ゴキブリモチーフのポケモンは、ヒードランやフェローチェがいますが、こちらでは難しかったので、代わりに別ポケモンで代用しました。
快楽による恐ろしい試練を乗り越え、巨樹に向かって歩みを進める誠司達。雨で濡れた服は、エースバーンの“ねっぷう”(弱)で完全に乾いている。
意識を取り戻した光輝と鈴、龍太郎の三人は凄く落ち込んでいた。彼らの周りにはどんよりした雰囲気が漂っている。匂いによる快楽で正気を失っていても、自分がしたことの記憶は残っていたらしい。
光輝も龍太郎も、雫や香織、鈴と顔を合わせることなく微妙な距離を取っている。鈴も、いつもの笑顔もなく、耳まで赤く染めたまま俯いて雫の陰に隠れる。
雫も香織も、どうにかフォローしようとしているのだが、事態が事態だけに有効打を打てないようだった。
仲間内で性的な意味で襲い合いそうになったのだから、その気まずさ、 罪悪感が半端ないのは仕方ないことだろう。特に、鈴は女の子だ。仲間とそういう関係になったということだけでなく、痴態を晒してしまったという点でも、精神には特大なダメージが入っていた。
「鈴、忘れましょう? あればっかりは仕方ないもの。幸い一線は越えなかったのだし、忘れてしまうに限るわ」
「そ、そうだよ! 誰にだって、思い出したくない思い出の一つや二つあるものだよ!」
「………シズシズ、カオリン」
やがて、雫と香織は、自身の黒歴史を引き合いに出して、鈴を慰め始めた。その甲斐もあって、鈴の精神は少し持ち直したようだ。やっと笑ってくれるようになった鈴を見て、雫と香織はどこかホッとしたような表情になった。
そんな女子三人の様子を見て、俯いていた光輝が顔を上げた。
「……南雲、その……面倒をかけた。止めてくれて感謝するよ」
「ああ、そうだった。助かったぜ、南雲。マジでありがとよ」
光輝に続いて、ずっと気まずそうに顔を背けていた龍太郎がハジメに礼を言った。
「別に礼を言われることじゃないよ。友人が襲われている光景を黙って見てる程、薄情じゃないしね。それに、まだ大迷宮は終わってないんだ。次に向けて気合いを入れときな」
そう素っ気なく返され、光輝と龍太郎は顔を見合わせると、思わず苦笑いを浮かべる。自分達ではなく、香織や雫のためにやったと言われたが、光輝と龍太郎の二人にとっても大切な仲間であり、彼女達が傷つかなくて良かったと思っているのは同じだからだ。それに、ハジメの言う通り、まだ大迷宮攻略は終わっていない。二人とも次に向けて意識を切り替え始めた。そのおかげか、先程までの気まずさも多少は晴れたようだ。
そうしてしばらく歩き続け、誠司達は遂に巨樹に辿り着いた。道中も野生ポケモンに襲われたりはしたが、シュシュプの群れと比べれば大したことのない相手だった。
巨樹に辿り着くと、今回も同じように幹に洞が出来上がる。中に入ると、案の定、洞は塞がって密室となり、前と同じく足元で転移陣が輝いて誠司達をどこかへ転移させた。
「あれ? 転移したよね?」
「そのようだ。あっちに出口もある」
誠司達が転移した場所は、巨樹の洞とそっくりな洞の中だった。一瞬、転移してないかと錯覚したハジメだったが、誠司の指さす方向を見れば、なるほど、確かに転移したのだと頷く。
周囲を見渡せば、誰も欠けずに転移してきたようだ。魔獣図鑑にも反応はないので、偽者はいないようだ。つまり今回はそのまま進めということだろう。
誠司達は一つ頷き合うと、光が差し込む出口に向かって進んだ。洞の出口から外に出た誠司達は、そのあまりの光景に、一瞬言葉を失うことになった。
洞の先は、そのまま通路となっていた。だが、その通路が普通ではない。誠司達を導くように伸びる頑丈そうな通路は、なんと洞から続く巨大な枝そのものだったのだ。幅も五メートルはあるだろう。
誠司達が背後を振り返れば、そこには外周の大きさを目測できないほど巨大な木の幹が存在していた。つまり、誠司達がいる場所は、巨大な木の、これまた巨大な枝の、その根元というわけだ。そして、伸びゆく枝の通路は、同じように巨大な木のあちこちから突き出している他の枝通路と空中で絡み合い、複雑な空中回廊を作り出していた。
「地下空間……であることは間違いなさそうですね」
頭上を見上げれば、そこには石壁でできたような天井が見える。馬鹿でかい地下空間の中心に、巨大な木が天と地を結ぶようにそびえているようだ。
ただ、巨大な木の先が見えない。いくら異世界でも、そんな木が何本もないだろう。
「……大樹?」
ユエが推測を口にした。シアが同意するように頷く。
「そういうことになりますね。ここは大樹の真下の空間ってことですか」
「でもそれだと、地上に見えていた大樹って……」
ハジメが、スケールの大きさに圧倒されたような震える声音で呟く。すると、顎を手で摩りながら思案していたティオが口を開く。
「ふむ、これが大樹ウーア・アルトで間違いあるまい。そして、地下の幹から
「ほ、本当の大きさはどれくらいになるんだ?」
光輝の引き攣ったような声色での疑問に、答えられる者はいなかった。皆が皆、改めて大樹の凄まじいまでの巨大さに度肝を抜かれて頭上を仰いだ。
その時だった。
「……ん?」
「……あれ?」
誠司が怪訝そうな声を上げたのと、シアのウサ耳がピクピクと動き出したのは同時だった。誠司とシアの顔色が悪くなっていくのを見て、ハジメが心配そうに声を掛けた。
「二人ともどうしたの?」
誠司とシアはお互いに顔を見合わせる。先にシアが説明し始めた。
「え、えっと……下の方から何か蠢くような音が聞こえるんです」
「魔獣図鑑から反応があった。下にいるのはコラッタと、その進化系のラッタだ」
誠司の言葉に、ハジメ達も光輝達も疑問符が浮かぶ。
「え? コラッタやラッタって、オルクスにもいたポケモンよね?」
「そりゃあ、オルクスのやつよりもずっと強いだろうけどよ、そんなにビビる程か?」
雫と龍太郎が怪訝そうにそう尋ねる。他の皆も同じ気持ちのようだ。
だが、シアの「蠢くような」という言葉と、誠司の反応から、只事ではないと判断したハジメがオルニスを使って、下に飛ばした。そして、小型の水晶ディスプレイを皆が見えるように掲げた。このディスプレイは、オルニスの眼と連動して見れるようになっているのだ。
『ッ!?』
ディスプレイに映し出された映像を見て、この場にいる全員が絶句した。
映像に映っていたのは、確かにコラッタやラッタだ。だが、オルクス大迷宮にいる個体とは見た目が異なっており、所謂アローラの姿となっている。そして何より……数がおかしかった。先程のシュシュプの群れとは比べ物にならない。
数千、下手したら数万はいるであろうコラッタ・ラッタの大群が、この地下空間の底辺に蠢いているのだ。
「な、なんてもの見せるのよ……」
「あれはハムスター、あれはモルモット………ってやっぱり無理ィッ!」
雫は顔を蒼褪めさせ、腕を擦る。腕に鳥肌をこれでもかと立てていた。鈴は半ば現実逃避気味に、目の前に映るコラッタ達を可愛らしい動物に見立てようとしているが、無理だったようだ。すぐに音を上げた。香織に至っては白目を剥き、気絶一歩手前の状態だった。光輝や龍太郎も「おぉう……」と呻き声を上げて、顔を青くしている。
誠司達の反応も似たり寄ったりだ。流石の誠司もこの光景には恐怖の方が勝つようで、顔色が悪い。シアは、両手でウサ耳をペたりと折り畳んで塞ぎ、しゃがみ込んで涙目になっている。ティオでさえも、顔が青くなっている。ユエが焼き払うことを提案するが、それで刺激させるのも危険だと却下された。
「と、とにかく先を急ごう。落ちなければ大丈夫……だと思う。ここに留まっていても、それこそ襲われるだけだよ」
ハジメの言葉に全員いつも以上に真剣な表情になると、これまたいつも以上にしっかり頷いた。
太い枝通路の上を誠司達は進む。今のところは道なりに進むしかないが、遠くに枝通路が四本合流していて大きな足場になっている場所が見えていたので、一行はそこを目指すことになった。
戦々恐々としながら枝通路から枝通路に飛び移ったりしつつ、遂に大きな足場に到着した誠司達は、そこからどうしたものかと周囲を見渡した。
「さて、次はどう進もうか……」
誠司がそう呟いた次の瞬間、恐れていた事態が起きた。先程まで下から聞こえていたガサガサッという音が大きくなってきたのだ。誠司達は表情を引き攣らせつつ、慌てて底部を確認する。そこには案の定、黒いコラッタとラッタの大群が、猛烈な勢いで地上に向かって駆け上がってくる光景が見えた。
「ヘラクロス、“ミサイルばり”!」
「エースバーン、“かえんボール”!」
「んーーーっ! ライボルト、“ほうでん”! それから、“緋槍”!」
「嫌ですぅーーっ!! ホルード、“マッドショット”ですぅ!」
「く、来るでないわぁあああっ。“かえんほうしゃ”じゃぁ!!
全員、ポケモンや魔法を駆使して、迫ってくるコラッタ・ラッタを迎え撃つ。だが、それでも相手の数が多すぎる。次から次へと枝をよじ登って、誠司達に向かって攻撃を仕掛けてくる。
「うぅ、こ、ここは聖域なりてぇ、し、しし神敵を通さずぅっ──“聖絶ぅ”!」
既に半泣きになりながらも鈴が障壁を張った。そのおかげで、コラッタ達の攻撃から守られたが、コラッタ達は障壁に群がると、一斉に鋭い前歯で齧り始めた。
それを見て、意識が飛びそうになる鈴。そんな鈴を光輝が必死に励ました。
「鈴ぅ! 寝るな! 寝たら死ぬぞ! 俺達の精神がっ!!」
このままコラッタやラッタの群れに吞み込まれるなど、一生のトラウマだろう。精神に異常をきたすこと請け合いだ。
「ユエ、重ねて防御を!」
「……ん、絶対破らせない!」
ユエが鳥肌の立った腕を掲げ、鈴の“聖絶”に重ねるようにして“聖絶”を展開した。
その時だった。
誠司達がいる足場が光り輝き始めた。いつの間にか、幾何学的な模様が浮かんでいる。
「まさか、魔法陣!?」
どうやら、この足場には魔法陣が仕込まれており、時間が経つと発動するようだった。
どうにかしようにももう手遅れで、激しい光に誠司達が顔を手で庇った。そして、爆発したかのような閃光が周囲一帯を包み込み、誠司達の視界を塗り潰す。
光が霧散した後、特にダメージを負った様子もない、無傷の誠司達の姿があった。
「……これ、は」
「一体……」
困惑の声を上げながら、誠司とハジメはお互いの顔を見ると、二人は言葉を失った。言い様のない不快感、嫌悪感が沸き上がってきたからだ。
Gの代案として、アローラコラッタ・アローララッタを採用しました。これはこれでトラウマになるかと。