魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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栄光あれ

誠司に声を掛けた人物はリリアーナだった。

 

「中西誠司様、一曲踊って頂けませんか?」

 

誠司は怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「……主役がパートナーと離れて一体どうしたんです?」

「あら、その主役の座を奪っておいて、その言い方は酷くありませんか?」

「それは失礼。皇太子は放っておいて大丈夫なんですか?」

「挨拶回りなら大体終わりましたし、今は、パーティーを楽しむ時間ですよ。もともと、何曲かは他の人と踊るものです。ほら、皇太子様も愛人の一人と踊っていらっしゃいますし」

 

リリアーナが指差す方に視線を向けると、バイアスが()()()ドレスを着た女性と踊っているのが見えた。

 

「……なるほど」

「ふふ。それより、そろそろ手を取って頂きたいのですが……踊っては頂けないのですか?」

 

どうやら、リリアーナはただ踊りたいだけでなく、何か誠司に言いたいようだ。それを察したハジメが、リリアーナに助け船を出してあげる。

 

「踊ってきたら? お姫様とダンスなんて、一生ないだろうし」

「そうは言っても、王女殿下相手に上手く踊れる自信がないんだが……」

「ご心配なく。私がしっかりリードしますし、先程のように踊れていれば十分ですよ」

 

そうこうしているうちに、注目が集まってきた。なので、誠司は恭しくリリアーナの手を取る。

 

「分かりました。ではよろしくお願いします」

「……はぃ」

 

そうして、誠司とリリアーナはダンスホールの中央に歩みを進める。先程の、ハジメとのダンスが脳裏に過ぎっているのだろう。リリアーナの恥じらうような態度のこともあって注目度は高い。

 

ゆったりした曲調の旋律が流れ始める。ゆらりゆらゆらと優雅に体を揺らしながら密着するリリアーナと誠司。誠司の肩口に顔を寄せながらリリアーナがそっと囁くように話しかけた。

 

「……先程は有難うございました」

 

リリアーナの言う『先程』というのは、イトマル達がやったことを指しているのだろう。それを察した誠司は、小さく首を横に振る。

 

「イトマル達が勝手にやったことです」

「ふふ、ポケモンがやったことは、トレーナーの責任……ではありませんか?」

「む……」

「だから、有難うございます」

「と言っても、その場凌ぎにしかなりませんがね」

「はっきり言いますね……でも、たとえそうでも嬉しかったですよ。こういったことに少し憧れもありましたし」

 

そう言って、リリアーナは誠司の肩口から少し顔を離すと言葉通り嬉しそうな微笑みを浮かべた。その笑顔は、先程までバイアスの傍らにいたときとは比べるべくもないリリアーナ本来の魅力に満ちたもので、注目していた周囲の帝国貴族達が僅かに騒めいた。

 

「事前に桃色のドレスで来ると通達されていたが……その意趣返しで黒のドレスに?」

「似合いませんか?」

「いや似合ってますよ。そのブローチもね」

 

リリアーナの胸元には、緑と白のバラのブローチが輝いていた。以前、リリアーナから依頼の前金として貰い、その後にリリアーナのもとへ返した、あのブローチだ。

 

「嬉しいですね。婚約者からは古臭い、時代遅れだと言われましたが」

「彼は見る目がないんですね。本当に良いものというのはいつの世でも良いんですよ」

「ふふ。そういえば、このブローチのお礼もまだ言っていませんでしたね」

「それに関しては、本当に礼を言われる筋合いはないですよ。俺が()()()()無くしただけなんでね。後で仲間からも怒られたし……」

 

つらつらと嘘を並べる誠司に、リリアーナはおかしそうに笑う。王族としての面子を考えてくれてのことだとリリアーナは察していた。それがリリアーナには嬉しかった。

 

「ええ、感謝しています。あなたのうっかりに、ね」

「……良い性格していますね。本当に」

「ふふ、光栄です」

 

曲も中盤に入った。

 

「先程から密着しすぎでは? 皇太子が何やらすごい形相になってますが?」

「いいじゃないですか。今夜が終われば私は皇太子妃です。今くらい、女の子で居させて下さい。それとも、近いうちに暴行されて、愛人達に苛められるであろう哀れな姫の些細なわがままも聞いてくれないのですか?」

「暴行されて、苛められるのは確定か……」

「確定ですよ……」

 

バイアスの愛人達の一部が桃色のドレスを着ていることを考えれば、確かにリリアーナの言う通りのことになるだろう。もっとも、結婚出来ればの話だが。その時、リリアーナは、一度ギュッと誠司に抱きつくと表情を隠しながらポツリと、つい零れ落ちたかのような声音で呟いた。

 

「……もし……もし、私が『助けて』と言ったらどうしますか?」

 

リリアーナ自身、こんなことを聞くつもりはなかった。帝国の皇子との婚姻関係の締結は今後の為にやらねばならないことだ。人間族の結束の強さを国民に示さなければならないのだ。王族の一員として、果たさねばならない役目だということも分かっている。たとえ、尊厳すら奪われかねない辛い結婚生活が待っているとしても。

 

それでも誠司にこんなことを聞いてしまったのは、本人にそんな意図はなかったのだろうが、声も届かず誰の助けも期待できない状況で心底恐怖に震える自分を助けてくれたこと、誠司と楽しそうに踊るハジメを見たこと、そしてきっと誠司なら『断ってくれる』と思ったからだろう。断ってくれれば、「ここからは自分の戦いなんだ」と本当の意味で覚悟を決めることが出来る。いわば一つの甘えといっても良いかもしれない。

 

だが、誠司の返答はリリアーナの予想斜め上のものだった。

 

「まぁ、結果的には助かると思いますよ。今夜から帝国は変わるでしょうし……それから、()()()もね」

「……はい?」

 

『HQ、こちらヴィクター。Sポイント制圧完了』

『HQ、こちらイクスレイ。Yポイント制圧完了』

 

目を点にして思わず顔を上げるリリアーナ。一方の誠司は平然としている。そんな誠司を見て、リリアーナの胸中に凄まじく嫌な予感が押し寄せた。さっきまでのしんみりした雰囲気はなく、リリアーナは自分の頬が引き攣るのを感じた。

 

「そ、それってどういう……」

「おっと、曲も終盤だ。最後まで楽しみましょう、王女殿下」

 

露骨に話を逸らされ、思わずジト目を送るリリアーナ。だが、誠司はどこ吹く風だ。誠司の言う通り、曲ももう終盤。リリアーナもただ今この瞬間のダンスを楽しむことにした。この人のことだから、いくら問い詰めても意味がないだろうという諦めもあった。

 

そして、余韻をたっぷり残して曲が終わり、どこか名残惜しげに体を離したリリアーナは、繋いだ手を離さずに少しの間、ジッと誠司を見つめて「ありがとうございました」と呟いた。咲き誇る満開の花の如き可憐な微笑みと共に。それは唯の十四歳の女の子の微笑み。余りに純粋で濁りのない笑みは、それを見た者全ての心を軽く撃ち抜いた。そこかしから熱の篭った溜息が漏れ聞こえる。そして、僅かな間のあと、先程のハジメとのダンスに負けないくらい盛大な拍手が贈られた。

 

リリアーナは、他のお偉いさんと踊る必要があるようだったので、途中で別れ、誠司は一人で仲間のもとに戻った。ハジメがドリンクを誠司に手渡し、労いの言葉をかけた。

 

「お疲れ様。どうだった?」

「緊張したよ。ただ、少し怪しまれたかもな」

「……そうか。まぁ、邪魔は出来ないだろうけど」

 

その時、ハウリア族から最後の完了報告が届いた。

 

『HQ、こちらズールー。Zポイント制圧完了』

『全隊へ通達。こちらHQ、全ての配置が完了。並びにバイアス・D・ヘルシャーの売国行為が確定。これよりカウントダウンを開始します』

 

光輝達だけでなく、ユエ達にも僅かに緊張が走った。そんな中、シアは瞑目しながら一度深呼吸すると、一拍、スッと目を開けた。

 

「誠司さん、ハジメさん」

 

シアの視線が、仲間達に巡る。誠司、ハジメ、ユエの三人も頷き、自分のモンスターボールを一つずつ手渡した。合計三体のポケモンを受け取るシア。

 

「今のお前はシア・()()()()だ。行ってこい」

「助っ人もいるから心配はないよ、頑張って」

「ん、大丈夫。一人じゃない」

 

三人の言葉に同調するようにシアのポケモン達が入ったモンスターボールも揺れる。それに気付いたシアは不敵に笑った。

 

「はい、行ってきます!」

 

その一言と同時に、シアの気配は薄まっていき、誰にも気付かれずに会場から出て行った。その背を見送っていると、司会進行役の男が声を張り上げた。

 

ガハルドがスピーチと乾杯をするらしく、壇上に上がったガハルドがよく通る声で話し始めた。

 

「改めて、リリアーナ姫の我が国訪問と、息子との正式な婚約を祝うパーティーに集まって貰ったことに感謝する。色々とサプライズがあって面白い催しになった」

 

そこで、ガハルドは意味ありげな視線を誠司達に向けるも、誠司達は明後日の方向を向いている。その態度にガハルドは益々、面白そうな表情を浮かべる。

 

同時に誠司のイヤリングから決然とした声が響いてきた。

 

『全隊へ。こちらアルファ1。これより我らは、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻みます。この先、恐怖の代名詞となるであろうこの名を。この場所はその運命の交差点。ハウリアの興廃、この一戦にあり………です。遠慮容赦は一切無用。さぁ、最弱と謳われた爪牙がどれ程のものか見せつけてやりましょう!』

 

「パーティーはまだ、始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福になる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

兎人族と人間族。二つの種族の長が重なるように演説をする。

 

『十、九、八………』

 

誠司達と、蔓延るウサギ達にだけ響く運命のカウントダウン。

 

『誠司殿、ハジメ殿。ここまで導いて下さったこと感謝致します』

 

何も知らない帝国の貴族達が杯を掲げていく。ガハルドは、会場の全員の杯を掲げるのを確認すると、自らもワインがなみなみと注がれた杯を掲げて一呼吸を置く。

 

そして、息をスゥーッと吸うと覇気に満ちた声で音頭を取った。念話の向こうも、同様に声を張り上げる。

 

『気合いを入れろ! ゆくぞ!!』

『『『『『『『おうっ!!』』』』』』』

『四、三、二、一……』

 

そして、カウントダウンは遂に……

 

「この婚姻により人間族の結束はより強固となった! 恐れるものなど何もない!我等、人間族に栄光あれ!」

「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」

 

『……ゼロ。ご武運を』

 

其の瞬間、全ての光が消え失せ、会場は闇に呑まれるのであった。

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