魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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ハウリアの戦い

「な、なんだ!? なにが起こった!?」

「いやぁ! なに、なんなのぉ!?」

 

一瞬で五感の一つを奪われた帝国貴族達が混乱と動揺に声を震わせながら怒声を上げる。

 

「狼狽えるな! 魔法で光をつくっ……がぁ!?」

「どうし……ギャァ!?」

「何が起こって……あぐっ!?」

 

比較的冷静だった者が、指示を出しながら魔法で光球を作り出し灯りを確保しようとする。だが、直後には悲鳴と共に倒れ込む音が響いた。同時に、混乱する貴族達が次々と悲鳴を上げていく。

 

その異様な光景に再び場は混乱に陥った。特に、令嬢方は完全にパニックに陥っており、闇雲に走り出したようで、そこかしこから転倒音や衝突音が聞こえ始める。

 

「落ち着けぇ! 貴様らはそれでも帝国の軍人……な、なんだ!?」

 

ガハルドが、恐慌に陥りかけた帝国貴族達の精神を立ち直らせるため、喝を入れようとした次の瞬間、あちこちから爆音が響き渡ったぃ。それにより、ガハルドの声はかき消され、帝国貴族達はあまりの爆音に耳を塞ぐので手一杯になってしまう。“さわぐ”や“いやなおと”、“ハイパーボイス”といった音系の技の大合唱は、帝国貴族達の五感の一つを更に奪っていく。

 

「っ!? チィッ! 小賢しい!」

 

ガハルドは舌打ちしつつ、自分に向かって飛んできた矢を儀礼剣で捌く。この状況でも防ぐことが出来ているのは流石だが、態勢を立て直すための指示を出す余裕はなく、防戦一方だ。

 

次々と上がる悲鳴と物や人が倒れる音が響く中、どうにか冷静さを取り戻した者達が灯りとして火球を作り出すことに成功した。

 

その灯りを使って、状況を把握しようとするが、それは悪手だった。彼らの視界の端に何か黒い影のようなものが横切る。

 

「っ!? 何者っ───げふっ!?」

 

咄嗟に火球を飛ばそうとした帝国貴族の男。しかし、その寸前、彼の背後の闇から影が飛び出した。真後ろにいるのに、男はまるで反応しない。そして、その無防備な項に、黒塗りの小太刀が一閃された。

 

結果は単純。まるで、冗談のように、男の首が宙に舞った。クルクルと回って、生々しい音と共に地面に落ちたそれは、何処かキョトンとした表情をしており、未だ死を自覚していないかのようだった。

 

光に誘われる蛾のように、光を作り出した者のところへ向かっていた帝国貴族や令嬢達は、火球が消滅する寸前に垣間見えた影と、一瞬で人の首が飛ぶ光景を目の当たりにし、無様にも腰を抜かしていく。

 

気が付けば、照明を照らしていた火球は全て消えて、再び闇一色となっていた。

 

「ひっ、ば、化け物っ! 化け物だっ」

「し、死にたくないっ、誰かぁ! 誰かぁっ」

 

腰を抜かした者の多くは令嬢や文官だったが、少なからず軍の将校もいる。前線から退いて贅沢の極みを尽くしていた彼等には、死神の鎌に等しい暗闇と襲撃者の存在に精神が耐えられなかったのだろう。

 

彼らは一人の例外もなく、何も出来ずに、音もなく肉薄した黒装束達に手足の健を切られ、痛みにのたうちながら倒れ伏すことになった。その痛みに悶え苦しむ声も、聞こえなくなる。“いとをはく”で身体だけでなく、口元まで封じられてしまったからだ。

 

そんな情けない者達もいるが、ここが実力至上主義を掲げる軍事国家である以上、いつまでも混乱に甘んじている訳がない。

 

ガハルドのように礼儀剣は持っていなくても、護身用の懐剣を頼りに何度か襲撃を凌いだ猛者達が、仲間の気配を頼りに集まり陣形を組み出した。背中合わせになり、中央に術者を据えて詠唱を任せる。見事な連携だ。

 

ガハルドの比較的近くにいた者達も直ぐに陣形を組んでガハルドの背後を守りだした。注意すべき範囲が一気に半分になったガハルドに、もう矢による攻撃は通じない。余裕が出来たガハルドは何十という数の矢を片手間に叩き落としながら詠唱を始めた。

 

「これ以上好きにさせるな! 反撃開始だっ」

 

〝炎弾〟で明かりをつくり、そう息巻いたガハルドだったが、直後、目の前に球状の金属塊がコロコロと転がってくる。

 

「なんだ? これは……」

 

訝しみながらも正体を確かめようと接近する側近の男。それは、彼だけではなく離れた場所で明かりを確保した者達も同じだった。

 

猛烈に嫌な予感がしたガハルドは、咄嗟に制止の声を掛ける。

 

「よせ! 無闇に近付くな!」

「っ!?」

 

ガハルドの言葉に反射的に従って後ろに飛び退ろうとする側近だが、その金属塊のもたらす効果からすれば無意味な行動だった。それは次の瞬間に証明された。

 

ガコンッ

 

突然、金属塊が爆ぜたかと思うと、強烈な光が迸ったのだ。

 

「ぐぅああっ!?」

「ぎゃああっ!?」

 

咄嗟に目を瞑り、腕で顔を庇ったガハルド達だったが、金属塊の近くに立ち、反応が遅れた者は見るも無残な状態になっていた。あの金属塊は光を放つだけでなく、爆ぜると同時に無数の金属片が飛び散る仕掛けになっていたのだ。顔や身体に金属片が突き刺さり、激痛のあまりのたうち回る側近達。運よく金属片から免れた者達も、強烈な光で一時的に視力を失う程にはきっちりと目を灼かれてしまっている。

 

そして、その絶好のチャンスを襲撃者たるハウリアが見逃すはずもない。絶妙なタイミングで急迫した黒装束のハウリア達が極限の気配殺しで標的の懐に踏み込む。そして、漆黒の小太刀を一閃、二閃。

 

抵抗する余裕など微塵もない近衛達の手足の腱は、あっさりと切り裂かれ、激烈な痛みに悲鳴を上げて倒れ伏す。そして、彼らの身体には“いとをはく”で身動きが全く取れないようにされ、更には詠唱封じのために、口の中にナイフを突き込まれて、舌を切り裂かれてしまう。

 

そんな中、金属音が響く。その音の正体はガハルドだった。なんと、ガハルドだけは極限まで気配を殺したハウリア族二人の斬撃を防いだのである。第六感というやつだろう。

 

これには襲撃をしているハウリア族の二人も、覆面の隙間から覗く瞳を大きく見開いて驚きを露わにした。その一瞬の動揺を感じ取ったのか、隙を突いて気合いを一発。ガハルドは震脚の如き踏み込みで衝撃を発生させる。

 

「っ!」

「くっ!」

 

体勢を崩された二人のハウリアが思わず呻き声を上げた。そこへガハルドは目の使えない状態なのに、ゾッとするほど正確な斬撃を繰り出す。

 

ハウリアの二人は咄嗟に小太刀を交差させて全力防御。二連撃とは思えない破壊力を持った斬撃を、最高レベルの耐久力を持つ小太刀は見事耐えきるものの、その使い手の二人は吹き飛ばされてしまう。

 

そこへ、吹き飛ばされた二人と入れ違いに、間髪を容れず矢が殺到する。篠突く雨の如きクロスボウによる一斉射撃。しかし、帝国最強の男にそんな攻撃は通じない。

 

「散らせ。───“風璧”!」

 

たった二言で発動した強烈な風の障壁に、全矢あっさりと軌道が逸らされてしまう。

 

「撃ち抜け。───“炎弾”!」

 

そして、再び二言で魔法を発動。十も作り出した“炎弾”を“風璧”で感じ取った矢の射線に沿って一斉掃射する。

 

ハウリア達は既に移動していたが、全ての“炎弾”の着弾位置が全て自分達が潜んでいた場所。ガハルドに戦慄する気配が無数に湧き上がる。気配を殺していたハウリア達が僅かに漏らしてしまう。

 

ガハルドの閉じたままの目蓋が僅かに開き、見えてないのもかかわらず、その瞳がギラリと野獣じみた危険な光を宿している。

 

「そこかぁ」

 

グリンと首が回った。その視線が闇の奥にいるハウリア達を捉える。あの一瞬の動揺だけで、居場所を掴み取られたのだ。

 

「爆ぜろっ。──“炎弾”!」

 

再び放たれる“炎弾”の群れに、背を向けながら、闇の奥のハウリア達に向かって一直線に突進するガハルド。

 

直後、パーティー会場の天井付近に向かって飛んでいった背後の炎弾が一瞬だけ収縮し、爆発するかと思いきや、ポフンッという音と共に消えてしまった。ヌオーやニョロゾなど、“しめりけ”の特性を持つポケモン達を咄嗟に繰り出して爆発を防いだのだ。

 

ガハルドは、爆発が防がれたことに驚きつつも、構わず攻撃を仕掛けていく。視界を奪われながらも、躊躇うことなく戦いに踏み込める胆力。高まる殺気は凄絶の一言。見えずとも斬撃の正確性は刻一刻と増していく。

 

これが皇帝。これが軍事国家の頭。力こそ全てと豪語する戦闘者たちの王は伊達でないのだ。それを、身を持って実感したハウリア達は……

 

「面白い」

「上等だ」

 

萎縮するどころか誰もがその口元に凄惨な笑みを浮かべた。覆面の隙間から覗く瞳はギラギラと獰猛に輝き、一人一人から濃密な殺気が噴き出す。気配操作が意味をなさないのなら、連携で仕留めると言わんばかりに、ハウリア達はまるで一つの生き物のように動き出した。

 

「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか! なぁ、ハウリアよぉ!」

 

四方八方からヒット&アウェイを基本とした絶技と言っても過言ではないレベルの連携攻撃が殺到する。その斬撃を独特の剣術で弾きながら、ガハルドは楽しげに叫んだ。どうやら、とっくにハウリア族とばれていたようだ。

 

一方でハウリア達は、ガハルドの雄叫びを聞いても無言だ。ただ、ひたすら殺意を滾らせていく。

 

「あぁ? ビビって声も出せねぇのか!?」

 

会場内は相変わらず爆音が響いているが、段々と耳が慣れてきたようだ。そのガハルドの叫びに、一際強烈な殺気を振りまくハウリア、カムが小太刀の二刀を振るいながら、その溢れ出る殺意とは裏腹に無機質な声をポツリと返した。

 

「戦場に言葉は無粋というものでしょう」

「ハッ、その通り、だなっ!」

 

暗闇に火花が舞い散り、剣戟は更に激しくなっていく。

 

しかし、双方の体に刃は届かない。数十秒か、数分か……会場で意識はあるものの口も手足も切り裂かれて苦悶に表情を歪める者達は、なぜ外から誰も駆けつけないのかと苛立ちながらも自分達の王の勝利を祈る。

 

同時に、剣戟の火花により時折浮かび上がる影で襲撃者が兎人族であると察し、有り得ない事態に、その未知に、恐怖に慄く体を必死に押さえ込んでいた。

 

その時、彼らの期待を裏切るように事態が動いた。

 

「っ! なんだっ? 身体が……」

 

ガハルドが突如ふらつき始め、急速にその動きを鈍らせたのである。「待ってました」と言わんばかりに、四方八方からハウリア達が飛びかかる。

 

辛うじてそれを弾き返すガハルドだったが、最初からガハルドの異変は想定済みだったようで、絶妙なタイミングで放った矢が遂にガハルドに直撃した。

 

「ぐぁっ!」

 

ふくらはぎを深々と貫かれ、ガクンと膝を折るガハルドは遂に剣を取り落とした。

 

ガハルドは、それでも魔法を発動しようとするも、刹那のタイミングで交差するようにすれ違った二人のハウリア族が、戦闘中に確かめていた位置に小太刀を振るい、隠し持っていた魔法陣やアーティファクトを破壊または弾き飛ばす。同時に残りの腕と足にも矢が突き立った。

 

「──っ!」

 

迸る激痛。悲鳴こそ上げなかったが、その体は意思に反してゆっくりと傾いていく。

 

ドガッと音が響いた。遂にガハルドが倒れ伏したのだ。それと同時に会場中に響き渡っていた爆音がピタリと止んだ。

 

静まり返るパーティー会場。誰も言葉を発せない。物理的に口を閉ざされているからというものもあるが、きっと、たとえ喋れたとしても言葉を発する者はいなかっただろう。

 

視界が暗闇に閉ざされていようとも理解してしまう。その事実は、帝国人から言葉を、或いは思考自体を奪うには十分過ぎる衝撃だった。

 

そう、ヘルシャー帝国皇帝陛下の───敗北。

 

それ即ち、帝国という一つの強国が、最弱種族に落とされた瞬間だった。

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