魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

135 / 160
少し長くなりました。


ハウリアの決意

カムを救出し、ゲートを通って他のハウリアやティオ達が待機している岩石地帯に空間転移して来た誠司達は、ハウリア達の熱狂的な歓迎に出迎えられた。

 

ハウリア達は、お互いに肩を叩き合ったり、抱き合ったり、鳩尾を殴り合ったり、クロスカウンターを決め合ったりして再会を喜び合っていた。

 

「ぐすっ、良かったですぅ。ちょっと喜び合い方がおかしい人もいますけどぉ、みんな無事で良かったですぅ。誠司さん、ハジメさん、ユエさん、ありがとうございますぅ」

 

涙声で感謝するシア。一目でも家族の無事な姿を見たいと言った彼女の願いは確かに叶ったのだ。

 

「……ん、間に合って良かった」

 

ユエが背伸びして、シアの頭を良い子良い子すると、シアの涙腺は決壊。そのままお姉さんに縋り付く妹のように抱きついた。

 

「本当に良かったよ。結果として帝都が地図から消えることもなかったわけだし……それで、雫はどうしたの? 何か落ち込んでるけど」

 

さらりと物騒なことを呟きながら、満足そうに頷くハジメだったが、ふと雫の姿が目に入って首を傾げた。体育座りで落ち込む彼女の周りからは、黒いドヨーンとしたオーラが漂っていた。

 

ハジメの質問に、鈴が何とも言えない表情で教えてくれた。

 

誠司達がカム達を救出に向かっている間、光輝達は作戦通りに陽動として自分のポケモン達と一緒に、帝都内の瓦礫撤去作業に従事していた亜人奴隷達が寝泊りしている掘っ立て小屋地区や、そこにある帝国兵の詰所を吹き飛ばしたそうだ。勿論、死者が出ないよう、ある程度は加減したらしいが。

 

更に、襲い掛かって来た帝国兵達を戦闘不能に追い込むことに成功したのだが、その時に雫ことヤドンマスクが一番目立っていたらしい。

 

何せ、ヤドンというポケモンは、愚鈍なことで有名なポケモンだ。そんな間抜け面の仮面を着けた人物が俊敏な動きで帝国兵達を圧倒していたら、確かに色々とアンバランスだ。

 

おかげで、敵から「キモい」だの「変質者」だの色々、不名誉な言葉を頂戴したらしい。

 

「まぁ、陽動自体は大成功だったんだけどね。おまけに、自分達は魔人族ってことで話を上手くまとめてたからリリィにも迷惑がかからないだろうし。最後の宣告なんて、あの仮面も相まって滅茶苦茶怖か……ひぃっ!?」

 

鈴がそんなことを話していると、急に後ろが寒くなった。後ろを振り返ると、そこには幽鬼の如く、恐ろしい表情をした雫が立っていた。鈴は思わず飛び上がって悲鳴を上げてしまう。

 

「シ、シズシズ……?」

 

雫の目は、鈴ではなく、ハジメを捉えていた。ハジメは困ったような表情を浮かべていた。

 

「……ハジメ、私達……友達よね?」

「あ~……そういう台詞はあまり言わない方が……」

「とにかく……友達よね? だったら、ストレス発散に付き合ってくれないかしら? 大丈夫、私は、ハジメを信じているわ。そのマリアナ海溝より深い度量で受け止めてくれるって……だから大人しく! 私に! タコ殴りに! されなさい!」

 

怒りのままに雫が鞘に入ったままの自分の剣でぶん殴ろうとするが、ハジメが咄嗟にエーフィを出し、“サイコキネシス”を指示する。それにより、雫の動きは止まるが、それでも本人はキッとハジメを睨み続けている。

 

「うーん……ヤドンはそんなに嫌だったの? 良かれと思ったんだけど……」

「嘘おっしゃい! 絶対、何割か悪ふざけが入ってたでしょ! おまけに、『何か困ったことがあったら、全部魔人族のせいにしておけば良い』って悪辣なアドバイスまでしておいて!」

 

どうやら、魔人族の仲間だということにしたのは、ハジメのアドバイスによるものだったらしい。

 

「おかげで、どんな噂が立つか怖くて、帝都を碌に歩けないわよ! 確かに何となく雰囲気に流されたけど! ある意味、自業自得ではあるけれど! 一発、殴らずにはいられないこの気持ち! 友達なら甘んじて受け止めなさい!」

「んな、理不尽な……」

 

実際、後に帝国兵の間で「ヤドン女の恐怖」という都市伝説が広まることになるので、あながち間違いではない。だが、無理にでも拒めば良かったし、場の雰囲気に流された雫の自業自得ではある。

 

しかし、そうとは分かっていても、明らかに悪ふざけが入っていたハジメの言動と帝国兵の罵りが地味に効いて、雫は八つ当たりせずにはいられなかったのだ。

 

「あ、あんなシズシズ、初めて見た……」

「私も、雫ちゃんが誰かに八つ当たりするなんて、初めて見たかも……」

 

鈴と香織がそんなことを言っている。光輝や龍太郎も同様に驚いている。

 

「誠司殿。少しよろしいですか?」

 

ようやく、喜び合いを終えたらしいカム達が、誠司の方に歩み寄って来た。カム達の真剣な表情から、ただの再会の挨拶ではないことを察した誠司達。ハジメもエーフィを戻して、カムに視線を向ける。エーフィの“サイコキネシス”が消えたことで、自由に動けるようになった雫だが、流石にこんな空気の中、仕返しをする訳にもいかず、渋々ながらも大人しく引き下がる。

 

「まず、何があったのかということですが、簡単に言えば、我々は少々やり過ぎたようです………」

 

そう言って始まったカムの話を要約すると、こういうことだった。

 

亜人奴隷補充の為に、疲弊した樹海にやって来た帝国兵を、カム達ハウリア族は次々と撃破していった。しかも、単なる戦闘の果ての撃破ではなく味方の姿が次々と消えていき、見つけた時には首を落とされているという暗殺のようなやり方という、今までの樹海ではなかった戦法でだ。

 

当然、そのことを生き残りから知らされた帝国は混乱・警戒した。今後の活動にも影響が出ることから、正体不明の暗殺特化集団という驚異の正体を確かめずにはいられなかった。そこで一計を案じたらしい。

 

それが、亜人族の奴隷達を囮にし、そこに包囲網をしくというものだ。

 

それが罠であることに気付いた時にはもう遅く、厳重に厳重を重ねて構築された監視網に発見され、カム達は一時撤退を余儀なくされた。

 

帝国側も相当驚いていたようだ。何せ、網にかかった謎の暗殺特化集団の正体が、温厚で争い事とは無縁の愛玩奴隷である兎人族だったのだから。しかも、樹海でもないのに、包囲する帝国兵に対して匠な連携を駆使して対等以上に渡り合ったのだ。当然、その非常識は帝国上層の興味を引いてしまう。

 

「その結果、我らは生け捕りにされ、連日、取り調べを受けていた訳です。あちらさんの興味は主に、ハウリア族が豹変した原因と我らの相棒達について、所持していた装備の出所、それから、フェアベルゲンの意図ってところです。どうやら、我らをフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしているようで……実は、危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしないでしょうなぁ」

 

流石に、自分達がフェアベルゲンの隠し玉と思われるのは心外だったので、そこは否定したらしいのだが、寧ろ国のためにあっさり自分達を切り捨てた覚悟のある奴らだと警戒心を強めさせただけらしい。特に、何度か尋問を見に来た皇帝陛下など不敵な笑みを浮かべながら、新しい玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせていたという。

 

「……なるほどな。それで、これからどうするんだ? そのまま樹海に戻るのか?」

「いえ。我々ハウリア族と新たに家族として迎え入れた者を合わせた新生ハウリア族は……これからヘルシャー帝国に戦争を仕掛ける所存です」

 

カムの鋭い眼差しでなされた宣言に、その場の時が止まる。そう錯覚するほど、カムを含めたハウリア族と誠司やハジメといった一部の者以外は、一切の動きを止めて硬直していた。理解が追いついていないのか、或いは驚愕のあまり思考停止に陥ったのか。

 

やがて、シアがその静寂を破って、尋ねた。

 

「何を、何を言っているんですか、父様? 私の聞き間違いでしょうか? 今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたのですが………」

「シア、聞き間違いではない。我らハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける。確かにそう言った」

 

僅かに震えながら、努めて冷静であろうとしたシアだったが、カムの揺るぎない言葉を聞いて血相を変えた。

 

「ばっ、ばっ、馬鹿な事を言わないで下さいっ! 何を考えているのですかっ! 確かに、父様達は強くなりましたけど、ポケモン達を入れても、二百五十ちょっとしかいないんですよ? それで帝国と戦争? 血迷いましたか! 同族を奪われた恨みで、まともな判断も出来なくなったんですね!?」

「シア、そうではない。我らは正気だ。まずは話を……」

「聞くウサミミを持ちません! 復讐でないなら、調子に乗ってるんですね? だったら、今すぐ武器を手に取って下さい! 帝国の前に私が相手になります。その伸びきった鼻っ柱を叩き折ってくれます! ホルード、ゴーゴート、デカヌチャン! あなた達も手伝ってください!」

「ホールゥ!」

「ゴーーッ!」

「カ、カヌチャ……?」

 

興奮状態で三つのモンスターボールからポケモン達を繰り出すシア。シアの表情は、無謀を通り越して、ただの自殺としか思えない決断を下したカム達への純粋な怒りで満ちていた。デカヌチャンはやや困惑していたが、ホルードとゴーゴートはシアと同じ気持ちのようで怒りの声を上げている。

 

同時に、シアの身体からは物理的圧力すら伴ったプレッシャーを放っていた。その迫力は凄まじく、それこそ光輝達異世界チート組が霞むほどだ。事実、いつも元気に笑っていて、怒ると言ってもどこかコミカルさがあるシアからは想像もできない怒気と迫力に、光輝達は息を呑んで硬直している。

 

だが、そんな勇者達さえ怯む迫力で戦鎚を突きつけられた当のカムは、臆することなもなく、ただ静かな眼差しで娘を見つめ返していた。他のハウリア族も、彼らのポケモン達も同様だ。

 

誠司は大きく溜息を吐いて、ムウマージを繰り出した。そして、“いやしのすず”を指示した。心地良い音色が一帯に響き、シアとポケモン達もほんの少しだけ冷静になったようだ。誠司がシアに呼び掛けた。

 

「……まずは落ち着け。話が進まない。気持ちは分からなくはないが、ぶっ飛ばすのは話が終わってからでも良いだろ?」

「うっ……そうですね……すみません。ちょっと頭に血が上りました。もう大丈夫です。父様もごめんなさい」

 

ウサミミをへにょんとさせて、シアは反省を示す。ホルードとゴーゴートも少し申し訳なさそうに頭を下げる。対するカムは、先程までとは打って変わって優しい視線を向けていた。

 

「家族を心配することの何が悪い? 謝る必要などないよ。こっちこそ、もう少し言葉に配慮すべきだったか。……私も色々と焦っていたようだ。それにしても……良い仲間達に恵まれたな、シア」

 

他のハウリア族の面々も、カムと同様に、優しげな視線を向けていた。ハジメがシアのウサミミをモフモフさせながら、カムに尋ねた。

 

「ねぇ、カムさん。僕達にその話をしたのは、ただの決意表明? それとも……戦争を手伝ってくれというお願い?」

「まさか。これは我々の戦争です。参加を促すつもりは毛頭ありませんよ。ただ……今の我々がいるのは、誠司殿やハジメ殿、ユエ殿達がいてくれたおかげです。なので、せめて決意表明だけでもと、そう思った次第ですよ」

 

カムが笑いながらそう答える。どうやら、本当に自分達だけでやるつもりのようだ。彼らの瞳に宿る決意は本物で、復讐心に狂っているわけでも、力を得て調子に乗っているわけでもないことがよく分かる。シアもそれを察したようで、表情を悲痛に歪めている。誠司はそんなシアにチラリと視線を向けつつ、カムに尋ねた。

 

「理由はなんだ? 樹海に帰らず、そのまま帝国に戦争を仕掛ける理由は。よっぽど切羽詰まった事情があるんだろ?」

「……どうも、皇帝は兎人族狩りを考えているようでしてな」

 

先程カムが言っていた通り、兎人族は皇帝から強い興味を持たれてしまった。尋問の時に皇帝が自らやってきて、「飼ってやる」などと言ったようだ。

 

これにカムは皇帝につばを吐くという帝国の歴史でも初めてのことをして返事をしたそうだが、皇帝は逆に気に入ってしまったらしい。同時に、「すべての兎人族を捕まえて調教してやるのも面白そうだ」とも言ったという。カムの見た限り、これはまず間違いなく本気らしい。

 

こうなったら、帝国兵は再び樹海に乗り込み、多くの亜人族、特に兎人族を襲うだろう。そして、今のフェアベルゲンではその襲撃に耐え切れず、多くの兎人族が攫われるに違いない。今までのような愛玩用ではなく、戦闘用として。

 

最悪、フェアベルゲンを襲わないことの対価に多くの兎人族の引き渡しを求められる可能性もある。そうなれば、長老衆は苦渋の決断として、引き渡しを応じる可能性が高い。

 

「ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはない。しかし、我らのせいで、他の兎人族の未来が奪われるのは……耐え難い」

 

どうやら、カム達は状況的にかなり追い詰められているらしい。

 

確かに、樹海ならハウリア族だけが生き残るのはそれほど難しくはないだろう。だが、他の兎人族はそうもいかない。彼らに待つのは地獄だろう。帝国の求める『強い兎人族』の要望に応えられなかったら、女・子供は愛玩奴隷に、他は殺処分になるのがオチだからだ。

 

「具体的にはどんな作戦でいくつもりだ? まさか、真っ向からという訳でもあるまい」

「当然です。我らは兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けません。その武器を活かして戦います」

「つまり、暗殺ということか……」

 

誠司の言葉に、カムはニヤリと笑って応えた。

 

彼らが気を抜いた瞬間に、闇から刃が翻り首をはねる。兎人族と敵対するには死ぬ覚悟をしなければならない。それを実践することで、帝国側に恐怖と危機感を植え付けるというわけだ。

 

もちろん、皇帝や皇族の周囲には万全の暗殺者対策がしてあることが予想されるので、皇族ではなく皇帝の周囲のに狙いを絞る。昨日今日、親しくしていた者が、日に日に消えていく。

 

そして、兎人族に対する不可侵条約を結ぶことが最終目標だ。

 

なんともえげつない策であるが、皇族一味を暗殺するなどというよりは、よほど現実味がある。ただ、それだと、帝国側に脅威を感じさせるには必然的に時間が掛かってしまうので、大規模な報復行為に出られる可能性が高いだろう。

 

帝国側が兎人族の本格的な捕縛戦又は殲滅戦に出るか、それとも、実力至上主義のもと、その力を認めて交渉のテーブルに着くか、どちらが早いとかいう紛れもない賭けだ。それも極めて分の悪い。

 

それでもやらなければ、どちらにしろ兎人族の未来はないだろう。既にハウリア族は全員、覚悟を決めた表情だ。

 

「……父様……皆……」

 

シアは、悄然と肩を落とす。帝国兵を敵に回し、絶対監獄ともいうべき帝城の地下牢からも逃走を果たした兎人族を、皇帝は私的興味と公的責務として見逃しはしないだろうと、彼女も察したのだ。ホルードとゴーゴートも、悲しそうに俯いている。ホルード達もどうすれば良いのか分からなかった。

 

兎人族に残された道は、他の同族を見捨ててハウリア族だけ生き残るか、全員仲良く帝国の玩具になるか、身命を賭して戦うか、そのどれかしかないのだ。

 

「シア、そんな顔をするな。以前のようにただ怯えて逃げて蔑まれて、結局蹂躙されて、それを仕方ないと甘受することの何と無様なことか……今、こうして戦える、その意志を持てることが、我らはこの上なく嬉しいのだ」

「でも!」

「シア、我らは生存の権利を勝ち取るために戦う。ただ、生きるためではない。ハウリアとしての矜持をもって生きるためだ。どんなに力を持とうとも、ここで引けば、結局、我らは以前と同じ敗者となる。それだけは断じて許容出来ない」

「父様……」

「前を見るのだ、シア。これ以上、我らを振り返るな。お前は決意したはずだ。誠司殿達と共に外へ出て前へ進むのだと。その決意のまま、真っ直ぐ進め」

 

カムが、族長としてでも、戦闘集団のボスとしてでもなく、一人の父親として娘の背中を押す。自分達のことでこれ以上、立ち止まるなと。自分の選んだ道を突き進めと。

 

泣きそうな表情で顔を俯けてしまうシアに優しげな眼差しを向けた後、カムは誠司達に視線を転じて目礼する。まるで、「娘を頼みます」とでも言うように。後ろで光輝が、いかにも「俺が何とかする!」とでも言いそうな雰囲気で腰を上げるが、雫が自分の剣で光輝の後頭部をぶん殴って黙らせる。先程のこともあってストレスが溜まっていたのか、光輝の止め方がいつもより雑であった。

 

誠司もハジメも何も言わない。シアが二人に何か言おうとする前に、カムが強い口調で呼び止める。それだけで、カム達が本気で誠司達に助けを求めるつもりなどないことを察してしまう。

 

結局、シアは何も言えず口をつぐんだ。

 

誠司は、ハジメやユエ、ティオにチラリと視線を向ける。他の三人も誠司と同じ気持ちなのか、頷いている。それを見た誠司は口を開いた。

 

「これはハウリア族の戦いだからな。ハウリア族が強さを示し、容易ならざる相手はハウリア族なのだと思わせなきゃならない。俺達が矢面に出ても意味がないんだよ。彼らがやらないと」

「誠司さん……そう、ですよね」

 

誠司の言葉に、泣き笑いの表情をして再び俯くシア。背後で光輝が何かを喚こうとして、雫に再び剣でぶん殴られて気絶したのを尻目に、ハジメは、早とちりをして沈むシアのほっぺを、苦笑いしながらムニムニした。

 

「こらこら。話は最後まで聞けってさっきも言われたでしょ?」

「ふぇ?」

 

ハジメの言葉に、シアがほっぺをみょ~んと伸ばされながら間抜けな声を出す。カム達も、ハジメの言葉に困惑した表情で顔を見合わせている。誠司もハジメの言葉に頷いている。

 

「俺達は戦う気はないが……手助けをしてやる。お前達が帝城を、皇帝を落とす戦いをするためのお膳立てをな」

「せ、誠司殿……! それは……」

 

ハジメも、シアの頬を撫でながら、困惑しているカムに視線を向ける。

 

「うちの元気印がこんな顔してるのに、このまま黙って引き下がれる訳ないでしょ。それに、僕達が手伝う以上、そんな半端な作戦なんてする必要はないよ」

「し、しかし、ハジメ殿……なら、一体……」

 

ますます困惑を深めるカム達に、ハジメはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。誠司も同様だ。

 

「簡単だよ。直接、皇帝の首にその刃を突きつけるんだ。髪を掴んで引き摺り倒し、親族、友人、部下の全てを奴の前で組み伏せる。帝城を制圧し、助けが来ないと、一夜で帝国は終わったのだと帝国の連中に知らしめてやれ! ハウリア族にはそれができるのだと骨の髄まで刻み込んでやれ! この世のどこにも安全がないのだと、帝国の歴史にその証を立ててやれ!」

 

ハジメの気勢に呑まれて硬直し、辺りに静寂が満ちた。ゴクリッと生唾を飲み込む音が、やけに明瞭に響く。誠司がカム達を睨み付けながら、問い掛ける。

 

「それで……お前達はどうする? そのまま分の悪い賭けのまま挑むか? それとも、俺達の手助けを借りて、王手を取るか? もし俺達の力を借りるのなら、二日、いや一日で片付けるぞ。大迷宮攻略に間に合わなくなるからな」

「本当に……よろしいので…?」

 

カムが恐る恐る尋ねた。誠司はそんなカムを無言で見つめる。彼らの目が本気であることを悟るカム達。

 

手助けとは何をする気なのか、帝城を落とすなどそれこそ不可能ではないのか、そういう疑問はあった。だが、自分達が知る限り、これ以上にない強力な助っ人達が、自分達のために扉の鍵は開けてくれるという事実は、ハウリア達を熱狂させるには十分であった。ならば、応えよう。それが出来なければ、新生ハウリア族の名折れだとばかりに、ハウリア達の心は一つとなって、帝城落としへの闘志で燃え上がっていた。

 

帝都から離れた岩石地帯に、闘志と殺意の雄叫びが響き渡る。

 

 

「なんていうか……凄いね、中西君達。あれだけの人達をあっという間に掌握しちゃった」

 

鈴がポツリと呟いた。雫達も、それぞれ唖然とした表情で異様な熱気に包まれるハウリア達の様子を眺めていた。一方で、ユエとティオはどこか嬉しそうに会話していた。

 

「それにしても、兎人族があそこまで変わるとはのぉ。人生分からんもんじゃ」

「ん……あれはシアの家族だから」

「そう言われると、どこか納得してしまうから不思議じゃ。ようやくシアも心から笑顔になったようじゃし、ホッとしたのぉ」

「……でも、まだこれから」

「そうじゃな、これから……じゃな」

 

二人は、帝都のある方角に視線を向けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。