魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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男は過去に囚われ、女は未来に生きる


甘い夢

ジリリリリッ!!

 

目覚まし時計のアラームがけたたましく鳴り響く。誠司は目を覚ました。起き上がって一つ欠伸をした後に、大きく伸びをする。ベッドの下にある寝床ではマシェードが同様に大きく伸びをする。

 

「ん〜〜っ! よく寝た。今日も面白い夢だったな」

「マーシェ」

「おはよう、マシェード。それじゃあ早速、書くか」

 

 

誠司は十歳の頃から、ある夢を見るようになっていた。少年が不思議な生き物ポケットモンスターと共に色々な地方を渡り歩く夢だ。誠司はその夢を見るのが毎晩の楽しみだった。

 

ベッドから降りた誠司は、自室の机に向かった。そして、一冊のノートを取り出した。表紙には『夢日記 ポケットモンスター⑧』と書いてある。日記を開いて空欄のページに、今さっきまで見ていた夢の内容を書き記す。具体的には、少年はヨロイ島という島に行って小熊のようなポケモンと一緒に修行するという内容だ。小熊のようなポケモンは、ダクマというらしい。

 

「……これでよし、と」

 

夢の内容を書き終えた誠司は、ノートを鞄に詰め込むと制服に着替える。ネクタイを締め終えると、下の階から母親の声が聞こえてきた。

 

「誠司~、朝ごはん出来たわよ~」

「あいよ~」

 

誠司はそう返事をすると、マシェードをモンスターボールに戻し、そのボールを腰に巻かれたベルトに着ける。誠司のベルトには、マシェードのボールを含めて六個のモンスターボールがあった。

 

部屋を出て階段を降りると、そこには母親と父親が先に朝食を食べていた。

 

「「おはよう、誠司」」

「ああ、おはよう」

 

今から三年程前、新種の生き物が多く発見されるようになった。奇しくも、誠司が夢で見たポケモン達と同じ姿や生態をしており、ひどく驚いたものだ。最初のうちは大騒ぎになったものの、人間は適応する生き物である。三年も経てば、騒ぎもある程度は収まった。今では、ポケモンと仲良く共存している。

 

そして、中にはポケモンと絆を育み、ポケモントレーナーと名乗る者も出てきた。かく言う誠司も、その一人である。

 

(しかし、驚いたよな。あのポケモンが現実に存在するようになったんだから。最初にネマシュと仲良くなって、それからミズゴロウやイーブイといったポケモン達にも出会ったんだよな)

 

そんなことを考えていると、ふと違和感を覚える。

 

(……あれ? ネマシュは確か近所の茂みで弱っていたのを助けたのがキッカケだったけど、ミズゴロウやイーブイ、ケンタロス達と出会った場所はどこだっけか? 薄暗い洞窟みたいな場所だったり、草原みたいな場所だったと思うが……)

 

現実でポケモン達が姿を現したのは、三年前だ。だが、三年の間に自分はそんなところに行ったか。少なくとも、両親の実家は県内で、遠い田舎にあるという訳でもない。自分がミズゴロウ達と出会った場所はどこだったのか。疑問が浮かぶと、違和感もそれに比例して膨らんでくる。

 

その時……

 

「あっ、おーい! 誠司!」

 

いつの間にか、自分は駅の改札口を通っていたらしい。朝の通勤ラッシュということもあって、自分と同じ学生やサラリーマン達が大勢たむろしている。そんな集団の中で、自分を呼ぶ声が響く。その声に心臓が跳ねて、思考の渦に呑み込まれかかっていた誠司の意識は急速に現実へと浮上する。

 

声の主は、()()長髪を後ろで結んだ少女だ。誠司と同じ学校のブレザーの制服を着ている。勿論、女子なのでスカートだ。少女は欠伸をしながら、誠司に向かって手を振っている。

 

「おう、ハジメ。おはよう。また夜更かしか?」

「うん。父さんから頼まれた仕事が思いの外はかどってね。気が付いたら空が白み始めてたんだ」

「おいおい。熱中するのは良いけど、程々にしとけよ。別に急な仕事って訳でもないんだろ? やりすぎて身体を壊したら元も子もないんだから」

「たはは……耳が痛いな。うん、気を付けるよ」

 

穏やかに会話する誠司とハジメ。二人の間にはどこか甘い雰囲気が漂っている。そうこうしているうちに、電車がやって来た。二人は、他の大勢の乗客達と電車に乗り込み、目的地まで運命を共にする。

 

ハジメとは中学時代に知り合った。まだポケモンが現実世界に現れる前、誠司が書いた夢日記をハジメが興味を持ったのがキッカケだ。それがキッカケで、二人は親友になった。そして、そんな二人の関係が変わったのは、高校に入ってからだ。

 

中学の時は、男子の制服を着ていたのだが、実はハジメは女子だったのだ。色々事情がアレなので伏せるが、とにかくハジメは中学の時まで男子として過ごしていた。そして、誠司と親友になり、交流が続くうちに好意を抱かれていたらしい。

 

最初は誠司も凄く驚いたものの、それでもハジメはハジメだと受け入れることが出来た。だが、流石にその時は恋人云々までは受け入れられなかったのだが、それからの一年間ハジメから猛アプローチを受け、最終的にはそれに折れる形で、二年生になったと同時に恋人関係になった。

 

(それにしても、親友だと思ってたら実は女の子で、恋人になりました……なんてどこかの漫画みたいだな。人生分からないものだ)

 

そんなことを思いながら、誠司は愛しい恋人から、電車の扉の小窓に視線を向ける。いつもと変わり映えしない景色がそこにあった。ポッポの群れが空を飛んでいるのが見える。

 

(平和だな……)

 

ぼんやり景色を眺めていたため、誠司はハジメが小声で何かを言っていたことに全く気が付かなかった。

 

学校に到着した誠司とハジメが下駄箱で上履きに履き替えていると、明るい元気いっぱいな声が聞こえてきた。

 

「ハジメさ~ん! 誠司さ~ん! おはようございますぅ!」

「ん……おはよう。ハジメ、誠司」

「ふわぁ、おはよう、シア、ユエ」

「おはようさん」

 

目の前にいるのは、ユエとシアだ。二人とも外国人で、どちらも外国で一悶着あった末に、仲良くなった。二人もまた誠司達と同じポケモントレーナーで、ポケモンのことが大好きだったのも大きかった。それから、いつの間にか日本にやって来て、どうやって突き止めたのか知らないが、誠司達の学校の編入手続きまで済ませてしまったのだから凄い行動力だ。編入生としてユエとシアが自分達の目の前に現れた時は誠司もハジメも目を飛び出すくらいに驚いた。

 

美貌の金髪美少女とであるユエと、トレードマークのカチューシャをつけた淡青白色の髪をした美少女のシアは、転入して僅か一日でファンクラブが誕生した程だ。その人気ぶりは凄まじく、今でもファンクラブの会員を増やし続けているという。

 

ハジメはユエとシアと楽しそうに話をしている。そんな彼女達を見つめていると、ふと誠司は違和感を覚えた。

 

(……ん? そういえば、シアってあんなカチューシャをつけてたか? もっと違う感じだったような……)

 

またしても違和感が膨れ上がったその時、別の人物の声が掛かった。

 

「これこれ、四人とも。いつまでも下駄箱にたむろしとらんで、早く教室に行くのじゃ。予鈴が鳴ったら、また怒られてしまうぞ」

「「「「は~い。ティオ先生」」」」

 

英語のティオ先生にそう注意されてしまった。彼女もまた、ユエ達に負けず劣らずの美貌で、グラマラスな身体をしており、生徒・教師問わず人気がある。この間も、数学の浅田先生が彼女を口説こうとして見事に振られたらしい。

 

誠司達が走って教室に向かう。そんな誠司達の背中に向かって、「廊下は走らんようにな!」という注意が更に飛んできた。

 

 

ーーーーーーーーーー

放課後になり、誠司とハジメは並んである場所に向かっていた。ユエとシアが気を利かしてくれたのか、二人きりにしてくれたのだ。そんな訳でしばらく他愛ない会話を楽しみつつ、二人は幼稚園に到着した。

 

ここに、ご近所さんであるレミアの娘、ミュウがいる。ミュウとは、誠司とハジメがデート中に知り合った。迷子になってしまい、泣きべそをかいていたミュウを二人で助け、一緒に母親を探してあげたのだ。それが縁で二人はミュウから懐かれてしまい、レミアも早くに旦那を亡くして女手一つでミュウを育てていることもあって非常に忙しく、見かねた誠司達はミュウのお迎えを手伝ってあげることになったのだ。

 

「あっ、誠司お兄ちゃん! ハジメお姉ちゃん!」

 

正門を通って幼稚園の敷地に入ると、ミュウが満面の笑みを浮かべて走り寄ってきた。思わずほっこりする誠司とハジメ。突進してきたミュウを二人がかりで受け止めてギュッと抱き締めてやる。

 

「こらこら、ミュウちゃん。飛び込んじゃダメだよ。危ないでしょ?」

「んみゅ……ごめんなさい……」

「さぁ、帰ろうか」

「うんっ!」

 

幼稚園の先生に挨拶をして、誠司達三人は一緒に帰路を歩む。最初のうちは、幼稚園の先生から少し警戒されたものの、今はそんな様子はない。レミアが話を通したことやミュウが二人に懐いていることも大きい。

 

ミュウが今日幼稚園でやったことを喜々として語るのを聞きながら、誠司はふと広場のような場所を見つけた。それを見たミュウが「バトルコートなの!」と大声を上げた。

 

ポケモントレーナーがポケモンバトルをするための場所。それがバトルコートだ。ポケモントレーナーが現れるうちに、そういった設備が建てられるようになっていった。ポケモンバトルが出来るからといっても、使える技には制限があるし、夜中は使用出来ないといった細かい規定が多く設けられてはいる。だが、それでもポケモンバトルが出来ることにトレーナー達は目を輝かせて喜んだものだ。

 

「ねぇ、誠司お兄ちゃん! ハジメお姉ちゃん! ポケモンバトルして欲しいの!」

 

ミュウのわがままに、誠司とハジメは互いに顔を見合わせる。まだ時間に余裕がある。それに、ハジメとしてはこの間誠司に負けたばかりなのでリベンジを果たしたい気持ちもあった。そういう訳で、二人は一対一のポケモンバトルを行うことになった。

 

「二人とも頑張って~~、なの!」

「フルフルゥ!」

 

バトルコートの近くのベンチに腰掛けたミュウが応援の声を上げる。その隣にはフローゼルがいる。ハジメの手持ちポケモンなのだが、ミュウと仲が良く、何かあった時のためにミュウの側にいてもらっているのだ。

 

誠司とハジメはコートの端で互いに見つめ合い、同時にポケモンを繰り出す。

 

「出番だ、()()()()()!」

「ブモオォォ!」

「勝つぞ、ドクロッグ!」

「キエエエェイ!」

 

ドクロッグを見て、誠司はケンタロスをチラリと見やる。

 

(ドクロッグか。格闘技に注意が必要だな。でも、ケンタロスも“じならし”とかが使えるし、全くの不利って訳じゃない。それに毒にも……)

 

一瞬、誠司の脳裏にある光景が浮かび上がった。倒れ伏すケンタロス。その隣で大粒の涙を零すイーブイ。顔を引き攣らせながら、震える手でケンタロスに触れる自分。そんな悪夢のような光景が………

 

「ドクロッグ、“かわらわり”だ!」

 

ハジメの声で誠司の意識は現実に戻される。そうだ。今はバトルに集中するべきだ。そう考えなおした誠司はケンタロスに技を指示する。

 

「“とっしん”で迎え撃て!」

「ブモオォォッ!」

 

バトルは白熱し、誠司のケンタロスが勝利を収めた。悔しがるハジメをよそに、誠司はホッと一息吐く。それからケンタロスにモモンの実を食べさせてやる。毒状態になっている可能性を考慮したのだ。ケンタロスは「自分は大丈夫だ」と言いたげだったが、無理矢理にでも食べさせる。まるで、そうしないといけないと言うかのように。あの光景が脳裏を過ったのが原因なのかもしれない。

 

ミュウをレミアのもとに送り届け、ハジメと別れた誠司は、家に帰る。風呂から上がり、夕食の時間になって、母親と父親と一緒に夕食を食べる。今晩はオムライスだった。

 

父親が誠司に今日返された中間テストについて聞いてきた。

 

「そういえば、誠司。中間テスト、返ってきたか?」

「うん、歴史と生物、現代文が返ってきたよ。歴史は八十四点、生物は六十九点、現代文は八十八点。どれも平均以上だよ」

 

テストの結果を聞いて、父親は満足そうに頷いた。

 

「そうか。頑張ったじゃないか。流石、俺の息子だな」

「っ! うん……」

 

嬉しい言葉のはずなのに、何故か心がざわつき、誠司は曖昧に返事を返す。

 

夕食を食べ終えた誠司はそのまま自室に戻る。ベッドに身を投げ出した誠司は、何かを考え込むように眉を顰めていた。ずっと違和感があった。本能的な何かが自分に向かって警鐘を鳴らすのだ。「これは違う!」「目を覚ませ!」と。

 

そんな時、一つのモンスターボールからマシェードが姿を現した。

 

「マッシェー、マシェマ」

「ん? どうしたマシェード」

「マーーシェッ!」

 

マシェードは突然、“キノコのほうし”を振りまいた。

 

「うわっ!? いきなり何を……」

 

胞子によって、誠司の瞼が重くなっていく。意識が途切れそうになる。

 

その時だった。

 

『誠司! なんでこの問題が解けないんだ!』

 

父親の罵声が頭の中に響いた。誠司の意識が急速に浮上していく。まだまだ父親の罵声は続く。

 

『良いか! 次のテストでは算数は八割を超えろ! 分かったな!?』

『あれだけ教えただろうが! なんで出来ない!?』

『……はぁ、もう良い』

 

ベッドに腰掛けた誠司は大きく溜息を吐いた。

 

(……皮肉なもんだ。()()()の言葉で全てを思い出すことになるなんてな)

 

誠司の姿も、いつの間にか変わっていた。いつもの白衣を羽織り、左腕は義手になっている。

 

「つまり、ここは夢か何かって訳か。お前も……いや、お前だけじゃない。何もかもが偽物なんだよな?」

 

誠司が近くにいたマシェードに問いかける。マシェードは何か考え込む素振りを見せた後に口を開いた。いつものポケモンの言葉ではなく、流暢な日本語で。もう誤魔化す必要がないと判断したからかもしれない。

 

「その通り。ボク達は誠司の記憶を基に作り出された理想の存在。全てが誠司の理想のまま」

「理想……か」

 

ポケモン達と共に生き、ハジメやユエ、シア、ティオ達とも日本で平和に生きていく。もう会えないはずのあの人やケンタロスもいる。確かに、理想的と言える世界だろう。

 

だが、それだけだ。

 

「……どうすれば、元の世界に戻れる?」

「そんなの簡単だよ。この世界を否定すれば良い」

「……そうか」

 

誠司は、そう一言だけ呟く。誠司は大きく息を吸って声に出して否定の言葉を叫ぼうとする。だが、中々その言葉が口から出てこない。そんな誠司を見たマシェードが訝しげな様子で尋ねた。

 

「どうしたの?」

「……この世界を否定するということは、自分のこれまでの()()を肯定するってことだよな?」

「……そういうことになるね」

 

中学入試に失敗して、それがキッカケで家庭が崩壊したこと、ケンタロスが毒状態になっていることに気付かず、死なせてしまったこと。それらの()()が「正しかった」「そうなって良かった」と言うことが出来なかった。

 

そんな誠司に対して、マシェードは小さく首を横に振る。

 

「でもね、後悔の全くない人生なんてない。どんなに辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものが君という人物を作り出しているんだ」

「それ…は……」

 

その時、誠司達がいる空間全体に亀裂が入り始めた。マシェードの体も同時に薄くなる。

 

「……どうやら、時間切れみたいだね。外で仲間が君を起こそうとしている。力づくでだけど」

「……そうか。この場合、俺は試練に失敗したことになるのか?」

「残念ながらね。でも、大迷宮はまだ終わっていない。まだまだ挽回のチャンスはあるよ」

 

そして、「バリィイイイン!!」という音と共に世界が壊れた。それから、誠司の意識が薄れていく。

 

「だから……頑張ってね」

 

消えゆくマシェードの最後の言葉はどこか優しいものだった。その言葉を最後に、誠司の意識は途絶えた。




ありふれ二次創作で、主人公がこの試練を失敗する展開って何気にないよなぁ。

誠司の詳しい過去は後々書いて行こうかと思います。
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