魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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メタモン

体に纏わりつくような濃霧の中を、誠司達は迷いのない足取りで進んでいた。

 

ハルツィナ樹海の真の大迷宮……の入口である大樹ウーア・アルトに向かうためだ。大樹近辺は、普段あまりにも密度の高い霧のせいで、亜人族でも感覚を狂わされるのだが、定期的に霧の濃度が下がる時がある。

 

誠司達がフェアベルゲンに到着して三日後に大樹への道が開ける周期が訪れた。都に滞在している三日間、アルフレリック達のもてなしもあって、誠司達は中々快適な時間を過ごすことが出来た。その間も様々な出来事があった。

 

主に、誠司がハウリア全員からポケモンバトルを申し込まれたり、シアがいつの間にかアルテナと仲良くなっていたり、龍太郎が戦士達に絡んだり、ティオが魔法で亜人の子供達を喜ばせたり、光輝が元奴隷の女の子達に絡まれたり、鈴が亜人の子供達にハァハァしながら絡んだり、雫が亜人の女性達から「お姉様」と絡まれたり、香織が以前治した怪我人達から改めてお礼を言われたり、ユエが新たな魔法を開発したり……といったものだ。

 

ちなみに、リリアーナ達は、長老衆と話がまとまり次第、王国に送り返された。王国でやることが山積みだからだ。帰る直前、リリアーナは誠司にお礼を言いつつ、他に何か言いたそうにしていたが、結局言わずに移動ゲートを通って行った。そんな主君を見て、ヘリーナや近衛騎士達は何故か誠司を睨んでいたが、最終的に彼らも特にそれには触れずに帰って行った。誠司は意味が分からず、ただ首を傾げるだけだった。

 

「右から来るぞ」

「──っ」

 

霧に紛れて奇襲を仕掛けてきたのは、緑色の体と、頭や腕にある葉が特徴的なポケモン、ジュプトルだ。五体のジュプトルが、持ち前の高い瞬発力と跳躍力で、枝から枝に飛び移り、光輝達のもとに迫ったのだ。しかし、誠司、ハジメ、ユエ、シア、ティオ、ハウリア達は一切対処せず、全て光輝達に任せていた。光輝達は、大迷宮初挑戦なので、ウォーミングアップをしてもらおうと考えたためだ。

 

だが、樹海の霧は亜人族以外の感覚を著しく狂わせるため、オルクス大迷宮表層でやっていた戦闘とは勝手が異なる。なので、光輝達はウォーミングアップどころではない苦戦を強いられているようだった。

 

今も、側面から奇襲を受けそうになり、誠司の忠告で辛うじて凌いだ形だ。光輝は僅かに顔を顰めている。苛立ちが募っているようだ。それは龍太郎達も同じで、先程から舌打ちが止まらない。結界でパーティーを守る鈴と香織も、遊撃に徹する雫も、難しい表情をしている。光輝達の相棒ポケモン達も、各々相棒をサポートしており、そのおかげもあってか、時間はかかったが、どうにかジュプトル達を撃退することに成功した。逃げ帰るジュプトル達を見送りつつ、ハジメが労いの言葉をかけた。

 

「お疲れ、大分ポケモンと息を合わせられるようになってきたみたいだね」

「うん、ラッキーと過ごして色々分かってきたと思うよ。ね、ラッキー」

「ラキラッキ」

「ええ、でもここから先は一筋縄ではいかないでしょうね……」

 

そんな懸念を口にする雫に、光輝は声を掛ける。

 

「大丈夫だ、雫。ポケモンがいるんだ。大迷宮さえクリア出来れば、俺達はもっと強くなれる。それに、中西や南雲は非戦闘系天職。力の上り幅もきっと大きいはずだ」

「だな。どんな魔法が手に入るのか楽しみだぜ」

「うん、頑張ろうね!」

 

別に誠司達の強さの源は、神代魔法だけという訳でもないのだが、その辺はスルーして光輝がグッと握り拳を作った。龍太郎や鈴も気合十分なようだ。それに水を差す必要もないので、誠司もハジメも何も言わない。

 

「みなさ~ん、着きましたよぉ~」

 

そんな時、シアが肩越しに振り返りながら大樹への到着を伝える。濃霧の向こう側へ消えていくシアを追って誠司達も前へ進むと霧のない空間に出た。前方には以前見た時と変わらない枯れた巨大な木がそびえ立っている。

 

「これが……大樹……」

「でけぇ……」

「すごく……大きいね……」

 

頭上を見上げ、大樹の天辺が見えないこと、横幅がありすぎて一見すると唯の壁のように見えることに口をポカンと開けて唖然とする光輝達。きっと、初めて訪れたとき自分達も同じような表情になっていたのだろうなと、ハジメとユエは顔を見合わせて小さく笑みをこぼした。

 

そんな光輝達をよそに、誠司は根本にある石板のもとに歩み寄る。石版も以前と変わらず、七角形の頂点に七つの各大迷宮を示す紋様が描かれており、その裏側には証をはめ込む窪みがあった。石板の前でしゃがんで白衣の裏につけている攻略の証を外していると、光輝達もようやく大樹の偉容から解放されたようで、正気を取り戻し誠司達のもとへ集まって来た。

 

ハジメは「気を引き締めろ」と言うように鋭い視線を一瞬だけ光輝達に向けると、カム達ハウリア族に声を掛ける。

 

「カムさん、ここからは何が起こるか分からない。だから離れておいて」

「了解しました。ご武運を」

 

大樹への案内役を買って出たカム達ハウリアだったが、その役目も終わりを迎えたことに少し残念そうな表情になりつつも、一斉に散開していった。

 

それを確認した誠司は、白衣から外した四つの証のうち、オルクス大迷宮を攻略した証、ベテランシンボルを石版の窪みにはめ込んだ。一拍置いて、石版が淡く輝き出し文字が浮き出始める。

 

ーーー四つの証

ーーー再生の力

ーーー紡がれた絆の道標

ーーー全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう

 

「前と同じ文言だな。それなら……」

 

誠司はそう呟きながら、残りの証もはめ込んでいく。マネージシンボル、ペイシェンスシンボル、ヒストリーシンボルの三つだ。

 

一つはめ込んでいく度に、石版の放つ輝きが大きく強くなっていく。そして、最後のヒストリーシンボルをはめ込むと、その輝きが解き放たれたように地面を這って大樹に向かい、今度は大樹そのものを盛大に輝かせた。

 

「む? 大樹にも紋様が出たのじゃ」

「……次は、再生の力?」

 

ティオが興味深げに呟いた通り、大樹の幹に七角形の紋様が浮き出ていた。トコトコとその輝く紋様に歩み寄ったユエは、そっと手を触れながら再生魔法を行使する。

 

直後、眩い光が大樹を包み込み、ユエの手が触れている場所から、まるで根から水を汲み取るように光を隅々まで行き渡らせ、徐々に瑞々しさを取り戻していく。

 

先程まで枯れた状態だった大樹が生命力を取り戻していく光景に、誠司達はある種の感動を覚えつつ、それを見つめる。そして最後に、正面の幹が裂けるように左右ながら分かれ大樹に洞が出来上がった。数十人が優に入れる大きな洞だ。

 

誠司達は顔を見合わせ頷き合うと、躊躇うことなく巨大な洞の中へ足を踏み入れた。正直なところ、実際に大迷宮を四つ以上攻略していないと挑戦出来ないのではないかという懸念はあったが、杞憂だったようで、全員洞の中に入ることが出来た。恐らく、「入れるものなら好きにしろ」というスタンスなのだろう。

 

入った洞の中は特に何もないようだった。ただ大きな空間がドーム状に広がっているだけである。

 

「行き止まりなのか?」

 

光輝が訝しそうに呟いた。

 

直後、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始める。外の光が徐々に細くなっていく。思わず慌てる光輝をハジメが一喝する。入口が完全に閉じ暗闇に包まれた洞の中で、咄嗟にユエが光源を確保しようと手をかざした。が、その必要はなかった。

 

何故なら、足元に大きな魔法陣が出現し強烈な光を発したからだ。

 

「うわっ、なんだこりゃ!」

「なになに! なんなのっ!」

「転移系魔法陣だ! 皆、覚悟を決めろよ!」

 

動揺する龍太郎や鈴に誠司が注意した直後、彼らの視界は暗転した。

 

 

ーーーーーーーーーー

「っ……ここは……」

 

再び光を取り戻した誠司達の視界に映ったのは、木々の生い茂る樹海だった。大樹の中の樹海……何とも奇妙な状況である。

 

「皆、無事か?」

 

光輝が軽く頭を振りながら周囲の状況を確認し仲間の安否を確認した。それに雫達が「大丈夫」と返事をする。誠司達も特に問題はないようで、周囲を警戒し鋭い視線を飛ばしている。光輝が困惑した様子で尋ねた。

 

「中西、ここが本当の大迷宮なんだよな? ……どっちに向かえばいいんだ?」

 

今自分達がいる場所は、周囲三百六十度、全てが木々で囲まれたサークル状の空き地であり、取るべき進路を示す道標は特に見当たらなかった。上は濃霧で覆われているので、上空から道を探すことも出来そうにない。

 

誠司は、頭痛がするのか、こめかみを押さえており、傍らには勝手にモンスターボールから出てきたのかキュウコンがユエ達に向かって唸り声を上げている。

 

「……厄介だな。探さないと」

「そ、そうか。つまり探索ってことだな。それなら俺が先頭を行く。何かあったら教えてくれ」

 

光輝はそう言って、先陣を切ろうと歩き出した。神代魔法は、大迷宮に試練攻略を認められないと授かれないと聞いて、率先して動きたかったのだろう。雫達も彼に続いて歩き出す。だが、誠司はある人物を睨みつけたまま、キュウコンにある指示を飛ばした。

 

「キュウコン、“ほのおのうず”」

「コンッ!」

 

キュウコンの炎が一瞬で、ユエとティオを包み込んでしまった。炎の熱さに苦しげな表情を浮かべるユエとティオ。そんな彼女達を見て光輝達が唖然とする。しかし、直ぐに正気を取り戻すとキッと音がしそうな強い眼差しを誠司に向けた。

 

「中西! 一体、なんのつもりだ!」

 

光輝が思わず怒声を上げる。雫達もどこか緊張したような表情で誠司に視線で事情説明を求めた。一方で、ハジメとシアは何かに気付いたようで、ハッとした表情を浮かべている。

 

「……少し黙ってろ」

 

誠司はそれだけ言って、キュウコンに炎の威力を強めるように指示する。更に苦しそうにするユエ達を見て、香織と雫は思わず誠司を止めようとするが、逆にハジメとシアに止められる。光輝は力づくで止めそうな雰囲気だったが、次の誠司の言葉で霧散することになった。

 

「……いい加減、“へんしん”を解除したらどうだ? …………メタモン」

「「「「………え?」」」」

 

光輝達が驚きの声を漏らす。それと同時に、ユエとティオは無表情になる。やがて、ユエの白い肌はピンク色に変わり、赤い目も黒い小さな点のような目に変わった。ティオも同様だ。身体もドロドロになっていき、最終的にはピンク色の粘土のような体に、小さい点のような目をした生き物の姿になった。メタモンだ。

 

「メチャァ……」

「メタァ……」

 

キュウコンに“ほのおのうず”を解除させると、誠司は改めてメタモン達に尋ねた。

 

「……それで、本物のユエとティオはどこにいる? 知っているんだろ? 正直に答えろ」

 

メタモン達はお互いに顔を見合わせて、小刻みに震えた。どうやら、首を横に振っているつもりらしい。

 

「メメタァ、メッチャ」

「メタモーン」

 

誠司は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「……変身してる? どんな姿かは知らない? それってどういう……」

「メチャア」

「メッタ」

「ちょっと待……」

 

言うだけ言った二体のメタモンはそのまま、誠司の制止も聞かずにどこかへ行ってしまった。

 

「……はぁ、やってくれるよ。流石は大迷宮だ」

 

誠司はキュウコンをモンスターボールに戻しながら、悪態を吐く。キュウコンは「良いの?」と言いたげな様子だが、誠司が小さく首を横に振ると大人しくボールに戻っていった。そんな誠司にシアが尋ねる。

 

「誠司さん、ユエさんとティオさんは……」

「転移の際、別の場所に飛ばされたんだろうな」

「そういえば、僅かに、神代魔法を取得する時の記憶を探られるような感覚があったね。それで僕達の記憶を基にあのメタモンってポケモン達に変身してもらって、隙を見て背後から……か」

 

ハジメの推測を聞いて、香織と鈴はゾッとしたように身震いした。二人ともホラーな展開が苦手なのだ。雫が誠司に見分け方を尋ねた。また成り済ましで仲間に紛れられたら困ると思ったからだ。

 

「中西君は、どうやって正体に気付いたの?」

「簡単だ。転移してからずっと魔獣図鑑の技能が発動して、メタモンの情報が頭に入ってきてたんだよ。それに、よくよく見てみると、あまり言葉を発していなかったし。言語能力まで細かくコピーは出来ないみたいだな」

「そ、そうなのね。じゃあ、無口な人が怪しいってこと?」

「ああ。ついでに言うと、そいつもメタモンだ。気をつけろよ」

「「「「え?」」」」

 

誠司が指した方向に、光輝達が思わず視線を向けると、そこには龍太郎がいた。龍太郎……ではなく、メタモンはやがて顔をドロドロにして光輝に向かって、襲い掛かろうとした。

 

「メメタアアァァッ!」

「りゅ、龍太郎!?」

「ムクーーーーッ!!」

 

ムックルがモンスターボールから飛び出し、“つばさでうつ”で思い切りメタモンをどつく。すると、龍太郎に変身していたメタモンは、“へんしん”を解除すると、大人しくどこかへ行ってしまった。

 

「ビ、ビックリしたぁ……」

「まだメタモンがいたのね……」

「あ、ありがとう、ムックル。中西! 龍太郎が偽物だと知っているのなら、もっと早くに教えてくれても良いだろう!? それかさっきのメタモン達と一緒に……」

「だから、手遅れになる前に教えたろ? それに、俺達はお前達を攻撃出来ない……そういう『誓約』だったはずだが?」

 

光輝達勇者パーティーが、誠司達に同行して大迷宮攻略するにあたり、ポケモンを持つことの他にも別に条件があった。

 

ハジメが作ったアーティファクトの中に、“誓約の紙”というものがある。これは、一見すると普通の青い紙なのだが、その紙に魔力を通しながら書いた内容は誓約として機能し、誓約を破った者が持つ紙は色が赤色に変わるという効果を持っている。以前、ガハルド達に使った“誓約の首輪”より前に作られた試作品だ。あくまで魂魄魔法を試す用途で作った代物なので、人を傷つけるような機能はないが、噓発見器としては役立つ。

 

これを使って、誠司達と光輝達はある誓約を交わしていた。

 

『大迷宮攻略中、勇者パーティーの者(光輝、龍太郎、雫、香織、鈴)は、誠司、ハジメ、ユエ、シア、ティオの誰かに対して、悪意及び敵意を持って攻撃(物理・魔法・ポケモンによるもの)してはならない。その逆もまた然り。誓約を破った者は()として対処して良し』

 

……というものだ。自分達を一切信用していないやり方に、光輝は眉を顰めたものの、それをしなければ大迷宮には絶対に連れて行かないと言われたことと、雫からの説得もあって、渋々ながらも誓約を交わした。“誓約の紙”自体は、ビリビリに破っても効果を発揮するので、十分割して各々手元に持っている。

 

そういう訳なので、誠司達は光輝達勇者パーティーを攻撃することが出来ないのである。一応、龍太郎に擬態したメタモンなので、誓約を破ったことにはならないかもしれないが、万が一ということもあるので、教えるだけに留めたのだ。

 

誓約のことを言われると光輝も何も言えず、黙り込む。そんな周囲の微妙な空気を払拭するかのように、ハジメがパンパンと手を叩きながら、声を掛けた。

 

「まぁ、とにかく。先を急ごう。ユエ達を探さないと」

「そ、そうだね! 龍太郎君もいないってことが分かったんだし、急がないと!」

 

ハジメに同調するように、香織も言った。

 

そして、一行は、大迷宮攻略と同時に、仲間を探すため、樹海へ足を踏み入れるのだった。

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