ケンタロスと双子のイーブイを仲間に加えて、誠司達は更に階層を突き進んで行く。誠司とハジメ、ポケモン達はケンタロスに乗って爆走して行った。流石に重すぎないか心配したが、大柄な上に力も強く、“かいりき”という技も覚えていたため特に問題が無かった。そうやって二階層程突破して誠司達は奈落に落ちてから通算五十層目に到達した。
ここまで来てハジメが違和感を覚えた。今までバタバタしていたので忘れていたが、とてもおかしいことに気が付いたのだ。
「あれ? あの時バッフロンがいた階層ってメルドさんが言うには六十五階層じゃなかったっけ? そこから落ちてからもう五十階層も続いてるっておかしくない?」
誠司は奈落の底に落ちてから自分達が何階層分降りたのか数えていなかったが、ハジメはきちんと数えていたらしい。誠司はそう言われると確かにと頷いた。
「そういえば、俺達が落ちたあそこの階層には下に続く階段はあったが、あれだけ探し回ったのに上への階段は見つからなかったしな。もしかしたら……」
「……うん。多分オルクス大迷宮には百層よりまだ先があったんだろうね。それこそ更に百層くらいは」
「マジかよ。気が滅入るな」
そんな感じで軽口を叩きながらマッピングを行った。この階層にはポケモンは殆どいないのですぐに下へと続く階段を見つけることが出来た。しかし、そのまま階段を降りることが出来なかった。
何故なら……………
この階層には大きな扉があったからだ。高さが三メートル程の荘厳な装飾が付いた両開きの扉だ。この扉から何か不気味な気配がある。それが何なのか誠司達は分からずにいた。あの扉に入るべきか否か。何度も議論を重ねた結果、あの扉を調べることになった。どんな希望か絶望が入っているのか…… さながらパンドラの箱である。
だが、その扉には守っている存在があった。
「あれは………ゴビットだな。それも2体も」
ゴビット達は扉の前に佇んでいる。だが、全く動く気配がない。何かの彫刻だろうか。
誠司達は警戒しつつも扉の前まで歩く。だが、ゴビット達に動く気配はない。
扉には術式が施されているようだ。しかし、誠司もハジメもこの術式に見覚えがなかった。
「なぁ、ハジメ。コレ……錬成で行けるか?」
「分からない。でもやってみよう」
ハジメが試しに錬成の魔力を流すが、赤黒い電流が走ってハジメの手を弾き飛ばした。
「ったぁ!」
「大丈夫か?」
「うん。でもこれは……錬成じゃ無理だよ」
「そうか………ん?」
誠司がそう言うと、不意に何か気配を感じた。嫌な予感がしたので振り返って見ると先程まで全く動いていなかったゴビット達が動き出したのだ。恐らく侵入者が何かしら扉を開けようとすると動き出す仕組みだったのだろう。
「どうする、誠司?」
「やるしかないだろ。行くぞ、皆!」
誠司達はゴビットと戦った。進化前のポケモンと言えど侮れずかなり強い。だが、最終的には力の差が分かったのか大人しくなった。そして、それぞれ誠司達に赤黒い球体を二つ渡した。球体を渡すとゴビット達はどこかへ去ってしまった。
誠司達は扉にある窪みにそれを嵌め込むと扉に魔法陣が広がっていく。どうやら扉が開けられるようになったようだ。誠司達は少し扉を開けて中を確認する。
すると、部屋に明かりが灯り、徐々に明るくなっていく。部屋の内部は大理石で出来ていてまるで神殿か何かかと思うような造りだ。そして、部屋の上には大きなシャンデリアがあった。青い炎が幻想的である。
やがて、奥から何か人の声が聞こえた。掠れているものの女の声だった。
「……だれ?」
奥をよく見てみると、巨大な立方体の形をした石があり、そこから声が聞こえるようだ。ハジメが扉を固定し始めた。誠司もそれに倣う。声の正体は気になるが、入っていきなりホラー映画のようにバタンと閉められると困るからだ。
扉を固定し終えると、誠司達はやっと部屋に入った。立方体には人が入っていた。その人は金色の髪に紅い瞳をした美しい少女だった。彼女は上半身から下と両手がその立方体の中に埋まっているらしく身動きが取れないようだ。
少女は弱々しい声でゆっくり顔を上げる。しかし誠司達、いや少し上のものを見て顔を青くした。
「シャンデラ、駄目!」
誠司達は咄嗟に上を見上げた。そこには大きなシャンデリアが青い炎を揺らめかせながら少女の前を立ち塞がったのだ。
「シャシャシャシャーーン!」
「こいつは……シャンデラか」
「どうやら、この部屋の番人みたいだね」
「ああ…… 俺はこのシャンデラを相手する。ハジメはあの子を。色々聞きたいこともある」
「分かった!」
誠司はネマシュ、ミズゴロウ、ケンタロス、イーブイと共にシャンデラと戦うことになった。ハジメはその隙に少女の下に向かう。少女は必死にシャンデラに呼びかける。
「シャンデラ! やめて! 私の声が聞こえないの!?」
ハジメは急いで錬成で少女を拘束している立方体を破壊しようとする。だが、なかなか壊せない。その時、ハジメのイーブイがハジメに触れた。すると、力がみなぎって来る感覚がした。イーブイの技、“てだすけ”だ。もう1度試すと、だいぶ魔力を持っていかれたもののなんとか立方体を破壊することに成功した。少女は解放されるとすぐにシャンデラの下へ向かう。
「シャンデラ! お願い! 私の話を聞いて!!」
その様子に流石の誠司もハジメも違和感を覚えた。シャンデラをよく見ると目が赤く光っている。正気を失っているようだ。なので作戦を変更することにした。誠司はネマシュに指示を出す。
「ネマシュ、“キノコのほうし”!」
ネマシュは胞子をシャンデラにばら撒いた。すると、シャンデラは眠ってしまった。これでしばらくは大丈夫だろう。
少女はその様子を見て安心したらしくへたり込んだ。そして、誠司にお礼を言った。
「……ありがとう。シャンデラを傷つけないでくれて」
それから誠司達はその少女から話を聞いた。どうやら、彼女は吸血鬼らしく先祖返りの影響で特殊な能力を持っているそうだ。その特殊な能力と言うのは不死身で魔力を直接扱えるというものらしく、それだけで随分と異質なことが分かる。下手すれば勇者よりもチートな存在だ。そこでハジメがあることに気が付く。
「………あれ? 吸血鬼族ってもう随分昔に……」
つまり、彼女が最後の生き残りということだろう。少女は少しだけ俯いた。
そして、彼女は国のために自身の力を使って来たのだが、ある時に叔父を始めとした家臣達の裏切りに合い、封印されてしまった。それから長い時間封印されており、話し相手はあそこで眠っているシャンデラしかいなかったのだそう。なのでそこまで寂しくなかったらしいが。
なんとも波瀾万丈な境遇だ。誠司もハジメも少女に同情的な視線を向ける。そんな時、ゆらりと大きな影が現れた。シャンデラだ。目を覚ましたようだ。思わず戦闘体制を取るが、何か様子がおかしい。先程と違い、目は赤くないし攻撃もしてこない。
「……この子は私が小さい頃から一緒にいる。妹みたいなもの。おじ様が魔法で番人にした。それでこの子も不死身になった」
「……マジかよ。ゴースト属性に寿命とかあるのか分からないけど」
「じゃあ、もう番人としての役割は無くなって正気に戻ったってこと?」
そうハジメが尋ねると少女もシャンデラも頷いた。どうやら先程、誠司達を襲ったのは番人としての役割によるものでシャンデラ自身の意思では無かったようだ。
「……そういえば、あなた達は誰?」
今度は少女が尋ねた。そういえば、自己紹介がまだだった。
「ああ、悪い。名乗るのを忘れてた。俺は誠司。中西誠司だ。それでこっちは……」
「僕はハジメ。南雲ハジメです。君は?」
ハジメが尋ねると、少女は首を横に振った。
「……名前は……言いたくない。前の名前は……いらない。あなた達が付けて欲しい」
「は!? うーん…… 俺はこういうのはなぁ……… ハジメ、お願い出来ないか?」
「えー…… そうだなぁ…… 名前かぁ………」
後ろでシャンデラが炎を揺らめかせている。ポチとか変な名前を付けたりなんかしたら燃やされそうだ。少し考えてハジメは彼女の髪や目からある単語が浮かんだ。
「…………ユエ」
「ユエ?」
「うん。僕達の故郷の言葉で『月』って意味なんだ。君の髪や目を見て浮かんだんだ」
ハジメの提案に少女は何度かユエという言葉を繰り返し小さく呟くと、目を輝かせた。気に入ってくれたようだ。
「……んっ。今日から私はユエ。ハジメ、ありがとう」
「うん」
「ユエか…… 良い名前だな。でも取り敢えず……だ」
「?」
誠司は自身の上着を脱ぐとユエに渡す。ネマシュはポケットから出ると誠司の肩に乗る。
「コレを着てくれ。正直、男二人にとって目のやり場に困るから」
「………」
誠司の言葉でユエは顔を赤くしていそいそと上着を着る。しかし、すぐに違和感を覚えた。
「……ん? 男二人……?」
ユエがそう呟くとハジメがどこか慌てた様子でユエに耳打ちした。するとユエは少し不思議そうな顔をするが、少し納得したように頷いた。誠司が尋ねた。
「おい…… 何を話してたんだ?」
「ううん。なんでもない!」
「……ん。なんでもない」
「?」
誠司は訳が分からなかったが、まぁ良いかと気を取り直す。
ユエとシャンデラはこれから行くところも無いため、誠司達と一緒に付いて行くことになった。誠司とハジメはユエと握手を交わす。シャンデラもネマシュやミズゴロウ達と仲良くなっている。
「それじゃあ、次の階層に行くぞ」
誠司達はユエとシャンデラという新しい仲間を加えて出発する。この階層にあったパンドラの箱は思わぬ仲間が入っていたようだ。
ユエの相棒はシャンデラです。最初はドラピオンにするつもりでしたが、色々と今後の展開的にシャンデラの方が都合が良かったのでシャンデラにしました。