魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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匂いによる快楽

巨樹を目指して誠司達は歩みを進める。道中、茂みからタギングルやオリーニョといったポケモンが襲い掛かってきたものの、サクッと返り討ちにしていく。だが、茂みを抜けてからはポケモンの気配がまるでしなくなり、誠司達は怪訝な顔を浮かべていた。

 

「……妙だな。さっきは色々出てきたのに」

「う〜む。なんとも嫌な感じじゃの」

「うん。何だか、オルクスで待ち伏せされた時みたい」

「確かに……」

 

誠司とティオが眉を顰めてポツリと零すと、香織と雫も魔人族の女、カトレアの待ち伏せにあった時のことを思い出し、緊張感と警戒心に満ちた鋭い視線を周囲に飛ばした。

 

その時、龍太郎が鼻をヒクヒクさせながら尋ねた。

 

「なぁ、何か匂わねえか?」

「え? ……本当だ。良い匂い……まるで、百貨店の香水売り場にいるみた……い」

 

鈴も鼻をスンスンと動かしながら、同意する。だが、次の瞬間、総毛立った。こんなうっとりするような匂いが、樹海の中でするはずがないと気付いたからだ。

 

同時に、誠司の魔獣図鑑の技能が反応する。五十以上の反応だ。誠司達の周囲にはピンク色の小鳥のようなポケモン達がフヨフヨと浮かんでいる。シュシュプだ。

 

『シュプ!』

「匂いのもとはこいつらか! あれだけの数が潜んでたのに、魔獣図鑑が感知しないとかどんな隠密性だよ!」

 

魔獣図鑑の技能は、基本的にポケモンの気配に反応して殆ど自動的に発動する。だが、隠密性に優れたポケモンであれば、魔獣図鑑の感知から離れることが出来るのだ。オルクス大迷宮でも、魔獣図鑑が感知せずに、苦戦したことは何度かあった。だが、あれから魔獣図鑑の精度も上がり、オルクス大迷宮を攻略してからはそういうことが一切なかったので誠司もすっかり失念していた。

 

誠司は内心舌打ちしながら、ベトベトンを繰り出した。シュシュプはフェアリー属性、毒や鋼属性の攻撃に弱い。ハジメもメタグロスやドクロッグを、シアもデカヌチャンを出していく。

 

そんな時、異常事態が起きた。

 

「ぐぅっ!?」

 

最初は頭がボーッとして集中力が切れる程度だったのだが、急に立つのも困難になり、思わず四つん這いになる。

 

「誠司、どうしたの!?」

 

驚いたハジメが叫ぶが、誠司は答えない。慌てて周囲を見渡すと、誠司と同様に、ユエやシアも耐え難い何かを身悶えているようだった。ティオはどこかボーッとしており、ユエ達のように顕著ではないが、それでも反応がどこか鈍い。

 

光輝達も例外ではなかった。

 

「うぅ、うぅ……なにこれぇ」

「うぅ、か、身体が………」

「うぁ………」

 

自分を抱きしめるように蹲る鈴。香織も身悶えしながら四つん這いになっており、まともに動けない。龍太郎の目は、正気を失ったように虚ろになっている。光輝も血走った目で近くの香織や雫を見つめており、おもむろに立ち上がると二人へと手を伸ばし始めた。

 

「ふぅふぅ……っ、負けて、たまるもんですか」

 

雫も同じように身悶えた後、何かを耐えるような表情で、グッと唇を噛めた。ツーと血が滴り落ちるのも気にせず、寧ろ、その痛みで僅かに正気が戻った隙に、すっと背筋を伸ばして座り直した。まるで見本のような美しい正座の姿勢で瞑目し、その後は微動だにしない。所謂、瞑想というやつで、効果があるのか頬の赤みが徐々に取れ、静寂を纏い始めている。

 

とはいえ、余裕は一切ないようだ。正気を失う一歩手前だったのだろう。自分へ手を伸ばす光輝に気付く様子は一切ない。

 

雫の名を呟きながら、正気を感じられない眼差しの光輝がすぐ傍まで迫っている。倒れ込んで喘いでいる鈴の方にも、近くにいた龍太郎が覆い被さろうとしている。

 

「仕方ない。まだ試作段階なんだけど……せいっ!」

 

流石にマズいと判断したハジメが、あるアーティファクトを宝物庫から取り出した。両サイドに丸い鉱石の重りが付いたワイヤーだ。所謂、ボーラと呼ばれる投擲武器で相手を自動的に拘束する効果を持つアーティファクトだ。しかも、両サイドの球状の鉱石には空間魔法を付与しているので、相手を空中で磔のように固定することも可能である。

 

ハジメはそれを投げて光輝と龍太郎の動きを封じる。以前、ノイントと戦った際、一時的に彼女を拘束するためにエーフィとメタグロスの“サイコキネシス”を使って動きを封じた。だが、それでは二体が満足に動けなくなってしまい隙を晒すことになる。そう判断したハジメが新たに開発したのが、このボーラだ。まだ試作段階で、誰かに試したことがなかったが、上手く機能したようである。

 

これで一安心かと思いきや、今度は鈴が香織に向かって、手を伸ばし始めた。既にその表情は女の子として見せてはいけないものになっている。香織は四つん這いのまま、必死に自分を抑えるのに必死で気付いていない。そんな鈴もまた、ボーラで拘束して動きを封じる。どうしたものかと今後の対応を思案しているハジメに声が掛かった。

 

「ハジメ、どうやらこの匂いは強力な媚薬効果があるようじゃな」

「……あぁ、匂いだけでここまでとはな……さっきより大分マシにはなったが、まだキツイ」

 

ティオと誠司だ。誠司も先程まで、四つん這いで何かを堪えるような体勢だったのだが、どうにか耐え切ったようだ。表情はどこか疲れており、息も荒い。一方で、ティオは平然とした表情かつ、しっかりとした足取りで、更には異常事態の考察までしながら歩み寄ってくる。

 

ハジメは思わず目を丸くする。そんなハジメの困惑をよそに、ティオは言葉を続ける。

 

「この強烈な快楽は魔法行使すら阻害させるようじゃ。魔法は冷静さを保たねば、まともに発動せんからの。おまけに、時間が経てば経つほど正気を失い、快楽のまま性に溺れることになるじゃろうて」

「シュシュプは相手をうっとりさせる香りを作り出すことが出来るポケモンだが、まさかここまでとはな……」

「いや、誠司。通常のシュシュプに、ここまでの香りを作り出す能力はない。大方、解放者によって能力を強化されているか、ここら辺に媚薬効果のある木の実が多くあって、それを餌にしているかのどちらかじゃろう。シュシュプは食べたもので匂いが変化するからのぅ」

「なるほど」

「それに、この匂いはポケモン達には効果がないようじゃ」

 

ティオに指摘されて、周囲を見渡してみれば、ポケモン達に変化はない。突然の事態で気付かなかったが、確かにポケモン達には匂いの効果はないようだ。

 

「言われてみれば、確かに……」

「ハジメが無事じゃったのも、奈落の底でポケモンを食べた影響が少なからずあるかもしれんな。それで効果が薄くなっているのじゃろ」

「な、なるほど……」

 

どちらにしろ、厄介な試練だ。あのシュシュプ達による匂いで、まともに動くことは困難だ。そんな状態で、匂いの影響を受けない別のポケモン達が襲ってくれば、何も出来ずに全滅ということになるだろう。そうでなくても、快楽に負けて仲間と交わるようなことになれば、その後の関係が危うくなりかねない。正直、こんな試練を考え出した解放者は実に性格が悪い。

 

ハジメはティオの推測に納得しつつも、疑問を投げかけた。

 

「話は分かったけど、ならティオはどうして平然としているの? ドラゴンポケモンに変身出来る竜人族だから、そういうのに耐性があるとか?」

「いや、妾も少なからず影響を受けておる。事実、快楽で竜化を始めとした魔法が使えんからな。じゃがのぅ、舐めてくれるな。妾を誰だと思っておる」

「「ティオ……」」

 

不敵な笑みを浮かべながら胸を張るティオを見て、ハジメと誠司は大きく目を見開いた。

 

「妾は誇り高き竜人族。この程度の快楽なぞ、この鍛え上げた強靭な精神には意味をなさん!!」

 

ティオの力説に、ハジメも誠司も笑った。

 

「頼もしいね。それなら、ティオ。あの二人にも同じことを言ってやって。それで……万が一、諦めるようなら、これを渡してあげて」

 

少し離れた場所で悶えているユエとシアに目を向けつつ、ハジメはそう言うと、神水の入った小瓶を二本、ティオに手渡す。ハルツィナも再生魔法の使用は想定しているだろうが、神水の使用は想定していないだろう。精神的な効果があるかどうかは分からないが、試してみる価値はある。ティオは小瓶を受け取ると、頷いた。

 

一方、誠司はシアの近くでオロオロしているデカヌチャンに駆け寄り、声を掛けた。

 

「デカヌチャン、悪いが、シアの代わりに俺と一緒にあのシュシュプ達と戦ってくれないか? 匂いのもとを断ち切らないとどうにもならないんだ」

 

デカヌチャンはシアと誠司を交互に見つつ、やがて大きく頷いた。

 

「カヌチャ!」

「よし! 一時的だが、よろしく頼む!」

「カーヌチャ!」

 

誠司はベトベトンとデカヌチャンを、ハジメはドクロッグとメタグロスと共にシュシュプの群れと対峙する。先程まで、誠司達の周りで傍観しているだけで攻撃を一切しなかったシュシュプ達だが、誠司達の狙いが自分達だと気付くと、一気に臨戦態勢を取り始めた。

 

「ベトベトン、“ヘドロウェーブ”!」

「ベートォ!」

 

ベトベトンの周りから毒々しい紫色の液体が波となってシュシュプ達に襲い掛かる。だが、シュシュプ達は慌てる様子もなく、一体が“ミストフィールド”を発動させ、数体が“ひかりのかべ”を展開して防御していった。“ひかりのかべ”が複数枚張られたことで、ダメージは殆どなくなっているようだ。更に、“ミストフィールド”の効果によって、周囲には霧が立ち込め始めた。

 

「霧が……!」

「“ミストフィールド”。場にいる相手を状態異常にならなくする技だ」

 

おそらく、毒状態になることでのダメージを警戒して使ったのだろう。野生とは思えない立ち回りだ。それから、群れの一体が誠司達の周囲に特殊な壁のようなものを展開し始めた。

 

「この技は……!? マズいっ!」

 

誠司は慌ててヤレユータンを出し、指示を飛ばそうとするが、シュシュプが丸くなった状態で凄まじい回転をしながら飛んで来た。

 

「ヤレユッ!?」

 

思わず膝をつくヤレユータン。ハジメはドクロッグに指示を飛ばす。

 

「ドクロッグ、“どくづき”!」

「キエエエェイ!」

 

ドクロッグは、大きく飛び上がって、シュシュプ達に攻撃を仕掛けようとするが、シュシュプ達は素早い動きで躱していく。そんな光景を見て、ハジメは悪態を吐く。

 

「くっ、動きが速い……」

「違う。シュシュプ達は“トリックルーム”を使ったんだ」

「トリック……ルーム?」

「この空間内では、動きが遅いポケモンであればある程、素早く動くことが出来るんじゃ。おまけに、動きが遅い程、威力の上がる“ジャイロボール”で攻撃してくるとは……厄介じゃのぅ」

「メシィ」

 

ハジメの疑問に答える形で、ティオがやってきた。彼女の傍らには相棒のドラメシヤが浮かんでいる。ティオの手には、()()()()神水の小瓶が二本ある。

 

「ティオ、ユエとシアは?」

「二人とも、これは必要ないと。自力で耐えることを選びよった」

「そうか」

「じゃから、妾達も手伝おう。誠司、“トリックルーム”は一定時間が経つか、もう一度展開するかで効果が切れるはずじゃ」

「ああ、分かってる。ヤレユータン、連続で“トリックルーム”を使っててくれ」

「ヤレユ」

 

ヤレユータンは先程のシュシュプのように特殊な壁を作り始めた。それを見て、シュシュプもまた、“トリックルーム”を展開し始めた。怒涛の“トリックルーム”合戦によって、誠司達もシュシュプ達も、動きが速くなったり、遅くなったりする。

 

「シュシュプ達を一撃で倒せるくらいの大技で一気に攻めるしかないな。ハジメ、メタグロスをメガシンカさせて、“ラスターカノン”で一掃するぞ。そのためのカバーは俺達がやる」

「うむ。それが良いじゃろう。時間をかけると、こちらが不利になるからのぅ」

 

ヤレユータンが発動出来る“トリックルーム”の回数にも限度がある。一方で、シュシュプ達は、一体だけが使っているが、他の個体も使えると思った方が良い。

 

「分かった。メタグロス、やるよ!」

「メッタ!」

 

ハジメのペンダントと、メタグロスのリングが同時に光り輝く。それと同時に、メタグロスの姿が変わっていく。メガメタグロスはパワーを溜め始めた。

 

それを見たシュシュプ達は危機感を露わにした。このままではマズいと判断した彼らは、メタグロスを最優先に撃破すべきと考え、一斉に“ジャイロボール”を仕掛けてきた。

 

「ベトベトン、デカヌチャン! メタグロスを守るぞ! “とける”で防御力を上げろ! “メタルクロー”で迎撃だ!」

「ベトォッ!」

「カヌチャッ!」

 

ベトベトンとデカヌチャンは同時に動き出し、向かってくるシュシュプ達を相手にしていく。

 

「ドクロッグも“どくづき”で援護!」

「キエエエェイッ!」

 

ドクロッグも自慢の毒針を使って、迎撃していく。

 

「ドラメシヤ、“でんこうせっか”じゃ。あくまでメタグロスに攻撃が向かないように立ちまわるんじゃ」

「メシィッ!」

 

ドラメシヤは素早い動きで、飛んでくるシュシュプ達に一体、一体体当たりしていく。相性が最悪な上に、ドラメシヤ自体、火力が低い。だからこそ、“でんこうせっか”で相手の軌道を逸らしている。あくまでも、メタグロスに攻撃が当たらないよう動かしていた。

 

そうしている間に、メタグロスのパワーが溜まったようだ。

 

「“ラスターカノン”!」

「メッターーーーッ!!」

『シュプーーーーー!?』

 

銀色の光線が、シュシュプ達を一体残らず吹き飛ばしていく。シュシュプ達がどこかへ吹っ飛ばされたことで、匂いの大元は断ったものの、匂いそのものが消える訳ではないようだ。ユエ達はまだ耐えている状況だ。

 

「服にも匂いが移ってるみたいだし、これも何とかした方が良いかも」

 

メタグロス達をボールに戻しつつ、ハジメが自分の服に鼻を近付けながらそう言った。それならと誠司は、マーイーカを繰り出した。

 

「マーイーカ、“あまごい”を頼む」

「イッカ!」

 

マーイーカは頷くと、大きな雨雲を作り出した。そして、雲から雨が降り注ぎ、周囲を濡らしていく。雨の影響もあって、匂いが徐々に消えていく。それに伴って、ユエ達も完全に正気を取り戻したようで、誠司達のもとにやって来た。

 

「ん、やっと楽になった。ありがとう」

「ティオさんもありがとうございました。発破をかけてくれて。おかげで最後まで踏ん張れました」

「なに、妾は思ったことを言ったまでじゃ。気にすることはない」

「それはそうと、ハジメ。光輝達の拘束も解いてあげて欲しいのだけど」

「私達じゃ届かなくて……」

 

雫と香織に言われて光輝達を見ると、快楽に耐え切れずに気絶してしまったようで、空中で固定されたままピクリとも動かない。ハジメがボーラを解除して三人を地面に降ろす傍らで、雫と香織に賞賛の言葉をかける。

 

「二人ともよく自力で耐え切ったね。雫は剣士だから精神統一とか出来たんだろうけど、香織はすごいな」

「そうね。私は剣術を習う上で、祖父や父から心を静める方法をみっちり叩き込まれていたけど、香織はよく耐え切ったわ。すごいわよ」

「えへへ。ありがとう、雫ちゃん。雫ちゃんから教わった精神統一の呼吸がすごい役立ったんだ。だからこれは雫ちゃんのおかげだよ!」

 

ハジメから賞賛を受けて、香織は嬉しそうに、雫は少し照れくさそうに答えた。




原作では白スライムでしたが、該当するポケモンがいなかったので、代案としてシュシュプを採用しました。
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