魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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誓約

ガハルドは何故、自分がこんな風に倒れ伏しているのか原因は何かと察する。

 

「っ、毒かっ」

 

パーティー会場に、ガハルドの苦悶の伴う声が響いた。誰もが、不敗の象徴たる皇帝陛下の敗北に呆然とする中、ハウリア族の一人が倒れ伏すガハルドにスっと近寄る。そして、視力と聴力を回復させる薬をガハルドに施した。ついでに、聴力を回復させる薬を部屋の上から散布して、他の帝国貴族達にも振りまく。

 

「ふむ。気付かれないよう、少量ずつ降らせていたのだが、ここまで保つとはな」

「クソがっ、最初からそれが狙いだったか……」

 

天井にはドクケイルがガハルドに向かって毒の鱗粉を振りまいていた。ドクケイルの鱗粉はプロレスラーでもダウンさせる程の効果を持つ。それをガハルドに浴びせて、体力を少しずつ奪っていたのだ。衣服に仕込まれた魔法陣やアーティファクトも全て取り除かれ死に体となったガハルドは視力と聴力か回復されたところで推測を肯定されて悪態を吐く。

 

そんなガハルドに、突如、頭上から光が降り注いだ。“フラッシュ”を使えるポケモン達が、フラッシュライトのようにガハルドを照らしているのである。

 

「どどどどど、どういうことですか!? ここここ、これは!?」

「いいから落ち着いてくださいよ、姫さん。今クライマックスなんですから」

 

襲撃の際、リリアーナは皇太子バイアスの傍らにいたのだが、邪魔にならないようにとリリアーナの被害を避けるために、既に会場の隅で避難していたハジメ達の下へ、ユエが空間魔法を使って回収していた。

 

いきなりゲートに引き摺り込まれたかと思ったら真っ暗となり、騒乱となり、皇帝陛下がぶっ倒れているのである。王女といえど動揺せずにいられない。そして、光輝達もまた違う意味で動揺していた。光輝は幾人もの帝国貴族達が死んだことに顔を顰めているし、香織や雫、鈴、龍太郎も、青ざめた表情で黙り込んでいた。

 

これが、亜人の境遇を改善する最大のチャンスであり、文字通りハウリア達の運命を左右する一戦であることを理解しているためじっとしているが、やはり目の前で繰り広げられる惨劇をあっさり割り切ることは出来ないのだろう。

 

もっとも、たとえ割り切れなくとも静観する以外に道はない。帝城に入る前に、誠司がカム達に()()()()を出していたことを知っていたからだ。

 

もし万が一、感情に任せて「これ以上はやり過ぎだ!」等と言いながら、邪魔をしてくる者がいた場合は、そいつも帝国民と同様に扱って構わない……と。下手に介入しようものなら、ハウリアは容赦なくその者の首を刈り取るだろう。

 

「さて、ガハルド・D・ヘルシャー。今生かされている理由は分かっていますね?」

「ふん、要求があるんだろ? 言ってみろ、聞いてやる」

「……減点。立場を弁えなさい」

 

姿は見えず、パーティー会場全体に木霊するように響き渡るカムの声は、ガハルドの横柄な態度に、僅かな間の後、無機質な声音で忠告した。そして、その忠告を、ガハルドは部下の命という形で叩き込まれることになった。

 

突如、ガハルドから少し離れた場所にスポットライトが当たる。そこには、ガハルドと同じく手足の腱を切られ、詠唱封じのために口元を裂かれた男の姿があった。その男にスポットライトの外から腕だけ伸びてきて、髪を掴んで膝立ちさせたかと思うと、次の瞬間には、男の首が嘘のようにあっさりと斬り飛ばされた。

 

「てめぇ!」

「減点」

 

思わず怒声を上げるガハルド。生き残りが悲鳴を上げ、息を呑む。しかし、返されたのは機械じみた淡々とした声のみ。再び別の場所にスポットライトが降り注ぎ、同じように男の首が刈り取られた。

 

「このっ、調子にのっ……」

「減点」

 

ガハルドはカムに悪態を吐くが、それに対する返答は、やはり淡々とした声音と、首刈りという罰だけだった。

 

「………」

 

ギリギリと歯ぎしりしながらも押し黙り、ガハルドは、それだけで人を殺せそうな眼光で前方の闇を睨む。

 

そんなガハルドにカムは淡々と話しかけた。

 

「そう、地を舐めている意味を理解してください。判断は素早く、言葉は慎重に……ですよ。今、この会場で生き残っている命は、あなたの言動一つにかかっているんですから。もっとも、それを理解するまでに三人が犠牲になりましたが」

 

その言葉と同時に、いつの間にかスポットライトの外から伸びてきた手が素早くガハルドのネックレスをかけた。細めの鎖と先端に紅い宝石がついたものだ。

 

「それは、“誓約の首輪”。ガハルド、あなたが口にした誓約を、命を以て遵守させるアーティファクトです。一度発動すればあなただけでなくあなたに連なる魂を持つ者は生涯身に付けていなければ死ぬ。誓いを違えても、当然、死ぬ」

 

そして、皇帝一族の人間は既に確保しており、ある一人以外は同じアーティファクトが掛けられていると伝えるカム。ガハルドは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

───アーティファクト“誓約の首輪”

 

魂魄魔法により、口にした誓約を魂レベルで遵守させる効果を持つ。具体的には、発動状態で口にした誓約が直接魂魄に刻まれ、誓約を反故にしたり、首輪を外そうとすれば魂魄自体が強制霧散させられる。

 

また、ガハルドの一族に対しても効果をあり、同じく“誓約の首輪”を付けなければ死ぬことになる。要するに皇帝一族に末代まで誓約を守らせるというアーティファクトだ。

 

「誓約……だと?」

「誓約の内容は五つ。一つ、現亜人奴隷の解放。二つ、樹海への不可侵・不干渉の確約。三つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止。四つ、その法定化と法の遵守。五つ、魔獣に対する不当な扱いの禁止。理解出来たのであれば、『ヘルシャーを代表してここに誓う』と言いなさい。それで発動します」

「……ちょっと待て。魔獣に対する不当な扱いの禁止ってのはどういうことだ?」

 

亜人族に関する誓約はまだ理解出来るが、最後の魔獣に対する扱いに関してだけは理解出来なかったので、ガハルドは思わず尋ねた。当然の疑問ではあるので、カムが答える。

 

「譲れないことではあるが、亜人奴隷が解放、奴隷化が禁止になれば、帝都の復興は大幅に遅れることになるでしょう。よって、ある御方が寛大にも、救済措置として魔獣の貸し出しを行ってくださるそうです。だが、今のあなた方に無償で貸し出しても奴隷扱いを受けるのが目に見えている。だからこそ、誓約の一つとして盛り込んだまで。もちろん、攻撃的な魔獣に対して無抵抗になれと言っている訳ではないので、そこはご安心ください」

「ある御方……ね」

 

ガハルドは、チラリと誠司達がいる方に視線を向ける。

 

「さぁ、誓約をしなさい、ガハルド」

「ふん、呑まなければどうなるんだ?」

「今日を以て皇室は終わり、帝国が体勢を整えるまで将校の首が飛び続け、その後においても泥沼の暗殺劇が延々と繰り返される。我らハウリア族が全滅するまで、帝国の夜に安全の二文字はなくなり、帝国の将校達は、帰宅したとき妻子の首に出迎えられることになるでしょうね。……試してみますか?」

「帝国を舐めるなよ。俺達が死んでも、そう簡単に瓦解などするものか。確実に万軍を率いて樹海へ侵攻し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼすだろう。分かっている筈だ。帝国が本気になれば、それが可能だと。今までフェアベルゲンを落とさなかったのは……………」

「畑を潰しては収穫が出来なくなるから」

「分かってるじゃねぇか。大体、亜人どもがそんな扱いを受けていたのは、ひとえにてめえらが弱かったからだ。弱え奴は、強者の餌になるくらいしか使い道がねえんだよ。そういう意味じゃあ、ハウリアは面白い。なぁ、今ならまだ間に合うぜ。たとえ“奴ら”の力を借りたのだとしても、この短期間で帝城を落とした手際、さっきの戦闘……失うのは惜しい。今なら、俺直属の一部隊として優遇してやるぞ?」

「論外ですね。その言葉を我らが簡単に信じるとでも? それこそ、誓約してもらわないと」

「だったら戦争だな。俺は絶対に誓約など口にしない」

 

口元を歪めるガハルドに、カムはどこまでも機械的に接する。

 

「そうですか。残念です。『デルタ1、こちらアルファ1。やれ』」

 

突然、ガハルドにとって意味の分からないことを言い出したカム。訝しそうな表情になるガハルドだったが、次の瞬間、腹の底に響くような大爆発の轟音が響き渡り、顔色を変える。

 

「っ、なんだ今のは!」

「なに、大したことではありません。奴隷の監視用兵舎を爆破しただけですよ」 

「爆破だと? まさか……」

「ふむ、中には何人か眠らされていたか。………少なくとも、数百人単位の兵士が死んだでしょうね。あなたのせいで」

「貴様のやったことだろうが!」

「いいえ、あなたが殺したのです、ガハルド。あなたの決断が兵士の命を奪ったんですよ。更に……『デルタ1、こちらアルファ1、やれ』」

 

その言葉にガハルドは咄嗟に制止の声をかける。

 

「おい! ハウリアっ」

 

しかし、返答は二度目の轟音だった。帝城ではない。帝都の何処かで大爆発が起きた。感情を押し殺した声音でガハルドが尋ねる。

 

「……どこを爆破した?」

「治療院です」

「なっ、てめぇ!」

「爆破したのは軍の治療院、死んだのは兵士と軍医だけですよ。もっとも、一般人の治療院、宿、娼館、住宅街、魔人族襲撃で家を失った者達の仮説住宅区にも仕掛けていますがね。リクエストはありますか?」

「一般人に手を出してんじゃねぇぞ! 堕ちるとこまで堕ちたかハウリア!」

「……おかしなことを。戦争とはそういうものでしょう。それに……あなた方は女子供でも亜人を虐げていたでしょうに。立場が変わればその言い草とは……『デルタ、やれ』」

「待てっ!」

 

若干呆れ気味の声を出しながら、カムは容赦なく命令を下す。

 

三度起きた爆音に、ガハルドは今度こそ、帝国の民が建物ごと爆破されたと思い込んで歯ぎしりをした。

 

しかし実のところ、爆破されたのは帝城に続く跳ね橋だったりする。帝都で爆破事件が起きれば帝城に報告に来るのは必然なので、唯一の入場ルートを破壊しておいたのである。更に言えば、カムの言葉はバッタリで、軍と関係のない場所に爆弾を仕掛けたりしていない。この爆弾は、帝都に潜入しているハウリア族の部隊が手動で爆破しているので、設置出来る場所に限りがあったというのもあるが、自分達は決して帝国人と同じならないという一つの矜恃でもあった。

 

嘘でも、ハッタリでも、詐術でも使って相手を打倒する。それが今のハウリアなのである。

 

「あなたが誓約しないというのなら、仕方ありません。本格的に戦争となる前に帝都を吹き飛ばし、あなた方への手向けとしましょう。数千、あるいは数万人規模の民が死出の旅に付き合うことになるでしょうが……まぁ、悪くない最期かもしれませんね」

 

ガハルドは容赦のない要求に、即断できず沈黙している。その頭の中は目まぐるしく状況の打開方法を探っているのだろうが、妙案は一向に出てこない。苦みしばった表情と流れる冷や汗が、追い詰められていることを如実に物語っていた。

 

そして、そんな状態でもカムは全く容赦しない。返答が遅い、と命令を下す。

 

『デルタ1、こちらアルファ1。や……』

「待てっ」

 

ガハルドが慌てて制止の声をかける。そして、苛立ちと悔しさを発散するように頭を数度地面に打ちつけると、吹っ切ったように顔を上げた。

 

「かぁーーっ、ちくしょうが! わーったよっ! 俺の負けだ! 要求を呑む! だから、これ以上、無差別に爆破すんのを止めろ!」

「それは重畳。では誓約の言葉を」

 

要求が通ったというのに、やはり淡々と返すカム。ガハルドは、もはや苦笑い気味だ。そして、肩の力を抜くと、会場にいる生き残り達に向かって語りかけた。

 

「お前ら、すまんな。今回ばかりはしてやられた。帝国は強さこそが至上。こいつら兎人族は、それを帝城を落とすことで示した。民の命も握られている。故に……」

 

生き残り達が、王の言葉を聞いて悔しそうに震える中、一人の男が怒声を上げる。ガハルドの息子であり、皇太子のバイアスだ。

 

「何言ってんだっ。奴隷どもが居なくなったら楽しみが減るじゃねぇか! たかだか平民風情のためにっ……」

「……黙れ、バイアス。てめぇも、次の皇帝になるんなら奴隷のことなんかより民のことを考えろ。国は民がいなければ成り立たない。それを忘れんじゃねぇよ」

「……っ」

 

ガハルドがそう語りながらバイアスを睨む。ガハルドの睨みに、バイアスは思わず押し黙る。そして、ガハルドは悔しそうにするバイアスや生き残り達を目に焼き付けるように見て声を張り上げた。

 

「ヘルシャーを代表してここに誓う! 全ての亜人奴隷を解放する! ハルツィナ樹海には一切干渉しない! 今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する! これを破った者には帝国が厳罰に処す! 魔獣達についても同様だ! 奴隷化と迫害を禁止する! その旨を帝国の新たな法として制定する!」

 

誓約が成されたと同時に首輪に施された宝石が輝きを放つ。そして、ガハルドは最後に、皇帝として宣言をした。

 

「この決断に文句ある奴は、俺の所に来い! 俺に勝てば帝国をくれてやる! 後は好きにしろ!」

 

「亜人を今まで通り奴隷扱いしたければ、ヘルシャーの血を絶やせ! 受けて立つ!」という宣言だ。本当に、実力至上主義を体現した男である。

 

「ふむ、正しく発動したようですね」

 

その言葉と共に、会場の一角にスポットライトが降り注いだ。そこにはバイアス以外の皇帝一族が並んでいた。全員が既に“誓約の首輪”が身につけられている。

 

「ヘルシャーの血を絶やしたくなければ、誓約は違えないことです」

「分かっている」

「では、明日には誓約の内容を公表し、少なくとも帝都にいる奴隷は明日中に全て解放してください」

「明日中だと? 一体、帝都にどれだけの奴隷がいると思って……」

「……やりなさい」

「クソったれ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!」

「解放した奴隷は樹海へと向かわせます。それから、ガハルド。あなたもフェアベルゲンまで同行してください。そして、長老衆の眼前にて誓約を復唱して頂きます」

「一人でか? 普通に殺されるんじゃねぇのか?」

「そこはご安心を。我々が無事に送り返しますので。死なれたら、色々と面倒なのでね』

「はぁ、分かったよ。お前らが脱獄した時から、嫌な予感はしてたんだ。それが、ここまでいいようにやられるとはな、怒りを通り越して笑っちまう。……最後に一つだけ良いか?」

「……なんです?」

「バイアスだけ皇族の中に入っていないのは何故だ?」

 

バイアスはガハルドの息子であり、皇太子だ。当然、並んでいる皇族と同様に“誓約の首輪”を着けられているはずなのに、彼の首にはそれがない。それどころか、他の皇族達と離れた場所に取り押さえられている。

 

「彼にはある疑惑がありましてね。だから隔離したまでです」

「疑惑だぁ? それは一体どういう……」

 

ガハルドが怪訝そうにそう言ったその時、カツン、カツンッという足音が響いた。

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