魔獣使いと錬成師が合わされば世界最強   作:マロニエ19号

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少し短めです。


早朝の出来事

ハルツィナ樹海を攻略した翌早朝。

 

まだ大半の者が寝静まっている中、フェアベルゲンの都から離れた森の中にサクサクという誰かの足音が響く。誠司だ。

 

誠司はハルツィナ樹海での、あの夢の試練のことを考えていた。

 

(あの人のことはもう思い出さなくなってたんだがな。家族を捨てた奴なんざ今更……)

 

思考の沼に嵌っていたせいで、誠司は死角から現れた敵に反応が遅れてしまった。

 

「うわっ!?」

 

突然、突風が起こり、誠司の身体は大きく吹き飛ばされる。木に激突する直前に、主枝を掴んでクルリと回転してその上に飛び乗った。枝の上から、自分を吹き飛ばした者の正体を確認する。

 

「あれは……」

 

魔獣図鑑の技能が反応する。大きな葉の団扇みたいな手に、長い鼻が特徴的なポケモンだ。

 

「野生のダーテングか。ならば……」

 

誠司がモンスターボールからポケモンを繰り出し、素早く指示を出す。

 

「ドンカラス、“ブレイブバード”!」

「ガァッ!」

 

ドンカラスがオーラを纏ってダーテングに向かって突っ込む。ダーテングは両手の団扇でドンカラスを吹き飛ばそうとするが、ドンカラスはスイスイと風に乗ってダーテングに迫ってくる。ダーテングは必死の形相で団扇を振るうが、ドンカラスが吹き飛ばされることはない。そして……

 

「ガァッ!」

「ダッテ……ッ!?」

 

ドンカラスの一撃がダーテングに命中し、背後の木へ吹き飛ばした。誠司は木に実っているオボンの実を二つもぎ取ると、枝から飛び降りた。

 

「ダーテング、両手の団扇を使って強風を繰り出すポケモン。だが、日頃から厳しい飛行訓練を積んでいるドンカラスの前では微風(そよかぜ)も同然だったな。ご苦労だった、ドンカラス。ほれ、オボンの実だ」

「ガァ」

 

“ブレイブバード”は使ったポケモン自身にもダメージを受ける技だ。当然、今の一撃でドンカラスにもダメージを受けている。そんなドンカラスを労うように、誠司はオボンの実を渡した。そして、少し離れた場所で伸びているダーテングの近くにもオボンの実を置いてやる。気が付いたら、勝手に食べて回復するだろう。

 

そのまま、誠司は後ろの木に向かって尋ねた。

 

「それで……いつまで隠れてるつもりだ?」

 

すると、木の影から人影が現れた。雫だ。腰には剣を差しており、傍らには相棒のミジュマルもいる。雫はどこか気まずげな表情をしていた。

 

「あはは……バレてたかしら?」

「割とな。お前も朝の散歩か?」

「いいえ、朝の鍛錬よ。日課だし、やっぱり朝にやる方がすっきりするしね」

「へぇ、昨日大迷宮があったってのによくやるよ。初の大迷宮だったから、まだベッドでぐっすりかと思ってたが」

「まぁ、昨日はいつもより早めに寝たけどね。だから、体調は万全よ」

「それなら良いけどな」

 

雫は軽くストレッチをすると、剣を構える。ミジュマルもお腹のホタチを構えて、雫と同じ態勢を取る。

 

そのまま流れるような動きで剣を振るう。同時にヒュッヒュッと空気を裂く音が鳴る。惚れ惚れする腕前だ。ミジュマルも雫の太刀筋に目を輝かせながら、ホタチをブンブン振り回す。

 

誠司も「ほお」と感嘆の声を漏らす。十年以上の鍛錬の積み重ねで培われてきた雫の剣は、美しかった。

 

しばらく眺めていると、魔獣図鑑が反応する。ガサガサと近くの茂みが揺れて、飛び出してきたのは、野生のキノガッサだ。

 

「えっ?」

 

突然の乱入に、思わず動きを止める雫。ミジュマルが雫を庇うように前に立ちはだかるが、水属性のミジュマルでは草属性のキノガッサは相性が悪い。なので、誠司は近くの枝で羽繕いをしていたドンカラスに呼びかける。

 

「ドンカラス、“エアスラッシュ”」

「ガァッ!」

 

ドンカラスは風の刃を無数に作り出すと、それをキノガッサに向けて放つ。だが、キノガッサは軽やかなフットワークで躱していく。キノガッサはドンカラスを敵と認識したようで、雄叫びを上げる。そして、ドンカラスに向かって、腕を伸ばしてパンチを繰り出す。

 

「“つばめがえし”」

「ガァッ!」

 

キノガッサのパンチを紙一重で躱すと、ドンカラスは枝から飛んで相手に向かって急降下する。キノガッサは頭のカサを振るわせて胞子を撒き散らそうとするが、それよりも早くに“つばめがえし”が命中する。

 

「ノガッ……サ……」

 

効果抜群の一撃を受けて、キノガッサはそのまま気を失ってしまった。

 

雫もまた、誠司の手際を見て感嘆の声を漏らす。

 

「中西君もすごいわね」

「そうか?」

「ええ。私もミジュマルと戦うようになって分かったけど、技とか相性とか色々なことを考えて戦わないといけないのよね。私はミジュマルだけだからまだ良いけど、中西君は大勢のポケモン達がいるんだもの。相当な知識と判断能力がなければ出来ないわ」

 

誠司と違って、雫の場合はポケモンだけでなく自分も戦う必要がある。なので、勝手が違う点もあるだろうが、素直に褒められるのは嬉しいものだ。

 

「まぁ、俺と違って自分も戦うからな。色々と勝手が変わってくるだろ。剣の腕はかなりのものだし、ミジュマルとの信頼関係も悪くない。それに昇華魔法も新たに手に入れたから、これなら、勇者達だけでも大迷宮攻略はある程度は進められるだろうな」

 

誠司がそう言うと、雫はどこか困ったような、迷うような表情になった。

 

「やっぱり、そのままお別れって形になるのね?」

「ん? 流石にフェアベルゲン(ここ)でお別れって訳じゃなくて、移動ゲートで送るつもりだったが……」

「えっと、そういう意味じゃなくて……」

 

雫はそれ以上言葉を続けることが出来なかった。元々、大迷宮には無理を言って付いてきたのだ。大迷宮の厄介さはハルツィナ樹海で骨身に染みた。今の雫達では実力不足という他ない。事実、誠司も「ある程度は攻略を進められる」とは言っているが、攻略出来るとは一言も言っていないのだ。

 

それに、次の氷雪洞窟の大迷宮を攻略すれば、帰還の手段が手に入る。誠司達は神と戦い、アルセウスやパルキアを助け出すと言っているが、その後にクラスメイト達が便乗して一緒に帰るのは構わないとハジメも言っていた。つまり、無理して次の大迷宮にも付いて行く必要がないのだ。

 

無言で黙り込む雫を見て、誠司は肩を竦めながら口を開く。

 

「……まぁ、俺の方からハジメに、武器やアーティファクトの強化は頼んでおくから、それでもっと強くなれるだろ。ハジメにとっても、昇華魔法の鍛錬になるから断らないだろうし」

「ハジメ……ね。そういえば、ハジメから聞いたけど、中西君、あなた……ハジメからの告白を先延ばしにしているんですって?」

「……え?」

 

雫からの言葉に、思わず固まる誠司。雫は神妙な顔をして誠司に忠告した。

 

「親友が実は女の子と知って、色々困惑するのは分かるけど。告白の返事は早い方が良いわよ。いつまでも当たり前にいてくれる訳じゃないんだから。同じ女子からの忠告よ」

「………」

 

確かに、オルクス大迷宮のオスカー・オルクスの隠れ家で告白されて、かれこれ数か月が経っている。色々忙しかったからというのもあるが、誠司としても今の関係の方が良いと思っていたからというのもあった。だが、それでいつまでも保留にしておく訳にもいかない。誠司は一つ溜息を吐いた。

 

「……そうだな。今が良いタイミングかもしれないな」

 

ハジメの悲願である、地球への帰還。今回の大迷宮攻略で、それの目途も見つかった。最後の大迷宮を攻略した後は更に忙しくなるだろう。そう考えると、告白の返事をするのは今しかない。誠司がそう呟くと、雫も笑みを浮かべた。

 

「それが良いわ。香織のためにも早く返事しなさい」

「……あいつ、まだハジメのことを?」

「大分吹っ切れてはいるけどね。でも後もうひと押しが必要になると思うから頼むわ」

 

誠司は、後でシアあたりから良い場所を教えてもらおうと思案し始めた。流石に人が多い場所で返事をする度胸は誠司になかったし、ハジメにも迷惑がかかるかもしれない。シアに聞くと色々揶揄われそうだが、仕方がない。

 

そんなことを考えていると、雫からポケモンバトルのお誘いを受けた。せっかくなので、ミジュマルの鍛錬もしたいようだ。傍らのミジュマルもやる気満々で雫の言葉に同調した。バトルの誘いなら、誠司も断る理由はない。二つ返事で引き受ける。

 

ここでバトルするには何なので、少し拓けた場所まで移動することにした。ついでに、未だに倒れているキノガッサにも、近くの木からもぎ取ったオボンの実を置いていく。少し拓けた場所に着くと、誠司と雫はお互いに向き合った。

 

「じゃあ、行くわよ! ミジュマル!」

「ミジュ!」

「出番だ、イトマル!」

「トマル!」

 

誠司はイトマルを繰り出した。雫のミジュマルとある程度戦えて、この早朝でも普通に動くことが出来るのが、このイトマルだったのだ。ドンカラスは枝に止まって、そのままバトルの様子を見物している。

 

イトマルの毒と糸を駆使した戦法にミジュマルは苦戦しつつも、どうにか食らいついている。だが、バトルしていると分かってくるものがあった。誠司はバトルをしていくうちに、少しだけ眉間に皺が寄っているのを感じた。

 

どうにも雫とミジュマルの動きが噛み合っていないような感じがしたのだ。ほんの僅かな違和感ではあるのだが、それがどうにも小さな棘のように引っかかる。それは雫もミジュマルも同じようだった。最初のうちは良いのだが、時間が経つにつれてミジュマルのやりたいことと雫のやりたいことが微妙に食い違ってしまうようだ。今までは光輝達がいたことで、そういった違和感を感じることがなかったのだろうが、一対一のバトルになると、それが顕著に出てしまう。そして、それが隙に繋がってしまい、結局、バトルはイトマルの勝利に終わった。

 

そのバトルがきっかけで、イトマルの体が光に包まれ、アリアドスへと進化を遂げた。

 

「……負けちゃったわね」

「信頼関係は悪くなかったが、最後らへんでトレーナー側に遠慮があった。それが隙になった形だな」

「遠慮、か……」

 

少し考え込むようにそう呟く雫に、誠司はそろそろフェアベルゲンに戻ることを提案した。雫も、誠司の提案を断ることなく、二人はフェアベルゲンに帰って行った。

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