魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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リリアーナ王女の憂鬱(前編)

時間は少し遡る。

 

リリアーナが侍女や近衛達と共に帝都近郊に降ろされた後、一行はフェルニルに積み込まれていた馬車と馬に乗って帝都へと入った。

 

先に送り出した王国のは使者や大使を軽く追い抜いて来てしまったので、帝国は王国の王女が来訪することを知らないはずだ。帝城の使用人や接待役の貴族達はさぞかし慌てることだろうと、リリアーナは申し訳なく思いつつも、今は時間が惜しいので突撃訪問を敢行する。一応、近衛騎士を先行させているので、それでご勘弁願いたいところだ。

 

「警戒態勢でございますね」

 

馬車に同乗しているリリアーナ付き専属侍女ヘリーナが、小窓から外を覗きつつ言った。

 

「魔人族の襲撃のせいでしょう。ハウリア族の話を聞いてましたが、かなりの被害を受けたようですね」

「あの方達がいて下さったのは幸運でしたね。本命でない帝国でこの被害です。王国は滅びの運命を辿っていたでしょう。……彼らは魔獣を使いますが」

 

最後にやや棘のある一言を呟くへリーナ。彼女は、幼少の頃からリリアーナを陰日向から支えてきてくれた優秀な侍女だ。そんなヘリーナは幼少期の経験からポケモンが大嫌いだった。ポケモンを魔獣として嫌う王国民は珍しくないが、彼女の場合は筋金入りだ。そのことを知っているリリアーナは苦笑する。

 

「相変わらずですね、貴女の魔獣嫌いは」

「あれは悪魔であり、疫病神です。あんなものと心を通わせるなど、私には理解出来ません」

 

へリーナははっきりと言った。誠司達のことは恩人として感謝はしているものの、大嫌いなポケモン達を育てて侍らせていることから、色々複雑な思いを抱いていた。

 

へリーナを宥めている間に、リリアーナ達を乗せた馬車は、帝城に辿り着いた。突然の来訪に一悶着あったものの、リリアーナ達は無事に部屋へ通され、その日の夕刻にはガハルド皇帝陛下への謁見が叶うことになった。

 

リリアーナが、やって来た案内に従って謁見の部屋に行くと、そこには既にガハルドが実に楽しげな笑みを浮かべて待っていた。

 

ガハルド・D・ヘルシャー。もうそろそろ五十代が見えてきそうな年齢にもかかわらず、見た目は四十代前半。場合によっては三十代後半に見える若々しさと猛々しい覇気を纏った男だ。

 

灰色に近い銀の髪と、鋭い目、服越しでも分かる極限にまで引き絞られた肉体は些かの衰えも感じさせない。光輝達の実力を確かめるべく、ガハルドがお忍びで王国に来たとき以来だが、数ヶ月程度で変わらないらしい。

 

魔人族に襲撃されたと聞いていたので、或いは怪我の一つでもしているのかと思えば、そんな様子も皆無である。

 

「よく来てくれたな、リリアーナ姫。随分と急な来訪だが、それだけの土産話があるのだと楽しみにしているぞ」

 

リリアーナは「ご期待に添えないと思いますが……」と前置きをし、まず王国で起きた事件のあらましを語った。

 

王宮内に蔓延った恐ろしい侵食から始まった一連の出来事。魔人族の大軍による侵攻、『真の神の使徒』による暗躍と神の真意、聖教会総本山の崩壊。神の使徒である中村恵理の裏切りと、エリヒド国王の崩御。

 

口を挟まず黙っていたガハルドは、リリアーナが口を閉ざすと同時に大きく息を吐いた。そして、腰を深く腰を預けると片手で顔を覆って天を仰いでしまった。

 

豪放磊落な皇帝陛下をして、伝えられた事実の有様と真実の大きさに動揺を隠せなかったらしい。気持ちは分かるとリリアーナがお茶に口をつけつつ待つことしばし。

 

「そうか……エリヒド国王も、あの殺しても死ななそうな教皇の爺さんまで……みんな逝ったか」

 

特に感情は込められてない。けれど、どことなく寂寥を感じさせる声音。ガハルドは姿勢を戻すと、リリアーナに視線を合わせた。

 

「凄まじい状況だったようだな。偉大な国王と戦士達の死に、心からお悔やみ申し上げる。よく伝えに来てくれた、リリアーナ姫」

「いえ、此方も大変だったそうですから」

 

ガハルドの見せた意外な態度に、リリアーナは少し驚きつつもそう言って返礼した。

 

「しかし、そうか……これだけの情報、公表なんぞしようものなら、世界がひっくり返るな」

「その割には、陛下はそれほどショックを覚えてないようですが」

「いや、結構な衝撃だったぞ。生まれてより信仰していた対象が、盗んだ力でイキがっていただけのクソだったんだからな。歴史は勝者が作るもんだが、勝ち方ってもんがある。だがまぁ、帝国はそもそも実力至上主義だ。敵あらば殺す、欲しいもんは奪う、弱者は強者に従えってのが信条だ。神の勢力がぶっ飛ばされたってなら、そりゃあ、ぶっ飛ばされた方が悪い。そんな雑魚共を、いつまでも崇めちゃいられんさ」

「そ、そういうものですか……」

 

帝国の実力至上主義は筋金入りだ。何せ、王位継承問題すら決闘という対外的に分かりやすい方法で解決するくらいなのだ。とはいえ、今まで信仰していた形だけの神に対してまで、その理念を適用するとは……

 

本当にこの国の人間は……と、リリアーナは顔を引き攣らせる。だが、当のガハルドは気にした様子もなく、早くも気持ちを切り替えたようだ。

 

「しかし、あれだな。そう考えると、王国の民に伝えた話は中々秀逸だ。見事に『真実の衝撃』ってやつを受け流し……いや、利用してやがる」

 

ガハルドが言っているのは、リリアーナが国民に対して説明を行った、総本山崩壊の顛末についてだ。あれだけのことがあった以上、いつまでも隠し立ては出来ない。かと言って、真実……皆さんが信仰していたエヒト様が、実はアルセウスから力を奪って神を名乗り、遊戯感覚で戦争を行わせるクソ野郎で、聖教教会の連中も狂信者ばっかりだから総本山ごと全員爆殺しました……といった内容を説明しても困惑を通り越してパニックになるだけだ。

 

そんな時に、ある人物のアドバイスを受けて、そのアドバイスを基に、次の通り説明した。

 

曰く、狂い出したアルセウスを止めるため、エヒトは立ち上がり、パルキアと共に戦った。しかし、戦いの途中で、ある者がエヒトから自分の名とパルキアを、アルセウスから全ての力を奪い、自分がアルセウスを打ち破ったエヒトだと騙るようになった。それから、全てを奪われた本来のエヒトは、どこかへ姿を消してしまった。

 

今回の一件は、その偽エヒトが争いを望み、教皇達を洗脳して王都侵攻を招いた。その状況を憂いた、真エヒトに遣わされし愛子様が自ら戦いに赴いた。そして、教皇達は命を賭して神の使徒と共に戦い、その果てに殉教した。

 

真実という訳ではないが、嘘も言ってはいないシナリオで説明を行ったのだ。『豊穣の女神』こと愛子の名が効いていることもあって、説明を聞いた国民達も特にパニックになることもなく、受け入れられつつあった。

 

「それで、こんな作り話を考えたのは姫か?」

「ええ、まぁ。最終的には」

 

曖昧な返答に、ガハルドの目が細まった。

 

「最終的には…… つまり姫にそんな入れ知恵を出来る程のブレインがいるってことだな?」

「私のブレインではありませんよ?」

「誤魔化しはいらん。話が進まねぇだろ? 皇帝として絶対に聞く必要がある事柄に、どうせ関係しているんだろうからな。でなきゃ、リリアーナ姫。そんな質の悪いストーリーを考えられる時点で、俺は是が非でも姫を手に入れるために動くぞ」

「……流石は陛下。ご想像の通り、とある人物の草案です」

 

リリアーナはあっさりとその人物……南雲ハジメを売ることにした。と言っても、帝国に情報共有する上でハジメや誠司の話は不可欠なので、本人達からも許可は取ってある。それでも、帝国がちょっかいを出すことを恐れて、隠すことも考えていた。ただ、彼らは樹海の奥深くにいて、帝国もちょっかいを出せないはずなので、支障はないはずだ。

 

リリアーナから、誠司達の存在と詳細を聞かされたガハルドは難しい表情を浮かべていた。

 

「……ちょっと待ってくれ、リリアーナ姫」

「はい。心中はお察ししますので、お好きなだけ」

 

ガハルドは眉間を指でグリグリしながら、聞いた内容を必死に呑み込もうとしている。

 

「なんの冗談だと一笑に付したいところなんだが……」

「事実です。中西誠司は、強力な魔獣を多数使いこなす実力者で、南雲ハジメもまた、世界の歴史を変えられる程のアーティファクトを多数作り出すことが出来る希代の錬成師です」

 

困ったような表情で微笑みながら断言するリリアーナ。ガハルドは眉間に深い皺を刻む。

 

「嘘……じゃないことは分かる。現にリリアーナ姫がここにいるんだからな。だが、その話が本当だとしたら、戦術級、なんてレベルじゃない。ここに来るまでに帝都の惨状は見たと思うが、たった三、四体の魔獣であの被害だ。それが奴らは数十体も…… 奴らがその気になれば、街一つ、いや国一つを滅ぼすことも出来るんじゃないか?」

「ええ、まぁ……彼らはそんなことに興味を示さないでしょうが……」

 

リリアーナは歯切れ悪く、そう答えた。帝国に向かう前に、リリアーナも誠司達のことを調べたし、本人達からも詳しく話を聞いたのだ。ウルの町での戦いやフューレンでの裏組織壊滅、オルクス大迷宮での戦いなどを…… それらの結果から、ガハルドの言う通り、国相手でも戦えるだろう。本人達は興味がないだろうが。ガハルドは、あることを尋ねた。

 

「それで、奴らの人格はどうなんだ? 未熟な精神の奴が強大な力を持っている……なんてことがあったら困るぞ」

 

リリアーナは苦笑いしながら頭を振る。

 

「彼らは、良くも悪くも魔獣本位といった所ですかね。大迷宮攻略をして神代魔法を集めているのも、この世界のためというより、ただアルセウスを助けたいという理由でしたから。対価をきちんと支払えば、問題はないでしょうが、少なくとも無償で力を貸すということはしないかと。ただし、彼らは懐の中にいる者のためなら、力を振るうことを躊躇いません。なので……」

「ちょっかいを出すなということか? 帝国の頭たる俺に、また無茶なことを言う」

 

ガハルドは失笑しつつも顎を撫でて思案する。

 

あわよくば、手元に置いて管理したい。もっと言えば、その力を利用したい。ガハルドの顔には、そうありありと書かれていた。

 

「とは言え、当の連中を捕まえられないんじゃ、話も碌に出来やしない。当面は様子見。後は独自に、こっちでも神代魔法の獲得に動くくらいか」

「それがよろしいかと。そもそも我が国の恩人ですので、同盟国とはいえ、あまり無茶は見過ごせません」 

「ふん、なかなか言うな」

 

ガハルドは鼻を鳴らした。

 

大迷宮攻略のご褒美が何か、それが分かったのは僥倖だが、だからといって自分達が獲得できる可能性は著しく低いことは分かっている。やはり、既に持っている者の勧誘が一番現実的だ。だが、それも可能性が低そうだ。なんとも歯痒い状況である。

 

「それで、事情を伝えに来ただけではないんだろう? 協議の内容を聞こう」

「はい。端的に言えば、支援のお願いと、今後の連携について方針を固めたく参りました」

 

そう言って、リリアーナは事前に支援内容をまとめた書類をガハルドに渡した。

 

内容としては、主に戦力貸与のお願いだ。メルド・ロギンスという王国最強の騎士は生き残っているが、それでも、多数の優秀な騎士・兵士達を大量に失ってしまったのだ。軍事国家たる帝国には是非とも、万が一に備えて戦力を貸して欲しかった。

 

「なるほど。一個師団程度なら構わん。こちらも、王国を潰されては西に戦力を分散する必要が出てしまうからな」

「ありがとうございます」

 

一番欲しかった支援があっさり決まって、リリアーナは少しホッと胸を撫で下ろした。それから細かな支援内容を決めた後、魔人族に対する方針を話し合っていく。一気に二人だけで決められることでもないので、今のところは概要と、各方面との具体的な協議内容の確認だけをしておく。

 

「まぁ、現時点ではこんなところだろう。あと、重要なのは、対外的に関係強化をどう示すかだが、それに関してはリリアーナ姫、一役買ってもらうことになるぞ」

「っ……わかっています。婚約の話であれば、こちらも考えていたこと。お話は受けさせていただきます。ただ……」

「ああ、そちらの事情は分かる。今、リリアーナ姫が王国から抜けるのは不可能だ。ランデル王子の即位すらまだなのだろう? 優秀な文官すらも多数失ったようだしな。ここでリリアーナ姫まで抜けたら、王妃殿が過労で死にかねん」

 

ガハルドの言葉に、リリアーナは苦笑いしながら頷く。

 

結局、皇太子との婚約話をまとめ、一両日中には帝都にて発表。その後、一個師団の派遣準備が完了次第、リリアーナは一時帰国するということになった。

 

ある程度、王国が落ち着いたら、改めて輿入れに来るということだ。王国と帝国の強固な同盟関係を国民に見せつけ、足踏みを揃えて活性化する魔人族に対抗すると示すのだ。おおよそ、予定していた通りに話が進んでリリアーナは満足そうに笑った。

 

内心、ズキズキとくる。小さな痛みには気付かない振りをして……

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