魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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樹海の神代魔法

戦いを終えた誠司とハジメは、広場に戻り、ユエ達と合流した。ユエ達も既に反転の効果が解けたようで、先程までの剣呑な雰囲気はもうなかった。合流後は、全員で回復薬や携帯食を口にして回復に専念したりして休息する。

 

その間に感情反転の際の言動について言及する者はいなかった。色々藪蛇になりそうだったからだ。それに、あのコラッタ達に抱いた感情を思い出したくないというのもある。

 

そうして、ある程度、全員の肉体的疲労が回復した頃、まるでそれを待っていたかのようなタイミングで、突如、天井付近にある大樹の一部が輝き始めた。その輝く場所から、メキメキッと音を響かせて大きな枝が生え始める。

 

その枝は、新たな通路となって伸びていくと、遂に優花達のいる広場まで到達した。そして、波打つように形を変えて天へと続く階段となった。

 

「さっきのが最後の試練だと思いたいけど……」

「ああ。ポケモン達のためにもな」

 

ハジメの言葉に、誠司も苦笑いしながら同意する。枝階段を上りきると、大樹の幹に見慣れた洞が出来ており、中には既に魔法陣があった。その上に全員が乗った途端、いつも通り光が溢れ出し、転移が始まった。

 

光が収まった後、誠司達の目の前に広がっていたのは……庭園だった。

 

空が非常に近く感じられる。

 

空気はとても澄んでいて、学校の体育館程度の大きさのその場所にはチョロチョロと流れるいくつもの可愛らしい水路と芝生のような地面が拡がっている。そして、色とりどりの花畑と小さい木々に囲まれるようにして、小さな白亜の建物も見える。

 

ティオがスタスタと歩いて庭園の淵に行き眼下を覗き込む。

 

「……なんとまぁ。どうやらここは大樹の天辺付近みたいじゃぞ?」

 

ティオの言葉に、他のメンバーも庭園の端から下を見やる。すると、眼下には広大な雲海と見紛う濃霧の海が広がっていた。

 

「いやいや、おかしいでしょ。フェルニルで飛んできた時にこんな大きい樹は……」

 

そこまで言ってから、ハジメは自分の発言のおかしさに気がついた。

 

「……もしかして、隠蔽する魔法でも働いてるってこと?」

「……ん。闇系統にそういう魔法はある……魂魄魔法ならもっと……あるいは空間をずらしてる?」

 

ユエが魔法の考察をするが、これだけの規模で魔法を行使するとなると、並大抵の者では無理だ。これを聞いた誠司達は感心したような表情になる。用意されていた試練の数々は最低に嫌らしいものばかりだったが、そこはやはり解放者。ただの性悪という訳ではないらしい。

 

その時、ふと何かが近付いてくるような気配を感じた。誠司の魔獣図鑑が反応する。現れたのは、花の妖精のようなポケモンだ。頭の白い花は、まるで汚れを知らないように輝いている。

 

「ラージェ」

「こいつは……フラージェスか」

 

咄嗟に戦闘態勢を取るが、フラージェスに敵意は見られない。警戒しつつも、誠司は尋ねた。

 

「……ついてこいってことか?」

「ラージェ」

 

フラージェスは頷き、そのまま奥へと進んで行った。それを見た誠司達も後に続く。罠なのかそうでないのか、正直言って疑わしいところだが、ついて行かないと先に進めない。

 

フラージェスに続いて奥へと進むと、途中で色とりどりの花畑に様々な模様のビビヨンが飛び交っている光景が見えた。様々な地域のビビヨン達が一堂に会する、なかなか神秘的な光景だ。思わず感嘆の声を漏らすと、案内をしているフラージェスがフフンと得意げに笑った。

 

そうこうしているうちに、庭園の最奥部分が見えてきた。大きな木がそびえ立っており、根本には石板がめり込んでいる。そして、地面には大きな魔法陣が刻まれている。

 

「もしかして、あれか!?」

 

光輝が、どこか逸る様子で声を上げた。ここでゴールだということに気付いたようで、龍太郎達も口々に「ここが……」とか「やっと……」などと呟いている。逸る光輝を宥めつつ、誠司達は奥に進んで行く。

 

最奥に辿り着き、誠司達が魔法陣に足を踏み入れると、魔法陣が眩い光を放つ。それと同時に、周囲の水路からも光り輝き始めた。どうやら、周囲の水路も魔法陣の一部だったらしい。

 

大迷宮攻略の際、いつも行われる記憶を精査される感覚と、その直後の知識を無理やり刻み込まれる感覚が襲ってきた。誠司達五人は既に慣れたものだったが、二名ほど、その衝撃と違和感に「うっ」と呻き声を上げている。

 

輝きがある程度収まってきたと同時に、目の前の石版に絡みついた樹がうねり始めた。誠司達は何事かと身構えるが、そんな誠司達を尻目に樹はぐねぐねと形を変え続けていく。やがて、その幹の真ん中に人の顔を作り始めた。ググッとせり出てきて、肩から上だけの女性とわかる容姿が出来上がっていく。

 

そうして完全に人型が出来上がると、その女性は閉じていた目を開ける。そして、そっと口を開いた。

 

『まずは、おめでとうと言わせてもらいますわ。よく、数々の大迷宮と、わたくしの……このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えましたわね。あなた方に最大限の敬意を表すと共に、ひどく辛い試練を与えたことを深くお詫び致します』

 

今までの試練の数々を思い出し、何人かは死んだような目になる。もしも、ミレディのように今もなお生き延びていたら、この解放者はひどい目に遭わされていたかもしれない。目の前のそれは、樹を媒体にした記録のようなものでしかないので何も出来ないが。

 

『しかし、これもまた必要なこと。他の大迷宮を乗り越えて来たあなた方ならば、神々と我々の関係、過去の悲劇、そして今、起きている何か……全て把握しているはずですわね? それ故に、揺るがぬ絆と、揺らぎ得る心というものを知って欲しかったのです。きっと、ここまでたどり着いたあなた方なら、心の強さというものも、逆に、弱さというものも理解なさったでしょう。それが、この先の未来で、あなた方の力になることを切に願っています』

 

シア達は神妙な面持ちで話を聞いているが、ハジメはもう興味を無くし始めていた。御託はいらないという表情を浮かべている。

 

『あなた方が、どんな目的の為に、わたくしの魔法……“昇華魔法”を得ようとしたのかは分かりません。どう使おうとも、あなた方の自由ですわ。ですが、どうか力に溺れることだけはありませんよう。そうなりそうな時は、絆の標に縋りなさい』

 

ハジメの視線はチラチラと石板に向けられている。早く調べたいと言いたげだ。そんなハジメを諫めるかのように、目の前に緑色のメダルが現れた。ハジメだけではない。誠司も、ユエも、シアも、ティオも、目の前に現れた。

 

『それから、攻略の証……トラストシンボルも差し上げます。大事になさってください。攻略の証は、ただの飾りという訳ではありませんから』

 

トラストシンボルを弄っていた誠司の手が止まる。ハジメの意識も話の内容に向いた。

 

『その前に、昇華魔法について説明しなくてはなりません。先に与えた知識の通り、全ての“力”を最低でも一段進化させることが出来る。そして、それは神代魔法も例外ではありません。生成魔法、重力魔法、魂魄魔法、変成魔法、空間魔法、再生魔法……これらは時や空間など、理の根幹に作用する強大な力。その全てが一段進化し、更に組み合わさることで神代魔法を超える魔法に至る。神の御業とも言うべき魔法……“概念魔法”に』

 

誰かがゴクリと生唾を飲み込んだ音がやけに大きく響いた。“概念魔法”という魔法は初めて聞いた。ティオですら知らなかったようで、驚きを露わにしている。

 

『概念魔法……そのままの意味ですわ。あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。ただし、この魔法は全ての神代魔法を手に入れたとしても容易に修得することは出来ません。なぜなら、概念魔法は理論ではなく極限の意志によって生み出されるものだから』

 

極限の意志。随分と曖昧な表現だ。これでは、知識の転写が出来なかったのも頷ける。

 

『そして、その概念魔法は並の鉱石では付与することが出来ません。よって、付与には特殊な鉱石が必要になります。あなた方の手にあるその証は、その特殊な鉱石を生成するための材料なのです』

 

攻略の証の正体を知って、誠司達の間に衝撃が走る。

 

『わたくし達解放者七人掛りでも、たった三つの概念魔法しか生み出すことが出来ませんでした。もっとも、わたくし達にはそれで十分ではあったのですけど……その内の一つをあなた方に贈りましょう』

 

そう言った直後、中央の石板がスライドし、中から懐中時計のようなものが出てきた。表には半透明の蓋の中に同じ長さの針が一本中央に固定されている。時計というよりは、コンパスのように見えなくもない。

 

『名を“導越の羅針盤”。込められた概念は、“望んだ場所を指し示す”。どこでも、何にでも、望めばその場所へと導いてくれますわ。探し人の所在でも、隠されたものの在処でもあっても、あるいは……別の世界であっても』

 

きっと、リューティリスの言っている別の世界とは、神のいる世界のことだろう。極限の意志のみによって概念魔法が生み出されるというのなら、解放者達の意志など決まっている。それは当然、神を倒すことだ。

 

だが、神の世界に限らず、別の世界でもその場所を示して導いてくれるというのなら……それは、故郷でも、日本でも可能なはずだ。誠司が隣のハジメに視線を向けると、色々な感情が織り交ぜになった表情を浮かべていた。無理もない。誰よりも故郷への帰還を望んでいたのは、ハジメなのだから。

 

『全ての神代魔法を手に入れ、そこに確かな意志があるのなら、あなた方はどこにでも行けますわ。自由な意志のもと、未来を選択できますよう。あなた方の進む道の先に幸多からんことを、心から祈っておりますわ』

 

リューティリスは最後にそう締めくくると、再び樹の中へと戻っていき、後には唯の石版に絡みついた樹だけが残った。

 

余韻に浸っているような、あるいは、今起きた出来事を咀嚼しているかのような沈黙が場を満たす。そよそよと吹く風が起こす葉擦れの音だけが辺りに響いていた。

 

やがて、その静寂を破ってハジメが感情を抑えたような抑揚のない声音でユエに尋ねる。

 

「ユエ、念の為に聞くけど……昇華魔法を使えば……空間魔法で………………世界を越えられる?」

 

ハジメの背後で、光輝達のハッとする気配が広がった。

 

ユエは、ハジメの思いを知っているため、安易な回答はしない。魔法の天才としてあらゆる可能性を探るが、やがて出た答えは……

 

「…………ごめんなさい」

「そっか……」

 

そういうことだ。ただ昇華しただけの空間魔法で世界が越えられるなら、きっと解放者達も苦労しなかったに違いない。おそらく、世界を超えるには、それこそ概念魔法が必要になるのだろう。リューティリスは、概念魔法を三つ編み出したと言っていた。残りの二つは、神の世界に行くための概念と神を殺すための概念のはずだ。

 

つまり、概念魔法レベルでないと世界を超えることは出来ないのだ。

 

それが分かっているため、ハジメは特にガッカリした様子はない。項垂れるユエの肩を叩いて励ました。

 

「大丈夫だよ、ユエ。あわよくばって思っただけだから。最後の神代魔法を手に入れれば良い、そう分かっただけでも大きな収穫だよ。それに、アルセウスとパルキアを解放するって目的もまだ果たしてないしね」

「えっ?」

 

これには、誠司が驚きの声を上げた。正直、パルキアの力を使わずとも帰還出来る方法を知った今、ハジメにとって、アルセウスとパルキアを助けることの意義はなくなったと思っていた。だからこそ、帰れる手段を手にしてもなお、エヒトと戦うことを選ぶとは思っていなかったのだ。

 

誠司の言いたいことを察したハジメは苦笑いを浮かべる。

 

「そりゃあ、僕としては神とか放置してさっさと帰りたいけどね。でも、誠司達は戦うんでしょ? だったら最後まで付き合うよ」

「……そうか。助かる」

「あれ? 皆さん、あっちに何か魔法陣みたいなのが……」

 

シアの声で視線を向けると、庭園の一角に魔法陣が出現していた。おそらく、地上へ降りるためのショートカットだろう。誠司達は互いに顔を見合わせて、ほぼ同時に頷くと、魔法陣へ歩みを進める。その途中で光輝が話しかけてきた。

 

「な、なぁ、南雲。さっきの話……その概念魔法が使えるようになれば……」

「帰れる、とは思うよ。少なくとも、転移先はこの羅針盤が教えてくれるだろうし」

「そう、か………」

 

光輝が希望を見たような表情になる。それは、龍太郎や鈴、香織、雫も同じだった。一様に、どこか泣きそうな表情で今にも爆発しそうな感情をグッと堪えている。おそらく、まだ完全に手に入った訳ではないこと、その概念魔法を使って帰る手段を作ることが出来るのがハジメだけだから遠慮もあるのだろう。

 

「あ、あの……もし帰る時になったら、その………」

 

鈴が遠慮がちに何かを頼もうとしてきた。最後まで聞かなくても言いたいことは分かる。ハジメは頷いた。

 

「……定員制限やらデメリットでもない限り、希望者は連れ帰るよ。もっとも、アルセウスやパルキアを助けた後でだけど」

「そ、そっか、えへへ。ありがとう……」

「ってか、やけに自信なさげにそんなことを聞いてくるってことは習得出来なかったのか?」

「「「うっ!?」」」

 

誠司の言葉に、光輝、龍太郎、鈴の三人が胸を抑えて項垂れる。よく見ると、三人には攻略の証であるトラストシンボルがない。つまり、そういうことである。

 

逆に香織や雫は、項垂れる光輝達を心配そうな、また、どこか気まずげな様子でオロオロとフォローしようとしていた。トラストシンボルこそ身に着けてはいないが、おそらく……

 

「香織、雫、二人は攻略を認められたの?」

 

ハジメの問いに、二人はギクリと強張らせつつも、ポケットから緑色に輝くメダルを取り出した。観念したように言った。

 

「う、うん。そうみたい……」

「ちょっと言い辛かったんだけど、昇華魔法が使えるようになったみたい……」

「ほ、ほんとか!? おめでとう! 香織! 雫!」

「マジかっ! やったじゃねぇか! なに遠慮してんだよ! くっそー、俺も欲しかったぜ!」

「さっすが、二人とも!」

 

香織と雫の二人は、光輝達と違って、自力でいくつかの試練は乗り切っていた。神代魔法を得るには十分だと判断されたのだろう。誠司もこれには内心驚いていた。正直、一人でも習得出来れば御の字くらいに思っていたのだが、まさか二人も習得するとは思わなかったからだ。そんな誠司の内心を余所に、仲間達が祝福の言葉を投げかけている。

 

鈴は自分のことのように喜び、龍太郎も悔しがりつつも幼馴染二人を祝福していた。そして光輝は笑顔で称賛しながらも、どこか表情に影を落としていた。雫は、そんな光輝を心配そうにチラチラと見ている。

 

「まぁ、なんにせよだ。とにかく、フェアベルゲンに帰って休もう」

「そうだね。ドッと疲れた……」

 

誠司とハジメがそんなことを言いながら、魔法陣に足を踏み入れる。そんな二人に、ユエ達も雫達も続く。故郷に帰れる可能性が見えたという希望に、雫達の表情は明るかった。

 

一人だけ、無理をしているのが丸分かりの笑顔を浮かべる少年もいたが、何はともあれ、こうして七大迷宮の一つハルツィナ樹海の攻略は終わったのだった。

 

そして、フラージェスの見送りのもと、誠司達は魔法陣の光に呑み込まれた。

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