牢の闇は払拭され、帝城の地下牢に誠司達の姿がはっきりと浮かび上がった。

 

『せ、誠司殿!!?』

「静かにしてくれ。誰か来られると面倒だ」

「……意外に元気?」

「うわぁ、タフだなぁ……」

「見た目、かなり酷いんですが……なんか心配する気が失せてきました」

 

ハウリア族の面々は、見るも無残な酷い怪我を負いながら、薄汚い牢屋の奥で横たわり、起き上がる様子もないにもかかわらず、素っ頓狂な声を上げた。

 

誠司達は、そんなハウリア達に呆れ顔だ。

 

「な、なぜ、こんなところに誠司殿達が……」

「詳しい話は後だ。取り敢えず、助けに来たんだよ。……ハジメ、トラップはどうだ?」

「今やってる。へぇ、こういう仕組みか……確かに堅牢だけど、僕には無意味だよっと……よしっ、成功!」

 

帝国が誇る絶対監獄である帝城地下牢をあっさりと無力化したハジメは、更に錬成で次々と格子を開けていく。ついでにハジメとユエが再生魔法で回復させていく。ハウリア族達は、一斉にお礼を言った。

 

『助けていただき、ありがとうごさいましたぁ!!』

「気にしないで。それより、カムさんは? 違う場所にいるの?」

「それなら……」

 

ハウリア族の一人が、今の時間はカムが尋問されていること、詳しい尋問部屋の位置をハジメに教える。それから、誠司はハウリア族の相棒ポケモン達が入ったモンスターボールをそれぞれに手渡していった。自分のもとに相棒が戻って来たことに、安堵の息を零すハウリア達。騒がしくなるので、再会は後にするよう伝え、ハジメは移動ゲートを取り出し、座標をとある場所に設定し、ドアノブを回した。

 

開いた先には、どこかの岩石地帯が広がっている。目を丸くするハウリア達に誠司が手短に指示を飛ばす。

 

「この先は帝都から少し離れた岩石地帯だ。パル達も其処で待機してるから、すぐに通れ」

「は……はっ! 了解しました。族長のことをお願いします!」

 

ハウリア達は、目の前で起きた非常識に唖然とするも、すぐに正気を取り戻してゲートを通って行く。全員通ったら、宝物庫にゲートをしまい、誠司達はカムの居場所に向かった。

 

厳しい警備を突破して易々と目的の場所に辿り着く誠司達。外の見張りをさくっと音もなく倒して扉の前に着くと、中から何やら怒声が聞こえてきた。

 

シアの表情が強張る。中にいるであろうカムが酷い目に遭わされているのではないかと、軽口を叩きながらもボロボロだった先程の家族を思い出して心配する気持ちが湧き上がったのだ。

 

それを見て、さっそく踏み込もうと誠司がドアノブに手をかけようとするが、扉の向こうから微かに聞こえてくる怒声から、何か様子がおかしいことに気が付いて動きが止まる。

 

「て、てめぇ、何しやがんだ! 飲んじまったじゃねえか!」

「おや、これは失礼」

「この自白剤、すごく高いんだぞ! 最後の手段で用意したのに、無駄にさせやがって!」

 

この世界には自白剤というものが存在する。丸薬のようになっており、一粒飲めば、ベラベラと自分が隠していることを正直に話してしまう。だが、この自白剤は、このような尋問においては専ら最後の手段として用いられる。数が希少で高価な上に、副作用で精神に悪影響を及ぼすことがあるからだ。

 

しびれを切らした帝国兵達が自腹を切ってどうにか用意したのだ。カムの精神が壊れれば、上から処分が下るだろうが、彼らはもうそれでも良かった。一刻も早くハウリアの相手を終わらせたかったのだ。

 

そんな訳で、帝国兵達がカムに無理矢理飲ませようとしたのだが、カムの抵抗に合い、一人の口に入って飲み込んでしまった。自白剤を飲んだ帝国兵は慌てて吐き出そうとしたが、もう手遅れだった。自白剤の効果で、彼は隠していたことをベラベラと洗いざらい喋り出す。酒場のお釣りを誤魔化したといった、たわいもないことから、相方の彼女と寝たことまで色々と。それを聞いた相方の帝国兵が思わず声を荒げて怒鳴った。

 

「てめぇっ! ナターシャに手を出したのか!?」

「いや、そんな大したことじゃない。ただその……ヤッちゃっただけだよ」

「なんだと!?」

「やべっ……」

「それで、楽しめましたか?」

「いや、でもやりたい放題……ってお前が余計なもんを飲ませたから……」

「てめぇーーーーー!!」

「げぶっ!?」

 

たちまち帝国兵同士で殴り合いになった。というより、恋人を寝取られた男からの一方的なものだったが。

 

「お~、修羅場ですなぁ。殺し合え~」

 

カムの煽る声が響く。

 

「「「「…………」」」」

 

誠司達は無言で互いに顔を見合わせた。

 

「なんか……ちょっと見ない間に随分と豪胆になったな」

「これ、助ける必要……あるのかな?」

「……帰る?」

「……いえ、すみませんが一応、助けてあげて下さい。自力では出てこられないと思うので……」

 

シアが在りし日の優しい父親を思い、遠い目をしながら誠司達に頼む。実際、威勢は良くてもカムが自力で脱出出来る可能性はないので助ける必要はあるのだろうが……

 

仕方がないので、誠司達が部屋に突入する。殴り合っていた帝国兵達は、突然の乱入者に驚愕と困惑に満ちた表情をしていたが、すぐさま気絶させて黙らせる。

 

「まさか……誠司殿、ハジメ殿、ユエ殿……シアか……?」

「ああ。なんと言うか、よくそんなボロボロで煽り散らかせたな。逞しくなったもんだ」

「は、ははは。どうやら夢や幻ではないようですね……」

 

一瞬、夢でも見ているのかと自分を疑った様子のカムだったが、先程のハウリア達以上にボロボロでありながら力のある声音で返答する。思考力も鈍っていないようで、どうやら誠司達が自分を助けに来てくれたのだと直ぐに察したようだ。

 

「せっかくの再会に無様を晒しました。あなた方の気配に気付けぬとは……この『深淵蠢動の闇狩鬼』ことカームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリア、一生の不覚。どうかお許しください」

「「「「…………」」」」

 

色々ととんでもない名前になっているカム。考えすぎて収拾がつかなくなった感じだ。そんな父親を前にして、シアの精神は大ダメージを受けていた。

 

「……父様、既にそういう問題じゃないと思います。直ぐにでも治療院に行くべきです。もちろん、頭の治療の為に……ていうか、その怪我で何でピンピンしているんですか」

「いやなに、簡単なことだ。脳内麻薬を分泌して痛みを無くしているのだよ」

「……意味が分かりません」

 

シアの辛辣なツッコミに対しても、平然と非常識な答えで返すカム。ハジメとユエが誠司にジト目を向けている。

 

ユエの再生魔法で回復し、自分の体の調子を確かめるようにピョンピョン跳ねているカムを尻目に、ハジメは再び移動ゲートを取り出した。

 

「他の連中は一足先に逃がしたから、さっさと行こう」

「でもまだドクケイル達が……」

「ドクケイル達ならここだ」

 

誠司がドクケイル・テッカニン・ヌケニンの入ったモンスターボール三つをカムに手渡す。

 

「おおっ。お前達、無事だったか……」

「感動の再会は脱出した後にしてくれ」

「分かりました。あ、そういえば、装備も奴らに取られたままなのですが……」

「ああ……まだ初期の頃に作ったやつだし、別に良いよ。後に作った、もっと性能の良いのが大量にあるから、後でそれをあげる」

「ほぅ、新装備を頂けるので? テンションが上がりますな、ククク」

 

怪しげな笑い声を上げるカムと、どこか達観した様子のシアをゲートに押し込んで、誠司達もゲートを通った。

 

この後、帝城内から忽然と消えたハウリア族や帝都で暴れていた正体不明の仮面集団により、ヘルシャー帝国の夜は朝方まで大騒ぎになった事は言うまでもない。

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