誠司達は再び大迷宮攻略を再開した。その途中に誠司とハジメは自分達の境遇を話した。ユエに教えてほしいとせがまれたからだ。誠司とハジメがあらかた話し終えると、すすり泣く声が聞こえて来た。二人が振り返るとユエがハラハラと涙を流していた。隣のシャンデラも涙目である。その様子に2人は思わずギョッとする。
「お、おい…… いきなりどうしたんだよ?」
「……ぐす……誠司……ハジメ………つらい………」
どうやら二人のために泣いているらしい。ハジメは苦笑いを浮かべてユエの頭を撫でる。
「気にしないで。正直言って、もうクラスメイトのことはどうでも良いんだ。復讐とかそんなことにこだわっていても何にもならないし。それよりも生きてこの迷宮を出ることに集中しないとね」
「ハジメの言う通りだ。生きてなきゃ何にもならんからな」
「……んっ」
ハジメと誠司がそう言うとユエは納得してくれたようだ。その直後、2人はユエに吸血された。ずっと封印されていたので血を吸いたくて堪らなかったらしい。吸血鬼は血を少しでも吸えば魔力や空腹感を回復することが可能なのだそう。幸い、こっちまで吸血鬼になることはないので献血するようなものと思えば特に問題はない。誠司とハジメ、どちらの血も美味しいらしく気に入られた。
ユエ曰く誠司の血は温かくホッとするような味、ハジメの血は栄養満点のスープのような味とのことだ。吸血鬼特有の感覚なので誠司達には一生分からないだろう。ちなみにシャンデラは人やポケモンの魂・生命エネルギーを餌にしているのだが、基本的にユエの生命エネルギーを吸収しているそうだ。ユエは不死身なので魔力さえあれば好きなだけ吸い取れるのだ。
つまり、どちらも誠司達が食べる食料はそこまで必要ないということだ。ただでさえ食料が少ない今はすごくありがたかった。そのことを遠慮がちに伝えるとユエ達も納得してくれた。
そんなやりとりをしつつ誠司達は大迷宮攻略を進めて行った。ユエとシャンデラが加わって以降は比較的順調に進んで行った。誠司やハジメのポケモン達のレベルも上がっているのもあるが、ユエの魔法が強力で凄まじい活躍を見せたのが大きい。相棒のシャンデラもゴースト属性らしいトリッキーな動きでユエをサポートしている。数百年という付き合いの長さは伊達ではない。
相変わらずハジメは空いた時間を利用して鉱石から何かを錬成して作っているようだが、何を作っているのかは全く分からない。だが、段々とコツが掴めて来ているらしく、完成も近そうだ。いったい何が出来るのか……
次に誠司達が降り立った階層は樹海だった。高い木々が鬱蒼と茂っていて空気も湿っぽさがある。以前の密林地帯と違って大して暑くないのが救いだった。ここでも木の実が色々生えているらしく、誠司達は嬉しそうに木の実に齧り付いた。
その時だった。種のようなものが上から降って来た。ネマシュがまもるを発動させて防ぐ。誠司が慌てて上に視線を向けると、大きな影がいた。その影は攻撃を外したのを見るとすぐにツルのようなもので枝を器用に掴んで去って行ってしまった。
「なんだったんだ?」
「分からない。でも……」
「……用心した方が良い」
それから誠司は用心しつつも先を急ぐことにした。
「それにしても…… あのポケモンは一体なんだったんだ……」
「……そういえば、誠司もハジメも魔獣のことをポケモンと呼んでるけど何で?」
そこで誠司は召喚前からポケモンの知識があり、その知識でのポケモンとこの世界の魔獣と存在が同じだと説明した。そのためこの世界では魔獣と呼ばれているが、自分やハジメはポケモンと呼んでいるとも。ユエは最初驚いたが、異世界から召喚されたというしそういうものかと考え直し納得した。たしかに、魔獣と呼ぶよりはポケモンと呼んだ方が親しみが湧く。シャンデラも同様の気持ちのようだ。
そして、樹海を抜けようとしたその時、誠司達の前に先程の大きな影が現れた。その影の正体はモジャンボだった。この樹海の環境が良いのか体のツルが伸びに伸びまくっていて原型を留めていない。そのツルの先には色々な物を巻き付けているようだった。モジャンボは腕を伸ばして誠司達に攻撃を仕掛けて来た。どうやら、この樹海から逃がすつもりは無いらしい。
「仕方ない。戦うしかないか……」
「ああ。モジャンボは草属性だ。炎系の技はよく効くはずだ」
「……それなら任せて。緋槍!」
ユエが炎の魔法を放つ。名前の通り、炎を槍状にした魔法のようだ。ユエが魔法を放つと同時にシャンデラも炎技を放った。激しい青い炎の塊だ。魔獣図鑑によると“れんごく”という技らしい。だが、モジャンボは木々を伝って身軽に躱してしまう。
モジャンボは今度は大小様々な岩を虚空から作り出してそれを無差別に降り注ぐ。“げんしのちから”だ。ユエやシャンデラは思わず身を守ろうとする。その時ーーーー
「ネマシュ、イーブイは“まもる”! ケンタロスはミズゴロウを投げ飛ばしてミズゴロウはあの岩に“いわくだき”!」
「マシュ!」「イブ!」
まずネマシュとイーブイが全員を防御する。先に降ってきた比較的小さめの岩は“まもる”で防ぐことは出来た。次にケンタロスは自分の角でミズゴロウを勢いよく投げ飛ばした。ミズゴロウはまだ落下途中の大きな岩に向かって“いわくだき”を放つ。それによって大岩は亀裂が走り、粉々に砕け散った。
「ジャジャン!?」
これには思わずモジャンボも面食らったようで激しく動揺した。なにせ、あの技はモジャンボにとって切り札とも言える技だったからだ。しかし、動揺のせいで自分に向かって来る存在に気付くのが遅れてしまった。
ヒバニーだ。モジャンボは木の上を自在に移動出来るが、ヒバニーの跳躍力も負けていない。あっという間に枝を足場にしてモジャンボがいる所まで到達する。それを確認するとハジメが指示を出した。
「よーし、ヒバニー! “ブレイズキック”!」
「ヒバッ!!」
ヒバニーは燃える足をモジャンボの顔面に叩きこむ。それによってモジャンボはバランスを崩し、木から落下した。地面に叩きつけられたモジャンボは何とか立ち上がる。どうやら全身のツルがクッションになったようだ。だが、かなりのダメージになったようで足取りがおぼつかない。
モジャンボも不利を悟ったのか途端に周囲にいた他のポケモン達の体をツルで拘束し始めた。どのポケモン達も逃げ出そうと必死にもがくが、抜け出せない。そのうち、ポケモン達が苦しみ始めた。誠司はあのモジャンボが何をしているのかを理解した。
「あの技は……“メガドレイン”か! おい! アイツ、回復してるぞ!」
それを聞くとハジメはすぐにヒバニーとイーブイに指示を出す。ユエとシャンデラも炎技を繰り出した。だが、モジャンボはツタで拘束したポケモン達を盾のようにし始めた。
それを見た誠司は顔を顰める。
(くそっ! あのモジャンボ、随分頭が回るみたいだな。どうすれば………)
このままではモジャンボの体力が完全に回復されかねない。そうなればさっきの大ダメージも水の泡だ。どうしようか考えている時、突然大きな爆発音が轟いた。慌ててその音がした方向に目を向けると、誠司は自分の目を疑った。
その音の正体はハジメだった。いや、正確にはハジメが手に持っていたものだった。ハジメの手には大型の拳銃が握られていた。どこか不恰好な形をしているが、威力はかなりのものなようだ。モジャンボの太いツタが千切れ、解放されたポケモンは慌ててその場から逃げ出していた。ハジメは続いて五回程、発砲してポケモン達を次々に解放していった。
捕らえられたポケモンが残り一体になった時、モジャンボは
「モフゥ!」
「ほぉ…… どうやらユエに随分懐いているみたいだな、そのモクローは」
「みたいだね。まぁ、命の恩人だしね」
「……そうなの? それなら……一緒に来る?」
「シャシャン?」
「モフッ!」
モクローはユエに飛び込んだ。こうして、ユエはモクローをゲットした。ユエは優しくモクローの頭を撫でる。モクローも気持ち良さそうだ。
「まぁ………それよりも………だ」
誠司がハジメに詰め寄った。
「何なんだよ、その武器は!? お前、銃を作ったのか!?」
「え? う、うん……… 随分時間が掛かったけどなんとか出来上がったんだ」
「お前、マジで凄いな! こんな物まで作れるなんて…… あれ? もしかして錬成師ってある意味最強の職業なんじゃないか?」
「ほ、褒め過ぎだよ……… これでもまだまだの出来なんだから。弾とかももっと必要だし」
誠司から手放しに褒められてハジメは謙遜しつつもまんざらでも無い様子だ。ユエも先程の銃の威力を目の当たりにしているので素直に褒める。
「………ん。ハジメ、すごい」
「ユエ…… うん。ありがとう」
その時、ふとポケモン達の気配を感じた。またモジャンボが復活したのかと警戒するが、違った。目の前には先程ハジメが助けたポケモン達がいた。先程はモジャンボから解放されてすぐに逃げ出したが、また戻って来たようだ。そして。ポケモン達は口々にお礼の言葉を言って去って行った。どうやら、ハジメにお礼を言うためだけに戻って来たようだ。
誠司はハジメの背中を叩く。ハジメもどこか嬉しそうだった。
ユエ、モクローゲットです。これで誠司、ハジメ、ユエにそれぞれ御三家のポケモンが仲間になりました。世代はバラバラですが。次回でオルクス大迷宮の最終ボスと決戦です。
また、原作でのハジメの相棒ドンナーもここで登場です。階層を攻略しながら作ったので登場が遅く、性能も原作より若干低いです(纏雷が使えないため)。