魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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微妙に間に合いませんでした……


帝国の夜明け

「シア! どうしたんだ!?」

「シア! 一体何を!? 誠司殿達だぞ!」

 

カム達が必死に呼び掛けるが、シアは全く反応がない。無表情で再びテーブルを投げつけようとする。同時にホルード達も襲い掛かってくる。ひとまず、自分が貸し出したポケモンはどうにかしようと誠司やハジメ、ユエはイトマル達をボールに戻そうとするのだが、どういう訳か光が跳ね返されて戻せない。おそらく、カラマネロに何か細工をされたのだろう。

 

カム達ハウリアもポケモン達を使って、どうにかシア達を押さえようとするが、中々難しい。このままでは埒があかないと判断した誠司は、怒鳴る。

 

「ハウリアは戦えない奴らを引っ張り出してくれ! 急げ!」

『は、はっ!』

 

カム達は狼狽えつつも、誠司の指示に従ってガハルド達を連れて部屋を出て行こうとする。光輝達も続いて戦おうとしたが、ハウリアのポケモン達が力づくで退出させる。そんな時、カラマネロは誠司の手元から小瓶を掠め取っていた。

 

「なっ!? しまっ、ラストスタンドが……」

「マーロ」

 

“すりかえ”で奪った薬品ラストスタンドを手に、カラマネロはチラリとある方向に視線を向けた。未だ倒れ伏しているバイアスだ。動けない帝国の人間を部屋から出していたのだが、ガハルドや他の貴族を優先した結果、バイアスが後回しになってしまったのだ。カラマネロは、バイアスの眼前に姿を現した。

 

「お、おい! お前! 助けてくれよ! 俺はまだ死ぬには惜しい男のはずだ! だから……「マーロ」……へ?」

 

カラマネロがバイアスを見る目は、非常に冷たいものだった。既にカラマネロはバイアスを見限っていた。自尊心が高く、脳味噌と股間が直結したような愚物。以前力を貸していたカトレアの方がずっと優秀だった。正直、殺したくなるのを抑えるのが大変だったくらいだ。

 

「マロマーロ」

「な、何だよ。その目は……」

 

今まで見たことのない冷酷な表情を浮かべているカラマネロに、バイアスの顔は目に見えて怯えている。そして、カラマネロは有無を言わさずに小瓶をバイアスの口に押し込んだ。

 

「!? むぐっ!? うっ……!?」

「カラカラ」

 

異物を押し込まれて、目を白黒させるバイアス。咄嗟に吐き出そうとするが、吐き出すことが出来ない。

 

「がはっ! てめぇっ、何をし……ぐっ!?」

 

思わず怒鳴ろうとしたバイアスだったが、すぐに身体に異変が起こる。目は真っ赤に染まり、髪は白く変色し、肉体も筋骨隆々になっていく。同時に膨大な魔力が溢れているのか、彼の周囲が蜃気楼のように揺らぎ始める。

 

「うがああぁぁぁ……」

 

もはや、この場にバイアスという男は存在しない。正真正銘の化け物に成り果ててしまった。

 

「バ、バイアス……」

 

ハウリアに担がれた状態で部屋から出されそうになっていたガハルドが呆然とした様子で呟いた。誠司は思わず舌打ちした。

 

「こんな時に……!」

「マーロマロ」

 

カラマネロは愉快そうに笑う。そんなカラマネロに向かって、レパルダスとヤミカラスが同時に“あくのはどう”で攻撃を仕掛ける。二体とも、オルクス大迷宮でこのカラマネロに操られたので恨み心頭だったのだ。

 

だが、そんな二体の恨みを嘲るように、カラマネロはヒョイヒョイッと躱す。カラマネロがボソボソと何かを囁くと、バイアスは微かに頷き、巨大な魔力の塊を作り始める。ラストスタンドを投与した者は自我を失って暴走するはずなのだが、何故か動きが落ち着いている。

 

「ぐううぅぅぉぉぉ」

 

いち早くバイアスが何をしようとしているのか悟ったユエが叫ぶ。

 

「っ!? ……皆! 彼、爆弾か何かを作ってる! あの規模だとこの部屋……いや城が危ない!」

『!?』

 

“しめりけ”の特性を使っても防ぎ切れない規模らしく、カラマネロは悪辣な笑みを浮かべている。そうしている間にも、魔力の塊は大きくなっている。このままでは帝城は愚か、帝都ごと滅ぼすことも考えているのかもしれない。

 

これを止めるにはまずカラマネロをどうにかしないといけない。操られて暴れるシアはミロカロスが巻き付いて動きを止め、更にエーフィとムウマージの“サイコキネシス”で封じ込めている。だが、このままではジリ貧だ。他のポケモン達もユエ達が抑え込んでいるが、催眠状態で潜在能力全てが引き出されているのか、かなり手強く、押さえ込むので精一杯だ。

 

レパルダスとヤミカラスが再び、カラマネロに攻撃を仕掛けようとするが、カラマネロは返り討ちにしてしまう。吹っ飛ばされる二体。その時、テーブルの下でヤミカラスはあるものを見つけた。連れ出した貴族令嬢が身につけていたアクセサリーだが、そのアクセサリーには黒っぽい紫色の石が付いている。()()を見たヤミカラスは迷わず、嘴を突き付ける。

 

「ガアァァァァッ!!」

 

野太い、どこか不気味な雰囲気の鳴き声と共に、テーブルクロスを突き破って姿を現したのは、ドンカラスだ。その姿を見て、誠司は目を見開いた。

 

「進化したのか……」

「ガァ」

 

誠司の言葉に、ドンカラスはコクリと頷く。レパルダスも一瞬驚くが、すぐに冷静さを取り戻し、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

魔獣図鑑の技能で、誠司はドンカラスが新しい技を覚えたことに気付いた。

 

「よし、新しい技を覚えてる。しかもおあつらえ向きだ。行くぞ、ドンカラス。“とんぼがえり”!」

「ガアァァッ!」

 

ドンカラスは、一瞬でカラマネロの眼前に迫ると、腹に鋭い爪を突き立てた。

 

「ッ!? マロッ!」

 

攻撃を食らい、咄嗟に反撃しようとした時には既にドンカラスは誠司の側に戻っていた。虫属性の技なので、エスパー・悪属性のカラマネロには効果抜群の技だ。

 

効果抜群の攻撃を受けたことで、カラマネロの注意が逸れた隙に、背後から迫る影があった。レパルダスだ。誠司が指示を飛ばす。

 

「“つじぎり”」

「ニャアッ!」

「マロッ!?」

 

カラマネロが気付いた時にはもう遅く、背後に一撃を受けてしまう。しかも急所に入ったことで、カラマネロはシア達にかけていた“さいみんじゅつ”を解除してしまった。洗脳が解けたことで、シア達は力が抜けたように倒れ込むが、ユエ達が咄嗟に怪我がないように支える。

 

それを見たカラマネロは舌打ちをし、忌々しそうに誠司達を睨み付けると、バイアスに向かって何かを叫んだ。

 

「マロマロッ!」

「逃すか! ドンカラス、“とんぼがえり”!」

「ガアァァッ!」

 

ドンカラスがカラマネロに迫るが、カラマネロが逃げる方が早かった。カラマネロに逃げられたことに苛立たしさを覚えるが、今は悔しがっている場合ではない。バイアスが作った魔力爆弾はもう限界寸前だ。逃げても帝都は滅びるだろう。その時、ハジメに名案が浮かび。

 

「……そうだ! エーフィ、メタグロス、“ひかりのかべ”! バイアスの周りに結界を張るんだ!」

「っ! そういうことか! クレッフィ、ミロカロス! お前達もだ!」

 

四体が“ひかりのかべ”を展開させて、バイアスごと魔力爆弾を包み込んでいく。だが、これだけではまだ被害は出るだろう。ハジメが叫んだ。

 

「ユエ、ティオ!」

「……ん、分かった!」

「心得た!」

 

ユエとティオもハジメが何をして欲しいのかを瞬時に悟って応えた。まずティオが“かえんほうしゃ”で天井に大きな穴を開ける。そして、ユエが重力魔法を使って“ひかりのかべ”に包まれたバイアスを上空に向けて吹き飛ばす。

 

 

直後、上空がカッと光を放ち、その数秒後に大きな爆発音が聞こえてきた。だが、四重に張った“ひかりのかべ”により、帝都が被害を受けることはなかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

「う、うぅ……わ、たしは……」

 

ベッドの上で目を覚ましたシアは、目を擦りながら周囲を見渡す。頭がぼんやりする中、目の前の景色から、自分が今フェルニルの一室にいることを理解するシア。

 

「えっと、私は確か……ホルード達と一緒に帝国兵の足止め……を……」

 

少しずつ思い出すうちに、シアは段々と青ざめていく。その時、扉が開いた。誠司達とカムだ。誠司達はシアが目覚めたことに安堵の表情を浮かべていた。

 

「良かった。シア、気が付いたんだね」

「ハ、ハジメさん……皆さんも」

「それで、調子はどうだ?」

 

誠司がそう尋ねると、シアは謝罪する。目覚めたばかりだというのに、土下座する勢いだ。自分のせいで、帝国との戦いに負けてしまったと思い込んでいるようだ。

 

「ごめんなさい! カラマネロに操られて、私はとんでもないことを……」

「シア」

 

シアの謝罪を、父親であるカムが止める。怒られる直前の子供のように、泣きそうな顔をしているシアに対し、カムは優しい表情だ。

 

「シア。我々はお前を責めたりなどしていない。寧ろ危険な目に合わせてすまなかった」

「ぐずっ、父様……でも私のせいで、父様達の戦いが……」

「いや、お前は十分足止めを果たしてくれた。おかげで、帝国との戦いに勝利することが出来た」

「ふぇ?」

 

思わず呆けた声を上げるシア。ガヤガヤとどこかフェルニルが騒がしい。下の方から聞き覚えのない声が多数聞こえてくる。それに気付いたシアは、尋ねた。

 

「あの〜、他に誰か乗っているんですか?」

「ん、沢山の亜人達がいる」

「うむ、樹海に送り届けないといかんからの」

「え……ということは、本当に勝ったんですか? 私達」

 

シアの言葉に、大きく頷く誠司達。そこでようやく、シアは奴隷解放に成功したのを実感したようで、ヘナヘナとへたり込んだ。

 

そんなシアを見て、思わず笑ってしまう誠司達。

 

今回の戦いは帝国のトップに首輪を着けて、ハウリア族が帝国に真の意味で対抗できる程に力を蓄える時間を稼ぐことが目的だった。だが、帝国のトップが法で定めたところで、樹海への不可侵・不干渉や亜人の奴隷化・迫害禁止がどこまで守られるかは微妙である。皇帝一族を排してでも亜人の奴隷化を望む者達は出てくるだろうし、ただでさえ抽象的な誓約の穴を見つけ出して帝国が亜人族を再び虐げる可能性は大いにあるだろう。

 

そういう意味では、ハウリア族の本当の戦いはまだまだこれからだと言える。だが、そのための第一段階を踏み込むことが出来たのは確かだった。

 

それが分かっているカムはどこか誇らしげで、これからの戦いへの決意に溢れていた。




ちょっと駆け足になってしまいましたが、第七章はこれで完結です。次章をお楽しみに!

ちなみに、カラマネロがバイアスに使ったラストスタンドは、改良型で飲ませた相手の言うことを聞く効果も追加しています。なので、バイアスもカラマネロの言うことを聞いていました。
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