「誠司殿、お願いします!」
「「「「「お願いします!!」」」」」
ハジメと晴れて恋人になった翌日。欠伸をしながら部屋を出た誠司が最初に目にしたのは、自分に向かって土下座をするハウリア族達だった。もう起き始めて活動を始めた亜人達はギョッとした表情で見ていたが、すぐに「ああ、ハウリアか……」と見ないふりを決め込む。
誠司は頭痛を堪えるように、こめかみを押さえながら、最前列で土下座しているイオに話を聞いた。
「それで、これは一体何の真似だ?」
「はっ! 実は……誠司殿にポケモンバトルの特訓をお願いしたく……もちろん、樹海の攻略を終えたとは言え、誠司殿達に次の大迷宮攻略が控えていることは重々承知しております! ですが、新兵達のためにもぜひ……」
「ああ、構わないぞ。俺としても、他のポケモン達の鍛錬になるしな。だがその前に、朝飯を食い終えてからで良いか?」
「あ、ありがとうございます! もちろんです! よし、お前達! 誠司殿から許可が出たぞ!」
「「「「「おぉーーー!!」」」」」
イオは感激した様子で誠司にお礼を言って、他のハウリア達に呼びかける。
この時の誠司は、考えが少し甘かった。目の前にいるハウリア族はイオを含めて六人だけだが、その程度で終わるはずがないことを。
「ドダイトス、“いわなだれ”!」
「ドーダァ!」
「ヤマッ!?」
「あぁっ! ヤンヤンマァ!?」
フェアベルゲンの都から少し離れた位置に、拓けた場所がある。そこで誠司とハウリア達はポケモンバトルを繰り広げていた。流石にフェアベルゲンのど真ん中でポケモンバトルをやるわけにはいかないからだ。既に五人分の相手を終えて、今はイオとバトルをしていた。イオのヤンヤンマは特性“かそく”もあって、素早い動きで翻弄していくが、ドダイトスの全体攻撃には為すすべもない。
ドダイトスの“いわなだれ”を食らって、大ダメージを受けるも、それでもどうにか持ち堪えるヤンヤンマ。イオは慌てて次の指示を飛ばす。
「ヤンヤンマ、“ソニックブーム”!」
「ヤンヤン!」
大ダメージを受けながらも、最後の力を振り絞って、ヤンヤンマは攻撃を放つが、誠司は冷静にドダイトスに指示を飛ばす。
「ドダイトス、“タネばくだん”」
「ドダァッ!」
ドダイトスは、口から少し大きめの種を吐き出した。その種は“ソニックブーム”に衝突すると、大爆発を起こした。最後の技が防がれたと同時に、ヤンヤンマは力尽きたように倒れてしまう。戦闘不能だ。誠司は倒れたヤンヤンマに木の実を渡し、今のバトルの講評をした。
「まだまだだな。ヤンヤンマのスピードはかなりのものだが、それだけだ。せめて進化でもすれば、話は変わってくるかもだが……」
「進化、ですか……?」
「ああ。ヤンヤンマは、“げんしのちから”という技を覚えれば、メガヤンマというポケモンに進化するんだ。このヤンヤンマは覚えていないようだし、覚えさせる必要があるな」
「なるほど……」
「ヤンヤン……」
「誠司殿、よろしいですか?」
声がした方を振り返ると、誠司は絶句した。そこには大勢のハウリアが揃っていたからだ。どうにも嫌な予感がしつつも、誠司は尋ねた。
「……どうした?」
「あの、もしよろしければ、我々にもポケモンバトルの特訓をお願い出来ますか?」
「お、おい。お前達、誠司殿はバトルを終えたばかりだぞ。流石に……」
イオが仲間を宥めようとしたその時、ハウリア達は怒りの声を上げた。
「イオルニクスばかりズルいではないか! 我々だって誠司殿と戦ってみたいのに!」
「そうだそうだ!」
「ズルいぞ!」
結局、誠司はハウリア族全員分の特訓を手伝うこととなった。昨日、ある問題が分かってから誠司は頭を悩ませていたため、ある意味では渡りに舟であった。
実はマーイーカからカラマネロに進化したことで、現在ポケモン達の間でギクシャクした空気が出来ているのだ。具体的に言えば、一部のポケモン達がカラマネロに対して敵愾心を抱いていたり、警戒するように距離を取るようになってしまった。
敵愾心を見せるようになったのはブースターやチルタリスで、仲間のケンタロスが死ぬところを間近で見たポケモン達だ。だからこそ、仇であるカラマネロと誠司のカラマネロをどこか同一視しているきらいがあった。直接攻撃こそはしていないが、これは誠司のカラマネロが色違いで、進化前のマーイーカの頃から知っているというのもあるのだろう。
そして、警戒して距離を取るようになったのは、ガメノデスやドリュウズ、レパルダスやドダイトスと、いわゆる洗脳被害を受けたポケモン達だ。ドリュウズは自分ではなく仲間が洗脳を受けたのだが、それでも洗脳の恐ろしさを目の当たりにしていたからこそ警戒しているのだろう。一方で、レパルダス達と同様にカラマネロに洗脳されたドンカラスはハルツィナ樹海の攻略で一緒に戦ったからか、そこまでカラマネロを嫌ったり、警戒していない。
マシェードやラグラージ、キュウコンなどは中立派なのだが、カラマネロを庇っているミロカロスやマホイップ(この二体は同じ境遇だったこともあって、カラマネロと特に仲が良い)はブースター達と衝突が勃発しており、空気が悪くなっている。
これから先、大迷宮攻略やら神との戦いやらがあるというのに、この状態は非常にマズい。早急に対処すべき問題であった。だからこそ、誠司はハウリア達との特訓を通して、ある程度ポケモン達の間で和解してもらうことを考えたのだ。強引と言えば強引だが、誠司のカラマネロが敵ではないことを手っ取り早く分かってもらうにはこの方法が最善だと誠司は判断した。大迷宮攻略と違って、特訓であれば命の危険に陥るということもそうそう起きない。
ハウリア二人の相棒ポケモンであるヤナッキーとミルホッグを下すと、誠司はキュウコンとヘラクロスをボールに戻し、代わりにチルタリスとカラマネロを繰り出した。チルタリスは隣のカラマネロを睨みつつも、前を向く。そんなチルタリスとカラマネロと相対するように、別のハウリア達が繰り出したのは、ニューラとエクスレッグだ。ハウリア達はポケモンを出すとすかさず、指示を飛ばした。
「エクスレッグ、“とびかかる”だ!」
「ニューラ、“れいとうパンチ”よ!」
元気いっぱいに攻撃を仕掛けてくる二体に、誠司は冷静に指示を飛ばした。
「よし、迎え撃つぞ! カラマネロ、ニューラに“ばかぢから”! チルタリスはエクスレッグに“エアスラッシュ”!」
「マーーロッ!」
「チールゥ!」
ーーーーーーーーーー
「本日はありがとうございました!!」
『ありがとうございました!!!』
イオが代表してお礼を言うと、他のハウリア達が口を揃えて森に響き渡る程の音量でお礼を言った。既に日は沈んでおり、辺りはすっかり暗くなっていた。ハウリア達と別れ、誠司はフェアベルゲンに歩みを進める。
「……疲れた。まさかここまで時間がかかるとは……」
全ての手持ちのポケモンを使い、誠司自身もヘトヘトになったが、ある程度の収穫もあった。バトルを通して、チルタリス、レパルダス、ドリュウズ、ガメノデス、ドダイトスがカラマネロに対して認めるようになったのだ。少なくとも、誠司のカラマネロが魔人族の仲間のカラマネロとは違うことや、敵ではないことは理解してくれたようで、疑ったりしたことをカラマネロに対して謝罪していた。
だが、ブースターだけはまだ完全に敵意が消えていない。一応、誠司のカラマネロが敵ではないことは理解しているようだが、気持ち的には納得していないようだ。だが、それも無理ないのかもしれない。死んだケンタロスと一番仲が良かったのがブースターだったのだ。そんなケンタロスを殺したポケモンと同じ種類のポケモンが仲間にと言われても、納得するのが難しいのも分からない訳ではない。
「こればかりは時間が解決するのを待つしかないのかもな……」
誠司としても、ケンタロスのことを忘れたことはない。だが、カラマネロは誠司の仲間だ。マーイーカの頃から育てているし、カラマネロに進化することも承知した上で仲間にした。ポケモンの中には進化したことで性格が変わる者もいるが、カラマネロは進化しても内面は変わっていない。それは誠司もよく知っている。ブースターもいつか理解する日がくる。誠司はそう信じることにした。