魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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シアの戦い

時間は少し戻る。

 

「急げっ! パーティーに何かが起きている! 一刻も早く陛下のもとへ行くぞ!」

 

しんしんとした帝城内に焦燥の滲む怒声が響いた。声を張り上げたのは帝国軍第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。先程、シア達ハウリア族を襲い、彼女の家族を殺して連れ去った男だ。彼の後ろには、部下の兵士が二十人程連なっている。

 

パーティー会場が暗闇に包まれた同時刻、地下の宝物庫の警備に当たっていた彼等は、警備の途中、突如、異変を知らせる魔法具が反応し、慌てて駆けつけているのである。

 

この魔法具はガハルドが身につけている備えの一つであり、起動した瞬間に、連動する他の魔法具の色が変わるというもので、具体的に何が起きているのかまでは分からない。とはいえ、皇帝陛下自ら発する警告と緊急招集命令であるのだ。

 

何か異常で急迫した事態が起きているのは間違いなく、その片鱗は、帝城内の異様な雰囲気が示していた。

 

「連隊長殿! どうなっているのですか!? 他の部隊は!? 何故、誰もいないのですか!?」

 

そう、あちこちいるはずの巡回も、同じく緊急招集を受けてる筈の詰所の兵士達も、誰も合流しない。そんな不安を隠し切れない部下の叫びに、グリッドも嫌な予感を覚えながら答える。

 

「とにかく、今は陛下のもとへ急げ! 勅命だぞ!」

 

やけに静かな帝城の敷地内。途中にグリッドの小隊と合流した兵士達も加わり、最終的に三十人程となったグリッド達は、帝城内部からの連絡路を通るルートで、パーティー会場のある建物へと飛び込んだ。

 

その直後だった。

 

「こんばんはです、帝国兵の皆さん。今夜はいい夜だと思いませんか?」

 

急迫した状況に似合わない可憐な声が響いた。

 

「お前は……」

 

グリッドが目を見開く。他の兵士達は息を呑んだ。

 

本来なら使用人が忙しく行き交っている筈のエントランスは異様に静まり返っており、そして、荘厳なシャンデリアの下、中央の階段に立ち塞がるようにただ一人、着飾った美少女がいたからだ。

 

モフモフなウサ耳がピコピコと動き、一歩踏み出せばふんわり広がるムーンライト色のミニスカートドレス。脚線美はもはや芸術的とすら言える。ニッコリド微笑む美貌もさることながら、そのドレスと同じ淡青白色の髪が流れる様は神秘的だ。

 

そして、やって来たのがグリッドだと気が付いた直後から、顔を伏せて震えている姿も嗜虐心を唆る。

 

「チッ、構っている暇はない。行くぞっ」

 

だが、そこは連隊長。千を越える部隊を率いる権限を与えられた者だ。優先すべきことを弁え、兎人族の少女……シアを無視して会場へと向かおうとする。

 

だが、その足は止まった。いや、止められたのだ。

 

「くふっ、ふふふっ、あはははっ」

 

震えていた理由が、恐怖ではなく、笑いを堪えるためだと分かったからである。

 

「っ、何がおかし……」

「なんという、なんという僥倖ですか! まさか、やって来るのが貴方だなんて!」

「どういう意味だ!?」

「嬉しい、という意味ですよ」

 

こんな美少女から会えて嬉しいと言われたら、普通は悪い気はしないだろう。だが、この時ばかりは、グリッドはそうと思えなかった。寧ろ肌が粟立った。

 

「今、私の家族が皇帝さんを襲撃しています。助けに行きたければ、私達を倒すしかありませんよ」

「連隊長殿! いつまで足を止められておるのですか! こんな兎人族如き、無視して行きましょう!」

 

焦れた兵士の一人が、シアの言葉を戯れ言と切って捨てた。そして、さっさと進もうと駆け出す。忠誠心の厚い彼は、一刻も早くガハルドのもとへ向かいたかったのだろう。

 

グリッドも同様に駆け出そうとしたが、すぐにあることに気が付いて再び足を止める。

 

「……待て。私()……だと?」

 

その時だった。

 

ドガッシャーーン!!

 

シアの前にシャンデリアが勢いよく落ちてきた。グリッドや彼に続く兵士達は無事だったが、勇んで先を進もうとした兵士は、シャンデリアの下敷きになってしまった。即死だったようでピクリとも動かない。

 

いつの間にか、シアの右隣にはホルードが立っており、左隣にはグライガーが浮かんでいる。グライガーがシャンデリアの鎖を断ち切って落としたのだ。そして、ホルードは“まもる”で飛び散るガラス片からシアを守っていた。

 

ゴクリッと、息を呑む音が静まり返ったエントランスで響く。

 

「何故、私達がここにいると思いますか? 会場に入るためには、絶対に通らなければならないこのエントランスで」

 

それは言わずとも、先の部下を見れば分かる。駆け付けるだろう帝国兵を潰すためだ。どれだけ事前に制圧戦を上手くやろうとも、取りこぼしが必ず出る。ガハルドとの戦闘中に乱入されるのは、たとえ小隊規模でも避けたいところ。

 

だからハウリア族は、最高戦力をこの場所に配置したのだ。

 

そう、族長の娘であり、最強のハウリアであるシアを。シアは他のポケモン達を繰り出す。出てきたのは、ゴーゴート、デカヌチャン、ドクロッグ、イトマル。自分の家族達と、仲間から借りた心強い助っ人達と共に、シアはニッコリと微笑む。

 

「あなたとあなたの部隊が相手なら、改めて名乗っておきます。私はシア。シア・ハウリア。かつてあなた達が取り逃してしまった………化け物です」

 

誇らしげに名乗りを上げた後、誘うようにスっと片手を出して、たおやかな指先をクイックイッと曲げる。

 

誤解などしようもない。誰にだって分かる。

 

「相手してやるからかかってこい」と言っているのだ。

 

言葉を失っていたグリッドの額に青筋がくっきりと浮かび上がった。

 

「化け物、だと? 兎人族如きが舐めた口をっ」

 

確かに、見た目は普通の兎人族と違う。だが、それでも所詮は兎人族。魔法一つも使えない憐れな種族の、その中でも最弱だ。そんな“兎人族如き”に挑発されたという事実に、プライドを傷つけられたらしいグリッドは吠えた。

 

「お前達っ、勅命の前だ! あの兎人族や魔獣どもを殺してから先に進む! 所詮は亜人だ! ぶち殺せ!」

 

即応したグリッドの部下達が攻撃を仕掛けようとするが、それよりも速く行動する者がいた。ドクロッグだ。ライセン大峡谷育ちの彼女は、非常に高い身体能力を持っている。階段を踏み込み、一瞬で後衛の前に姿を現した。

 

「なっ!?」

「キエエエェェイ!!」

 

驚愕に目を見開く後衛二人だったが、時すでに遅しで、あっという間にドクロッグの腕の毒針で倒れてしまった。その光景に慌てて振返った前衛がドクロッグを殺そうと動くも、その時にはホルード・ゴーゴート・デカヌチャン・グライガーが迫っていた。

 

「しまっ……」

「ホールゥッ!」

「ぐぶへっ!?」

 

一人が気付いた時には、もう既にホルードの逞しい耳が顔面にめり込んでいた。ポケモンが四体、追加で乱入してきたことで、更に混乱する兵士達。ホルードの耳やデカヌチャンのハンマーにぶっ飛ばされたり、ゴーゴートの角に突き飛ばされたり、グライガーのハサミで剣を切られたりと様々だ。ドクロッグは、巧みな体術で更に三人倒している。

 

「落ち着け、お前達! まずは態勢を……ぐわっ!?」

「トマル!」

 

部下達に指示を飛ばそうとするが、顔にイトマルが飛びついて、驚きの声を上げるグリッド。ゴーゴートの背中にこっそり隠れていたのだ。イトマルは憎々しげにグリッドを睨み、何度も“どくばり”を突き刺した。

 

「このっ! クソがあぁぁっ!」

「トマッ!?」

 

激痛が奔る中、どうにかイトマルを引き剝がし、床に叩きつけると、怒りのままにイトマルを踏み潰そうと大きく足を振りかぶった。その時、顔を上げると、驚愕で目を見開いた。

 

シアがエントランスに鎮座していた屈強な戦士を模した銅像を持ち上げていたからだ。この像は、熊人族の奴隷数人掛かりでどうにか設置したもので、それを目の前の少女がたった一人で持ち上げているのだ。驚くのも無理はないだろう。

 

「さ、散開だ! すぐに離れ……」

「うりゃ!」

 

可愛いらしい掛け声と共に、勢い良く放り投げられた銅像は、そのまま逃げ遅れた帝国兵五人を押し潰した。

 

「接近戦で仕留めようとするな! 魔法で仕留めろ!」

 

シアの怪力を目の当たりにしたグリッドは慌てて、魔法の指示を飛ばす。

 

「喰らえ! 化け物め!」

 

完成した魔法“緋槍”を十連。散開した帝国兵達の絶妙な連携による包囲攻撃だ。

 

だが、そんな迫る十本の炎の槍を前にシアは、余裕の表情だ。

 

「しゃらくせぇですぅ!」

 

階段近くにあった鎧飾りに近付くと、鎧のパーツを手当たり次第に投げつけた。ただ投げつけるだけなら、“緋槍”の方が勝つだろうが、シアの剛速球だ。“緋槍”に命中したと同時に爆発を起こして相殺していく。

 

「馬鹿なっ!?」

「ありえない!?」

 

魔法は、亜人に対する絶対的なアドバンテージだ。それがまるで通用しないという悪夢に、思わず絶叫する兵士達だったが、次の瞬間、飛んできた鎧のパーツが顔面にめり込んでそのまま物言わぬ屍となった。文字通りのデッドボールである。

 

開戦してからまだ一分も経っていない。なのに、戦力は既に半分以下にまで減らされていた。

 

「こんなこと、あってたまるかぁっ」

 

己を奮い立たせるように雄叫びを上げて、グリッドが斬り掛かる。流石は連隊長というべきか。身体強化した踏み込み、斬撃は見事の一言だ。シアが兵士の一人に攻撃を加えた直後を狙うというタイミングも素晴らしい。

 

だが、相手が悪すぎた。

 

「なっ!?」

 

突然、立ち眩みが起こり、グリッドの動きが止まる。先程、イトマルの“どくばり”で毒状態になってしまったらしく、それが今になって効いてきたのだ。そして、そんな隙を逃がすシアではなく……

 

「ですぅ!」

 

シアの拳がグリッドの腹部にズドンッと衝撃が入るほどのボディブローを決めていた。

 

「かはっ」

 

身体をくの字に折り曲げ、よたよたと後退りするグリッド。その腹に、追い討ちをかけるようにヤクザキックが炸裂し、グリッドは血反吐を吐きながら壁際まで吹き飛んだ。

 

しかし、手加減をされていたのか、即死はしなかった。グリッドは意識を辛うじて繋ぎ止めながら、激痛の中、部下が一人また一人とやられていく光景を目の当たりにする。

 

……誰も動かなくなるのは三十秒も掛からず、そして、カッカッカッとヒールが床を打つ足音だけが響く。

 

グリッドが目線を向けると目の前に、返り血を浴びていない麗しい皮を被った化け物ウサギと彼女の仲間の魔獣達がいた。

 

「ま、まて……まってくれぇ……」

 

グリッドは血を吐きながら、みっともなく命乞いをする。奇しくも、かつてライセン大峡谷で誠司達に殺された部下と同じ行動を取っているのだが、誰も気付いていなかった。

 

目の前の存在が分からない。恐怖で体が震えていく。

 

自分は、あの時、一体何を逃してしまったのか。無防備にも樹海の外を彷徨いていた兎人族の群れを、これを幸いと追い回した。

 

絶望を与えるように、男や老人は目の前で殺してやった。それで、最弱種族のウサギ共は心が折れて屈服する筈だった。

 

ライセン大渓谷に逃げ込んでも生き残れる可能性はなく、逃げて疲れて、そうして最後には部下が捕らえてくれる筈だった。

 

珍しい髪色の、とびっきりの上玉。蹂躙してやれば、どんな声で泣くか。仲間に見せびらかしてやろうと思っていたのに…………

 

自分はこんな化け物に手を出そうとしていたのか?

 

胸元を掴まれた。軽鎧とはいえ金属のそれが、まるで粘土のようにぐしゃりとひしゃげる。即座に掴みやすい形状が作られた。

 

「た、たのむっ。たすけてくれ! そ、そうだっ。あ、あのとき、捕らえた連中の居場所をお、教えてやるっ。俺を殺したら、取り戻せなく……」

「もう、語るべき言葉は持ちません」

 

グリッドの命乞いをばっさり切って、シアは片手で持ち上げ、宙吊りにする。

 

恨み辛みは沢山ある。だから、楽に死なせてやるものかと無意識の内に手加減してしまって、彼を最後に残すことになってしまった。

 

だが、復讐に身を焦がして我を失うようなことはしない。そんなことをすれば、ハウリアとして、誠司達の仲間として自分を許せなくなる。

 

「カヌチャ」

 

デカヌチャンが自分のハンマーをシアに手渡した。それに思わずシアは驚いた。普段、何があっても絶対に自分のハンマーを手放そうとしなかったからだ。

 

「え? デカヌチャン、良いんですか?」

「カーヌチャ」

 

デカヌチャンは大きく頷く。実は、デカヌチャン自身も似たような経験をしていた。だからこそ、シアの気持ちに少なからず共感したのだ。シアはハンマーを受け取ると、グリッドを上に投げる。そして、大きくハンマーを振りかぶった。顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「やめっ……」

「月までぶっ飛びな! ですぅ!」

 

轟音と共にグリッドは吹き飛ばされ、そのままエントランスの天窓を突き破って外へと消えた。

 

窓から見える今夜の月は、繊月だ。シアの言葉の通り、グリッドは薄笑いする月に向かって消えていったのだった。轟ッと風を唸らせて、ハンマーを一振り。

 

「ありがとうございました、デカヌチャン。ハンマーって結構スカッとしますね」

「カヌチャ!」

 

デカヌチャンにハンマーを返し、シアは少しの間、瞑目した。

 

「……皆……少しは報いることはできましたか?」

 

思い浮かぶのは、今はもういない失った家族。自分のために、故郷すら捨てた大切な人達。

 

そんな彼らを思いつつも、次の戦いに向けて気持ちを切り替えるシア。

 

「よし。次も頑張らないと………え?」

 

そう言いながら、目を開けると、目の前にはカラマネロが浮かんでいた。いつの間に姿を現したようで、ホルード達は臨戦態勢を取る。

 

「マーロ」

「あなたはっ……」

 

シアも身構えるが、もう遅かった。カラマネロが眩い光を放ち、シア達の意識を奪った。




原作でのシアは、ハンマーで戦うスタイルですが、本作でのシアは、その場にあるものを武器にしてポケモン達と一緒に戦うスタイルです。

筆が乗ったので、24日0:00にもう一話投稿します。

お楽しみに!
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